説明

金属ガスケットによるシール構造

【課題】金属ガスケットおよび筐体間に塩水が溜まるような間隙を形成しない構造であり、もって塩水の滞留による筐体の腐食が発生しにくく、シール機能が長期間に亙って維持される構造の金属ガスケットによるシール構造を提供する。
【解決手段】一対の筐体間に配置される1枚の金属ガスケットを備える。金属ガスケットは平面状の外周部と外周部の内周端部から立ち上げ形成されたビード部とを備え、ビード部が一方の筐体に接触し、外周部が他方の筐体に接触するように配置される。一対の筐体によって金属ガスケットが挟圧されたとき、ビード部はその高さを減じるように弾性変形するとともにこれに伴って外周部も弾性変形し、このとき外周部はその先端が一方の筐体に接触し、これにより一方の筐体および金属ガスケット間に塩水が溜まるような間隙を形成しない構造を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ガスケットによるシール構造に関する。本発明のシール構造は例えば自動車関連の分野で用いられ、またはその他の分野で用いられる。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車向けの金属ガスケットでは、自動車が海浜地帯を走行する状況などに備え、スペック評価項目として、塩水噴霧試験が実施される場合がある。この場合、金属ガスケットを装着する相手側の筐体がアルミ材質(アルミ合金を含む、以下同じ)であると、金属ガスケットおよび筐体間の隙間に塩水が堆積(付着)し、乾燥および湿潤を繰り返すことにより、塩水(イオン濃度の差)によるアルミ材質の腐食(隙間腐食)が発生する。金属ガスケットは、筐体に接触する部分の反力でシール機能を発揮するが、筐体の腐食部分がシールラインを貫通すると、シール機能が損なわれることになる。
【0003】
尚、筐体は鉄系の材質であっても腐食が発生するが、アルミ(Al)は鉄系(Fe)等よりイオン化傾向が大きい金属であるため、腐食しやすいものである。
【0004】
Al3++3HO→Al(OH)+3H
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−224938号公報
【特許文献2】特開平11−241769号公報
【特許文献3】特開2008−164156号公報
【特許文献4】特開2009−156382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて、金属ガスケットおよび筐体間に塩水が溜まるような間隙を形成しない構造であり、もって塩水の滞留による筐体の腐食が発生しにくく、シール機能が長期間に亙って維持される構造の金属ガスケットによるシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるシール構造は、一対の筐体間に配置される1枚の金属ガスケットを備え、前記金属ガスケットは平面状の外周部と前記外周部の内周端部から立ち上げ形成されたビード部とを備えるとともに、前記ビード部が一方の筐体に接触し、前記外周部が他方の筐体に接触するように配置され、前記一対の筐体によって前記金属ガスケットが挟圧されたとき、前記ビード部はその高さを減じるように弾性変形するとともにこれに伴って前記外周部も弾性変形し、このとき前記外周部はその先端が前記一方の筐体に接触し、これにより前記一方の筐体および前記金属ガスケット間に塩水が溜まるような間隙を形成しない構造を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2によるシール構造は、一対の筐体間に重なった状態で配置される2枚の金属ガスケットを備え、前記金属ガスケットはそれぞれ平面状の外周部と前記外周部の内周端部から立ち上げ形成されたビード部とを備えるとともに、前記外周部同士が接触し、一方の金属ガスケットのビード部が一方の筐体に接触し、他方の金属ガスケットのビード部が他方の筐体に接触するように配置され、前記一対の筐体によって前記2枚の金属ガスケットが挟圧されたとき、前記各ビード部はその高さを減じるように弾性変形するとともにこれに伴って前記各外周部も弾性変形し、このとき前記一方の金属ガスケットの外周部はその先端が前記一方の筐体に接触するとともに前記他方の金属ガスケットの外周部はその先端が前記他方の筐体に接触し、これにより前記一方の筐体および前記一方の金属ガスケット間ならびに前記他方の筐体および前記他方の金属ガスケット間にそれぞれ塩水が溜まるような間隙を形成しない構造を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3によるシール構造は、上記した請求項1または2記載のシール構造において、前記金属ガスケットは、金属基板の表面にゴム層が被着されることにより、前記外周部の先端が筐体に接触するときに、前記金属基板は筐体に接触せず前記ゴム層が筐体に接触する構造を備えることを特徴とする。
