説明

金属メッキ板のレーザー溶接方法

【課題】金属メッキ板の間に微小な隙間を形成するための特別な機構を不要とし、溶接品質を確保したレーザー溶接方法を提供する。
【解決手段】集光レンズ16を通してレーザー光18を射出し、集光レンズ16の焦点位置Pにレーザー光18を集光させるレーザーヘッド13を準備する。亜鉛メッキ鋼板11,12を隙間なく密着して重ね合わせる。そして、レーザーヘッド13により、重ね合わせ部分の亜鉛メッキ鋼板12の表面にレーザー光18を照射することによりレーザー照射領域19の鋼板部分を溶融して溶接接合を形成する。この時、レーザー光18の照射領域19が、溶接接合部に亜鉛ガスの噴出による溶接欠陥が発生しない大きさになるように、レーザー光18の焦点位置Pを亜鉛メッキ鋼板12の表面から上方にずらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の金属メッキ板の重ね合わせ部分をレーザー溶接する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛メッキ鋼板は母材金属板である鋼板の表面に防錆用の亜鉛メッキを施した鋼板材であり、自動車の車体の構造材等として多用されている。車体等を形成する場合に、2枚の亜鉛メッキ鋼板を重ね合わせて、その重ね合わせ部分にレーザー光を照射して、鋼板材を溶融、結合させるレーザー溶接法が知られている。
【0003】
上記レーザー溶接を行うと、亜鉛の沸点(約900℃)が鋼板(鉄)の融点(約1500℃)より低いことに起因して溶接欠陥が発生することが知られている。つまり、レーザー光を前記重ね合わせ部分に照射することにより、鋼板が溶融するが、この時、重ね面の亜鉛がガス化する。そして、亜鉛ガスは溶融した鋼板内を通って外に抜けようとする。その結果、溶融した鋼板の一部が吹き飛ばされたり、一部の亜鉛ガスが鋼板内部に残り、ブローホールと呼ばれる気孔を形成して、溶接強度を劣化させたり、外観が悪くなる。(特許文献1を参照)
【0004】
また、このようなブローホール等の溶接欠陥を防止するために、特許文献2、3には、重ね合わせた金属メッキ板の間に、メッキ金属ガス逃がし用の微小な隙間を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−262187号公報
【特許文献2】特開2001−162387号公報
【特許文献3】特開2007−038269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のように重ね合わせた金属メッキ板間にメッキ金属ガス逃がし用の微小な隙間を形成する方法においては、微小な隙間を形成するための特別な機構を用いる必要があった。このような機構は金属メッキ板を密着して重ね合わせる機構に比べて複雑である。
【0007】
そこで、本発明は、微小な隙間を形成するための特別な機構を用いることなく、溶接品質を確保した金属メッキ板のレーザー溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、母材金属板の表面に母材金属板の融点よりも低い沸点を有した金属をメッキしてなる複数の金属メッキ板を重ね合わせて、当該金属メッキ板の重ね合わせ部にレーザー光を照射して複数の該金属メッキ板を溶接する金属メッキ板のレーザー溶接方法において、集光レンズを通してレーザー光を射出し、前記集光レンズの焦点位置にレーザー光を集光させるレーザーヘッドを準備し、前記複数の金属メッキ板を隙間なく密着して重ね合わせる工程と、前記レーザーヘッドにより前記重ね合わせ部分の金属メッキ板の表面にレーザー光を照射することによりレーザー照射領域の母材金属を溶融して、溶接接合を形成する工程と、を有し、前記レーザー光の照射領域が、溶接接合部にメッキ金属ガスの噴出による溶接欠陥が発生しない大きさになるように、前記レーザー光の焦点位置を前記金属メッキ板の表面からずらしたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明によれば、複数の金属メッキ板を隙間なく密着して重ね合わせた状態でレーザー照射しているので、金属メッキ板を固定する治具の機構を簡単にできる。
【0010】
