説明

金属パターンの製造方法

【課題】保存性及び出射性に優れたインクを用いて、無電解めっき性及び細線再現性に優れた金属パターンの製造方法を提供する。
【解決手段】基板の上にポリマーを含むアンカー層を形成した後、該アンカー層上に無電解めっきの触媒またはその前駆体と溶媒とを含有するインクをインクジェット法により付与し、無電解めっき処理によって金属パターンを形成する金属パターンの製造方法において、該アンカー層の表面側領域における触媒またはその前駆体の平均濃度をDとし、該アンカー層の該基板との界面側領域における触媒またはその前駆体の平均濃度をDとしたとき、D>D×5の関係を満たし、かつ該インクが該溶媒として水を含有しない非水系インクであることを特徴とする金属パターンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の金属パターンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属パターンを形成する製造方法としては、基板上に金属箔を貼り付けた金属張積層板が用いられている。もっとも多い方法は、基板と金属(主に、銅)箔の間に接着層を設けたプリント用基板であり、この接着層に密着性や柔軟性の特性を付与した樹脂を採用している。しかしながら、この接着層を形成した後には、金属箔を熱プレスで貼り合わせる工程、フォトリソで金属パターンを形成する工程等が必要となるため、工程が複雑になる、フォトリソ工程で多量の樹脂と金属箔をエッジングするため、工数、コストが余分に掛かる課題があった(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
近年、平均粒径が100nm以下の、いわゆる金属ナノ粒子を含有するインクを用い、スクリーン印刷法やインクジェット印刷法などを用いて、金属パターンを直接描画する金属パターン形成方法に注目が集まっている。
【0004】
この金属パターン形成方法は、金属ナノ粒子の粒径を極小にすることで融点が低下することを利用し、200〜300℃程度の温度で焼成することにより、回路を形成する方法である。この技術は、確かに工数の低減、原材料の利用効率向上などの利点はあるものの、金属ナノ粒子同士を完全に融合させることが難しく、焼成後の金属パターンにおいて電気抵抗を下げるための後処理において、温度や条件に厳しい制約があるという課題が残っていた。
【0005】
金属ナノ粒子を用いずに、金属塩を使用してインク中で金属イオンの形態にし、加熱下で還元性を有する還元剤を含有する溶液から導電パターンを形成する方法がある。しかしながら、金属塩に配位して安定化させる錯化剤が十分な性能を有していないため、金属塩の還元反応が進行しやすくなり、溶液保存性に乏しいものになっていた。
【0006】
一方、金属を穏和な条件で生成析出させる手段として、無電解めっき技術を活用して金属パターンを形成する方法も提案されている。例えば、無電解めっきが可能となる触媒を含有したインクで回路パターンを形成させた後、無電解めっき処理で金属パターンを形成させる方法が開示されている(例えば、特許文献2、非特許文献1参照。)。
【0007】
上記開示されているいずれの方法も、触媒(前駆体)をインクに含有させて、そのインクを基板に印字させてパターン形成を行い、その後に活性化処理、無電解めっきを行って、触媒パターン上に金属パターンを形成させる方法である。しかしながら、インクの吸収性を全く備えていない基板上に直接インク滴を付与した後、無電解めっきにより金属パターンを形成させるため、基板と形成した金属パターンとの密着性は不十分なものであった。
【0008】
また、基板上にアンカー層としてポリマー層を設置して、触媒液に浸漬した後に、無電解めっきにて金属パターンを形成する方法も開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
この方法では、水系触媒液によりアンカー層の表面領域に触媒を存在させることにより、密着性と触媒吸着性(無電解めっき性)を付与させたプリント基板を提案している。しかしながら、高価な金属を多量に含有する触媒液を基板全体に浸漬させること、後で不必要な金属部分のエッジング処理が必要となるため、製造コストで非常に高い。
【0010】
また、水系触媒液の触媒溶解性と触媒液保存性に乏しく、この課題を解決する目的で酸が添加されている。しかしながら、触媒液をインクジェットヘッドにて印刷するような使用方法では、溶解性、保存性が不十分であり、場合によってはヘッド部材にダメージを与える問題点があった。
【0011】
また、上記インクでインクジェット印字しようとしても、ハジキや濡れ広がりが発生し、特に細線再現性には乏しいものとなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−265444号公報
【特許文献2】特開平7−131135号公報
【特許文献3】特開2010−138475号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】第21回エレクトロニクス実装学会講演大会講演文集p.105(2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、フォトリソ工程なしで、簡易・安価な工程で、触媒液保存性及びヘッド出射性に優れたインクを用いて、無電解めっき性及び細線再現性に優れた金属パターンを形成することができる金属パターンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0016】
1.基板の上にポリマーを含むアンカー層を形成した後、該アンカー層上に無電解めっきの触媒またはその前駆体と溶媒とを含有するインクをインクジェット法により付与し、無電解めっき処理によって金属パターンを形成する金属パターンの製造方法において、該アンカー層の表面側領域(該基板の接触面とは反対側の面)における触媒またはその前駆体の平均濃度をDとし、該アンカー層の該基板との界面側領域における触媒またはその前駆体の平均濃度をDとしたとき、D>D×5の関係を満たし、かつ該インクが該溶媒として水を含有しない非水系インクであることを特徴とする金属パターンの製造方法。
【0017】
2.前記触媒またはその前駆体が、パラジウム金属塩であることを特徴とする前記1記載の金属パターンの製造方法。
【0018】
3.前記アンカー層が含有するポリマーが、アクリルニトリル成分を有するアクリル酸エステル共重合体であることを特徴とする前記1または2に記載の金属パターンの製造方法。
【0019】
4.前記アンカー層が、ポリマーとして更にエポキシ樹脂を含有することを特徴とする前記3に記載の金属パターンの製造方法。
【0020】
