説明

金属ゴム分離方法および金属ゴム分離装置

【課題】金属要素とゴム要素とから構成される構成体の要素ごとの分離および回収を簡易に行わせることができる方法および装置を提供する。
【解決手段】高圧液体を噴射可能なノズル装置30を用い、金属要素と金属要素を覆って外方に露出するゴム要素とから構成される構成体15を要素ごとに分離して回収する方法であり、構成物15に対してノズル装置30から高圧液体を噴射させ、高圧液体の衝突力によりゴム要素を破砕して金属要素から分離させる破砕ステップと、分離されたゴム要素および金属要素をそれぞれ回収する回収ステップとから構成され、高圧液体の噴射圧力がゴム要素を破砕可能である一方で金属要素は破砕できない衝突力を与えるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨格を形成する金属要素と金属要素を覆うゴム要素とから構成される構成体を要素ごとに分離する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源を有効利用するための様々な方法やシステムが考案されている。効果的な再資源化を図るためには、その対象が材料ごとに分離されることが望ましい。複数の材料から構成される構成物として、例えば建設機械などに装着されるゴムクローラがある。ゴムクローラは、金属要素とゴム要素とからなり、補強材として設けられるリング状の鋼線と、鋼線の内側に等間隔で配置された芯金と、芯金を覆うカバーゴムとから構成される。ゴムクローラは、ゴムが鋼線および芯金に対して直接的に接着成形されることから、材料ごとの分離が難しい構成体の一つとされている。
【0003】
このようなゴムクローラの再資源化方法として、例えば、裁断したゴムクローラを溶融炉に投入し、芯金や鋼線を鉄鋼原料としてリサイクルするとともにカバーゴムを熱リサイクルする方法や、裁断したゴムクローラを路盤材として流用する方法などがある。また、ゴムクローラを裁断して埋立処理することもある。なお、ゴムクローラを裁断するための装置として、ギロチンシャーやディスクカッターなどがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、ゴムクローラのような材料ごとの分離の難しい構成体をリサイクルするにあたっては、材料ごとに分離させないままで処理する方法に頼っており、結果として効果的な再資源化が行われていない。しかも、ゴム材を熱リサイクルさせる場合には、燃焼時に発生する硫黄酸化物等が十分に除去される必要があるため、処理可能な溶融炉が限られており、処分量に限界がある。また、路盤材としての流用も需要量からみて処分量に限界があり、埋立処理も処分場の容量からみて持続可能な方法とはいえない。
【0005】
また、ゴムクローラは、建設機械への装着時にエンジン出力を受けて回転するスプロケットに内周面を噛合させているとともに、転輪を介して車両重量ならびにスラスト荷重が直接的にかかる。このような製品としての特性から、芯金には強固な材料が採用されて簡単に裁断できない。しかしながら、従来の方法によると、溶融炉のサイズに合った適当なサイズになるまで、あるいは埋立処理のために小片になるまでゴムクローラを裁断する必要があるため、裁断工数が多く、多大な時間とコストが費やされている。しかも、上記のような裁断装置で芯金を裁断すると、大きな機械騒音や振動が発生し、カバーゴムから多量の粉塵が発生する。このような問題を生じさせずに、ゴムクローラの裁断工数を削減可能な方法が求められている。
【0006】
このような問題に鑑み、本発明は、金属要素とゴム要素とから構成される構成体の要素ごとの分離および回収を簡易に行わせることができる方法や装置を提供し、このような構成体の効果的な再資源化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的達成のため、本発明に係る金属ゴム分離方法は、高圧液体を噴射可能なノズル装置を用い、骨格を形成する金属要素と金属要素を覆って外方に露出するゴム要素とから構成される構成体を要素ごとに分離して回収する方法であって、構成物に対してノズル装置から高圧液体を噴射させ、高圧液体の衝突力によりゴム要素を破砕して金属要素から分離させる破砕ステップと、分離されたゴム要素および金属要素をそれぞれ回収する回収ステップとから構成され、高圧液体の噴射圧力がゴム要素を破砕可能である一方で金属要素は破砕できない衝突力を与えるように設定される。また、破砕ステップと同時に、高圧液体とともに防錆剤を構成体に噴射する防錆材噴射ステップを含むことが好ましい。なお、この構成体を、金属要素として長方形板の片面に突起を有する芯金およびリング状の鋼線を備え、ゴム要素として芯金および鋼線を覆って設けられるカバーゴムを備えたゴムクローラとしてもよい。
