説明

金属帯の制御方法及び溶融めっき金属帯の製造方法

【課題】 金属帯のパスライン、反り、および振動を非接触で抑制する金属帯の制御方法において、金属帯のエッジ部の位置の制御が正確にできる金属帯の制御方法、および、そのような方法を用いて高品質な溶融めっき金属帯を製造する方法を提供する。
【解決手段】 金属帯の製造ラインまたは処理ラインに設置され、ライン内走行中の前記金属帯の表裏を挟むように対向して設けられた一対の電磁石および前記金属帯の面外方向変位を測定するセンサからなる電磁石ユニットを、金属帯の幅方向に複数組配置し、前記各センサの情報に基づいて前記各電磁石の出力を制御して前記金属帯のパスライン、反り及び振動を非接触で制御する方法において、前記金属帯の板幅方向の両エッジ部に位置する電磁石ユニットに設けられた電磁石の制御を他の電磁石ユニットのセンサが検出した変位に基づいて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯のパスライン、反り、および振動を非接触で抑制する金属帯の制御装置、および、そのような金属帯の制御装置を用いた溶融めっき金属帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯などの金属帯を連続してめっきする方法として、金属帯を亜鉛、アルミニューム等の溶融金属中に浸漬してその金属帯の表面にめっきを施す溶融めっき法が知られている。
【0003】
金属帯は溶融金属中を浸漬しながら通板され、その表面に溶融金属が付着する。そして、溶融金属浴から引き出された金属帯は溶融金属浴後に設置されてあるガスワイパから噴出するガスにより、金属帯に付着した過剰の溶融金属が払拭されて金属付着量の調整が行われる。
【0004】
続くプロセスでは、金属帯は、合金化炉を使用して金属帯を再加熱し均質な合金層を作り出す合金化処理を施す場合がある。そして、金属帯は急冷帯を通過した後、化成処理で特殊の防錆、耐食処理が施され、コイルに巻き取られて出荷される。
【0005】
このような金属帯を製造するラインにおいて、搬送中の金属帯の反りや振動を抑制し、パスラインを安定に保つことは、金属帯の品質を良くするばかりでなく、その製造ラインの能率を向上させることにもつながる重要な要素である。
【0006】
上記の製造ラインにおいて、ガスワイパからはワイピングガスが金属帯の表裏に板幅方向に均一に圧力がかかるようにスリット状に噴出されている。このとき、金属帯が反っていたり、振動していたり、あるいはパスラインが表裏どちらかに偏っていたりすると、ガスワイパと金属帯との距離が一定でなくなる。すると、ワイピングガスの圧力が均一に当たらず、金属帯の表裏や板幅方向、あるいはライン方向に付着量のムラが発生することになる。
【0007】
このような問題点を解決する方法として、電磁石を用いて非接触で金属帯の反りや振動を抑制する技術が知られている。
【0008】
例えば、特許文献1には、帯板状の鋼板を移動させるべき正常な走路面を間にして、一対の電磁石を互いに対向するように配置するとともに、その一方の電磁石の近傍に非接触式の位置検出器を配置し、その位置検出器からの信号に応じて制御器により各電磁石の吸引力を相互に切り替えながら作用させることで、鋼板の反りや振動の抑制を図っている。
【0009】
図8は金属帯1の反りや振動を説明する図である。一般に金属帯1の反りは図8(a)のようなC反りと呼ばれる形状の場合が多く、また金属帯1の振動は図8(b)に示す曲げモード(弦振動)と、図8(c)に示す捩れモードの組み合わせの場合が多いことから、電磁石は金属帯1の板幅方向中央部と両エッジ部の3ヵ所に設置することが望まれる。そこで金属帯の板幅に応じて両エッジ部の電磁石位置を適切に移動する機構を有する技術も提案されている(特許文献2)。
【0010】
ところが、特許文献2のように電磁石位置を移動するには電磁石の駆動機構が必要であり、設備の構造が複雑になる。また、電磁石の移動にはある程度時間がかかり、金属帯の板幅が変化してからしばらくの間は反りや振動を抑制できないため、その部分で品質不良が生じて製品の歩留まりが低下することになる。
【0011】