5.前記アンカー層が、触媒またはその前駆体に対する吸着性(配位性)を有する化合物を含有していることを特徴とする前記1から4のいずれか1項に記載の金属パターンの製造方法。
【0021】
6.前記アンカー層を形成した後、触媒またはその前駆体に対する吸着性(配位性)を有する化合物を該アンカー層表面に付与して、無電解めっきを行うことを特徴とする前記1から5のいずれか1項に記載の金属パターンの製造方法。
【0022】
7.前記アンカー層は上層及び下層の2層で構成され、上層が触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーで構成され、下層が硬化性ポリマーで構成されていることを特徴とする前記1から6のいずれか1項に記載の金属パターンの製造方法。
【0023】
8.前記インクが含有する溶媒が、グリコールジエステル類、グリコールジエーテル類、グリコールエーテル・エステル類、3級アルコール類、及びアミド類から選らばれる少なくとも1種の溶媒であることを特徴とする前記1から7のいずれか1項に記載の金属パターンの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、フォトリソ工程なしで、簡易・安価な工程で、触媒液保存性及びヘッド出射性に優れたインクを用いて、無電解めっき性及び細線再現性に優れた金属パターンを形成することができる金属パターンの製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0026】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、基板の上にポリマーを含むアンカー層を形成した後、該アンカー層上に無電解めっきの触媒またはその前駆体と溶媒とを含有するインクをインクジェット法により付与し、無電解めっき処理によって金属パターンを形成する金属パターンの製造方法において、該アンカー層の表面側領域(該基板の接触面とは反対側の面)における触媒またはその前駆体の濃度をDとし、該アンカー層の該基板との界面側領域における触媒またはその前駆体の濃度をDとしたとき、D>D×5の関係を満たし、かつ該インクが該溶媒として水を含有しない非水系インクであることを特徴とする金属パターンの製造方法により、触媒液保存性及びヘッド出射性に優れたインクを用いて、無電解めっき性及び細線再現性に優れた金属パターンを形成することができる金属パターンの製造方法を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った次第である。
【0027】
金属パターンの形成に用いられる基板は、一般には、絶縁性のある樹脂、ガラスあるいはセラミックなど、インク(液体)に対して吸収性を全く持たないものとなる。こうした基板へ無電解めっき触媒を含有したインクを付与(印刷や塗布)させ、基板上に金属を形成させても十分な密着性を得ることができない。これは、基板上に金属パターンを形成させる場合、両者は相互作用する機能がほとんど持たないため、密着性も低いものしか得られないためである。
【0028】
本発明者は、上記課題に関し鋭意検討した結果、基板上にポリマーからなるアンカー層を設置し、触媒またはその前駆体と溶媒を含有するインク(以下、単に「触媒インク」ともいう。)を、インクジェット法にて印刷してから、無電解めっきにて金属パターンを形成することで達成することを見いだした。
【0029】
〔アンカー層の触媒濃度〕
本発明においては、アンカー層の表面側領域(該基板の接触面とは反対側の面)における触媒またはその前駆体の平均濃度をDとし、該アンカー層の該基板との界面側領域における触媒またはその前駆体の平均濃度をDとしたとき、D>D×5の関係を満たすことを一つの特徴とする。
【0030】
本発明でいうアンカー層の表面側領域とは、基板上に設けたアンカー層の全膜厚をA(μm)としたとき、アンカー層の表面(該基板の接触面とは反対側の面)から深さ方向でA/2(μm)までの領域をいい、この表面側領域における触媒またはその前駆体の平均濃度をDと定義する。同様に、界面側領域とは、基板との接触面から表面方向にA/2(μm)までの領域をいい、この界面側領域における触媒またはその前駆体の平均濃度をDと定義する。
【0031】
本発明において、アンカー層中における触媒またはその前駆体濃度の測定方法としては、ポリマーからなるアンカー層に触媒またはその前駆体と溶媒を含有するインクをインクジェット法にて付与したのち、サンプルを十分に乾燥させる。次いで、アンカー層膜のA/2(μm)の位置で上下になるようスライスして、上層膜である表面側領域と、下層膜である界面側領域に2分割させる。このサンプルを、誘導結合プラズマ−質量分析(ICP−MS)装置を用いて、触媒量(mg)を定量し、サンプル面積に換算することで、触媒の平均濃度D、D(mg/m)を測定する。
【0032】
本発明に係るアンカー層の基板との界面側領域に比べ、表面側領域の触媒濃度を高くすることで、アンカー層表面での無電解めっきの進行が良好となる。この結果、インク中の触媒濃度を必要以上に高くする必要がなくなり、高価な触媒量の低減や触媒溶解性や触媒保存安定性も向上する。また、触媒析出等で発生するインク出射不良低減にもなる。
【0033】
本発明において、D>D×5の関係を実現するために、アンカー層の表面側領域の触媒濃度を高くするための具体的な手段としては、
方法A)アンカー層のポリマーとして、アクリルニトリル成分を含有するアクリル酸エステル共重合体を用いること。
【0034】
触媒、特にパラジウム金属塩の場合は、アクリルニトリル成分を有するアクリル酸エステル共重合体は、高い吸着性(配位性)を有することが判明した。すなわち、アクリルニトリル成分を含有するアクリル酸エステル共重合体を用いてアンカー層形成することにより、上記で規定する触媒濃度の分布関係を実現することができる。このとき、アンカー層の耐久性等の観点からは、エポキシ樹脂を更に含有させることが好ましい。
【0035】
方法B)アンカー層に、触媒またはその前駆体に対する吸着性(配位性)を備えた化合物を更に含有させること。
【0036】
方法C)前記アンカー層を形成したあと、触媒またはその前駆体に対する吸着性(配位性)を備えた化合物をアンカー層表面に付与して、無電解めっきを行うこと。
【0037】
方法D)アンカー層を上層及び下層の2層の構成とし、上層を触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーで構成し、下層を硬化性ポリマーで構成すること。
【0038】
更に、本発明においては、アンカー層にインクジェット法を用いて付与する触媒インクとしては、
1)触媒のインク中で十分な溶解性や保存安定性が得られること、
2)触媒インクのアンカー層表面への濡れ性と浸透性があること、
