説明

金属不純物拡散阻止能を有する石英ガラス

【課題】
従来、半導体熱処理治具に一般に使用されてきた天然シリカ熔融石英ガラスは金属不純物、特に銅の拡散阻止能を持たない。金属不純物阻止能を有し、高温粘性の高い石英ガラスを提供する。
【解決手段】
高純度の合成シリカ粉を中性不活性雰囲気中結晶化した後に電気炉中溶解やプラズマ溶解することにより、酸素欠乏欠陥ODCII含有量を10×1015個/cm以下にし、かつSi孤立電子対含有量を2×1015個/cm以下にし、さらに含有Na濃度を0.03wt.ppm以下に抑えことにより、金属不純物拡散阻止能を有し、半導体熱処理時に粘性率の高い石英ガラスが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体熱処理用治具に使用される石英ガラスにおいて金属不純物拡散阻止能を有する石英ガラス素材および製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
石英ガラスはその工業用途の1つに半導体熱処理用治具がある。ここで言う半導体熱処理用治具とは、内部に半導体ウエーハをセットし、熱処理する炉心管および半導体ウエーハをセットするボート等を指す。
【0003】
そこでは熱処理される半導体ウエーハの金属不純物汚染が大きな問題となっており、各種の対策が採られている。石英ガラス製治具は、価格が安価である、高温粘性が高い等の理由から従来、主に天然珪石を電気炉熔融した石英ガラスが用いられてきた。この天然珪石電気炉熔融品に含まれる金属不純物濃度を低減する試みが、例えば特許文献1に開示されている。また、高純度である合成石英に天然珪石熔融品並みの高温粘性を付加する試みが、たとえば特許文献2に開示されている。
【0004】
しかし、石英ガラス製治具中の不純物濃度を低減するだけでは半導体ウエーハの受ける金属不純物汚染の問題を解決できない。熱処理時に半導体熱処理用治具外部から半導体熱処理治具の壁を拡散透過して内部の半導体ウエーハを金属不純物汚染することも問題となる。
【0005】
また、石英ガラス素材を半導体熱処理用治具に加工する工程で石英ガラス中に入った加工歪みを高温アニールして取る工程が石英ガラス製半導体熱処理用治具作製には必須であるが、高温アニールする際に加工時に金属不純物汚染を受けた石英ガラス表面から石英ガラス治具内部に金属不純物が拡散侵入し、石英ガラス治具を金属汚染してしまうという問題が有る。
【0006】
さらに高温アニール時の炉材や炉内雰囲気から金属不純物汚染が生じるという問題があり、高温アニールしても金属汚染を受けない高純度石英ガラスの開発が強く望まれてきた。
【0007】
金属不純物のなかで特に問題となるのはアルカリ金属と遷移金属であり、特にNaとCuが問題とされてきた。この2種類の金属不純物は石英ガラス中での拡散が特に速いと推定され、問題視されている。
【0008】
ただし、同じ石英ガラスでもOH基濃度の高い高純度合成石英ガラスが天然シリカ粉無水熔融石英ガラスと比較して金属不純物の拡散が遅いとされており、金属不純物拡散の問題解決のために、特許文献3〜5に天然珪石熔融品をOH基含有量の多い合成石英ガラスで被覆し、金属不純物の拡散を阻止する方法が提示されている。
【0009】
しかし、これらの方法では、天然珪石熔融品にさらにOH基含有量の多い合成石英ガラス組み合わせるという手間が必要であり、かつ半導体熱処理時の高温粘性を石英ガラス治具壁中の天然珪石熔融品部分だけで維持するため、高温粘性の低下は免れない。さらにOH基を多く含有する合成石英ガラス部分からOH基が天然珪石熔融品部分へ拡散し、全体の高温粘性を低下させることが予想される。
【0010】
石英ガラス中の構造欠陥、特に酸素欠乏欠陥と不純物拡散阻止に関しては次の方法が述べられている。シリコン単結晶引き上げ用石英ガラスルツボの内表面近傍に存在する析出不純物がルツボ内面における結晶(クリストバライト)の形成を阻止する方法として、酸素欠乏欠陥を20〜150ppm含有する層をルツボ内表面から1mm以内に形成する事が特許文献6に開示されている。
【0011】
Cuに関しては、近年Cu配線が半導体素子製造に用いられるように成った事もあり、Cu拡散を抑える銅拡散バリア性絶縁膜として、π電子を有する官能基を有する珪素化合物膜の情報が、特許文献7に開示されている。
【0012】
