説明

金属含有排ガスの多段間接冷却方式による金属の分離冷却回収方法

【課題】鉄スクラップやシュレッダーダスト、携帯電話等の電子製品の複数の金属種を含有する金属含有物を、溶融炉で高温処理した際に発生する排ガスを300℃以上にコントロールして、金属のガスとして排出させ、多段冷却塔で金属種の沸点に応じて、冷却温度をコントロールしながら間接冷却することにより凝固させて分別して回収する。
【解決方法】溶融炉において、排ガス温度を300℃以上にコントロールし、かつ排ガス中の残存酸素を10%以下にした還元性の排ガス組成の排ガス中に含まれる複数の金属及び酸化金属及び塩化金属を回収するために、排ガスに含まれる金属及び酸化金属及び塩化金属を蒸着あるいは凝固あるいは沈殿させることを目的として、2段以上の複数段設けた冷却塔において、金属および酸化金属及び塩化金属の各々の凝固点、蒸着点、沈殿の差に応じて冷却温度をコントロールして排ガスとその金属及び酸化金属及び塩化金属を高温から冷却させ、複数の金属を分別回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
鉄スクラップやシュレッダーダスト、携帯電話等の電子製品の複数の金属を含有する金属含有物を、溶融炉で高温処理した際に発生する排ガスを300℃以上にコントロールして、金属のガスとして排出させ、多段冷却塔で金属の沸点に応じて、冷却温度をコントロールしながら間接冷却することにより凝固させて分別して回収する。
【従来技術】
【0002】
ロータリーキルン炉、流動床、電気炉、シャフト炉、高炉、ストーカー炉等の焼却炉あるいは加熱炉あるいは溶融炉の熱を伴う排ガスは、排ガス成分あるいはばいじんの環境上の問題により、バグフィルターを使用している。バグフィルターの耐熱温度は約290℃であり、排ガス温度を290℃以上に上げることは難しく、したがって、排ガス温度を290℃以下に抑えるのが常だった。
【0003】
排ガス温度が300℃以上になる可能性がある場合、排ガスを水等の液体もしくは液体とガスの混合で直接急冷することが従来の技術であった。排ガスを直接水に接触させて排ガスを急冷させることは可能であるものの、廃液に酸化金属あるいは塩化金属が混入する。このため、前記酸化金属もしくは塩化金属を化学的処理により除去しなければならない。この化学的処理も環境上の重大な問題があった。
【0004】
従来、ロータリーキルン炉、流動床、電気炉、シャフト炉、高炉、ストーカー炉等の焼却炉あるいは加熱炉あるいは溶融炉の処理炉を用いて高温で焼却あるいは溶融処理した後、金属を含有する高温の熱分解ガスを冷却するために、ガスに冷却水を直接噴霧して冷却し、気体と固体を分離してガスを拡散させ、固体を廃棄物として回収していた。
【0005】
この場合、金属と水が直接接触するために、金属と水とが反応し、ほとんど酸化金属あるいは塩化金属が生成される。そのため、金属として回収する比率が極端に低かった。このため、「金属」を含有する熱分解ガスに直接冷却水を噴霧せずに、「単体の金属」を回収する方法が求められている。
【0006】
特開平08−131770号公報に示される特許には、重金属を回収する内容であるが、同時に重金属の化合物をも回収しており、全てが単体の金属として回収できているわけではない。また、特開2003−345642号公報に示される特許では、重金属含有物質から重金属を除去するために、塩素成分を含有する物質を加熱炉に投入し、塩化金属のダストとして回収している。
【0007】
別の金属回収方法として、湿式による回収方法がある。これは金属含有物を溶解したのち、電気分解あるいは溶液と混合することにより金属を析出させ、所望の金属を回収する方法である。しかしながら、上述の方法の場合、プロセスが複雑になることと、廃液を排出することによる廃液処理の問題がある。複数の金属種を含有する物質から各々の金属種を分離回収する場合には、湿式による回収が行われることがあるが、上述のように、廃液処理の問題や環境上の問題が出てくる。