以上の2点が重要である。この2つの要件を満たすため、本発明に係るインクとしては、水を含有しない非水系インクを用いることを特徴とする。
【0039】
触媒インクが水を含有した場合には、上記2つの要件を満たすことができず、所望な金属パターンを形成することができない。
【0040】
よって、方法E)として、本発明に係る触媒インクの溶媒を選択することにより、アンカー層への浸透、吸収を制御することも、本発明で規定するD>D×5の関係を実現するための1つの手段である。インク溶媒がアンカー層ポリマーに対して、ある程度の膨潤性や溶解性をもつのが好ましい。従って、水や低級アルキルアルコールのような溶媒では、浸透性がほとんど無いため好ましくない。しかしながら、アンカー層ポリマーを明確に溶解するような溶媒を選択すると、アンカー層への浸透性が高くなりすぎこの場合でも、本発明のようにアンカー層の表面部分に触媒を存在させることは難しくなる。
【0041】
特に好ましい溶媒としては、グリコールジエステル類、グリコールジエーテル類、グリコールエーテル・エステル類、3級アルコール類、及びアミド類から選らばれる少なくとも1種の溶媒である。
【0042】
以下、本発明の金属パターンの製造方法の詳細について、更に説明する。
【0043】
〔基板〕
本発明の金属パターンの製造法方法において、金属パターンを形成する基板としては、絶縁性を備えたものであれば、特に制限はなく、例えば、ガラスやセラミックス等の剛性の強いものから、PET(ポリエチレンテレフタレート)やポリイミドなどの樹脂から構成されるフィルム状のものが挙げられる。
【0044】
本発明に用いられる基板において、密着性改良やアンカー層の設置改良の観点から、表面改質処理を施しても良い。具体的には、プラズマ処理、コロナ放電処理、UV照射処理のほか、シランカップリング剤処理などが挙げられる。
【0045】
〔アンカー層〕
本発明においては、基板上にポリマーを含むアンカー層を設けることを特徴の一つとする。
【0046】
本発明に係るアンカー層を構成するポリマーとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、などで、これらの共重合体及びこれらの塩が挙げられる。
【0047】
これらのポリマーとしては、
1)基板とアンカー層のポリマーとの密着性が良好であること、
2)インク中の無電解めっきの触媒あるいはその前駆体とアンカー層のポリマーが吸着性(配位性)を有すること、
から選択することが好ましい。
【0048】
基板とアンカー層の密着性が良好にするには、アンカー層のポリマーが基板と相互作用する官能基を有するのが好ましく、具体的には、カルボシキル基、アミノ基、水酸基などが挙げられる。
【0049】
また、インク中の触媒あるいはその前駆体に吸着(配位性)可能な官能基としては、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、アミノ基、シアノ基、アミド基などが挙げられる。
【0050】
本発明において、D>D×5の関係を実現するために、アンカー層の表面側領域の触媒濃度を高くするためのアンカー層の構成としては挙げた前記方法A)〜方法D)について説明する。
【0051】
方法A)アンカー層のポリマーとして、アクリルニトリル成分を含有するアクリル酸エステル共重合体を用いる方法。
【0052】
本発明では、アンカー層の基板との界面側領域に比べ、表面側領域の触媒濃度を高くするため、アクリルニトリル成分を含有するアクリル酸エステル共重合体を用いることが好ましい。このポリマーでは、アクリルニトリル基が触媒、特にパラジウム金属塩に対し吸着性(配位性)を備えているためと推測される。
【0053】
アクリルニトリル成分としては、アクリル酸エステル共重合体全体(100モル%)に対して、5〜90モル%が好ましく、さらに好ましくは10〜50モル%である。アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量(MW)としては、5000以上、100万以下が好ましく、さらに好ましくは、10万以上、85万以下である。また、Tgとしては、基板への密着性の観点から、−30℃〜50℃が好ましく、さらに好ましくは、−10℃〜20℃である。
【0054】
このとき、アンカー層の耐久性等の観点で、エポキシ樹脂をさらに含有することが好ましい。アクリル酸エステル共重合体とエポキシ樹脂との配合比率(質量比)としては、アクリル酸エステル共重合体/エポキシ樹脂=10/90〜90/10が好ましい。さらに好ましくは、20/80〜40/60である。
【0055】
エポキシ樹脂としては、芳香族タイプが好ましく、さらに好ましくはビスフェノールAタイプあるはビスフェノールFタイプである。また、エポキシ樹脂と反応して硬化(架橋)させる硬化剤をさらに添加することが好ましい。なお、硬化剤の種類や硬化条件は適宜選択される。
【0056】
方法B)アンカー層に、触媒またはその前駆体に対し吸着性(配位性)を有する化合物をさらに含有させる方法。
【0057】
触媒、例えば、パラジウム金属塩に対し高い吸着性(配位性)を有する化合物としては、錯体形成可能な化合物が挙げられる。この様な化合物は、具体的にはカルボシキ基を有する有機酸があり、例えば、シュウ酸、マロン酸、こはく酸、アジピン酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸などが挙げられる。
【0058】
その他の化合物としては、アミン系化合物または含窒素複素環式化合物が挙げられる。アミン系化合物とは、アンモニアの水素原子の1個またはそれ以上が炭化水素残基で置換された化合物であり、Pdイオンに対する錯形成剤である。ここではアンモニアも含むものとする。アミンはN原子上に非共有電子対を保持しており、パラジウムイオンと錯形成しやすい。アミンとしては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン、エチレンジアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミンテトラ酢酸等の直鎖アミン化合物、環状アミン化合物が挙げられる。含窒素複素環式化合物としては、例えば、ピリジン、ビピリジン、フェナントロリンなどが挙げられる。
【0059】
方法C)前記アンカー層を形成したあと、触媒またはその前駆体に対する吸着性(配位性)を備えた化合物をアンカー層表面に付与して、無電解めっきを行う方法。
【0060】
この場合の吸着性(配位性)を備えた化合物は、上記方法B)に記載の化合物と同様である。アンカー層表面に付与する方法としては、吸着性(配位性)を備えた化合物を含有した液に、アンカー層を浸漬する方法、アンカー層上に塗布する方法などが挙げられる。
【0061】
