説明

金属リングの移動機構及びその移動方法

【課題】金属リングをラックから所定場所に簡易な方法で移動し、工数の低減を図ることができる金属リングの移動技術を提供することを課題とする。
【解決手段】金属リングの移動機構70は、金属リング11の全数若しくは一部をピックアップするハンド71と、このハンド71をラック10から所定場所へ移動させるアーム72とからなる。アーム72により、矢印(7)のようにハンド71をラック10に接近させる。
【効果】ハンドによって、ラックから複数の金属リングを一括してピックアップし、所定場所で1本を単位にしてハンドから分離させることができるので、金属リングをラックから所定場所に簡易な方法で移動し、工数の低減を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性変形可能な金属リングをラックから所定場所へ移動する金属リングの移動技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックには、金属リングの弾性復元力を利用して金属リングを保持するものが知られている(例えば、特許文献1(図1、図2)参照。)。
【0003】
図16は従来技術に係る金属リングの積載方法の基本原理を説明する図であり、ラック100は、金属リング101が段積みされる段積み式のラックである。
金属リング101はベルトコンベア102で、所定の位置に移動され、リフト103によって上方に押し上げられる。所定の位置で金属リング101は拡げ手段104により内側から所定の方向が長くなるように拡げられる。金属リング101は、搬送装置105によって段積み式のラック100に積載される。ラック100を昇降又は下降させ、上記の作業を繰り返すことでラック100に金属リング101が段積みされる。
【0004】
ところで、ラック100に段積みされた金属リング101は、例えば熱処理を施された後、次工程に移動される。
図17は金属リングを移動する工程を説明する図であり、(a)に示されるように、例えば熱処理を施された金属リング101は、ラックから整列ストッカー106に移される。シリンダ107を作動させ、矢印のようにワーク引っ掛け部108を前進させる。
【0005】
(b)に示されるように、ワーク引っ掛け部108の爪109が軸110を中心にして回転し、金属リング101の縁111を乗り越え、縁111の内側に引っ掛かる。
(c)に示されるように、矢印の向きに金属リング101を引き出し、金属リング101を受渡台112に載せる。
(d)に示されるように、受渡台112を軸113を中心にして回転させ、受渡台112を図手前下向きに傾斜させることで、金属リング101は爪109から離される。
【0006】
(e)は(d)のe矢視図であり、想像線で示す受渡台112は実線で示す受渡台112の位置に回転移動する。金属リング101は傾斜に沿って滑り、コンベア114に移動される。整列ストッカー106は一段昇降し、同様にして次の金属リング101を移動させる。
しかし、金属リング101は、一つずつコンベア114に移動されるため、全数をコンベア114に移動し終えるまでに、時間及び工数が増大する。すなわち、金属リングを所定場所に簡易な方法で移動し、工数の低減を図ることができる金属リングの移動技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−240086公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属リングをラックから所定場所に簡易な方法で移動し、工数の低減を図ることができる金属リングの移動技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、弾性変形可能な金属リングが複数個整列して収められているラックから、前記金属リングをピックアップし、所定場所へ移動する金属リングの移動機構において、前記金属リングの移動機構は、前記金属リングの全数若しくは一部をピックアップするハンドと、このハンドを前記ラックから前記所定場所へ移動させるアームとからなり、前記ピックアップしている前記金属リングを、所定場所にて一括して又は1本を単位にして、前記ハンドから分離させることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、ハンドに、金属リングを、磁気引着する磁石、又は、真空吸着する負圧パッドを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、ラックに、金属リングを押し上げるリング押し上げ手段が備えられていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明では、ラックは、熱処理炉に装入可能な耐熱性を有する耐熱材料で構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