【0008】
さらに、手作業あるいは機械による破砕により分解して、当該金属あるいはレアメタルを選別・回収する方法も取られていた。しかしながら、この方法では、選別に要する時間がかかることと、作業員の労力を必要とすることが問題であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、鉄スクラップやシュレッダーダスト、携帯電話等の電子機器類に含まれる複数の金属を有する金属含有物を溶融炉で高温処理した際に発生する排ガスを300℃以上にコントロールして、金属のガスとして排出させ、複数段設けた冷却塔で冷却温度をコントロールしながら間接冷却することにより凝固させて複数の金属種を分別回収することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)溶融炉において、排ガス温度を300℃以上にコントロールし、かつ排ガス中の残存酸素を10%以下にした還元性の排ガス組成の排ガス中に含まれる複数の金属及び酸化金属及び塩化金属を回収するために、排ガスに含まれる金属及び酸化金属及び塩化金属を蒸着あるいは凝固あるいは沈殿させることを目的として、2段以上の複数段設けた冷却塔において、金属および酸化金属及び塩化金属の各々の凝固点、蒸着点、沈殿の差に応じて冷却温度をコントロールして排ガスとその金属及び酸化金属及び塩化金属を高温から冷却させ、複数の金属を分別回収する。
【0011】
(2)溶融炉において、排ガス温度を300℃以上にコントロールし、かつ排ガス中の残存酸素が10%以下の還元性ガスにコントロールした排ガス中の金属および酸化金属及び塩化金属排ガス温度が排ガス中の回収しようとする金属の沸点以上となるようにコントロールして、ガス化した金属を含有する排ガスを複数段設けた冷却塔において金属の沸点に応じて冷却温度をコントロールしながら冷却させ、各段冷却塔においてガス化した金属を蒸着あるいは凝固あるいは沈殿させることによって、ガス及び回収しようとする金属を分離し、各々の冷却塔で複数の金属を分別回収する
【0012】
(3)溶融炉内のガス雰囲気を残存酸素濃度が8%以下の低酸化ガス性還元ガスとする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係る複数の金属を分別回収する金属含有排ガスの多段間接冷却による金属の分離冷却回収方法である。
【0014】
本発明では、複数の金属を含有する金属含有物2を高温で処理するための高温処理炉として、溶融炉1を使用する。溶融炉の構造としては排ガスを次工程に送るガス上昇管が炉の胴体部分に設けていることが、高温の排ガスを得る点において好適である。
【0015】
前記金属含有物2としては、鉄の含有量が60%未満の低品位の鉄スクラップあるいは、有害物質である鉛やカドミウムを含有しているシュレッダーダストあるいは携帯電話等の電子機器に含まれるレアメタル等が好適である。
【0016】
溶融炉内の雰囲気は、残存酸素濃度が10%以下、好適には8%以下となるようにコントロールする。雰囲気を維持するためには溶融炉内をコークスあるいはバイオカーボンといった炭素系燃料を充填し、酸素がほとんどない状態とすることが好適である。残存酸素濃度を8%以下としたのは、図2に示す実験結果において、残存酸素濃度が8%以下であるときに金属の再酸化率が低くなり、単体の金属を回収することができるためである。
【0017】
前記金属含有物2を溶融炉1内に投入すると、炉内のコークスあるいはバイオカーボンにより前記コークスあるいはバイオカーボンと金属含有物が還元反応をする。炉内温度よりも融点が低いかつ沸点が高い金属は炉内で液化したまま、炉下部に設けた出銑口より単体金属A5aとして流れ出る。単体金属以外の灰分はスラグ4として流れ出る。また、炉内温度よりも沸点が低い金属はガス化し、熱分解ガス3として次工程である第1段冷却塔6aへ移動する。
【0018】
