金属クラスター担持触媒の製造方法
【課題】酸化物担体粒子に金属クラスターが均一に担持された金属クラスター担持触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化物担体粒子に複数個の金属原子が集まった金属クラスターが担持された金属クラスター担持触媒の製造方法であって、イオン液体中に金属クラスターが分散した分散液を用意する工程、該分散液と酸化物担体粒子とを混合する工程、および
得られた混合液に、イオン液体と溶媒に分散された金属クラスターとの結合力を弱めるために外力を加えて酸化物担体粒子に金属クラスターを担持させる工程、を含む、前記方法。
【解決手段】酸化物担体粒子に複数個の金属原子が集まった金属クラスターが担持された金属クラスター担持触媒の製造方法であって、イオン液体中に金属クラスターが分散した分散液を用意する工程、該分散液と酸化物担体粒子とを混合する工程、および
得られた混合液に、イオン液体と溶媒に分散された金属クラスターとの結合力を弱めるために外力を加えて酸化物担体粒子に金属クラスターを担持させる工程、を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属クラスター担持触媒の製造方法に関し、さらに詳しくは酸化物担体粒子にナノサイズの金属クラスターが均一に担持された金属クラスター担持触媒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の研究によれば、制御されたサイズを有する金属クラスターは、触媒活性等の化学的性質及び磁性等の物理的性質に関して、バルクの金属とは異なる性質を有することが明らかになっている。
この金属クラスターの特異な性質を利用するために、サイズを制御したクラスターを簡便に合成する方法が必要とされており、さまざまな検討がされている。
【0003】
特に、金クラスターの一酸化炭素浄化特性やプロピレン酸化特性は、サイズによる効果が大きいことが知られている。
また、平均径が10nm未満の金ナノ粒子を担体、例えばFe2O3に共沈法により担持させて得られる担持触媒は化学反応に高い触媒活性を有することが知られている。しかし、この担持触媒は、担体が特定の材料に限られるため様々な担体に適用できる担持法が求められている。
【0004】
また、貴金属による触媒性能を用いる例としては、自動車用エンジン等の内燃機関から排出される排ガスの浄化を挙げることができる。この排ガスの浄化では、排ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOX)等を、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属を主成分とする触媒成分によって、二酸化炭素、窒素、水に転化させている。この排ガス浄化の用途では一般に、貴金属である触媒成分をアルミナ等の酸化物製多孔質担体粒子に担持して、排ガスと触媒成分との大きい接触面積を与えるようにしている。
【0005】
前記の触媒成分である貴金属の酸化物製多孔質担体粒子への担持は、一般に貴金属の硝酸塩又は単一の貴金属原子を有する貴金属錯体の溶液を担体に含浸させて、担体の表面に貴金属化合物を分散させて、次いで溶液を含浸させた担体を乾燥及び焼成する含浸法によって行っている。このような方法では、意図したサイズを有する貴金属クタスターを得ることは困難である。特に、金は融点が1000℃と金属元素の中で低く、0価の金属状態が安定な元素であるため、担体との相互作用が小さく300℃以下の温度でも担体上で粒成長し易い。このため、従来の含浸法で貴金属を酸化物担体粒子に担持させた場合、配位子除去のための焼成過程で粒成長し、目的とする10nm未満、特に5nm以下の平均径を有する金属クラスターを生成させることは困難であった。
【0006】
このため、析出還元法が提案された(例えば、Studies in Surface Science and Catalyst Vol. 91, 227)。この析出還元法では、塩化金酸水溶液にpH調整剤として水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを7程度とし、酸化物担体粒子を加えて金を担持し、400℃程度で加熱することにより、金クラスター担持触媒が得られる。しかし、この工程で触媒中に塩化物イオンが残存していると焼成中に金が肥大化し、ナトリウムが残存することにより触媒反応を阻害する等の問題が生じ得る。このため、触媒調製の際に不純物除去を厳密に行う必要がある。しかし、析出還元法で、塩化物あるいはナトリウムを用いないで金クラスター担持触媒を得る方法は未だ提案されていない。
【0007】
また、予め0価の金属クラスターを液相で作製し、担体に担持する方法も提案されている。この液相担持法では、高分子保護剤を使用して金属クラスターを合成し、担体に担持させる方法であるため、高分子保護剤を焼成除去するために300℃以上の高温下に処理することが必要であり、金の粒成長が避けられない。
【0008】
このため、排ガス浄化用触媒は、一般的には前記の含浸法により調製されているが、簡便に大量の触媒を調製することは出来るが、担持触媒の調製に焼成工程を有するものであり、金属クラスターの粒成長が避けられず、任意の構成原子数を有する金属クラスターを担持させることはできない。
この排ガス浄化用触媒においては、貴金属資源枯渇の問題への対応と環境改善に対する要求から排ガス浄化性能のさらなら向上への期待は強く、金属をクラスターの状態で担持させる技術が検討されている。
【0009】
例えば、特許文献1には、金属又は半導体ナノ粒子前駆体を構成する原子又は分子をイオン液体に付着させることによりナノ粒子を製造する、金属又は半導体ナノ粒子の製造方法が記載されている。そして、具体例としてイオン液体としてN,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどのイオン液体を用いて金をターゲット材としてスパッタリングにより分散液中の平均粒径が1〜4nm程度の金ナノ粒子を得た例が示されている。しかし、担体粒子に金属ナノ粒子を担持する方法については示されていない。
【0010】
また、特許文献2には、アークプラズマ蒸着法を用いて金属酸化物上に平均クラスターサイズが2nm以下である金クラスターを担持させる触媒の製造方法が記載されている。そして、具体例として真空下にアルミナ基板、シリカ基板、ジルコニア基板、セリア基板又はチタニア基板に金をアークプラズマ蒸着して、基板上に金ナノクラスターを作製した例が示されている。しかし、担体粒子に金ナノ粒子を担持する方法については示されていない。