【0010】
更にまた、本発明の請求項4によるシール構造は、上記した請求項3記載のシール構造において、前記ゴム層は、その先端が前記金属基板の先端より突出して庇状に張り出すことにより、前記外周部の先端が筐体に接触するときに、前記金属基板を筐体に接触しにくくする構造を備えることを特徴とする。
【0011】
上記構成を備える本発明の請求項1によるシール構造は、一対の筐体間に1枚の金属ガスケットを装着する構造であって、金属ガスケットは平面状の外周部とこの外周部の内周端部から立ち上げ形成されたビード部とを備え、挟圧前の初期配置においてビード部が一方の筐体に接触し、外周部が他方の筐体に接触するように配置される。そして、一対の筐体によって金属ガスケットがその厚み方向に挟圧されると、ビード部がその高さを減じるように弾性変形するとともにこれに伴って外周部も弾性変形し、このとき外周部はその先端が一方の筐体に接触する。したがって一方の筐体と金属ガスケットとの間が前記接触により閉塞されることになって、ここに塩水が溜まるような間隙が形成されないため、一方の筐体がアルミ材質であっても、塩水の滞留による筐体の腐食が発生するのを抑制することが可能となる。
【0012】
また、上記構成を備える本発明の請求項2によるシール構造は、一対の筐体間に2枚の金属ガスケットを重なった状態で装着する構造であって、金属ガスケットはそれぞれ平面状の外周部とこの外周部の内周端部から立ち上げ形成されたビード部とを備え、挟圧前の初期状態において外周部同士が接触し、一方の金属ガスケットのビード部が一方の筐体に接触し、他方の金属ガスケットのビード部が他方の筐体に接触するように配置される。そして、一対の筐体によって2枚の金属ガスケットが挟圧されると、各ビード部がその高さを減じるように弾性変形するとともにこれに伴って各外周部も弾性変形し、このとき一方の金属ガスケットの外周部はその先端が一方の筐体に接触するとともに他方の金属ガスケットの外周部はその先端が他方の筐体に接触する。したがって一方の筐体と一方の金属ガスケットとの間および他方の筐体と他方の金属ガスケットとの間がそれぞれ前記接触により閉塞されることになって、ここに塩水が溜まるような間隙が形成されないため、一方および他方の筐体がそれぞれアルミ材質であっても、塩水の滞留による筐体の腐食が発生するのを抑制することが可能となる。
【0013】
金属ガスケットが金属基板の表面にゴム層を被着したものである場合には、ガスケット外周部の先端が筐体に接触するときに金属基板は筐体に接触せずゴム層が筐体に接触する構造とするのが望ましく、これによれば、筐体がアルミ材質である場合に発生する虞のある筐体の電気的腐食を一層有効に抑制することが可能となる。電気的腐食は、塩水が筐体に付着することで筐体とボルトおよびガスケット間に回路(電池)が形成され電位差が発生し、これにより筐体の腐食に至るので、金属基板が筐体に接触しなければ回路が形成されないことになる。
【0014】
ただし、ガスケット外周部の先端は筐体に対し斜めに角度をもって接触し、またゴム層は反力によって潰れやすいので、金属基板の表面にゴム層が被着されていても金属基板が筐体に接触してしまうことが懸念される。そこでこれに対策するには、ゴム層の先端を金属基板の先端より突出させて庇状に張り出させることが好適であり、これによれば、金属基板と筐体との間にゴム庇部が常に介在するため、金属基板が筐体に接触するのを有効に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0016】
すなわち上記構成を備える本発明によれば、一方の筐体と金属ガスケットとの間、または一方の筐体と一方の金属ガスケットとの間および他方の筐体と他方の金属ガスケットとの間にそれぞれ塩水が溜まるような間隙が形成されないため、塩水の滞留による筐体の腐食が発生するのを抑制することができ、よって金属ガスケットによるシール機能を長期間に亙って維持することができる。また、金属基板が筐体に接触せずゴム層が筐体に接触する構造とすることにより筐体がアルミ材質である場合の電気的腐食の発生を抑制することができ、ゴム層の先端を庇状に設定することにより金属基板が筐体に接触するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第一実施例に係るシール構造に用いる金属ガスケットの要部断面図