この問題を解決するため、特許文献3では、金属帯の表裏両面側に通板される金属帯の最大板幅よりも広い範囲に亘って複数の電磁石を並べ、金属帯の板幅に応じて使用する電磁石を電気的に切り換える技術が提案されている。この技術によれば、電磁石を移動する必要がないので設備の構造が簡単になり、また金属帯の板幅変化に対して磁力を発生する範囲を電気的に即座に切り換えることができるため、金属帯の板幅が変化しても、その位置で反りや振動が大きくなるのを防止することができ、品質不良の発生を最小限に抑え得るとしている。
【0012】
しかしながら、上記の特許文献3では、次のような問題がある。この金属帯非接触制御技術では電磁石が金属帯の板幅方向に固定して配置されているため、板幅が中途半端な場合や蛇行が発生した場合には、電磁石対の間に中途半端に金属帯のエッジがかかる可能性がある。その場合、金属帯のエッジ部に位置する電磁石と組になっているセンサの測定範囲から金属帯が外れることになり、センサの検出する変位が不正確になる。その結果、電磁石の制御が不安定となり金属帯が電磁石に接触してしまう危険性や、全く制御できない可能性が生じる。
【0013】
特に、変位センサとして、金属帯の非接触制御装置に多用される渦電流式のセンサを用いる場合に、電磁石から金属帯までの変位を正確に検出するには、センサのプローブと同じ径か、数倍の径の範囲を金属帯が全て覆っていないと変位を正確に検出することができないので、金属帯の制御が不正確となってしまう。
【0014】
以上のように、電磁石を金属帯の板幅方向に並べて配置する従来の金屑帯非接触制御技術では、板幅変化や蛇行の影響により金属滞のエッジ部を制御できないことがあり、板幅全体に対して十分なパスライン、反りおよび振動の制御能力が得られないという問題があった。
【0015】
この問題に対し、特許文献4では、次のような提案をしている。特許文献4では、金属帯の表裏両面側に通板される金属帯の最大板幅よりも広い範囲に亘って複数の電磁石を並べ、金属帯の板幅に応じて使用する電磁石を電気的に切り換えている。そして、金属帯の一方側の電磁石には、金属帯の位置を測定するセンサを設けている。以上の構成は特許文献3と同じである。したがって、金属帯のエッジ部に位置する電磁石と組になっているセンサの測定範囲から金属帯が外れる場合には、センサの検出する変位が不正確になる。
【0016】
このような場合、この特許文献4では、金属帯のエッジ部に位置する電磁石とセンサの両方の電源をオフにし、エッジ部での位置の検出も、エッジ部の電磁石による変位の矯正もしない。その代わりとして、停止したセンサとは異なるセンサで金属帯のエッジ部の位置を求め、停止した電磁石に最近接する電磁石で、金属帯のエッジ部の位置を矯正するようにしている。
【特許文献1】特開平2−62355号公報
【特許文献2】実開平5−30148
【特許文献3】特開平7−256341号公報
【特許文献4】特開2007−296559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献4による方法は、エッジ部の電磁石を使用しないので、金属帯の特に、エッジ部に加わる制御力が小さくなり、正確な制御ができないという問題がある。
【0018】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、金属帯のパスライン、反り、および振動を非接触で抑制する金属帯の制御方法において、金属帯のエッジ部の位置の制御が正確にできる金属帯の制御方法、および、そのような方法を用いて高品質な溶融めっき金属帯を製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために本発明の金属帯の制御方法は、金属帯の製造ラインまたは処理ラインに設置され、ライン内走行中の前記金属帯の表裏を挟むように対向して設けられた一対の電磁石および前記金属帯の面外方向変位を測定するセンサからなる電磁石ユニットを、金属帯の幅方向に複数組配置し、前記各センサの情報に基づいて前記各電磁石の出力を制御して前記金属帯のパスライン、反り及び振動を非接触で制御する方法において、前記金属帯の板幅方向の両エッジ部に位置する電磁石ユニットに設けられた電磁石の制御を他の電磁石ユニットのセンサが検出した変位に基づいて行うことを特徴としている。
【0020】
前記金属帯の両エッジ部に位置する電磁石対の制御を、金属帯の板幅方向の内側に隣接する電磁石ユニットのセンサが検出した変位に基づいて行う構成としたり、前記金属帯の両エッジ部に位置する電磁石対の制御を、金属帯の板幅方向の内側にある全ての電磁石ユニットのセンサが検出した変位に基づいて行う構成としたり、前記金属帯の走行が、めっき金属である溶融金属浴中から引き上げられるものである構成としたりすることができる。