また、非特許文献1には、イオン液体を用いてスパッタリング蒸着した金ナノ粒子を熱処理することによって高秩序の熱分解グラファイト(HOPG)に金ナノ粒子を高密度に堆積させ得たことが記載されている。そして、具体例としてイオン液体としてTMPA−TFSAを用いて1.2x1.2cmのHOPG基板上に金ナノ粒子分散液を乗せ、酸化を抑制するために真空下でHOPG基板を加熱することにより金ナノ粒子を担持させた実験例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−231306号公報
【特許文献2】特開2010−247108号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】ケミストリー レターズ(Chemistry Letters)Vol.38 No.4 2009年 第330−311頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、前記非特許文献1に記載の方法を排ガス浄化用に適用しようとすると、ガス分子との接触面積を多くする必要があるため表面積の大きい(二次粒子径の小さい)μmオーダーの酸化物担体粒子に担持する必要がある。この場合、前記非特許文献1に記載の方法によっては酸化物担体粒子に金のナノ粒子を均一に担持することが困難である。
このように、従来公知の技術によれば、金属ナノ粒子を製造することあるいは担体基板やグラファイトに金ナノクラスターを担持させることは可能であるが、排ガス浄化用触媒に用いられ得る酸化物担体粒子に金属クラスターが均一に担持された金属クラスター担持触媒の製造方法は知られていない。
従って、本発明の目的は、酸化物担体粒子に金属クラスターが均一に担持された金属クラスター担持触媒の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、酸化物担体粒子に複数個の金属原子が集まった金属クラスターが担持された金属クラスター担持触媒の製造方法であって、
イオン液体中に金属クラスターが分散した分散液を用意する工程、
該分散液と溶媒に分散された酸化物担体粒子とを混合する工程、および
得られた混合液に、イオン液体と金属クラスターとの結合力を弱めるために外力を加えて酸化物担体粒子に金属クラスターを担持させる工程、
を含む、前記方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酸化物担体粒子に金属クラスターが均一に担持された金属クラスター担持触媒を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施態様の工程を示す模式図である。
【図2】図2は、実施例において調製した分散液中の金クラスターのSTEM観察像である。
【図3】図3は、図2に示す金クラスターの粒度分布を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例で150℃に加熱して得られたアルミナ担体粒子に担持された金クラスターのSTEM観察像である。
【図5】図5は、図4に示すアルミナ担体粒子に担持された金クラスターの粒度分布を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例で100℃に加熱して得られたアルミナ担体粒子に担持された金クラスターのSTEM観察像である。
【図7】図7は、図6に示すアルミナ担体粒子に担持された金クラスターの粒度分布を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例で150℃に加熱して得られたシリカ担体粒子に担持された金クラスターのSTEM像である。
【図9】図9は、実施例で150℃に加熱して得られたセリア担体粒子に担持された金クラスターのSTEM像である。
【図10】図10は、比較例で400℃に加熱して得られたアルミナ担体粒子に担持された金クラスターのSTEM観察像である。
【図11】図11は、図10に示すアルミナ担体粒子に担持された金クラスターの粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
特に、本発明において、以下の実施態様を挙げることができる。
1)前記溶媒が、含窒素化合物又は含酸素化合物系有機溶媒である前記方法。
2)前記金属クラスター担持触媒が、酸化物担体粒子に平均径が10nm未満の金属クラスターが担持されたものである前記方法。
3)前記外力が、加熱、マイクロ波又は超音波である前記方法。
4)さらに、金属クラスターが担持された酸化物担体粒子をイオン液体からろ取し、溶媒で洗浄し、乾燥する工程を含む前記方法。
5)前記外力が、分散液の温度を0〜300℃の範囲の温度に上昇させるために行われる加熱である前記方法。
6)前記加熱が、不活性雰囲気下に100〜300℃に加熱して行われる前記方法。
7)前記酸化物担体粒子がAl2O3粒子、SiO2粒子、CeO2粒子、ZrO2粒子、TiO2粒子、CeO2−ZrO2複合酸化物粒子、CeO2−Al2O3複合酸化物粒子、CeO2−TiO2複合酸化物粒子、CeO2−SiO2複合酸化物粒子又はCeO2−ZrO2−Al2O3複合酸化物粒子であり、前記担持触媒が排ガス浄化用触媒である前記方法。
8)前記分散液が、イオン液体に金属クラスターを蒸着させて調製される前記方法。
9)前記金属クラスターの金属が、金、銀、白金、ロジウム又はパラジウムあるいはそれぞれの合金である前記方法。
10)前記イオン液体が、TMPA−TFSAである前記方法。
【0018】
本発明においては、酸化物担体粒子に複数個の金属原子が集まった金属クラスターが担持された金属クラスター担持触媒を、
イオン液体中に金属クラスターが分散した分散液を用意する工程、
該分散液と溶媒に分散された酸化物担体粒子とを混合する工程、および
得られた混合液に、イオン液体と金属クラスターとの結合力を弱めるために外力を加えて酸化物担体粒子に金属クラスターを担持させる工程、
を含むことが必要であり、これによって酸化物担体粒子に金属クラスターが均一に担持された金属クラスター担持触媒を得ることができる。
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳説する。
本発明の実施態様の製造方法は、図1に示すように、
金ターゲットに対するスパッタリング法などにより金を蒸着させてイオン液体中に金クラスターが分散した分散液を用意する工程(a)、
該分散液と溶媒に分散された酸化物担体粒子とを混合する工程(b)、
得られた混合液に、イオン液体と金属クラスターとの結合力を弱めるために加熱による外力を加えて酸化物担体粒子に金属クラスターを担持させる工程(c)、および
金属クラスターが担持された酸化物担体粒子をイオン液体からろ取し、溶媒で洗浄し、乾燥する工程(d)
からなる。
【0020】
本発明の方法においては、イオン液体中に金属クラスターが分散した分散液を用意することが必要であり、前記の分散液は、イオン液体に金属クラスターを蒸着させる方法によって調製され得る。
