説明

金属多孔質薄板の製造方法およびその製造方法で得られた金属多孔質薄板

【課題】空隙率が極めて高く、厚みが0.5mm以下の非常に薄い金属多孔質薄板の製造方法を提供する。
【解決手段】発泡樹脂材に硬化助剤を充填する硬化助剤充填工程I、硬化助剤が充填された発泡樹脂材を硬化させる硬化工程II、硬化した発泡樹脂材を薄膜にスライスするスライス工程III、スライスされた発泡樹脂薄膜から硬化助剤を除する硬化助剤除去工程IV、発泡樹脂薄膜に金属粉末スラリーを付着させる付着工程V、金属粉末スラリーが塗布された発泡樹脂薄膜を乾燥させる乾燥工程VI、乾燥した発泡樹脂薄膜から発泡樹脂部分を除去し金属粉末のみ残す樹脂除去工程VII、残された金属粉末を互いに結合させる金属粉末結合工程VIIIを順に実行する。スライス工程IIIでは、発泡樹脂材が硬化しているので、非常に薄くスライスできる。金属粉末により構成され、厚さが0.5mm以下という極薄であるので、電池を薄型にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属多孔質薄板の製造方法およびその製造方法で得られた金属多孔質薄板に関する。さらに詳しくは、燃料電池やリチウムイオン電池等の各種電池の電極等に好適な金属粉末を素材とし、かつ非常に薄い多孔質薄板の製造方法と、それにより得られた金属多孔質薄板に関する。
【背景技術】
【0002】
金属多孔質部材は、触媒の担体や燃料電池の電極に必須の部材である。
これらの用途に使われる金属多孔質部材の製法として、特許文献1,2の従来技術がある。
【0003】
特許文献1,2のチタン粉末焼結体は、球状ガスアトマイズチタン粉末を焼結容器内に収容し、その後、無加圧で真空焼結することにより形成されたものであり、特許文献1の実施例には空隙率が37〜44%のフィルタが記載されており、特許文献2の実施例には気孔45〜67%の焼結体が記載されている。
【0004】
しかるに、上記従来技術は、非常に薄い多孔質体を得ることを全く考慮していなかった。したがって、相当の厚さのある多孔質体しか存在していなかった。
ところで、多孔質体が、たとえば0.5mm以下の極薄であると、電池等に使ったとき、電池の厚さが薄くなるとか、内部抵抗が小さくなる等の利点が生ずる。
【0005】
そこで、多孔質体を薄くして薄膜化する方法が種々検討された。
たとえば、第1の方法では、ある程度の薄さの多孔質シート体を作り、圧力をかけて薄く延ばすことが検討された。しかし、この方法では、孔が押しつぶされるため、気孔率が犠牲となって高い気孔率を実現することができない。
【0006】
また、第2の方法では、発泡樹脂に金属粉を含んだスラリーを塗布し、焼結して発泡金属を得てから薄くカットする方法が検討された。しかし、この方法では焼結後の金属多孔体をスライスすることが、それを可能とするに適切な刃物が存在しないことから難しく、とりわけ0.5mm以下のような極薄にカットすることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−662993号公報
【特許文献2】特開2002−317207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、空隙率が極めて高い多孔質体でありながら、厚みが0.1〜0.5mmの非常に薄い金属多孔質薄板の製造方法およびその製造方法で得られた金属多孔質薄板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の金属多孔質薄板の製造方法は、発泡樹脂材に硬化助剤を充填する硬化助剤充填工程、硬化助剤が充填された発泡樹脂材を硬化させる硬化工程、硬化した発泡樹脂材を薄膜にスライスするスライス工程、スライスされた発泡樹脂薄膜から硬化助剤を除する硬化助剤除去工程、発泡樹脂薄膜に金属粉末スラリーを付着させる付着工程、金属粉末スラリーが塗布された発泡樹脂薄膜を乾燥させる乾燥工程、乾燥した発泡樹脂薄膜から発泡樹脂部分を除去し金属粉末のみ残す樹脂除去工程、残された金属粉末を互いに結合させる金属粉末結合工程を順に実行することを特徴とする。
