説明

金属微粒子の製造方法

【課題】金属微粒子を安定に生成でき、金属微粒子が孤立状態で分散した分散液を焼成するときに分散液の用途に応じた焼成温度で焼成可能な金属微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】直鎖又は分岐構造を有する炭素数6〜18の第1のカルボン酸で表面が覆われたAu微粒子を生成する。生成されたAu微粒子を、直鎖又は分岐構造を有する炭素数4〜22の第2のカルボン酸と混合し、Au微粒子の表面を覆う第1のカルボン酸を第2のカルボン酸に置換する。表面が第2のカルボン酸で覆われたAu微粒子を、直鎖又は分岐構造を有する炭素数4〜22の1級アミンと混合し、表面が第2のカルボン酸及び該1級アミンで覆われたAu微粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子の製造方法に関し、特に、インクジェット法にて金属配線や透明導電膜等の所定膜を形成するのに利用される金属微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程において、金属配線膜や透明導電膜等の所定膜の形成に所謂インクジェット法を用いることが従来から知られている。このものでは、インジェット式の塗布装置を用い、金属微粒子が分散した分散液を基材表面に直接塗布し、この塗布した分散液を乾燥、焼成する。分散液を焼成することで、金属微粒子表面を覆う有機酸やアミンのような分散剤が脱離して金属微粒子同士が焼結し、上記所定膜が得られる。これによれば、リソグラフィー工程やエッチング工程等が省略でき、設備コストや生産コストを低減できるという利点がある。
【0003】
上記金属微粒子を製造する方法としては、ガス中蒸発法や化学還元法を用いることが例えば特許文献1で知られている。ガス中蒸発法では、槽内に金属原料を収容し、減圧下で金属原料を蒸発させ、この蒸発させた金属蒸気を冷却捕集する際に、分散剤を含んでなる有機溶媒の蒸気を導入して金属が粒成長する段階においてその表面を有機溶媒と接触させ、得られる金属微粒子が単独でかつ均一に有機溶媒中にコロイド状に分散した金属微粒子含有液を得る。また、化学還元法では、有機金属化合物を非極性溶媒に溶解して得た液に分散剤たる還元剤を添加し、必要に応じて加熱することで、金属微粒子が分散した金属微粒子含有液を得る。
【0004】
そして、このように得られた金属微粒子含有液に、金属微粒子の分散安定性を改善するためにアルキルアミン、カルボン酸アミド、アミノカルボン酸塩の中から選ばれた少なくとも1種を添加、混合する。次に、低分子量の極性溶媒を加えて該金属微粒子を沈降させ、その上澄み液をデカンテーションなどにより流出させる工程を複数回繰り返して有機溶媒を除去する。これにより、粒径100nm以下の金属微粒子が回収される。
【0005】
ところで、近年では、基材として、ガラス基板以外に樹脂や紙製等の耐熱性の低いものが利用されており、また、半導体デバイスの更なる性能向上や生産性向上等が求められている。このため、上記分散液を幅広い用途に適用することが求められ、しかも、分散液の用途によっては一層の低温焼成化が求められている。
【0006】
低温焼成化を達成するために、表面が脂肪酸で覆われた金属微粒子を生成し、この脂肪酸の一部を炭素数1〜7のアミンで置換し、このアミンを炭素数8〜20のアミンで更に置換する方法が例えば特許文献2で知られている。脂肪酸の分解温度よりも炭素数8〜20のアミンの分解温度の方が低いため、焼成温度を低くすることができるものの、このように脂肪酸の一部を炭素数8〜20のアミンに置換するだけでは、充分な低温焼成化を達成できない場合や、さらには、金属微粒子の分散安定性が低下し、該金属微粒子の凝集により、分散液中に沈降が発生する場合がある。
【0007】
ここで、分散液の焼成温度、すなわち、金属微粒子の表面を覆う分散剤が、該金属微粒子表面から脱離する温度は、金属微粒子の表面を覆うカルボン酸(脂肪酸)やアミンのような分散剤の分子量に依存する。このため、一層の低温焼成化を達成するには、金属微粒子の表面を分子量の小さい分散剤で覆うことが考えられる。然し、例えばガス中蒸発法により金属微粒子を生成する場合に分子量の小さいカルボン酸を分散剤として用いると、このようなカルボン酸は蒸気圧が高いことから、蒸発中に槽内の圧力が上昇して金属材料が蒸発されなくなり、金属微粒子を安定に生成することができないという問題があった。
【0008】
他方、例えば化学還元法により金属微粒子を生成する場合に分子量の小さい分散剤を用いると、金属微粒子の分散安定性が低下するため、金属微粒子を安定に生成できないという問題があった。このような金属微粒子の分散安定性が低下した分散液を、例えばインクジェット法で塗布するインクとして用いる場合、インクジェットヘッドの微細なノズルから安定に吐出させることが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−121606号公報
