説明

金属材料表面処理用水系塗料組成物

【課題】
耐食性、耐薬品性及び密着性に優れた金属材料表面処理用水系塗料組成物の提供。
【解決手段】
水系ポリウレタン樹脂と疎水性化合物とを含有する金属材料表面処理用水系塗料組成物の調製に際して、疎水性化合物を、水系ポリウレタン樹脂に添加した後、水系ポリウレタン樹脂と共に水に分散する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料用水系塗料組成物に関し、更に詳細は、水分散性樹脂組成物を用いた、耐食性、耐薬品性及び密着性に優れた金属材料表面処理用水系塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、家電製品、建材、自動車用などに用いられる鋼板等の金属材料の表面処理剤には、環境汚染、労働衛生、安全性の観点から、水系塗料が用いられている。これらの樹脂成分として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が用いられている。
【0003】
従来技術の例としては、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体とエポキシ化合物とを反応させて得られる水性分散組成物(特許文献1)、加水分解性シリル基とアミンイミド基を有するビニル系共重合体と未硬化エポキシ樹脂及び防錆顔料からなる水系防錆塗料組成物(特許文献2)、ジケトン化合物、ケトエステル化合物、ケチミン化合物、ベンゾトリアゾール化合物のいずれか一種類以上含む改質剤成分、ビスフェノール型エポキシ樹脂及びリン酸化合物を用いた水性樹脂組成物(特許文献3)、ジカルボン酸ジヒドラジド化合物を含有してなる水分散型ウレタン組成物(特許文献4)等が挙げられる。これらのうち、塗膜の強度、伸び等の物性のバランスが良く、密着性が良好であるという理由で、ポリウレタン樹脂を含有するものが特に有用である。
【0004】
しかしながら、上記ポリウレタン樹脂を含有する水分散性樹脂組成物を使用しても、耐食性、耐薬品性及び密着性などの各種性能を十分満足するまでには至っていないのが実情である。
【特許文献1】特開2002−241670号公報
【特許文献2】特許第2515207号明細書
【特許文献3】特開2003−2950号公報
【特許文献4】特開2003−226728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するために為されたものであり、本発明の目的は、耐食性、耐薬品性及び密着性に優れた金属材料表面処理用水系塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、水分散性樹脂と疎水性成分とを含有する金属材料表面処理用水系塗料組成物であって、前記疎水性成分を、前記水分散性樹脂に添加した後、前記水分散性樹脂と共に水に分散したことを特徴とする。
【0007】
この構成により、水分散性樹脂と疎水性成分とが水に均一に分散した金属材料表面処理剤用水系塗料組成物が得られ、耐食性、耐薬品性及び密着性が向上することとなる。
【0008】
ここで、前記水分散性樹脂は、水系ポリウレタン樹脂であることが好ましく、この水系ポリウレタン樹脂の原料である2個以上の活性水素原子を有する化合物が、ビスフェノールAのオキシアルキレン付加物、オレフィン系ポリオール、植物油系ポリオールから選択される少なくとも一種の活性水素含有化合物を含んでいることがより好ましい。
【0009】
また、前記疎水性成分は、鉱物油系化合物、スルホネート系化合物、天然ワックス及び合成ワックスから選択される少なくとも一種の疎水性化合物を含んでいることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属材料表面処理用水系塗料組成物は、水分散性樹脂と疎水性成分とが水に均一に分散しているので、耐食性、耐薬品性及び密着性において非常に優れた性能を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の金属材料表面処理剤用水系塗料組成物は、上述のとおり、水分散性樹脂と疎水性成分を含有し、疎水性成分を水分散性樹脂に添加した後、水分散性樹脂と共に水に分散させたものである。
【0012】
本発明における水分散性樹脂としては、酢酸ビニル系樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、アルキッド系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は単独もしくは2種類以上混合使用しても良い。これらの水分散性樹脂の中で、特に強靭且つ柔軟な皮膜を形成するポリウレタン系樹脂が好ましい。
【0013】
本発明における疎水性成分に含有される疎水性化合物としては、鉱物油系化合物、スルホネート系化合物、天然或は合成ワックス、シリコン系化合物、フッ素系化合物などが挙げられる。これらの疎水性化合物は単独もしくは2種類以上混合使用しても良い。例えば鉱物油系化合物としては鉱物油、スルホネート系化合物としては石油スルホネート、合成スルホネート、天然ワックスとしては植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油系ワックス、合成ワックとしては合成炭化水素系ワックス、変性ワックス、油脂系ワックスなどを挙げることができる。これらのうち、特に鉱物油系化合物及びスルホネート系化合物が好ましい。
【0014】