方法D)アンカー層を上層及び下層の2層の構成とし、上層を触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーで構成し、下層を硬化性ポリマーで構成すること。
【0062】
すなわち、2層で構成されたアンカー層を設置する場合は、下層(基板に近い層)のポリマーには、基板側からの水分や酸素の進入を阻止するできる硬化性ポリマー(例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂など)で構成することが好ましく、上層(基板に遠い層)のポリマーとしては、触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーにより構成することが好ましい。
【0063】
アンカー層の膜厚としては、0.05〜10μmが好ましく、0.1〜5μmがより好ましい。0.05μmより薄いと、基板とも密着性が小さくなり、10μmより厚い場合は、アンカー層にポリマーの凝集破壊による密着性低下が起こりやすくなる。
【0064】
ポリマーのアンカー層の形成方法としては、ポリマー溶液(分散液)を用い、公知の塗布方式から適宜選択して、基板上に塗布、乾燥して製造することができる。塗布方式としては、例えば、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、ディップ法などがある。
【0065】
〔触媒インク〕
本発明の金属パターンの製造方法に用いられるインクは、無電解めっきの触媒あるいはその前駆体と溶媒を含有することを特徴の一つとする。
【0066】
(無電解めっきの触媒あるいはその前駆体)
本発明に係る触媒インクが含有する無電解めっきの触媒とは、無電解めっき処理工程において、それ自体が反応活性核となり金属形成するものであり、具体的には、パラジウム、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄などの金属が挙げられる。
【0067】
また、本発明に係る無電解メッキ触媒の前駆体とは、無電解めっきの触媒に変性する前の化合物を意味し、活性化処理工程により、触媒になり得るものである。具体的には、金属塩化合物であり、活性化処理にて0価金属になるものであり、例えば、パラジウム金属塩、銀金属塩、銅金属塩、ニッケル金属塩、アルミニウム金属塩、鉄金属塩などが挙げられ、中でもパラジウム金属塩が好ましい。またパラジウム金属塩が錯化剤と錯体形成したパラジウム金属錯体でもよい。
【0068】
本発明に適用可能なパラジウム金属塩としては、例えば、フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、アセト酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、水酸化パラジウム、酸化パラジウム、硫化パラジウム等が挙げられる。その中でも、特に、本発明に係るインクが含有する溶媒に可溶性を有し、水には不溶性であるものが好ましく、具体的には酢酸パラジウム、アセト酢酸パラジウムなどが好ましい。
【0069】
インク中におけるパラジウム金属塩の含有量としては、0.01質量%以上、1.0質量%以下が好ましい。パラジウム金属塩の濃度が0.01質量%以上であれば、次工程である無電解めっき反応の必要な活性度を得ることができ、1.0質量%以下であれば、インク中のパラジウム金属塩の安定性を維持することができる点で好ましい。
【0070】
(溶媒)
本発明に係るインクは、水を含有しない非水系インクであることを特徴とするため、溶媒としては水以外の有機溶媒から選択される。
【0071】
本発明においては、方法E)として、本発明に係る触媒インクの溶媒を選択することにより、アンカー層への浸透、吸収を制御することも、本発明で規定するD>D×5の関係を実現するための1つの手段である。インク溶媒がアンカー層ポリマーに対して、ある程度の膨潤性や溶解性をもつのが好ましい。従って、水や低級アルキルアルコールのような溶媒では、浸透性がほとんど無いため好ましくない。しかしながら、アンカー層ポリマーを明確に溶解するような溶媒を選択すると、アンカー層への浸透性が高くなりすぎこの場合でも、本発明のようにアンカー層の表面部分に触媒を存在させることは難しくなる。
【0072】
このとき触媒あるいは触媒前駆体に対する溶解性や保存安定性が良好な溶媒を選択することが好ましい。
【0073】
本発明に適用可能な溶媒としては、
アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール等)、
多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等)、
多価アルコールモノエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等)、
多価アルコールでアルコール端末が全てエーテル化あるいはエステル化されているもの(例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート等)、
アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)、
アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、
複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、
スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)、
等が挙げられる。
【0074】
その他の溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラデカン、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチルラクトン、乳酸ブチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどが挙げられる。
【0075】
本発明に係る触媒インクの溶媒としては、上記各種溶媒の中でも、グリコールジエステル類、グリコールジエーテル類、グリコールエーテル・エステル類、3級アルコール類、及びアミド類から選らばれる少なくとも1種の溶媒を用いることである。
【0076】
(錯化剤)