【0021】
本発明の溶融めっき金属帯を製造する方法は、金属帯をめっき金属である溶融金属浴中に引き込む引込工程と、前記金属帯に溶融金属を付着させ、前記金属帯を溶融金属浴外に引き上げる付着工程と、前記金属帯に付着した過剰の溶融金属を払拭するワイパによって溶融金属の付着量を調整する調整工程とを有する溶融めっき金属帯の製造方法において、前記ワイパの直前または直後に、請求項1から請求項3のいずれかに記載の金属帯の制御方法により、前記金属帯の少なくともパスライン、反り及び振動を非接触で制御する制御工程を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、金属帯のパスライン、振動、反りを非接触で制御する場合に問題となっていた金属帯のエッジ部の位置の制御が正確にできるようになった。また、本発明の制御方法を溶融めっき金属帯の製造方法に適用すれば、金属帯の全幅に亘ってめっき付着量ムラを改善することができるので、高品質な溶融めっき金属帯を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の溶融めっき金属帯の製造ラインの構成を示す図である。以下に説明する金属帯1は、鋼板である。金属帯1は、前工程である冷間圧延プロセスにおいて圧延され、続く洗浄プロセスにおいて表面が洗浄される。次に、溶融めっき金属帯製造ラインに運搬され、無酸化性あるいは還元性の雰囲気に保たれた焼鈍炉31において表面酸化膜が除去され焼鈍処理がされる。その後、溶融金属の温度とほぼ同程度まで冷却されて溶融金属浴32内に導かれる。
【0024】
金属帯1は溶融金属浴32内の溶融金属中を浸漬されながら通板され、その表面に溶融金属が付着する。そして、溶融金属浴32から引き出された金属帯1は溶融金属浴32後に設置されてあるガスワイパ33から噴出するガスにより、金属帯1に付着した過剰の溶融金属が払拭されて金属付着量の調整が行われる。
【0025】
続くプロセスでは、用途に応じて、例えばその金属帯1が自動車用外板として使用される場合には、合金化炉34を使用して金属帯1を再加熱し均質な合金層を作り出す合金化処理を施した後、また、合金化が不要な場合にはそのまま、金属帯1が冷却帯35に供給され、その後、化成処理36で特殊の防錆、耐食処理が施され、コイルに巻き取られて出荷される。
【0026】
メッキ層の厚さを一定にするために、前述した、ガスワイパ33からはワイピングガスが金属帯1の表裏に板幅方向に均一に圧力がかかるようにスリット状に噴出されている。しかし、金属帯1が反っている場合や、振動している場合、あるいはパスラインが表裏どちらかに偏っている場合には、ガスワイパ33と金属帯1との距離が一定でないためワイピングガスの圧力が均一にならず、金属帯1の表裏や板幅方向、あるいはライン方向に付着量のムラが発生することになる。
【0027】
このような不都合を解消するために、本発明ではガスワイパ33の直前または直後のいずれかに金属帯の制御装置10を設けている。この制御装置10により、金属帯1のパスラインの変動や振動、および反りを解消することができ、金属帯1の表裏や板幅方向、あるいはライン方向に溶融金属の付着量のムラが発生することを極めて有効に防止することができる。
【0028】
図2は、本発明の金属帯の制御方法に使用される制御装置10の構成を示す図で、(a)は全体の構成図、(b)は電磁石ユニット部分の拡大図である。図中、金属帯1は幅方向の断面で表現されており、紙面と直交方向に走行している。
【0029】
制御装置10は、複数の電磁石ユニット11〜19と、演算部5とから構成される。電磁石ユニット11〜19は、金属帯1の幅方向に配置されており、金属帯1の表裏両面に、金属帯1を挟むように配置された電磁石11a〜19a、11b〜19bと、金属帯1までの距離を測定する非接触のセンサ21〜29とを有する。
【0030】
金属帯1の幅は、同一ではなく、最小板幅Wminから最大板幅Wmaxの範囲内にあるが、最小板幅Wminの場合でも電磁石ユニットの複数組に設けられた複数のセンサが金属帯1までの距離を測定可能になるように配置されている。一方、最大板幅Wmaxの場合は、両エッジ部が最も外側の電磁石ユニットのセンサの測定範囲から外れるが、最も外側の電磁石の磁力の影響は受ける範囲に配置されている。
