説明

金属担持多孔質体、その製造方法、および金属担持多孔質体を含有する燃料電池電極用触媒

【課題】
本発明は、2種類の金属を含有し、かつその一方の含有率が低い金属微粒子を担持する金属担持多孔質体の製造方法等を提供することを目的とする。
【解決手段】
多孔質体の存在下、
溶媒中で、
第1の金属のイオンおよび第2の金属のイオンを、第1の金属のイオン単独では還元反応が進行するが、第2の金属のイオン単独では還元反応が進行しない条件下で、
化学的還元剤により還元することにより、
前記多孔質体に第1の金属および第2の金属を担持させる工程
を有することを特徴とする、金属担持多孔質体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属担持多孔質体、その製造方法、および金属担持多孔質体を含有する燃料電池電極用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の電極用の触媒としては、これまで白金(Pt)粒子を担持させたカーボンブラックなどが知られている。しかし、このような触媒は、燃料として使用される水素ガス(改質ガス)中の不純物である微量(数ppm)の一酸化炭素(CO)が被毒物質としてはたらくことにより、上記触媒が被毒して触媒性能が著しく低下するという問題がある。同様の問題は、燃料としてメタノールなどを使用するDAFC(Direct Alcohol Fuel Cell)においても存在する。
このような触媒毒の問題を解決すべく、これまで白金とルテニウム(Ru)との合金を触媒に使用する検討も行われている。この場合、白金とルテニウムのモル比は、約1:1が好ましいと報告されている。例えば、非特許文献1[ジャーナル・オブ・パワー・ソーシーズ(Journal of Power Sources)、2006年、vol.155、p.95−110]等が挙げられる。
このような触媒として、例えば、特許文献1(特開2007−287648号公報)には、白金とルテニウムとを含有し、白金とルテニウムのモル組成比4:1〜1:4である、燃料電池用触媒が開示されている。
ここで、白金は希少資源であることが知られているが同時にルテニウムも希少資源である。特にルテニウムの生産量は、白金の生産量の1/7程度に過ぎないため、燃料電池の普及により需給のバランスが崩れると、ルテニウムの入手が困難になる可能性がある。このため、ルテニウムの使用量が少なく、かつ耐CO被毒性が高い、燃料電池の電極用の触媒の開発が望まれている。
また、一方で、触媒としての機能を向上させるためには、多孔質に担持される金属が、微小粒子であることが望まれている。このような技術として、特許文献2(特開2007−254873号公報)には、金属イオンを、モル比で表して50倍〜105倍の2−プロパノールで還元して、金属微粒子として担持させる方法が開示されている。また、公知技術ではないが、本出願人らは独自に、多孔質体の存在下、溶媒中で、2価の白金イオンを第3級アミンにより白金に還元する工程を有することを特徴とする金属担持多孔質体の製造方法を開発した(特願2006−317490号、未公開)。
また、一般に、工業的製造方法は、特許文献1あるいは特許文献2に示されたような条件よりも、より穏やかな条件の下で実施可能である事が望まれる。
【0003】
【特許文献1】特開2007−287648号公報
【特許文献2】特開2007−254873号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・パワー・ソーシーズ(Journal of Power Sources)、2006年、vol.155、p.95−110
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
すなわち、本発明は、2種類の金属を含有し、かつその一方の含有率が低い金属微粒子を担持する金属担持多孔質体を提供することを目的とする。
また、本発明は、このような金属担持多孔質体の、温和な条件で実施可能な製造方法を提供することを、さらなる目的とする。
また、本発明は、ルテニウム量比が低く、かつ高い触媒性能および高い耐CO被毒性を有する燃料電池用電極触媒を提供することを、さらなる目的とする。
また、本発明は、ルテニウムの単位量当たりの触媒活性能が高い燃料電池用触媒を提供することを、さらなる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究の結果、多孔質体の存在下、溶媒中で、白金イオンおよびルテニウムイオンを、白金イオン単独では還元反応が進行するが、ルテニウムイオン単独では還元反応が進行しない条件下で、特定の化学的還元剤により還元することにより、穏やかな条件の下で前記多孔質体の表面上に白金およびルテニウムを、これらの合金の微粒子として担持させることができること;および、この方法で得られた金属担持多孔質体が、担持された総金属に対するルテニウムの量比が低くても、高い触媒性能および高い耐CO被毒性を有する事を見出し、更なる検討の結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1]
多孔質体の存在下、
溶媒中で、
第1の金属のイオンおよび第2の金属のイオンを、第1の金属のイオン単独では還元反応が進行するが、第2の金属のイオン単独では還元反応が進行しない条件下で、
化学的還元剤により還元することにより、
前記多孔質体に第1の金属および第2の金属を担持させる工程
を有し、
前記金属担持多孔質体が担持する総金属に対する第2の金属の重量比が1〜30%であることを特徴とする、
金属担持多孔質体の製造方法;
[2]
第1の金属のイオンが2価の白金イオンであり、第2の金属のイオンが3価のルテニウムイオンであることを特徴とする、
上記[1]に記載の金属担持多孔質体の製造方法;
[3]
2価の白金イオンはテトラクロロ白金(II)酸由来であり、3価のルテニウムイオンは塩化ルテニウム(III)由来であること特徴とする
上記[2]に記載の金属担持多孔質体の製造方法;
[4]
金属担持多孔質体が担持する総金属に対するルテニウムの重量比が5〜12%であることを特徴とする
上記[3]に記載の金属担持多孔質体の製造方法;
[5]
金属担持多孔質体が担持する総金属に対するルテニウムの重量比が5〜10%であることを特徴とする
上記[3]に記載の金属担持多孔質体の製造方法;
[6]
溶媒が水を含有する溶媒である、上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の金属担持多孔質体の製造方法;
[7]
化学的還元剤としてイソプロピルアルコールを用い、還元反応温度15℃〜100℃の条件下で、第1の金属のイオンおよび第2の金属のイオンを還元する、上記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の金属担持多孔質体の製造方法;