本発明に係るインクに適用可能な錯化剤としては、上記パラジウム金属塩と錯体形成可能な化合物が挙げられる。化合物としては、カルボシキ基をもつ有機酸があり、例えば、シュウ酸、マロン酸、こはく酸、アジピン酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸などが挙げられる。その他の化合物としては、アミン系化合物または含窒素複素環式化合物が好ましい。アミン系化合物とはアンモニアの水素原子の1個またはそれ以上が炭化水素残基Rで置換された化合物であり、Pdイオンに対する錯形成剤である。ここではアンモニアも含むものとする。アミンはN原子上に非共有電子対を保持しており、パラジウムイオンと錯形成しやすい。アミンとしては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン、エチレンジアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミンテトラ酢酸等の直鎖アミン化合物、環状アミン化合物が挙げられる。含窒素複素環式化合物としては、例えば、ピリジン、ビピリジン、フェナントロリンなどが挙げられる。
【0077】
(その他の各種添加剤)
本発明に係るインクには、必要に応じて、その他の金属パターン形成用インクで従来公知の各種添加剤を含有することができる。例えば、蛍光増白剤、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、増粘剤、帯電防止剤、マット剤、水溶性多価金属塩、酸塩基、緩衝液等pH調整剤、酸化防止剤、表面張力調整剤、非抵抗調整剤、防錆剤、無機顔料等を挙げることができる。
【0078】
《金属パターンの製造工程》
本発明のインクを用いた金属パターンの製造方法としては、以下のように行う。
【0079】
1)基板上にアンカー層を形成する工程、2)触媒インクを付与する工程、3)触媒インクが触媒前駆体の場合、触媒に変換(還元)させる活性化処理、4)無電解めっき液にて、金属を生成させる無電解めっき処理工程。この後に、5)電気めっき工程にて、金属パターン部の膜厚を厚くさせてもよい。
【0080】
なお、本発明のパターン形成では、必要な部分のみ形成する場合とアンカー層全面に形成する両方を意味する。
【0081】
〔触媒インクのインクジェット法によりアンカー層上に付与する工程〕
インクジェット法により回路等の導電性パターンを描画する場合、目的の線幅に応じた液滴サイズのインクジェットヘッドを用いて触媒インクをアンカー層上に印字していく。触媒のミスト、インクの着弾ズレは、回路特性を劣化させるので、極力着弾精度が高く、欠陥の少ないインクジェット印字プロセスが望まれ、既存のインクジェット印刷技術を用いることができる。なお、インクジェットヘッドは、インクに含まれる金属塩と溶媒に対して耐久性のある部材により構成されていることが望ましい。方式としては、ピエゾタイプのヘッドが好ましい。触媒インクの付与量としては、インク中の無電解めっきの触媒あるはその前駆体の濃度や溶媒の沸点、乾燥性、無電解めっき性を考慮して選定される。具体的な触媒インクの付与量としては、0.5ml/m〜50ml/mが好ましく、さらには2.0ml/m〜30ml/mが好ましい。付与量が0.5ml/m未満であると、無電解めっき性(金属形成性)が不十分となり、50ml/mを越えると、触媒インク付与の均一性の確保や乾燥性の観点で難しくなる。
【0082】
触媒インクを付与した後は、乾燥工程を設けることが好ましく、乾燥させる方法としては、加熱、送風などの方法が時間短縮や工程簡略化の観点で好ましい。
【0083】
〔活性化工程〕
本発明の金属パターンの製造方法における活性化工程とは、触媒前駆体を無電解めっきが可能な触媒に変換する工程のことをいう。触媒インクに無電解めっき触媒の前駆体を用いる場合は、無電解めっきの触媒に変性させるため、活性化処理工程を無電解めっき処理工程の前に行う。無電解めっき触媒の前駆体として、金属塩化合物を用いた場合には、還元反応により、0価金属に反応させる工程であり、この活性化工程により、無電解めっき触媒になり得るものである。
【0084】
活性化工程は、触媒の種類によって適正な方法を選択する必要があり、酸の付与、加熱、還元剤の付与等が挙げられる。好ましい還元剤としては、ホウ素系化合物が好ましく、具体的には、水素化ホウ素ナトリウム、トリメチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン(DMAB)などが好ましい。還元方法としては、還元剤の溶液に触媒インクを付与した基板を浸漬させ、活性化処理を行うことができる。
【0085】
〔無電解めっき処理工程〕
本発明に係る無電解めっき処理について説明する。
【0086】
通常、無電解めっき処理としては、無電解めっき液(浴)に浸漬し、触媒インクが付与されたアンカー層の部分で無電解めっき反応により金属パターンを形成する工程である。
【0087】
無電解めっき液としては、1)金属イオン、2)無電解めっき液用錯化剤、3)還元剤が主に含有される。無電解めっきで形成される金属としては、例えば、金、銀、銅、パラジウム、ニッケルおよびそれらの合金などが挙げられるが、密着性と導電性の観点から銅とニッケルおよびそれらの合金が好ましい。無電解めっき浴に使用される金属イオンとしても、上記金属に対応した金属イオンを含有させる。無電解めっき液用錯化剤および還元剤も金属イオンに適したものが選択される。錯化剤としては、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(以下、EDTAと略記する)、ロシェル塩、D−マンニトール、D−ソルビトール、ズルシトール、イミノ二酢酸、trans−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸、などが挙げられ、EDTAが好ましい。還元剤としては、ホルムアルデヒド、テトラヒドロホウ酸カリウム、ジメチルアミンボラン、グリオキシル酸、次亜リン酸ナトリウムなどが挙げられ、ホルムアルデヒドが好ましい。
【0088】
上記無電解めっき工程は、めっき浴の温度、pH、浸漬時間、金属イオン濃度を制御することで、金属形成の速度や膜厚を制御することができる。
【0089】
〔表面処理工程〕
本発明の金属パターンの製造方法においては、無電解めっき処理工程(触媒前駆体の場合は、活性化工程)を行う前に、アンカー層がめっき液あるいは活性化液に対する表面濡れ性を上げる表面処理工程を行うことが好ましい。
【0090】
本発明では、アンカー層に触媒インクを付与させ、アンカー層を膨潤あるいは溶解させると、その部分が造膜し疎水性化するため、めっき処理液や活性化処理液への濡れ性が低下し、極端にめっき性が低下してしまう。さらに触媒を含有したインクがアンカー層の内部に浸透するため、いっそうめっき性が低下する。そこで、触媒インクを付与した部分とめっき処理液(あるいは活性化処理液)との濡れ性を向上させることが好ましい。
【0091】
めっき処理液あるいは活性化処理液は、通常水系処理液なので、ここでいう濡れ性向上とは、アンカー層表面と水の濡れ性を上げる表面処理工程を意味する。表面処理工程の前後でアンカー層の水に対する接触角が減少していれば、表面処理としては有効である。