前記の蒸着方法としては、特に制限はなく、例えば化学蒸着法や物理蒸着法、例えば真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法など、好適にはスパッタリング法が挙げられる。
【0021】
本発明においては、金属として金、銀、白金、ロジウム又はパラジウムあるいはそれぞれの銅もしくはニッケルとの合金が挙げられる。
前記の方法において、イオン液体の蒸気圧が極めて低いため、イオン液体を含む蒸着装置内を減圧に保つことが可能となり、金属をイオン液体に蒸着させ得る。
前記の工程によって、イオン液体中に複数個の金属原子が集まった金属クラスター、通常は10nm未満、特に5nm以下の平均径を有する金属クラスターが分散され、イオン液体に取り囲まれて安定化する。
【0022】
前記のイオン液体は、陽イオンと陰イオンのみから構成される塩であって常温で液体である一連の化合物をいい、高温安定性であり液体温度範囲が広い、蒸気圧が略ゼロ、イオン性でありながら低粘性、高い酸化・還元耐性などの特性を有しているものであり、例えば脂肪族系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体などが挙げられ、好適には、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドやN−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロホウ酸塩、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(以下、TMPA−TFTAと略記する。)など、好適にはTMPA−TFTAを挙げることができる。
【0023】
本発明の方法においては、前記の工程で得られた分散液と酸化物担体粒子とを混合することが必要である。
前記酸化物担体粒子としては、Al2O3粒子、SiO2粒子、CeO2粒子、ZrO2粒子、TiO2粒子、CeO2−ZrO2複合酸化物粒子、CeO2−Al2O3複合酸化物粒子、CeO2−TiO2複合酸化物粒子、CeO2−SiO2複合酸化物粒子又はCeO2−ZrO2−Al2O3複合酸化物粒子が挙げられる。
【0024】
前記の分散液と酸化物担体粒子とを混合する際には、前記酸化物担体粒子を溶媒に予め分散させたものを用いることが必要である。単に酸化物担体粒子と分散液とを混合したのでは、酸化物担体粒子に金属クラスターと均一に担持させることはできない。
前記の酸化物担体粒子を分散させるための溶媒としては、極性を有する有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、アニリン、ピリジンなどの含窒素化合物又は含酸素化合部、その中でも沸点が200℃未満の有機溶媒が挙げられる。
前記溶媒の量は、前記分散液と溶媒との割合が1:10〜10:1、特に1:5〜5:1、その中でも1:3〜3:1(容量比)であることが好適である。
また、前記の分散液と混合する酸化物担体粒子の量は、酸化物担体粒子に対する金属クラスターの質量割合で示される金属の担持量が0.05〜3質量%とすることが好適である。
【0025】
本発明の方法においては、得られた混合液に、イオン液体と金属クラスターとの結合力を弱めるために外力を加えて酸化物担体粒子に金属クラスターを担体させることが必要である。
前記の工程によって、酸化物担体粒子にナノサイズの金属クラスターが均一に担持することが可能となる。
前記の外力としては、加熱、マイクロ波又は超音波、好適には分散液の温度を0〜300℃の範囲の温度に上昇させるために行われる加熱、その中でも不活性雰囲気下に、例えば窒素を導入して分散液の温度を100〜300℃に上昇させる加熱が挙げられる。
特に、前記分散液を100〜150℃の温度で5分間〜5時間程度、例えば10〜60分間程度の加熱を行うことが好適である。
【0026】
前記の外力として加熱を用いる場合、温度が高すぎると金属クラスターの粒成長が起こるので避ける必要がある。
また、前記の外力としてマイクロ波又は超音波を用いる場合は、付与するエネルギーが過大にならないように留意する必要がある。
前記の加熱、マイクロ波又は超音波を用いる技術は、それ自体周知である。
【0027】
前記の各工程によって生成された、金属クラスターが担持された酸化物担体粒子は、イオン液体からろ取し、溶媒で洗浄し、乾燥され得る。
前記のイオン液体からのろ取には、ろ過、遠心分離などのろ取手段が適用され得る。
前記溶媒としては、極性を有する有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、アニリン、ピリジンなど、好適にはニトリルが挙げられる。
前記の乾燥は、300℃未満の温度、通常は100〜150℃で1〜10時間程度行い得る。
【0028】
本発明の前述の方法によって、酸化物担体粒子に平均径が10nm未満、特に5nm以下の金属クラスターが均一に担持された金属クラスター担持触媒を得ることができる。
そして、前記の金属クラスター担持触媒は、自動車エンジンなどの内燃機関からの排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒として用い得る。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を示す。
以下の実施例は単に説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
以下の各例において、金属クラスター担持触媒は、図1に模式図を示す工程に従って作製した。
以下の各例において、得られた貴金属クラスター(担持前)および金属クラスター酸化物担体粒子担持触媒の貴金属クラスターについて、日立製作所社製STEM(HD−2000)を用いて、加速電圧:200kVにて測定を行った。
【0030】
実施例1
1.Auクラスターの合成
TMPA−TFSAを0.600cm3分取し、120℃で3時間以上減圧乾燥した。アセトンで超音波洗浄したスライドガラス(26mmx38mm)上にこのTMPA−TFSA0.600cm3を均一に塗布し、DCスパッタリング装置(Sanyu Electron Co.,Ltd,SC−701HMCII)にターゲットとイオン液体との距離を20mmとして設置した。Au円板(純度99.99%)をターゲット(有効直径49mm)として用い、イオン液体への金属のスパッタリング蒸着を行った。スパッタリング蒸着条件はチャンバー内をアルゴンガスに置換し、圧力10Pa、スパッタリング蒸着電流40mAの条件でプレスパッタリングを300秒間行った後、スパッタリング蒸着時間900秒として行った。スパッタリング蒸着後のスライドガラス表面のイオン液体を回収し、Auクラスター分散イオン液体を得た。