前記水分散性樹脂と前記疎水性成分との配合比率は、固形分重量比で100/0.5〜100/50であることが好ましく、100/1〜100/20がより好ましい。固形分重量比が100/0.5未満の場合は疎水性成分を配合した効果が十分に発揮されない。また、固形分重量比が100/50を超える場合は、耐薬性及び密着性が不十分となる。
【0015】
本発明の金属材料表面処理用水系塗料組成物は、2個以上の活性水素原子含有化合物と有機ポリイソシアネートとの反応により得られるNCO基含有ウレタンプレポリマーに疎水性成分を添加し、水中に乳化後、多価アミン化合物あるいは水との反応により高分子量化することにより得られる。或いは、2個以上の活性水素原子含有化合物と有機ポリイソシアネートとの反応により得られるOH基末端ウレタンポリマーに疎水性成分を添加し、水中に乳化することにより得られる。
【0016】
NCO基含有ウレタンプレポリマーの調製及び乳化方法
上記NCO基含有ウレタンプレポリマーは、以下のようにして調製し、乳化することができる。
【0017】
1)NCO基との反応性を有する活性水素原子及び塩形成基を有する化合物と、2個以上の活性水素原子含有化合物と、有機ポリイソシアネートとから合成されるNCO基含有ウレタンプレポリマーに、塩形成剤と疎水性成分とを添加し、水中に乳化した後、多価アミン化合物や水で鎖伸長することにより、アニオン性又はカチオン性水系ポリウレタン樹脂が得られる。
【0018】
2)エチレンオキサイド単独若しくはエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを付加したモノアルコール又は多価アルコールと、2個以上の活性水素原子含有化合物と、有機ポリイソシアネートとから合成されるNCO基含有ウレタンプレポリマーに、疎水性成分を添加し、水中に乳化した後、多価アミン化合物や水で鎖伸長することにより、ノニオン性水系ポリウレタン樹脂が得られる。
【0019】
3)2個以上の活性水素原子含有化合物と、有機ポリイソシアネートから合成されるNCO基含有ウレタンプレポリマーに、アニオン、カチオン、ノニオン性等の界面活性剤と疎水性成分とを添加し、水中に乳化した後、多価アミン化合物や水で鎖伸長することにより水系ポリウレタン樹脂が得られる。
【0020】
4)NCO基との反応性を有する活性水素原子及び塩形成基を有する化合物と、2個以上の活性水素原子含有化合物と、有機ポリイソシアネートとから合成されるNCO基含有ウレタンプレポリマーに、塩形成剤と、アニオン、カチオン、ノニオン性等の界面活性剤と、疎水性成分とを添加し、水中に乳化した後、多価アミン化合物や水で鎖伸長することにより、アニオン性又はカチオン性水系ポリウレタン樹脂が得られる。
【0021】
OH基末端ウレタンポリマーの調製及び乳化方法
前述のOH基末端ウレタンポリマーは、以下のようにして調製し、乳化することができる。
【0022】
1)NCO基との反応性を有する活性水素原子及び塩形成基を有する化合物と、2個以上の活性水素原子含有化合物と、有機ポリイソシアネ-トとから合成されるOH基末端ウレタンポリマーに、塩形成剤と疎水性成分とを添加し、水中に乳化することにより、アニオン性又はカチオン性水系ポリウレタン樹脂が得られる。
【0023】
2)エチレンオキサイド単独若しくはエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを付加したモノアルコール又は多価アルコールと、2個以上の活性水素原子含有化合物と、有機ポリイソシアネ-トとから合成されるOH基末端ウレタンポリマーに、疎水性成分を添加し、水中に乳化することにより、ノニオン性水系ポリウレタン樹脂が得られる。
【0024】
3)2個以上の活性水素原子含有化合物と、有機ポリイソシアネ-トとから合成されるOH基末端ウレタンポリマーに、アニオン、カチオン、ノニオン性等の界面活性剤と疎水性成分とを添加し、水中に乳化することにより、水系ポリウレタン樹脂が得られる。
【0025】
4)NCO基との反応性を有する活性水素原子及び塩形成基を有する化合物と、2個以上の活性水素原子含有化合物と、有機ポリイソシアネートとから合成されるOH基末端ウレタンポリマーに、塩形成剤と、アニオン、カチオン、ノニオン性等の界面活性剤と、疎水性成分とを添加し、水中に乳化することにより、アニオン性又はカチオン性水系ポリウレタン樹脂が得られる。
【0026】
本発明に於ける2個以上の活性水素原子を有する化合物は、ウレタン工業の分野において周知のものを使用することができるが、具体的には、分子末端又は分子内に2個以上のヒドロキシル基、アミノ基又はメルカプト基を有するもので、一般に公知のポリエーテル、ポリエステル、ポリエーテルエステル、ポリカーボネート、ポリチオエーテル、ポリアセタール、ポリオレフィン、ポリシロキサン、フッ素系、植物油系等を例示することができる。これらのうちで好ましいものは、分子末端に2個以上のヒドロキシル基を有する化合物である。なお、分子末端に活性水素基を2個以上有する化合物の分子量は、62〜5,000の範囲であることが好ましい。分子量が62より小さい分子量の活性水素基含有化合物はなく、また、分子量5,000を超えるとウレタン結合量が少なくなるため、強靱で柔軟な被膜が形成され難くなるからである。
【0027】