しかし、この技術においては、銅拡散バリア性絶縁膜は石英ガラス治具加工後に形成する必要があり、また大面積上にCu拡散バリア性絶縁膜を形成することは困難であると予想される。また、該Cuバリア性絶縁膜は有機珪素化合物膜であることから、半導体熱処理治具を使用しているとCuバリア性絶縁膜が剥がれてしまうと予想される。
【0013】
さらに、石英ガラス中のCu拡散に関しては、特許文献8において、波長245nmの紫外線に対する内部透過率が95%以上であり、かつOH含有率が5ppm以下、Li、Na、K、Mg、Ca、Cuの含有率0.1ppm未満である熔融石英ガラスについて、1050℃大気中24時間でのCuイオン熱拡散が低いことが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭63−100038号公報
【特許文献2】特開平6−329424号公報
【特許文献3】特開昭48−92410号公報
【特許文献4】特開平4−21587号公報
【特許文献5】特開平6−191873号公報
【特許文献6】特開平11−199369号公報
【特許文献7】特開2005−45058号公報
【特許文献8】特開2008−208017号公報
【特許文献9】特開2001−223251号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】L.Skuja,J.Non−Cryst.Solids 239(1998) 16−48
【非特許文献2】K.Awazu,H.Kawazoe and K.Muta,J.Appl.Phys.,70 vol.1,1(1991)
【非特許文献3】I.H.Malitson,J.Opt.Soc Am vol.55,1205(1965)
【非特許文献4】非晶質シリカ材料応用ハンドブック 株式会社リアライズ社 (1999)
【非特許文献5】菊地義一 他、J.Ceram.Japan、 105巻 ページ645−649(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、石英ガラス素材自体が金属不純物拡散阻止能を有し、半導体熱処理温度においても十分な高温粘性を有する石英ガラス素材を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、高温における石英ガラス中の金属不純物、特にCuの拡散について鋭意検討した結果、試料表面から内部へ金属不純物が拡散した時の試料内部の金属不純物濃度が石英ガラス中の構造欠陥の1つである酸素欠乏欠陥ODCII含有量およびSi孤立電子対含有量と比例関係に有ることを見出した。
【0018】
つまり、本発明者らは、酸素欠乏欠陥ODCII含有量とSi孤立電子対含有量を制御することによって、石英ガラス中に拡散する金属不純物濃度、特にCuの拡散濃度を低くすることができることを見出し、本発明に至った。
【0019】
なお、ODCIIとは、≡Si−O−Si≡という通常の結合から酸素がショットキー欠陥型に抜け落ちた≡Si:Si≡構造を持った酸素欠乏欠陥を指し(例えば、非特許文献1、2参照)、Si孤立電子対とは、石英ガラスを構成する元素の1つであるSiについて、Siに結合していたOの結合がはずれ、Siの外郭電子に2個の電子から成る孤立電子対が形成されたものを指す。
【0020】
すなわち、本発明は、酸素欠乏欠陥ODCII含有量が10×1015個/cm以下で、Si孤立電子対含有量が2×1015個/cm以下であり、含有Na濃度が0.03wt.ppm以下であり、1050℃・24時間の条件でのCu拡散において拡散表面から深さ1mmの位置のCu濃度が0.03wt.ppm以下となるCu拡散阻止を達成した石英ガラスである。
【0021】
さらに、本発明者らは検討の結果、還元雰囲気中で作製した石英ガラス中に形成される酸素欠乏欠陥の1部が、金属不純物、特に1価のアルカリ金属不純物、Cu等の遷移金属不純物が石英ガラス中を拡散する際にSi孤立電子対に変化することを見出した。孤立電子が形成されるとSiはマイナス1価に帯電するので、電荷のバランスを取るためにプラス1価の電荷を持った金属不純物が電気的に結合することになると考えた。
【0022】
Cuの拡散に関しては次のように考えている。Si孤立電子対にNaが電気的に結合し、そのNaをCuがイオン交換しながらCuが石英ガラス中を拡散して行くと考えた。それにより石英ガラス中のCuの拡散濃度がSi孤立電子対密度およびNaによって制限されることが結論付けられた。