【0031】
各電磁石ユニット11〜19において、センサ21〜29は、各電磁石11a〜19aに近接して配置されている。センサ21〜29は非接触型であり、例えば、渦流式距離計を使用することができる。電磁石11aと電磁石11bとは金属帯1の両側にあって、対向するように配置されている。同様に、他の電磁石ユニット12〜19における電磁石12a〜19a、12b〜19bも金属帯1を挟んで対向するように配置されている。
【0032】
図3(a)、(b)は、電磁石ユニット11〜19の電磁石11a〜19aの1つの電磁石11a及びそのセンサ11cと、金属帯1との部分を拡大した図である。図3(a)は、電磁石11aのセンサ11cが対向する金属帯1の被検出部1aを検出できる場合を示している。電磁石11aのセンサ11cは、渦電流式のセンサを用いているので、電磁石11aから金属帯1までの変位を正確に検出するには、センサ11cの径の数倍の径で、電磁石11aの幅方向の長さMを越える測定範囲Wを被検出部1aが全て覆っていないと変位を正確に検出することができない。図3(a)は、この条件を満たしている状態である。
【0033】
これに対し、図3(b)は、被検出部1aが測定範囲W内を覆っていない状態で、この場合、センサ11cによる金属帯1の測定が不正確となってしまう。
【0034】
一方、電磁石11cがその磁力を及ぼすことができる範囲は、電磁石11cの幅方向長さMが中心であり、図3(a)に示すように長さMの全てを金属帯1が覆っていることが望ましいが、図3(b)のように長さMの一部だけに金属帯1が存在していてもよい。
【0035】
すなわち、金属帯1の幅方向に複数の電磁石ユニットを配置した場合、金属帯1の両エッジ部が、図3(a)の状態であれば、金属帯1の両端縁と対向する電磁石ユニットのセンサは正確に金属帯1までの距離を測定できるが、図3(b)の状態であれば、金属帯1の両エッジ部と対向する電磁石ユニットのセンサは正確に金属帯1までの距離を測定できない、ということになる。
【0036】
また、センサ21から金属帯1までの距離が分かれば、金属帯1が中間ライン(対向する電磁石11aと11bとの中間の位置)からどちらの方向にどれだけずれているのかは、計算によって簡単に求めることができる。この計算のとき、センサ21から金属帯1までの距離に加えて金属帯1の厚さを加味してもよい。
【0037】
金属帯1の幅は、600〜1800mmであり、電磁石ユニット11〜19は、最も幅の広い金属帯1に対応して設けられる。そして、金属帯1の幅が小さい場合は、両側の金属帯1と対向しない位置にある電磁石ユニットは不要になるので、停止しておくことになる。
【0038】
電磁石ユニット11〜19は装置に固定されているので、各電磁石ユニット11〜19の配置間隔は一定であり、金属帯1の幅方向の寸法が分かれば、金属帯1の両端縁が、図3(a)の状態になるか、図3(b)の状態になるかは、実際に金属帯1を通過させる前に簡単に知ることができる。
【0039】
図4は、電磁石ユニット11〜19の制御系統のブロック図である。電磁石ユニットとしては中央の電磁石ユニット15のみを代表として示しているが、他の電磁石ユニットも同じである。電磁石ユニットは、図4のブロック図に示すように、センサ21〜29の測定値と目標値との偏差信号により操作量演算装置5aが金属帯1のパスライン等を制御するための操作量を演算し、表裏分配装置5bで表側の電磁石15aと裏側の電磁石15bに比例、微分、積分などの処理(例えばPID制御)を実施して配分し、その操作量に応じて電磁石15aと15bにアンプ5c、5dを介して電流が流されることで、金属帯1の制御を行う。
【0040】
図5は、中央の電磁石ユニット15を金属帯1の側面方向から見た図である。金属帯1は図の矢印に示す上方向に走行するが、図に示すように、金属帯1を挟むように対向して電磁石15a、15bが設置され、電磁石15aの上方に非接触型のセンサ25が配置されている。
【0041】
センサ25が検出した金属帯1までの距離が分かると、電磁石15aから金属帯1までの距離d1が求められる。また、電磁石15aと15bの間隔も既知であるから、電磁石15bから金属帯1までの距離d2も求めることができる。電磁石15aと15bとの中間が中間ラインaであるとして、金属帯1の中間ラインaからの変位も求めることができる。なお、この変位を求めるとき、センサ25から金属帯1までの距離に加えて金属帯1の厚さを加味してもよい。