そして、本発明によれば、レーザー照射領域の面積がある程度大きくなるようにレーザー光をデフォーカスして照射しているので、レーザー照射領域における母材金属を溶融して形成される溶融池の面積も大きくなり、この溶融池を通してメッキ金属ガスを低い圧力で安定して外部に逃がすことができる。これにより、メッキ金属ガスにより溶融金属の吹き飛びや、ブローホール等の溶接欠陥を防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属メッキ板を隙間なく密着させた状態でレーザー光照射を行うので、金属メッキ板の間に微小な隙間を形成するための特別な機構が不要となり、しかも溶接品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態のレーザー加工装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態のレーザー溶接方法により形成された円形状の溶接部分を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態のレーザー溶接方法を説明する亜鉛メッキ鋼板の重ね合わせ部の断面図である。
【図4】本発明の実施形態のレーザー加工装置の他の構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態のレーザー溶接方法により形成されたライン状の溶接部分を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。先ず、レーザー加工装置の構成を図1に基づいて説明する。図示のように、レーザー加工テーブル10上に、2枚の亜鉛メッキ鋼板11,12を重ね合わせた状態で載置する。
【0014】
亜鉛メッキ鋼板11,12が載置されたレーザー加工テーブル10の上方には、レーザーヘッド13が配置され、このレーザーヘッド13に光ファイバー14を介してファイバーレーザー発振器17によって発生されたレーザー光レーザービーム18が出力されるように構成されている。ファイバーレーザー発振器17の代わりに、YAGレーザー発振器、COレーザー発振器等の他の種類のレーザー発振器を用いてもよい。
【0015】
レーザーヘッド13には、コリメーションレンズ15と集光レンズ16が収納されている。ファイバーレーザー発振器17からのレーザー光18は、先ず、コリメーションレンズ15によって一旦平行光線に変換され、その平行光線が集光レンズ16を通して射出され、所定の焦点位置Pに集光される。
【0016】
また、レーザーヘッド13は、例えば、レーザー加工ロボットのような移動手段によって、上方の亜鉛メッキ鋼板12の面内のX方向及びY方向、亜鉛メッキ鋼板12の表面に垂直なZ方向に移動自在に構成されている。さらに、レーザーヘッド13から射出されるレーザー光18のZ方向に対する角度は調整可能に構成されており、例えば、前記角度が±15°の範囲で調整できるように、レーザーヘッド13をその回転軸を中心に回転可能に構成しても良い。
【0017】
従って、レーザーヘッド13をZ方向に移動させることにより、レーザーヘッド13から射出されるレーザー光18の焦点位置PをZ方向に移動させ、照射領域19(亜鉛メッキ鋼板12に垂直な方向からみて円形の領域になる)の面積を変えることができる。レーザー光18のエネルギー密度は照射領域19の単位面積当たりのエネルギーであり、ファイバーレーザー発振器17の出力が一定であれば、レーザー光18のエネルギー密度は照射領域19の面積に反比例することになる。
【0018】
以下、本実施形態による亜鉛メッキ鋼板のレーザー溶接法について説明する。先ず、図1に示すように、レーザー加工テーブル10上に2枚の亜鉛メッキ鋼板11,12を重ね合わせた状態で載置する。この場合、亜鉛メッキ鋼板11,12を上下方向から固定治具で押さえて、亜鉛メッキ鋼板11,12の重ね合わせ部を隙間の無い密着状態にする。この場合、亜鉛メッキ鋼板11が下板、亜鉛メッキ鋼板12が上板になっている。
【0019】
次に、レーザー加工ロボットにより、レーザーヘッド13をX、Y、Z方向に移動させ、亜鉛メッキ鋼板11,12の重ね合わせ部上に位置させる。そして、重ね合わせ部分の亜鉛メッキ鋼板12の表面から内部に向けてレーザー光18を所定時間照射することにより、レーザー光18の照射領域19の亜鉛メッキ鋼板11,12の鋼材部分を加熱溶融し、その後自然冷却することにより図2に示すような円形状の溶接接合部20を形成する。
【0020】