第2発明の金属多孔質薄板の製造方法は、第1発明において、前記金属粉末がチタンであることを特徴とする。
第3発明の金属多孔質薄板の製造方法は、第1発明において、前記金属粉末が銅であることを特徴とする。
第4発明の金属多孔質薄板の製造方法は、第1発明において、前記金属粉末がアルミニウムであることを特徴とする。
第5発明の金属多孔質薄板は、金属粉末によって形成された多孔質薄板であって、金属粉末同士が結合して形成された網目構造の骨格を有し、かつ該骨格の内部が空洞になっており、厚さが0.1〜0.5mmの薄板であることを特徴とする。
第6発明の金属多孔質薄板は、請求項5記載の金属多孔質薄板であって、請求項1の製法によって製造されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、スライス工程では、発泡樹脂材が硬化しているので、非常に薄い0.1〜0.5mmの厚さにスライスできる。このため、後の工程を順に実行することにより多孔質薄板が網目構造であって骨格自体も内部が空洞となった高多孔率の金属多孔質薄膜を作ることができる。
第2発明によれば、チタン製の多孔質薄膜が得られるので、燃料電池のガス拡散電極や細胞培養における足場(スキャンフィールド材)に利用できる。
第3発明によれば、銅製の多孔質薄膜が得られるので、リチウムイオン電池の負極材に利用できる。
第4発明によれば、アルミニウム製の多孔質薄膜が得られるので、リチウムイオン電池の正極材に利用できる。
第5発明および第6発明によれば、多孔質薄板が網目構造であり、かつ骨格自体も内部が空洞であって高い多孔率を有する金属粉末により構成されているので、電極材料に適している。しかも、厚さが0.1〜0.5mmという極薄であるので、電池を薄くでき、内部抵抗を小さくでき、ジュール熱発生を小さくでき、寿命を延ばせるという利点が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る金属多孔質薄板Mの製造方法の工程図である。
【図2】発泡樹脂材Rのイメージ図と硬化助剤充填工程Iの説明図である。
【図3】スライス工程IIIと硬化助剤除去工程IVの説明図である。
【図4】スラリー付着工程Vと乾燥工程VIの説明図である。
【図5】発泡樹脂薄膜除去工程VIIと金属粉末結合工程VIIIの説明図である。
【図6】本発明に係る金属多孔質薄板Mの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、図6に基づき、本発明の金属多孔質薄板Mの概略構造を説明する。
同図に示すように、本発明の金属多孔質薄板Mは、金属粉末によって形成された多孔質薄板であって、内部に金属粉末同士が接合して形成された網目構造の骨格bを有しており、かつ骨格内部が空洞hになっているものである。網目構造とは、スポンジ(海綿)状の構造であって、内部に多数の連続する空隙が形成されている構造を意味する。また本発明では、骨格b自体も空洞hを有している。このような本発明の多孔質構造を中空骨格網目構造という。
【0013】
また、本発明の金属多孔質薄板は、0.1〜0.5mmの極薄の板状部材であることが特徴の一つである。このような極薄板に成形できた理由は後述する製法によるが、極薄であることによって、電極板等に用いた場合に、つぎのようなメリットを生ずる。
a)燃料電池の場合
・スタックの厚さが薄くなる。
・内部抵抗が小さくなる。
・拡散抵抗が小さくなる。