【0042】
1対1で対向配置された電磁石15aと15bは、センサ25が金属帯1を検出した場合に、金属帯1の両面で互いに対向する電磁石で金属帯1を磁気吸引して、電磁石15a、15bの中間ラインaに移動するように制御される。本実施の形態では、図5に示すように、金属帯1の両面で対向する位置にある各電磁石の対11a〜19aと11b〜19bが各々備えるセンサ21〜29によって対向する金属帯1を検出すると、これらの電磁石の対のうちで、対向する金属帯1からより遠い側にある電磁石の出力が、近い側にある電磁石の出力よりも大きくなるように制御される。図5の実施例で説明すると、金属帯1は電磁石15aからの方が、電磁石15bからよりも遠いので、電磁石15aの吸引力Faの方が、電磁石15bの吸引力Fbより大きくなるように設定される。制御装置10が、このように制御することで、金属帯1は中間ラインaに向けて移動することになる。
【0043】
なお、電磁石の対15a、15bが対向する金属帯1から等距離にある場合(即ち、中間ラインa上にある場合)には、検出した金属帯1を矯正する必要がないため、電磁石15a、15bの出力が等しくなるように設定される。
【0044】
次に、金属帯1のパスライン、反り及び振動を非接触で制御する方法について説明する。搬送される金属帯1は、図8(a)〜(c)で説明したように、C反りや曲げモード(弦振動)や捩れモードを基本とした反りや振動を生じている。
【0045】
図6はこれらの反りや振動を制御する方法を説明する図で、(a)はC反りの場合、(b)は弦振動の場合、(c)は捩れ振動の場合を示す図である。いずれの場合も、電磁石ユニット11〜19のうち、両端の電磁石ユニット11、19のセンサ21、29が、図3(b)のような状態となっていて、金属帯1までの距離を測定できない状態となっている。
【0046】
金属帯1は、その幅方向に多少揺動しながら搬送されるが、両端の電磁石ユニット11、19のセンサ21、29が、図3(b)のような状態となることは、金属帯1の幅寸法が決まれば分かることである。したがって、金属帯1の両端に対向するセンサ21と29はスイッチオフとし、金属帯1までの距離は測定しない。一方、両端の電磁石対11a、11b及び19a、19bはオンの状態とし、演算部5によって制御される。
【0047】
図6(a)に示すC反りの場合、電磁石ユニット11における金属帯1の中間ラインaからの変位をδ1、電磁石ユニット12における金属帯1の中間ラインaからの変位をδ2、電磁石ユニット18における金属帯1の中間ラインaからの変位をδ3、電磁石ユニット19における金属帯1の中間ラインaからの変位をδ4とする。これらδ1〜δ4のうち、δ2とδ3とは、センサ22と28によって正確に計測できる。一方、δ1とδ4とは、センサ21、29による測定が不能である。
【0048】
変位δが中間ラインaの下側であれば(+)、上側であれば(−)と定義すると、δ2とδ3とは共に(+)となる。このようにδ2とδ3とが同じ方向の変位の場合は、演算部5は金属帯1がC反りの状態にあると判断することができる。
【0049】
一方、C反りの場合について、金属帯1の厚さ、幅、材質等から、δ1/δ2の値と、δ4/δ3の値を経験値などから求めてデータベース化しておくことで、δ1とδ4の値を精度よく推定することが可能となる。この推定値に基づいて、両エッジ部の電磁石11aと電磁石11bの出力、及び、電磁石19aと電磁石19bの出力を決めることができる。このように制御することで、金属帯1の全幅について、中間ラインaに合わせることが可能となる。
【0050】
図6(b)は、弦振動の例を示す。弦振動とは、金属帯1がC反りの無い真っ直ぐな状態で図6(b)に示す実線の位置と仮想線の位置との間を周期的に揺動する振動のことである。この場合も、金属帯1の両端に対向するセンサ21と29はスイッチオフとし、金属帯1までの距離は測定しない。しかし、中間のセンサ22〜28は、全て同じ変位δ5を検知し、それが+δ5〜−δ5の間で周期的に変動する。したがって、両エッジ部の電磁石11aと電磁石11bの出力、及び、電磁石19aと電磁石19bの出力は、これらの内側にある電磁石12aと12b、及び電磁石28aと28bと同じ出力で制御すればよいことになる。
【0051】