【0008】
また、本発明に係る金属ゴム分離装置は、骨格を形成する金属要素と金属要素を覆って外方に露出するゴム要素とから構成される構成体を要素ごとに分離するゴム分離装置であって、構成体を支持する支持部材と、液体を加圧して吐出する高圧水発生装置と、支持部材により支持された構成物に対向して設けられて高圧水発生装置から供給される高圧液体を噴射可能なノズル装置を1つ以上有した噴射装置とから構成され、ノズル装置から噴射される高圧液体の衝突力により構成体のゴム要素のみを破砕するように構成される。
【0009】
また、高圧水発生装置により、ノズル装置から噴射される高圧液体の圧力が180MPa以上に設定されるように液体が加圧されることが好ましい。また、構成体を、金属要素として長方形板の片面に突起を有する芯金およびリング状の鋼線を備え、ゴム要素として芯金および鋼線を覆って設けられるカバーゴムを備えたゴムクローラとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る金属ゴム分離方法によると、ノズル装置から噴射される高圧液体の衝突力により外方に露出するゴム要素が破砕され、金属要素と分離されて要素ごとに回収される。また、高圧液体の衝突力で破砕するため、ゴム要素が金属要素に直接的に接着成形されていても簡単に分離させることができる。このようにゴム要素を金属要素から分離して回収できるため、再資源化させる場面が広がる。このとき、ゴム要素が破砕される一方、金属要素は傷つけられないため、金属要素については原料としてリサイクルされるにとどまらず、そのまま再利用させることも可能になり、より効果的な再資源化を図ることができる。
【0011】
また、防錆材混入液を高圧液体として使用することにより、再利用が見込まれる金属要素の発錆を抑制し、資源価値を損なわせることがない。さらに、構成体をゴムクローラとした場合であっても、ゴムを芯金と鋼線とから分離することができ、カバーゴムを効果的に燃料としてリサイクルでき、芯金の再利用が図られる。
【0012】
本発明に係る金属ゴム分離装置によると、ノズル装置から噴射される高圧液体の衝突力により外方に露出するゴム要素が破砕され、金属要素と分離されて要素ごとに回収される。また、高圧液体の衝突力で破砕するため、ゴム要素が金属要素に直接的に接着成形されていても簡単に分離させることができる。このようにゴム要素を金属要素から分離して回収できるため、再資源化させる場面が広がる。このとき、ゴム要素が破砕される一方、金属要素は傷つけられないため、金属要素については原料としてリサイクルされるにとどまらず、そのまま再利用させることも可能になり、効果的に再資源化させることができる。
【0013】
また、ノズル装置から噴射される高圧液体の圧力を180MPa以上に設定することにより、構成体に対して適切な距離をおいて高圧液体を噴射すると、ゴム要素の破砕を確実に行えるとともに金属要素を傷つけることがない。また、構成体をゴムクローラとした場合、ゴムを芯金と鋼線とから分離でき、カバーゴムを効果的に燃料としてリサイクルできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。図1に全体構成の概略を示す分離装置1は、図6に示すゴムクローラ15を金属要素とゴム要素とに分離するために供され、帯状のゴムクローラ15を載置する支持部材5と、支持部材5に載置されたゴムクローラ15に高圧水を噴射するための噴射装置3と、噴射装置3に高圧水を供給する高圧水発生装置2と、噴射装置3から噴射される高圧水に防錆材を混入させるための防錆材供給装置4とから構成される。さらに、この分離装置1には、ゴムクローラ15を裁断するための裁断装置6が備えられる。
【0015】
