説明

金属ヒドリド錯体の製造方法

【課題】カルボキシル基を有する金属ヒドリド錯体の合成工程を短縮化した、より簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】MCl3・(H2O)m(式中MはRu, Rh, OsまたはIr である。mは0〜3。)を特定条件下ホルムアルデヒドと反応させた後、特定のカルボン酸および水酸化アルカリ金属を同時に添加して、式(2)で示される金属ヒドリド錯体を製造することを特徴とする金属ヒドリド錯体の製造方法。
MHkQnTpZq ・・・(2)
〔式中、MはRu, Rh, Os, Ir から選ばれた金属を示し、QはR1CO2で表されるカルボキシル基(R1は特定の置換基)を示し、TはCOおよびNOから選ばれた1種以上の原子団を示し、ZはPR2R3R4(R2、R3、R4はそれぞれ特定の置換基を示す。)を示し、k,n,p,qはそれぞれ特定範囲内の値を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基を配位子として有する金属ヒドリド錯体の簡易的な合成法に関する。この錯体は、水素化触媒、ヒドロシリル化反応、オレフィン異性化反応などの種々の有機合成反応の触媒となる、有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
工業化触媒を実現するためには、触媒本来のもつ性能、(高活性、取り扱い容易、安全
性など) の他に、触媒の合成プロセスが簡便であり、短時間かつ効率的に合成できること、触媒価格が安いことなどの諸課題を満足させる必要がある。
【0003】
本発明者はこれまでに、アルケン、アルキンなどの炭素−炭素不飽和結合への水素化反応に高い活性をもち、かつ室温で安定に存在し、トルエンやシクロヘキサンなどの炭化水素溶媒への溶解性が良好な触媒として、カルボキシル基を金属上に有する金属ヒドリド錯体(RuH(OCOR1)(CO)(PPh3)2) を見出し、またその合成法として下記スキーム(A)に示す
方法を見出し、すでに提案している(特許文献1,2参照)。
【0004】
【化1】

この合成法では、第一段階としてRuCl3から合成したRuHCl(CO)(PPh3)3 に対し、第二段階として、アルコール溶媒中KOHと反応させて一旦RuH2(CO)(PPh3)3 とした後、最終の第
三段階としてカルボン酸 (R1CO2H)を作用させることにより、目的物であるRuH(OCOR1)(CO)(PPh3)2 が得られる。
【0005】
しかしながら、触媒の工業的実用化をはかる上で、この手法をより簡略化し、合成プロセスにかかる費用を削減させる必要があった。すなわち、従来の三つある工程のうち、いくつかをまとめて工程数を減らし、スケールアップ時の操作性向上、製造時間の短縮などを実現することが課題であった。
【特許文献1】特開2005-162617号公報
【特許文献2】特開2005-162618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記の問題、すなわち、リン含有配位子とカルボキシル基とを有する金属ヒドリド錯体の合成工程を短縮化した、より簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる金属ヒドリド錯体の製造方法は、下記式(1)で表される化合物を、リン配位子を形成しうる化合物の存在下アルコール溶媒中でホルムアルデヒドと反応させた
後、Q-Hで表されるカルボン酸(式中QはR1CO2で表されるカルボキシル基を示す。ここで
、R1は炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のハロゲン原子を含有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基から選択される置換基である。)および水酸化アルカリ金属を同時に添加して、式(2)で示される金属ヒドリド錯体を製造することを特徴とする;
MCl3・(H2O)m ・・・(1)
〔式中MはRu, Rh, Os, Ir から選ばれた金属を示し、mは0、1、2または3の整数を示す。〕;
MHkQnTpZq ・・・(2)