【0092】
具体的には、表面処理工程の前後で水に対する接触角が20%以上低下する手段が好ましい。表面処理の方法としては、カチオン・ノニオン・アニオンの界面活性剤を含む液により処理する方法、プラズマ・コロナ・フレーム・UV照射といった表面親水化処理工程によりめっき液に対する濡れ性を改善する方法がある。中でも界面活性剤による液処理は簡便で、かつ効果も高い。
【0093】
〔電気めっき工程〕
本発明の金属パターンの製造方法においては、金属パターンの膜厚を厚くする目的などで、無電解めっき処理を行った後、さらに電気めっき工程を行ってもよい。
【0094】
電気めっき工程では、前記無電解メッキ処理の後、この無電解メッキ処理工程により形成された導電性膜を電極とし、さらに電気メッキを行うことができる。これにより基材との密着性に優れた導電膜をベースとして、そこに新たに任意の厚みをもつ導電膜を容易に形成することができる。この工程を付加することにより、金属膜を目的に応じた厚みに形成することができ、本発明の金属パターンの製造方法に従って形成された導電膜を、高い導電性が要求される種々の用途に適用するのに好適である。
【0095】
電気メッキの方法としては、従来公知の方法を用いることができる。なお、本工程の電気メッキに用いられる金属としては、銅、クロム、鉛、ニッケル、金、銀、すず、亜鉛などが挙げられ、導電性の観点から、銅、金、銀が好ましく、銅がより好ましい。
【0096】
電気メッキにより得られる導電膜の膜厚については、用途に応じて異なるものであり、メッキ浴中に含まれる金属濃度、浸漬時間、或いは、電流密度などを調整することでコントロールすることができる。なお、一般的な電気配線などに用いる場合の膜厚は、導電性の観点から、0.3μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0098】
《アンカー層付基材の作製》
〔アンカー層付基材1の作製〕
(アンカー層塗布液1の調製)
ポリマー(1)として下記ポリマーAを、メチルエチルケトンに20質量%となる条件で溶解し、アンカー層塗布液1を調製した。
【0099】
ポリマー(1);ポリマーA(構造:アクリル酸エステル共重合体、主なモノマー:ブチルアクリレート/エチルアクリレート/アクリルニトリル/グリシジル変性、アクリルニトリルのモノマー質量比:30%、商品名:SG−P3、ナガセケムテックス社製)
(アンカー層の形成)
基板として、ポリイミドフィルム(東レフィルム加工(製)、カプトン100EN 膜厚50μm)を用い、その表面を酸素プラズマ処理した後、上記アンカー層塗布液1を、乾燥後のアンカー層の膜厚が10μmとなるように、ワイヤーバーを用いて塗布、乾燥して、アンカー層を形成した。
【0100】
〔アンカー層付基材2の作製〕
上記アンカー層付基材1の作製において、アンカー層塗布液1に代えて、下記アンカー層塗布液2を用いた以外は同様にして、アンカー層付基材2を作製した。
【0101】
(アンカー層塗布液2の調製)
ポリマー(1)として下記ポリマーAと、ポリマー(2)として下記ポリマーBと、添加剤(1)として下記添加剤aを、質量比として70:27:3の比率で混合し、これをメチルエチルケトンに総質量が20質量%となる条件で溶解し、アンカー層塗布液2を調製した。
【0102】
ポリマー(1);ポリマーA(構造:アクリル酸エステル共重合体、主なモノマー:ブチルアクリレート/エチルアクリレート/アクリルニトリル/グリシジル変性、アクリルニトリルのモノマー質量比:30%、商品名:SG−P3、ナガセケムテックス社製)
ポリマー(2);ポリマーB(構造:エポキシ樹脂、主なモノマー:ビスフェノールAタイプ、商品名:iER828、ジャパンエポキシレジン社製)
添加剤(1);添加剤a(2−エチル−4−メチルイミダゾール)
〔アンカー層付基材3の作製〕
上記アンカー層付基材1の作製において、アンカー層塗布液1に代えて、下記アンカー層塗布液3を用いた以外は同様にして、アンカー層付基材3を作製した。
【0103】
(アンカー層塗布液3の調製)
ポリマー(1)として下記ポリマーAと、添加剤(1)として下記添加剤aと、添加剤(2)として下記添加剤bを、質量比として77:3:10の比率で混合し、これをメチルエチルケトンに総質量が20質量%となる条件で溶解し、アンカー層塗布液3を調製した。
【0104】
ポリマー(1);ポリマーA(構造:アクリル酸エステル共重合体、主なモノマー:ブチルアクリレート/エチルアクリレート/アクリルニトリル/グリシジル変性、アクリルニトリルのモノマー質量比:30%、商品名:SG−P3、ナガセケムテックス社製)
添加剤(1);添加剤a(2−エチル−4−メチルイミダゾール)
添加剤(2);添加剤b(トリエタノールアミン)
〔アンカー層付基材4の作製〕
(アンカー層の形成)
上記アンカー層付基材1の作製において、アンカー層塗布液1に代えて、下記アンカー層塗布液4を用いた以外は同様にして、基材上にアンカー層を形成した。
【0105】
〈アンカー層塗布液4の調製〉
ポリマー(1)として下記ポリマーBと、ポリマー(2)として下記ポリマーCを、質量比として80:20の比率で混合し、これをメチルエチルケトンに総質量が20質量%となる条件で溶解し、アンカー層塗布液4を調製した。
【0106】
ポリマー(1);ポリマーB(構造:エポキシ樹脂、主なモノマー:ビスフェノールAタイプ、商品名:iER828、ジャパンエポキシレジン社製)
ポリマー(2);ポリマーC(構造:NBR樹脂、主なモノマー:アクリルニトリル/ブタジエン、アクリルニトリルのモノマー質量比:27%、商品名:Nipol 1072J、日本ゼオン社製)
(添加剤液への浸漬)
上記形成したアンカー層付基材を、添加剤c(ノニオン性界面活性剤含有のメッキコンディショナー、商品名:PC−321、メルタック社製)の10質量%溶液に、60℃で5分間浸漬した後、乾燥してアンカー層付基材4を作製した。
【0107】
〔アンカー層付基材5の作製〕
(アンカー層下層塗布液5の調製)
ポリマー(1)として下記ポリマーBと、添加剤(1)として下記添加剤aとを、質量比として90:10の比率で混合し、これをメチルエチルケトンに総質量が20質量%となる条件で溶解し、アンカー層下層塗布液5を調製した。
【0108】
ポリマー(1);ポリマーB(構造:エポキシ樹脂、主なモノマー:ビスフェノールAタイプ、商品名:iER828、ジャパンエポキシレジン社製)
添加剤(1);添加剤a(2−エチル−4−メチルイミダゾール)
(アンカー層上層塗布液5の調製)
ポリマー(1)として下記ポリマーDを、メチルエチルケトンに総質量が20質量%となる条件で溶解し、アンカー層上層塗布液5を調製した。
【0109】
ポリマー(1);ポリマーD(構造:アクリル酸エステル共重合体、主なモノマー:ブタジエン/スチレン、商品名:Nipol Lx430、日本ゼオン社製)