ゴムクローラ15は、例えばショベルカー等の建設機械に装着されており、リング状の骨格を形成する芯金16と、芯金16を覆うカバーゴム18と、カバーゴム18の内部に補強部材として設けられる鋼線17,17,…とから構成され、芯金16および鋼線17からなる金属要素と、カバーゴム18からなるゴム要素から構成される。なお、ゴムクローラ15が建設機械に装着される場合、エンジン出力を受けて回転するスプロケットにより駆動されるとともに、転輪を介して車両重量並びにスラスト荷重が直接的にかかる。したがって、芯金16は、内周面15aに突出する突起16a.16aを有する複数の芯金成形部品を等間隔に配置してリング状に成形されている。個々の芯金成形部品に形成された突起16aが所定間隔ごとに内周面15aに向けて突出し、この突起16aが転輪に噛み合うようにしてゴムクローラ15が装着される。カバーゴム18は、このような芯金16の外周側に鋼線17,17,…が巻き付けられた状態で直接的に接着成形される。
【0016】
支持部材5は、載置台の上面にゴムクローラ15を載置可能になっており、リング状のゴムクローラ15の1箇所を幅方向に裁断して帯状にすれば、そのゴムクローラ15の全面を支持可能なサイズになっている。なお、支持部材5の下方周囲には、上面が開放された箱状のゴム回収部12が設けられている。
【0017】
噴射装置3は、高圧水を噴射する破砕用ノズル装置30と、破砕用ノズル装置30を矢印Rに示すように回転運動させるための回転機構37と、破砕用ノズル装置30を矢印X,Yに示すようにスライド移動させるためのスライド機構38と、破砕用ノズル装置を矢印Zに示すように上下移動させるための上下移動機構39とから構成される。
【0018】
破砕用ノズル装置30は、高圧水吸入口30aおよび防錆剤吸入口30cが設けられたヘッド部31と、所定径φ(例えば、0.6mm)の噴射口30bが設けられた2つの噴射部32,32とが図示しないスイベルジョイントを介して連結されて構成される。ヘッド部31は、高圧水吸入口30aと防錆剤吸入口30cとを連通するとともに内部を貫通する通路31aが形成されている。噴射部32がヘッド部31に連結されると、ヘッド部31の通路31aと噴射部32の内部に形成された図示しない通路とが連通し、高圧水吸入口30aと、噴射口30b,30bとが連通する。また、2つの噴射部32,32は、鉛直線Zに対して所定の投射角度θ(例えば10°程度)をつけて外側に向けてヘッド部31に取り付けられる。
【0019】
高圧水発生装置2は、ポンプ21と、ポンプ21の吸入口21aに取り付けられた吸入ホース22と、一端がポンプ21の吐出口21bに繋がれて他端が破砕用ノズル装置30の高圧水吸入口30aに繋がれた吐出ホース25とから構成される。ポンプ21が駆動されると、吸入ホース22を介して吸入口21aからポンプ21に水が供給され、所定流量Q(例えば、毎分16リットル)の高圧水が吐出口21bから吐出され、この高圧水が吐出ホース25により導かれ、破砕用ノズル装置30に供給される。
【0020】
防錆剤供給装置4は、コンプレッサ41と、防錆剤を貯留する防錆剤貯留タンク42と、一端がコンプレッサの吐出口41aに繋がれて他端が破砕用ノズル装置30の防錆剤吸入口30cに繋がれた防錆剤供給ホース45と、防錆剤貯留タンク42と防錆剤供給ホース45とを繋ぐ配管44と、この配管44に介設されて供給される防錆剤を定量調整する定量供給フィーダ43とから構成される。コンプレッサ41が駆動されると、定量供給フィーダ43により調整されて防錆剤供給ホース45に導かれた所定量の防錆剤が、コンプレッサ41により圧送されて破砕用ノズル装置30に供給され、ヘッド部31の通路31a内で高圧水に混入される。定量供給フィーダ43により、高圧液体への防錆材の混入立が0.5〜1.0%になるように供給量の調整が行われる。
【0021】
また、ポンプ21と、回転機構37と、スライド機構38と、上下移動機構39と、コンプレッサ41とは、コントローラ11により作動制御される。
【0022】
このような分離装置1において、ゴムクローラ15の被噴射面15Aと、破砕用ノズル装置30の噴射口30b,30bとの間隔(スタンドオフ距離)が所定の値dに設定される。なお、ポンプ21により吐出される流量Qと、噴射口30bの径φとから、噴射口30bから噴射される高圧水の噴射圧力Pが求められる。さらに、この噴射圧力Pと流量Qとから、高圧水によりゴムクローラの被噴射面15Aに作用する衝突力(水動力)Fが求められる。この衝突力Fは、スタンドオフ距離が大きくなると減衰する。また、流量Qは、時間当たりの作業量に影響し、破砕に必要な衝突力Fが発揮されるか否かは、噴射圧力Pは、破砕のための衝突力Fが得られるか否かに影響する。本実施例においては、噴射圧力Pが200MPaになるように流量Qおよび径φが設定されている。