具体的には、2個以上の活性水素原子を有する基を有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ジブロモビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジヒドロキシエチルテレフタレート、ハイドロキノンジヒドロキシエチルエーテル、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール、これらのオキシアルキレン付加物、これらの多価アルコール及びオキシアルキレン付加物と、多価カルボン酸、多価カルボン酸無水物、若しくは多価カルボン酸エステルとから誘導されるエステル化物、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエステルポリオール、ポリチオエーテルポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブタジエンポリオール、ヒマシ油ポリオール、大豆油ポリオール、フッ素ポリオール、シリコンポリオール等のポリオール化合物やその変性体が挙げられる。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられる。これら2個以上の活性水素原子を有する基を有する化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
一実施形態では、2個以上の活性水素原子を有する基を有する化合物は、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、オレフィン系ポリオール、植物油系ポリオールから選択される活性水素含有化合物を少なくとも一種含んでいることが好ましい。ここでポリオレフィンとしては、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、水素添加ポリブタジエンポリオール、水素添加ポリイソプレンポリオール等を例示することができ、植物油系ポリオールとしては、変性大豆油、ひまし油、脱水ひまし油、水素添加ひまし油等の各種水酸基含有植物油誘導体を例示することができる。これらの活性水素含有化合物は、水系ポリウレタン樹脂に対して固形分換算で10〜70重量%の範囲であることが好ましい。この含有量が10重量%未満では、耐アルカリ性、耐食性が十分発現されなくなり、70重量%を超えるとウレタン樹脂の強靱な被膜形成性が劣ってくるので好ましくない。
【0029】
本発明に於ける有機ポリイソシアネート化合物としては、ウレタン工業の分野において周知であり、任意のものを使用し得る。有機ポリイソシアネート化合物として、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)ポリメリックMDI、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加MDI(H12MDI)、リジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ノルボルナフタレンジイソシアネート、ビューレット化ヘキサメチレンジイソシアネート、イソシアヌレート化ヘキサメチレンジイソシアネート等の各種の芳香族、脂肪族、脂環族等のイソシアネート類を単独又は混合して使用することができる。
【0030】
本発明の水系ポリウレタン樹脂でNCO基を有するウレタンプレポリマーを乳化分散する場合は、多価アミン化合物又は水との反応により高分子量化が行われるが、多価アミン化合物としては、例えばエチレンジアミン、トリメチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの脂肪族ポリアミン化合物、メタキシレンジアミン、トリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン化合物、ピペラジン、イソホロンジアミン等の脂環族ポリアミン化合物、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジドのようなポリヒドラジド化合物等を挙げることができる。これらのポリアミン化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、ポリマー化を大きく阻害しない程度に反応停止剤としてジブチルアミンなどの1価のアミンやメチルエチルケトオキシムのような反応停止剤を使用してもよい。
【0031】
本発明の金属材料表面処理用水系塗料組成物は、前記水系ポリウレタン樹脂と疎水性成分とを含有するが、本発明の組成物には、水系樹脂組成物を調合する際、目的にあった性状にするために、増粘剤、硬化触媒、レベリング剤、消泡剤、造膜助剤等の各種添加剤、さらに他種の水分散性樹脂等を、本発明の組成物の性能を低下させない範囲以内で配合することも可能である。
【0032】
本発明に使用されるNCO基との反応性を有する活性水素原子及び塩形成基を有する化合物及びそれに対応する塩形成剤としては、1)塩形成性のカルボン酸又はスルホン酸基を有する化合物及び対応する塩形成剤、2)酸で中和可能な第4級又は第3級基になり得る基を有する化合物及び対応する塩形成剤、を使用することができる。
【0033】
上記1)の塩形成性のカルボン酸又はスルホン酸基を有する化合物としては、例えばグリコール酸、リンゴ酸、グリシン、アミノ安息香酸、アラニン、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等のヒドロキシ酸、アミノカルボン酸、多価ヒドロキシ酸類やアミノエチルスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸等のアミノスルホン酸、ヒドロキシスルホン酸類等が挙げられる。また、それに対応する塩形成剤としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等の1価の金属水酸化物やアンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アミン化合物等が挙げられる。