【特許文献2】特開2008−150701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の点に鑑み、金属微粒子を安定に生成でき、金属微粒子が孤立状態で分散した分散液を焼成するときに分散液の用途に応じた焼成温度で焼成可能な金属微粒子の製造方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の金属微粒子の製造方法は、直鎖又は分岐構造を有する炭素数6〜18の第1のカルボン酸で表面が覆われた金属微粒子を生成する第1工程と、第1工程で生成された金属微粒子を、直鎖又は分岐構造を有する炭素数4〜22の第2のカルボン酸と混合し、金属微粒子の表面を覆う第1のカルボン酸を第2のカルボン酸に置換する第2工程と、表面が第2のカルボン酸で覆われた金属微粒子を、直鎖又は分岐構造を有する炭素数4〜22の1級アミンと混合し、表面が第2のカルボン酸及び該1級アミンで覆われた金属微粒子を得る第3工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、第1工程において金属微粒子の生成に適した炭素数6〜18の第1のカルボン酸を分散剤として用いるため、金属微粒子生成時に高い分散安定性が得られ、金属微粒子を安定に生成することができる。更に、このように生成した金属微粒子を第2のカルボン酸と混合することで、金属微粒子の表面を覆う第1のカルボン酸が第2のカルボン酸に置換される。さらに、表面が第2のカルボン酸で覆われた金属微粒子を上記1級アミンと混合することで、金属微粒子の表面が更に1級アミンによっても覆われるため、金属微粒子の分散安定性を向上させることができる。従って、金属微粒子の分散液を作製する場合に、用途に適した第2のカルボン酸を選択すれば、該分散液を基材に塗布して焼成するときに分散液の用途に応じた焼成温度で焼成することできる。なお、本発明において、金属微粒子とは、粒径が100nm以下(代表的な粒径が1nm〜10nm)であるものをいう。また、本発明において、金属微粒子分散液は、金属微粒子インクや金属微粒子ペーストを含むものとする。
【0013】
また、本発明において、前記第1工程は、槽内に金属原料と、前記第1のカルボン酸、及び第1のアミンとケトンを脱水縮合して得たイミンを含む溶媒とを収容し、減圧下でこの金属原料を加熱して蒸発させ、この蒸発したものを捕集して当該溶媒に接触させることで、表面が第1のカルボン酸及び第1のアミンで覆われた金属微粒子が分散してなる金属微粒子含有液を得る工程を有することがより望ましい。
【0014】
このように第1工程にて上記イミンを用いれば、上記イミンは金属微粒子の表面と接触して加水分解して第1のアミンに戻り、該第1のアミンが金属微粒子表面を被覆する。結果として、生成した金属微粒子の表面全体に亘って第1のカルボン酸及び第1のアミンで覆われるようになる。そして、第2工程にてこの第1のカルボン酸を第2のカルボン酸に置換し、第3工程にてこの第1のアミンを1級アミンに置換すれば、金属微粒子の表面全体に亘って第2のカルボン酸及び1級アミンで覆われる。これにより、本発明の金属微粒子は一層分散性の高いものとなるため、当該金属微粒子の分散安定性が向上し、分散液中での金属微粒子の凝集を確実に防止できる。
【0015】
本発明において、第1のカルボン酸として、ヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルへキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、2−へキシルデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸から選択された少なくとも1つを用いることが好ましく、また、第2のカルボン酸として、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルへキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、2−へキシルデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸から選択された少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0016】