b)リチウムイオン電池の場合
・ジュール熱発生が少なくなり、急速充電ができる。
・内部抵抗が小さくなる。
・活物質の剥離が起こり難く、寿命が延びる。
【0014】
つぎに、本発明の金属多孔質薄板の製造方法を説明する。
本発明の製法は、図1に示すように、発泡樹脂の薄膜を作る前半工程Aと、発泡樹脂薄膜を骨格として金属多孔質薄板Mを作る後半工程Bとからなる。
以下の工程説明では、全工程につき図1を参照し、図2〜図7は適宜明示して参照することとする。
【0015】
まず、前半工程Aを説明する。
前半工程Aでは、発泡樹脂材料Rを原料とする。図2に示すように、この発泡樹脂材料Rは、多孔質となるように発泡した樹脂材料である。また、用いられる樹脂材料は、加熱等により後で除去できるものであれば、どのような樹脂材料でも用いることができる。
【0016】
そのような骨材となる樹脂材料としては、たとえば、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂などを用いることができる。
また、形状には、とくに制限がなく、全体形状は立方体や円筒形など任意の形状でもよく、厚さも厚いものでよい。更にまた、長さが長いものであってもよい。
【0017】
(硬化助剤充填工程I)
図2(I)に示すように、発泡樹脂材料Rには硬化助剤Wを充填する。硬化助剤Wとしては、水やパラフィン、ドライアイスなどの冷却することにより硬化し、加温することにより溶解するものが用いられる。また、骨材としてのウレタン樹脂よりも低融点の熱可塑性樹脂や界面活性剤からなる種々の材料から選ばれた一つであってもよい。つまり、骨材としてのウレタン樹脂の融点よりも低温で硬化し溶融するものであればよい。
硬化助剤Wの充填方法は、とくに制限がなく、容器内に入れた水などの硬化助剤Wに発泡樹脂材料Rを浸漬したり、水を入れた容器を密閉して減圧または加圧したりする方法がとられる。要するに、発泡樹脂材料Rの内部空洞に水などの硬化助剤Wが進入していって保持されればよい。
【0018】
(硬化工程II)
水などの硬化助剤Wを充填した発泡樹脂材料Rを硬化させる。硬化させるには硬化助剤Wが凍り始める温度以下に冷却すればよい。硬化助剤Wが水の場合は、凍らせて氷にすればよい。
【0019】
(スライス工程III)
硬化助剤Wが凍ったことにより硬くなっている発泡樹脂材料Rをスライスする。この工程での発泡樹脂材料Rは硬度が高く剛性も高くなっているので、薄くスライスすることが可能である。このため、0.5mm以下の薄さにスライスすることができる。この薄さは、柔らかいままの発泡樹脂材料Rではスライス不可能な厚さである。
スライスする刃物は任意であり、たとえば、超硬合金やセラミックス、高速度工具鋼などの刃物を利用できる。
この工程により、図3IIIに示す硬化助剤Wで硬化した状態の薄膜状の発泡樹脂材料Rが得られる。
【0020】
(硬化助剤除去工程IV)
この工程では硬化助剤Wを除去する。除去する方法は任意であるが、硬化助剤Wを溶融して溶かし去るのが便利である。このためには、硬化助剤Wが溶け始める温度以上に加温すればよい。硬化助剤Wが水の場合は、凍っていた氷を溶かすことでよい。
この工程により、図3IVに示すように、空洞Hに充填されていた硬化助剤Wが無くなり発泡樹脂材料Rのみが残った発泡樹脂薄膜Fが得られる。もちろん空洞Hは空洞のままであり、発泡樹脂薄膜Fの厚さtはスライスされたままの0.5mm以下の極薄である。
【0021】
つぎに、後半工程Bを説明する。
後半工程Bでの付着工程Vの前に、その準備として金属粉末含有スラリーを作っておく必要がある。
まず、アクリル、ウレタン、ポリエチレン、ポリスチレン、ブチラール等の樹脂材料をアセトンやエタノール、トルエン等の常温で蒸発する溶剤によって溶かして液体状のバインダを作り、このバインダに金属粉末mを混ぜて金属粉末含有スラリーを作成する。