【0034】
上記2)の酸で中和可能な第4級又は第3級基になり得る基を有する化合物としては、例えば、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン等のN−アルキルジアルカノールアミン、N−メチルジアミノエチルアミン、N−エチルジアミノエチルアミン等のN−アルキルジアミノアルキルアミン等が挙げられる。これらの化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
また、それらに対応する塩形成剤として、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、アジピン酸、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、メチルクロライド、ベンジルクロライド等の有機酸類、ギ酸、塩酸、燐酸、硝酸等の無機酸類、反応性ハロゲン原子を有する化合物が挙げられる。
【0036】
本発明に使用されるモノアルコール又は多価アルコールのエチレンオキサイド単独もしくはエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物におけるモノアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ラウリルアルコール等が、多価アルコールとしては前記多価アルコール等がそれぞれ挙げられる。
【0037】
本発明のポリウレタン水分散体の製造に使用されるアニオン、カチオン、ノニオン、両性等の乳化用界面活性剤として、通常、界面活性剤の分野で使用されているもの全てが単独又は併用が挙げられる。
【0038】
本発明において使用される水系ポリウレタン樹脂の架橋密度は、該水系ポリウレタン樹脂の1000分子量あたり0.01〜0.50であることが好ましい。ここでいう架橋密度とは、下記の数1に示す式によって計算することにより求めることができる。すなわち、分子量MWA1及び官能基数F A1の活性水素原子含有化合物(A)をW A1gと、分子量MWA2及び官能基数FA2 の活性水素原子含有化合物(A)をWA2gと、分子量MWAJ及び官能基数FAJの活性水素原子含有化合物(A)をWAjg(jは1以上の整数)と、分子量MWB1、官能基数FB1の有機ポリイソシアネート(B)をW B1gと、分子量MWB2及び官能基数FB2の有機ポリイソシアネート(B)をWB2gと、分子量MWBk及び官能基数FBkの有機ポリイソシアネート(B)をWBkg(kは1以上の整数)と、分子量MWC1、官能基数FC1の多価アミン化合物(C)をWC1gと、分子量MWCm、官能基数FCmの多価アミン化合物(C)をWCmg(mは1以上の整数)とを反応せしめて得られた水系ポリウレタン樹脂に含まれる樹脂固形分の1000分子量あたりの架橋密度は、下記の数1により計算で求めることができる。
【0039】
【数1】

【0040】
架橋密度が、0.01以下では架橋度が低いため耐水性が悪くなり、耐アルカリ性、耐食性に劣ってしまい、0.50を超えると樹脂が脆くなり、密着性、耐屈曲性に劣ってしまう。
【0041】
本発明に於いて水系ポリウレタン樹脂に含まれる樹脂固形分のガラス転移温度は、20〜130℃の範囲であるこことが好ましい。20℃未満では樹脂の凝集力が低いため、耐水性、耐アルカリ性、耐食性及び耐摩耗性の点で劣ってしまい、120℃を超えると樹脂が脆くなるため耐屈曲性に劣ってしまう。また、20〜130℃の範囲外では加工時の加工性も劣ってしまう。
【0042】
本発明の金属材料表面処理用水系塗料組成物を使用するのに好適な金属材料としては、冷間圧延、熱延鋼鈑、炭素鋼板、珪素鋼板などの鋼板、電気亜鉛メッキ、溶融亜鉛メッキ、55%アルミ亜鉛メッキ、5%アルミ亜鉛メッキ、アルミメッキ、鉄亜鉛メッキ、ニッケルメッキ、銅メッキ、スズメッキ、亜鉛ニッケルメッキ、亜鉛マグネシウムメッキなどの各種メッキ鋼板、ステンレス鋼鈑、銅板、純アルミニウム材、アルミニウム合金材などのアルミニウム又アルミニウム合金を主成分とする金属材料が挙げられる。
【0043】
また、耐食性、密着性を向上させるために、上記金属材料表面にクロメート処理又はリン酸塩処理を行っても良い。
【0044】
本発明の金属材料表面処理用水系塗料組成物には、必要に応じて周知の各種添加剤を添加しても良い。このような添加剤として、例えば、防錆剤、防錆顔料、染料、造膜助剤、無機架橋剤、有機架橋剤、シランカップリング剤、ブロッキング防止剤、粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤、分散安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、無機及び有機充填剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0045】
本発明の金属材料表面処理用水系塗料組成物には、リン酸系化合物、クロム酸系化合物、バナジウム系化合物、モリブデン酸系化合物、ジルコニウム化合物、チタン系化合物、セリウム系化合物、マンガン系化合物、タングステン酸系化合物、硼酸系化合物、硝酸系化合物、フッ化水素酸、コロイダルシリカ等の防錆剤を配合しても良い。
