説明

金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルム

【課題】優れた成形加工性、密着性を有し、レトルト後の外観およびゴールド発色性に優れた金属缶を製造し得る金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(I)およびエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(II)を主たる成分とするポリエステル組成物から成り、下記式で算出される黄色度(YI値)が30≦YI<60であって、ヘイズが15%以下であることを特徴とする、金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルム。YI値=100×(1.28×X−1.06×Z)/Y。ただし、X、Y、ZはXYZ表色系における三刺激値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属缶には内外面の腐蝕防止として一般に塗装が施されているが、最近、工程簡素化、衛生性向上、公害防止の目的で、有機溶剤を使用せずに防錆性を得る方法の開発が進められ、その一つとして熱可塑性樹脂フィルムによる被覆が試みられている。すなわち、ブリキ、ティンフリースチール、アルミニウム等の金属板に熱可塑性樹脂フィルムをラミネートした後、絞り加工等により製缶する方法の検討が進められている。
【0003】
一方、缶の外観上に高級感を与えるためにゴールド色に発色する塗料が現在でも広く使用されており、これを着色フィルムのラミネートで代替する提案がなされているが、多くの課題がある。例えば特開2001−301025号公報においては、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とした着色ポリエステルフィルムが開示されているが、フィルムの融点が高いことから金属板上への良好な密着性を得られるラミネートが難しく、また成形性が低い浅搾り缶程度しか用いることが出来ず、最も広く普及している飲料缶のような成形加工度の高い用途には適応が出来ないという問題があった。また、特開2003−26823号公報においては、PETを共重合化し、低融点化、低結晶化することにより、熱ラミネート性と成形性の良好な着色ポリエステルフィルムが開示されているが、ラミネート時に溶融して非晶化したフィルムがレトルト殺菌処理時に結晶化して白色化し美観を損なうという問題があった。これに対して、本発明者らは、ポリエチレンテレフタレートまたはこれを主体とするポリエステルと、ポリブチレンテレフタレートまたはこれを主体とするポリエステルよりなる着色フィルムを考案している(特開2004−148627号公報、特開2005−314542号公報)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−301025号公報
【特許文献2】特開2003−26823号公報
【特許文献3】特開2004−148627号公報
【特許文献4】特開2005−314542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これら技術においては、樹脂中に染料および/または顔料を添加する着色方法や、染料および/または顔料を分散させたコーティング層を配置する着色方法が開示されているが、いずれも着色が濃い場合には本来のフィルムの透明性が損なわれ、金属板に貼合せた後に金属光沢感に乏しく、容器の意匠性に劣るという問題があった。
したがって、従来の技術では、高度な成形加工性、密着性を有し、かつ金属板ラミネート後のゴールド発色性、耐レトルト白化性の全てを満足するものはなかった。
【0006】
本発明の目的は、優れた成形加工性、密着性を有し、レトルト後の外観およびゴールド発色性に優れた金属缶、例えば飲料缶、食品缶等を製造し得る金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、ブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(I)およびエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(II)を主たる成分とするポリエステル組成物から成り、下記式で算出される黄色度(YI値)が30≦YI<60であって、ヘイズが15%以下であることを特徴とする、金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルムである。