溶融炉1から排出されるガスは300℃以上に制御する。これは、鉛の酸化物である二酸化鉛の分解温度が290℃であるためである。300℃以上に制御する方法としては、高温処理炉1内に酸素を吹き込むことが好適である。
【0019】
冷却塔は、ガスの流路と水の流路が分離している構造となっており、熱分解ガスが上部から下部に向かってタンデンシャルに流れ、冷却水は冷却塔の下部から上部に向かって流れることにより、間接的に冷却することで単体金属を回収することができる。
【0020】
冷却塔は多段あることが好ましいが、ここでは3段の場合について説明する。まず、熱分解ガス3は第1段冷却塔6aの上部に入り、下部に向かって流れる。冷却水7aが、冷却塔6aとは異なる位置に配置されているクーリングタワー8より、クーリングタワー8に設置したポンプの動力により第1段冷却塔6aの下部から上部に向かって配管の中を流れている。このとき、燃焼ガスと冷却水6aが間接的に接触し、燃焼ガスが冷却される。第1段冷却塔6aの上部に到達した冷却水7aは配管を通ってそのまま第1段冷却塔6aの下部に流れ落ちてクーリングタワー8に戻るようにし、冷却水7aを循環させる。
【0021】
第1段冷却塔6aで冷却された燃焼ガスであるが、第1段冷却塔6aの出口ガス温度以下の沸点を有する金属は単体金属B5bとして凝縮して第1段冷却塔5aの下部に蓄積するようにする。出口ガス温度以上の沸点を有する金属はガス化したまま、第1段冷却塔6a通過ガスとして、第1段冷却塔6aの下部と配管で接続された第2段冷却塔6bの上部に入る。
【0022】
第2段冷却塔6bの上部から入った第1段冷却塔通過ガスは、第2段冷却塔6bの上部から下部に向かって流れる。クーリングタワー8からポンプの動力により冷却水7bが第2段冷却塔6bの下部から上部へと流れ、再びクーリングタワー8に戻るようにする。第1段冷却塔通過ガスと冷却水7bが間接的に接触することで、第1段冷却塔通過ガスが冷却される。第2段冷却塔出口ガス温度以下の沸点を有する金属は単体金属C5cとして凝縮して第2段冷却塔6b下部に蓄積する。第2段冷却塔出口ガス温度以上の沸点を有する金属はガス化したまま、第2段冷却塔通過ガスとして、第2段冷却塔6bの下部と配管で接続された第3段冷却塔6cの上部に入る。
【0023】
第3段冷却塔6cの上部から入った第2段冷却塔通過ガスは、第3段冷却塔6cの上部から下部に向かって流れる。クーリングタワー8からポンプの動力により冷却水7cが第3段冷却塔6cの下部から上部へと流れ、再びクーリングタワー8に戻るようにする。第2段冷却塔通過ガスと冷却水7cが間接的に接触することで、第2段冷却塔通過ガスが冷却される。第3段冷却塔6c出口ガス温度を、全ての金属が液化する温度である350℃以下とし、第2段冷却塔5b通過ガスに含まれていた金属成分はすべて単体金属D5dとして凝縮して第3段冷却塔下部に蓄積する。金属成分をすべて回収された残りのガスは、第3段冷却塔通過ガスとして、燃焼室9に入る。
【0024】
第1段冷却塔6a並びに第2段冷却塔6bの出口ガス温度は、それぞれ冷却水の水量に応じて決まる。このため、出口ガス温度を回収したい金属の沸点以下になるように冷却水量をコントロールすることで、所望の金属を得ることができる。
【0025】
各段冷却塔の下部に蓄積する金属であるが、密閉空間において窒素ガスのような非酸化性ガスで冷却することも可能である。
【0026】
第3段冷却塔通過ガスは配管で接続された燃焼室9に入り、バーナーにより1800℃近くにまで燃焼され、燃焼ガスは燃焼室9と配管で接続された冷却塔6dに入り、200℃近くまで急冷されたのち、バグフィルターを通って大気中に放散される。なお、第1段ないし第3段冷却塔6a〜6cは熱分解ガスを冷却して金属を回収するための冷却塔であり、冷却塔6dは燃焼室9で燃焼させたガスを冷却し、無害化処理を行うための冷却塔である。
【実施例】
【0027】