〔式中、MはRu, Rh, Os, Ir から選ばれた金属を示し、QはR1CO2で表されるカルボキシル基(R1は炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のハロゲン原子を含有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基から選択される置換基)を示し、TはCOおよびNOから選
ばれた1種以上の原子団を示し、ZはPR2R3R4(R2、R3、R4はそれぞれ同一もしくは異なる
アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)を示し、kは1または2であり
、nは1または2であり、pは0, 1, 2または3であり、qは0, 1, 2または3である。また、k, n, p, qの合計は5または6である。〕。
【0008】
また、本発明にかかる金属ヒドリド錯体の製造方法は、下記式(3)で表される金属錯体に、請求項1記載のQ-Hで表されるカルボン酸および水酸化アルカリ金属を混合物とし
て添加して、上記式(2)で示される金属ヒドリド錯体を製造することを特徴とする;
MHkYnTpZq ・・・ (3)
〔式中、MはRu, Rh, Os, Ir から選ばれた金属を示し、Yはハロゲン原子を示し、TはCOおよびNOから選ばれた1種以上の原子団を示し、ZはPR2R3R4(R2、R3、R4はそれぞれ同一
もしくは異なるアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)を示し、kは1または2であり、nは1, 2または3であり、pは0, 1, 2, 3または4であり、qは0, 1, 2, 3または4である。また、k, n, p, qの合計は5または6である。〕。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、カルボキシル基が配位した金属ヒドリド錯体を、簡便な操作で、効率よく、高収率で合成することが可能となる。この錯体は、炭化水素溶媒などの極性の低い溶媒に、高濃度で溶解し、かつオレフィン、アセチレンなどの炭素−炭素不飽和結合の水素化反応などに高い触媒活性を有するため、工業スケールでの触媒反応において、コスト削減、収率アップ、生産性向上など、多くの効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
上記式(1)〜(3)中の金属Mとしては、例えば、ルテニウム、ロジウム、オスミウ
ム、イリジウムなどが挙げられる。これらの金属種については特に制限されないが、最も安価でありかつ高い触媒活性を有するルテニウムが好ましい。
【0011】
上記式(2)中のQは、R1CO2で表されるカルボキシル基であり、目的の溶解性を達成するためには、R1が炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基から選ばれ
た置換基である必要がある。具体例としては、酢酸残基、プロピオン酸残基、酪酸残基、イソ酪酸残基、吉草酸残基、イソ吉草酸残基、ヘキサン酸残基、ヘプタン酸残基、オクタン酸、2-メチルヘプタン酸残基、2-エチルへキサン酸残基、ノナン酸残基、デカン酸残基、ウンデカン酸残基、ドデカン酸残基、トリデカン酸残基、テトラデカン酸残基、ペンタデカン酸残基、ヘキサデカン酸残基、ヘプタデカン酸残基、オクダデカン酸残基、ノナデカン酸残基、シクロヘキシルカルボン酸残基、トリフルオロ酢酸残基、トリクロロ酢酸残基、トリブロモ酢酸残基、安息香酸残基、メチル安息香酸残基、エチル安息香酸残基、プロピル安息香酸残基、ブチル安息香酸残基、ペンチル安息香酸残基、ヘキシル安息香酸残基、へプチル安息香酸残基、オクチル安息香酸残基、デシル安息香酸残基、ジメチル安息
香酸残基 などが挙げられる。
【0012】
上記式(2)〜(3)中のZはPR2R3R4(R2、R3、R4はそれぞれ同一もしくは異なるアル
キル基、アルケニル基またはアリール基を示す。)である。アルキル基の具体例としては
、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、などを挙げることができる。
【0013】
シクロアルキル基の具体例としては、シクロヘキシル基、2-メチルシクロヘキシル基、3-メチルシクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、2,3-ジメチルシクロヘキシル基、2,4-ジメチルシクロヘキシル基、2,5-ジメチルシクロヘキシル基、2,6-ジメチルシクロヘキシル基、3,4-ジメチルシクロヘキシル基、3,5-ジメチルシクロヘキシル基などを挙げることができる。