【0023】
以下に課題を解決するための手段を詳細に説明する。
【0024】
石英ガラス中の酸素欠乏欠陥ODCII含有量及びSi孤立電子対含有量は、以下の手順で算出することができる。
【0025】
まず、石英ガラスを0.5〜2cmの厚さ、望ましくは1cm以上の厚さに切り出し、両面を平行に光学研磨した後、両面研磨した石英ガラス試料を紫外可視分光光度計を用いて直線透過率を測定する。測定波長範囲は190〜400nmの範囲である。
【0026】
次に、試料の屈折率NをMalitsonの式(非特許文献3参照)から算出し、表面反射率Rを下記の式から求める。得られた見かけの透過率Tから試料の表面反射率Rを差し引き、真の透過率Tを得る。
【0027】
波長λÅにおける石英ガラスの屈折率
=1+a×λ/(λ−b)+a×λ/(λ−b)+a×λ/(λ−b
=0.6961663 b=0.0684043
=0.4079426 b=0.1162414
=0.8974794 b=9.896161
表面1回反射率 R=(1−N)/(1+N)
理想の透過率と実測透過率の差、つまりガラスが真に吸収している分の百分率
ΔT=100×(1−R)−T
真の透過率 T=100−ΔT
次に、得られた真の透過率の常用対数を採り、吸光度とし、さらに吸光度を試料厚さ(cm単位)で割り吸光係数を求めた。
【0028】
酸素欠乏欠陥ODCIIは紫外可視分光スペクトル中の5.00eV(248nm)位置に吸収を持ち、ガウス曲線近似をした場合にその半値幅が0.35eVであり、吸収ピークの高さから求められる吸収係数に対する吸収断面積が20×10−18cmと報告されている(非特許文献4、ページ211参照)。これらの報告値を用いて石英ガラス中の酸素欠乏欠陥ODCII含有量を算出することができる。
【0029】
Si孤立電子対は紫外可視分光スペクトル中の5.14eV(242nm)位置に吸収を持ち、ガウス曲線近似をした場合にその半値幅が0.48eVであり、吸収ピークの高さから求められる吸収係数に対する吸収断面積が1×10−18cmと報告されている(非特許文献2、ページ211参照)。これらの報告値を用いて石英ガラス中のSi孤立電子対含有量を算出することができる。
【0030】
石英ガラス中のOH基濃度は、石英ガラスを0.5〜2cmの厚さ、望ましくは1cm以上の厚さに切り出し、両面を平行に光学研磨した後、両面研磨した石英ガラス試料を赤外分光光度計を用いて、3663cm−1位置のOH基による吸収から、バックグランドを直線近似して差し引き、吸光度を算出した後に、吸光度を試料厚さで割って吸収係数を算出することができる。
【0031】
石英ガラス中のOH基のモル吸収係数に関しては50〜80リットル/(mol・cm)程度(非特許文献4、ページ71参照)であり、そこから線吸収係数0.01(wt.ppm・cm)−1を算出した。
【0032】
石英ガラスの高温での粘性率測定法は特に限定しないが、たとえば以下のように片持ちビームベンディング法を用いることができる。
【0033】
石英ガラスを長さ11cm幅0.5cm厚さ0.3cmに加工し、ビーム形状の試料にする。ビーム形状試料の片側2cmを石英ガラス台に固定し、所定の温度、所定の時間加熱する(例えば1217℃・24時間)。加熱後のビーム試料のたわみ変形量から高温での粘性を算出できる。詳細な測定法については非特許文献5に開示されている。
【0034】
試料の拡散表面から1mmの深さのCuの拡散量測定方法は特に限定はしないが、例えば、以下のような方法を用いることができる。
【0035】
1cm〜2cm程度の厚さの石英ガラス試料と酸化銅粉末CuOを石英ガラス製匣鉢中に入れる。試料と酸化銅CuO粉末を直接接することのないようにした上で、試料表面をCuO蒸気に曝し、試料中にCuイオンを拡散させる。
【0036】
その後、10wt.%フッ酸と1wt.%硝酸との混合液で15分間洗浄した後、表面の銅濃度を分析する。銅濃度の分析方法は特に限定はしないが、湿式分析、例えば特許文献9に開示されている手法等を用いることができる。
【0037】
本発明者らは、石英ガラス中のSi孤立電子対含有量と銅を1050℃・24時間拡散させた場合の拡散表面から深さ1mm位置での銅濃度の関係を見出し、この知見を基に鋭意検討した結果、石英ガラス中の酸素欠乏欠陥ODCII含有量を10×1015個/cm以下、かつSi孤立電子対含有量を2×1015個/cm以下に抑えることによって銅拡散阻止能を有する石英素材を得ることが出来た。