【0023】
また、図3に示すように、裁断装置6は、高圧水を供給する高圧水発生装置7と、高圧水を噴射する噴射装置8と、噴射装置8から噴射される高圧水に研磨剤を混入させるための研磨剤供給装置9とから構成されたアブレシブジェット装置になっており、回転機構37を除いて分離装置1と同様の構成になっている。また、裁断装置6には、噴射装置8の裁断用ノズル装置80の噴射口80bと所定間隔で対向する支持部材10が備えられており、この支持部材10にリング状のゴムクローラ15が支持される。
【0024】
支持部材10は、リング状のゴムクローラ15を係止して支持可能に構成されている。高圧水発生装置7は、ポンプ71と、ポンプ71の吸入口71aに繋がれた吸入ホース72と、一端がポンプ71の吐出口71bに繋がれた吐出ホース75とから構成される。噴射装置8は、高圧水を噴射する裁断用ノズル装置80と、裁断用ノズル装置80をスライド移動させるためのスライド機構88と、裁断用ノズル装置80を上下移動させるための上下移動機構89とから構成される。裁断用ノズル装置80は、高圧水吸入口80aおよび研磨剤吸入口80cが設けられたヘッド部材81と、噴射口80bが設けられた噴射部82とから構成される。ヘッド部材81は、高圧水吸入口80aと研磨剤吸入口80cとを連通するとともに内部を貫通する通路81aが形成されている。噴射部82は、内部を貫通する通路82aが形成されている。噴射部82がヘッド部材81に連結されると、ヘッド部材81の通路81aと噴射部82の通路82aが連通し、高圧水吸入口80aと噴射口80bとが連通する。高圧水吸入口80aには、高圧水発生装置7の吐出ホース75の他端が繋がれる。研磨剤供給装置9は、コンプレッサ91と、研磨剤を貯留する研磨剤貯留タンク92と、一端がコンプレッサ91の吐出口91aに繋がれて他端が裁断用ノズル装置80の研磨剤吸入口80cに繋がれた研磨剤供給ホース95と、研磨剤貯留タンク92と研磨剤供給ホース95とを繋ぐ配管94と、この配管94に介設されて供給する研磨剤を定量調整する定量供給フィーダ93とから構成される。また、裁断用ポンプ71と、スライド機構88と、上下移動機構89と、コンプレッサ91とは、コントローラ11により作動制御される。
【0025】
このように構成される裁断装置6において、支持部材10にゴムクローラ15が支持されると、噴射口80bは、ゴムクローラ15と対向する。コントローラ11による裁断用ポンプ71、スライド機構88およびコンプレッサ91の作動制御により、後述するように、リング状のゴムクローラ15が裁断されて帯状になる。
【0026】
以下、このような分離装置1および裁断装置6を用いたゴムクローラ15の金属要素とゴム要素とを分離する方法について説明する。外部より搬送されたゴムクローラ15が、裁断装置6の支持部材10に支持される。次いで、コントローラ11により上下移動機構89を作動制御し、上方に退避した状態の裁断用ノズル装置80を下方に移動させ、噴射口80bとゴムクローラ15との距離を適切に設定する。さらに、コントローラ11により裁断用高圧水発生装置7および研磨剤供給装置9が作動制御され、裁断用ノズル装置80の噴射口80bから研磨剤が混入された高圧水が噴射される。研磨剤が混入された高圧水の圧力は、100MPa程度になるように、ポンプ81の吐出流量および裁断用ノズル装置80の噴射口80bの径が設定されている。高圧水が噴射されることにより、ゴムクローラ15には所定の運動エネルギーが作用し、カバーゴム18が切断されるとともに、芯金16および鋼線17,17,…も切断される。さらに、コントローラ11によりスライド機構88が作動制御され、裁断用ノズル装置80の噴射部82がスライド移動する。このとき、裁断用ノズル装置80は、ゴムクローラ15の幅方向に移動する。このため、予め定められた裁断用ノズル装置80の運動が終了すると、リング状のゴムクローラ15が裁断されて帯状になる。さらに、コントローラ11により上下移動機構89が作動制御され、裁断用ノズル装置80が上方に退避した状態になる。
【0027】