図6(c)は、金属帯1に捩れ振動が加わった場合である。金属帯1は、図6(c)の実線と仮想線に示すように、金属帯1の中心を軸として回動する。
【0052】
金属帯1が実線に示す位置に達したときの、電磁石ユニット11、12、18、19における変位を図示のようにδ6〜δ9とする。これらの変位のうち、内側のδ7とδ8とは、センサ22、28により測定可能であるが、外側のδ6とδ9は測定できない。演算部5では、δ7とδ8の符号が逆方向になっていること、及び周期的に変動していることから、金属帯1が捩じり振動していることを検知する。また、センサ22と28との間の距離が既知であるから、金属帯1の勾配も求めることができる。また、センサ21と22の間の距離、センサ28と29の距離も既知であるから、δ6とδ9は計算によって求めることができる。計算から求めたδ6とδ9に応じて、電磁石11a、11bと電磁石19a、19bの出力を調整することで、金属帯1の捩れ振動を抑制するように制御することができる。
【0053】
図7は、金属帯1の両エッジ部を除く他の全てのセンサにより求めた変位から、金属帯1の両エッジ部の変位を求める方法を説明する図で、(a)はC反りの場合、(b)は弦振動の場合、(c)は捩れ振動の場合を示す図である。いずれの場合も、図6の場合と同様に、電磁石ユニット11〜19のうち、両端の電磁石ユニット11、19のセンサ21、29が、図3(b)のような状態となっていて、金属帯1までの距離を測定できない状態となっている。
【0054】
図6では、両端のセンサ21、29が計測できない場合は、それらの内側のセンサ22、28の計測値から推定値を求めている。しかし、内側の1つずつのセンサの測定値では、両端のセンサの計測値を推定できない場合がある。たとえば、図6(a)において、C反りであるに拘わらず、δ2とδ3の値が0になってしまうような場合には、δ1とδ4の値の推定が困難になる。図7の実施例は、このような場合でも両端のセンサ21、29の測定値を推定できるようにしたものである。
【0055】
図7(a)に示すC反りの場合、電磁石ユニット11における金属帯1の中間ラインaからの変位をδ11、電磁石ユニット12における金属帯1の中間ラインaからの変位をδ12、以下、電磁石ユニット13〜19における金属帯1の中間ラインaからの変位をδ13〜19とする。これらδ11〜δ19のうち、δ12〜δ18までは、センサ22〜28によって正確に計測できる。一方、δ11とδ19とは、センサ21、29による測定が不能である。
【0056】
演算部5は、δ12〜δ18の数値から、C反りであることが判断でき、C反りであれば、δ12〜δ18の数値から金属帯1の曲線の方程式が求められるので、δ11とδ19とを計算によって算出することができる。その結果、電磁石11a、11bと電磁石19aと19bの各ペアの出力を決定することができることになる。このような制御方法であれば、図6(a)において、C反りであるに拘わらず、δ2とδ3の値が0になってしまうような場合でも、他のセンサ全ての計測値を用いることによって、金属帯1の両エッジ部の変位を求めることができる。
【0057】
図7(b)は、弦振動の例を示す。この場合、センサ22〜28の計測値は全て同じで、かつ、一緒に変動することになるので、弦振動であることが判断できる。センサ21と29の計測値も、センサ22〜28の計測値と同じであり、変位δ20は金属帯1の幅方向において一定となる。したがって、両エッジ部の電磁石11aと電磁石11bの出力、及び、電磁石19aと電磁石19bの出力は、これらの内側にある電磁石12a〜28aと電磁石12b〜28bと同じ出力で制御すればよいことになる。
【0058】
図7(c)は、金属帯1に捩れ振動が加わった場合である。金属帯1は、図7(c)の実線と仮想線に示すように、金属帯1の中心を軸として回動する。
【0059】
金属帯1が実線に示す位置に達したときの、電磁石ユニット11〜19における変位を図示のようにδ21〜δ29とする。これらの変位のうち、内側のδ22〜δ28は、センサ22〜28により測定可能であるが、外側のδ21とδ29は測定できない。そこで、演算部5では、δ22〜δ28の値から、δ21とδ29を計算により求めることができる。
【0060】