[8]
還元剤の量が、第1の金属のイオンおよび第2の金属のイオンの合計の1〜50倍モル量である、上記[1]〜[7]のいずれか1項に記載の金属担持多孔質体の製造方法;
[9]
多孔質体のBET比表面積が50〜1500m/gである、上記[1]〜[8]のいずれか1項に記載の金属担持多孔質体の製造方法;
[10]
上記[1]〜[9]のいずれか1項に記載の金属担持多孔質体の製造方法によって得られる、金属担持多孔質体;
[11]
金属担持多孔質体を含有する燃料電池の電極用の触媒であり、
当該金属担持多孔質体は、導電性を有する多孔質体の存在下、溶媒中で、2価の白金イオンおよび3価のルテニウムイオンを、2価の白金イオン単独では還元反応が進行するが、3価のルテニウムイオン単独では還元反応が進行しない条件下で、化学的還元剤により還元することにより、前記多孔質体に白金およびルテニウムを担持させる工程を有することを特徴とする製造方法によって得られ、かつ担持された総金属に対するルテニウムの重量比が1〜30%である金属担持多孔質体である
触媒;
[12]
担持された総金属に対するルテニウムの重量比が5〜12%である、上記[13]に記載の触媒;
[13]
担持された総金属に対するルテニウムの重量比が5〜10%である、上記[13]に記載の触媒;および
[14]
導電性を有する多孔質体が、カーボンブラック又は導電性セラミックである上記[11]〜[13]のいずれか1項に記載の触媒等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、2種類の金属を含有し、かつその一方の含有率が低い金属微粒子を担持する金属担持多孔質体が提供される。
さらに、本発明によれば、このような金属担持多孔質体の、温和な条件で実施可能な製造方法が提供される。
さらに、本発明の一態様によれば、ルテニウム量比が低く、かつ高い触媒性能および高い耐CO被毒性を有する燃料電池用電極触媒が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明の金属担持多孔質体の製造方法は、第1の金属のイオンおよび第2の金属のイオンを、第1の金属のイオン単独では還元反応が進行するが、第2の金属のイオン単独では還元反応が進行しない条件下で、化学的還元剤により還元することにより、多孔質体に第1の金属および第2の金属を担持させる工程を有する。当該製造方法において、前記金属担持多孔質体が担持する総金属に対する第2の金属の重量比は、1〜30%である。ここで、「多孔質体に金属を担持させる」とは、第1の金属および第2の金属がそれぞれ単独に、または同時に析出して、前記多孔質体の表面に第1の金属と第2の金属とからなる合金を固定させることをいう。
【0010】
本発明の製造方法で用いられる溶媒としては、水を含有する溶媒が好ましい。水を含有する溶媒としては、水、又は水と有機溶媒との混合物が挙げられる。当該有機溶媒としては、例えば、1価又は多価のアルコール、エーテル、およびエステル等が挙げられる。なかでも、安全性の観点から水が好ましい。
【0011】
本発明の製造方法で用いられる多孔質体としては、好ましくは、2nm未満のマイクロ孔又は2〜30nmのメソ孔を有し、BET法で測定した比表面積、すなわちBET比表面積が50〜1500m/g、より好ましくは、200〜1500m/gのものである。
上記多孔質体としては、特に限定されるものではないが、例えば、カーボン、セラミック(例:導電性セラミック)、粘土鉱物等の無機物、金属若しくは半金属の単一若しくは複合酸化物、硫化物等を挙げることができる。
本発明の金属担持多孔質体を電極材料(例:燃料電池の電極用の触媒)として使用する場合には、上記多孔質体が導電性を有することが好ましく、具体的にはカーボンおよび/または導電性セラミックが好ましい。
【0012】
上記カーボンとしては、触媒の担体として通常使用されるものを使用することができる。その例としては、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック;グラファイト;ナノチューブ;フラーレン;および活性炭等が挙げられる。なお、上記カーボンとして、親水化処理が施されたものを用いてもよい。そのようなカーボンとしては、例えば、表面に酸性基が導入されたもの等を挙げることができる。
【0013】
上記導電性セラミックスとしては、触媒の担体として通常使用されるものを使用することができる。その例としては、例えば、アンチモンドープ酸化スズ、鉛ドープ酸化インジウム、スズドープ酸化インジウム、アルミニウムドープ酸化亜鉛、フッ素ドープ酸化スズ等が挙げられる。
【0014】
また、本発明の金属担持多孔質体を、排ガス浄化用の触媒として使用する場合には、多孔質体は、熱やガスに対する劣化耐性などを有するものが好ましく、具体的にはセラミックや粘土鉱物等の無機物、金属若しくは半金属の単一若しくは複合酸化物、硫化物、カルコゲン化物などが好ましい。なかでもゼオライト、アパタイト、リン酸ジルコニウム、粘土鉱物などの無機物;酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化モリブデン、酸化ニオブ、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ホウ素、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化マグネシウム、酸化ビスマス、酸化イットリウム、酸化ハフニウム等の金属若しくは半金属の単一若しくは複合酸化物;硫化物;カルコゲン化物等が好ましい。
【0015】
金属イオンを還元する場合、エネルギー線や化学還元剤の作用を利用して行なわれるのが一般的であるが、本発明では、より穏やかな条件で反応が進行する点で、化学的な還元剤を用いることが好適である。本発明の製造方法で用いられる化学的還元剤としては、微細な金属粒子を担持させる観点から、還元反応を穏やかに進行させるものが好ましい。このような化学的還元剤としては、例えば、有機酸、例えば、クエン酸、コハク酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、酢酸、ギ酸、タンニン酸、グルクロン酸、若しくはその塩、アミン、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N,N’,N−テトラメチルエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン;ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピペラジン、N,N’−ジメチルピペラジン、ピロリジン、N−メチルピロリジン、モルホリン等の脂環式アミン;アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、トルイジン、アニシジン、フェネチジン等の芳香族アミン; ベンジルアミン、N−メチルベンジルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、フェネチルアミン、キシリレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルキシリレンジアミン等のアラルキルアミン等を挙げることができる。