帯状になったゴムクローラ15は、所定の搬送手段により、分離装置1の支持部材5に支持される。まず、ゴムクローラ15の内周面15aが被噴射面15Aとされて破砕用ノズル装置30の噴射口30bと対向される。
【0028】
ゴムクローラ15が分離装置1の支持部材5に支持されると、次いで、コントローラ11により上下移動機構39が作動制御され、上方に退避した状態の破砕用ノズル装置30を下方に移動させ、スタンドオフ距離を適切に設定する。さらに、コントローラ11により高圧水発生装置2および防錆剤供給装置4が作動制御され、破砕用ノズル装置30の噴射口30bから防錆剤が混入された高圧水が噴射される。コントローラ11は、防錆剤が混入された高圧水の圧力が、噴射時において200MPa程度になるように、破砕用ポンプ21を作動制御する。高圧水が噴射されることにより、ゴムクローラ15には、所定の衝突力Fが作用する。このような圧力設定により、カバーゴム18は衝突力を受けて破砕される。また、破砕用ノズル装置30の投射角度θは、鉛直線Zに対して外側に向けられている。このため、破砕されて小片となったカバーゴム18は、この投射角度θに応じて吹き飛ばされ、支持部材5の下方に位置するゴム回収部12に回収される。カバーゴム18の破砕により、カバーゴム18の内部の芯金16および鋼線17が露出する。しかしながら、上記圧力設定(衝突力設定)により、芯金16および鋼線17に高圧水が噴射されても破砕されることはない。また、芯金16に防錆材が衝突することにより防錆皮膜が形成される。
【0029】
また、コントローラ11によるスライド機構38の作動制御により、破砕用ノズル装置30が、ゴムクローラ15の被噴射面15Aの上方を万遍無く全般に渡って移動する。また、スライド移動の移動速度は、被噴射面に作用する衝突力や、カバーゴム18の材質、カバーゴム18の厚さに応じて予め設定され、この予め設定された移動速度で破砕用ノズル装置30がスライド移動することにより、ゴムクローラ15の外周面15bに露出していたカバーゴム18の全てが破砕される。さらに、鉛直線Zに対して所定の投射角度θがつけられていることから、側面15c,15cについても、厚さ方向に対して所定長さだけ外面に露出するカバーゴム18が破砕される。スライド機構38の作動制御が終了すると、上下移動機構39が再び作動制御され、破砕用ノズル装置30が上方に退避した状態になる。
【0030】
次いで、外周面15bが被噴射面15Aとされて破砕用ノズル装置30の噴射口30bと対向するように、改めてゴムクローラ15が分離装置1の支持部材5に載置される。この反転作業の過程で、支持部材5上に残留していたカバーゴム18についても、ゴム回収部12に回収される。次いで、上記と同様に、上下移動機構39により適切にスタンドオフ距離が設定された状態で、破砕用ノズル装置30の噴射口30bから防錆剤が混入された高圧水がゴムクローラ15の内周面15aに向けて噴射される。破砕用ノズル装置30がスライド移動を完了すると、ゴムクローラ15の内周面15aに露出していたカバーゴム18が全て破砕され、芯金16および鋼線17が傷つけられることなく露出する。なお、このときも、側面15c,15cが厚さ方向に対して所定長さだけ破砕される。これにより、側面15c,15cを覆うカバーゴム18は全て破砕される。このとき破砕されたカバーゴム18についても、ゴム回収部12に回収される。
【0031】
これにより、カバーゴム18の外周面15bおよび内周面15aに露出していたカバーゴム18は全て破砕され、ゴム回収部12に小片(約5〜50mm角)となった状態で回収される。なお、芯金16および鋼線17,17,…は、それぞれ適宜回収される。上記の通り、鋼線17は芯金16の外周部分を巻き付けてあるだけであり、人の手により容易に分離して回収できる。なお、所定の分離回収装置を用いて自動的に分離して回収してもよい。
【0032】
ゴム回収部12に回収されたカバーゴム18および適宜回収された芯金16および鋼線17,17,…は、それぞれ所定の搬出手段により搬出される。搬出されたカバーゴム18は、例えば各所でサーマルリサイクルされる。また、搬出された芯金16は、マテリアルリサイクルされることもあるが、ゴムクローラ15の生産工程に戻され、そのまま再利用されることもある。搬出された鋼線17は、例えば適当なサイズに切断され、各所でマテリアルリサイクルされる。
【0033】