【図2】同シール構造の締結状態を示す要部断面図
【図3】同金属ガスケットの製造工程および筐体に対する接触状態を示す説明図
【図4】本発明の第二実施例に係るシール構造に用いる金属ガスケットの要部断面図
【図5】同シール構造の締結状態を示す要部断面図
【図6】同金属ガスケットの製造工程および筐体に対する接触状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
【0019】
請求項1,3,4関連・・・
(1)アルミ−鉄系合わせ面の場合のシール機能を延命することを特徴とする。
(2)ステンレス、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、アルミニウム合板をガスケット基材としていることを特徴とする。
(3)ガスケットゴムを形成するゴム配合物は、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、シリコンゴムのうちの少なくとも一種を含む合成ゴムシートとする。
(4)アルミ筐体と鉄系フランジの場合、塩水によるアルミ筐体の腐食を低減する、ひいては腐食の進行によるガスケットシール機能の喪失を遅らせることを目的として、アルミ筐体側にガスケットの端部が押し付けられるようなビード(方向)を設定する。
(5)筐体ないしフランジとして主に使用される材料はアルミもしくは鉄系であり、AlはFeよりイオン化傾向が大きく、塩水噴霧環境では腐食しやすい。アルミと鉄系の合わせ面の場合、腐食しやすいアルミ側に塩水が堆積しないようにビードの向きを図1および図2のように設定し且つ、打ち抜きバリも図3のように設定することにより、アルミ側腐食を低減でき且つ、ガスケットシール機能喪失を遅らせることが可能になる。また2枚のガスケットを積層する場合より低コストで対策が可能である。
【0020】
請求項2,3,4関連・・・
(6)基材金属の両面に接着剤層を介してゴム層を設けた、積層状のメタルガスケット素材において、ガスケットを2枚積層し、端部の跳ね上げを利用しガスケットと筐体の外周部の隙間を少なくして、当該隙間への塩水の付着、堆積量を減少させることで、シール機能を延命することを特徴とする。
(7)ステンレス、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、アルミニウム合板をガスケット基材としていることを特徴とする。
(8)ガスケットゴムを形成するゴム配合物は、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、シリコンゴムのうちの少なくとも一種を含む合成ゴムシートとする。
(9)ガスケットを2枚積層させて、圧縮時のガスケット端部の跳ね上げを利用し、ガスケットと筐体の外周部の隙間を少なくする。ガスケット端部のエッジ部において面圧を発生させ、隙間を無くし、塩水を堆積しにくくすることで、隙間腐食の進行を抑制する。
(10)また、ガスケットの打ち抜き方向を変えることで、ガスケット端部の鋼板の露出を無くし、鋼板がハウジングに接触するのを防ぐ。アルミ筐体側にゴムが飛び出るように打ち抜き方向を設定することで、鋼板が筐体に接触することを防止する。ガスケットの打ち抜き方向を変えることで、ガスケット端部をゴムで覆い、縁部を無くす。
(11)上記(6)〜(10)の構成によれば、アルミ筐体に堆積する塩水量(アルミ筐体とガスケットの外周部の隙間)を減らすことができる。堆積する塩水の量が減ることにより、塩水によるアルミ筐体の腐食が進行する速度を抑えることが可能になり、シール機能の延命に繋がる。また、ガスケット端部の鋼板とアルミ筐体の接触を防ぐことで、縁部を無くし、腐食を防止する。
【実施例】
【0021】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0022】
第一実施例(請求項1,3,4関連)・・・