また、上記アミンとして、例えば、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、プロパノールアミン、2−(3−アミノプロピルアミノ)エタノール、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン、ジメチルアミノプロパノール等のアルカノールアミン)、およびアルコール(例:エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等が挙げられる。中でも、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0016】
本発明で用いられる2種類の金属のうちの一方、すなわち第1の金属としては、特に限定されるものではないが、還元力を有する金属が好ましく、中でも白金、銀、パラジウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、ニッケルが好ましい。特に好ましくは白金である。
【0017】
本発明の製造方法で用いられる第1の金属のイオンは、第1の金属のイオンの前駆体が溶媒に溶解することによって生じる。
第1の金属の前駆体としては、特に限定されないが、上記の溶媒に対する溶解度が高い前駆体が好ましい。
第1の金属が白金である場合、第1の金属のイオンである白金イオンとしては、2価の白金イオンおよび4価の白金イオンが挙げられ、中でも2価の白金イオンが好ましい。2価の白金イオンとしては、4配位の白金(II)錯イオンが好ましい。このような白金イオンを生じさせる白金イオン前駆体としては、例えば、白金原子1つに対して2つの電子供与体又は電子供与官能基から構成されるものと、白金原子1つに対して4つの電子供与体又は電子供与官能基から構成されるものとが挙げられる。
白金原子1つに対して2つの電子供与体若しくは電子供与官能基から構成される2価の白金イオンの前駆体としては、例えば、フッ化白金(II)、塩化白金(II)、臭化白金(II)、ヨウ化白金(II)、酸化白金(II)、シアン化白金(II)等が挙げられる。
白金原子1つに対して4つの電子供与体又は電子供与官能基から構成される2価の白金イオン前駆体としては、例えば、テトラクロロ白金(II)酸ナトリウム四水和物、テトラクロロ白金(II)酸カリウム、テトラクロロ白金(II)酸アンモニウム、テトラブロモ白金(II)酸二水和物、テトラニトロ白金(II)酸カリウム、ビス(2,4−ベンタンジオナト)白金(II)、ジクロロジアンミン白金(II)、テトラクロロ白金(II)酸、テトラアンミン白金(II)、テトラアンミン白金(II)塩化物水和物、ジニトロジアンミン白金(I1)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)白金(II)、ビス(エチレンジアミン)白金(II)塩化物、テトラキス(チオシアナト)白金(II)酸カリウム、テトラシアノ白金(II)酸カリウム三水和物、テトラシアノ白金(II)酸バリウム四水和物、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)白金(II)、ヨード(メチル)ビス(トリエチルホスフィン)白金(II)、ジフェエルビス(トリエチルホスフィン)白金(II)、ジクロロ(フェニルイソシアエド)(トリエチルホスフィン)白金(II)、ビス(アリル)白金(II)、ジクロロ( 1,5−シクロオクタジエン)白金(II)、トランス−d−シク口ヘキサンジアミンジクロロ白金(II)、トランス−d−シクロヘキサンジアミンジクロロ白金(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)白金(II)、ジクロロ(η−エチレン)白金(II)ダイマー、ジクロロ(η−シクロヘキセン)白金(II)ダイマー等が挙げられる。
白金原子1つに対して4つの電子供与体又は電子供与官能基から構成される2価の白金イオンの前駆体のなかでは、4配位の白金錯イオンのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩が好ましい。なかでも、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。
【0018】
本発明において用いられる2種類の金属のうちの他方、すなわち第2の金属としては、「第1の金属のイオン単独では還元反応が進行するが、第2の金属のイオン単独では還元反応が進行しない条件」を設定できる金属であれば、特に限定されるものではないが、例えば、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、レニウム、イリジウム、銅、クロム、マンガン、鉄、インジウム、モリブデン、スズ、コバルト、ニッケル、亜鉛、アンチモン、ビスマス、バナジウム、ニオブ、タンクル、レニウムおよびタングステン等が挙げられる。本発明の金属担持多孔質体を燃料電池の電極用の触媒に用いる場合、なかでもルテニウムが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法で用いられる第2の金属のイオンは、第2の金属のイオンの前駆体が溶媒に溶解することによって生じる。
第2の金属のイオンの前駆体としては、特に限定されないが、上記の溶媒に対する溶解度が高い前駆体が好ましい。
第2の金属がルテニウムである場合、第2の金属のイオンであるルテニウムイオンとしては、3価のルテニウムイオンが好ましい。3価のルテニウムイオンの前駆体としては、例えば、三塩化ルテニウム、および硝酸ルテニウムが挙げられる。なかでも、三塩化ルテニウムが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法において、還元反応は、第1の金属イオンの前駆体、第2の金属イオンの前駆体、多孔質体、還元剤を混合することによって進行し、第1の金属および第2の金属を含有する金属粒子が、多孔質体の表面上に担持される。
【0021】
本発明の製造方法において、溶媒中に存在させる多孔質体の量は、特に限定されるものではないが、通常、溶媒1重量部に対して0.01〜10重量部(好ましくは、0.1〜5重量部)である。
【0022】
本発明の製造方法において、用いられる化学的還元剤の量は、化学的還元剤の種類等によって異なるが、好ましくは、第1の金属のイオンおよび第2の金属のイオンの合計の1〜50倍モル量、より好ましくは、40〜48倍モル量である。
