説明

金属フィルタの製造方法および金属フィルタ

【課題】単一層の金属箔に対して均一な微細孔を精度良く形成する金属フィルタの製造方法および金属フィルタを提供する。
【解決手段】フィルタ素材となる金属フィルム(金属箔2)に多数のフィルタ開口(開口部3a)を形成する開口形成工程と、多数のフィルタ開口を形成した金属フィルムに、金属めっきを施して各フィルタ開口を狭窄化するめっき工程と、を備えたものである。これにより、略20μm角の各フィルタ開口を5μm角〜10μm角に狭窄化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属めっき法を利用する金属フィルタの製造方法および金属フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、フィルタ等に使用されている金属製メッシュは、金属箔の薄さと孔の大きさの均一性が求められている。従来、厚さの制御を行うことができる圧延材である金属箔を用いて、フォトレジスト法を利用した金属製メッシュの製造方法が知られている(特許文献1)。この製造方法によると、エッチング液の濃度や処理時間により、金属箔の開口率およびメッシュパターンを自由に制御することができ、孔幅が200〜800μmである均一のメッシュパターンを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−350168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の金属製メッシュの製造方法においては、等方性エッチングで金属箔に対して垂直方向のみならず横方向にもエッチングが進むため、金属箔に数μm程度の微細孔を形成することができないという問題があった。したがって、現実には、微細孔を有する金属フィルタとしては提供されていない。
【0005】
本発明は、単一層の金属箔に対して均一な微細孔を精度良く形成する金属フィルタの製造方法および金属フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属フィルタの製造方法は、フィルタ素材となる金属フィルムに多数のフィルタ開口を形成する開口形成工程と、多数のフィルタ開口を形成した金属フィルムに、金属めっきを施して各フィルタ開口を狭窄化するめっき工程と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、立体的に編んでメッシュ状に製造した場合では対応できないほど極めて薄い金属フィルタを製造することができるだけでなく、めっき工程によって微細な開口パターンを均一に形成することができる。これによって、金属フィルタの用途範囲の拡大を図ることができる。
【0008】
この場合、金属フィルムが金属箔であることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、異物が発生しない極めて薄い金属フィルタを製造することができ、洗浄等によって再生使用することができる。
【0010】
この場合、開口形成工程において、プレス打抜きにより多数のフィルタ開口を形成することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、薄い金属フィルムに対して数μmオーダーの微細な開口部を形成することができる。
【0012】
この場合、開口形成工程において、各フィルタ開口を略20μm角に形成し、めっき工程において、略20μm角の各フィルタ開口を5μm角〜10μm角に狭窄化することが好ましい。
【0013】
また、この場合、開口形成工程において、多数のフィルタ開口を50μm〜100μmピッチで形成することが好ましい。
【0014】
この場合、めっき工程後のフィルタ素材の厚さが、15μm〜50μmであることが好ましい。
【0015】
これらの構成によれば、極めて薄い金属フィルタを製造することができ、金属フィルタにおいてこれまでに実現できなかった10μm以下という微細な開口パターンを均一に形成することができる。
【0016】
この場合、めっき工程が、無電解めっきまたは電解めっきにより行われることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、電解めっきまたは無電解めっきは比較的安価で、金属フィルムとの密着性が高く、めっき厚の調整が容易で、精度良く金属フィルタの多量生産をすることができる。さらに、無電解めっきは、電流分布の影響がないので、複雑な形状の部品に均一にめっきすることができる。
【0018】
また、本発明の金属フィルタは、上述した金属フィルタの製造方法により製造したことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、金属めっき法によって、これまでに実現しなかったほど微細な数μmオーダーの開口パターンを有する、極めて薄い単一層の金属フィルタを様々な分野に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)開口形成工程によって開口部が形成された金属箔、および(b)めっき工程後の金属フィルタ、を示す平面模式図である。
【図2】プレス装置の構成を示す要部断面図である。
【図3】開口形成工程を説明する断面図である。
【図4】(a)第1打抜き工程、および(b)第2打抜き工程、において開口形成された金属箔の要部断面図である。
【図5】(a)第1打抜き工程、および(b)第2打抜き工程、において開口形成された金属箔を示す平面模式図である。
【図6】(a)めっき工程前の金属箔、および(b)めっき工程後の金属箔(金属フィルタ)、を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係る金属フィルタをその製造方法と共に説明する。この金属フィルタは、例えば血液から赤血球を分離する分離膜等に利用されるものである。