YI値=100×(1.28×X−1.06×Z)/Y
ただし、X、Y、ZはXYZ表色系における三刺激値である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた成形加工性、密着性を有し、レトルト後の外観およびゴールド発色性に優れた金属缶、例えば飲料缶、食品缶等を製造し得る金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
[ポリエステル組成物]
本発明におけるポリエステル組成物は、ブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(I)およびエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(II)を主たる成分としてなり、好ましくはポリエステル(I)30〜70重量%とポリエステル(II)30〜70重量%、さらに好ましくはポリエステル(I)40〜60重量%とポリエステル(II)40〜60重量%からなる。ポリエステル(I)が30重量%未満でポリエステル(II)が70重量%を越えるとフィルムの最短半結晶化時間が長くなりすぎ、レトルト処理後の外観が斑点状に乳白色に変色し易くなる。他方、ポリエステル(I)が70重量%を超えポリエステル(II)が30重量%未満であるとフィルムの最短半結晶化時間が短くなり結晶性が上がり過ぎるため製膜性が悪化する。
このポリエステル組成物を構成するポリエステル(I)およびポリエステル(II)は製膜前までに溶融混練されていることが望ましい。
【0010】
[ポリブチレンテレフタレート]
本発明におけるブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(I)は、テレフタル酸をジカルボン酸成分、1,4−ブタンジオールをジオール成分としてなるポリエステルである。このポリエステルは、好ましくは固層重縮合反応されたものを用いる。
【0011】
ポリブチレンテレフタレートには、本発明の効果が損なわれない範囲、例えば全ジカルボン酸成分100モル%に対して例えば20モル%以下の割合で他の成分を共重合してもよい。すなわち「主体」とは例えば80モル%以上の構成成分を意味する。共重合成分はジカルボン酸成分でもジオール成分でもよい。共重合ジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の如き芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸を例示することができる。これらの中、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジガルボン酸またはアジピン酸が好ましい。また共重合ジオール成分としては、エチレングリコール、ヘキサンジオール等の如き脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを例示することができる。これらは単独で用いてもよく、また二種以上を用いてもよい。
【0012】
共重合成分の割合は、結果としてポリマー融点が180〜223℃、好ましくは200〜223℃、さらに好ましくは210〜223℃の範囲になる割合である。ポリマー融点が180℃未満ではポリエステルとしての結晶性が低く、結果としてフィルムの耐熱性が低下する。尚、ポリブチレンテレフタレートホモポリマーの融点は223℃であることから、223℃が融点の上限となる。
【0013】
ポリエステル(I)の固有粘度は、好ましくは0.60〜2.00、さらに好ましくは0.80〜1.70、特に好ましくは0.85〜1.50である。固有粘度が0.6未満であると実用に供することのできる機械的強度を有したフィルムが得られず好ましくない。また、原料ポリエステルおよびフィルムの生産性の面で、固有粘度の上限は2.0以下であることが好ましい。
【0014】
[ポリエチレンテレフタレート]