、弾性変形可能な金属リングが複数個整列して収められているラックから、金属リングをピックアップし、所定場所へ移動する金属リングの移動方法において、金属リングの全数若しくは一部をピックアップするハンドと、このハンドをラックから所定場所へ移動させるアームとを準備する工程と、アームにより、ハンドをラックに接近させる工程と、ハンドにより、ラックに収納されている金属リングの全数又は一部をピックアップする工程と、アームにより、ハンドをラックから所定場所まで移動する工程と、ピックアップしている金属リングを、所定場所にて1本を単位にして、ハンドから分離させる工程と、からなることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、コンベアで搬送されてきた金属リングを、熱処理し、後に所定場所へ移動する金属リングの自動熱処理方法において、コンベアで送られてくる金属リングを1個ずつ整列ストッカーに投入し、複数の金属リングの中心が鉛直軸に沿うように整列させる工程と、金属リングの中心が水平軸に沿うように整列ストッカーを90°回転させる工程と、整列ストッカーから耐熱性のラックに金属リングを移し替える工程と、ラックを熱処理炉へ装入して金属リングに熱処理を施す工程と、熱処理炉からラックを取り出す工程と、金属リングの全数若しくは一部をピックアップするハンドと、このハンドをラックから所定場所へ移動させるアームとを準備しておき、アームにより、ハンドをラックに接近させる工程と、ハンドにより、ラックに収納されている金属リングの全数又は一部をピックアップする工程と、アームにより、ハンドをラックから所定場所まで移動する工程と、ピックアップしている金属リングを、所定場所にて一括して又は1本を単位にして、ハンドから分離させる工程と、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、金属リングの移動機構は、金属リングをピックアップするハンドと、ハンドをラックから所定場所へ移動させるアームとからなり、ピックアップしている金属リングを、所定場所にて一括して又は1本を単位にして、ハンドから分離させる。ハンドによって、ラックから複数の金属リングを一括してピックアップし、所定場所で1本を単位にしてハンドから分離させることができるので、金属リングをラックから所定場所に簡易な方法で移動し、工数の低減を図ることができる。
【0016】
請求項2に係る発明では、ハンドに、金属リングを、磁気引着する磁石、又は、真空吸着する負圧パッドを備えている。磁石又は負圧パッドであるので、ハンドの構造を簡単にすることができ、ハンドのコストダウンを図ることができる。
【0017】
請求項3に係る発明では、ラックに、金属リングを押し上げるリング押し上げ手段が備えられている。金属リングがラックにしっかりと保持されている位置から押し上げられてラックから外れ易い位置にくるので、ハンドへの負荷が低減されてピックアップを容易に行うことができる。
【0018】
請求項4に係る発明では、ラックは、熱処理炉に装入可能な耐熱性を有する耐熱材料で構成されている。ラックは、熱処理炉に装入可能となる。搬送工程に続けて熱処理工程が実施できるため、生産効率を高めることができる。
【0019】
請求項5に係る発明では、ハンドにより、ラックに収納されている金属リングの全数又は一部をピックアップする工程と、アームにより、ハンドをラックから所定場所まで移動する工程と、ピックアップしている金属リングを、所定場所にて1本を単位にして、ハンドから分離させる工程とを有する。金属リングをラックから直接所定場所に移動させコンベアに分離するので、従来技術のように金属リングを整列ストッカーに一端戻してからコンベアに移動させる必要が無く、金属リング移動工数の低減を図ることができる。
加えて、従来技術のように整列ストッカーを必要としないので、移動機構のコストの低減を図ることができる。
【0020】
請求項6に係る発明では、整列ストッカーから耐熱性のラックに金属リングを移し替える工程と、ラックを熱処理炉へ装入して金属リングに熱処理を施す工程と、を有する。ラックごと金属リングを熱処理するので、生産効率を一層高めることができる。
また、多数の金属リングを人手を介さずに移動するので、金属リングの落下等その他有害な傷の発生が極力低減される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るラックの正面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】ラックの左側面図である。
【図4】金属リングを整列ストッカーに整列させる工程を説明する図である。
【図5】金属リングの変形工程を説明する図である。
【図6】ラックに移し替える工程を説明する図である。
【図7】金属リングをラックに掛止める工程を説明する図である。
【図8】ラックが使用される熱処理炉の平面図である。