本発明において、1級アミンとして、ブチルアミン、ペンチルアミン、へキシルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン及びオレイルアミンから選択された少なくとも1つを用いることが好ましい。また、第1のアミンとして、ブチルアミン、ペンチルアミン、へキシルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン及びオレイルアミンから選択された少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0017】
本発明において用いられる金属は、Ag、Au、Ni、Pd、Rh、Ru、In、Sn、Cu及びPtから選択された少なくとも1種の金属又はこれらの金属の少なくとも2種からなる合金であり、目的・用途に応じて適宜選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態で得られたAu微粒子の電子顕微鏡写真。
【図2】本発明の金属微粒子分散液を焼成することによって得られる金属膜の焼成温度と比抵抗を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の金属微粒子の製造方法について説明する。先ず、第1工程にて、10Pa以下の圧力下で高周波誘導加熱を用いる蒸発法により金属微粒子を作製する。この第1工程では、槽内で、金属原料を蒸発させることにより生成過程の金属微粒子に第1のカルボン酸を接触させた後、冷却捕集することで、金属微粒子の表面が第1のカルボン酸で覆われた金属微粒子の生成液を得る。得られた金属微粒子の生成液にアセトンのような低分子量の極性溶媒を加えて撹拌し、静置して、金属微粒子を沈降させた後、上澄み液を除去する。このように極性溶媒を用いた金属微粒子の洗浄を繰り返し、第1のカルボン酸で表面が覆われた金属微粒子を得る。
【0020】
ここで、第1のカルボン酸としては、金属微粒子を安定して生成するのに適したものを用いることができる。例えば、ヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルへキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、2−へキシルデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸から選択された少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0021】
金属原料としては、例えば、Ag、Au、Ni、Pd、Rh、Ru、In,Sn,Cu及びPtから選択された少なくとも1種の金属又はこれらの金属の少なくとも2種からなる合金を、目的や用途に応じて適宜選択することができる。例えば、メッキ用としてAuを選択することができ、配線用としてAgを選択することができる。
【0022】
なお、第1工程にて、予め第1のアミンとケトンとを反応させ脱水縮合して得たイミンを槽内に収容しておき、槽内で、生成過程の金属微粒子にイミンを接触させた後、冷却捕集することで、表面が第1のカルボン酸と第1のアミンで覆われた金属微粒子の生成液を得ることがより好ましい。該イミンは、金属微粒子の表面と接触する際に加水分解して第1のアミンに戻り、該第1のアミンが金属微粒子の表面を覆うようになる。
【0023】
イミンを得るための原料となる第1のアミンとしては、炭素数6のへキシルアミン、炭素数8のオクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、炭素数9のノニルアミン、炭素数10のデシルアミン、炭素数12のドデシルアミン、炭素数14のテトラデシルアミン及び炭素数18のオレイルアミンから選ばれる1種類以上を用いることが好ましい。第1のアミンと反応させてイミンを得るためのケトンとしては、特に限定されないが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトンなどを好ましく用いることができる。
【0024】
第2工程では、上記第1工程で得られた金属微粒子を、第2のカルボン酸と混合して、金属微粒子の表面を覆う第1のカルボン酸を第2のカルボン酸に置換する。ここで、第2のカルボン酸としては、金属微粒子分散液の用途に適しており、この用途に応じた焼成温度で脱離するものを用いることができる。例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルへキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、2−へキシルデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸から選択された少なくとも1つを用いることが好ましい。例えば、該金属微粒子の分散液を塗布する基板に許容される熱履歴が200℃以下である場合の用途では、オクタン酸を用いることが好ましく、また、該金属微粒子の分散液を塗布する基板に許容される熱履歴が230℃以上でも良い場合の用途では、オレイン酸を用いることが好ましい。
