説明

金属べルト、定着ベルト及び加熱定着装置

耐摩耗性、熱伝導性、耐熱性及び柔軟性が向上し、薄肉化が可能な金属ベルト並びにこの金属ベルトを用いた定着ベルトが提供される。この定着ベルトを加熱定着装置に用いることによって、耐久性及び信頼性が高い加熱定着装置が得られる。
この発明の金属ベルトは、電鋳法で製造したニッケル−鉄合金からなり、当該ニッケル−鉄合金の鉄の含有量をF(質量%)、硫黄の含有量をS(質量%)とすると、次の式を満足する。
0.001≦S≦0.13
85×S+3≦F≦350×S+3

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電子写真装置及び静電記録装置等の画像形成装置に用いられる、金属ベルト、定着ベルト及び被記録材に形成担持させた未定着画像を加熱定着処理する加熱定着装置に関する。
【背景技術】
画像形成装置において、電子写真プロセス、静電記録プロセス及び磁気記録プロセス等の画像形成プロセス手段部で被記録材(転写材シート、エレクトロファックスシート、静電記録紙、OHPシート、印刷用紙及びフォーマット紙等)に転写方式あるいは直接方式で形成担持させた目的の画像情報の未定着画像(トナー画像)を被記録材面に永久固着画像として加熱定着させる定着装置としては、熱ローラ方式の装置が広く用いられていた。熱ローラ方式の装置においてはローラ内にハロゲンヒータ等の熱源を用いるものが一般的である。
一方、セラミックヒータを熱源として小熱容量の樹脂ベルトあるいは金属ベルトを加熱する方式の装置が広く提案、実施されている。すなわち、この加熱方式の装置では、一般に、加熱体としてのセラミックヒータと加圧部材としての加圧ローラとの間に耐熱性ベルト(定着ベルト)を挟ませてニップ部を形成させ、前記ニップ部の定着ベルトと加圧ローラとの間に画像定着すべき未定着トナー画像を形成担持させた被記録材を導入してベルトと一緒に挟持搬送させることで、ニップ部においてセラミックヒータの熱がベルトを介して被記録材に与えられ、この熱とニップ部の加圧力とで未定着トナー画像を被記録材面に熱圧定着させる。
このベルト加熱方式の定着装置は、ベルトとして低熱容量の部材を用いてオンデマンドタイプの装置を構成することができる。すなわち、画像形成装置の画像形成実行時のみ熱源としてのセラミックヒータに通電して所定の定着温度に発熱させた状態にすればよく、この方式の定着装置は、画像形成装置の電源オンから画像形成実行可能状態までの待ち時間が短く(クイックスタート性)、スタンバイ時の消費電力も大幅に小さい(省電力)等の利点がある。図3にこの方式の加熱定着装置の構成例を示す。この加熱方式の加熱定着装置では加熱体としてのセラミックヒータ312と加圧部材としての加圧ローラ330との間に耐熱性ベルト(定着ベルト310)を挟ませてニップ部Nを形成させ、前記ニップ部の定着ベルト310と加圧ローラ330との間に画像定着すべき未定着のトナー画像tを形成担持させた被記録材Pを導入してベルトと一緒に挟持搬送させることで、ニップ部においてセラミックヒータ312の熱を、定着ベルト310を介して被記録材Pに与え、この熱とニップ部の加圧力とで未定着のトナー画像tを被記録材P面に熱圧定着させる。
このようなベルト加熱方式におけるベルトとしては耐熱樹脂等が用いられ、特に耐熱性、強度に優れたポリイミド樹脂が用いられている。しかしながら、さらに機械を高速化、高耐久化した場合、樹脂フィルムでは強度が不十分である。このことから、強度に優れた金属、例えばSUS、ニッケル、銅、アルミニウム等を基層とするベルトを用いることが提案されている。
また、特開平7−114276号公報および特開2001−6868号公報には、金属ベルトを利用して、これを電磁誘導による渦電流で自己発熱させる誘導加熱方式が開示されている。図4にこの加熱方式の加熱定着装置の構成例を示す。また、図5に図4の加熱定着装置の磁場発生手段の模型図を示す。磁性コア417a、417b及び417cは高透磁率の部材であり、励磁コイル418は励磁回路(不図示)から供給される交番電流(高周波電流)によって交番磁束を発生する。定着フィルムの金属層にこの交番磁束が作用することで渦電流が発生し、金属層が発熱する。その熱が定着フィルムの弾性層及び離型層を介して定着フィルムを加熱し、ニップ部Nに通紙される被記録材Pを加熱してトナー画像の加熱定着がなされる。すなわち、磁束によりベルト自身あるいはベルトに近接させた導電性部材に渦電流を発生させ、ジュール熱によって発熱させる加熱定着装置が提案されている。この電磁誘導加熱方式の加熱定着装置においては、発熱域をより被加熱体に近くすることができるため、消費エネルギーの効率アップが達成できる。
ベルト加熱方式の加熱定着装置の定着ベルトの駆動方法としては、ベルト内面を案内するフィルムガイドと加圧ローラとで圧接されたベルトを加圧ローラの回転駆動によって従動回転させる方法(加圧ローラ駆動方式)や、逆に駆動ローラとテンションローラによって張架された無端ベルト状のベルトの駆動によって加圧ローラを従動回転させる方法等がある。
特開平7−13448号公報には、金属ベルトを用いた定着ベルトとして、ヒータ面接触部の表面粗さが0.5μm未満で、40μm前後の厚みのニッケル製定着ベルトを用いたものが開示されている。また、特開平6−222695号公報には、外周面に離型性を有するコーティング層を有し、内周面には樹脂層を有する10〜35μm厚みのニッケル製定着ベルトが開示されている。
このように、電子写真装置、静電記録装置等の画像形成装置に用いられる定着ベルトには、一般にシームレスのベルト基材が使用されている。たとえば、ニッケル材からなるシームレスベルト基材は、一般に硫酸ニッケル浴やスルファミン酸ニッケル等による電気鍍金法(電鋳法と表すことがある)によって製造される。
この電気鍍金法では、所要形状の母型が使用され、その母型の外周上に電気鋳造成膜が行われ、母型から引き抜かれてシームレスベルト基材が製造される。しかし、従来のニッケルシームレスベルトは、定着時に180℃以上に加熱されると、表面が酸化し、例えば、図3に示したベルト加熱方式の加熱定着装置においては、セラミックスヒーター312やベルトガイド316との接触で削れが発生し摩擦抵抗が増大する。そのため、加圧ローラ(加圧部材)330と従動するトルクが増え設計通りの回転が得られなくなる。