イオン液体中に堆積させたAuクラスターのSTEM観察像を図2に、Auクラスターの粒度分布を図3に示す。
図2および3から、平均2.9nmのAuクラスターが形成されたことが確認された。
【0031】
2.AuクラスターのAl2O3担体粒子への担持
得られたAuクラスター分散液0.5mLを1mLサンプル管に入れ、次いで0.3mLのアセトニトリルに分散させたAl2O3(ナノテック社製、球状アルミナ)50mg(アルミナの量)を加えた。窒素気流下、150℃で30分間加熱、攪拌を行った。加熱後、冷却し、アルミナ粉末をろ取し、アセトニトリルで3回洗浄した。得られた粉末を110℃で5時間乾燥し、AuクラスターAl2O3担体粒子担持触媒を得た。
AuクラスターAl2O3担体粒子担持触媒のSTEM観察像を図4に、担持されたAuクラスターの粒度分布を図3に示す。
図4および5から、平均4.34nmのAuクラスターがAl2O3担体粒子に高分散して担持されていることが確認された。
【0032】
実施例2
実施例1と同様にして得られたAuクラスター分散液0.5mLを1mLサンプル管に入れ、次いで0.3mLのアセトニトリルに分散させたAl2O3(ナノテック社製、球状アルミナ))50mgを加えた。窒素気流下、100℃で30分間加熱、攪拌を行った。加熱後、冷却し、アルミナ粉末をろ取し、アセトニトリルで3回洗浄した。得られた粉末を110℃で5時間乾燥し、AuクラスターAl2O3担体粒子担持触媒を得た。
AuクラスターAl2O3担体粒子担持触媒のSTEM観察像を図6に、担持されたAuクラスターの粒度分布を図7に示す。
図6および7から、平均3.96nmのAuクラスターがAl2O3担体粒子に高分散して担持されていることが確認された。
【0033】
実施例3
実施例1と同様にして得られたAuクラスター分散液0.5mLを1mLサンプル管に入れ、次いで0.3mLのアセトニトリルに分散させたSiO2(ナノテック社製、球状シリカ))50mgを加えた。窒素気流下、150℃で30分間加熱、攪拌を行った。加熱後、冷却し、シリカ粉末をろ取し、アセトニトリルで3回洗浄した。得られた粉末を110℃で5時間乾燥し、AuクラスターSiO2担体粒子担持触媒を得た。
AuクラスターSiO2担体粒子担持触媒のSTEM観察像を図8に示す。
図8から、10nm未満の粒径を有する子AuクラスターがSiO2担体粒子に高分散して高分散に担持されていることが確認された。
【0034】
実施例4
実施例1と同様にして得られたAuクラスター分散液0.5mLを1mLサンプル管に入れ、次いで0.3mLのアセトニトリルに分散させたCeO2(ナノテック社製、球状セリア))50mgを加えた。窒素気流下、150℃で30分間加熱、攪拌を行った。加熱後、冷却し、セリア粉末をろ取し、アセトニトリルで3回洗浄した。得られた粉末を110℃で5時間乾燥し、AuクラスターCeO2担体粒子担持触媒を得た。
AuクラスターCeO2担体粒子担持触媒のSTEM観察像を図9に示す。
図9から、10nm未満の粒径を有する子AuクラスターがCeO2担体粒子に高分散に担持されていることが確認された。
【0035】
比較例1
実施例1と同様にして得られたAuクラスター分散液0.5mLを1mLサンプル管に入れ、次いでAl2O3(ナノテック社製、球状アルミナ)50mgを加えた。得られたスラリーを400℃で26時間焼成することにより、担持触媒を得た。
担持触媒のSTEM観察像を図10に、担持されたAuの粒度分布を図11に示す。
図10および11から、400℃での焼成によりAuクラスター粒成長し、平均径は10nm以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の金属クラスター酸化物担体粒子担持触媒によれば、平均径が10nm未満の金属クラスターが均一に担持された、自動車エンジンなどの内燃機関からの排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒として用い得る金属クラスター担持触媒を得ることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属クラスター担持触媒の製造方法に関し、さらに詳しくは酸化物担体粒子にナノサイズの金属クラスターが均一に担持された金属クラスター担持触媒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の研究によれば、制御されたサイズを有する金属クラスターは、触媒活性等の化学的性質及び磁性等の物理的性質に関して、バルクの金属とは異なる性質を有することが明らかになっている。
この金属クラスターの特異な性質を利用するために、サイズを制御したクラスターを簡便に合成する方法が必要とされており、さまざまな検討がされている。
【0003】
特に、金クラスターの一酸化炭素浄化特性やプロピレン酸化特性は、サイズによる効果が大きいことが知られている。
また、平均径が10nm未満の金ナノ粒子を担体、例えばFe2O3に共沈法により担持させて得られる担持触媒は化学反応に高い触媒活性を有することが知られている。しかし、この担持触媒は、担体が特定の材料に限られるため様々な担体に適用できる担持法が求められている。
【0004】
また、貴金属による触媒性能を用いる例としては、自動車用エンジン等の内燃機関から排出される排ガスの浄化を挙げることができる。この排ガスの浄化では、排ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOX)等を、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属を主成分とする触媒成分によって、二酸化炭素、窒素、水に転化させている。この排ガス浄化の用途では一般に、貴金属である触媒成分をアルミナ等の酸化物製多孔質担体粒子に担持して、排ガスと触媒成分との大きい接触面積を与えるようにしている。
【0005】
前記の触媒成分である貴金属の酸化物製多孔質担体粒子への担持は、一般に貴金属の硝酸塩又は単一の貴金属原子を有する貴金属錯体の溶液を担体に含浸させて、担体の表面に貴金属化合物を分散させて、次いで溶液を含浸させた担体を乾燥及び焼成する含浸法によって行っている。このような方法では、意図したサイズを有する貴金属クタスターを得ることは困難である。特に、金は融点が1000℃と金属元素の中で低く、0価の金属状態が安定な元素であるため、担体との相互作用が小さく300℃以下の温度でも担体上で粒成長し易い。このため、従来の含浸法で貴金属を酸化物担体粒子に担持させた場合、配位子除去のための焼成過程で粒成長し、目的とする10nm未満、特に5nm以下の平均径を有する金属クラスターを生成させることは困難であった。
【0006】