【0014】
アリール基の具体例としては、フェニル、2-メチルフェニル、3-メチルフェニル、4-メチルフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基などを挙げることができる。
【0015】
また、上記式(2)中のkは1または2であり、nは1または2であり、pは0, 1, 2または3
であり、qは0, 1, 2または3である。
本発明の、カルボキシル基を有する金属ヒドリド錯体の製造方法では、金属ハライド(
水和物) をホルムアルデヒドと反応させて、金属(ヒドリド)ハライドとした後、アルカリ金属の水酸化物とカルボン酸混合物を同時に添加する。ここで、アルカリ金属の水酸化物とカルボン酸混合物を同時に添加する際には、アルカリ金属水酸化物とカルボン酸を混合物の形で添加することが望ましい。また、金属ハライド(水和物) をホルムアルデヒドと
反応させて金属(ヒドリド)ハライドとした後の段階では、この金属(ヒドリド)ハライドを単離することなく、アルコール溶媒中でアルカリ金属の水酸化物とカルボン酸混合物を同時に添加することが望ましい。
【0016】
従来の発明 (特開2005-162617) では、まず中間で生成した金属(ヒドリド)ハライド錯
体とアルカリ金属水酸化物とを反応させ、一旦RuH2(CO)(PPh3)3とした後に、これとカル
ボン酸を反応させて、目的化合物を合成した(前記のスキーム(A))。
【0017】
しかし、本発明では、アルカリ金属水酸化物とカルボン酸を混合物の形で添加し、RuH2(CO)(PPh3)3を経由しないで目的物に至る点が特徴である。ルテニウムを例にとった合成
経路を下記のスキーム(B)に示す。
【0018】
【化2】

また、途中で生成する金属(ヒドリド)ハライド(スキーム(B)ではRuHCl(CO)(PPh3)3)
を原料として、それ以降の操作を行っても、同一の生成物が得られる。
【0019】
反応の方法を以下に述べる。窒素、またはアルゴン雰囲気下で反応容器に溶媒であるアルコール、金属ハライド(水和物) を添加する。続いて、ホルムアルデヒド水溶液・ホス
フィンを連続して添加し、一定時間加熱還流することにより、金属(ヒドリド)ハライドが沈殿物として生成する (Ru錯体の合成例:N. Ahmad, et al., Inorg. Synth., 15, 45 (1974))。本発明では、この金属(ヒドリド)ハライドを単離することなく、上澄みを濾過あ
るいはデカンテーションで分離した後、アルコール / KOH とカルボン酸の混合物を加え
る。60分ほど加熱還流することにより、黄白色の沈殿が生成する。必要に応じてメタノールなど溶解性の低い溶媒を用いて沈殿を洗浄し、更に残留溶媒を乾燥して目的とする、カルボキシル基を有する金属ヒドリド錯体が得られる。
【0020】
中間に生成する金属(ヒドリド)ハライドは、原料である金属ハライド(水和物)からほぼ定量的に得られることが知られており (N. Ahmad, et al., Inorg. Synth., 15, 45 (1974)))、これを一旦単離した後、以降、同一の操作を行っても高いトータル収率で目的物が得られる。
【0021】
反応系の温度は特に限定しないが、カルボン酸の酸性度に応じて−20℃から200℃の範
囲の温度で操作する。
また、カルボン酸の等量についても特に限定しないが、原料の金属錯体の転化率を90%
以上にするためには、金属錯体に対し、少なくとも1等量以上、好ましくは2等量以上を添加することが望ましい。
【0022】
反応溶媒は、必要に応じてあらゆるアルコール溶媒を選択することができる。具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、n-ブタノール、ジエチレングリコールなどのアルコール溶媒などから1種または2種以上選ばれた溶媒中で反応を行うことができる。また、上記アルコール溶媒と、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタンなどの脂環式炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒、クロロメタン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロシクロペンタン、クロロシクロヘキサン、クロロベンゼン、ジクロロべンゼンなどのハロゲン化炭化水素溶媒などから選ばれた1種または2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。