そこで、従来、シームレスベルト基材のベルトガイド側(内面)には摺動層を設けていた。これは、図3、図4のベルトガイド316、416や摺動板340、440と定着ベルトが接触することによる抵抗を小さくするためである。摺動層としては、ポリイミド樹脂を用いて形成することが提案されている。しかし、ポリイミド樹脂をはじめとするいわゆる樹脂系材料の熱伝導度は基材であるニッケルに比べ約300倍程度小さい(ニッケル0.92W/cm・℃、ポリイミド樹脂2.9×10−3W/cm・℃)ため、立上げ時間が長くなってしまい、熱伝導度の良いニッケル材のメリットが隠れてしまう。ポリイミド樹脂は材料コストが高く、ベルトの内面に形成するため工程コストも高くなる。また、ポリイミド樹脂の成膜プロセス中にポリイミド膜に水分が吸収され、ポリイミドの優れた特性を失ってしまうケースも多い。
一方、特開2001−6868号公報には、加熱部材の支持部材と摺動する面に、セラミック粒子又は合成樹脂粒子を金属マトリックス中に分散させた潤滑性金属層が提案されている。金属マトリックス中にセラミック粒子又は合成樹脂粒子を分散させた金属層を設けることで、加熱部材の支持部材との摺動面の摺動抵抗を低減し、さらに通紙耐久性の向上により摺動抵抗の増加を抑制することができる。しかし、依然として熱伝導度は基材であるニッケルに比べ小さいため、加熱定着装置の高印字スピード化には課題として残っている。
一方、特開2001−225134号公報には、塑性加工法による金属チューブが提案されている。塑性加工法とは、絞り加工、引き抜き加工、絞り時に基材を扱く加工法等であるが、チューブの厚みを薄くしようとすると、例えば、引き抜き加工の場合は、ダイスの磨耗が頻繁になり、また薄くできない(厚み30μm以下)などの欠点を持つ。
今後さらなる省エネルギー、省スペースの要求が厳しくなり、画像形成装置に用いられる加熱定着装置の小型化、定着ベルトの内径の小寸法化が進められている。従って、金属層を有する定着ベルトとしては、高温における耐酸化性、潤滑性、熱伝導性、薄肉化、耐熱性及び柔軟性などが要求されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、低エネルギー加熱を可能とした加熱定着装置において、耐磨耗性、熱伝導性、薄肉化、耐熱性及び柔軟性の向上した定着ベルト及び加熱定着装置を提供することを目的とする。また本発明は、耐磨耗性、耐熱性及び柔軟性に優れた金属ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明による金属ベルトは、電鋳法で製造したニッケル−鉄合金からなり、該ニッケル−鉄合金の鉄の含有率をF(質量%)、硫黄の含有率をS(質量%)としたとき、該ニッケル−鉄合金が、下記式で表される関係を満たすものであることを特徴とするものである。
0.001≦S≦0.13
85×S+3≦F≦350×S+3
また、本発明による定着ベルトは、金属層を有し、該金属層が、上記金属ベルトであることを特徴とするものである。また、本発明による加熱定着装置は、定着ベルトと、該定着ベルトを介して互いに圧接する一対の圧接部材とを有し、該定着ベルトの内面は該一対の圧接部材の一方と摺動し、該定着ベルトからの熱により被記録材上の画像を加熱定着する加熱定着装置であって、該定着ベルトが、上記定着ベルトであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
電鋳法で製造したニッケル−鉄合金の金属ベルトにおいて、硫黄Sおよび鉄Fの含有率を、
0.001≦S≦0.13
85×S+3≦F≦350×S+3
とすることにより、耐磨耗性、特に高速印字に対応可能な耐熱性、熱伝導性、柔軟性、屈強性に優れた薄肉化した金属ベルトを提供することができ、これを定着ベルトに用いることにより信頼性の高い加熱定着装置を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の一実施形態の定着ベルトの層構成を示す模型図である。
図2は、本発明の他の実施形態の定着ベルトの層構成を示す摸型図である。
図3は、本発明の加熱定着装置の第1の実施形態例の概略を示す構成図である。
図4は、本発明の加熱定着装置の第2の実施形態例の概略を示す構成図である。
図5は、本発明の加熱定着装置の第2の実施形態例において用いた磁場発生手段の模型図である。
図6は、本発明の加熱定着装置のその他の実施形態例の概略を示す構成図である。
図7は、本実施例における無端金属ベルトのニッケル−鉄合金の鉄含有率と硫黄含有率とをプロットした図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の定着ベルトは、少なくとも離型層と金属層とを有する定着ベルトであって、前記金属層が、電鋳法で製造したニッケル−鉄合金からなり、このニッケル−鉄合金の鉄の含有率をF質量%、硫黄の含有率をS質量%としたとき、このニッケル−鉄合金が、下記式で表される関係を満たすものであることに特徴がある。
0.001≦S≦0.13
85×S+3≦F≦350×S+3
ここで、電鋳法で製造したとは、電気鍍金法により製造したものである。
ニッケル−鉄合金の鉄と硫黄の含有率を上記関係を満たすものすると、例えば、金属層上に弾性層や離型層を形成し硬化する際の加熱や、定着時の加熱時における金属層の高硬度化、クラック等が発生しない高耐熱性、高屈曲性を有する金属層とすることができる。
また、従来技術の電鋳ニッケルの場合、上述したように、定着時における加熱(180℃以上)により、表面が酸化し、図3に示したような、セラミックヒーター312やベルトガイド316との接触で削れが発生するといった欠点を持つが、本発明における上記電鋳法で製造したニッケル−鉄合金は高温下でも摺動性に優れた特性を示す。すなわち、本発明の定着ベルトを加熱定着装置に用いることによって、定着ベルトの金属層が相対する構造物と接触しても削れず、耐摩耗性及び良好なすべり性、十分な耐熱性、屈曲性を有するものとすることができる。以下、本発明の詳細を説明する。
(1)定着ベルト
本発明の定着ベルトについて説明する。
図1は本発明の一実施形態における定着ベルト10の層構成を示す模型図である。図1に示した本発明の定着ベルト10は、電鋳法で製造した無端金属ベルトからなる金属層1と、その外面に積層した弾性層2と、さらにその外面に積層した離型層3を有する。金属層1は、電鋳法で製造したニッケル−鉄合金から構成されている。定着ベルト10において、金属層1側が内面側(ベルトガイド面側)であり、離型層3側が外面側(加圧ローラ面側)である。金属層1と弾性層2との間、弾性層2と離型層3との間には、接着のためにプライマー層(不図示)を設けてもよい。プライマー層はシリコーン系、フッ素系、エポキシ系、ポリアミドイミド系等の公知のものを使用すればよく、その厚さは、通常、1〜10μm程度である。