(アンカー層の形成)
基板として、ポリイミドフィルム(東レフィルム加工(製)、カプトン100EN 膜厚50μm)を用い、その表面を酸素プラズマ処理した後、アンカー層下層塗布液5を、乾燥後の膜厚が10μmとなるように、ワイヤーバーを用いて塗布、乾燥して、アンカー層下層を形成した。次いで、アンカー層上層塗布液5を、乾燥後の膜厚が2μmとなるように、ワイヤーバーを用いて塗布、乾燥して、アンカー層上層を形成し、アンカー層付基材5を作製した。
【0110】
〔アンカー層付基材6の作製〕
上記アンカー層付基材1の作製において、アンカー層塗布液1に代えて、下記アンカー層塗布液6を用いた以外は同様にして、アンカー層付基材6を作製した。
【0111】
(アンカー層塗布液6の調製)
ポリマー(1)として下記ポリマーDを、メチルエチルケトンに総質量が20質量%となる条件で溶解し、アンカー層塗布液6を調製した。
【0112】
ポリマー(1);ポリマーD(構造:アクリル酸エステル共重合体、主なモノマー:ブタジエン/スチレン、商品名:Nipol Lx430、日本ゼオン社製)
上記作製したアンカー層付基材1〜6の構成を、表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
なお、表1に略称で記載した各構成材料の詳細は、以下の通りである。
【0115】
〈ポリマー〉
ポリマーA;構造:アクリル酸エステル共重合体、主なモノマー:ブチルアクリレート/エチルアクリレート/アクリルニトリル/グリシジル変性、アクリルニトリルのモノマー質量比:30%、商品名:SG−P3、ナガセケムテックス社製、
ポリマーB;構造:エポキシ樹脂、主なモノマー:ビスフェノールAタイプ、商品名:iER828、ジャパンエポキシレジン社製、
ポリマーC;構造:NBR樹脂、主なモノマー:アクリルニトリル/ブタジエン、アクリルニトリルのモノマー質量比:27%、商品名:Nipol 1072J、日本ゼオン社製、
ポリマーD;構造:アクリル酸エステル共重合体、主なモノマー:ブタジエン/スチレン、商品名:Nipol Lx430、日本ゼオン社製、
〈添加剤〉
添加剤a;2−エチル−4−メチルイミダゾール、
添加剤b;トリエタノールアミン
添加剤c;ノニオン性界面活性剤含有のメッキコンディショナー、商品名:PC−321、メルタック社製、
《触媒インクの調製》
〔触媒インク1の調製〕
下記の各添加剤を混合して、触媒インク1を調製した。
【0116】
無電解めっきの触媒前駆体;酢酸パラジウム 0.2質量%
溶媒:エチレングリコールジアセテート(EGDAc) 99.8質量%
〔触媒インク2〜6の調製〕
上記触媒インク1の調製と同様にして、無電解めっきの触媒前駆体の種類と添加量、溶媒の種類と添加量、水の添加の有無、錯化剤の添加の有無を、表2に記載の組み合わせとして、触媒インク2〜6を調製した。
【0117】
なお、表2に略称で記載した各添加剤の詳細は、以下の通りである。
【0118】
〈無電解めっきの触媒前駆体〉
PdAc:酢酸パラジウム
PdCl:塩化パラジウム
ベヘン酸銀
〈有機溶媒〉
EGDAc:エチレングリコールジアセテート
DEGDEE:ジエチレングリコールジエチルエーテル
DEGMBE:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
DMF:ジメチルホルムアミド
t−BuOH:ter−ブチルアルコール
〈錯化剤〉
2−AP:2−アミノピリジン
〔触媒インクの特性評価〕
上記調製した各触媒インクについて、下記の各評価を行った。
【0119】
(インク保存安定性の評価)
上記調製した各触媒インクをガラス瓶に充填し、密栓をした後、60℃、40℃、25℃の恒温槽中で4週間保存した後、各触媒インク中での析出物発生の有無、25%以上の粘度変動、変色の有無について評価し、下記の基準に従って、インク保存安定性の評価を行った。
【0120】
◎:25℃〜60℃で4週間保存した後でも、析出物の発生や粘度変動、変色などの変化は認められない
○:25℃、40℃で4週間保存した後でも、析出物の発生や粘度変動、変色などの変化は認められない。ただし、60℃で4週間保存した場合には、析出物の発生、粘度変動、変色の少なくとも1つに僅か変化が認められるが、実用上は許容される品質である
×:25℃で4週間保存した後に、析出物の発生、粘度変動、変色の少なくとも1つに明らかな変化が認め、実用上問題となる品質である
(インク吐出安定性の評価)
4plサイズの液滴を吐出可能なコニカミノルタIJ製、512Sヘッドを用い、20kHzで1時間の連続吐出を行った後と、更に休止時間を変化させて吐出を停止した後再び吐出した際のインク液滴の飛翔状態を観察し、下記の基準に従って、インク吐出安定性を評価した。
【0121】
◎:1時間連続吐出した後でも、ノズル欠やインクの曲がりが生じない。また、吐出を1時間休んだ後に再吐出を行っても問題無く吐出した
○:1時間連続吐出した後でも、ノズル欠やインクの曲がりが生じない。また、吐出を10分間休んだ後に再吐出を行っても問題無く吐出した。ただし、停止時間が10分を越えると、僅かに弱いインク曲がりが発生するが、実用上は許容される品質である
×:1時間連続吐出している間に、ノズル欠またインクの曲がりが生じ、実用上問題となる品質である
以上により得られた結果を、表2に示す。
【0122】
【表2】

【0123】
表2の結果より明らかなように、水分を含有しない本発明で使用する触媒インクは、インクの保存安定性及び吐出安定性に優れていることが分かる。
【0124】
《金属パターンの形成》
〔金属パターン1の形成〕
下記のプロセスに従って、金属パターン1を形成した。
【0125】
(金属パターン形成プロセス)
1)触媒インクの付与工程
2)活性化工程(触媒前駆体の場合、触媒の場合は行わなかった)
3)無電解めっき工程
(触媒インクの付与工程:インクジェット方式)
上記調製した触媒インク1をインクジェット印刷装置に装填し、アンカー層付基材1上に、75μm、100μm、150μm、200μmの各ライン&スペースのパターン描画と、500mm×500mmのベタ画像の描画を行った。インクジェットヘッドは4plサイズの液滴を吐出可能なコニカミノルタIJ製、512Sヘッドを用いて描画した。
【0126】
(活性化工程)
触媒インク1により画像印刷を行った後、以下の活性化液に、35℃で10分間浸漬した。
【0127】
〈活性化液〉
アルカップMRD2−A(上村工業社製) 18ml
アルカップMRD2−C(上村工業社製) 60ml
純水 1000mlに仕上げた
(無電解めっき工程)
下記の方法に従って、無電解銅めっき溶液を調製した。
【0128】