本発明におけるポリエチレンテレフタレート又はこれを主体とするポリエステル(II)は、テレフタル酸をジカルボン酸成分、エチレングリコールをジオール成分として成るポリエステルである。これらのポリエステルには、本発明の効果が損なわれない範囲、例えば全ジカルボン酸成分100モル%に対して例えば20モル%以下の割合で他の成分を共重合してもよい。すなわち「主体」とは例えば80モル%以上の構成成分を意味する。共重合成分はジカルボン酸成分でもジオール成分でもよい。共重合成分はジカルボン酸成分でもジオール成分でもよい。共重合ジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の如き芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸等を例示することができる。また共重合ジオール成分としては、ブタンジオール、ヘキサンジオール等の如き脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを例示することができる。これらは単独で用いてもよく、また二種以上を用いてもよい。
【0015】
共重合成分の割合は、結果としてポリマー融点が210〜256℃、好ましくは215〜256℃、さらに好ましくは220〜256℃の範囲になる割合である。ポリマー融点が210℃未満ではポリエステルとしての結晶性が低く、結果として耐熱性が低下する。ポリマー融点が256℃を越えるとポリマーの結晶性が大きすぎて成形加工性が損なわれる。
【0016】
ポリエステル(II)の固有粘度は、好ましくは0.50〜0.80、さらに好ましくは0.54〜0.70、特に好ましくは0.57〜0.65である。固有粘度が0.50未満では実用に供することのできる機械的強度を有したフィルムが得られず好ましくなく、0.80を超えると成形加工性が損なわれて好ましくない。
【0017】
なお、ポリエステルの融点は、示唆走査熱量計TA Instruments mDSCを用い、昇温速度20℃/分で融解ピークを求める方法により得られる融点である。サンプル量は約10mgとする。また、ポリエステルの固有粘度は、ο−クロロフェノールに溶解後、35℃での測定から求めた値である。
【0018】
[微粒子]
本発明の金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルムは、フィルム製造工程における取扱い性、特に巻取り性を改良するため、好ましくは微粒子を含有する。微粒子を配合する場合、ポリエステルの合計100重量部に対して、好ましくは0.01〜1重量部、さらに好ましくは0.01〜0.5重量部含有させる。
【0019】
微粒子は無機系微粒子、有機系微粒子のいずれを用いてもよいが、好ましくは無機系微粒子を用いる。無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウムを例示することができる。有機系微粒子としては架橋ポリスチレン粒子、架橋シリコーン樹脂粒子を例示することができる。
【0020】
微粒子の平均粒径は、好ましくは2.5μm以下、好ましくは0.01〜1.8μmの微粒子である。平均粒径が2.5μmを超えると成形加工により変形した部分の粗大粒子(例えば10μm以上の粒子)が起点となり、ピンホールを生じたり、場合によっては破断することもあり好ましくない。特に、耐ピンホール性の点で好ましい微粒子は、平均粒径が2.5μm以下であると共に、粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である単分散微粒子である。この微粒子としては、真球状シリカ、真球状二酸化チタン、真球状ジルコニウム、真球状架橋シリコーン樹脂粒子を例示することができる。
【0021】
[カラー]
本発明の金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルムは、金属板にラミネートした後に金属光沢感を損なうことなくゴールド色を呈し、食品容器に高級感を付与するために、下記式で算出される黄色度(YI値)が30≦YI<60、好ましくは40≦YI<60である。
YI値=100×(1.28×X−1.06×Z)/Y
ただし、X、Y、ZはXYZ表色系における三刺激値である。
【0022】
YI値が30未満であるとフィルムの黄色味が弱いため、金属板にラミネートした際にゴールド発色性に乏しくなり、つまりは金属容器の高級感が劣る。他方、YI値が60を越えるとフィルムの色味が強いため、金属板にラミネートした際に金属板の光沢感が隠蔽され、金属容器の高級感が乏しくなる。なお、カラー測定はJIS Z−8722に基づき、分光式自動色差計を用いて白色反射法により測定される値である。
【0023】
黄色度(YI値)を上記の範囲にするためには、フィルムを構成するポリエステル組成物の層に着色剤を含有させればよい。フィルムがポリエステル組成物の複数の層から構成される場合には少なくとも一つの層に含有させればよい。黄色度(YI値)を上記の範囲にするためには、フィルムの少なくとも片面に着色剤を含有させた着色コーティング層を設けてもよい。このコーティング層は通常は塗布により設ける。