また、図2は本発明の他の実施形態における定着ベルト20の層構成を示す模型図である。金属層1の表面に弾性層2を形成せず、金属層1に離型層3を直接形成しても良い。特に、被記録材上のトナーのり量が少なくトナー層の凹凸が比較的小さいものの加熱定着の場合や熱を伝えるための構成の場合は、このような弾性層を省略した形態のものとすることができる。
一方、図1、図2に示す定着ベルトの場合でも、加熱定着装置の機構上ベルトガイドとの絶縁性などが必要な場合は、ポリイミドやポリアミドイミドなどの耐熱性の高い樹脂層を金属層1のベルトガイド側の上に形成することはなんら問題ない。また、この樹脂層には、ベルトガイドと摺動するため固体潤滑剤や熱伝導率を向上させるための酸化物フィラを添加してもよい。この樹脂層の厚みは50μm以下、特に3〜20μm程度が好ましい。本発明の定着ベルト10または20は、セラミックヒータを用いたベルト加熱方式や電磁誘導加熱方式の加熱定着装置に用いることができる。
<金属層>
金属層1は、電鋳法で製造した無端金属ベルトからなり、この無端金属ベルトは、ニッケル−鉄合金からなる。本発明においては、この金属層1を構成するニッケル−鉄合金は、鉄の含有率をF質量%、硫黄の含有率をS質量%としたとき、これらの成分の含有率が次の関係を満たしている。
0.001≦S≦0.13 (1)
85×S+3≦F≦350×S+3 (2)
上記ニッケル−鉄合金からなる金属層1は、ニッケルからなる金属層に比べ加熱定着時に180℃以上の温度まで加熱されても耐磨耗性に優れていることがわかった。これは、鉄の酸化物が耐磨耗性に優れているためである。
しかし、鉄の含有率が多くなると加熱前に比べ加熱後は硬度が高くなることがわかった。また、電鋳法で作製する場合、一般的に硫黄成分は電着応力を低減させ、成型精度を向上させる必須成分ではあるが、一方では柔軟性や高温時の弾力性を損ない、金属疲労による破断現象に密に関与する。硬度は特に硫黄の含有率にも左右され硫黄の含有率が多くなると、加熱すると硬度が高くなり脆くなる傾向にある。金属層1の外面に弾性層や離型層を形成するときに、通常200℃〜300℃に加熱し硬化させるが、このときの加熱によって金属層1の硬度が高くなり脆くなって定着時にクラックが発生したり、割れたりする。すなわち屈曲性が悪くなる。
一般的に、鉄と硫黄はFeSという化合物を作り、このFeSが非常に脆くなることが知られている。しかし、ニッケル−鉄合金の鉄と硫黄の含有率が上記関係を満たす場合は、加熱による金属層1の硬度変化が小さいことを発見した。この理由は明らかでないが、例えば、鉄の含有率が増えると結晶粒界が小さくなりやすいため、結晶粒の数が多く存在し、結晶粒界が多いために、発生したFeSが不連続にしか存在しないためと考えられる。
電鋳法で製造したニッケル−鉄合金からなる金属層の場合、鉄の含有率との関係があり、硫黄の含有率としては0.13質量%の含有率までは本発明の定着ベルトの金属層1としての屈曲性を満足できることがわかった。また、硫黄が少なすぎると母型から脱型しにくくなるため、本発明における金属層1を構成するニッケル−鉄合金としては0.001質量%は必要である。特に,硫黄の含有率としては、0.02〜0.09質量%が、好適である。
また、耐熱性をあげるために炭素の添加も効果があることがわかった。本発明における金属層1のニッケル−鉄合金の炭素の含有率は、硫黄の含有率の0.07〜2倍、特に0.08〜1.5倍であることが好ましい。炭素は、鉄と硫黄の化合物の生成を抑制する傾向にある。ただ、炭素の含有率が多いと鉄の炭素化合物が増えることで脆くなってくる。また、耐熱性をさらに上げるために、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などの鍍金液をベースとなるニッケル−鉄合金浴に添加した鍍金液を用いて、本発明におけるニッケル−鉄合金にこれらの成分を含有させても良い。
本発明に使用する上記の所定の鉄および硫黄含有率を有する無端ニッケル−鉄合金ベルトは、例えばステンレス鋼製などの母型を陰極として、電鋳プロセスにより製造される。鍍金浴としては一般に硫酸塩浴、スルファミン酸塩浴、塩化物浴のような一般的な鍍金浴が用いられる。硫酸浴の場合、例えば、硫酸ニッケル、硫酸第一鉄、ホウ酸、塩化ナトリウム、サッカリンナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等を含む水溶液をベースとする。この浴にpH調整剤、ピット防止剤、光沢剤などの添加剤を適宜加えてもよい。
上記無端ニッケル−鉄合金ベルトを構成するニッケル−鉄合金の硫黄の含有率を上記関係(1)を満たすようにするには、例えば、硫酸第一鉄とサッカリンナトリウムの添加量、鍍金電流密度、鍍金浴温度を制御すればよい。
また、鉄の含有率を上記関係(2)を満たすようにするには、例えば、硫酸ニッケルと硫酸第一鉄の添加量、電流密度、鍍金浴温度を制御すればよい。
また、炭素の含有率を硫黄の含有率Sの0.07〜2倍とするには、例えば、光沢剤、例えばブチンジオール、クマリンなどの添加量、サッカリンナトリウムの添加量、電流密度、鍍金浴温度を制御すればよい。
電鋳プロセスに用いる鍍金浴によっても異なるが、通常、鍍金浴温度40〜60℃程度、陰極電流密度1〜100A/dm程度で行なうことが好ましい。
光沢剤としては、サッカリン、サッカリンナトリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム等の応力減少剤・一次光沢剤や、ブチンジオール、クマリン、ジエチルトリアミン等の二次光沢剤と呼ばれる光沢剤を添加することができる。
金属層1の厚みは、図3に示す、セラミックヒータを用いたベルト加熱方式の加熱定着装置に用いる場合、熱容量を小さくしてクイックスタート性を向上させるために、100μm以下、特に50μm以下または10μm以上であることが好ましい。本発明における電鋳ニッケル−鉄合金は、電鋳ニッケルと比較してバネ性が高いため電鋳ニッケルより薄くしても塑性変形しにくい。加圧ローラとのニップ部を大きくとるためには金属層1の厚みを薄くした方がよく将来のニーズも多い。そういった点で本発明における電鋳ニッケル−鉄合金は前述した塑性加工法で作製されるSUSチューブより有利である。