【0023】
本発明の製造方法において、溶媒中の、第1の金属のイオンおよび第2の金属のイオンの量は特に限定されないが、本発明の製造方法で得られる金属担持多孔質体を触媒(例、燃料電池の電極用の触媒)に用いる場合、適当な触媒活性を得る観点から、好ましくは、担持する第1の金属と多孔質体との重量比が、第1の金属(金属重量に換算)/多孔質体=20/80〜80/20、より好ましくは20/30〜30/10となる量である。
【0024】
本発明の製造方法において、溶媒中の、第1の金属のイオンおよび第2の金属のイオンの量比は、金属担持多孔質体が担持する総金属(総金属は、第1の金属および第2の金属である)に対する第2金属の重量比が、1〜30%、好ましくは、5〜12%、より好ましくは、5〜10%であるように決定される。すなわち、第1の金属のイオンおよび第2の金属のイオンの量比は、それぞれ金属に換算して、99/1〜70/30以上、好ましくは、95/5〜88/12、より好ましくは、95/5〜90/10である。
特に、本発明の製造方法で得られる金属担持多孔質体が燃料電池用電極触媒に用いられ、第1の金属が白金であり、および第2の金属がルテニウムである場合、この比率により、ルテニウムの使用量を抑制し、かつ適当な触媒活性および適当な耐CO被毒性が得られる。
【0025】
本発明の製造方法における、還元反応温度は、化学的還元剤の種類等によって異なるが、第1の金属のイオン単独では還元反応が進行するが、第2の金属のイオン単独では還元反応が進行しない温度に設定すればよい。例えば、化学的還元剤としてイソプロパノールを用い、第1の金属が白金であり、第2の金属がルテニウムである場合、好ましくは15℃〜100℃、より好ましくは、70℃〜90℃である。前記還元反応のメカニズムの詳細は不明であるが、第1の金属が還元触媒として作用し、第2の金属のイオンが還元されると考えられる。第1の金属イオンが存在しない場合、本願所望の穏やかな還元条件下では、第2の金属イオンの還元反応は進行せず、イソプロパノールと第2の金属イオンはそのまま回収される。
【0026】
本発明の製造方法における、還元反応時間は、化学的還元剤の種類および還元反応温度等によって異なるが、例えば、10分間〜50時間、好ましくは、30分間〜3時間である。
【0027】
本発明の製造方法においては、更に、反応系に、分散剤等の他の物質を添加してもよい。
【0028】
本発明の製造方法において、第1の金属イオンの前駆体、第2の金属イオンの前駆体、多孔質体、還元剤、および所望により添加される他の物質の反応系への添加の順序は特に限定されないが、好ましくは、(順序1)多孔質体を添加し、還元剤を添加し、次いで第1および第2の金属イオンの前駆体を同時に添加するか、あるいは(順序2)多孔質体を添加し、還元剤を添加し、第2の金属イオンの前駆体を添加し、次いで第1の金属イオンの前駆体を添加する。
【0029】
このようにして得られた金属担持多孔質体を含有する溶媒は、更に副生成物および未反応物を含有する場合がある。これらは、濾過や電気透析等の公知の方法で除去することが好ましい。
【0030】
このようにして得られた本発明の金属担持多孔質体の表面上に担持された金属粒子の平均粒子径は、高い触媒活性を得る観点から、好ましくは5nm未満(より好ましくは2〜5nm)である。なお、平均粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡写真、およびX線回折等により測定することができる。
【0031】
このようにして得られた本発明の金属担持多孔質体の表面上に担持された金属粒子は、その中心部が主に第1の金属からなり、外殻部が主に第1の金属と第2の金属からなると推定されるが、本発明の金属担持多孔質体の構造は、これに限定されるものではない。
【0032】
本発明の製造方法によれば、工程数を少なくして簡便に金属担持多孔質体を製造することができる。また、乾燥等の乾式工程が不要であり、湿式工程のみで、金属担持多孔質体を分散した組成物を得ることができる。多孔質体が、導電性を有する粉状のものである場合、上記製造方法により得られる組成物から溶媒を除去せず、その組成物に導電性樹脂を混合することにより、他の溶媒を用いることなく、インク状の電極触媒(触媒インク)を得ることができる。また、金属担持多孔質体を分散した組成物中の溶媒を他の溶媒に溶媒置換し、得られた組成物に導電性樹脂を混合することにより、インク化してもよい。このようにして得られた触媒インクは、例えば、固体高分子形燃料電池用電極の製造に用いられ得る。その電極としてはカソード電極、アノード電極のどちらでも用いることが可能であるが、好ましくはアノード電極として用いられる。また、多孔質体が粉状である場合、上記製造方法により得られる組成物を乾燥させ、得られた粉状の金属担持多孔質体を加熱成形することにより、金属担持多孔質体の成形物を製造することも可能である。
すなわち、このようにして得られる、金属担持多孔質体を含有する燃料電池の電極用の触媒もまた本発明の一態様である。
【実施例】
【0033】
以下に、製造例、比較製造例、実施例、比較例、および試験例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0034】
[製造例1]
Pt/Ru=88/12(重量比)のPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の調製
導電性カーボン(ライオン社製、ケッチェンブラックEC600JD)0.667gに脱イオン水30.0g、およびイソプロピルアルコール15.5gを添加してマグネットスターラーを用いて撹拌しながら80℃になるように加熱した。
別個にテトラクロロ白金(II)酸カリウム(田中貴金属社製)1.924g、塩化ルテニウム(III)・三水和物(徳力本店社製)0.259gを容器に採った。これに脱イオン水 25.0gを加えて攪拌し、テトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物を溶解し、濃黒色を呈したテトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物の水溶液を調製した。
80℃に加熱した、導電性カーボンを分散した脱イオン水とイソプロピルアルコールの混合溶液に、テトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物の水溶液を瞬時に加えた。テトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物の水溶液を添加する際も、導電性カーボンの分散した脱イオン水とイソプロピルアルコールの混合溶液をスターラーによって攪拌し続けた。