【0025】
第3工程では、上記第2工程でカルボン酸が置換された金属微粒子を上記方法を用いて洗浄し、洗浄後の金属微粒子を、さらに、1級アミンと混合して、金属微粒子表面が該1級アミンで覆われた金属微粒子を得る。なお、上記第1工程で得られた金属微粒子の表面が第1のアミンで覆われていた場合には、第3工程にて、金属微粒子の表面を覆っていた第1のアミンが該1級アミンで置換される。1級アミンとしては、炭素数4〜22のものが好適に用いられる。例えば、炭素数4のブチルアミン、炭素数5のペンチルアミン、炭素数6のへキシルアミン、炭素数8のオクチルアミン、炭素数9のノニルアミン、炭素数10のデシルアミン、炭素数12のドデシルアミン、炭素数14のテトラデシルアミン及び炭素数18のオレイルアミンから選択された少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0026】
上記第3工程で得られた金属微粒子を溶媒に分散させることにより、金属微粒子の分散液を調製する。この分散液調整用の溶媒としては、極性の弱い溶媒であって、主鎖の炭素数が6〜18である有機溶媒を用いることが好ましく、例えば、ヘキサン、へプタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカンのような長鎖炭化水素;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロドデセンのような環状炭化水素;ベンゼン、キシレン、トリメチルベンゼン、ドデシルベンゼンのような芳香族炭化水素;及び、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、テルピネオールのようなアルコールを単独で又は混合して用いることができる。
【0027】
以下、表面が第1のカルボン酸であるオレイン酸で覆われたAu微粒子を得て、得られたAu微粒子の表面を覆うオレイン酸を第2のカルボン酸であるオクタン酸に置換し、更に1級アミンであるオクチルアミンでAu微粒子の表面を覆う場合を例に、本発明の実施形態の金属微粒子の製造方法について説明する。
【0028】
10Pa以下の圧力下で高周波誘導加熱を用いる蒸発法によりAu微粒子を作製する際に、槽内で、生成過程のAu微粒子250gにオレイン酸60gを接触させた後、冷却捕集して、表面がオレイン酸で覆われたAu微粒子の生成液を得る。この生成液を槽から取り出し、取り出した生成液にアセトンを添加してAu微粒子を沈降させ、上澄み液をデカンテーションなどにより流出させる(以降、この作業を「洗浄工程」という)。このとき、生成液1容量に対してアセトン10容量を添加する。この洗浄工程を複数回繰り返し、室温での乾燥により溶媒を除去することで、表面がオレイン酸で覆われたAu微粒子を得る。
【0029】
表面が第1のカルボン酸であるオレイン酸で覆われたAu微粒子を、第2のカルボン酸であるオクタン酸150gと混合し、攪拌する。これにより、Au微粒子の表面を覆うオレイン酸がオクタン酸に置換され、表面がオクタン酸で覆われたAu微粒子を含有するAu微粒子含有液が得られる。得られたAu微粒子含有液1容量に対し、アセトンを10容量添加して行う上記洗浄工程を複数回繰り返し、室温での乾燥により溶媒を除去することで、表面が第2のカルボン酸であるオクタン酸で覆われたAu微粒子が得られる。
【0030】
このようにカルボン酸が置換されたAu微粒子を、1級アミンであるオクチルアミン50gと混合し、攪拌する。これにより、表面が更に1級アミンであるオクチルアミンで更に覆われたAu微粒子を含有するAu微粒子含有液が得られる。得られたAu微粒子含有液に対してアセトンを添加して行う上記洗浄工程を複数回繰り返し、室温での乾燥により溶媒を除去することで、表面が第2のカルボン酸であるオクタン酸及び1級アミンであるオクチルアミンで覆われたAu微粒子が得られる。
【0031】
表面が第2のカルボン酸であるオクタン酸及び1級アミンであるオクチルアミンで覆われたAu微粒子に分散用のシクロドデセン150gを加えてAu微粒子分散液を得る。得られたAu微粒子分散液を加熱して所定の濃度(例えば、Au微粒子インクとして用いる場合には50重量%、Au微粒子ペーストとして用いる場合には80重量%)に濃縮する。そして、この濃縮したAu微粒子分散液をスピンコート法により基材たるガラス基板の表面に直接塗布し、この塗布した分散液を乾燥し、大気中で、例えば、150℃〜230℃の温度で90分焼成することでAu膜が形成される。尚、基材としては、ガラス基板以外に、例えば、ポリイミド、PENフィルム、ポリカーボネイト、PETフィルム、ガラス上にTFT(薄膜トランジスタ)が形成されているものを用いることができる。また、分散液の塗布方法としては、スピンコート法のほかに、インクジェット法を用いることができる。