【図9】金属リングを押し上げる工程を説明する図である。
【図10】金属リングが押し上げられた態様を説明する図である。
【図11】ハンドをラックに接近させる工程を説明する図である。
【図12】金属リングをピックアップする工程を説明する図である。
【図13】ハンドの断面図である。
【図14】金属リングをハンドから分離させる工程を説明する図である。
【図15】図13の別形態を説明する図である。
【図16】従来技術に係る金属リングの積載方法を説明する図である。
【図17】従来技術に係る金属リングの移動技術を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0023】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、金属リング11の軸12は、図表裏方向に延びており、軸12直角方向の外力により弾性変形する。
ラック10は、金属リング11を囲う枠体13と、この枠体13に渡され金属リング11の左右側方を軸12に沿って延びる左方メンバー14、中央メンバー15及び右方メンバー16と、枠体13に渡され金属リング11の下方を軸12に沿って延びる下方メンバー21〜24とを備える。
【0024】
金属リング11は、外力がなければ略真円形状であるが、ラック10に載置されると外力により楕円状となる。金属リング11は弾性復元力により真円形状に戻ろうとするが、左方メンバー14、中央メンバー15及び右方メンバー16の位置が、軸12よりも高い位置にあるので、金属リング11が下方メンバー21〜24から浮かび上がることはない。
枠体13は、棒材、パイプ材及び板材の少なくとも1つの部材で構成されている。
また、ラック10は、軸12方向に開口する金属リング11の周長よりも大きな周長の多角形開口部17を有する。
【0025】
なお、実施例においては、金属リング11の列を2列としたがこれに限定されず、1列、3列等、金属リングをラック10に載置できれば差し支えない。また、実施例において多角形開口部17は四角形としたが、六角形や八角形等でもよく、金属リング11の周長よりも大きな周長の多角形開口部17であれば差し支えない。また、枠体13、左方メンバー14、中央メンバー15及び右方メンバー16の材質は、窒化処理等の各種の熱処理が施される最中に、受け部材26及びストッパ部材27の構成元素が金属リング11に拡散することに対する障壁として機能する元素、物質から構成されるか、又はそれら元素、物質のメッキが施されているもの等、耐熱性を有している材質であれば差し支えない。
【0026】
次にラック10の要部について説明する。
図2に示されるように、ラック10は、中央メンバー15に設けられ金属リング11の外周面25を受ける受け部材26と、中央メンバー15から受け部材26を挟むようにして延ばされ金属リング11が軸(図1、符号12)方向移動することを制限するストッパ部材27とを備える。
【0027】
また、同様にして、図1に示した下方メンバー21〜24、左方メンバー14及び右方メンバー16に金属リング11の外周面25を受ける受け部材26が設けられ、下方メンバー21〜24、左方メンバー14及び右方メンバー16から受け部材26を挟むようにして金属リング11が軸12方向移動することを制限するストッパ部材27が延ばされている。
【0028】
なお、金属リング11を中央メンバー15を境にして図左右において交互に載置することで、窒化処理を行う際、窒素が十分に行き届き良好に窒化処理を行うことができる。また、下方メンバー21〜24、左方メンバー14及び右方メンバー16において、受け部材26及びストッパ部材27は溶接されている。溶接以外であっても、圧入等、受け部材26及びストッパ部材27がメンバー14〜16、21〜24に設けられていれば差し支えない。また、受け部材26及びストッパ部材27の材質は、窒化処理等の各種の熱処理が施される最中に、受け部材26及びストッパ部材27の構成元素が金属リング11に拡散することに対する障壁として機能する元素、物質から構成されるか、又はそれら元素、物質のメッキが施されているものとする。
【0029】
次にラック10に金属リングを複数個載置した状態について説明する。
図3に示されるように、ラック10に、金属リング11を軸12に沿って複数個載置する。金属リング11はストッパ部材27により軸12方向移動することを制限されているので、隣り合う金属リング11同士が接触することはない。
【0030】
また、上記に説明した内容をもって、軸12が水平になるようにして置かれ弾性変形可能で外力を除去すると真円状になる金属リング11、及びこの金属リング11の周長よりも大きな周長の多角形開口部17を有するラック10とを準備する工程とする。
なお、実施例では、金属リング11を16個連続させて載置したが、これに限定されず、5個、10個等、1個又は複数個並んであれば差し支えない。
【0031】
以上の述べたラック10の作用を次に述べる。