白金とルテニウムのmol数の総和に対する、イソプロピルアルコールのmol数の比は、
(白金+ルテニウム)/イソプロピルアルコール=1/46.0
であった。
上記水溶液の添加後も80℃に温度を維持し、スターラーによる攪拌を75分間行った。
その後、加熱を停止して、攪拌しながら反応溶液が室温になるまで冷却した後、攪拌を止めて静置するとPt-Ru複合ナノ粒子担持多孔質体が沈降し、無色透明の上澄み液が得られることを確認できた。反応溶液を濾過することによりPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体を得た。
得られたPt−Ru担持多孔質体に脱イオン水100gを加えて濾過操作を行うことにより、Pt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体に付着した雑イオンの除去を行った。
ろ液の伝導度が10μS/cm以下となるまで、この作業を行った。
雑イオンが除去され、水分を含んだPt−Ru担持多孔質体を別の容器に採り、真空乾燥機にて乾燥することにより、Pt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体 1.60gを得た。
得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、写真撮影を行った。得られた写真からPt−Ru複合ナノ粒子を任意に10個選び、その粒子径を測定し、平均値からPt−Ru複合ナノ粒子の粒子径を算出したところ、粒子径は4nmであった。
得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の蛍光X線測定を行うことにより、白金/ルテニウムの比率が重量比で白金/ルテニウム=88/12であることを確認した。
【0035】
[製造例2]
Pt/Ru=73/27(重量比)のPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の調製
導電性カーボン(ライオン社製、ケッチェンブラックEC600JD)0.667gに脱イオン水30.0g、およびイソプロピルアルコール16.0gを添加してマグネットスターラーを用いて撹拌しながら80℃になるように加熱した。
別個にテトラクロロ白金(II)酸カリウム(田中貴金属社製)1.589g、塩化ルテニウム(III)・三水和物(徳力本店社製)0.665gを容器に採った。これに脱イオン水 25.0gを加えて攪拌し、テトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物を溶解し、濃黒色を呈したテトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物の水溶液を調製した。
80℃に加熱した、導電性カーボンを分散した脱イオン水とイソプロピルアルコールの混合溶液に、テトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物の水溶液を瞬時に加えた。テトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物の水溶液を添加する際も、導電性カーボンの分散した脱イオン水とイソプロピルアルコールの混合溶液をスターラーによって攪拌し続けた。
白金とルテニウムのmol数の総和に対する、イソプロピルアルコールのmol数の比は、
(白金+ルテニウム)/イソプロピルアルコール=1/41.9
であった。
添加後も80℃に温度を維持し、スターラーによる攪拌を75分間行った。
その後、加熱を停止して、攪拌しながら反応溶液が室温になるまで冷却した後、攪拌を止めて静置するとPt-Ru複合ナノ粒子担持多孔質体が沈降し、無色透明の上澄み液が得られることを確認できた。反応溶液を濾過することによりPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体を得た。
得られたPt−Ru担持多孔質体に脱イオン水100gを加えて濾過操作を行うことにより、Pt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体に付着した雑イオンの除去を行った。
ろ液の伝導度が10μS/cm以下となるまで、この作業を行った。
雑イオンが除去され、水分を含んだPt−Ru担持多孔質体を別の容器に採り、真空乾燥機にて乾燥することにより、Pt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体 1.60gを得た。
得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、写真撮影を行った。得られた写真からPt−Ru複合ナノ粒子を任意に10個選び、その粒子径を測定し、平均値からPt−Ru複合ナノ粒子の粒子径を算出したところ、粒子径は4nmであった。
得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の蛍光X線測定を行うことにより、白金/ルテニウムの比率は重量比で白金/ルテニウム=73/27であることを確認した。
【0036】
[製造例3]
Pt/Ru=91.5/8.5(重量比)のPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の調製法
導電性カーボン(ライオン社製のケッチェンブラックEC600JD)0.667gに脱イオン水30.0g、イソプロピルアルコール16.0gを添加してマグネットスターラーを用いて80℃になるように加熱した。
別個にテトラクロロ白金(II)酸カリウム(田中貴金属社製)1.589g、塩化ルテニウム(III)・三水和物(徳力本店社製)0.207gを容器に採った。これに脱イオン水 25.0gを加えて攪拌し、テトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物を溶解し、濃黒色を呈したテトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物の水溶液を調製した。
80℃に加熱した導電性カーボンの分散した脱イオン水とイソプロピルアルコールの混合溶液に、テトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物の水溶液を瞬時に加えた。テトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物の水溶液を添加する際も、導電性カーボンの分散した脱イオン水とイソプロピルアルコールの混合溶液のスターラーによる攪拌を行った。
白金とルテニウムのmol数の総和に対して、イソプロピルアルコールのmol数の関係は、
(白金+ルテニウム)/イソプロピルアルコール=1/46.8
であった。
添加後も80℃に温度を維持させて、スターラーによる攪拌を75分間行った。