【実施例】
【0046】
本発明を実施例に基づいて以下に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
以下に示す手順で、各実施例及び各比較例のポリウレタン水分散体を調製した。それぞれの分散体の架橋密度を計算すると共に、ガラス転移温度の測定を行い、その結果を表1にまとめて示した。
【0048】
(実施例1)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(Poly THF−1000、BASF製、活性水素原子数2)200重量部と、1,4−シクロヘキサンジメタノール(活性水素原子数2)20重量部と、トリメチロールプロパン(活性水素原子数3)6重量部と、ジメチロールプロピオン酸(活性水素原子数2)15重量部と、イソホロンジイソシアネート133重量部と、メチルエチルケトン243重量部とを加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が1.7重量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、鉱物油系化合物(商品名:ラスミンKP−700、共栄社化学製)26重量部を加え、トリエチルアミン11.3重量部を加えて中和した後、ホモジナイザーを使用しながら水962重量部を徐々に加えて乳化分散させた。これを減圧し、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約30重量%のポリウレタン水分散体を得た。
【0049】
(実施例2)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリエステルポリオール(テスラック2477 日立化成ポリマー製、活性水素原子数2)200重量部と、1,6−ヘキサンジオール(活性水素数2)20重量部と、トリメチロールプロパン(活性水素原子数3)3重量部と、N−メチルジエタノールアミン(活性水素原子数2)25重量部と、イソホロンジイソシアネート130重量部と、メチルエチルケトン190重量部とを加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が1.2重量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、硫酸ジメチル26.5重量部を加えて四級化した。次に、鉱物油系化合物(商品名:ラスミンKP−700、共栄社化学製)19.0重量部を添加し、ホモジナイザーを使用しながら水1134重量部を徐々に加えて乳化分散させた。これを減圧し、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約25%のポリウレタン水分散体を得た。
【0050】
(実施例3)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリエステルポリオール(テスラック2477、日立化成ポリマー製、活性水素原子数2)200重量部と、トリメチロールプロパン(活性水素原子数3)4重量部と、ジメチロールプロピオン酸(活性水素原子数2)12重量部と、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート80重量部と、メチルエチルケトン207重量部とを加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が1.5重量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、石油スルホネート系化合物(商品名:スルホールBa−30N、松村石油製)15重量部を添加し、トリエチルアミン9.1重量部を加えて中和した後、ホモジナイザーを使用しながら水761重量部を徐々に加えて乳化分散させた。これを減圧し、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約30%のポリウレタン水分散体を得た。
【0051】
(実施例4)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリエステルポリオール(ニッポラン4009日本ポリウレタン工業製、活性水素原子数2)80.8重量部と、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(ポリエーテルBPX−11、旭電化工業製、活性水素原子数2)162重量部と、トリメチロールプロパン(活性水素原子数3)6.8重量部と、ジメチロールプロピオン酸(活性水素原子数2)16.2重量部と、ヘキサメチレンジイソシアネート135.8重量部と、メチルエチルケトン321重量部とを加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基の含有量が1.5重量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、鉱物油系化合物(商品名:ラスミンKP−700、共栄社化学製)20重量部を添加し、トリエチルアミン12重量部を加えて中和した後、ホモジナイザーを使用しながら水1031重量部を徐々に加えて乳化分散させた。これを減圧し、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約30%のポリウレタン水分散体を得た。