このように、本構成では、例えばゴムクローラ15のように、ゴム要素が金属要素に直接的に接着成形されて材料ごとの分離が困難な場合であっても、カバーゴム18のようなゴム要素を芯金16などの金属要素とを容易に分離して回収できる。このため、鉄鋼溶融炉以外でゴム要素をサーマルリサイクルできる。このように、再資源化可能な場面が広がり、効果的な再資源化を行わせることができるとともに、処分量の増加が図られる。さらに、芯金等の金属要素の再利用も図られ、金属要素についても再資源化可能な場面が広がる。本構成では、高圧水に防錆材が混入されており、カバーゴム18の破砕時に芯金16に防錆材が噴射され、防錆皮膜が形成される。したがって、高圧液体として水を用いても、再利用するにあたって金属要素の資源価値を損なわせることがない。
【0034】
また、分離装置1の噴射装置3は、上下移動機構39を備えて構成されており、破砕用ノズル装置30が上下移動可能になっている。このため、支持部材5,10にゴムクローラを支持させる作業時に上方に退避させることで、この作業を容易に行わせることができる。また、スタンドオフ距離は、カバーゴム18の破砕状況に応じて変化する。例えば、内周面15aにカバーゴム18が露出する状態で行われる外周面15bの破砕時と、外周面15bのカバーゴム18が除去された状態で行われる内周面15aの破砕時とでスタンドオフ距離にずれが生じるおそれがある。上下移動機構39により、このようなずれを吸収でき、高圧液体を噴射してカバーゴム18を破砕する作業を安定して行わせることができる。
【0035】
また、カバーゴム18の破砕の前段階として裁断装置6によりゴムクローラ15を裁断するが、この裁断についても高圧液体を噴射して行うようになっている。このため、従来のように、裁断時における機械騒音や振動あるいはカバーゴムからの粉塵が発生せず、裁断作業をクリーンな環境で行わせることができる。また、1箇所裁断して帯状にすれば、分離装置1を用いてゴム要素と金属要素とを分離できるように支持部材が構成されている。したがって、裁断工数も削減することができる。なお、本構成例は、この裁断装置6を分離装置1と並設しているが、裁断装置6は、必ずしもこのようにして備える必要はない。分離装置1とは離れたところに備えられた裁断装置6により裁断されて帯状になったゴムクローラ15を所定の搬入手段で分離装置1に搬入させる形態としてもよい。
【0036】
なお、両ノズル装置30,80から噴射される高圧液体を水としたが、衝突力が適切に設定されるとともに、ノズル装置30,80の作動を安定させ、防錆剤や研磨剤の作用を妨げない限りにおいて、他の液体であってもよい。また、破砕用ノズル装置30から噴射される高圧水の圧力を200MPaに設定するとしたが、好ましい一例を示したものであり、180MPa以上に設定されていれば、適切にスタンドオフ距離を設定することでカバーゴム18を破砕できる。
【0037】
また、破砕用ノズル装置30は、図2に示す形態に限られない。なお、破砕用ノズル装置30は、運動方式、投射角度、噴射口の個数に応じて分類できる。図4(a)に示すように、図2と同様にして回転し、図2と同様に外向きの投射角度θを有した噴射部132を1つ備えた破砕用ノズル装置130であってもよい。また、図4(b)に示すように、図2と同様にして回転し、鉛直方向に高圧水を噴射可能な噴射部232,232を2つ備えた破砕用ノズル装置230であってもよい。また、図4(c)に示すように、図2と同様にして回転し、内向きの投射角度θを有した噴射部332,332を2つ備えた破砕用ノズル装置330であってもよい。また、図4(d)に示すように、回転軸Oに対して偏心回転するとともに鉛直方向に高圧水を噴射可能な噴射部432,432を2つ備えた破砕用ノズル装置430であってもよい。また、図4(e)に示すように、1つの噴射部532が所定の角度範囲θ′で揺動可能に構成された破砕用ノズル装置530であってもよい。どのような形態のノズル装置を用いても、同様にしてゴム要素と金属要素の分離を行わせることができる。なお、図2に示す形態であると、投射角度が外側に向けられているため、小片となった破砕されたカバーゴム18を吹き飛ばして破砕がスムーズに行われるとともに、破砕されたカバーゴム18の回収を容易に行うことができるという点で有利であり、2つの噴射口30b,30bを有しているため、よりきめ細かく高圧水を噴射でき、ゴムの取り残しがなくなる点で有利である。また、噴射装置3に備えられる破砕用ノズル装置30の個数は1個に限らず、複数であってもよい。これにより、破砕に要する時間を短縮できる。