このため、析出還元法が提案された(例えば、Studies in Surface Science and Catalyst Vol. 91, 227)。この析出還元法では、塩化金酸水溶液にpH調整剤として水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを7程度とし、酸化物担体粒子を加えて金を担持し、400℃程度で加熱することにより、金クラスター担持触媒が得られる。しかし、この工程で触媒中に塩化物イオンが残存していると焼成中に金が肥大化し、ナトリウムが残存することにより触媒反応を阻害する等の問題が生じ得る。このため、触媒調製の際に不純物除去を厳密に行う必要がある。しかし、析出還元法で、塩化物あるいはナトリウムを用いないで金クラスター担持触媒を得る方法は未だ提案されていない。
【0007】
また、予め0価の金属クラスターを液相で作製し、担体に担持する方法も提案されている。この液相担持法では、高分子保護剤を使用して金属クラスターを合成し、担体に担持させる方法であるため、高分子保護剤を焼成除去するために300℃以上の高温下に処理することが必要であり、金の粒成長が避けられない。
【0008】
このため、排ガス浄化用触媒は、一般的には前記の含浸法により調製されているが、簡便に大量の触媒を調製することは出来るが、担持触媒の調製に焼成工程を有するものであり、金属クラスターの粒成長が避けられず、任意の構成原子数を有する金属クラスターを担持させることはできない。
この排ガス浄化用触媒においては、貴金属資源枯渇の問題への対応と環境改善に対する要求から排ガス浄化性能のさらなら向上への期待は強く、金属をクラスターの状態で担持させる技術が検討されている。
【0009】
例えば、特許文献1には、金属又は半導体ナノ粒子前駆体を構成する原子又は分子をイオン液体に付着させることによりナノ粒子を製造する、金属又は半導体ナノ粒子の製造方法が記載されている。そして、具体例としてイオン液体としてN,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどのイオン液体を用いて金をターゲット材としてスパッタリングにより分散液中の平均粒径が1〜4nm程度の金ナノ粒子を得た例が示されている。しかし、担体粒子に金属ナノ粒子を担持する方法については示されていない。
【0010】
また、特許文献2には、アークプラズマ蒸着法を用いて金属酸化物上に平均クラスターサイズが2nm以下である金クラスターを担持させる触媒の製造方法が記載されている。そして、具体例として真空下にアルミナ基板、シリカ基板、ジルコニア基板、セリア基板又はチタニア基板に金をアークプラズマ蒸着して、基板上に金ナノクラスターを作製した例が示されている。しかし、担体粒子に金ナノ粒子を担持する方法については示されていない。
また、非特許文献1には、イオン液体を用いてスパッタリング蒸着した金ナノ粒子を熱処理することによって高秩序の熱分解グラファイト(HOPG)に金ナノ粒子を高密度に堆積させ得たことが記載されている。そして、具体例としてイオン液体としてTMPA−TFSAを用いて1.2x1.2cmのHOPG基板上に金ナノ粒子分散液を乗せ、酸化を抑制するために真空下でHOPG基板を加熱することにより金ナノ粒子を担持させた実験例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−231306号公報
【特許文献2】特開2010−247108号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】ケミストリー レターズ(Chemistry Letters)Vol.38 No.4 2009年 第330−311頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、前記非特許文献1に記載の方法を排ガス浄化用に適用しようとすると、ガス分子との接触面積を多くする必要があるため表面積の大きい(二次粒子径の小さい)μmオーダーの酸化物担体粒子に担持する必要がある。この場合、前記非特許文献1に記載の方法によっては酸化物担体粒子に金のナノ粒子を均一に担持することが困難である。
このように、従来公知の技術によれば、金属ナノ粒子を製造することあるいは担体基板やグラファイトに金ナノクラスターを担持させることは可能であるが、排ガス浄化用触媒に用いられ得る酸化物担体粒子に金属クラスターが均一に担持された金属クラスター担持触媒の製造方法は知られていない。
従って、本発明の目的は、酸化物担体粒子に金属クラスターが均一に担持された金属クラスター担持触媒の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、酸化物担体粒子に複数個の金属原子が集まった金属クラスターが担持された金属クラスター担持触媒の製造方法であって、
イオン液体中に金属クラスターが分散した分散液を用意する工程、
該分散液と溶媒に分散された酸化物担体粒子とを混合する工程、および
得られた混合液に、イオン液体と金属クラスターとの結合力を弱めるために外力を加えて酸化物担体粒子に金属クラスターを担持させる工程、
を含む、前記方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酸化物担体粒子に金属クラスターが均一に担持された金属クラスター担持触媒を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施態様の工程を示す模式図である。
【図2】図2は、実施例において調製した分散液中の金クラスターのSTEM観察像である。
【図3】図3は、図2に示す金クラスターの粒度分布を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例で150℃に加熱して得られたアルミナ担体粒子に担持された金クラスターのSTEM観察像である。
【図5】図5は、図4に示すアルミナ担体粒子に担持された金クラスターの粒度分布を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例で100℃に加熱して得られたアルミナ担体粒子に担持された金クラスターのSTEM観察像である。
【図7】図7は、図6に示すアルミナ担体粒子に担持された金クラスターの粒度分布を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例で150℃に加熱して得られたシリカ担体粒子に担持された金クラスターのSTEM像である。
【図9】図9は、実施例で150℃に加熱して得られたセリア担体粒子に担持された金クラスターのSTEM像である。
【図10】図10は、比較例で400℃に加熱して得られたアルミナ担体粒子に担持された金クラスターのSTEM観察像である。