【0038】
なお、酸素欠乏欠陥ODCII含有量およびSi孤立電子対含有量を抑えることによって拡散を抑制することが出来る金属不純物は銅に限らず、Li、Na、K等のアルカリ金属元素や、Mg、Ca、等のアルカリ土類元素Fe、Ti、Ag等の遷移金属が挙げられるが、石英ガラス中の拡散が特に速いとされ、かつ半導体に対する忌避金属不純物であるところのCuに対する拡散抑制の効果がある事が産業上の利用価値が大きい。
【0039】
特許文献3〜5に、天然シリカ熔融品からなる炉心管に酸水素熔融して作製する、OH基を多量に含む合成石英ガラスをライニングして金属不純物拡散が抑えられるという記述がある。特に特許文献3ではOH基が不純物拡散を阻害するという記述があるが、本発明者らの検討によると、石英ガラス中のOH基は不純物の拡散を促進することが判明した。
【0040】
さらに、OH基濃度が増加すると石英ガラス素材の粘性が低下するという問題が有る。すなわち、半導体熱処理温度1000〜1200℃程度の温度域で十分な粘性率を持つことが求められ、半導体製造治具に供される石英ガラス素材はOH基濃度が低い方が良い。
【0041】
本発明者らは、鋭意検討の結果、上記Si孤立電子対含有量の低い石英ガラスで、OH基濃度は50wt.ppm以下、望ましくは10wt.ppm以下であることが適切であるという結論に達した。それにより、上記石英ガラスは半導体熱処理用途に求められる粘性率logηが12.1Pa・sec以上を持たせることが可能となった。
【0042】
本発明の石英ガラス素材の作製方法としては、Al含有量が5wt.ppm以下であり、Na、Li、K、Ca、Mg、Fe、Cu、Ti、Zr不純物含有量がそれぞれ0.01wt.ppm以下であるところの高純度合成シリカ粉末を、Si単結晶引き上げ用ルツボや、石英ガラス角容器など、高純度石英ガラス製容器中に仕込み、窒素またはアルゴンガス雰囲気中で1500〜1600℃に10〜50時間保持し、結晶(クリストバライト)化させる。結晶化することにより高純度合成シリカ粉末中のOH基が脱離する。高純度石英ガラス製容器および不活性ガスを用いることにより、高純度合成シリカ粉末中に酸素欠乏欠陥ODCIIが導入されることを防止する。
【0043】
得られた高純度シリカ粉末を電気炉熔融または高周波誘導加熱熔融することによって、含有Na濃度が0.1wt.ppm以下に抑え、酸素欠乏欠陥ODCII含有量を10×1015個/cm以下、かつSi孤立電子対含有量を2×1015個/cm以下に抑えることが可能であった。
【0044】
さらにのぞましくは、熔融雰囲気が還元雰囲気とはならないプラズマアーク熔融またはレーザー加熱溶融することによって、酸素欠乏欠陥ODCII含有量を10×1015個/cm以下、かつSi孤立電子対含有量を2×1015個/cm以下に抑えることが可能である。
【0045】
また、本発明の石英ガラスは半導体熱処理用に供される石英ガラス部材に好適に用いることができる。具体的には、半導体熱処理用炉心管に用いられる管状またはドーム状の石英ガラス部材や半導体ウエーハ熱処理用ボート形状の石英ガラス部材などが挙げられる。
【0046】
なお、本発明の石英ガラスは半導体熱処理用に供される石英ガラス部材以外にも、フラットパネルディスプレー製造装置用部材やMEMS製造装置用部材にも好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の石英ガラスは金属不純物、特に銅の拡散阻止能を有し、さらに含有OH基濃度を制御することにより高温でも粘性の高く、半導体製造用治具作製に供される石英ガラス素材に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】石英ガラス中の酸素欠乏欠陥ODCII含有量[個/cm]と1050℃・24時間の条件でCuを拡散した場合の拡散表面から1mmの深さ位置のCu濃度[ppm]の関係を表す図である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例によって説明する。ただし、これらは発明の例示であって、本発明がこれらによって限定解釈されるものではない。
【0050】
実施例1