また、図4に示す電磁誘導加熱方式の加熱定着装置の場合、金属層1の厚みは、次の式で表される表皮深さより厚く、通常1μm以上、好ましくは10μm以上とし、また、通常200μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは70μm以下とする。
表皮深さσ[m]は、励磁回路の周波数f[Hz]と透磁率μと固有抵抗ρ[Ωm]で
σ=503×(ρ/fμ)1/2
と表される。これは電磁誘導で使われる電磁波の吸収の深さを示しており、これより深いところでは電磁波の強度は1/e(eは自然対数の底を表す)以下になっており、逆に言うとほとんどのエネルギーはこの深さまでで吸収されている。本発明における電鋳ニッケル−鉄合金は、電鋳ニッケルに比べ鉄量が多いほど磁束密度が大きくなるが、固有抵抗がニッケルに比べ2〜5倍大きくなる。このためあまりに薄いと、ほとんどの電磁エネルギーが吸収しきれなくなってきて効率が悪くなってくることがある。また、金属層1があまりに厚いと、剛性が高くなり、また、屈曲性が悪くなって回転体として使用しにくくなることがある。
<弾性層>
弾性層2は設けても設けなくてもよい。弾性層2を設けることにより、ニップ部において被加熱像を覆って熱の伝達を確実にするとともに、金属層1の復元力を補って回転・屈曲による疲労を緩和することができる。また、弾性層2を設けることにより、定着ベルトの離型層表面の未定着トナー像表面への追従性を増し、熱を効率よく伝達させることが可能になる。弾性層2を設けた定着ベルトは、特に、未定着トナーののり量が多いカラー画像の加熱定着に適している。
弾性層2の材質は、特に限定されず、耐熱性がよく、熱伝導率がよいものを選べばよい。弾性層2の材質としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴム等が好ましく、特にシリコーンゴムが好ましい。
弾性層2を形成するために使用されるシリコーンゴム原料としては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリトリフルオロプロピルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリフェニルビニルシロキサン、これらポリシロキサンを構成する単量体単位からなる共重合体等を例示することができる。
なお、必要に応じて、弾性層2に乾式シリカ、湿式シリカ等の補強性充填材、炭酸カルシウム、石英粉、珪酸ジルコニウム、クレー(珪酸アルミニウム)、タルク(含水珪酸マグネシウム)、アルミナ(酸化アルミニウム)、ベンガラ(酸化鉄)等の充填材を含有させてもよい。
弾性層2の厚みは、良好な定着画像品質が得られるので、10μm以上、特に50μm以上が好ましく、1000μm以下、特に500μm以下が好ましい。カラー画像を印刷する場合、特に写真画像等では被記録材P上で大きな面積に渡ってベタ画像が形成される。この場合、被記録材の凹凸あるいはトナー層の凹凸に加熱面(離型層3)が追従できないと加熱ムラが発生し、伝熱量が多い部分と少ない部分とで画像に光沢ムラが発生する。つまり、伝熱量が多い部分は光沢度が高くなり、伝熱量が少ない部分では光沢度が低くなる。弾性層2があまりに薄いと、被記録材あるいはトナー層の凹凸に追従しきれず画像光沢ムラが発生してしまうことがある。また、弾性層2があまりに厚いと、弾性層の熱抵抗が大きくなりクイックスタートを実現するのが難しくなることがある。
弾性層2の硬度(JIS−K−6253)は、画像光沢ムラの発生が十分抑制され、良好な定着画像品質が得られるので、60°以下が好ましく、45°以下がより好ましい。
弾性層2の熱伝導率λは、2.5×10−3[W/cm・℃]以上が好ましく、3.3×10−3[W/cm・℃]以上がより好ましい。また、8.4×10−3[W/cm・℃]以下が好ましく、6.3×10−3[W/cm・℃]以下がより好ましい。熱伝導率λがあまりに小さい場合には、熱抵抗が大きくなり定着ベルトの表層(離型層3)における温度上昇が遅くなることがある。熱伝導率λがあまりに大きい場合には、弾性層2の硬度が高くなったり、圧縮永久歪みが大きくなってしまうことがある。
弾性層2は公知の方法、例えば、液状のシリコーンゴム等の材料をブレードコート法等の手段によって金属層上に均一な厚みでコートし、加熱硬化する方法、液状のシリコーンゴム等の材料を成形型に注入し加硫硬化する方法;押出成形後に加硫硬化する方法;射出成形後に加硫硬化する方法等で形成すればよい。
<離型層>
離型層3の材料としては特に限定されず、離型性、耐熱性のよいものを選べばよい。離型層3としては、PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂、シリコーン樹脂、フルオロシリコーンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等が好ましく、PFAがより好ましい。なお、必要に応じて、離型層にはカーボン、酸化すず等の導電剤等を含有させることができる。導電剤の含有量は特に限定されないが、一般的には、離型層を形成する材料の全質量に対し10質量%以下含有させるのが好ましい。
離型層3の厚さは1μm以上とするのが好ましく、また、100μm以下とするのが好ましい。離型層3があまりに薄いと、離型層3の厚みムラで離型性の悪い部分ができたり、耐久性が不足したりすることがある。また、離型層があまりに厚いと、熱伝導性が悪化することがあり、特に樹脂系の離型層の場合は硬度が高くなって弾性層2の効果がなくなってしまうことがある。
このような離型層は公知の方法、例えば、フッ素樹脂系の離型層を形成する場合、フッ素樹脂粉末を分散し塗料化したものをコートし、乾燥し、焼成する方法により、あるいは予めチューブ化したものを被覆・接着する方法により形成すればよい。また、ゴム系の離型層を形成する場合、液状の材料を成形型に注入し加硫硬化する方法;押出成形後に加硫硬化する方法;射出成形後に加硫硬化する方法等で形成すればよい。
また、予め内面にプライマー処理を施したチューブ、予め表面をプライマー処理した無端電鋳ニッケル−鉄合金ベルトを円筒母型内に装着し、このチューブと無端電鋳ニッケル−鉄合金ベルト間の隙間に液状シリコーンゴムを注入し、加熱してシリコーンゴムを硬化し、接着して、弾性層及び離型層を同時に形成することもできる。
(2)加熱定着装置
次に、本発明の加熱定着装置について説明する。本発明の加熱定着装置は、定着ベルトと、この定着ベルトを介して互いに圧接する一対の圧接部材とを有し、定着ベルトの内面は前記一対の圧接部材の一方と摺動し、前記定着ベルトからの熱により被記録材上の未定着トナー画像を加熱定着するものであって、定着ベルトとして前述の本発明の定着ベルトを用いるものである。