金属リングを整列ストッカーに整列させる工程を説明する。
図4に示されるように、リフト31の上部に整列ストッカー32が設けられている。整列ストッカー32は、柱部材33と、柱部材33に段を為して設けられている複数の棚部34と、棚部34に設けられている棚部多角形開口部35とからなる。
【0032】
汎用ロボットのロボットアーム36の先端に変形機構37が設けられ、この変形機構37に複数のロボットハンド41が互いに接近又は互いに遠ざかる方向に移動可能に設けられている。ロボットハンド41は、複数の山部42と、複数の谷部43とからなり、ロボットハンド41が広がると、谷部43に金属リングが掛かる構造となっている。なお、実施例においては、ロボットハンド41は2個であるが、3個、4個等でもよく、多角形開口部(図1、符号17)の形状に合わせてロボットハンド41が広がれば差し支えない。
【0033】
ロボットハンド41の作用について説明する。金属リング11は、コンベア44に運ばれて仮置き台45に置かれる。仮置き台45に置かれた金属リング11は、シリンダ46により、押しロッド47を介して棚部34に収納される。金属リング11は棚部34に設けられた位置決めピン48に接触し位置決めされる。一つの金属リング11が棚部34に収納されたら、棚部34はリフト31により一段昇降され、次の棚部34に金属リング11が収納される。
【0034】
図6(a)の矢印(1)のように複数の金属リング11が想像線で示す整列ストッカー32に収納され、複数の金属リング11の中心が鉛直軸に沿うように整列された後、金属リング11の中心が水平軸に沿うように90°回転させて実線で示す整列ストッカー32の姿勢にする。
そして、図6(a)の矢印(2)のように複数個のロボットハンド41が棚部多角形開口部35に挿入されると共に、複数個の金属リング11の中に挿入される。
【0035】
次に変形工程について説明する。
図5に示されるように、金属リング11の中心が水平軸に沿うように整列ストッカー32が横に倒れているが、金属リング11は位置決めピン48に接触しており、位置がずれることなく整列ストッカー32に収納された状態を維持している。挿入されたロボットハンド41、41を矢印(3)のように拡げることで、金属リング11を棚部多角形開口部35形状に倣うように弾性変形させる。すると、金属リング11は、想像線で示す金属リング11の形状になる。なお、棚部多角形開口部35は、多角形開口部(図1、符号17)の形状と略同一である。また、棚部多角形開口部35より、弾性変形した想像線で示す金属リング11の方が小さい。
【0036】
次にラック10内へ挿入する工程について説明する。
図6(b)は整列ストッカー32から金属リング11を取り出す工程を説明する図であり、前述したように想像線で示す整列ストッカー32は、矢印(1)のように90°回転され実線で示す整列ストッカー32の位置にある。棚部多角形開口部35に挿入されたロボットハンド41を矢印(4)のように移動させ、金属リング11を整列ストッカー32から取り出す。
【0037】
図6(c)はラック10に金属リング11を移し替える工程を説明する図であり、ロボットハンド41を矢印(5)のように移動させ、金属リング11を多角形開口部17からラック10内へ挿入する。
なお、整列ストッカー32は、図示されない制御盤に接続されており、制御盤内に備わる制御回路や、又は記憶手段に記憶される制御プログラム等により制御される。
【0038】
次に係止める工程について説明する。
図7に示されるように、ロボットハンド41、41を矢印(5)のように、縮める。金属リング11の外力は除去され、金属リング11は想像線で示す金属リング11の形状となり、ラック10に係止められる。なお、挿入された複数個の金属リング11が一度に係止められるので、作業の効率化を図ることができる。
【0039】
次に熱処理を施す工程として窒化処理を例示して説明する。
図8に示されるように、熱処理炉としてのバッチ式窒化炉51は、壁部52と、壁部52の一面に設けられた扉53と、この扉53の反対側の壁部52に設けられたファン54と、壁部52に設けられたヒータ55、56とからなる。
【0040】
金属リング11を載置した金属用搬送ラック10をバッチ式窒化炉51に入れ、扉53を閉める。バッチ式窒化炉51内にアンモニア等の窒化ガスを供給し、ヒータ55、56により窒化温度、例えば500℃に温度を上昇させる。ファン54により、窒化ガスを対流させ、バッチ式窒化炉51内の温度分布を略均一にする。このとき、金属リング11とラック10の接点の温度が、金属リング11のその他の部分の温度と略同一になる。
【0041】
窒化ガスは、金属リング11の表面から進入し、内部に拡散することで表面に窒化層を形成する。また、受け部材26及びストッパ部材27は、受け部材26及びストッパ部材27の構成元素が金属リング11に拡散することに対する障壁として機能する元素、物質の被膜層が形成されているので、受け部材26及びストッパ部材27の構成元素が金属リング11に拡散することを防ぎ、金属リング11の窒化を良好に行うことができる。