Na、Li、K、Ca、Mg、Fe、Cu、Ti、Zr不純物含有濃度がそれぞれ0.01wt.ppm以下である合成シリカ粉末(非晶質状態)を高純度石英ガラス容器中に入れ、0.049MPaの圧力のAr雰囲気中1550℃で30時間保持し、高純度シリカ粉末を結晶(クリストバライト)化した。さらに、電気炉で、真空中1775℃で1時間焼結した後に0.049MPaの圧力のAr雰囲気中1850℃で10分間熔融した。
【0051】
得られた石英ガラスは透明であり、フーリエ変換赤外分光光度計(島津製作所製、商品名「IRPrestige−21」)を用いて3663cm−1位置のOH基による吸収を測定したが、吸収は観察されず、石英ガラス中のOH基濃度は0wt.ppmであった。また、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光)分析による石英ガラス中のNa濃度は0.01wt.ppm未満だった。
【0052】
石英ガラスの高温での粘性率を以下のように、片持ちビームベンディング法にて行った。石英ガラスを長さ11cm幅0.5cm厚さ0.3cmに加工し、ビーム形状の試料にした。ビーム形状試料の片側2cmを石英ガラス台に固定し、1217℃の温度で10時間加熱した。加熱後のビーム試料のたわみ変形量から高温での粘性を算出した。詳細な測定法については非特許文献3に開示されている。このようにして求めたビーム試料の粘性率logηは12.1Pa・secであった。
【0053】
石英ガラス中の酸素欠乏欠陥ODCII含有量とSi孤立電子対含有量の測定は以下の手順で行った。得られた石英ガラスを2cm厚さに切り出し、両面を平行に光学研磨し、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、商品名「V−650」)を用いて直線透過率を測定した。測定波長範囲は190〜400nmの範囲である。試料の屈折率NをMalitsonの式(非特許文献1)から算出し、表面反射率Rを次式から求めた。
【0054】
得られた見かけの透過率Tから試料の表面反射率Rを差し引き、真の透過率Tを算出し、真の透過率の常用対数を採り、吸光度とし、さらに吸光度を試料厚さ(cm単位)で割り吸光係数を求めた。
【0055】
試料から得られた吸収ピークを2つのガウス曲線でピーク分離して、それぞれのピークの高さを吸収断面積で割り、試料中の酸素欠乏欠陥ODCII含有量とSi孤立電子対含有量を算出した。その結果、試料中にはSi孤立電子対は存在せず、酸素欠乏欠陥ODCIIのみが存在し、その含有量が3.06×1015個/cmであることが判明した。
【0056】
得られた石英ガラスの銅拡散については、以下のように拡散表面から1mmの深さの銅濃度から求めた。得られた石英ガラスを4.5cm角、厚さ2cmに切り出し、Cu拡散試料とした。石英ガラス試料と酸化銅粉末CuOを石英ガラス製匣鉢中に入れ、試料と酸化銅CuO粉末を直接接することのないようにした上で、大気中1050℃で24時間の条件で試料表面をCuO蒸気に曝し、試料中にCuイオンを拡散させた。
【0057】
その後10wt.%フッ酸と1wt.%硝酸との混合液で15分間洗浄した後、25wt.%フッ酸と1wt.%硝酸との混合液(エッチング液)4mlで試料表面を順次溶解し、試料厚さの減少量と溶解液中のCu濃度から試料中のCu濃度を算出した。溶解液中のCu濃度は原子吸光法を用いた。
【0058】
試料厚さの減少量の積算および1回の減少量から、溶解開始前の試料表面からの位置を算出し、Cu濃度分析値からCu濃度の分散プロットを作成してCuの拡散プロファイルを得た。Cu拡散プロファイルから算出した試料表面から1mmの位置のCu濃度は0.012wt.ppmとなっていた。
【0059】
実施例2
Na、Li、K、Ca、Mg、Fe、Cu、Ti、Zr不純物含有量がそれぞれ0.01wt.ppm以下であるところの、合成シリカ粉末にγアルミナ粉末の形でAl濃度換算7wt.ppm添加し、乾式混合を5時間行なった。混合後の合成シリカ粉末(非晶質状態)を高純度石英ガラス容器中に入れ、0.049MPaの圧力のAr雰囲気中1550℃で30時間保持し、高純度シリカ粉末を結晶(クリストバライト)化した。さらに、電気炉で、真空中1775℃で1時間焼結した後に0.049MPaの圧力のAr雰囲気中1850℃で10分間熔融した。
【0060】
得られた石英ガラスは透明であり、フーリエ変換赤外分光光度計(島津製作所製、商品名「IRPrestige−21」)を用いて3663cm−1位置のOH基による吸収を測定したが、吸収は観察されず、石英ガラス中のOH基濃度は0wt.ppmであった。また、ICP−AES分析による石英ガラス中のNa濃度は0.023wt.ppmだった。