【0032】
以上説明した実施形態によれば、真空蒸発法により表面が第1のカルボン酸であるオレイン酸で覆われたAu微粒子を生成した。このとき、分散剤としてAu微粒子の生成に適した炭素数18の(比較的分子量の大きい)オレイン酸を用いるため、Au微粒子の生成時に高い分散安定性が得られ、Au微粒子を安定に生成することができる。このように生成したAu微粒子を第2のカルボン酸であるオクタン酸と混合することにより、Au微粒子の表面を覆う第1のカルボン酸であるオレイン酸が第2のカルボン酸であるオクタン酸に置換される。さらに、表面が第2のカルボン酸であるオクタン酸で覆われたAu微粒子を1級アミンであるオクチルアミンと混合することにより、Au微粒子の表面が更に1級アミンであるオクチルアミンによっても覆われるため、Au微粒子の分散安定性を更に向上させることができる。Au微粒子分散液の用途(低温焼成化)に適した第2のカルボン酸であるオクタン酸および1級アミンであるオクチルアミンでAu微粒子の表面を覆うことで、当該用途に応じた焼成温度で分散液を焼成することができる。従って、本実施形態によれば、Au微粒子を安定に生成でき、Au微粒子の分散液を焼成するときに、分散液の用途に応じた焼成温度で焼成可能なAu微粒子を製造することができる。
【0033】
次に、上記実施形態の効果を確認するために下記の実験(実験1)を行った。本実験1では、表面が第1のカルボン酸であるオレイン酸で覆われたAu微粒子を生成し、生成したAu微粒子の表面を覆う第1のカルボン酸であるオレイン酸を第2のカルボン酸であるオクタン酸に置換し、更に表面が1級アミンであるオクチルアミンによって覆われたAu微粒子を得た(発明品1)。この発明品1のTEM写真を撮像したところ、図1に示すように、Au微粒子は凝縮することなく、高い分散性で分散していることが確認された。これによれば、Au微粒子を安定に生成できることが判る。
【0034】
そして、発明品1をシクロドデセン中に孤立状態で分散させてAu微粒子分散液を得た。得られた加熱して50重量%の濃度に濃縮し、濃縮したAu微粒子分散液を基材表面にスピンコート法により塗布し、乾燥させた後、大気雰囲気中でホットプレートにより150℃の温度で90分焼成することにより、Au膜を形成した。焼成温度のみを180℃、200℃、230℃に変化させ、その他は同一条件にてAu膜を形成した。このように焼成温度を変えて形成したAu膜の膜厚は0.1〜0.3μmであり、表1に示すような比抵抗値が得られた。これによれば、分散液の用途に適した第2のカルボン酸であるオクタン酸及び1級アミンであるオクチルアミンでAu微粒子表面を覆うことで、この用途に応じた150〜230℃の焼成温度で焼成でき、結果として、比抵抗値が20μΩ・cm以下の低抵抗のAu膜が得られることが判った(図2参照)。
【0035】
【表1】

【0036】
次に、上記実験1と同様に、他の実験(実験2)を行った。本実験2では、表面が第1のカルボン酸である炭素数12のドデカン酸で覆われたAu微粒子を生成し、生成したAu微粒子の表面を覆う第1のカルボン酸であるドデカン酸を第2のカルボン酸である炭素数オレイン酸に置換し、更に1級アミンであるドデシルアミンによってAu微粒子の表面を覆った。そして、上記実験1と同様に、得られたAu微粒子をシクロドデセン中に孤立状態で分散させたAu微粒子分散液を得て、得られた分散液を用いてAu膜を形成した。本実験2では、焼成温度を200℃、230℃、250℃、270℃、280℃、300℃、350℃のように変化させ、焼成時間は90分とした。このように焼成温度を変えて形成したAu膜の膜厚は0.1〜0.3μmであり、表2に示すような比抵抗値が得られた。これによれば、分散液の用途に適した第2のカルボン酸であるオレイン酸及び1級アミンであるドデシルアミンでAu微粒子表面を覆うことで、この用途に応じた230〜350℃の焼成温度で焼成でき、結果として、比抵抗値が20μΩ・cm以下のAu膜が得られることが判った(図2参照)。
【0037】
【表2】

【0038】
次に、上記実験1及び実験2と同様に、他の実験(実験3)を行った。本実験3では、表面が第1のカルボン酸である炭素数12のドデカン酸で覆われたAu微粒子を生成し、生成したAu微粒子の表面を覆う第1のカルボン酸であるドデカン酸を第2のカルボン酸であるオレイン酸に置換し、更に1級アミンであるオレイルアミンによってAu微粒子の表面を覆った。そして、上記実験1と同様に、Au微粒子をシクロドデセン中に孤立状態で分散させたAu微粒子分散液を用いて、Au膜を形成した。本実験3では、焼成温度を250℃、270℃、280℃、300℃、350℃のように変化させ、焼成時間は90分とした。このように焼成温度を変えて形成したAu膜の膜厚は、0.1〜0.3μmであり、表3に示すような比抵抗値が得られた。これによれば、分散液の用途に適した第1のカルボン酸であるオレイン酸及び1級アミンであるオレイルアミンでAu微粒子表面を覆うことで、この用途に応じた300〜350℃の焼成温度で焼成すれば、比抵抗値が20μΩ・cm以下のAu膜が得られることが判った(図2参照)。