【0052】
(実施例5)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物(ニューポールBPE−40、三洋化成工業製、活性水素原子数2)200重量部と、トリメチロールプロパン(活性水素原子数3)5重量部と、ジメチロールプロピオン酸(活性水素原子数2)15重量部と、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート195重量部と、メチルエチルケトン291重量部とを加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が1.7重量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、鉱物油系化合物と石油スルホネート系化合物との併用物(商品名:ラスミンA、共栄社化学製)42重量部を添加し、トリエチルアミン11.3重量部を加えて中和した後、ホモジナイザーを使用しながら水1067重量部を徐々に加えて乳化分散させた。これを減圧し、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約30%のポリウレタン水分散体を得た。
【0053】
(実施例6)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ひまし油系ポリオール(HS2G−160R、豊国製油製、活性水素原子数2)110重量部と、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(ポリエーテルBPX−11、旭電化工業製、活性水素原子数2)27.5重量部と、トリメチロールプロパン(活性水素原子数3)8.8重量部と、ジメチロールプロピオン酸(活性水素原子数2)11重量部と、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート142.5重量部と、メチルエチルケトン240重量部とを加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が3.9重量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、鉱物油系化合物と石油スルホネート系化合物との併用物(商品名:ラスミンA、共栄社化学製)15重量部を添加した後、トリエチルアミン8.3重量部を加えて中和した後、ホモジナイザーを使用しながら水771重量部を徐々に加えて乳化分散させ、その後エチレンジアミン7.5重量部を添加して鎖伸長させた。これを減圧し、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約30%のポリウレタン水分散体を得た。
【0054】
(比較例1)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(Poly THF−1000、BASF製、活性水素原子数2)200重量部と、1,4−シクロヘキサンジメタノール(活性水素原子数2)20重量部と、トリメチロールプロパン(活性水素原子数3)6重量部と、ジメチロールプロピオン酸(活性水素原子数2)15重量部と、イソホロンジイソシアネート133重量部と、メチルエチルケトン243重量部とを加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が1.7重量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、トリエチルアミン11.3重量部を加えて中和した後、水962重量部を徐々に加えてホモジナイザーを使用し乳化分散させた。これを減圧し、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約30%のポリウレタン水分散体を得た。
【0055】
(比較例2)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(Poly THF−1000、BASF製、活性水素原子数2)200重量部と、1,4−シクロヘキサンジメタノール(活性水素原子数2)20重量部と、トリメチロールプロパン(活性水素原子数3)6重量部と、ジメチロールプロピオン酸(活性水素原子数2)15重量部と、イソホロンジイソシアネート133重量部と、メチルエチルケトン243重量部とを加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が1.7重量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、トリエチルアミン11.3重量部を加えて中和した後、水962重量部を徐々に加えてホモジナイザーを使用し乳化分散させた。これを減圧し、50℃でこの溶液の脱溶剤を行い、その後、鉱物油系化合物(商品名:ラスミンKP−700、共栄社化学製)19重量部を添加して、不揮発分約30%のポリウレタン水分散体を得た。
【0056】