図1は、本発明の第一実施例に係るシール構造に用いる金属ガスケット11の要部断面を示しており、この金属ガスケット11が一対の筐体(ハウジングまたはフランジ)31,41間に配置されてガスケット厚み方向(図では上下方向)に挟圧(ボルト締め)されると、図2に示す締結状態となる。各図の左側がガスケット11の外側(外周側)すなわち塩水などの密封流体側であり、右側がガスケット11の内側(内周側)である。また図2に示すように一対の筐体31,41は、図上上側の一方の筐体31と図上下側の他方の筐体41との組み合わせよりなり、このうち図上上側の一方の筐体31がアルミ材質とされて、本実施例による腐食抑制の対象とされている。これに対し図上下側の他方の筐体41は鉄系の材質とされ、本実施例による腐食抑制の対象とされていない。本実施例では一対の筐体31,41間に1枚の金属ガスケット11が装着される。
【0023】
図1に示すように、金属ガスケット11は、平面状の外周部11aと、この外周部11aの内周端部からガスケット厚み方向の一方(図では上方向)へ向けて立ち上げ形成されたビード部11dとを一体に備えている。
【0024】
すなわち一層詳細に説明すると、金属ガスケット11は、平面状の外周部11aを備え、この外周部11aの内周端部から斜め上方へ向けて斜面部11bが一体成形されるとともにこの斜面部11bの内周端部に平面状の内周部11cが一体成形されている。したがって平面状の外周部11aをガスケット基板部として、斜面部11bおよび内周部11cよりなるハーフビード形状のビード部11dが設定されている。
【0025】
また、金属ガスケット11は、金属基板(鋼板層)12を備え、この金属基板12の厚み方向両面にそれぞれゴム層(表面ゴム層)13,14が全面に亙って被着されている。したがって金属ガスケット11は、金属基板12およびゴム層13,14の組み合わせよりなる積層タイプの金属ガスケット(ラバーコーティングメタルガスケット)とされている。
【0026】
上記構成の金属ガスケット11は、一対の筐体31,41により挟圧される前の初期状態において、ビード部11dの一部を構成する平面状の内周部11cの上面が上側の一方の筐体31の下面に接触(面接触)するとともに同じく平面状の外周部11aの下面が下側の他方の筐体41の上面に接触(面接触)した状態とされ、このとき外周部11aおよび斜面部11bの上面と上側の一方の筐体31の下面との間に初期的な間隙(初期間隙)が形成されるが、その後一対の筐体31,41によってガスケット厚み方向に挟圧されると図2に示す締結状態となり、すなわちハーフビード形状よりなるビード部11dがその高さを減じるように弾性変形するとともにこれに伴って平面状の外周部11aも斜めに弾性変形し、このとき外周部11aは外周部11aおよびビード部11d間の角部11eの下面を梃子作用の支点としてその先端11fが上向きに跳ね上がって先端11fがその上端(上面ゴム層13)において上側の一方の筐体31の下面に接触する。
【0027】
したがって、このように外周部11aの先端11fが上側の一方の筐体31の下面に接触することにより上記初期間隙が閉塞され、よって一方の筐体31および金属ガスケット11間に塩水などの密封流体が溜まるような間隙が形成されなくなるため、塩水などの滞留によってアルミ材質よりなる一方の筐体31に腐食が発生するのを抑制することができる。
【0028】
尚、下側の他方の筐体41と金属ガスケット11の外周部11aとの間には断面V字状に開いたくさび状の間隙25が形成されるが、ここに塩水などが溜まっても他方の筐体41は鉄系の材質よりなるので、腐食は発生しにくいものである。
【0029】
また、上記構成のシール構造では、金属ガスケット11における外周部11aの先端11fが上側の一方の筐体31の下面に接触するときに、金属基板12は筐体31に接触せずに上面ゴム層13のみが筐体31に接触する構造とされている。したがってこの点からしても一方の筐体31がアルミ材質よりなるものであっても電気的腐食が発生するのを抑制することができる。
【0030】
尚、上記したように金属ガスケット11は、平面状の外周部11aの内側に斜面部11bおよび内周部11cよりなるハーフビード形状のビード部11dを一体成形したものであるので、これが締結されると図2に示したように、ビード部11dの角部11gの上面と外周部11aの先端11fとがそれぞれゴム層13によって上側の一方の筐体31の下面に密接し、外周部11aおよびビード部11d間の角部11eの下面と内周部11cの先端11hとがそれぞれゴム層14によって下側の他方の筐体41の上面に接触する。したがって金属ガスケット11の上下面にそれぞれ2本のシールラインが設定されることになる。
【0031】