(第1の実施形態例)
加熱体としてセラミックヒータを用いたベルト加熱方式の定着装置において、本発明の定着ベルトを好ましく用いることができる。
図3は本発明の一実施形態における加熱定着装置300の横断面を示す模型図である。本実施形態において加熱定着装置300は加熱体としてセラミックヒータを用いたベルト加熱方式の装置であり、定着ベルト310は前述の本発明のものである。
ベルトガイド316は耐熱性、断熱性のベルトガイドである。加熱体としてのセラミックヒータ312は、ベルトガイド316の下面のほぼ中央部にガイド長手方向に沿って形成具備させた溝部に嵌入して固定支持させてある。そして、円筒状もしくはエンドレス状の本発明の定着ベルト310はベルトガイド316にルーズに外嵌させてある。
加圧用剛性ステイ322はベルトガイド316の内側に挿通してある。
加圧部材330は、本実施形態では弾性層を有する加圧ローラである。この加圧部材330は、芯金330aの外周部にシリコーンゴム等の弾性層330bを設けたものである。芯金330aの両端部を本装置の不図示の手前側と奥側のシャーシー側板との間に回転自由に軸受け保持させて配設してある。弾性層を有する加圧ローラは、表面性を向上させるために、さらにこの弾性層の外周にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂からなる離型層を設けてもよい。
加圧用剛性ステイ322の両端部と装置シャーシ側のバネ受け部材(不図示)との間にそれぞれ加圧バネ(不図示)を縮設して、加圧用剛性ステイ322に押し下げ力を作用させている。これによりセラミックヒータ312の下面に配設した摺動板340の下面と加圧ローラ330の上面とが定着ベルト310を介して圧接され所定幅のニップ部Nが形成される。
ベルトガイド316の作製に用いる材料としては、耐熱フェノール樹脂、LCP(液晶ポリエステル)樹脂、PPS(ポリフェニレンスルフィド)樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂等の、耐熱性に優れた樹脂が好ましく用いられる。
加圧ローラ330は、駆動手段(不図示)により矢印で示されているように反時計方向に回転駆動される。この加圧ローラ330の回転駆動による加圧ローラ330と定着ベルト310の外面との摩擦で定着ベルト310に回転力が作用して、定着ベルト310は、その内面がニップ部Nにおいてセラミックヒータ312の下面に密着して摺動しながら、矢印で示されているように時計方向に加圧ローラ330の回転周速度にほぼ対応した周速度でベルトガイド316の外回りを回転する(加圧ローラ駆動方式)。
プリントスタート信号に基づいて加圧ローラ330の回転が開始され、またセラミックヒータ312のヒートアップが開始される。加圧ローラ330の回転による定着ベルト310の回転周速度が定常化し、セラミックヒータ312の温度が所定温度に立ち上がった状態において、ニップ部Nの定着ベルト310と加圧ローラ330との間に被加熱材としての未定着のトナー画像tを担持させた被記録材Pがトナー画像担持面側を定着ベルト310側にして導入される。そして、被記録材Pはニップ部Nにおいて定着ベルト310を介してセラミックヒータ312の下面に密着し、定着ベルト310と一緒にニップ部Nを移動通過していく。その移動通過過程において、セラミックヒータ312の熱が定着ベルト310を介して被記録材Pに付与され、未定着のトナー画像tが被記録材P面に加熱定着される。ニップ部Nを通過した被記録材Pは定着ベルト310の外面から分離して搬送される。
加熱体としてのセラミックヒータ312は、定着ベルト310及び被記録材Pの移動方向に直交する方向を長手方向とする低熱容量の横長の線状加熱体である。チッ化アルミニウム等でできたヒータ基板と、このヒータ基板の表面にその長手方向に沿って設けた発熱層312b、例えば、Ag/Pd(銀/パラジウム)等の電気抵抗材料を厚さ約10μm、幅1〜5mmにスクリーン印刷等により塗工して設けた発熱層312bと、さらにその上に設けたガラスやフッ素樹脂等の保護層312cを基本構成とする。なお、用いるセラミックヒータはこのようなものに限定されるものではない。
そして、セラミックヒータ312の発熱層312bの両端間に通電されることで発熱層312bは発熱し、ヒータ312が急速に昇温する。そのヒータ温度が温度センサ(不図示)に検知され、ヒータ温度が所定の温度に維持されるように制御回路(不図示)で発熱層312bに対する通電が制御されてセラミックヒータ312は温調管理される。
セラミックヒータ312は、ベルトガイド316の下面のほぼ中央部にガイド長手方向に沿って形成具備させた溝部に、保護層312c側を上向きに嵌入して固定支持させてある。定着ベルト310と接触するニップ部Nには、このセラミックヒータ312の摺動板340の面と定着ベルト310の内面が相互接触摺動する。
また、セラミックヒータのかわりに鉄板等の強磁性体金属板を設け、第2の実施形態で用いた電磁誘導によって前記強磁性体金属板を発熱させて、ヒータとして用いることもできる。
また、加圧部材330は加圧ローラのようなローラ形状を有する加圧部材に限らず、回動フィルム型等他の形態の部材にすることもできる。また、加圧部材330側からも被記録材Pに熱エネルギーを供給するために、加圧部材330側にも電磁誘導加熱方式等の発熱手段を設けて所定の温度に加熱し、温調する装置構成とすることもできる。
(第2の実施形態例)
図4は本発明の他の実施形態の加熱定着装置400の要部の横断面を示す模型図である。本実施形態の加熱定着装置400は、電磁誘導加熱方式の装置であり、定着ベルト410は前述の本発明の定着ベルトである。
磁場発生手段は、磁性コア417a,417b及び417c並びに励磁コイル418からなる。
図5は、この加熱定着装置の磁場発生手段の模型図である。
磁性コア417a〜417cは高透磁率の部材であり、フェライトやパーマロイ等といったトランスのコアに用いられる材料が好ましく、特に100kHz以上でも損失の少ないフェライトを用いることが好ましい。
励磁コイル418はコイル(線輪)を構成する導線(電線)として一本ずつがそれぞれ絶縁被覆された銅製の細線を複数本束ねたもの(束線)を用い、これを複数回巻いて形成されている。本実施形態においては11ターン巻いて励磁コイル418を形成している。