【0061】
石英ガラスの高温での粘性率を実施例1と同様に、片持ちビームベンディング法にて測定した結果、ビーム試料の粘性率logηは12.3Pa・secであった。
【0062】
石英ガラス中の酸素欠乏欠陥ODCII含有量とSi孤立電子対含有量を実施例1と同様の手順で求めた結果、試料中にはSi孤立電子対は存在せず、酸素欠乏欠陥ODCIIのみ存在し、その含有量が3.87×1015個/cmであることが判明した。
【0063】
得られた石英ガラスの銅拡散を実施例1と同様に行い、その後実施例1と同様の手順で表面の銅濃度を分析した。Cu拡散プロファイルから算出した試料表面から1mmの位置のCu濃度は0.008wt.ppmと成っていた。
【0064】
実施例3
Na、Li、K、Ca、Mg、Fe、Cu、Ti、Zr不純物含有量がそれぞれ0.01wt.ppm以下であるところの、合成シリカ粉末にγアルミナ粉末の形でAl濃度換算2wt.ppm添加し、乾式混合を5時間行なった。混合後の合成シリカ粉末(非晶質状態)を高純度石英ガラス容器中に入れ、0.049MPaの圧力のAr雰囲気中1550℃で30時間保持し、高純度シリカ粉末を結晶(クリストバライト)化した。さらに、電気炉で、真空中1775℃で2時間焼結した後に、0.049MPaの圧力のAr雰囲気中1850℃で10分間熔融した。
【0065】
得られた石英ガラスは透明であり、フーリエ変換赤外分光光度計(島津製作所製、商品名「IRPrestige−21」)を用いて3663cm−1位置のOH基による吸収を測定したが、吸収は観察されず、石英ガラス中のOH基濃度は0wt.ppmであった。また、ICP−AES分析による石英ガラス中のNa濃度は0.023wt.ppmだった。
【0066】
石英ガラスの高温での粘性率を実施例1と同様に、片持ちビームベンディング法にて測定した結果、ビーム試料の粘性率logηは12.2Pa・secであった。
【0067】
石英ガラス中の酸素欠乏欠陥ODCII含有量とSi孤立電子対含有量を実施例1と同様の手順で求めた結果、試料中にはSi孤立電子対は存在せず、酸素欠乏欠陥ODCIIのみ存在し、その含有量が8.28×1015個/cmであることが判明した。
【0068】
得られた石英ガラスの銅拡散を実施例1と同様に行い、その後実施例1と同様の手順で表面の銅濃度を分析した。Cu拡散プロファイルから算出した試料表面から1mmの位置のCu濃度は0.013wt.ppmと成っていた。
【0069】
比較例1
Na、Li、K、Ca、Mg、Fe、Cu、Ti、Zr不純物含有量がそれぞれ0.01wt.ppm以下であるところの、四塩化珪素SiClを酸水素炎にて加水分解しながらシリカ微粒子をターゲットに堆積、軸方向に成長させることにより得られた高純度のシリカ多孔質体を加熱処理することにより石英ガラスを製造する、いわゆるVAD法に於いて、該シリカ多孔質体を予め水素を含有する雰囲気にて加熱処理を施すに際し、該処理後の高純度シリカ多孔質体の嵩密度が0.9〜1.9g/cmになるまで加熱処理した後、透明ガラス化処理して高純度透明石英ガラスを作製した。
【0070】
得られた石英ガラスは透明であり、フーリエ変換赤外分光光度計(島津製作所製、商品名「IRPrestige−21」)を用いて3663cm−1位置のOH基による吸収から、バックグランドを直線近似して差し引き、吸光度を算出した後に、吸光度を試料厚さで割って吸収係数を算出し、石英ガラス中のOH基の1wt.ppmあたりの吸光係数0.001003で割ることにより求めた石英ガラス中のOH基濃度は0.18wt.ppmであった。ICP−AES分析による石英ガラス中のNa濃度は0.01wt.ppm未満だった。
【0071】
石英ガラスの高温での粘性率を実施例1と同様に、片持ちビームベンディング法にて測定した結果、ビーム試料の粘性率logηは11.9Pa・secであった。
【0072】
石英ガラス中の酸素欠乏欠陥ODCII含有量とSi孤立電子対含有量を実施例1と同様の手順で求めた結果、試料中にはSi孤立電子対は存在せず、酸素欠乏欠陥ODCIIのみ存在し、その含有量が12.94×1015個/cmであることが判明した。
【0073】