無電解銅めっき溶液は、銅濃度として2.5質量%、ホルマリン濃度が1.0質量%、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)濃度が2.5質量%である。また、水酸化ナトリウムで無電解銅めっき溶液のpHを13.0に調整した。上記調製した無電解銅めっき溶液を50℃に加温し、活性化処理したサンプルに無電解めっきを施し、約0.2μmの膜厚の金属パターンを形成した。
【0129】
〈無電解銅めっき溶液〉
メルプレートCU−5100A(メルテックス社製) 60ml
メルプレートCU−5100B(メルテックス社製) 55ml
メルプレートCU−5100C(メルテックス社製) 20ml
メルプレートCU−5100M(メルテックス社製) 40ml
純水 1000mlに仕上げた
〔金属パターン2〜13の形成〕
上記金属パターン1の作製において、アンカー層付基材の種類と触媒インクの種類を、表3に記載の組み合わせとした以外は同様にして、金属パターン2〜13を形成した。
【0130】
《金属パターンの触媒量の測定》
〔D1、D2の測定〕
上記各金属パターンの作製において、触媒インクの付与までを行った500mm×500mmのベタ画像部について、下記の方法に従って、アンカー層の表面側領域(該基板の接触面とは反対側の面)における触媒またはその前駆体の平均濃度Dと、アンカー層の基板との界面側領域における触媒またはその前駆体の平均濃度Dを測定した。
【0131】
触媒インクの付与までを行った各試料を十分に乾燥させ後、はじめにアンカー層全層の触媒量(mg)を、誘導結合プラズマ−質量分析(ICP−MS)装置を用いて定量し、単位面積当たりの触媒量(mg/m)Cを求めた。
【0132】
次いで、同試料をミクロトームにより、アンカー層の1/2の位置(アンカー層1〜4、6は、5.0μmの位置、アンカー層5は6.0μmの位置)までスライスし、上層膜である表面側領域を削除し、下層膜である界面側領域のみを残し、この界面側領域の触媒量(mg)を、誘導結合プラズマ−質量分析(ICP−MS)装置を用いて定量し、単位面積当たりの触媒量(mg/m)Dを求めた。
【0133】
上記測定結果より、全層の触媒量(mg/m)C−界面側領域の触媒量(mg)Dの値を、表面側領域の触媒量(mg)Dとして求めた。
【0134】
《金属パターンの評価》
上記形成した各金属パターンについて、下記の各評価を行った。
【0135】
〔めっき速度の評価〕
上記金属パターンの作製において、無電解めっき工程における無電解めっき処理で形成される銅膜厚が0.2μmに成長するまでの時間を計測し、下記の基準に従って、めっき速度の評価を行った。
【0136】
◎:銅膜厚が0.2μmに成長するまでの時間が、10分未満である
○:銅膜厚が0.2μmに成長するまでの時間が、10分以上、20分未満である
△:銅膜厚が0.2μmに成長するまでの時間が、20分以上、40分未満である
×:銅膜厚が0.2μmに成長するまでの時間が、40分以上である
〔細線再現性の評価〕
上記作成した75μm、100μm、150μm、200μmの各ライン&スペースの金属パターンを、光学顕微鏡を用いて観察し、下記の基準に従って、細線再現性を評価した。
【0137】
◎:75〜200μの各ライン&スペースが正確に再現されており、めっきされたライン&スペースにも途切れが無く良好な品質である
○:わずかに線幅のバラつきは認められるが、ほぼ良好なライン&スペースは再現されている
×:バルジ発生によるラインの途切れ、液滴間のビーディングによるライン位置ズレ、ライン内でのスジの発生が認められ、実用上問題となる品質である
以上により得られた結果を、表3に示す。
【0138】
【表3】

【0139】
表に記載の結果より明らかなように、本発明の金属パターンの製造方法で作製した金属パターンは、比較例に対し、めっき速度が速く、かつ形成した金属パターンの細線再現性に優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上にポリマーを含むアンカー層を形成した後、該アンカー層上に無電解めっきの触媒またはその前駆体と溶媒とを含有するインクをインクジェット法により付与し、無電解めっき処理によって金属パターンを形成する金属パターンの製造方法において、該アンカー層の表面側領域(該基板の接触面とは反対側の面)における触媒またはその前駆体の平均濃度をDとし、該アンカー層の該基板との界面側領域における触媒またはその前駆体の平均濃度をDとしたとき、D>D×5の関係を満たし、かつ該インクが該溶媒として水を含有しない非水系インクであることを特徴とする金属パターンの製造方法。
【請求項2】
前記触媒またはその前駆体が、パラジウム金属塩であることを特徴とする請求項1記載の金属パターンの製造方法。
【請求項3】
前記アンカー層が含有するポリマーが、アクリルニトリル成分を有するアクリル酸エステル共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属パターンの製造方法。
【請求項4】
前記アンカー層が、ポリマーとして更にエポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項3に記載の金属パターンの製造方法。
【請求項5】
前記アンカー層が、触媒またはその前駆体に対する吸着性(配位性)を有する化合物を含有していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の金属パターンの製造方法。
【請求項6】
前記アンカー層を形成した後、触媒またはその前駆体に対する吸着性(配位性)を有する化合物を該アンカー層表面に付与して、無電解めっきを行うことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の金属パターンの製造方法。
【請求項7】
前記アンカー層は上層及び下層の2層で構成され、上層が触媒またはその前駆体と相互作用する官能基を有するポリマーで構成され、下層が硬化性ポリマーで構成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の金属パターンの製造方法。
【請求項8】
前記インクが含有する溶媒が、グリコールジエステル類、グリコールジエーテル類、グリコールエーテル・エステル類、3級アルコール類、及びアミド類から選らばれる少なくとも1種の溶媒であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の金属パターンの製造方法。

【公開番号】特開2012−151267(P2012−151267A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8532(P2011−8532)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】