【0022】
バインダに用いる樹脂材料は、溶剤が蒸発すると固まるが、高温(例えば100℃以上500℃以下)では燃焼、蒸発、分解するものであって、かつ、溶剤に溶けた状態において粘着性を有するものであれば、特に限定はない。なお、水溶性セルローズエーテル(CMC)やメチルセルローズ(MC)等の水溶性の樹脂を用いることもでき、この場合には溶剤として水を使用することができる。
【0023】
金属粉末含有スラリーに混ぜる金属粉末としては、とくに制限なく種々の金属粉末を用いることができるが、以下に代表的な金属と、その利用形態を示す。
Ti:PEFC(固体高分子型燃料電池)ガス拡散材(電極材料)
Cu:リチュームイオン電池の負極集電体
Al:リチュウムイオン電池の正極集電体
Ag:ガス拡散電極(ソーダー電解法)、医薬品の電気泳動による治療電極
SUS:純粋製造電極、耐食性フィルター
Ni:ニッケル水素電池集電体、SOFC(リン酸塩型燃料電池)の陽極側ガス拡散材
【0024】
(付着工程V)
図4Vに示すように、適当な容器1を入れた金属粉末含有スラリーSに発泡樹脂薄膜Fを浸漬する。既述のごとく、この発泡樹脂薄膜Fは、ウレタンフォームやポリエチレンフォーム、ポリスチレン等の樹脂材料によって形成された網目構造の骨格bを有するものであり、その内部には連続する空隙Hが、空隙率で50%以上有するように形成されたものである。このため、金属粉末含有スラリーSに発泡樹脂薄膜Fを浸漬すると、連続する空隙H内に金属粉末含有スラリーSが侵入し、金属粉末含有スラリーSによって発泡樹脂薄膜Fの骨格bが包囲される。この結果、発泡樹脂薄膜Fの外周面に金属粉末含有スラリーSがまんべんなく付着する。
なお、金属粉末含有スラリーSを発泡樹脂薄膜Fに付着させることができれば、浸漬する方法以外に塗布したり吹き付けたり任意な方法を採用できる。ただし、発泡樹脂薄膜Fの外周にまんべんなく金属粉末含有スラリーSを付着させることができなければならない。
【0025】
本工程Vにおいては、非常に薄い発泡樹脂薄膜Fをハンドリングするため、浸漬する間に破れないような対策を用いるのが好ましい。
たとえば、破れ防止としては、発泡樹脂薄膜Fの表裏両面をネットで保護する方法が考えられるが、それ以外の方法でも効果があれば任意な手段を採用してよい。
【0026】
発泡樹脂薄膜Fを形成する樹脂材料については既述しているが、とくに炭素を含有し、かつ、金属粉末含有スラリーSに含まれる溶剤に溶けない物質であって、高温において燃焼または蒸発、分解するものが好ましい。
とくに、発泡樹脂薄膜Fを形成する樹脂材料は、100℃以上600℃以下、好ましくは100℃以上500℃以下、さらに好ましくは、100℃以上400℃以下において燃焼、蒸発、分解するものであることが望ましい。この理由は、金属粉末としてチタンを用いる場合は、400〜600℃程度まではその表面に形成されている不動態被膜の活性が低く他の物質と反応しないからであり、後述する樹脂除去工程VIIにおいて、樹脂材料が分解して炭素や水素、酸素等が発生しても、これらの物質が金属粉末内部に拡散したり、金属粉末と反応して化合物を形成することを防ぐことができるからである。
また、金属粉末としてアルミニウムを用いる場合は、融点が660℃で焼結温度が500〜600℃だから、上記と同様の条件で発泡樹脂薄膜Fを形成する樹脂材料を選択すればよい。
さらに、チタンとアルムニウム以外の金属粉末は反応性が弱いので、上記の条件を満足しない樹脂材料でもよく、満足する樹脂材料でもよい。
【0027】
(乾燥工程VI)