上記第一実施例において、金属ガスケット11が備えるビード部11dは、斜面部11bおよび内周部11cよりなるハーフビード形状とされているが、締結時の変形によって外周部11aの先端11fが一方の筐体31に接触することが確保されれば、ビード部11dの形状はとくに限定されるものではなく、例えば断面円弧形もしくは断面台形のフルビード形状などであっても良い。
【0032】
また、金属ガスケット11を製造するに際しては、金属ガスケット11が所定の平面形状を備えるようにガスケット素材1を打ち抜き加工するが、この打ち抜き加工に際して図3(A)から(B)へと示すように、金属基板12の長さLよりも一方の、筐体31に接触する側のゴム層13の長さLのほうを大きく設定すると(金属基板12の平面形状よりも一方の、筐体31に接触する側のゴム層13の平面形状のほうを一回り大きく設定すると)、図3(C)に示すように、金属基板12の先端よりゴム層13の先端が突出して、金属基板12の先端をゴム層13の先端が庇のように覆うことになるので、金属基板12が筐体31に接触しにくくなる。したがって上記電気的腐食の発生を一層有効に抑制することができる。図3(B)では素材1を打ち抜く方向を矢印Pをもって示している。
【0033】
第二実施例(請求項2,3,4関連)・・・
図4は、本発明の第二実施例に係るシール構造に用いる金属ガスケット11,21の要部断面を示しており、この金属ガスケット11,21が一対の筐体(ハウジングまたはフランジ)31,41間に互いに重なった状態で配置されてガスケット厚み方向(図では上下方向)に挟圧(ボルト締め)されると、図5に示す締結状態となる。各図の左側がガスケット11,21の外側(外周側)すなわち塩水などの密封流体側であり、右側がガスケット11,21の内側(内周側)である。また図5に示すように一対の筐体31,41は、図上上側の一方の筐体31と、図上下側の他方の筐体41との組み合わせよりなり、両筐体31,41はそれぞれアルミ材質とされている。したがって本実施例では両筐体31,41が双方ともに腐食抑制の対象とされている。本実施例では一対の筐体31,41間に2枚の金属ガスケット11,21が装着される。
【0034】
図4に示すように、金属ガスケット11,21は、図上上側の一方の金属ガスケット11と、図上下側の他方の金属ガスケット21との組み合わせよりなり、各金属ガスケット11,21は、装着時に互いに重ねられる平面状の外周部11a,21aと、この外周部11a,21aの内周端部から互いに離れる方向に立ち上げ形成されたビード部11d,21dとを一体に備えている。
【0035】
すなわち一層詳細に説明すると、図上上側の一方の金属ガスケット11は、平面状の外周部11aを備え、この外周部11aの内周端部から斜め上方へ向けて斜面部11bが一体成形されるとともにこの斜面部11bの内周端部に平面状の内周部11cが一体成形されている。したがって平面状の外周部11aをガスケット基板部として、斜面部11bおよび内周部11cよりなるハーフビード形状のビード部11dが設定されている。
【0036】
一方、図上下側の他方の金属ガスケット21は、同じく平面状の外周部21aを備え、この外周部21aの内周端部から斜め下方へ向けて斜面部21bが一体成形されるとともにこの斜面部21bの内周端部に平面状の内周部21cが一体成形されている。したがって平面状の外周部21aをガスケット基板部として、斜面部21bおよび内周部21cよりなるハーフビード形状のビード部21dが設定されている。
【0037】
両金属ガスケット11,21は互いに上下対称な形状とされ、少なくとも図示する部分で上下対称な形状とされ、また上下対称に配置されている。
【0038】
また、両金属ガスケット11,21はともに、金属基板(鋼板層)12,22を備え、この金属基板12,22の厚み方向両面にそれぞれゴム層(表面ゴム層)13,14,23,24が全面に亙って被着された構造とされている。したがって両金属ガスケット11,21はともに、金属基板12,22およびゴム層13,14,23,24よりなる積層タイプの金属ガスケット(ラバーコーティングメタルガスケット)とされている。
【0039】