その後、加熱を停止して、攪拌しながら反応溶液が室温になるまで冷却した後、攪拌を止めて静置するとPt-Ru複合ナノ粒子担持多孔質体が沈降し、無色透明の上澄み液が得られることを確認できた。反応用液を濾過することによりPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体を得た。
得られたPt−Ru担持多孔質体に脱イオン水100gを加えて濾過操作を行いPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体に付着した雑イオンの除去を行った。
ろ液の伝導度が10μS/cm以下となるまで、この作業を行った。
雑イオンが除去され、水分を含んだPt−Ru担持多孔質体を別の容器に採り、真空乾燥機にて乾燥することにより、Pt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体 1.60gを得た。
得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、写真撮影を行った。得られた写真から任意にPt−Ru複合ナノ粒子を10個選び、その粒子径を測定し、平均値からPt−Ru複合ナノ粒子の粒子径を算出したところ、粒子径は4nmであった。
得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の蛍光X線測定を行うことにより、白金/ルテニウムの比率は重量比で白金/ルテニウム=91.5/8.5であることを確認した。
【0037】
[比較製造例1]
Pt/Ru=64/36(重量比)のPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の調製法
導電性カーボン(ライオン社製、ケッチェンブラックEC600JD)0.667gに脱イオン水30.0g、およびイソプロピルアルコール16.7gを添加してマグネットスターラーを用いて撹拌しながら80℃になるように加熱した。
別個にテトラクロロ白金(II)酸カリウム(田中貴金属社製)1.426g、塩化ルテニウム(III)・三水和物(徳力本店社製)0.862gを容器に採った。これに脱イオン水 25.0gを加えて攪拌し、濃黒色を呈したテトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物を溶解し、テトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物の水溶液を調製した。
80℃に加熱した、導電性カーボンを分散した脱イオン水とイソプロピルアルコールの混合溶液に、テトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物の水溶液を瞬時に加えた。テトラクロロ白金(II)酸カリウムおよび塩化ルテニウム(III)・三水和物の水溶液を添加する際も、導電性カーボンの分散した脱イオン水とイソプロピルアルコールの混合溶液をスターラーによって攪拌し続けた。
白金とルテニウムのmol数の総和に対する、イソプロピルアルコールのmol数の比は、
(白金+ルテニウム)/イソプロピルアルコール=1/41.4
であった。
添加後も80℃に温度を維持し、スターラーによる攪拌を75分間行った。
その後、加熱を停止して、攪拌しながら反応溶液が室温になるまで冷却した後、攪拌を止めて静置するとPt-Ru複合ナノ粒子担持多孔質体が沈降し、無色透明の上澄み液が得られることを確認できた。反応溶液を濾過することによりPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体を得た。
得られたPt−Ru担持多孔質体に脱イオン水100gを加えて濾過操作を行うことにより、Pt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体に付着した雑イオンの除去を行った。
ろ液の伝導度が10μS/cm以下となるまで、この作業を行った。
雑イオンが除去され、水分を含んだPt−Ru担持多孔質体を別の容器に採り、真空乾燥機にて乾燥することにより、Pt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体 1.60gを得た。
得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、写真撮影を行った。得られた写真から任意にPt−Ru複合ナノ粒子を10個選び、その粒子径を測定し、平均値からPt−Ru複合ナノ粒子の粒子径を算出したところ、粒子径は4nmであった。
得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の蛍光X線測定を行うことにより、白金/ルテニウムの比率は重量比で白金/ルテニウム=64/36であることを確認した。
【0038】
[比較製造例2]
Ptナノ粒子担持多孔質体の調製
導電性カーボン(ライオン社製のケッチェンブラックEC600JD)0.667gに脱イオン水30.0g、およびイソプロピルアルコール15.0gを添加してマグネットスターラーを用いて撹拌しながら80℃になるように加熱した。
別個にテトラクロロ白金(II)酸カリウム(田中貴金属社製)2.138gを容器に採った。これに脱イオン水 25.0gを加えて攪拌し、テトラクロロ白金(II)酸カリウムを溶解し、淡暗赤色のテトラクロロ白金(II)酸カリウム水溶液を調製した。
80℃に加熱した導電性カーボンを分散した脱イオン水とイソプロピルアルコールの混合溶液に、テトラクロロ白金(II)酸カリウム水溶液を瞬時に加えた。テトラクロロ白金(II)酸カリウム水溶液を添加する際も、導電性カーボンの分散した脱イオン水とイソプロピルアルコールの混合溶液をスターラーによって攪拌し続けた。
白金のmol数に対するイソプロピルアルコールのmol数の比は、
白金/イソプロピルアルコール=1/48.7
であった。
添加後も80℃に温度を維持させて、スターラーによる攪拌を75分間行った。
その後、加熱を停止して、攪拌しながら反応溶液が室温になるまで冷却した後、攪拌を止めて静置するとPt-Ru複合ナノ粒子担持多孔質体が沈降し、無色透明の上澄み液が得られることを確認できた。
反応溶液を濾過することによりPtナノ粒子担持多孔質体を得た。
得られたPt担持多孔質体に脱イオン水100gを加えて濾過操作を行いPt複合ナノ粒子担持多孔質体に付着した雑イオンの除去を行った。
ろ液の伝導度が10μS/cm以下となるまで、この作業を行った。
雑イオンが除去され、水分を含んだPt担持多孔質体を別の容器に採り、真空乾燥機にて乾燥することにより、Ptナノ粒子担持多孔質体 1.60gを得た。