【0024】
[着色樹脂層]
黄色度を本発明の範囲とするために、ポリエステル組成物の層に着色剤を配合する場合、着色剤はフィルム全体のポリエステル組成物100重量%あたり、好ましくは0.1〜5.0重量%、さらに好ましくは0.3〜1.0重量%である。着色剤が0.1重量%未満であると金属板にラミネートした際に充分なゴールド発色性が得らず好ましくない。他方、5.0重量%を超えると着色剤の分散状態が悪化し製膜性が低下して好ましくない。
【0025】
着色剤としては、染料および/または顔料を用いる。着色剤としては、好ましくはアンスラキノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系から選ばれる少なくとも1種類の有機顔料を用いる。また、色調を調整する為に着色剤として他の成分を併用してもよいが、その場合、耐熱性の良好なものを用いるべきであり、用途上、食品衛生面での安全性が認められているものを用いるべきである。
【0026】
着色剤は、原料樹脂の重合工程において添加してもよい。また、二軸押出機を用いて高濃度のマスターチップを製造しておき、着色剤未含有のチップを混合することにより所望の濃度の着色剤を含有する樹脂組成物を得てもよい。またスクリューフィーダーを用いて、製膜工程の押出機に着色剤を粉体のままで直接含有させてもよい。
【0027】
[着色コーティング層]
ポリエステルフィルムに着色コーティング層を設ける方法をとる場合、コーティング層は塗布により設ける。この塗布方法としては、フィルムの製膜工程中、長手方向の延伸後に、溶媒に溶解もしくは分散させた着色剤および樹脂成分を塗布するインラインコーティング法を採用してもよく、製膜工程後にこれらを塗布するオフラインコーティング法を採用してもよい。
【0028】
塗布には、エアードクターコート法、フレキシブルブレードコート法、ロッドコート法、フローティングナイフコート法、ナイフオーバーブランケットコート法、ナイフオーバーロールコート法、スクイズコート法、含浸コート法、リバースロールコート法、トランスファーロールコート法、グラビアコート法、キスロールコート法、ビードコート法、キャストコート法、スプレイコート法、カーテンコート法、ファウンテンコート法、カレンダーコート法に例示される公知の方法を採用することができる。
【0029】
コーティング層に分散させる樹脂成分としては、エポキシ樹脂、エポキシ−エステル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂を例示することができる。中でも、エポキシ樹脂が好ましい。最も好ましい樹脂成分は、エポキシ樹脂に、高エーテル化アミノ樹脂、ブロックイソシアネート化合物および燐酸変性化合物を配合したものであり、フィルムとコーティング層との接着性や、コーティング層の耐熱性,耐水性,硬化性が向上される。このコーティング層は、短時間での硬化が可能であり、フィルムと金属板とのラミネート工程を簡素化することができる。
【0030】
着色剤は、通常はコーティング層に分散させて含有させる。好ましくは染料および/または顔料を用いる。例えば、縮合アゾ系やアンスラキノン系顔料を上述の樹脂とともに溶媒に溶解もしくは分散して使用する。さらに、二種以上の着色剤を配合することにより、容易にフィルムの色調調整が可能になる。
【0031】
コーティング層は、乾燥後の厚さとして、好ましくは0.3〜3μm、さらに好ましくは0.5〜2μmの厚みを有する。コーティング層はフィルムの片面あるいは両面のどちらに配置しても構わないが、食品衛生の観点から、片面に配置し、コーティング層側を金属板にラミネートするのが好ましい。コーティング層の厚さが0.3μm未満であると金属板にラミネートした際の接着力が低く好ましくなく、塗布厚さが3μmを超えると溶媒の乾燥が不充分となり好ましくない。
【0032】
[ヘイズ]
本発明の金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルムは、金属板とラミネートした際に板の金属色を透過することによりゴールド色を発現する。この観点から、フィルムのヘイズは15%以下、好ましくは10%以下である。フィルムのヘイズが15%を超えると金属板とラミネートした際に金属色を隠蔽し食品缶詰の高級感が乏しくなる。なお、フィルムへイズは日本電色工業製へイズメーターNDH2000型により測定される。
【0033】
[着色剤]