溶融炉に携帯電話本体を100kg投入し、携帯電話本体に含まれる金属を回収した。携帯電話本体に含まれる金属として、金、銀、銅、パラジウムがあるため、冷却塔は3段設けて分離回収を行った。冷却塔のガス出口温度は各金属の沸点を考慮した結果、第1段を2900℃、第2段を2500℃とした。沸点が最も高いパラジウムは出銑口から回収でき、2番目に高い金は第1段冷却塔、3番目に高い銅は第2段冷却塔、最も沸点が低い銀は第3段冷却塔からそれぞれ回収することができた。
【0028】
本発明において、炉内の残存酸素が8%以下の場合と8%以上の場合におけるメタル回収率を調べたところ、表1の結果が得られた。残存酸素が8%以上の場合と比較して、8%以下とするとメタル回収率が飛躍的に向上する。この結果から、炉内の残存酸素濃度は8%以下とすることが裏付けられた。
【0029】
【表1】

【発明の効果】
【0030】
上述のように、従来の冷却塔では、熱分解ガスと冷却水が直接接触していたため、酸化金属あるいは塩化金属を生成し再利用することが困難であったが、本発明により、間接冷却をすることによって複数の金属種を含有する金属含有物を各段冷却塔から単体金属として分離することができる。これにより、新たなリサイクルシステムの構築が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる金属含有排ガスの多段間接冷却による金属の回収方法
【図2】残存酸素濃度と金属の再酸化率の関係
【符号の説明】
1 溶融炉
2 金属含有物
3 熱分解ガス
4 スラグ
5a 単体金属A
5b 単体金属B
5c 単体金属C
5d 単体金属D
6a 第1段冷却塔
6b 第2段冷却塔
6c 第3段冷却塔
6d 冷却塔
7a 冷却水A
7b 冷却水B
7c 冷却水C
7d 冷却水D
8 クーリングタワー
9 燃焼室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉において、排ガス温度を300℃以上にコントロールし、かつ排ガス中の残存酸素を10%以下にした還元性の排ガス組成の排ガス中に含まれる複数の金属及び酸化金属及び塩化金属を回収するために、排ガスに含まれる金属及び酸化金属及び塩化金属を蒸着あるいは凝固あるいは沈殿させることを目的として、2段以上の複数段設けた冷却塔において、金属および酸化金属及び塩化金属の各々の凝固、蒸着、沈殿の差に応じて冷却温度をコントロールして排ガスとその金属及び酸化金属及び塩化金属を高温から冷却させ、複数の金属を分別回収する、金属含有排ガスの多段間接冷却による金属の分離冷却回収方法。
【請求項2】
溶融炉において、排ガス温度を300℃以上にコントロールし、かつ排ガス中の残存酸素が10%以下の還元性ガスにコントロールした排ガス中の金属および酸化金属及び塩化金属排ガス温度が排ガス中の回収しようとする金属の沸点以上となるようにコントロールして、ガス化した金属を含有する排ガスを複数段設けた冷却塔において金属の沸点に応じて冷却温度をコントロールしながら冷却させ、各段冷却塔においてガス化した金属を蒸着あるいは凝固あるいは沈殿させることによって、ガス及び回収しようとする金属を分離し、各々の冷却塔で複数の金属を分別回収する請求項1記載の金属含有排ガスの多段間接冷却方式による金属の分離冷却回収方法。
【請求項3】
溶融炉内のガス雰囲気を残存酸素濃度が8%以下の低酸化ガス性還元ガスとする請求項1記載の金属含有排ガスの多段間接冷却方式による金属の分離冷却回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−117706(P2011−117706A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289766(P2009−289766)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(598092166)株式会社還元溶融技術研究所 (22)
【Fターム(参考)】