絶縁被覆は、定着ベルト410の発熱による熱伝導を考慮して耐熱性を有する被覆を用いることが好ましい。例えば、ポリイミド樹脂により被覆したもの等を用いるのが好ましい。ここで、励磁コイル418の外部から圧力をかけて密集度を向上させてもよい。
磁場発生手段と定着ベルト410との間には絶縁部材419が配設されている。絶縁部材419の材質としては絶縁性に優れ、耐熱性に優れたものがよい。例えば、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PES(ポリエーテルスルホン)樹脂、PPS(ポリフェニレンスルフィド)樹脂、PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルエーテル共重合体)樹脂、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)樹脂、LCP(液晶ポリエステル)樹脂等が好ましく挙げられる、
励磁コイル418には給電部418a、418bに励磁回路427(図5)が接続されている。この励磁回路427としては、好ましくは20kHzから500kHzの高周波をスイッチング電源で発生できるようになっているものが好ましい。励磁コイル418は励磁回路427から供給される交番電流(高周波電流)によって交番磁束を発生する。
磁性コア417a〜417cに導かれた交番磁束(C)は、定着ベルト410のニッケル−鉄合金からなる金属層1(電磁誘導発熱層)に渦電流を発生させる。この渦電流は金属層1(電磁誘導発熱層)の固有抵抗によって金属層1(電磁誘導発熱層)にジュール熱(渦電流損)を発生させる。ここでの発熱量Qは金属層1(電磁誘導発熱層)を通る磁束の密度によって決まる。ニップ部Nの温度は、不図示の温度検知手段を含む温調系により励磁コイル418に対する電流供給を制御することで所定の温度が維持されるように温調される。図4に示した実施形態においては、温度センサ426は定着ベルト410の温度を検知するサーミスタ等であり、温度センサ426で測定した定着ベルト410の温度情報をもとにニップ部Nの温度を制御するようにしている。
加圧部材としての加圧ローラ430は、芯金430aと、芯金の外周部に同心一体にローラ状に成形被覆させた、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フッ素樹脂等の耐熱性の弾性層430bとで構成されている。加圧ローラ430は、芯金430aの両端部を装置の不図示のシャーシ側板間に回転自由に軸受け保持させて配設してある。
加圧用剛性ステイ422の両端部と装置シャーシ側のバネ受け部材(不図示)との間にそれぞれ加圧バネ(不図示)を縮設することで、加圧用構成ステイ422に押し下げ力を作用させている。これにより、ベルトガイド416aの下面に配設した摺動板440の下面と加圧ローラ430の上面とが定着ベルト410を介して圧接して所定幅のニップ部Nが形成される。なお、ベルトガイド416の製造に用いる材料としては、耐熱フェノール樹脂、LCP(液晶ポリエステル)樹脂、PPS(ポリフェニレンスルフィド)樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂等の耐熱性に優れた樹脂を用いることが好ましい。
加圧ローラ430は、駆動手段Mにより矢示のように反時計方向に回転駆動される。この加圧ローラ430の回転駆動による加圧ローラ430と定着ベルト410との摩擦で定着ベルト410に回転力が作用して、定着ベルト410が、その内面がニップ部Nにおいて摺動板440の下面に摺動しながら、矢印で示すように時計方向に加圧ローラ430の回転速度にほぼ対応した周速度でベルトガイド416(416aと416b)の外回りを回転する。
こうして、加圧ローラ430が回転駆動され、それに伴って定着ベルト410が回転し、励磁回路427から励磁コイル418への給電により上記のように定着ベルト410の電磁誘導発熱がなされ、ニップ部Nが所定の温度に立ち上がって温調された状態において、画像形成手段部から搬送された未定着のトナー画像tが形成された被記録材Pが、ニップ部Nの定着ベルト410と加圧ローラ430との間に画像面が上向き、すなわち定着ベルト面に対向して導入される。そして、ニップ部Nにおいて画像面が定着ベルト410の外面に密着し、定着ベルト410と一緒にニップ部Nを挟持搬送されていく。この過程において、定着ベルト410の電磁誘導発熱によって加熱されて未定着のトナー画像tが被記録材P面に加熱定着される。被記録材Pはニップ部Nを通過すると、回転定着ベルト410の外面から分離して排出搬送されていく。
被記録材上の加熱定着トナー画像はニップ部Nを通過後、冷却して永久固着像となる。本実施形態においては加熱定着装置にオフセット防止のためのオイル塗布機構を設けていないが、低軟化物質を含有させていないトナーを使用した場合にはオイル塗布機構を設けてもよい。また、低軟化物質を含有させたトナーを使用した場合にもオイル塗布や冷却を行って被記録材Pを分離して排出搬送を行ってもよい。
また、加圧部材430は加圧ローラのようなローラ形状を有する加圧部材に限らず、回動フィルム型等他の形態の加圧部材とすることもできる。また、加圧ローラ430側からも被記録材に熱エネルギーを供給するために、加圧ローラ430側にも電磁誘導加熱等の発熱手段を設けて所定の温度に加熱し、温調する装置構成とすることもできる。
(その他の実施形態例)
加熱定着装置の装置構成は上記のような実施形態の加圧ローラ駆動方式に限られるものではない。その他にも、例えば、図6に示す加熱定着装置600のように、ベルトガイド616と駆動ローラ631とテンションローラ632との間に本発明の定着ベルト610を懸回張設し、ベルトガイド616の下面部と加圧部材としての加圧ローラ630とを定着ベルト610を介して圧接させてニップ部Nを形成させ、定着ベルト610を駆動ローラ631によって回転駆動させる装置構成とすることもできる。この場合、加圧ローラ630は従動回転ローラである。
また、この場合も加圧部材630はローラ形状を有する加圧部材に限らず、回動フィルム型等他の形態の加圧部材とすることもできる。また、加圧部材630側からも被記録材に熱エネルギーを供給するために、加圧部材630側にも電磁誘導加熱等の発熱手段を設けて所定の温度に加熱・温調する装置構成とすることもできる。
【実施例】
以下に、実施例を用いて、本発明を更に詳しく説明する。