【0022】
図1に示すように、金属フィルタ1は、微細な開口部(フィルタ開口)3aを整列配置するように多数形成した単一層の金属箔2(図1(a)参照)に、Niめっき層6を形成したものである(図1(b)参照)。全体として金属フィルタ1は、方形に形成されており、厚さが15μm〜50μm、各開口部3が5μm角〜10μm角であって50μm〜100μmピッチで配設されている。金属箔2の材質は、めっき加工によって厚付け可能であれば特に限定されず、例えばNiやCuを含む靭性の高い金属で構成されている。なお、本実施形態の金属フィルタ1は、全体が方形に形成されているが、円形等であってもよい。
【0023】
図2ないし図5は、プレス装置10による本実施形態に係る金属フィルタ1の製造方法を示している。
金属フィルタ1は、単一層の金属箔(金属フィルム)2に多数の開口部(めっき工程前)3aを形成する開口形成工程と、多数の開口部3aが形成された金属箔2に無電解NiめっきによってNiめっき層6を形成するめっき工程と、を実施することによって製造される。
【0024】
開口形成工程は、図2に示すプレス装置10を用いて金属箔2を打ち抜くことによって行われる。このプレス装置10は、下側の固定部11と、固定部11に対して上下動する上側の可動部12と、可動部12を打抜き動作(昇降動)させる油圧シリンダ(図示省略)と、を備えている。
【0025】
固定部11には、ベースとなる基台13の上に金属箔2を支持するための弾性マット14が着脱自在に配置され、また基台13は、図示しない移動テーブル上に搭載されている。金属箔2は、プレス加工時に、弾性マット14上に位置決め状態でセットされ、移動テーブルは、基台13を介して金属箔2を、上記開口部3aのピッチの2倍に相当する距離、X軸方向(図1参照)に間欠送りするようになっている(詳細は、後述する)。そして、弾性マット14は、ポリエチレンテレフタラート等の弾性を有する素材の板材であり、金属箔2の20倍前後の厚さに形成されている。
【0026】
可動部12は、Y軸方向に列設した複数本のパンチ16と、複数本のパンチ16を保持するパンチホルダ15と、打抜き動作をガイドするためのストリッパプレート17と、で構成されている。パンチホルダ15には、上記の開口部3aのピッチに対応するピッチで配設した複数のパンチ16が垂設されている。ストリッパプレート17には、パンチ16をガイドするための複数のパンチガイド孔18が形成される一方、コイルスプリングなどの付勢手段を巻回したストリッパボルト(図示省略)によって基台13に付勢された状態で、パンチホルダ15に対して相対的に離接自在に取付けられている。なお、ストリッパプレート17には、金属箔2を位置決めするためのガイドピンを設けてもよい。
【0027】
このプレス装置10による開口形成工程は、開口部3aを形成する第1打抜き工程と、金属箔2を表裏反転して開口部3aを形成する第2打抜き工程と、で行われる。
先ず、第1打抜き工程において、金属箔2を弾性マット14に載置するようにして基台13にセットする。このとき、金属箔2の外周縁には矯正枠(図示省略)が取付けられ、加工中の金属箔2が反ることなく弾性マット14に当接するように、金属箔2の面方向にテンションが与えられる。この状態で、油圧シリンダを駆動し、可動部12を弾性マット14に向けて下降させて、金属箔2に対し開口部3aを打ち抜くようにする。
【0028】
可動部12を下降させると、先ずストリッパプレート17の下面が金属箔2の表面に当接し、これを押圧する。次に、ストリッパプレート17のパンチガイド孔18にガイドされて、パンチホルダ15と共にパンチ16が金属箔2に向かって下降し、パンチ16の先端が金属箔2を打ち抜いてゆく(図3(a)、(b)参照)。そして、パンチホルダ15の下面がストリッパプレート17の上面に当接し、打ち抜きが終了する(図3(b)参照)。この時、開口部3aを打ち抜かれた金属箔2は、弾性マット14に押し込まれる初期動作で裏面に向かって幾分隆起する(図3(c)参照)。打抜き動作が終了すると、可動部12が上昇し、先ずパンチ16が上昇して金属箔2から引き抜かれる。次に、パンチ16が元の位置に戻るに従い、ストリッパプレート17が金属箔2から離れて上昇する。
【0029】
続いて、移動テーブルが駆動し、金属箔2をX軸方向に移動させ(上記2倍のピッチ分)、同様の打抜き動作を行う。そして、これを繰り返すことにより、Y軸方向においては所望のピッチの開口部3aが、X軸方向においては所望のピッチの2倍のピッチとなる複数の開口部3aが形成される(図4(a)および図5(a)参照)。なお、図3(c)に示すように、弾性マット14内には金属箔2の打抜き片が残される。これにより、打抜き片を収集する工程を省略することができ、作業の効率化を図ることができる。また、打抜き動作における、金属箔2表面から弾性マット14内へのパンチ16の押し込み量は、金属箔2の厚さの2倍以上であることが好ましい。
【0030】
第1打抜き工程終了後、第2打抜き工程に移行する。第2打抜き工程では、先ず、弾性マット14上で金属箔2をそのまま裏返して再セットする。ここで、移動テーブルを駆動し、第1打抜き工程で打ち抜いた端の2つの開口部3aの中間に可動部12を位置させる。そして、この状態で、上述の第1打抜き工程と全く同一の打抜き動作を実施する。すなわち、第1打抜き工程では、金属箔2に対し表面側から開口部3aを打ち抜いたが、第2打抜き工程では、金属箔2に対し裏面側から開口部3aを打ち抜く(図4参照)。これにより、第1打抜き工程における開口部3aと第2打抜き工程における開口部3aとがX軸方向においても、交互に所望のピッチで形成される(図4(b)および図5(b)参照)。なお、本実施形態においては、金属箔2の開口部3a同士の距離(開口ピッチ)を開口部3aの幅の2倍以上である約50μmに設定している。
【0031】