上記構成の両金属ガスケット11,21は、一対の筐体31,41により挟圧される前の初期状態において、上側の一方の金属ガスケット11における外周部11aの下面と下側の他方の金属ガスケット21における外周部21aの上面とが互いに接触(面接触)するとともに上側の一方の金属ガスケット11におけるビード部11dの一部を構成する平面状の内周部11cの上面が上側の一方の筐体31の下面に接触(面接触)し、更に下側の他方の金属ガスケット21におけるビード部21dの一部を構成する平面状の内周部21cの下面が下側の他方の筐体41の上面に接触(面接触)した状態とされ、このとき上側の一方の金属ガスケット11における外周部11aおよび斜面部11bの上面と上側の一方の筐体31の下面との間および下側の他方の金属ガスケット21における外周部21aおよび斜面部21bの下面と下側の他方の筐体41の上面との間にそれぞれ初期的な間隙(初期間隙)が形成されるが、その後一対の筐体31,41によってガスケット厚み方向に挟圧されると図5に示す締結状態となり、すなわちハーフビード形状よりなる各ビード部11d,21dがその高さを減じるように弾性変形するとともにこれに伴って平面状の各外周部11a,21aも斜めに弾性変形し、このとき上側の一方の金属ガスケット11における外周部11aは外周部11aおよびビード部11d間の角部11eの下面を梃子作用の支点としてその先端11fが上向きに跳ね上がって先端11fがその上端(上面ゴム層13)において上側の一方の筐体31の下面に接触する。
【0040】
したがって、このように外周部11aの先端11fが上側の一方の筐体31の下面に接触することにより上記初期間隙が閉塞され、よって一方の筐体31および一方の金属ガスケット11間に塩水などの密封流体が溜まるような間隙が形成されなくなるため、塩水などの滞留によってアルミ材質よりなる一方の筐体31に腐食が発生するのを抑制することができる。
【0041】
また同様に、下側の他方の金属ガスケット21における外周部21aは外周部21aおよびビード部21d間の角部21eの上面を梃子作用の支点としてその先端21fが下向きに跳ね上がって先端21fがその下端(下面ゴム層24)において下側の他方の筐体41の上面に接触する。
【0042】
したがって、このように外周部21aの先端21fが下側の他方の筐体41の上面に接触することにより上記初期間隙が閉塞され、よって他方の筐体41および他方の金属ガスケット21間に塩水などの密封流体が溜まるような間隙が形成されなくなるため、塩水などの滞留によってアルミ材質よりなる他方の筐体41に腐食が発生するのを抑制することができる。
【0043】
尚、両金属ガスケット11,21の外周部11a,21a同士の間には断面V字状に開いたくさび状の間隙26が形成されるが、ここに塩水などが溜まっても筐体31,41に接触しないので、筐体31,41に腐食は発生しないものである。
【0044】
また、上記構成のシール構造では、上側の一方の金属ガスケット11における外周部11aの先端11fが上側の一方の筐体31の下面に接触するときに、金属基板12は筐体31に接触せず上面ゴム層13のみが筐体31に接触する構造とされ、下側の他方の金属ガスケット21における外周部21aの先端21fが下側の他方の筐体41の上面に接触するときにも、金属基板22は筐体41に接触せず下面ゴム層24のみが筐体41に接触する構造とされている。したがってこの点からしても各筐体31,41がアルミ材質よりなるものであっても電気的腐食が発生するのを抑制することができる。
【0045】
尚、上記したように上側の一方の金属ガスケット11は、平面状の外周部11aの内側に斜面部11bおよび内周部11cよりなるハーフビード形状のビード部11dを一体成形したものであるので、これが締結されると図5に示したように、ビード部11dの角部11gの上面と外周部11aの先端11fとがそれぞれゴム層13によって上側の一方の筐体31の下面に密接する。したがって、ここに2本のシールラインが設定されることになる。
【0046】
また同様に、下側の他方の金属ガスケット21は、平面状の外周部21aの内側に斜面部21bおよび内周部21cよりなるハーフビード形状のビード部21dを一体成形したものであるので、これが締結されると図5に示したように、ビード部21dの角部21gの下面と外周部21aの先端21fとがそれぞれゴム層24によって下側の他方の筐体41の上面に密接する。したがって、ここに2本のシールラインが設定されることになる。
【0047】
また、金属ガスケット11,21同士については、外周部11a,21aおよびビード部11d,21d間の角部11e,21e同士ならびに内周部11c,21cの先端11h,21h同士が密接するので、ここにも2本のシールラインが設定されることになる。
【0048】