得られたPtナノ粒子担持多孔質体の透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、写真撮影を行った。得られた写真から任意にPt複合ナノ粒子を10個選び、その粒子径を測定し、平均値からPtナノ粒子の粒子径を算出したところ、粒子径は4nmであった。
【0039】
[比較製造例3]
Ru担持多孔質体の調製
導電性カーボン(ライオン社製のケッチェンブラックEC600JD)0.667gに脱イオン水30.0g、およびイソプロピルアルコール15.0gを添加してマグネットスターラーを用いて撹拌しながら80℃になるように加熱した。
別個に塩化ルテニウム(III)・三水和物(徳力本店社製)1.350gを容器に採った。これに脱イオン水 25.0gを加えて攪拌し、濃黒色の塩化ルテニウム(III)・三水和物水溶液を調製した。
80℃に加熱した導電性カーボンを分散した脱イオン水とイソプロピルアルコールの混合溶液に、塩化ルテニウム(III)・三水和物水溶液を瞬時に加えた。塩化ルテニウム(III)・三水和物水溶液を添加する際も、導電性カーボンの分散した脱イオン水とイソプロピルアルコールの混合溶液をスターラーによって攪拌し続けた。
ルテニウムのmol数に対するイソプロピルアルコールのmol数の比は、
ルテニウム/イソプロピルアルコール=1/48.7
であった。
添加後も80℃に温度を維持させて、スターラーによる攪拌を75分間行った。
その後、加熱を停止して、攪拌しながら反応溶液が室温になるまで冷却した後、攪拌を止めて静置するとPt-Ru複合ナノ粒子担持多孔質体が沈降したが、上澄み液は濃黒色であることを確認できた。 反応溶液を濾過した後、により黒色粉体を得た。
得られた黒色粉体に脱イオン水100gを加えて濾過操作を行いPt複合ナノ粒子担持多孔質体に付着した雑イオンの除去を行った。
ろ液の伝導度が10μS/cm以下となるまで、この作業を行った。
雑イオンが除去され、水分を含んだ黒色粉体を別の容器に採り、真空乾燥機にて乾燥することにより、黒色粉体 0.60gを得た。
得られた黒色粉体の透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、多孔質体に担持物は認められなかった。
反応後に観察された上澄み液が濃黒色を呈していたのは、塩化ルテニウムが還元反応が進行せずに、多孔質体である導電性カーボン(ライオン社製のケッチェンブラックEC600JD)が回収されたものと考えられた。
したがって、ルテニウムのmol数に対して50倍以下のイソプロピルアルコールを加えた条件で塩化ルテニウム(III)・三水和物を単独で反応させた場合は、「第2の金属」であるルテニウムは多孔質体に担持されないことを確認できた。
【0040】
本実施例において用いた触媒インクの調製、並びに膜・電極複合体(MEA)の作製および特性評価に用いた方法について説明する。
【0041】
[実施例1]
(触媒インクの調製)
触媒担持多孔質体100 mg、固体高分子電解質溶液(アルドリッチ社製 Nafion(商標)Perfluorinated Resin Solution ALDRICH(商標) 274704 : 電解質含量 5 wt%)1000 mg、純水500 mg、2-プロパノール(和光純薬工業社製、特級試薬)3000 mgをガラス製のビーカーへ導入し、超音波撹拌によって混合分散することで、触媒インクを調製した。アノード用触媒として製造例1で得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体を、カソード用触媒として田中貴金属株式会社製のPtナノ粒子担持カーボンを用いた。
【0042】
(触媒層形成)
一辺23 mmの正方形に切り出したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製シート(三輝工業社製、厚さ1 mm)の片面上へ、前記の触媒インクを噴霧器により塗布し、60 ℃に設定した送風乾燥機中で24時間乾燥させた。PTFE板1 cm2あたりの金属担持量がアノード用触媒層で0. 50 mg、カソード用触媒層で0.90 mgとなるように塗布を行った。
【0043】
(膜電極接合体の作製)
先に作製した二枚の触媒層形成PTFE製シートで、触媒層形成側が対向するように、一辺5 cmの正方形に切り出した固体高分子電解質膜(DuPont社製 Nafion(商標)117)を挟み、温度130 ℃ 、圧力150 kg cm-2の条件下で3分間ホットプレスを行い、触媒層と固体高分子電解質膜を接合させた。その後、PTFE製シートのみを剥がして膜電極接合体を得た。
【0044】
(膜電極接合体の前処理)
前記の膜電極接合体を1 mol dm-3の硫酸水溶液で1時間煮沸し、その後純水で1時間煮沸することで、膜電極接合体に含まれる不純物を除去した。
【0045】
(発電評価用単セルの組立)
前処理を行った膜電極接合体を一辺23 mmの正方形に切り出した二枚のカーボンペーパー(東レ社製)で挟み、グラファイト製セパレーターと集電板とを備えた燃料電池評価用セル(エレクトロケム社製 FC-05-02)内に組み込み、発電評価用の単セルを作製した。
【0046】
[実施例2]
アノード用触媒として製造例1で得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の代わりに製造例2で得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体を用いたこと以外は実施例1と同様に発電評価用単セルを組み立てた。
【0047】
[実施例3]
アノード用触媒として製造例1で得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の代わりに製造例3で得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体を用いること以外は実施例1にしたがって発電評価用単セルを組み立て、発電試験を行った。
【0048】
[比較例1]
アノード用触媒として製造例1で得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の代わりに比較製造例1で得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体を用いたこと以外は実施例1と同様に発電評価用単セルを組み立てた。
【0049】
[比較例2]
アノード用触媒として製造例1で得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の代わりに比較製造例2で得られたPtナノ粒子担持多孔質体を用いたこと以外は実施例1と同様に発電評価用単セルを組み立てた。
【0050】
[試験例1]
(単セルの発電試験)