本実施例、比較例における無端金属ベルトのニッケル−鉄合金の炭素、鉄及び硫黄含有率の測定及び無端金属ベルトの硬度の測定並びに実施例及び比較例の定着ベルトの空回転耐久試験及び実機耐久通紙試験は次の通り行った。
<ニッケル−鉄合金の鉄、硫黄及び炭素の含有率の測定>
ニッケル−鉄合金の鉄の含有率は、理学株式会社製のRIX3000型蛍光X線分析装置(商品名)を用いて測定した。また、硫黄及び炭素の含有率は、燃焼赤外線吸収法により米国LECO社製測定装置、CS−444型(商品名)を用いて測定した。
<ニッケル−鉄合金の硬度の測定>
株式会社アカシ製の測定装置、HM123(商品名)を用い、ビッカース硬度(荷重100g)をJIS Z2244に基づき測定した。
<空回転耐久試験>
(ヒータ加熱方式のベルト加熱方式加熱定着装置による空回転耐久試験)
キヤノン(株)製フルカラーLBP LASER SHOT LBP−2040(商品名)に、加熱定着装置として、実施例または比較例の定着ベルトを装着したヒータ加熱方式のベルト加熱方式加熱定着装置(ユニット)を搭載し、これを用いて空回転耐久試験を以下のように行った。
加熱定着装置のヒータ温度を210℃に温調しながら、所定の加圧力で加圧ローラを定着ベルトに押し付け、定着ベルトを加圧ローラに従動回転させた。加圧ローラとしては、厚さ3mmのシリコーンゴムからなる弾性層に30μmのPFAチューブを被覆したφ16mmの加圧ローラを用いた。本空回転耐久試験においては、加圧力は200N、ニップ部は幅6mm×長さ230mmであり、定着ベルトの表面速度は87mm/sとなる条件に定めた。また、ベルトガイドの摺動板(図3の340)にすべりを良くするために潤滑剤(商品名:HP3000、ダウコーニング社製)を0.5g塗布し試験した。本空回転耐久試験においては、定着ベルトを従動回転させるために要した加圧ローラの負荷トルクを併せて測定した。
この空回転耐久試験のもとで、定着ベルトの亀裂、破断を発生するまでの時間を目視と顕微鏡で観察し耐久時間とした。
加熱定着装置のプロセススピードおよび安全係数より計算した定着ベルトの最低耐久時間として500時間を要求されているが、本発明の定着ベルトの耐久寿命(耐久時間)を700時間以上と設定し、耐久時間が700時間を超えるものについては、700時間を超えたところで試験を終了した。
(電磁誘導加熱方式のベルト加熱方式加熱定着装置による空回転耐久試験)
キヤノン(株)製フルカラーLBP LASER SHOT LBP−2710(商品名)に、加熱定着装置として、実施例または比較例の定着ベルトを装着した電磁誘導加熱方式のベルト加熱方式加熱定着装置(ユニット)を搭載し、これを用いて空回転耐久試験を以下のように行った。
加熱定着装置のヒータ温度を220℃に温調しながら、所定の加圧力で加圧ローラを定着ベルトに押し付け、定着ベルトを加圧ローラに従動回転させた。加圧ローラは、肉厚3mmシリコーン層に30μmのPFAチューブを被覆したφ30mmのゴムローラを用いた。本実験では、加圧力は200N、定着ニップは幅7mm×長さ230mmであり、定着ベルトの表面速度は高速印字速度である120mm/sの条件で試験した。また、ベルトガイドの摺動板(図4の440)にすべりを良くするためにダウコーニング社製のHP3000を0.5g塗布し試験した。
<実機耐久通紙試験>
上記空回転耐久試験に用いた、加熱定着装置(ユニット)を搭載したキヤノン(株)製フルカラーLBP LASER SHOT LBP−2040(商品名)及びフルカラーLBP LASER SHOT LBP−2710(商品名)を用い上記空回転耐久試験と同じ使用条件のもとで、10万枚の画像を画出しして実機耐久通紙試験を行った。
[実施例1〜21、比較例1〜4]
<無端金属ベルトの作製・評価>
硫酸ニッケル、硫酸第一鉄、ホウ酸、塩化ナトリウム、サッカリンナトリウム、ブチンジオール、ラウリル硫酸ナトリウムを含むニッケル−鉄合金鍍金浴を調製した。この鍍金浴にステンレスからなる母型を浸漬して陰極とし、浴温度40℃、電流密度2〜14A/dmで13〜90分ニッケル−鉄合金を電析したのちに、母型から取り外し、ニッケル−鉄合金からなる、内径φ24mm、厚み30μm、長さ250mmの無端金属ベルトを作製した。
上記無端金属ベルトの作製条件を纏め表1に示した。

得られたニッケル−鉄合金からなる無端金属ベルトに含まれる鉄、硫黄及び炭素の含有率を測定した。
さらに、PFAやFEPなどの粉末を分散し塗料化したものをコートし、乾燥し、焼成して離型層3を形成する場合には、320〜330℃程度の温度のもとで加熱されることがあり、電鋳法で作製したニッケル−鉄合金からなる無端金属ベルトは、加熱されると硬度が高くなってゆき、さらに加熱されると300℃前後で硬度が低くなるものと大きくなるものがあり、硬度が小さくなるものは、脆くなり割れやすくなるところから、得られた無端金属ベルトの耐熱特性を判断するために320℃及び330℃で30分間加熱処理し加熱処理後の無端金属ベルトの硬度を測定した。
<定着ベルトの作製・評価>
得られた無端金属ベルトの外周面に、プライマーをスポンジに含ませた後、そのスポンジで無端金属ベルトの面に塗布しプライマー層を形成し、次にPFAチューブの内面に同様にしてプライマー層を形成し、ほぼ同内径の円筒状金型に、上記無端金属ベルトと共に同軸上に装着し、PFAチューブと無端金属ベルトの間に液状シリコーンゴム、DY32−561A/B(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製;商品名)を注入し、200℃で30分熱風循環乾燥炉内で加熱して、各層を同時に硬化すると共に、300μmの厚みを有するシリコーンゴムからなる弾性層と、接着層を介してその外周部にPFAチューブからなる30μmの厚みを有する離型層とを同時に形成し定着ベルトを得た。
得られた定着ベルトについて、上記空回転耐久試験および実機耐久通紙試験を行った。
ヒータ加熱方式のベルト加熱方式加熱定着装置による空回転耐久試験の結果、無端金属ベルトのニッケル−鉄合金の鉄、硫黄、炭素の含有率の測定結果、加熱処理した無端金属ベルトの硬度の測定値を纏め表2に示した。

実施例1〜21の定着ベルトについては、ヒータ加熱方式のベルト加熱方式加熱定着装置の耐久時間は、耐久時間のスペックである500時間を越えすべて700時間を超えた。これに対し、比較例1の定着ベルトは、鉄の含有率F(質量%)が1質量%であり、ベルトの内面が削れ、これによって加圧ローラの回転トルクが大きくなったため150時間で試験を中止した。また、比較例2および3の定着ベルトは、硫黄の含有率S(質量%)が0.13質量%を越えており、それぞれ、90時間および80時間で、金属層の中心部に割れが発生した。また、比較例4の定着ベルトは、90時間で金属層の中心部にヒビや割れが発生した。この定着ベルトは、金属層が硫黄の含有率Sが0.040質量%、鉄の含有率Fが3質量%のニッケル−鉄合金からなるが、鉄の含有率F(質量%)は(85×S+3)(=6.4質量%)よりも小さい値を有していた。