発泡樹脂薄膜Fの空隙H内にも十分に金属粉末含有スラリーSが侵入し付着が充分に行われた後、金属粉末含有スラリーSから発泡樹脂薄膜Fを取り出すと、発泡樹脂薄膜Fの空隙H内に浸入していた金属粉末含有スラリーSの余分なものは、発泡樹脂薄膜Fから排出され、金属粉末含有スラリーSの残りは、発泡樹脂薄膜Fにおける網目構造の骨格bの表面に付着したまま残留する。
そして、発泡樹脂薄膜Fを乾燥させると、図4(VI)に示すように、金属粉末mを含有した層Lが、骨格bの表面に形成される。すると、金属粉末mを含有した層Lも、網目構造に形成される。
【0028】
(樹脂除去工程VII)
つぎに、乾燥した発泡樹脂薄膜Fを焼結炉内のセッター(焼結用受け台)に置いて加熱し、発泡樹脂薄膜Fの骨格b内部にある樹脂材料を除去する。この結果、図5(VII)に示すように、骨格b自体が内部に空洞hがあり、骨格bと骨格bの間に空隙Hが大きく空いた中空骨格多孔質板が得られる。
【0029】
発泡樹脂薄膜Fのような物質は微細になるほど活性が高まり反応しやすくなる。たとえば、本工程VIにおいて、発泡樹脂薄膜Fが0.2mm程度まで薄くなると、セッターに接着してしまう不都合も生ずる。
そのため、セッターの材質選択が重要であり、たとえば、安定化ジルコニア、マグネシア、石英ガラス、モリブデンなどが高温における反応性が弱いという理由で好ましい。
焼結炉としては、外部電熱加熱の真空炉よりもミリ波焼結による加熱炉が用いやすい。一般的な電子レンジ(2.45GHz)は波長が長く(約12cm)、火花放電が起こり加熱できないが、30GHzの電磁波(波長は約1cm)の内部加熱を使うと、金属を選択的に加熱するので、セッターは高温にならず、発泡樹脂薄膜Fのみ加熱できるからである。
焼結炉内の温度が約100℃以上、つまり、樹脂材料が燃焼、分解、蒸発する温度を超えると、樹脂材料を構成していた有機物は分解し、有機物中に存在していた酸素や水素は気化したり、互いに結合して水蒸気となったりして炉内から排出される。また、有機物中に存在していた炭素も、有機物中に存在していた酸素と結合して二酸化炭素や一酸化炭素となって蒸発した後炉内から排出される。
【0030】
このとき有機物に含まれていた炭素は、全てが酸素と結合して蒸発するのではなく、一部の炭素は遊離炭素となって金属粒子の表面に残留する。すると、この遊離炭素は金属粉末m同士をくっつける結合剤として機能するので、金属粉末mによって金属構造体の骨格bが形成される。すなわち、樹脂材料の層Lに存在していた金属粉末同士がそのままの位置に配置された状態で結合するから、この金属構造体は、樹脂材料の層Lとほぼ同じ構造となる。つまり、金属構造体は網目構造に形成され、しかも、網目構造の骨格bは、その内部が中空になった状態となる。
【0031】
(金属粉末結合工程VIII)
金属構造体の骨格bが形成された後も加熱を継続すると、焼結炉内の温度はさらに上昇し、金属構造体の骨格bも網目構造を維持したまま昇温される。そして、焼結炉内の温度が高温になると金属粉の表面の活性が高くなり、金属粉末同士が直接接触して互いに結合する。この工程により図5(VIII)に示すような骨格の外皮を構成する金属部が一体となった強度の高い骨格が得られる。なお、外皮自体にも金属粉末m同士の間の隙間が残った小さな空洞が生じ、さらに高い空隙率を得る理由となっている。
【0032】
金属粉末の直接接触による骨格bを形成する詳細な理由は、以下のとおりである。
金属粉末がチタンの場合、炉内温度が600℃以上になると、チタン粉末の表面に形成されている不動態被膜の活性が高くなり、他の物質と反応しやすくなる。すると、チタン酸化物の酸素は、チタン粉末表面に存在している遊離炭素と反応してCOやCOとなってチタン粉末から分離し、分離したCOやCOは真空炉内から除去される。同時に、チタン構造体に水素が残留している場合には、遊離炭素の一部は残留水素と反応してハイドロカーボン(HC)となりガス化してチタン構造体から除去される。また、遊離炭素の一部はチタン粉末に拡散する。