【0038】
また、破砕用ノズル装置に防錆材吸入口30cを設け、防錆剤供給ホース45をこの防錆材吸入口30cに繋げて防錆材供給装置4を構成したが、破砕用ノズル装置30の噴射口30bから防錆材が混入した高圧水を噴射可能に構成されていればよく、例えば、防錆材供給装置45を高圧水供給装置2の吐出ホース25に繋げて防錆材を高圧水に混合させる形態としてもよいし、配管94を高圧水供給装置2の吸入ホース22に繋げて防錆材を水とともにポンプ21で圧送する形態としてもよい。このとき、破砕用ノズル装置30のヘッド部31の構造を簡略化できる。
【0039】
裁断装置6は、図3に示す形態に限られず、図5(a)〜(c)に示すように適宜構成を変更してもよい。いずれの形態においても、図3に示す裁断装置6と同様に実施することができる。なお、図5(a)〜(c)の各裁断装置において、図3と同一構成の部材には、同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0040】
図5(a)の裁断装置106は、研磨剤供給装置109が異なる。この研磨剤供給装置109は、スラリーポンプ191と、研磨剤貯留タンク192と、スラリーポンプ191の吸入口191aと研磨剤貯留タンク192とを繋ぐ研磨剤吸入ホース194と、スラリーポンプ191の吐出口191bと裁断用ノズル装置80の研磨剤吸入口80cとを繋ぐ研磨剤供給ホース195と、研磨剤吸入ホース194に介設される定量供給フィーダ193とから構成される。このような構成では、コントローラ11の作動制御によりスラリーポンプ191が駆動されると、研磨剤貯留タンク192からの研磨剤が混入された高圧水が研磨剤供給ホース195に吐出され、研磨剤吸入口80cから裁断用ノズル装置80に研磨剤が供給される。
【0041】
図5(b)の裁断装置206は、裁断用ノズル装置280と、研磨剤供給装置290とが異なる。この裁断用ノズル装置280のヘッド部材281には研磨剤吸入口が設けられていない。また、この研磨剤供給装置290は、高圧水発生装置7の吐出ホース75から分岐して延びる高圧水導入ホース291と、高圧水導入ホース291が繋がる研磨剤貯留タンク292と、研磨剤貯留タンク292と高圧水発生装置7の吐出ホース75とを繋ぐ研磨剤供給ホース294と、研磨剤供給ホース294に介設される定量供給フィーダ293とから構成される。高圧水発生装置7の裁断用ポンプ71が駆動されると、吐出ホース75内の高圧水が高圧水導入ホース291に流入し、研磨剤貯留タンク292に導かれる。この高圧水により、研磨剤貯留タンク292内の研磨剤が定量供給フィーダ293を介して吐出ホース75に導かれる。吐出ホース75は裁断用ノズル装置280の高圧水吸入口280aに繋がれており、裁断用ノズル装置280には、この高圧水吸入口280aから研磨剤が混入された高圧水が供給される。
【0042】
図5(c)に示す裁断装置306は、図5(a)の高圧水発生装置が省略された構造になっており、研磨剤供給装置309のスラリーポンプ391が、図5(a)のスラリーポンプ191に比べ、より高圧の水を吐出可能に構成されている。なお、裁断用ノズル装置280は図5(b)と同様であり、研磨剤供給ホース395は、裁断用ノズル装置280の高圧水吸入口280aに繋がれる。
【0043】
また、上記実施例では、分離装置1の高圧水発生装置2と、裁断装置6の高圧水発生装置7とが別個であるとしたが、図3,5(a),(b)に示す裁断装置6,106,206であれば、裁断用ポンプ71を破砕用ポンプ21として共用することができる。また、分離装置1の破砕用ノズル装置30と、裁断装置6の裁断用ノズル装置とが別個であるとしたが、図3,図5(a)に示すように構成された裁断装置6,106であれば、裁断用ノズル装置80を破砕用ノズル装置30として共用できる。
【0044】
さらに、上記実施例では、ゴムクローラ15を裁断する方法およびゴムクローラ15のゴム要素と金属要素を分離する方法として、カバーゴム18を除去させるための両ノズル装置の運動をコントローラ11により作動制御される回転機構37,87およびスライド移動機構38,88により自動的に行わせるとしたが、必ずしもこのような方法に限られない。例えば、破砕用ノズル装置30あるいは裁断用ノズル装置80を人間が携帯することができるように構成し、このノズル装置30,80を携帯した人間がゴムクローラ15に高圧液体が適切な衝突力でゴムクローラ15に噴射されるように操作させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】分離装置および裁断装置の構成図である。