着色樹脂層においても着色コーティング層においても、着色剤としては染料系よりも顔料系のものを用いることが好ましい。これは、高温下やレトルト下で好適に使用するためには、樹脂層およびコーティング層に含有される着色剤の耐熱性が高いことが必要であり、一般に顔料系の方がより耐熱性が高いためである。着色剤は、好ましくは300℃での熱重量変化率が5%以下であるものを用いる。
【0034】
また、フィルムヘイズを上記の範囲とするためには、分散性の良好な着色剤を用いるべきである。着色剤の分散が不充分であると、いずれの着色方法においても、着色フィルムの透明性が低下し、結果として金属板にラミネートした際にゴールド発色性に乏しくなり、容器の高級感が得られない。
【0035】
[最短半結晶化時間]
本発明において、フィルムを構成するポリエステル組成物の最短半結晶化時間は、好ましくは1〜100秒、さらに好ましくは1〜80秒、特に好ましくは1〜50秒である。最短半結晶化時間が1秒未満であると結晶性が上がり過ぎるため製膜性が悪化し好ましくない。他方、最短結晶化時間が100秒を超えるとレトルト処理後の外観が斑点状に乳白色に変色するため好ましくない。
【0036】
なお、ここでいう最短半結晶化時間とは、樹脂の結晶化が生じる温度範囲で半結晶化時間を測定し、該温度範囲の中で最も短かった半結晶化時間であり、ポリマー結晶化速度測定装置(コタキ製作所(株)製、MK−801型)を用いて、直交した偏光板の間に置いた試料の結晶化に伴って増加する光学異方性結晶成分による透過光を各試料温度で測定(脱偏光強度法)し、下記のアブラミ式を用いて結晶化度が1/2となる時間を算出した各試料温度での値の中で最も短い時間である。
【0037】
測定にあたり試料(試料重量:8mg)は該装置に組み込まれた融解炉で樹脂の最高融点+50℃の温度で窒素中1分間加熱後、直ちに試料を移動させて、結晶化浴中に浸漬し、10秒以内に試料温度を平衡な測定温度になるようにして測定を開始する。
【0038】
また、ここでの最高融点とは示差走査熱量計(TA Instruments mDSC型)により20℃/分の昇温速度で昇温した時、1つあるいは2つ以上の吸熱ピークが認められるが、それらの吸熱ピークの最大深さを示す温度の中で最高の温度をいう。
【0039】
脱偏光強度法は、新実験化学講座(丸善)および高分子化学 Vol.29.No.139、323および336(高分子学会)にも記載されているように、早い結晶化速度を測定する時に有効な方法である。
【0040】
なお、試料が熱平衡に達するまでの時間を考慮し、結晶化浴中に試料を移動して10秒経過した時点をt=0秒として測定した。t=0秒で測定した脱偏光透過強度がIo、Log tに対して脱偏光透過強度をプロットして結晶化温度曲線が直線になりはじめた点の脱偏光透過強度をIgとする。
【数1】

【0041】
本発明において最短半結晶化時間を上記範囲とするためには、例えば、ポリエステル(I)およびポリエステル(II)のCOOH末端基量を以下のようにコントロールするとよい。すなわち、フィルムの最短半結晶化時間は、COOH末端基量に大きく関係する。COOH末端基量を以下のように適切にコントロールされていないポリエステルでは、ポリマー溶融時の滞留時間を長くしたり、滞留温度を高くすると、ポリマーが熱分解により劣化するという弊害が発生する。
【0042】
ポリエステル(I)のCOOH末端量は好ましくは10〜70当量/トン、ポリエステル(II)のCOOH末端量は好ましくは10〜50当量/トンである。この範囲であると最短半結晶化時間を本発明の範囲に制御することができて好ましい。ポリエステル(I)のCOOH末端量が10当量/トン未満であると、かかる最短半結晶化時間が長くなり過ぎて、ポリマーの劣化によるフィルムの製膜性が低下し易くなり、またレトルト殺菌処理後の外観が斑点状に乳白色に変色するため好ましくない。他方、COOH末端量が70当量/トンを超えるものは最短半結晶化時間が短くなり過ぎて、製膜工程中、特に延伸工程中で結晶化を起こしてしまい、局所的な厚み斑や幅変動の原因となり製膜性が低下し易く好ましくない。
【0043】
ポリエステル(II)のCOOH末端量が10当量/トン未満であると、かかる最短半結晶化時間が長くなり過ぎて、ポリマーの劣化によるフィルムの製膜性が低下し易くなり、またレトルト殺菌処理後の外観が斑点状に乳白色に変色するため好ましくない。他方、COOH末端量が50当量/トンを超えるものは最短半結晶化時間が短くなり過ぎて、製膜工程中、特に延伸工程中で結晶化を起こしてしまい、局所的な厚み斑や幅変動の原因となり製膜性が低下し易く好ましくない。