図7に説明したように、金属帯の両端の変位を、中間のセンサにおける全ての変位から求めることによって、より正確に求めることが可能となる。また、C反り、弦振動、捩れ振動が単独で表れる場合に限らず、これらが複合して表れる場合にも、金属帯1の両エッジ部の変位を正確に求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、金属滞のパスライン、反り、振動を金属帯の板幅全体で制御することが可能となり、溶融めっき金属布製造ライン等の金属帯制御に広く利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の溶融めっき金属帯の製造ラインの構成を示す図である。
【図2】本発明の金属帯の制御方法に使用される制御装置の構成を示す図で、(a)は全体の構成図、(b)は電磁石ユニット部分の拡大図である。
【図3】電磁石ユニットの電磁石の1つの電磁石及びそのセンサと、金属帯との部分を拡大した図で、(a)はセンサが金属帯を検出できる場合で、(b)は検出できない場合である。
【図4】電磁石ユニットの制御系統のブロック図である。
【図5】中央の電磁石ユニットを金属帯の側面方向から見た図である。
【図6】金属帯の反りや振動を制御する方法を説明する図で、(a)はC反りの場合、(b)は弦振動の場合、(c)は捩れ振動の場合を示す図である。
【図7】金属帯の両エッジ部を除く他の全てのセンサにより求めた変位から、金属帯の両エッジ部の変位を求める方法を説明する図で、(a)はC反りの場合、(b)は弦振動の場合、(c)は捩れ振動の場合を示す図である。
【図8】金属帯の反りや振動を説明する図で、(a)はC反りの場合、(b)は弦振動の場合、(c)は捩れ振動の場合を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 金属帯
5 演算部
10 制御装置
11〜19 電磁石ユニット
11a〜29a 電磁石
11b〜29b 電磁石
21〜29 センサ
32 溶融金属浴
33 ガスワイパ
δ1〜δ29 変位



【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯の製造ラインまたは処理ラインに設置され、ライン内走行中の前記金属帯の表裏を挟むように対向して設けられた一対の電磁石および前記金属帯の面外方向変位を測定するセンサからなる電磁石ユニットを、金属帯の幅方向に複数組配置し、前記各センサの情報に基づいて前記各電磁石の出力を制御して前記金属帯のパスライン、反り及び振動を非接触で制御する方法において、
前記金属帯の板幅方向の両エッジ部に位置する前記電磁石ユニットに設けられた電磁石の制御を他の電磁石ユニットのセンサが検出した変位に基づいて行うことを特徴とする金属帯の制御方法。
【請求項2】
前記金属帯の両エッジ部に位置する電磁石対の制御を、金属帯の板幅方向の内側に隣接する電磁石ユニットのセンサが検出した変位に基づいて行うことを特徴とする請求項1に記載の金属帯の制御方法。
【請求項3】
前記金属帯の両エッジ部に位置する電磁石対の制御を、金属帯の板幅方向の内側にある全ての電磁石ユニットのセンサが検出した変位に基づいて行うことを特徴とする請求項1に記載の金属帯の制御方法。
【請求項4】
前記金属帯の走行が、めっき金属である溶融金属浴中から引き上げられるものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の金属帯の制御方法。
【請求項5】
金属帯をめっき金属である溶融金属浴中に引き込む引込工程と、前記金属帯に溶融金属を付着させ、前記金属帯を溶融金属浴外に引き上げる付着工程と、前記金属帯に付着した過剰の溶融金属を払拭するワイパによって溶融金属の付着量を調整する調整工程とを有する溶融めっき金属帯の製造方法において、前記ワイパの直前または直後に、請求項1から請求項3のいずれかに記載の金属帯の制御方法により、前記金属帯の少なくともパスライン、反り及び振動を非接触で制御する制御工程を有することを特徴とする溶融めっき金属帯の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−144213(P2010−144213A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322313(P2008−322313)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】