得られた石英ガラスの銅拡散を実施例1と同様に行い、その後実施例1と同様の手順で表面の銅濃度を分析した。Cu拡散プロファイルから算出した試料表面から1mmの位置のCu濃度は0.034wt.ppmと成っていた。
【0074】
比較例2
Na、Li、K、Ca、Mg、Fe、Cu、Ti、Zr不純物含有量がそれぞれ0.01wt.ppm以下であるところの、合成シリカ粉末にγアルミナ粉末の形でAl濃度換算2wt.ppm添加し、乾式混合を5時間行なった。混合後の合成シリカ粉末(非晶質状態)を高純度石英ガラス容器中に入れ、0.049MPaの圧力のAr雰囲気中1550℃で30時間保持し、高純度シリカ粉末を結晶(クリストバライト)化した。さらに、電気炉で、真空中1775℃で1時間焼結した後に0.049MPaの圧力のAr雰囲気中1850℃で10分間熔融した。
【0075】
得られた石英ガラスは透明であり、フーリエ変換赤外分光光度計(島津製作所製、商品名「IRPrestige−21」)を用いて3663cm−1位置のOH基による吸収を測定したが、吸収は観察されず、石英ガラス中のOH基濃度は0wt.ppmであった。また、ICP−AES分析による石英ガラス中のNa濃度は、試料作製工程で不純物汚染を受けた可能性があり、0.073wt.ppmだった。
【0076】
石英ガラスの高温での粘性率を実施例1と同様に、片持ちビームベンディング法にて測定した結果、ビーム試料の粘性率logηは12.2Pa・secであった。
【0077】
石英ガラス中の酸素欠乏欠陥ODCII含有量とSi孤立電子対含有量を実施例1と同様の手順で求めた結果、試料中の酸素欠乏欠陥ODCIIの含有量が8.4×1015個/cmであり、酸素欠乏欠陥ODCIIの含有量が8.44×1015個/cmであり、Si孤立電子対SLPCの含有量が5.85×1015個/cmであった。
【0078】
得られた石英ガラスの銅拡散を実施例1と同様に行い、その後実施例1と同様の手順で表面の銅濃度を分析した。Cu拡散プロファイルから算出した試料表面から1mmの位置のCu濃度は0.086wt.ppmと成っていた。
【0079】
比較例3
Na、Li、K、Ca、Mg、Fe、Cu、Ti、Zr不純物含有量がそれぞれ0.01wt.ppm以下であるところの、合成シリカ粉末にγアルミナ粉末の形でAl濃度換算2wt.ppm添加し、乾式混合を5時間行なった。混合後の合成シリカ粉末(非晶質状態)を高純度石英ガラス容器中に入れ、0.049MPaの圧力のAr雰囲気中1550℃で30時間保持し、高純度シリカ粉末を結晶(クリストバライト)化した。さらに、電気炉で、真空中1775℃で1時間焼結した後に0.049MPaの圧力のAr雰囲気中1850℃で10分間熔融した。
【0080】
得られた石英ガラスは透明であり、フーリエ変換赤外分光光度計(島津製作所製、商品名「IRPrestige−21」)を用いて3663cm−1位置のOH基による吸収を測定した、石英ガラス中のOH基濃度は3.6wt.ppmであった。また、ICP−AES分析による石英ガラス中のNa濃度は、試料作製工程で不純物汚染を受けた可能性があり、0.071wt.ppmだった。
【0081】
石英ガラスの高温での粘性率を実施例1と同様に、片持ちビームベンディング法にて測定した結果、ビーム試料の粘性率logηは12.1Pa・secであった。
【0082】
石英ガラス中の酸素欠乏欠陥ODCII含有量とSi孤立電子対含有量を実施例1と同様の手順で求めた結果、試料中の酸素欠乏欠陥ODCIIの含有量が0.66×1015個/cmであり、Si孤立電子対SLPCの含有量が1.95×1015個/cmであった。
【0083】
得られた石英ガラスの銅拡散を実施例1と同様に行い、その後実施例1と同様の手順で表面の銅濃度を分析した。Cu拡散プロファイルから算出した試料表面から1mmの位置のCu濃度は0.135wt.ppmと成っていた。
【0084】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0085】
治具外部からの金属不純物拡散により、内部の半導体ウエーハが汚染されることが無く、さらに、半導体熱処理温度での長時間使用でも変形が少ない半導体熱処理用治具や石英ガラス部材に利用することができる可能性がある。
【符号の説明】
【0086】
1:実施例1における拡散前試料中の酸素欠乏欠陥(ODCII)含有量とCu拡散後の拡散表面から1mm深さの拡散Cu濃度
2:実施例2における拡散前試料中の酸素欠乏欠陥(ODCII)含有量とCu拡散後の拡散表面から1mm深さの拡散Cu濃度