(比較例3)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(Poly THF−1000、BASF製、活性水素原子数2)200重量部と、1,4−シクロヘキサンジメタノール(活性水素原子数2)20重量部と、トリメチロールプロパン(活性水素原子数3)6重量部と、ジメチロールプロピオン酸(活性水素原子数2)15重量部と、イソホロンジイソシアネート133重量部と、メチルエチルケトン243重量部とを加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量が1.7重量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、トリエチルアミン11.3重量部を加えて中和した後、水962重量部を徐々に加えてホモジナイザーを使用し乳化分散させた。これを減圧し、50℃でこの溶液の脱溶剤を行い、その後、エマルジョン型鉱物油系化合物(商品名:ラスミンE−208、共栄社化学製)25重量部を添加して、不揮発分約30%のポリウレタン水分散体を得た。
【0057】
(金属材料表面処理用水系塗料の評価)
各実施例及び各比較例の金属材料表面処理用水系塗料の配合を表1に示した。また、それぞれの分散体の架橋密度を計算すると共に、ガラス転移温度の測定を行い、その結果を表1に併せて示した。ガラス転移温度の測定は、動的粘弾性測定装置(Rheogel−E4000、UBM製)を用い、周波数10Hz、昇温速度2℃/分で、損失弾性率(E”)が頂点を示した温度を読み取った。
【0058】
【表1】

【0059】
また、Feとして冷間圧延鋼鈑(日本テストパネル社製;SPCC−D)、Znとして電気亜鉛メッキ鋼板(太祐機材社製;ユニジンク)及びアルミニウム(日本テストパネル社製;A−1100P)を塗布対象として使用して、耐アルカリ性、耐食性及び密着性について試験を行った。その結果を表2に示した。
【0060】
<試験方法及び評価基準>
(1)耐アルカリ性:上記塗布対象に各実施例及び各比較例の金属材料表面処理用水系塗料をバーコーターで1g/m2塗布し、PMT(素材最高到達温度)80℃で乾燥して試験片を得た。この試験片を1%NaOH水溶液に5時間常温で浸漬後の外観変色を観察した。評価基準は以下のとおりである。
【0061】
◎…殆ど変色なし
○…若干変色あり
△…多少変色あり
×…変色多い。
【0062】
(2)耐食性:上記塗布対象に各サンプルをバーコーターで1g/m2塗布し、PMT80℃で乾燥して試験片を得た。この試験片を、塩水噴霧試験を用いて、冷間圧延鋼板の場合は24時間、電気亜鉛メッキ鋼板の場合は240時間、アルミニウムの場合は1000時間評価した。評価基準は以下のとおりである。
【0063】
◎…錆発生率5%以下
○…錆発生率5〜10%以下
△…錆発生率10〜50%以下
×…錆発生率50%以上。
【0064】
(3)密着性:上記塗布対象に各サンプルをバーコーターで1g/m2塗布し、PMT80℃で乾燥して試験片を得た。この試験片を1mm碁盤目セロテープ(R)剥離試験を行った。評価基準は以下のとおりである。
【0065】
◎…100/100
○…90〜99/100
△…50〜90/100
×…0〜50/100。
【0066】
【表2】

【0067】
<評価結果>
各実施例の金属材料表面処理用水系塗料組成物は、Fe、Zn及びAlの何れに対しても耐アルカリ性、耐食性及び密着性に優れ、特に、実施例5及び6の塗料組成物は、活性水素原子を有する化合物としてそれぞれビスフェノールAのオキシエチレン誘導体及びひまし油系ポリオールを使用しているため、耐アルカリ性及び耐食性の評価結果が非常に良好となっている。これに対して、疎水性成分を配合していない比較例1、ウレタンプレポリマーを水に分散した後に疎水性成分を添加した比較例2、及びエマルジョンタイプの疎水性成分を後から添加した比較例3の組成物は、何れの評価項目においても、満足し得る評価結果を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明水系塗料組成物は、各種金属材料に対して耐薬品性、耐食性及び密着性を発現するので、特に自動車、土木材料、建築材料、鋼製家具、電気製品等に使用される金属板、部品等の耐食性を必要とする金属材料に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散性樹脂と疎水性成分とを含有する金属材料表面処理用水系塗料組成物であって、前記疎水性成分を、前記水分散性樹脂に添加した後、前記水分散性樹脂と共に水に分散したことを特徴とする金属材料表面処理用水系塗料組成物。
【請求項2】
前記水分散性樹脂は、水系ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の金属材料表面処理用水系塗料組成物。
【請求項3】
前記水系ポリウレタン樹脂の原料である2個以上の活性水素原子を有する化合物が、ビスフェノールAのオキシアルキレン付加物、オレフィン系ポリオール、植物油系ポリオールから選択される少なくとも一種の活性水素含有化合物を含んでいることを特徴とする請求項2に記載の金属材料表面処理用水系塗料組成物。
【請求項4】
前記疎水性成分は、鉱物油系化合物、スルホネート系化合物、天然ワックス及び合成ワックスから選択される少なくとも一種の疎水性化合物を含んでいることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の金属材料表面処理用水系塗料組成物。

【公開番号】特開2007−277377(P2007−277377A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104600(P2006−104600)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】