【0039】
【表3】

【0040】
以下、表面が第1のカルボン酸であるオレイン酸と第1のアミンであるドデシルアミンとで覆われたAu微粒子を得て、得られたAu微粒子の表面を覆う第1のカルボン酸であるオレイン酸を第2のカルボン酸であるオクタン酸に置換し、更にAu微粒子の表面を覆う第1のアミンであるドデシルアミンを1級アミンであるオクチルアミンに置換する場合を例に、本発明の他の実施形態の金属微粒子の製造方法について説明する。
【0041】
第1工程に先立ち、アセトンと第1のアミンであるドデシルアミンを反応させ脱水縮合して得たイミンを槽内に収容しておく。第1工程にて、10Pa以下の圧力下で高周波誘導加熱を用いる蒸発法によりAu微粒子を作製する際に、槽内で、生成過程のAu微粒子250gにオレイン酸60gと上記イミン150gを接触させた後、冷却捕集することで、表面が第1のカルボン酸であるオレイン酸と第1のアミンであるドデシルアミンで覆われたAu微粒子含有液を得る。このとき、上記イミンは、Au微粒子の表面と接触する際に加水分解して第1のアミンであるドデシルアミンに戻り、第1のアミンであるドデシルアミンがAu微粒子の表面を覆うようになる。Au微粒子含有液を槽から取り出し、取り出した生成液にアセトンを添加してAu微粒子を沈降させ、上澄み液をデカンテーションなどにより流出させることで、Au微粒子を洗浄する。このとき、生成液1容量に対してアセトン10容量を添加する。このようなAu微粒子の洗浄を複数回繰り返し、室温での乾燥により溶媒を除去することで、表面が第1のカルボン酸であるオレイン酸と第1のアミンであるドデシルアミンで覆われたAu微粒子を得る。
【0042】
このようにして得たAu微粒子を第2のカルボン酸であるオクタン酸150gと混合し、攪拌する。これにより、Au微粒子の表面を覆う第1のカルボン酸であるオレイン酸が第2のカルボン酸であるオクタン酸に置換され、表面が第2のカルボン酸であるオクタン酸と第1のアミンであるドデシルアミンで覆われたAu微粒子を含有するAu微粒子含有液が得られる。得られたAu微粒子含有液1容量に対してアセトンを10容量添加して行う上記洗浄を複数回繰り返し、室温での乾燥により溶媒を除去することで、表面が第2のカルボン酸であるオクタン酸と第1のアミンであるドデシルアミンで覆われたAu微粒子が得られる。
【0043】
このようにカルボン酸が置換されたAu微粒子を、1級アミンであるオクチルアミン50gと混合し、攪拌する。これにより、Au微粒子の表面を覆う第1のアミンであるドデシルアミンが1級アミンであるオクチルアミンに置換され、表面が第2のカルボン酸であるオクタン酸と1級アミンであるオクチルアミンで覆われたAu微粒子を含有するAu微粒子含有液が得られる。得られたAu微粒子含有液1容量に対してアセトンを10容量添加して行う上記洗浄を複数回繰り返し、室温での乾燥により溶媒を除去することで、表面が第2のカルボン酸であるオクタン酸及び1級アミンであるオクチルアミンで覆われたAu微粒子が得られる。
【0044】
上記方法で得られたAu微粒子を孤立状態で分散させるためのシクロドデセン150gを加えてAu微粒子分散液を得る。得られたAu微粒子分散液を加熱して所定の濃度(例えば、Au微粒子インクとして用いる場合には50重量%、Au微粒子ペーストとして用いる場合には80重量%)に濃縮する。そして、濃縮したAu微粒子分散液をスピンコート法によりガラス基板の表面に直接塗布し、この塗布した分散液を乾燥し、大気中で200℃の温度で90分焼成することでAu膜が形成される。このようにして得られたAu膜の焼成温度と比抵抗との関係は、実験1で得られたAu膜と実質的に同一であることを確認した。尚、基材としては、ガラス基板以外に、例えば、ポリイミド、ガラス上にTFT(薄膜トランジスタ)が形成されているものを用いることができる。また、分散液の塗布方法としては、スピンコート法のほかに、インクジェット法を用いることができる。
【0045】