【図2】分離装置の構成図である。
【図3】裁断装置の構成図である。
【図4】破砕用ノズル装置の変更例を示す図である。
【図5】裁断装置の変更例を示す図である。
【図6】ゴムクローラの断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 分離装置
2 高圧水発生装置
3 噴射装置
4 防錆剤供給装置
5 支持部材
6 裁断装置
7 高圧水発生装置
8 噴射装置
9 研磨剤供給装置
10 支持部材
11 コントローラ
12 ゴム回収部
15 ゴムクローラ
16 芯金
17 鋼線
18 カバーゴム
30 破砕用ノズル装置
80 裁断用ノズル装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧液体を噴射可能なノズル装置を用い、骨格を形成する金属要素と前記金属要素を覆って外方に露出するゴム要素とからなる構成体を要素ごとに分離して回収する方法であって、
前記構成物に対して前記ノズル装置から高圧液体を噴射し、前記高圧液体の衝突力により前記ゴム要素を破砕して前記金属要素から分離させる破砕ステップと、
分離された前記ゴム要素および前記金属要素をそれぞれ回収する回収ステップとから構成され、
前記高圧液体の噴射圧力が、前記ゴム要素を破砕可能である一方で前記金属要素は破砕できない衝突力を与えるように設定されていることを特徴とする金属ゴム分離方法。
【請求項2】
破砕ステップと同時に、前記高圧液体とともに防錆剤を噴射する防錆剤噴射ステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の金属ゴム分離方法。
【請求項3】
前記構成体が、前記金属要素として長方形板の片面に突起を有する芯金およびリング状の鋼線を備え、前記ゴム要素として前記芯金および前記鋼線を覆って設けられるカバーゴムを備えたゴムクローラであることを特徴とする請求項1または2に記載の金属ゴム分離方法。
【請求項4】
前記破砕ステップの前に、アブレシブジェットを用いて前記ゴムクローラを周方向に対して直交する方向に裁断し、前記ゴムクローラを帯状にする裁断ステップを含むことを特徴とする請求項3に記載の金属ゴム分離方法。
【請求項5】
骨格を形成する金属要素と前記金属要素を覆って外方に露出するゴム要素とから構成される構成体を要素ごとに分離する金属ゴム分離装置であって、
前記構成体を支持する支持部材と、
液体を加圧して吐出する高圧水発生装置と、
前記支持部材により支持された前記構成物に対向して設けられて前記高圧水発生装置から供給される高圧液体を噴射可能なノズル装置を1つ以上有した噴射装置とから構成され、
前記ノズル装置から噴射される前記高圧液体の衝突力により、前記構成体の前記ゴム要素が破砕される一方で前記金属要素が破砕されないように構成されることを特徴とする金属ゴム分離装置。
【請求項6】
前記高圧水発生装置は、前記ノズル装置から噴射される高圧液体の圧力が180MPa以上に設定されるように液体を加圧することを特徴とする請求項5に記載の金属ゴム分離装置。
【請求項7】
前記構成体が、前記金属要素として長方形板の片面に突起を有する芯金およびリング状の鋼線を備え、前記ゴム要素として前記芯金および前記鋼線を覆って設けられるカバーゴムを備えたゴムクローラであることを特徴とする請求項4または5に記載の金属ゴム分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−160219(P2007−160219A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359894(P2005−359894)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(390018739)大興物産株式会社 (2)
【出願人】(596105208)第一カッター興業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】