そして、ラックを取り出す工程では、熱処理を終えた金属リング11及びラック10をバッチ式窒化炉51から取り出す。
【0042】
次に金属リングを押し上げる工程を説明する。
図9に示されるように、金属リング11の軸12は、左方メンバー14、中央メンバー15及び右方メンバー16より低い位置にある。結果、金属リング11はラック11にしっかりと保持されている。
【0043】
ラック10はラック位置決め台57に置かれ、金属リング11の下方にリング押し上げ手段61が配置されている。リング押し上げ手段61は、昇降シリンダ62と、昇降ロッド63と、押し上げ作業台64とからなる。昇降シリンダ62を作動させ、矢印(6)のように押し上げ作業台64を上昇させる。
なお、リング押し上げ手段61は、図示されない制御盤に接続されており、制御盤内に備わる制御回路や、又は記憶手段に記憶される制御プログラム等により制御される。
【0044】
図10に示されるように、金属リング11は押し上げ作業台64により押し上げられている。金属リング11の軸12は、左方メンバー14、中央メンバー15及び右方メンバー16より高い位置にある。結果、金属リング11は上方へ抜けやすくなる。
すなわち左方メンバー14、中央メンバー15及び右方メンバー16より低い位置にあることにより、ラック10にしっかり保持されていた金属リング11は、ラック10にしっかり保持されているから、外しにくかった。しかし、さらに換言すると、金属リング11が、ラック10にしっかり保持されている位置から、押し上げられてラック10から外れやすい位置にくるので、後述するハンド71への負荷が軽減されてピックアップを容易に行うことができる。
【0045】
次にハンドをラックに接近させる工程を説明する。
図11に示されるように、金属リングの移動機構70は、金属リング11の全数若しくは一部をピックアップするハンド71と、このハンド71をラック10から所定場所へ移動させるアーム72とからなる。
アーム72により、矢印(7)のようにハンド71をラック10に接近させる。
【0046】
次に金属リングをピックアップする工程を説明する。
図12に示されるように、ハンド71に、金属リング11を磁気引着する複数の磁石としての電磁石73が設けられている。これらの電磁石73で金属リング11を吸着し、矢印(8)のようにハンド71を上昇させ、金属リング11をピックアップする。この際、リング押し上げ手段61により金属リング11がラック10から外れ易い位置にあるので、ハンド71への負荷が低減されてピックアップを容易に行うことができる。
【0047】
次にハンド71を断面図に基づいて説明する。
図13に示されるように、ハンド71は、ベース74と、このベース74の下側に設けられ金属リング11を磁気引着する複数の磁石としての電磁石75〜78と、これらの電磁石75〜78に接続され電流を流す配線79と、電磁石75〜78に配線79を介してそれぞれ設けられ電流を制御するスイッチ81〜84とからなる。ベース74と電磁石75〜78は絶縁されている。
なお、スイッチ81〜84は、図示されない制御番に接続されており、制御盤内に備わる制御回路や、又は記憶手段に記憶される制御プログラム等により制御され、リング押し上げ手段61と連動している。
スイッチ81は開いており、電磁石75は金属リング11を磁気引着せずに切り離す。スイッチ82〜84は閉じられており、電磁石76〜78は、金属リング11を磁気引着する。
【0048】
次に金属リングをハンドから分離させる工程を説明する。
図14に示されるように、駆動されるコンベア85の上方で電磁石75、76への電流を切ることで、電磁石75、76から金属リング11が分離される。さらに、電磁石77への電流を切ることで、矢印(9)のように電磁石77から金属リング11が分離される。このように、図左側の電磁石75から順に金属リング11を離し、所定の場所で1本ずつハンド71から金属リング11を分離させる。分離された金属リング11は矢印(10)のように駆動されるコンベア85により次工程に搬送される。
【0049】
次に図13の別形態を説明する。
図15に示されるように、ハンド71は、ベース74と、このベース74の下側に設けられ金属リング11を真空吸着する複数の負圧パッド86〜89と、これらの負圧パッド86〜89に接続されている配管91と、負圧パッド86〜89に配管91を介してそれぞれ設けられ負圧を制御する弁92〜95とからなる。また、配管91は大きな空間を有する負圧室96に繋がっており、負圧室96は負圧発生手段としての減圧ポンプ97に接続されている。
なお、弁92〜95は、図示されない制御番に接続されており、制御盤内に備わる制御回路や、又は記憶手段に記憶される制御プログラム等により制御され、リング押し上げ手段61と連動している。