【0044】
なお、COOH末端量は、セイワ技研製COOH自動測定装置を用い、サンプル100mgにベンジルアルコール20mgを加え、窒素雰囲気下にて200℃で4分間加熱した後、常温に冷却し、フェノールレッドを指示薬として0.02N水酸化ナトリウムベンジルアルコール溶液を滴下して、指示薬変色までの滴定量より下記式を用いて求められる。
COOH末端量(当量/トン)=滴定量(cc)×200
【0045】
[製造方法]
本発明で用いるポリエステル(I)およびポリエステル(II)は、従来公知の方法で製造することができる。例えば、テレフタル酸、エチレングリコールおよび共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法、あるいはジメチルテレフタレート、エチレングリコールおよび共重合成分をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法で製造することができる。必要に応じて、他の添加剤、例えば蛍光増白剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤を配合してもよい。
【0046】
本発明の金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルムは、上記のポリエステルを用いて、従来公知の製膜法に準拠して製造することができる。まず、前述のポリエステル原料を必要に応じて乾燥した後、溶融押出機を使用し、スリット状のダイからシート状に押出し、冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めること必要があり、静電印加密着法又は液体塗布密着法が好ましく採用される。本発明においては必要に応じ両者を併用してもよい。
【0047】
本発明の金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、二軸配向フィルムであることが好ましい。そこで、二軸配向フィルムの製膜方法について説明する。得られた未延伸フィルムを二軸方向に延伸して二軸配向する。すなわち、先ず、ロールまたはテンター方式の延伸機により、前記の未延伸シートを長手方向に延伸する。延伸温度は、50〜100℃、好ましくは60〜90℃であり、延伸倍率は2.8〜5.0倍、好ましくは3.0〜4.5倍である。次いで、テンター方式の延伸機により、幅方向に延伸を行う。延伸温度は60〜110℃、好ましくは70〜100℃であり、延伸倍率は3.0〜5.0倍、好ましくは3.2〜4.5倍である。さらに引続き130〜220℃の範囲の温度で20%以内の弛緩下で熱処理を行ない、二軸延伸フィルムを得る。
【0048】
[ラミネート]
本発明の金属板貼合せ成形加工用着色フィルムをラミネートする金属板、特に製罐用金属板としては、ブリキ、ティンフリースチール、ティンニッケルスチール、アルミニウム等の板が適切である。金属板へのポリエステルフィルムのラミネートは、下記(ア)、(イ)の方法で行うことができる。
(ア)金属板をフィルムの融点以上に加熱しておいて着色フィルムをラミネートした後冷却し、金属板に接するフィルムの表層部(薄層部)を非晶化して密着させる。
(イ)フィルムにあらかじめ接着剤をプライマーコートしておき、この面と金属板をラミネートする。接着剤としては公知の樹脂接着剤、例えばエポキシ系接着剤、エポキシ−エステル系接着剤、アルキッド系接着剤等をもちいることができる。上記の着色コーティング層による着色においては、コーティング層自体が接着機能を有するため、コーティング層が金属板に接するようラミネートするのが好ましい。
【0049】
本発明の金属板貼合せ成形加工用着色フィルムの厚みは、好ましくは6〜55μm、さらに好ましくは8〜45μm、特に好ましくは10〜30μmであることが好ましい。厚みが6μm未満であると成形加工時に破れ等が生じやすくなり好ましくなり好ましくなく。55μmを超えるものは過剰品質であって不経済であり好ましくない。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を掲げて本発明を更に説明する。
なお、フィルムの特性は、以下の方法で測定、評価した。
【0051】
(1)融点
示差走査熱量計TA Instruments製 DSC 2920 Modulated DSCを用い、昇温速度20℃/分で融解ピーク温度を求める方法により測定した。なお、サンプル量は約20mgとした。
【0052】