以上説明した他の実施形態によれば、真空蒸発法により表面が第1のカルボン酸であるオレイン酸と第1のアミンであるドデシルアミンで覆われたAu微粒子を生成した。このとき、分散剤としてAu微粒子の生成に適した第1のカルボン酸である炭素数18のオレイン酸及び第1のアミンである炭素数12のドデシルアミンを用いるため、Au微粒子の生成時に高い分散安定性が得られ、Au微粒子を安定に生成することができる。このように生成したAu微粒子の表面を覆う第1のカルボン酸であるオレイン酸を第2のカルボン酸であるオクタン酸に置換し、さらに、Au微粒子の表面を覆う第1のアミンであるドデシルアミンを1級アミンであるオクチルアミンに置換することで、表面がオクタン酸とオクチルアミンで覆われたAu微粒子が覆われる。このようにAu微粒子分散液の用途(低温焼成化)に適した第2のカルボン酸であるオクタン酸及び1級アミンであるオクチルアミンでAu微粒子の表面を覆うことで、当該用途に応じた焼成温度で分散液を焼成することができる。従って、本実施形態によれば、Au微粒子を安定に生成でき、Au微粒子の分散液を焼成するときに、分散液の用途に応じた焼成温度で焼成可能なAu微粒子を製造することができる。
【0046】
また、本実施形態では、真空蒸発法によりAu微粒子を生成する際に、槽内に第1のアミンであるドデシルアミンを収容するのではなく、ケトンと第1のアミンであるドデシルアミンを反応させて脱水縮合したイミンを収容し、生成過程のAu微粒子に該イミンを接触させた。このとき、生成過程のAu微粒子の表面にて該イミンが加水分解して第1のアミンであるドデシルアミンに戻り、この第1のアミンであるドデシルアミンがAu微粒子の表面を強固に覆う。結果として、Au微粒子の分散安定性を更に向上できる。このようにイミンを経由して第1のアミンでAu微粒子表面を覆うと、その後の工程で第1のアミンを1級アミンに置換した後も、Au微粒子の分散安定性は高いまま維持される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖又は分岐構造を有する炭素数6〜18の第1のカルボン酸で表面が覆われた金属微粒子を生成する第1工程と、
第1工程で生成された金属微粒子を、直鎖又は分岐構造を有する炭素数4〜22の第2のカルボン酸と混合し、金属微粒子の表面を覆う第1のカルボン酸を第2のカルボン酸に置換する第2工程と、
表面が第2のカルボン酸で覆われた金属微粒子を、直鎖又は分岐構造を有する炭素数4〜22の1級アミンと混合し、表面が第2のカルボン酸及び該1級アミンで覆われた金属微粒子を得る第3工程と、を含むことを特徴とする金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程は、槽内に金属原料と、前記第1のカルボン酸及び第1のアミンをケトンと反応させて脱水縮合して得たイミンを含む溶媒と、を収容し、減圧下でこの金属原料を加熱して蒸発させ、この蒸発したものを捕集して当該溶媒に接触させることで、表面が第1のカルボン酸及び第1のアミンで覆われた金属微粒子が分散してなる金属微粒子含有液を得る工程を有することを特徴とする請求項1記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1のカルボン酸が、ヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルへキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、2−へキシルデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸から選択された少なくとも1つから選択された少なくとも1つであり、
前記第2のカルボン酸が、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルへキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、2−へキシルデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸から選択された少なくとも1つであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記1級アミンが、へキシルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン及びオレイルアミンから選択された少なくとも1つであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記金属原料が、Ag、Au、Ni、Pd、Rh、Ru、In、Sn、Cu及びPtから選択された少なくとも1種の金属又はこれらの金属の少なくとも2種からなる合金であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の金属微粒子の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−1954(P2013−1954A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134017(P2011−134017)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】