すると、チタン粉末は、その金属チタン同士が直接接触するようになり、接触した金属チタン同士の間で相互拡散が発生し、隣接するチタン粉末m同士が拡散接合する。すると、結合剤として機能していた遊離炭素が消滅しても、チタン粉末mだけで発泡樹脂薄膜Fの層Lとほぼ同じ構造の網目構造が維持される。そして、時間の経過とともに、チタン粉末mの拡散接合が進行し、チタン粉末mによって形成された網目構造の骨格を有する強固な多孔質薄板が形成されるのである。
チタン以外の銅やアルミニウムからなる金属粉末についても高温焼結による骨格bの形成理由は同様である。
【0033】
上記の高温焼結に際しては、ミリ波加熱焼結装置を用いるのが好ましい。
たとえば、アルミニウムはチタン以上に強固な酸化皮膜を形成しているので、難焼結材である。一般的な高真空(10−3MP程度)の外部加熱炉では酸化皮膜を除去するためには、超高真空(10−4MP程度)を必要とするが、30GHzクラスのミリ波照射をする加熱炉であれば、炉内が還元雰囲気になる(試料から酸素が放出される)ので、超高真空にせずとも焼結が進行する。
また、材料の内部加熱が起こる電磁波加熱は電子レンジに使われている2.45GHzが知られているが、波長が12cmもあり、電界の分布を均一にすることが困難なため、試料を均一に加熱することが出来ない。また導電体である金属は火花放電するので使えない。これに対して1桁周波数の高い28GHz(波長1cm)の電磁波を用いれば、試料を均一に加熱することが容易であるとともに、火花放電も起こらない。したがって、ミリ波照射加熱焼結法でセッターとの融着をなくし、厚さ0.2mmの試料の焼結時破断を防ぐことも可能である。
【0034】
以上の工程を経て、金属構造体のみによって作られた中空骨格網目構造であり、しかも0.5mm以下の薄さも実現された極薄の金属多孔質薄板Mが得られる。
そして、この金属多孔質薄板Mは極めて薄いので、これを電極等に利用した場合、その小型化が可能となる。
【0035】
上記製法で得られた金属多孔質薄板Mの特徴をさらに説明する。
本発明の金属多孔質薄板は、上記のごとき中空骨格網目構造を有しているので、ウレタンフォーム等と同程度の空隙率、すなわち、80%〜95%程度の高い空隙率を達成するものである。このため、電池に要求されるガス拡散性能は良好となる。
【0036】
本発明の金属多孔質薄板では、中空骨格網目構造の骨格が金属粉末が結合して形成されているので、構造的な強度も強く、たとえば0.1〜0.5mmに極薄化しても、それ自体が形状を維持する形状保持性を有する。また、高純度の金属焼結体になっているので、折り曲げ等の塑性変形が可能であり、クリープ特性も良好である。したがって、電池のスタックに組み込んだ後の締め付け力を維持しやすい。
【0037】
また、中空骨格網目構造の骨格自体が金属粉末の結合によって形成されたものであるから、導電性も優れている。よって、導電性も要求される燃料電池用の電極としても使用することができる。
とくに、粒径が小さい粉末、例えば、平均粒径50μm以下、好ましくは、平均粒径20μm以下の粉末を使用して骨格を形成すれば、金属多孔質薄板全体の空隙率は高くなっても、骨格自体の空隙率は小さくすることができる。言い換えれば、骨格部分における金属粉末間に形成される隙間が小さくなる。すると、空隙率は高くなっても骨格自体の強度は高く維持することが可能となるから、空隙率を高くしても多孔質薄板の強度低下を防ぐことができる。
【0038】
本発明の金属多孔質薄板は、金属粉末が結合した網目構造の骨格が形成されており、この骨格同士の間に多数の連続する空隙が形成されているから、粉末の大きさ以上の空隙を形成できることはもちろん、粉末の大きさに制限されることなく空隙の幅を自由に調整することができ、空隙率を80%〜95%程度とすることも可能となるのである。しかも、本発明の金属多孔質薄板の場合、金属粉末の平均粒径が小さくなればなるほど網目構造の骨格の形状や配置等の自由度が大きくなるのであるから、粉末の平均粒径を小さくすれば、空隙率をさらに大きくできる可能性があるのである。