上記第二実施例において、両金属ガスケット11,21が備えるビード部11d,21dはそれぞれ、斜面部11b,21bおよび内周部11c,21cよりなるハーフビード形状とされているが、締結時の変形によって外周部11a,21aの先端11f,21fがそれぞれ一方または他方の筐体31,41に接触することが確保されれば、ビード部11d,21dの形状はとくに限定されるものではなく、例えば断面円弧形もしくは断面台形のフルビード形状などであっても良い。
【0049】
また、両金属ガスケット11,21を製造するに際してはそれぞれ、金属ガスケット11,21が所定の平面形状を備えるようにガスケット素材1を打ち抜き加工するが、この打ち抜き加工に際して図6(A)から(B)へと示すように、金属基板12,22の長さLよりも一方の、筐体31,41に接触する側のゴム層13,24の長さLのほうを大きく設定すると(金属基板12,22の平面形状よりも一方の、筐体31,41に接触する側のゴム層13,24の平面形状のほうを一回り大きく設定すると)、図6(C)に示すように、金属基板12,22の先端よりゴム層13,24の先端が突出して、金属基板12,22の先端をゴム層13,24の先端が庇のように覆うことになるので、金属基板12,22が筐体31,41に接触しにくくなる。したがって上記電気的腐食の発生を一層有効に抑制することができる。図6(B)では素材1を打ち抜く方向を矢印Pをもって示している。
【符号の説明】
【0050】
1 ガスケット素材
11,21 金属ガスケット
11a,21a 外周部
11b,21b 斜面部
11c,21c 内周部
11d,21d ビード部
11e,21e 外周部およびビード部間の角部
11f,21f 外周部の先端
11g,21g ビード部の角部
11h,21h 内周部の先端
12,22 金属基板
13,14,23,24 ゴム層
25,26 間隙
31,41 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の筐体間に配置される1枚の金属ガスケットを備え、前記金属ガスケットは平面状の外周部と前記外周部の内周端部から立ち上げ形成されたビード部とを備えるとともに、前記ビード部が一方の筐体に接触し、前記外周部が他方の筐体に接触するように配置され、
前記一対の筐体によって前記金属ガスケットが挟圧されたとき、前記ビード部はその高さを減じるように弾性変形するとともにこれに伴って前記外周部も弾性変形し、このとき前記外周部はその先端が前記一方の筐体に接触し、これにより前記一方の筐体および前記金属ガスケット間に塩水が溜まるような間隙を形成しない構造を備えることを特徴とする金属ガスケットによるシール構造。
【請求項2】
一対の筐体間に重なった状態で配置される2枚の金属ガスケットを備え、前記金属ガスケットはそれぞれ平面状の外周部と前記外周部の内周端部から立ち上げ形成されたビード部とを備えるとともに、前記外周部同士が接触し、一方の金属ガスケットのビード部が一方の筐体に接触し、他方の金属ガスケットのビード部が他方の筐体に接触するように配置され、
前記一対の筐体によって前記2枚の金属ガスケットが挟圧されたとき、前記各ビード部はその高さを減じるように弾性変形するとともにこれに伴って前記各外周部も弾性変形し、このとき前記一方の金属ガスケットの外周部はその先端が前記一方の筐体に接触するとともに前記他方の金属ガスケットの外周部はその先端が前記他方の筐体に接触し、これにより前記一方の筐体および前記一方の金属ガスケット間ならびに前記他方の筐体および前記他方の金属ガスケット間にそれぞれ塩水が溜まるような間隙を形成しない構造を備えることを特徴とする金属ガスケットによるシール構造。
【請求項3】
請求項1または2記載のシール構造において、
前記金属ガスケットは、金属基板の表面にゴム層が被着されることにより、前記外周部の先端が筐体に接触するときに、前記金属基板は筐体に接触せず前記ゴム層が筐体に接触する構造を備えることを特徴とする金属ガスケットによるシール構造。
【請求項4】
請求項3記載のシール構造において、
前記ゴム層は、その先端が前記金属基板の先端より突出して庇状に張り出すことにより、前記外周部の先端が筐体に接触するときに、前記金属基板を筐体に接触しにくくする構造を備えることを特徴とする金属ガスケットによるシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−36607(P2013−36607A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−285551(P2011−285551)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】