【0023】
錯体の乾燥方法は特に限定せず、減圧下で残留溶媒を除去する方法、常圧下で窒素、あるいはアルゴン気流中に暴露して残留溶媒を飛散させる方法などをとることができる。
本発明で合成できる、カルボキシル基を有する金属ヒドリド錯体は、アルケン、アルキンなどの炭素−炭素間不飽和結合への水素化反応、ヒドロシリル化反応、ヒドロホウ素化反応、ヒドロスタニル化反応、オレフィン異性化反応などの触媒として、高い活性をもつ。このため、本発明の製造方法は、この触媒に使用できる金属ヒドリド錯体を安価にかつ大量に提供する手段を与えるものである。
【0024】
[実施例]
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限を受けるものではない。
【0025】
また、生成錯体の同定は下記の分析機器によっておこなった
(1) 1H−NMR:
重クロロホルムを溶媒とし、日本電子株式会社製 270 MHz-NMR (EX270) によって測
定した。
【0026】
(2) IR:
日本分光社製FT/IR-480 Plusによって測定した。
また、原料となるRuCl3・3H2O、ホルムアルデヒド水溶液(40%)、KOHは和光純薬工業製
を使用した。また、n-ブタノール、メタノール、安息香酸、p-ペンチル安息香酸、p-オクチル安息香酸などは和光純薬工業製を窒素バブリングし、溶存酸素、水分などを減少させた上で使用した。
【0027】
[実施例1]
RuCl3・3H2O を原料としたRuH(OCOC6H5)(CO)(PPh3)2の合成
窒素雰囲気下、トリフェニルホスフィン 1.58 g (6.0 mmol) のn-ブタノール溶液を加
熱還流させ、これにホルムアルデヒド水溶液 20 mL、RuCl3・3H2O 0.26 g ( 1.0 mmol) のn-ブタノール (20 mL)溶液を順次加えた後、30分間加熱還流させた。室温にて放冷後、桃白色の沈殿が生成した。この生成混合物から上澄みをデカンテーションにて分離し、RuHCl(CO)(PPh3) 3の粗生成粉末が得られた。
【0028】
この粉末に対し、KOH 0.168 g (3 mmol)と安息香酸 0.366 g (3 mmol) の混合物、およびn-ブタノール (20mL) 溶液を加え、90分間加熱還流することにより、黄白色の粉状の生成物が析出した。反応液を室温まで冷却した後、生成固体を上澄みから濾別した。固体粉末を冷メタノール(0℃) 2mL (0℃) 、水2mL、冷メタノール(0℃) 2mLで洗浄した後、減圧下で乾燥させて、目的物が得られた(0.659 g , 0.85 mmol) 収率 85%。生成物を1H-NMRにて分析した結果、6.8〜7.2 ppmの領域に安息香酸のPh基のピークが、また7.2〜7.8 ppmの領域にトリフェニルホスフィン上のPh基のピークが、それぞれ積分比で約 5 : 30 の比率で観測され、理論値と良好な一致をみた。また、31P-NMRにて分析した結果、45. 9 ppmにトリフェニルホスフィンのピークがシングレットで検出された。さらにIRの測定により、2015 (Ru-H), 1925 (CO), 1525 (金属配位のカルボニル) cm-1 に吸収が観測され、目的
の分子構造RuH(OCOC6H5)(CO)(PPh3)2が形成されていることが確認できた。
【0029】
[実施例2]
RuCl3・3H2O を原料としたRuH(OCOC6H4-C5H11)(CO)(PPh3)2の合成
安息香酸に代えてn-ペンチル安息香酸を用いたこと以外は、実施例1と同様の反応操作
を行い、対応する生成物が得られた(0.753 g,0.89 mmol,収率 89%)。生成物を1H-NMRにて分析した結果、0.8〜2.5 ppmの飽和炭化水素の領域と、6.7〜7.6ppmの不飽和炭化水素
の領域の積分比が約 11:34となり、理論値と良好な一致をみた。また、31P-NMRにて分析した結果、45. 8 ppmにトリフェニルホスフィンのピークがシングレットで検出された。