【図11】図11は、図10に示すアルミナ担体粒子に担持された金クラスターの粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
特に、本発明において、以下の実施態様を挙げることができる。
1)前記溶媒が、含窒素化合物又は含酸素化合物系有機溶媒である前記方法。
2)前記金属クラスター担持触媒が、酸化物担体粒子に平均径が10nm未満の金属クラスターが担持されたものである前記方法。
3)前記外力が、加熱、マイクロ波又は超音波である前記方法。
4)さらに、金属クラスターが担持された酸化物担体粒子をイオン液体からろ取し、溶媒で洗浄し、乾燥する工程を含む前記方法。
5)前記外力が、分散液の温度を0〜300℃の範囲の温度に上昇させるために行われる加熱である前記方法。
6)前記加熱が、不活性雰囲気下に100〜300℃に加熱して行われる前記方法。
7)前記酸化物担体粒子がAl2O3粒子、SiO2粒子、CeO2粒子、ZrO2粒子、TiO2粒子、CeO2−ZrO2複合酸化物粒子、CeO2−Al2O3複合酸化物粒子、CeO2−TiO2複合酸化物粒子、CeO2−SiO2複合酸化物粒子又はCeO2−ZrO2−Al2O3複合酸化物粒子であり、前記担持触媒が排ガス浄化用触媒である前記方法。
8)前記分散液が、イオン液体に金属クラスターを蒸着させて調製される前記方法。
9)前記金属クラスターの金属が、金、銀、白金、ロジウム又はパラジウムあるいはそれぞれの合金である前記方法。
10)前記イオン液体が、TMPA−TFSAである前記方法。
【0018】
本発明においては、酸化物担体粒子に複数個の金属原子が集まった金属クラスターが担持された金属クラスター担持触媒を、
イオン液体中に金属クラスターが分散した分散液を用意する工程、
該分散液と溶媒に分散された酸化物担体粒子とを混合する工程、および
得られた混合液に、イオン液体と金属クラスターとの結合力を弱めるために外力を加えて酸化物担体粒子に金属クラスターを担持させる工程、
を含むことが必要であり、これによって酸化物担体粒子に金属クラスターが均一に担持された金属クラスター担持触媒を得ることができる。
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳説する。
本発明の実施態様の製造方法は、図1に示すように、
金ターゲットに対するスパッタリング法などにより金を蒸着させてイオン液体中に金クラスターが分散した分散液を用意する工程(a)、
該分散液と溶媒に分散された酸化物担体粒子とを混合する工程(b)、
得られた混合液に、イオン液体と金属クラスターとの結合力を弱めるために加熱による外力を加えて酸化物担体粒子に金属クラスターを担持させる工程(c)、および
金属クラスターが担持された酸化物担体粒子をイオン液体からろ取し、溶媒で洗浄し、乾燥する工程(d)
からなる。
【0020】
本発明の方法においては、イオン液体中に金属クラスターが分散した分散液を用意することが必要であり、前記の分散液は、イオン液体に金属クラスターを蒸着させる方法によって調製され得る。
前記の蒸着方法としては、特に制限はなく、例えば化学蒸着法や物理蒸着法、例えば真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法など、好適にはスパッタリング法が挙げられる。
【0021】
本発明においては、金属として金、銀、白金、ロジウム又はパラジウムあるいはそれぞれの銅もしくはニッケルとの合金が挙げられる。
前記の方法において、イオン液体の蒸気圧が極めて低いため、イオン液体を含む蒸着装置内を減圧に保つことが可能となり、金属をイオン液体に蒸着させ得る。
前記の工程によって、イオン液体中に複数個の金属原子が集まった金属クラスター、通常は10nm未満、特に5nm以下の平均径を有する金属クラスターが分散され、イオン液体に取り囲まれて安定化する。
【0022】
前記のイオン液体は、陽イオンと陰イオンのみから構成される塩であって常温で液体である一連の化合物をいい、高温安定性であり液体温度範囲が広い、蒸気圧が略ゼロ、イオン性でありながら低粘性、高い酸化・還元耐性などの特性を有しているものであり、例えば脂肪族系イオン液体、イミダゾリウム系イオン液体、ピリジニウム系イオン液体などが挙げられ、好適には、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドやN−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロホウ酸塩、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(以下、TMPA−TFTAと略記する。)など、好適にはTMPA−TFTAを挙げることができる。
【0023】
本発明の方法においては、前記の工程で得られた分散液と酸化物担体粒子とを混合することが必要である。
前記酸化物担体粒子としては、Al2O3粒子、SiO2粒子、CeO2粒子、ZrO2粒子、TiO2粒子、CeO2−ZrO2複合酸化物粒子、CeO2−Al2O3複合酸化物粒子、CeO2−TiO2複合酸化物粒子、CeO2−SiO2複合酸化物粒子又はCeO2−ZrO2−Al2O3複合酸化物粒子が挙げられる。
【0024】
前記の分散液と酸化物担体粒子とを混合する際には、前記酸化物担体粒子を溶媒に予め分散させたものを用いることが必要である。単に酸化物担体粒子と分散液とを混合したのでは、酸化物担体粒子に金属クラスターと均一に担持させることはできない。
前記の酸化物担体粒子を分散させるための溶媒としては、極性を有する有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、アニリン、ピリジンなどの含窒素化合物又は含酸素化合部、その中でも沸点が200℃未満の有機溶媒が挙げられる。
前記溶媒の量は、前記分散液と溶媒との割合が1:10〜10:1、特に1:5〜5:1、その中でも1:3〜3:1(容量比)であることが好適である。
また、前記の分散液と混合する酸化物担体粒子の量は、酸化物担体粒子に対する金属クラスターの質量割合で示される金属の担持量が0.05〜3質量%とすることが好適である。
【0025】
本発明の方法においては、得られた混合液に、イオン液体と金属クラスターとの結合力を弱めるために外力を加えて酸化物担体粒子に金属クラスターを担体させることが必要である。
前記の工程によって、酸化物担体粒子にナノサイズの金属クラスターが均一に担持することが可能となる。
前記の外力としては、加熱、マイクロ波又は超音波、好適には分散液の温度を0〜300℃の範囲の温度に上昇させるために行われる加熱、その中でも不活性雰囲気下に、例えば窒素を導入して分散液の温度を100〜300℃に上昇させる加熱が挙げられる。