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、および比較例2で作製した、それぞれの発電評価用単セルを用い、発電試験を行った。発電試験では、単セル温度を80 ℃とし、アノード側へ2 mol dm-3のメタノール水溶液を1ml min-1の速度で供給し、一方、カソード側へ酸素を500 ml min-1の速度で供給した。
金属量あたりの電池特性を算出し、セル特性を比較した。図1にアノード触媒のPt/Ru比を変えて作製した、実施例1、実施例2、比較例1、および比較例2の膜電極接合体の電池特性(電流密度に対する電池電圧)を示す。Pt/Ru比による電池特性の顕著な違いが観察され、Pt/Ru比が88/12となる実施例1で得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体を用いた膜電極接合体が、より高い電流密度まで電池電圧を保持し、最も良い特性を有することが示された。
比較例2に示したルテニウムを含まない白金のみからなる触媒(Ptナノ粒子担時多孔質体)を用いた膜電極接合体の場合には、きわめて低い電流密度で電池電圧が保持できなかった。これはルテニウムによるCO被毒の抑止効果が働かないためと考えられた。一方、白金とルテニウムを含んだ触媒(Pt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体)を用いた実施例1、実施例2、実施例3および比較例1では、比較例2よりも、より高い電流密度まで電池電圧を維持できたことが示された。
その中でも、比較例1よりルテニウム含有率が低い実施例1、実施例2、実施例3の方がより高性能であることがわかった。これは実施例1、実施例2、実施例3に示した本手法で合成したPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体の場合、より少ないルテニウム量で白金のCO被毒を抑止し、白金の触媒活性を高く維持できたものと推察できる。比較例1場合、ルテニウムの作用でCO被毒による触媒活性低下は抑止できるものの触媒表面上のルテニウムが多すぎる、すなわち白金量が少ないために、性能が低くなったものと推察している。
図2には、実施例1、実施例2、実施例3、および比較例1の、単位ルテニウム量あたり電流密度に対する電池電圧を示す。この図から、単位ルテニウム量あたりの触媒活性という観点では、Pt/Ru比が91.5/8.5である実施例3で得られたPt−Ru複合ナノ粒子担持多孔質体を用いた膜電極接合体が、最も好ましいことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】電流密度に対する電池電圧を示すグラフである。
【図2】単位ルテニウム量あたりの電流密度に対する電池電圧を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体の存在下、
溶媒中で、
第1の金属のイオンおよび第2の金属のイオンを、第1の金属のイオン単独では還元反応が進行するが、第2の金属のイオン単独では還元反応が進行しない条件下で、
化学的還元剤により還元することにより、
前記多孔質体に第1の金属および第2の金属を担持させる工程
を有し、
前記金属担持多孔質体が担持する総金属に対する第2の金属の重量比が1〜30%であることを特徴とする、
金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項2】
第1の金属のイオンが2価の白金イオンであり、第2の金属のイオンが3価のルテニウムイオンであることを特徴とする、
請求項1に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項3】
2価の白金イオンはテトラクロロ白金(II)酸由来であり、3価のルテニウムイオンは塩化ルテニウム(III)由来であること特徴とする
請求項2に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項4】
金属担持多孔質体が担持する総金属に対するルテニウムの重量比が5〜12%であることを特徴とする
請求項3に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項5】
金属担持多孔質体が担持する総金属に対するルテニウムの重量比が5〜10%であることを特徴とする
請求項3に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項6】
溶媒が水を含有する溶媒である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項7】
化学的還元剤としてイソプロピルアルコールを用い、還元反応温度15℃〜100℃の条件下で、第1の金属のイオンおよび第2の金属のイオンを還元する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項8】
還元剤の量が、第1の金属のイオンおよび第2の金属のイオンの合計の1〜50倍モル量である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項9】
多孔質体のBET比表面積が50〜1500m/gである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属担持多孔質体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の金属担持多孔質体の製造方法によって得られる、金属担持多孔質体。
【請求項11】
金属担持多孔質体を含有する燃料電池の電極用の触媒であり、
当該金属担持多孔質体は、導電性を有する多孔質体の存在下、溶媒中で、2価の白金イオンおよび3価のルテニウムイオンを、2価の白金イオン単独では還元反応が進行するが、3価のルテニウムイオン単独では還元反応が進行しない条件下で、化学的還元剤により還元することにより、前記多孔質体に白金およびルテニウムを担持させる工程を有することを特徴とする製造方法によって得られ、かつ担持された総金属に対するルテニウムの重量比が1〜30%である金属担持多孔質体である
触媒。
【請求項12】
担持された総金属に対するルテニウムの重量比が5〜12%である、請求項11に記載の触媒。
【請求項13】
担持された総金属に対するルテニウムの重量比が5〜10%である、請求項11に記載の触媒。
【請求項14】
導電性を有する多孔質体が、カーボンブラック又は導電性セラミックである請求項11〜13のいずれか1項に記載の触媒。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−75857(P2010−75857A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247710(P2008−247710)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】