さらに、IRの測定により、2012 cm-1 (Ru-H), 1913 cm-1 (CO), 1541 cm-1(金属配位のカルボン酸残基)に吸収が観測され、目的化合物であるRuH(OCOC6H4-C5H11)(CO)(PPh3)2が形成されていることが確認できた。
【0030】
[実施例3]
RuCl3・3H2O を原料としたRuH(OCOC6H4-C8H17)(CO)(PPh3)2の合成
安息香酸に代えてn−オクチル安息香酸を用いたこと以外は、実施例1と同様の反応操作を行い、対応する生成物が得られた(0.628 g,0.81 mmol,収率 81%)。生成物を1H-NMRにて分析した結果、0.8〜2.5 ppmの飽和炭化水素の領域と、6.7〜7.6 ppmの不飽和炭化水素の領域の積分比が約 17:34となり、理論値と良好な一致をみた。また、31P-NMRにて分析した結果、45.8 ppmにトリフェニルホスフィンのピークがシングレットで検出された。さらに、IRの測定により、2014 cm-1 (Ru-H),1934cm-1 (CO),1546 cm-1(金属配位のカル
ボン酸残基)に吸収が観測され、目的化合物である RuH(OCOC6H4-C8H17)(CO)(PPh3)2 が形成されていることが確認できた。
【0031】
[比較例1]
KOH と安息香酸を逐次添加する方法によるRuH(OCOC6H5)(CO)(PPh3)2の合成
窒素雰囲気下、トリフェニルホスフィン 1.58 g (6.0 mmol) のn-ブタノール溶液を加
熱還流させ、これにホルムアルデヒド水溶液 20 mL、RuCl3・3H2O 0.26 g (1.0 mmol)
のn-ブタノール (20 mL)溶液を順次加えた後、30分間加熱還流させた。室温にて放冷後、桃白色の沈殿が生成した。この生成混合物から上澄みをデカンテーションにて分離し、RuHCl(CO)(PPh3)3の粗生成物が得られた。
【0032】
続いてKOH 0.168 g (3 mmol) のn-ブタノール (20mL) 溶液を加え、1時間加熱還流した。室温まで冷却した後、上澄みをデカンテーションにて分離し、RuH2(CO)PPh3(PPh3)3
粗生成物が、灰白色の固体として得られた。これに対して、n-ブタノール (20 mL) と安
息香酸 0.366 g (3 mmol) を添加した後、1時間加熱還流することにより、黄白色の粉状
の生成物が析出した。反応液を室温まで冷却した後、生成固体を上澄みから濾別した。固体粉末を冷メタノール(0℃) 2mL (0℃) 、水2mL、冷メタノール(0℃) 2mLで洗浄した後、減圧下で乾燥させて、目的物が得られた(0.574 g , 0.74 mmol) 収率 74%。本手法は、実施例1に比べて (i) 操作工程が多い、(ii) 合成にかかる時間が長い、(iii) 用いる溶媒
の量が多い、(iv) 低収率、という結果となった。
【0033】
[比較例2]
RuCl3・3H2O を原料としたRuH(OCOC6H4-C5H11)(CO)(PPh3)2の合成
安息香酸に代えて、n−ペンチル安息香酸を用いることの他は、比較例1と同様の反応操作を行い、対応する生成物が得られた (0.605 g , 0.78 mmol) 収率78%。比較例1の結果
と同様に、本発明の操作に従った実施例2の結果にくらべ、(i) 操作工程が多い、(ii) 合成にかかる時間が長い、(iii) 用いる溶媒の量が多い、(iv) 低収率、という結果となっ
た。
【0034】
[実施例4]
RuHCl(CO)(PPh3) 3を原料としたRuH(OCOC6H4-C5H11)(CO)(PPh3)2 の合成
窒素雰囲気下、RuHCl(CO)(PPh3) 3 0.952 g ( 1.0 mmol) に、KOH 0.168 g (3 mmol)とn-ペンチル安息香酸 0.577 g (3 mmol) の混合物、およびn-ブタノール (20mL) 溶液を加え、90分間加熱還流することにより、黄白色の粉状の生成物が析出した。反応液を室温まで冷却した後、生成固体を上澄みから濾別した。固体粉末を冷メタノール(0℃) 2mL (0℃) 、水2mL、冷メタノール(0℃) 2mLで洗浄した後、減圧下で乾燥させて、目的物が得られた(0.787 g , 0.93 mmol) 収率 93%。生成物を1H-NMRにて分析した結果、実施例2の生成