また、比較例1〜4の定着ベルトの製造に使用した無端金属ベルトのニッケル−鉄合金の場合、320℃で熱処理したものと330℃で熱処理したものの硬度の差(ΔH(320−330)と表すことがある)は、80〜100と実施例の定着ベルトの製造に使用した無端金属ベルトのニッケル−鉄合金に比べ熱処理温度を高くしたときの硬度の低下が極端に大きく、これらのニッケル−鉄合金からなる無端金属ベルトは、耐熱性が低く本発明の定着ベルトの作製には使えないことがわかった。
また、実施例1〜21において電鋳法で作製したニッケル−鉄合金の鉄の含有率F(質量%)と硫黄の含有率S(質量%)について、鉄の含有率Fを縦軸に取り、硫黄の含有率Sを横軸に取ってプロットした結果を図7に示す。
図7に示されているように、実施例1〜21の定着ベルトの金属層を構成するニッケル−鉄合金は、いずれも、前記式(1)および式(2)の関係を満たすものとなっており、これらの関係を満たすと、表2に示されているように、金属層の耐熱性が高くなり、320℃で熱処理したものと330℃で熱処理したものの硬度の差ΔH(320−330)が小さいことが分かる。
また、ブチンジオールを添加し炭素含有率を増やした実施例20、21は空回転耐久試験で700時間をクリアできた。また、ΔH(320−330)も20以下と小さく耐熱性が高いことがわかった。
一方、比較例4のように炭素量が多くなり炭素量が硫黄量の2倍を越えると空回転耐久試験90時間で、電鋳ニッケル−鉄合金基材の中心部に割れが発生した。実施例1〜21の炭素含有率C質量%と硫黄含有率F質量%の比率から、炭素の含有率が硫黄の含有率の0.07〜2倍であることが好ましいことがわかった。
また、実機耐久通紙試験(ヒータ加熱方式の加熱定着装置を搭載)においては、実施例1〜21の定着ベルトを搭載したものは、トラブルもなく10万枚の画出し耐久試験を終了した。一方、比較例1〜4の定着ベルトを搭載したものは、1万枚以下でいずれも画像に乱れが発生し、そのうち通紙不可能となった。
また、電磁誘導加熱方式のベルト加熱方式加熱定着装置による空回転耐久試験においては、実施例1〜21の定着ベルトを搭載したものは、いずれも700時間の耐久時間をクリアし十分な耐熱耐久性を有することが確認された。一方、比較例1〜4の定着ベルトは、耐久試験100時間以下で、金属層の中心部にヒビや割れが発生した。
電磁誘導加熱方式のベルト加熱方式加熱定着装置を搭載した実機耐久通紙試験においては、実施例1〜21の定着ベルトを搭載したものは、トラブルもなく10万枚の画出し耐久試験を終了した。一方、比較例1〜4の定着ベルトを搭載したものは、1万枚以下でいずれも画像に乱れが発生し、そのうち通紙不可能となった。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、耐磨耗性、熱伝導性、薄肉化、耐熱性及び柔軟性の向上した定着ベルト及びこれを搭載した加熱定着装置を提供することができる。
この出願は2003年12月2日に出願された日本国特許出願第2003−402911からの優先権を主張するものであり、その内容を引用してこの出願の一部とするものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電鋳法で製造したニッケル−鉄合金からなり、該ニッケル−鉄合金の鉄の含有率をF(質量%)、硫黄の含有率をS(質量%)としたとき、該ニッケル−鉄合金が、下記式で表される関係を満たすものであることを特徴とする金属ベルト。
0.001≦S≦0.13 (1)
85×S+3≦F≦350×S+3 (2)
【請求項2】
硫黄の含有率S(質量%)が、
0.02≦S≦0.09
であることを特徴とする請求項1に記載の金属ベルト。
【請求項3】
ニッケル−鉄合金が炭素を含んでおり、該炭素の含有率(質量%)が、硫黄の含有率(質量%)の0.07〜2倍である請求項1に記載の金属ベルト。
【請求項4】
金属層を有する定着ベルトであって、該金属層が、電鋳法で製造したニッケル−鉄合金からなり、該ニッケル−鉄合金の鉄の含有率をF(質量%)、硫黄の含有率をS(質量%)としたとき、該ニッケル−鉄合金が、下記式で表される関係を満たすものであることを特徴とする定着ベルト。
0.001≦S≦0.13 (1)
85×S+3≦F≦350×S+3 (2)
【請求項5】
硫黄の含有率S(質量%)が、
0.02≦S≦0.09
であることを特徴とする請求項4に記載の定着ベルト。
【請求項6】
ニッケル−鉄合金が炭素を含んでおり、該炭素の含有率(質量%)が、硫黄の含有率(質量%)の0.07〜2倍である請求項4に記載の定着ベルト。
【請求項7】
金属層および離型層を有する請求項4に記載の定着ベルト。
【請求項8】
離型層と金属層との間に弾性層を有する請求項7記載の定着ベルト。
【請求項9】
弾性層がシリコーンゴム、フッ素ゴムまたはフルオロシリコーンゴムから形成されたものである請求項8に記載の定着ベルト。
【請求項10】
定着ベルトと、該定着ベルトを介して互いに圧接する一対の圧接部材とを有し、該定着ベルトの内面は該一対の圧接部材の一方と摺動し、該定着ベルトからの熱により被記録材上の画像を加熱定着する加熱定着装置であって、該定着ベルトが、請求項4〜9のいずれかに記載の定着ベルトであることを特徴とする加熱定着装置。
【請求項11】
前記定着ベルトからの熱が、磁束発生手段により発生する磁束により該定着ベルトの金属層で発生する熱である請求項10に記載の加熱定着装置。
【請求項12】
前記定着ベルトからの熱が、該ベルトと摺動する圧接部材に設けられた加熱体で発生する熱である請求項10に記載の加熱定着装置。

【国際公開番号】WO2005/054960
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516034(P2005−516034)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018331
【国際出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】