弁92は閉じており、負圧パッド86は金属リング11を真空吸着せずに切り離す。弁93〜95は開かれており、負圧パッド87〜89は、金属リング11を真空吸着する。
【0050】
以上に述べた金属リングの移動機構70の作用効果を以下に記載する。
上記の図11に示されるように、弾性変形可能な金属リング11が複数個整列して収められているラック10から、金属リング11をピックアップし、所定場所へ移動する金属リングの移動機構70において、金属リングの移動機構70は、金属リング11の全数若しくは一部をピックアップするハンド71と、このハンド71をラック10から所定場所へ移動させるアーム72とからなり、図14に示すピックアップしている金属リング11を、所定場所にて一括して又は1本を単位にして、ハンド71から分離させることができる。
【0051】
この構成により、ハンド71によって、ラック10から複数の金属リング11を一括してピックアップし、所定場所で1本を単位にしてハンド71から分離させることができるので、金属リング11をラック10から所定場所(コンベア85)に簡易な方法で移動し、工数の低減を図ることができる。
【0052】
上記の図13に示されるように、ハンド71に、金属リング11を、磁気引着する磁石75〜78、又は、図15に示す真空吸着する負圧パッド86〜89を備えた。
この構成により、磁石75〜78又は負圧パッド86〜89であるので、ハンド71の構造を簡単にすることができ、ハンド71のコストダウンを図ることができる。
【0053】
上記の図9に示されるように、ラック10に、金属リング11を押し上げるリング押し上げ手段61が備えられている。
この構成により、金属リング11がラック10にしっかりと保持されている位置から押し上げられてラック10から外れ易い位置にくるので、ハンド71への負荷が低減されてピックアップを容易に行うことができる。
【0054】
上記の図8に示されるように、ラック10は、熱処理炉51に装入可能な耐熱性を有する耐熱材料で構成されている。
この構成により、ラック10は、熱処理炉51に装入可能となる。搬送工程に続けて熱処理工程が実施できるため、生産効率を高めることができる。
【0055】
上記の図11に示されるように、弾性変形可能な金属リング11が複数個整列して収められているラック10から、金属リング11をピックアップし、所定場所へ移動する金属リングの移動方法において、金属リング11の全数若しくは一部をピックアップするハンド71と、このハンド71をラック10から所定場所へ移動させるアーム72とを準備する工程と、アーム72により、ハンド71をラック10に接近させる工程と、ハンド71により、ラック10に収納されている金属リング11の全数又は一部をピックアップする工程と、アーム72により、ハンド71をラック10から所定場所まで移動する工程と、図14に示すピックアップしている金属リング11を、所定場所にて1本を単位にして、ハンド71から分離させる工程と、からなる。
【0056】
この工程により、金属リング11をラック10から直接所定場所に移動させコンベア85に分離するので、従来技術のように金属リング11を整列ストッカーに一端戻してからコンベア85に移動させる必要が無く、金属リング移動工数の低減を図ることができる。
加えて、従来技術のように整列ストッカーを必要としないので、移動機構70のコストの低減を図ることができる。
【0057】
上記の図4に示されるように、コンベア44で搬送されてきた金属リング11を、図8に示すように熱処理し、後に所定場所へ移動する金属リングの自動熱処理方法において、コンベア44で送られてくる金属リング11を1個ずつ整列ストッカー32に投入し、複数の金属リング11の中心が鉛直軸に沿うように整列させる工程と、金属リング11の中心が水平軸に沿うように整列ストッカー32を90°回転させる工程と、図6に示す整列ストッカー32から耐熱性のラック10に金属リング11を移し替える工程と、ラック10を熱処理炉51へ装入して金属リング11に熱処理を施す工程と、熱処理炉51からラック10を取り出す工程と、図11に示す金属リング11の全数若しくは一部をピックアップするハンド71と、このハンド71をラック10から所定場所へ移動させるアーム72とを準備しておき、アーム72により、ハンド71をラック10に接近させる工程と、ハンド71により、ラック10に収納されている金属リング11の全数又は一部をピックアップする工程と、アーム72により、ハンド71をラック10から所定場所まで移動する工程と、図14に示すピックアップしている金属リング11を、所定場所にて一括して又は1本を単位にして、ハンド71から分離させる工程と、からなる。
この工程により、ラック10ごと金属リング11を熱処理するので、生産効率を一層高めることができる。また、多数の金属リング11を人手を介さずに移動するので、金属リング11の落下等その他有害な傷の発生が極力低減される。