3:実施例3における拡散前試料中の酸素欠乏欠陥(ODCII)含有量とCu拡散後の拡散表面から1mm深さの拡散Cu濃度
4:比較例1における拡散前試料中の酸素欠乏欠陥(ODCII)含有量とCu拡散後の拡散表面から1mm深さの拡散Cu濃度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラス中の酸素欠乏欠陥ODCII含有量が10×1015個/cm以下であり、かつSi孤立電子対含有量が2×1015個/cm以下であり、含有Na濃度が0.03wtppm以下であり、1050℃・24時間のCu拡散処理を行った後に、拡散表面から深さ1mm位置でのCu濃度が0.03wt.ppm以下となることを特徴とする石英ガラス。
【請求項2】
石英ガラス中の酸素欠乏欠陥ODCII含有量が5×1015個/cm以下であり、かつSi孤立電子対含有量が1×1015個/cm以下であり、含有Na濃度が0.03wtppm以下であり、1050℃・24時間のCu拡散処理を行った後に、拡散表面から深さ1mmの位置でのCu濃度が0.02wt.ppm以下となることを特徴とする請求項1記載の石英ガラス。
【請求項3】
含有OH基濃度が50wt.ppm以下であることを特徴とする、請求項1又は2記載の石英ガラス。
【請求項4】
1217℃における粘性率logηが12Pa・sec以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の石英ガラス。
【請求項5】
Al含有量が5ppm以下であり、Na、Li、K、Ca、Mg、Fe、Cu、Ti、Zr不純物含有量がそれぞれ0.01wt.ppm以下である合成シリカ粉末を、クリストバライト結晶化させた後に電気炉熔融または高周波誘導加熱炉熔融することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の石英ガラスの製造方法。
【請求項6】
Al含有量が5ppm以下であり、Na、Li、K、Ca、Mg、Fe、Cu、Ti、Zr不純物含有量がそれぞれ0.01wt.ppm以下である合成シリカ粉末を、クリストバライト結晶化させた後にプラズマアーク熔融またはレーザー加熱熔融することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の石英ガラスの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の石英ガラスからなることを特徴とする半導体熱処理用に供される石英ガラス部材。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の石英ガラスからなることを特徴とする半導体熱処理用炉心管に用いられる管状またはドーム状の石英ガラス部材。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の石英ガラスからなることを特徴とする半導体ウエーハ熱処理用ボート形状の石英ガラス部材。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の石英ガラス部材を具備することを特徴とする石英ガラス製半導体熱処理用装置。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれかに記載の石英ガラスからなることを特徴とするフラットパネルディスプレー製造装置用部材。
【請求項12】
請求項11に記載のフラットパネルディスプレー製造用部材を具備することを特徴とするフラットパネルディスプレー製造装置。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれかに記載の石英ガラスからなることを特徴とするMEMS製造装置用部材。
【請求項14】
請求項13に記載のMEMS製造用部材を具備することを特徴とするMEMS製造用装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−66947(P2012−66947A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210782(P2010−210782)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】