そして、金属粉末の粒径が小さくなれば骨格部分の空隙率は小さくなるが、骨格部分の空隙率が小さくなることによって粒子同士の結合が強くなり網目構造の骨格の強度を高めることができるから、高い空隙率を維持しつつ金属多孔質薄板の強度を高めることができる。つまり、金属多孔質薄板の強度向上と空隙率の向上の両方を満たすことが可能となるのである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
上記の金属多孔質薄板Mの利用可能な用途を例示すると、以下のとおりである。
PEFC(固体高分子型燃料電池)のガス拡散材(電極材料)
リチュームイオン電池の負極集電体
リチュウムイオン電池の正極集電体
ガス拡散電極(ソーダー電解法)
医薬品の電気泳動による治療電極
純粋製造電極、耐食性フィルター
ニッケル水素電池集電体、SOFC(リン酸塩型燃料電池)の陽極側ガス拡散材
【0040】
また、チタン製の金属多孔質薄板Mについては、上記以外に下記の利用も可能である。再生医療における細胞培養における細胞の足場(scaffold スキャフォールド)
歯周病治療等におけるスペースメイキング材(バリア膜)
【符号の説明】
【0041】
2 基礎材料の網目構造の骨格
m チタン粉末
J 樹脂材料
L 樹脂材料Jの層
H 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂材に硬化助剤を充填する硬化助剤充填工程、
硬化助剤が充填された発泡樹脂材を硬化させる硬化工程、
硬化した発泡樹脂材を薄膜にスライスするスライス工程、
スライスされた発泡樹脂薄膜から硬化助剤を除する硬化助剤除去工程、
発泡樹脂薄膜に金属粉末スラリーを付着させる付着工程、
金属粉末スラリーが塗布された発泡樹脂薄膜を乾燥させる乾燥工程、
乾燥した発泡樹脂薄膜から発泡樹脂部分を除去し金属粉末のみ残す樹脂除去工程、
残された金属粉末を互いに結合させる金属粉末結合工程を
順に実行する
ことを特徴とする金属多孔質薄板の製造方法。
【請求項2】
前記金属粉末がチタンである
ことを特徴とする請求項1記載の金属多孔質薄板の製造方法。
【請求項3】
前記金属粉末が銅である
ことを特徴とする請求項1記載の金属多孔質薄板の製造方法。
【請求項4】
前記金属粉末がアルミニウムである
ことを特徴とする請求項1記載の金属多孔質薄板の製造方法。
【請求項5】
金属粉末によって形成された多孔質薄板であって、
金属粉末同士が結合して形成された網目構造の骨格を有し、かつ該骨格の内部が空洞になっており、
厚さが0.1〜0.5mmの薄板である
ことを特徴とする金属多孔質薄板。
【請求項6】
請求項5記載の金属多孔質薄板であって、請求項1の製法によって製造されたものである
ことを特徴とする金属多孔質薄板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−12688(P2012−12688A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152578(P2010−152578)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(592129486)株式会社長峰製作所 (18)
【出願人】(510185734)長峰研究開発センター株式会社 (1)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】