なお、金属リングの移動機構70のアーム72は、図示されない多関節ロボット等のロボットアームであり、金属リングの移動機構70は図示されない制御盤に接続されており、制御盤内に備わる制御回路や、又は記憶手段に記憶される制御プログラム等により制御される。また、整列ストッカー32、ロボットハンド41、熱処理炉51、金属リングの移動機構70は連動するように、図示されない制御盤内に備わる制御回路や、又は記憶手段に記憶される制御プログラム等により制御されている。
【0058】
尚、本発明の金属リングの移動機構及び移動方法は、実施の形態では窒化処理に適用したが、浸硫処理等、他の熱処理に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の金属リングの移動機構及び移動方法は、CVT用の金属リングの窒化に好適である。
【符号の説明】
【0060】
10…ラック、11…金属リング、12…金属リングの軸、32…整列ストッカー、44…コンベア、51…熱処理炉(バッチ式窒化炉)、61…リング押し上げ手段、70…金属リングの移動機構、71…ハンド、72…アーム、73、75〜78…磁石(電磁石)、85…コンベア(所定場所)、86〜89…負圧パッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性変形可能な金属リングが複数個整列して収められているラックから、前記金属リングをピックアップし、所定場所へ移動する金属リングの移動機構において、
前記金属リングの移動機構は、前記金属リングの全数若しくは一部をピックアップするハンドと、このハンドを前記ラックから前記所定場所へ移動させるアームとからなり、
前記ピックアップしている前記金属リングを、所定場所にて一括して又は1本を単位にして、前記ハンドから分離させることを特徴とする金属リングの移動機構。
【請求項2】
前記ハンドに、前記金属リングを、磁気引着する磁石、又は、真空吸着する負圧パッドを備えたことを特徴とする請求項1記載の金属リングの移動機構。
【請求項3】
前記ラックに、前記金属リングを押し上げるリング押し上げ手段が備えられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の金属リングの移動機構。
【請求項4】
前記ラックは、熱処理炉に装入可能な耐熱性を有する耐熱材料で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の金属リングの移動機構。
【請求項5】
弾性変形可能な金属リングが複数個整列して収められているラックから、前記金属リングをピックアップし、所定場所へ移動する金属リングの移動方法において、
前記金属リングの全数若しくは一部をピックアップするハンドと、このハンドを前記ラックから前記所定場所へ移動させるアームとを準備する工程と、
前記アームにより、前記ハンドを前記ラックに接近させる工程と、
前記ハンドにより、前記ラックに収納されている前記金属リングの全数又は一部をピックアップする工程と、
前記アームにより、前記ハンドを前記ラックから前記所定場所まで移動する工程と、
前記ピックアップしている前記金属リングを、所定場所にて1本を単位にして、前記ハンドから分離させる工程と、からなることを特徴とする金属リングの移動方法。
【請求項6】
コンベアで搬送されてきた金属リングを、熱処理し、後に所定場所へ移動する金属リングの自動熱処理方法において、
前記コンベアで送られてくる前記金属リングを1個ずつ整列ストッカーに投入し、複数の前記金属リングの中心が鉛直軸に沿うように整列させる工程と、
前記金属リングの中心が水平軸に沿うように前記整列ストッカーを90°回転させる工程と、
前記整列ストッカーから耐熱性のラックに前記金属リングを移し替える工程と、
前記ラックを熱処理炉へ装入して前記金属リングに熱処理を施す工程と、
前記熱処理炉から前記ラックを取り出す工程と、
前記金属リングの全数若しくは一部をピックアップするハンドと、このハンドを前記ラックから前記所定場所へ移動させるアームとを準備しておき、前記アームにより、前記ハンドを前記ラックに接近させる工程と、
前記ハンドにより、前記ラックに収納されている前記金属リングの全数又は一部をピックアップする工程と、
前記アームにより、前記ハンドを前記ラックから前記所定場所まで移動する工程と、
前記ピックアップしている前記金属リングを、所定場所にて一括して又は1本を単位にして、前記ハンドから分離させる工程と、からなることを特徴とする金属リングの自動熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−57211(P2012−57211A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201069(P2010−201069)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】