ところで、本実施形態では、開口形成工程において上記のプレス装置10(打抜き装置)を採用したが、これに限定するものではなく、金属箔2に微細孔を形成することができるものであれば、例えば、ドリル加工、ウォータージェット加工、レーザー加工、プラズマ加工、エッチング加工等の技術によるものであってもよい。
【0032】
図6に示すように、開口形成工程終了後、めっき工程に移行する。めっき工程では、前処理工程とめっき処理工程とが行われる。なお、めっき処理は、無電解Niめっきに限定されるものではなく、金属箔2に厚付け可能な金属めっきであればよい。
【0033】
前処理工程は、脱脂工程、水洗工程、および酸活性工程が行われる。
先ず、金属箔2の状態によって調整された脱脂液に漬けて、表面に付着した加工油や汚れ等を除去する(脱脂工程)。脱脂工程は、Niめっきの密着性を高めるために行われ、超音波洗浄機を併用してもよい。脱脂工程後、脱脂液を次の薬液層に持ち込まないように、純水で水洗いして脱脂具合の確認をする(水洗工程)。その後、電解脱脂によって再度脱脂工程を行い完全に脱脂させる。次に、脱脂した金属箔2を酸に浸漬させて、表面を薄く溶かし、酸化皮膜等を除去する(酸活性工程)。その後、再度水洗いして酸を洗い流して、前処理工程は終了する。この前処理工程は、金属箔2の種類や目標とするめっき厚によって、処理条件(脱脂液の組成、処理時間等)を変更して行われる。
【0034】
続いて、めっき処理工程に移行する。前処理を行った金属箔2を無電解Niめっき浴に浸漬し、Niめっきを析出させる。最終的に金属フィルタ1が厚さ15μm〜50μm、開口部(めっき工程後)3が5μm角〜10μm角になるように、設定された処理条件の下、金属箔2にNiめっき層6が形成される。めっき浴は次亜リン酸を還元剤とし、ニッケル塩、錯化剤、安定剤が含まれており、pH4〜5、浴温80〜95℃である。次亜リン酸浴のため、リンが共析する。無電解めっきは、めっき浴の温度とめっき浴のpHに影響されやすい。一般に、温度が高くなると析出速度が速くなるため、通常90℃付近で作業をするが、温度が10℃下がると、析出速度が約半分になる。したがって、作業中はめっき浴の温度を均一に保つと共に、温度が下がり易い時期には加温しながら作業することが好ましい。
【0035】
その後、金属箔2を乾燥させて、めっき工程が終了する。約20μm角の開口部3a内壁を含む金属箔2(図6(a)参照)の外表面にNiめっき層6が均一に厚付けされた結果、開口部3aが5μm角〜10μm角に狭窄化されて金属フィルタ1が製造される(図6(b)参照)。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の金属フィルタ1の製造方法は、プレス加工による開口形成工程によって形成した開口部3a内壁に、めっき処理を施すことによって、開口部3aが狭窄化され、従来の金属フィルタ1では実現できなかった数μmオーダーの開口部3を有する金属フィルタ1を提供することができる。また、めっき厚をコントロールすることで、任意の開口サイズ、フィルタ厚の金属フィルタ1を得ることができる。
【0037】
なお、本実施形態ではNiめっきのみで金属箔2に厚付けしたが、めっき処理の回数や種類は限定されるものではなく、例えば、NiめっきまたはCuめっきにより厚付けした後、最終的に仕上げとしてAuめっきを施してもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…金属フィルタ 2…金属箔 3a…開口部(めっき工程前) 3…開口部(めっき工程後) 6…Niめっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタ素材となる金属フィルムに多数のフィルタ開口を形成する開口形成工程と、
前記多数のフィルタ開口を形成した前記金属フィルムに、金属めっきを施して前記各フィルタ開口を狭窄化するめっき工程と、を備えたことを特徴とする金属フィルタの製造方法。
【請求項2】
前記金属フィルムが金属箔であることを特徴とする請求項1に記載の金属フィルタの製造方法。
【請求項3】
前記開口形成工程において、プレス打抜きにより前記多数のフィルタ開口を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の金属フィルタの製造方法。
【請求項4】
前記開口形成工程において、前記各フィルタ開口を略20μm角に形成し、
前記めっき工程において、略20μm角の前記各フィルタ開口を5μm角〜10μm角に狭窄化することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の金属フィルタの製造方法。
【請求項5】
前記開口形成工程において、前記多数のフィルタ開口を50μm〜100μmピッチで形成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の金属フィルタの製造方法。
【請求項6】
前記めっき工程後の前記フィルタ素材の厚さが、15μm〜50μmであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の金属フィルタの製造方法。
【請求項7】
前記めっき工程が、無電解めっきまたは電解めっきにより行われることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の金属フィルタの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の金属フィルタの製造方法により製造したことを特徴とする金属フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−172841(P2010−172841A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19294(P2009−19294)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】