物と同じ分子構造RuH(OCOC6H4-C5H11)(CO)(PPh3)2が形成されていることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を、リン配位子を形成しうる化合物の存在下アルコール溶媒中でホルムアルデヒドと反応させた後、Q-Hで表されるカルボン酸(式中QはR1CO2
表されるカルボキシル基を示す。ここで、R1は炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のハロゲン原子を含有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基から選択される置換基である。)および水酸化アルカリ金属を同時に添加して、式(2)で示される金属ヒドリド錯体を製造することを特徴とする金属ヒドリド錯体の製造方法;
MCl3・(H2O)m ・・・(1)
〔式中MはRu, Rh, Os, Ir から選ばれた金属を示し、mは0、1、2または3の整数を示す。〕;
MHkQnTpZq ・・・(2)
〔式中、MはRu, Rh, Os, Ir から選ばれた金属を示し、QはR1CO2で表されるカルボキシル基(R1は炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のハロゲン原子を含有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基から選択される置換基)を示し、TはCOおよびNOから選
ばれた1種以上の原子団を示し、ZはPR2R3R4(R2、R3、R4はそれぞれ同一もしくは異なる
アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)を示し、kは1または2であり
、nは1または2であり、pは0, 1, 2または3であり、qは0, 1, 2または3である。また、k, n, p, qの合計は5または6である。〕。
【請求項2】
請求項1記載のQ-Hで表されるカルボン酸および水酸化アルカリ金属を同時に添加する
にあたり、当該Q-Hで表されるカルボン酸および水酸化アルカリ金属を混合物として添加
することを特徴とする請求項1記載の金属ヒドリド錯体の製造方法。
【請求項3】
リン配位子を形成しうる化合物の存在下上記式(1)で表される化合物をアルコール溶媒中でホルムアルデヒドと反応させた後、請求項1記載のQ-Hで表されるカルボン酸およ
び水酸化アルカリ金属を添加する前において、中間体を単離しないことを特徴とする請求項1または2に記載の金属ヒドリド錯体の製造方法。
【請求項4】
下記式(3)で表される金属錯体に、請求項1記載のQ-Hで表されるカルボン酸および
水酸化アルカリ金属を同時に添加して、上記式(2)で示される金属ヒドリド錯体を製造することを特徴とする、金属ヒドリド錯体の製造方法;
MHkYnTpZq ・・・ (3)
〔式中、MはRu, Rh, Os, Ir から選ばれた金属を示し、Yはハロゲン原子を示し、TはCOおよびNOから選ばれた1種以上の原子団を示し、ZはPR2R3R4(R2、R3、R4はそれぞれ同一
もしくは異なるアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)を示し、kは1または2であり、nは1, 2または3であり、pは0, 1, 2, 3または4であり、qは0, 1, 2, 3または4である。また、k, n, p, qの合計は5または6である。〕。
【請求項5】
請求項1記載のQ-Hで表されるカルボン酸および水酸化アルカリ金属を同時に添加する
にあたり、当該Q-Hで表されるカルボン酸および水酸化アルカリ金属を混合物として添加
することを特徴とする請求項4記載の金属ヒドリド錯体の製造方法。
【請求項6】
前記式(1)から(3)において、金属Mがルテニウムであることを特徴とする請求項1〜5に記載の金属ヒドリド錯体の製造方法。

【公開番号】特開2008−222556(P2008−222556A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58547(P2007−58547)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】