この時、図1及び図3に示すように、レーザー光18の照射領域19は、溶接接合部20に亜鉛ガスの噴出による溶接欠陥が発生しない大きさになるように、レーザー光の焦点位置Pを亜鉛メッキ鋼板12の表面から上方にずらしている。即ち、レーザー光を照射面(亜鉛メッキ鋼板12の表面)からデフォーカスさせることにより、照射領域19の面積を大きくする。
【0021】
これにより、図3に示すように、亜鉛メッキ鋼板11,12の鋼材部分が溶融することにより形成される溶融池23の平面的な面積がある程度大きくなる。レーザー光18の照射による加熱により、照射領域19及びその周辺の亜鉛メッキ鋼板11,12の密着表面の亜鉛ガス発生領域21から、メッキされた亜鉛が気化して亜鉛ガス22が発生する。すると、亜鉛ガス発生領域21から発生された亜鉛ガス22は、大きな溶融池23を通して低い圧力で外部に逃げる。これにより、亜鉛ガス22による溶融鋼材の吹き飛びや、ブローホール等の溶接欠陥を防止することができる。
【0022】
また、本実施形態によれば、1回のレーザー照射により短時間で溶接を行うことができるので生産性が高いという利点もある。
【0023】
本発明者は、図1のレーザー加工装置を用いて本発明の効果を実証するための実験を行った。この場合、亜鉛メッキ鋼板11,12は前述のように隙間なく密着された状態でレーザー光18の照射が行われた。また、レーザーヘッド13はレーザー光18の照射の間、亜鉛メッキ鋼板11,12に対して静止させた。その実験結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

先ず、2枚の亜鉛メッキ鋼板11,12の厚さが各0.7mmの場合、レーザー光18の照射領域19のスポット口径を6〜8mmとし、0.5秒間のレーザー照射を行った。レーザー光出力は3kWキロワットであった。
【0025】
また、亜鉛メッキ鋼板11,12の厚さが各1.2mmと比較的厚い場合には、
レーザー照射時間を0.8秒と少し長くし、レーザー光18の出力電力も4kWと高く設定したが、レーザー光の照射領域19のスポット口径は6〜8mmとした。これらの実験によると、溶融鋼材の吹き飛びや、ブローホール等の溶接欠陥はなく、溶接品質は良好であった。
【0026】
これに対して、通常のレーザー溶接の条件従来技術、つまり、スポット口径が0.5〜1.0mm程度の場合には、溶融鋼材の吹き飛びや、ブローホール等の溶接欠陥が発生し、溶接品質は不良であった。
【0027】
即ち、従来技術では亜鉛メッキ鋼板11,12を密着させた場合には、溶接欠陥を防止することは困難であった。これは、レーザー光18の照射領域19の面積が小さいと、溶融池23の面積も小さくなり、溶融池23を通して逃げようとする亜鉛ガス22の溶融池23内における圧力が高くなるためである。
【0028】
これに対して、本発明者は、レーザー光18の焦点位置Pを意図的に亜鉛メッキ鋼板12の表面からずらしてレーザー光18の照射領域19を大きくすることにより、溶接欠陥を防止できることを見出した。これは、溶融池23の平面的な面積を大きくすることにより、亜鉛ガス22の溶融池23内の圧力が低くなるからである。
【0029】
この場合、溶接欠陥を防止するためにレーザー光18の焦点位置Pをどの程度ずらすかについては、亜鉛メッキ鋼板11,12の厚さ、レーザー光18の出力電力、照射時間等の諸条件によって異なるが、先ず、諸条件の下で、亜鉛メッキ鋼板11、12のテストサンプルを用いて、レーザー光18の焦点位置P(レーザー光18の照射領域19を大きさ)を実験的に決定し、その後、その決定されたレーザー光18の焦点位置P(レーザー光18の照射領域19を大きさ)の下で、本番の亜鉛メッキ鋼板11,12のレーザー溶接を行うことが好ましい。
【0030】
上述の実施形態では、レーザーヘッド13をZ方向に上昇させた位置で固定することにより、レーザー光18の焦点位置Pを亜鉛メッキ鋼板12の表面から上方にずらしているが、これにより、レーザーヘッド13と亜鉛メッキ鋼板12の固定治具との干渉を防止することができるという副次的な効果が得られる。
【0031】
このような干渉のおそれがない場合は、図4に示すように、レーザーヘッド13を亜鉛メッキ鋼板12の表面に近接させることにより、レーザー光18をデフォーカスさせても良い。つまり、レーザー光18の焦点位置Pは、亜鉛メッキ鋼板12の表面から下方にずらされる。この構成においても、レーザー光18の照射領域19の面積を大きくすることができるので、上述の実施形態と同様に、溶接欠陥の防止効果が得られる。