特に、前記分散液を100〜150℃の温度で5分間〜5時間程度、例えば10〜60分間程度の加熱を行うことが好適である。
【0026】
前記の外力として加熱を用いる場合、温度が高すぎると金属クラスターの粒成長が起こるので避ける必要がある。
また、前記の外力としてマイクロ波又は超音波を用いる場合は、付与するエネルギーが過大にならないように留意する必要がある。
前記の加熱、マイクロ波又は超音波を用いる技術は、それ自体周知である。
【0027】
前記の各工程によって生成された、金属クラスターが担持された酸化物担体粒子は、イオン液体からろ取し、溶媒で洗浄し、乾燥され得る。
前記のイオン液体からのろ取には、ろ過、遠心分離などのろ取手段が適用され得る。
前記溶媒としては、極性を有する有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、アニリン、ピリジンなど、好適にはニトリルが挙げられる。
前記の乾燥は、300℃未満の温度、通常は100〜150℃で1〜10時間程度行い得る。
【0028】
本発明の前述の方法によって、酸化物担体粒子に平均径が10nm未満、特に5nm以下の金属クラスターが均一に担持された金属クラスター担持触媒を得ることができる。
そして、前記の金属クラスター担持触媒は、自動車エンジンなどの内燃機関からの排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒として用い得る。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を示す。
以下の実施例は単に説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
以下の各例において、金属クラスター担持触媒は、図1に模式図を示す工程に従って作製した。
以下の各例において、得られた貴金属クラスター(担持前)および金属クラスター酸化物担体粒子担持触媒の貴金属クラスターについて、日立製作所社製STEM(HD−2000)を用いて、加速電圧:200kVにて測定を行った。
【0030】
実施例1
1.Auクラスターの合成
TMPA−TFSAを0.600cm3分取し、120℃で3時間以上減圧乾燥した。アセトンで超音波洗浄したスライドガラス(26mmx38mm)上にこのTMPA−TFSA0.600cm3を均一に塗布し、DCスパッタリング装置(Sanyu Electron Co.,Ltd,SC−701HMCII)にターゲットとイオン液体との距離を20mmとして設置した。Au円板(純度99.99%)をターゲット(有効直径49mm)として用い、イオン液体への金属のスパッタリング蒸着を行った。スパッタリング蒸着条件はチャンバー内をアルゴンガスに置換し、圧力10Pa、スパッタリング蒸着電流40mAの条件でプレスパッタリングを300秒間行った後、スパッタリング蒸着時間900秒として行った。スパッタリング蒸着後のスライドガラス表面のイオン液体を回収し、Auクラスター分散イオン液体を得た。
イオン液体中に堆積させたAuクラスターのSTEM観察像を図2に、Auクラスターの粒度分布を図3に示す。
図2および3から、平均2.9nmのAuクラスターが形成されたことが確認された。
【0031】
2.AuクラスターのAl2O3担体粒子への担持
得られたAuクラスター分散液0.5mLを1mLサンプル管に入れ、次いで0.3mLのアセトニトリルに分散させたAl2O3(ナノテック社製、球状アルミナ)50mg(アルミナの量)を加えた。窒素気流下、150℃で30分間加熱、攪拌を行った。加熱後、冷却し、アルミナ粉末をろ取し、アセトニトリルで3回洗浄した。得られた粉末を110℃で5時間乾燥し、AuクラスターAl2O3担体粒子担持触媒を得た。
AuクラスターAl2O3担体粒子担持触媒のSTEM観察像を図4に、担持されたAuクラスターの粒度分布を図3に示す。
図4および5から、平均4.34nmのAuクラスターがAl2O3担体粒子に高分散して担持されていることが確認された。
【0032】
実施例2
実施例1と同様にして得られたAuクラスター分散液0.5mLを1mLサンプル管に入れ、次いで0.3mLのアセトニトリルに分散させたAl2O3(ナノテック社製、球状アルミナ))50mgを加えた。窒素気流下、100℃で30分間加熱、攪拌を行った。加熱後、冷却し、アルミナ粉末をろ取し、アセトニトリルで3回洗浄した。得られた粉末を110℃で5時間乾燥し、AuクラスターAl2O3担体粒子担持触媒を得た。
AuクラスターAl2O3担体粒子担持触媒のSTEM観察像を図6に、担持されたAuクラスターの粒度分布を図7に示す。
図6および7から、平均3.96nmのAuクラスターがAl2O3担体粒子に高分散して担持されていることが確認された。
【0033】
実施例3
実施例1と同様にして得られたAuクラスター分散液0.5mLを1mLサンプル管に入れ、次いで0.3mLのアセトニトリルに分散させたSiO2(ナノテック社製、球状シリカ))50mgを加えた。窒素気流下、150℃で30分間加熱、攪拌を行った。加熱後、冷却し、シリカ粉末をろ取し、アセトニトリルで3回洗浄した。得られた粉末を110℃で5時間乾燥し、AuクラスターSiO2担体粒子担持触媒を得た。
AuクラスターSiO2担体粒子担持触媒のSTEM観察像を図8に示す。
図8から、10nm未満の粒径を有する子AuクラスターがSiO2担体粒子に高分散して高分散に担持されていることが確認された。
【0034】
実施例4
実施例1と同様にして得られたAuクラスター分散液0.5mLを1mLサンプル管に入れ、次いで0.3mLのアセトニトリルに分散させたCeO2(ナノテック社製、球状セリア))50mgを加えた。窒素気流下、150℃で30分間加熱、攪拌を行った。加熱後、冷却し、セリア粉末をろ取し、アセトニトリルで3回洗浄した。得られた粉末を110℃で5時間乾燥し、AuクラスターCeO2担体粒子担持触媒を得た。
AuクラスターCeO2担体粒子担持触媒のSTEM観察像を図9に示す。
図9から、10nm未満の粒径を有する子AuクラスターがCeO2担体粒子に高分散に担持されていることが確認された。
【0035】
比較例1
実施例1と同様にして得られたAuクラスター分散液0.5mLを1mLサンプル管に入れ、次いでAl2O3(ナノテック社製、球状アルミナ)50mgを加えた。得られたスラリーを400℃で26時間焼成することにより、担持触媒を得た。
担持触媒のSTEM観察像を図10に、担持されたAuの粒度分布を図11に示す。