【0032】
また、上述の実施形態では、レーザーヘッド13はレーザー光18の照射の間、亜鉛メッキ鋼板11,12に対して静止させて、円形状の溶接接合部20を形成しているが、レーザーヘッド13をX方向又はY方向に移動させることにより、デフォーカスした照射領域19を移動させて、ライン状の溶接接合部24を形成することもできる。
【0033】
照射領域19は、図5では亜鉛メッキ鋼板11,12の重ね合わせ部に設定されているが、重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板11,12の境界部に設定しても良い。本発明者の実験によれば、溶接欠陥を防止するために、レーザー光18の照射領域19の移動速度は、1.4m/分と通常のレーザー溶接の5m/分程度に比して小さくする必要があった。この場合についても、前述と同様に、事前に亜鉛メッキ鋼板11,12のテストサンプルを用いて、移動速度等の条件出しをしておくことが好ましい。
【0034】
また、上記実施形態においては、2枚の亜鉛メッキ鋼板11,12を重ね合わせた状態でレーザー溶接を行っているが、本発明は、3枚以上の亜鉛メッキ鋼板を重ね合わせた状態でレーザー溶接を行う場合にも適用することができる。このような場合でも大きな溶融池を形成することで亜鉛ガス22の圧力を下げることができるからである。
【0035】
さらに、本発明のレーザー溶接の対象となる金属メッキ板は、亜鉛メッキ鋼板に限らず、鋼板の表面に、鋼板の融点よりも低い沸点を有した金属、例えば、アルミニウム、或いは錫をメッキしてなる金属メッキ板であってもよい。また、母材金属板の材料も鉄に限定されることはなく、例えば、鉄と他の元素との合金でもよい。
【符号の説明】
【0036】
10・・・レーザー加工テーブル 11・・・亜鉛メッキ鋼板
12・・・亜鉛メッキ鋼板 13・・・レーザーヘッド
14・・・光ファイバー 15・・・コリメーションレンズ
16・・・集光レンズ 17・・・ファイバーレーザー発振器
18・・・レーザー光 19・・・レーザー光照射領域
20・・・円形状の溶接接合部 21・・・亜鉛ガス発生領域
23・・・溶融池 22・・・亜鉛ガス
24・・・ライン状の溶接接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材金属板の表面に母材金属板の融点よりも低い沸点を有した金属をメッキしてなる複数の金属メッキ板を重ね合わせて、当該金属メッキ板の重ね合わせ部にレーザー光を照射して複数の該金属メッキ板を溶接する金属メッキ板のレーザー溶接方法において、
集光レンズを通してレーザー光を射出し、前記集光レンズの焦点位置にレーザー光を集光させるレーザーヘッドを準備し、
前記複数の金属メッキ板を隙間なく密着して重ね合わせる工程と、
前記レーザーヘッドにより前記重ね合わせ部分の金属メッキ板の表面にレーザー光を照射することにより、レーザー光の照射領域の母材金属板を溶融して溶接接合部を形成する工程と、を有し、
前記レーザー光の照射領域が、溶接接合部にメッキ金属ガスの噴出による溶接欠陥が発生しない大きさになるように、前記レーザー光の焦点位置を前記金属メッキ板の表面からずらしたことを特徴とする金属メッキ板のレーザー溶接方法。
【請求項2】
前記レーザー光の焦点位置を金属メッキ板の表面から上方にずらしたことを特徴とする請求項1に記載の金属メッキ板のレーザー溶接方法。
【請求項3】
前記レーザー光を照射している間、前記レーザーヘッドを前記金属メッキ板に対して静止させることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属メッキ板のレーザー溶接方法。
【請求項4】
前記母材金属板は鉄鋼であり、前記母材金属板の表面にメッキされた金属は亜鉛又はアルミニウムであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の金属メッキ板のレーザー溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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