図10および11から、400℃での焼成によりAuクラスター粒成長し、平均径は10nm以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の金属クラスター酸化物担体粒子担持触媒によれば、平均径が10nm未満の金属クラスターが均一に担持された、自動車エンジンなどの内燃機関からの排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒として用い得る金属クラスター担持触媒を得ることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物担体粒子に複数個の金属原子が集まった金属クラスターが担持された金属クラスター担持触媒の製造方法であって、
イオン液体中に金属クラスターが分散した分散液を用意する工程、
該分散液と溶媒に分散された酸化物担体粒子とを混合する工程、および
得られた混合液に、イオン液体と金属クラスターとの結合力を弱めるために外力を加えて酸化物担体粒子に金属クラスターを担持させる工程、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記溶媒が、含窒素化合物又は含酸素化合物系有機溶媒である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属クラスター担持触媒が、酸化物担体粒子に平均径が10nm未満の金属クラスターが担持されたものである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記外力が、加熱、マイクロ波又は超音波である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
さらに、金属クラスターが担持された酸化物担体粒子をイオン液体からろ取し、溶媒で洗浄し、乾燥する工程
を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記外力が、分散液の温度を0〜300℃の範囲の温度に上昇させるために行われる加熱である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱が、不活性雰囲気下に100〜300℃に加熱して行われる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化物担体粒子がAl2O3粒子、SiO2粒子、CeO2粒子、ZrO2粒子、TiO2粒子、CeO2−ZrO2複合酸化物粒子、CeO2−Al2O3複合酸化物粒子、CeO2−TiO2複合酸化物粒子、CeO2−SiO2複合酸化物粒子又はCeO2−ZrO2−Al2O3複合酸化物粒子であり、前記担持触媒が排ガス浄化用触媒である請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記分散液が、イオン液体に金属クラスターを蒸着させて調製される請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記金属クラスターの金属が、金、銀、白金、ロジウム又はパラジウムあるいはそれぞれの合金である請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記イオン液体が、TMPA−TFSAである請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
酸化物担体粒子に複数個の金属原子が集まった金属クラスターが担持された金属クラスター担持触媒の製造方法であって、
イオン液体中に金属クラスターが分散した分散液を用意する工程、
該分散液と溶媒に分散された酸化物担体粒子とを混合する工程、および
得られた混合液に、イオン液体と金属クラスターとの結合力を弱めるために外力を加えて酸化物担体粒子に金属クラスターを担持させる工程、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記溶媒が、含窒素化合物又は含酸素化合物系有機溶媒である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属クラスター担持触媒が、酸化物担体粒子に平均径が10nm未満の金属クラスターが担持されたものである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記外力が、加熱、マイクロ波又は超音波である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
さらに、金属クラスターが担持された酸化物担体粒子をイオン液体からろ取し、溶媒で洗浄し、乾燥する工程
を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記外力が、分散液の温度を0〜300℃の範囲の温度に上昇させるために行われる加熱である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱が、不活性雰囲気下に100〜300℃に加熱して行われる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化物担体粒子がAl2O3粒子、SiO2粒子、CeO2粒子、ZrO2粒子、TiO2粒子、CeO2−ZrO2複合酸化物粒子、CeO2−Al2O3複合酸化物粒子、CeO2−TiO2複合酸化物粒子、CeO2−SiO2複合酸化物粒子又はCeO2−ZrO2−Al2O3複合酸化物粒子であり、前記担持触媒が排ガス浄化用触媒である請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記分散液が、イオン液体に金属クラスターを蒸着させて調製される請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記金属クラスターの金属が、金、銀、白金、ロジウム又はパラジウムあるいはそれぞれの合金である請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記イオン液体が、TMPA−TFSAである請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【図1】
【図3】
【図5】
【図7】
【図11】
【図2】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図3】
【図5】
【図7】
【図11】
【図2】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−13864(P2013−13864A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149069(P2011−149069)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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