(2)固有粘度
フィルムをο−クロロフェノールに溶解後、遠心分離機により酸化チタン等のフィラーを取り除き、35℃の温度にて測定した。なお、固有粘度は未延伸フィルムの値である。
【0053】
(3)COOH末端量
セイワ技研製COOH自動測定装置を用い、サンプル100mgにベンジルアルコール20mgを加え、窒素雰囲気下にて、200℃で4分間加熱した後、常温に冷却し、フェノールレッドを指示薬として0.02N水酸化ナトリウムベンジルアルコール溶液を滴下して、指示薬変色までの滴定量より下記式を用いて求めた。
COOH末端量(当量/トン)=滴定量(cc)×200
【0054】
(4)最短半結晶化時間
コタキ製作所製ポリマー結晶化速度測定装置MK−801型を用い、サンプル8mgにて40〜150℃の範囲にて測定した。
【0055】
(5)カラー測定
JIS Z 8722に基づき、日本電色工業製自動色差計(SE−Σ90型)を用い、5cm角のサンプル1枚のYI値を測定し、下記の基準でフィルム発色性について評価した。なお、測定の際はフィルム押えとして装置に付属の白色板を使用し、反射法で測定した。
◎:YI値が40≦YI<60でラミネート後、ゴールド発色性に大変優れていた。
○:YI値が30≦YI<40でラミネート後、ゴールド発色性に優れていた。
×:YI値が上記範囲外でありラミネート後、ゴールド発色性に劣っていた。
【0056】
(6)ヘイズ
日本電色工業製ヘーズメーターNDH2000型を用い、サンプル1枚のヘイズを測定し、下記基準で金属容器の高級感について評価した。
◎:ヘイズが10%以下であり、製罐後、高級感に大変優れていた。
○:ヘイズが10%を越え15%以下であり、製罐後、高級感に優れていた。
×:ヘイズが15%を超えており、製罐後、高級感に劣っていた。
【0057】
(7)深絞り加工性
フィルムサンプルを、230℃に加熱した板厚0.25mmのティンフリースチールの両面に貼り合せ、水冷した後、150mm径の円板状に切り取り、絞りダイスとポンチを用いて4段階で深絞り加工し、55mm径の側面無継目容器(以下、缶と略す)を作成した。これらの缶の加工状況について観察して、下記の基準で評価した。
○:フィルムに異状なく加工され、フィルムに白化や破断が認められなかった。
△:缶上部のフィルムに白化が認められた。
×:フィルムの一部にフィルム破断が認められた。
【0058】
(8)レトルト後外観
上記(7)にて深絞り成型が良好であった缶に水を一杯まで充填した後、レトルト釜に入れ、スチームが直接サンプルに当たらないようにして125℃の加圧水蒸気で90分レトルト処理を施し、缶底のポリエステル樹脂層の表面外観の変化を肉眼で観察し、下記の基準で評価した。
○:変化なし。
△:やや白濁した。
×:著しく斑点状に乳白色に変色した。
【0059】
[実施例1〜3、比較例1および4]
表1に示す着色剤を含むポリエステル組成物を常法により乾燥、270℃で溶融したあと、ダイから押出して急冷固化し、未延伸フィルムを作成した。次いで、この未延伸フィルムを68℃で3.2倍に縦延伸した後、78℃で3.7倍に横延伸し、185℃で熱固定して二軸配向フィルムを得た。得られたフィルムの厚みはいずれも12〜25μmであった。
【0060】
[実施例4]
表1に示す第一層(A)のポリエステル組成物と、第二層(B)の着色剤を含むポリエステル組成物を常法により乾燥し、個々に280℃、270℃で溶融した後、フィードブロックを使用して二層に積層し、ダイから押出して冷却固化し、未延伸フィルムを作成した。次いで、この未延伸フィルムを68℃で3.2倍に縦延伸した後、78℃で3.7倍に横延伸し、185℃で熱固定して二軸配向積層フィルムを得た。得られたフィルムの厚みは12μmであった。
【0061】
[実施例5、比較例5]
表1に示す第一層(A)のポリエステル組成物と、第二層(B)の着色剤を含むポリエステル組成物を常法により乾燥し、270℃で個々に溶融した後、フィードブロックを使用して三層に積層し、ダイから押出して冷却固化し、未延伸フィルムを作成した。次いでこの未延伸フィルムを68℃で3.2倍に縦延伸した後、78℃で3.7倍に横延伸し、185℃で熱固定して二軸配向積層フィルムを得た。得られたフィルムの厚みは12μmであった。
【0062】
[比較例2]
表1に示す着色剤を含むポリエステルの組成物を常法により乾燥、280℃で溶融いたあと、ダイから押出して急冷固化し、未延伸フィルムを作成した。次いで、この未延伸フィルムを105℃で3.2倍に縦延伸した後、120℃で3.2倍に横延伸し、210℃で熱固定して二軸配向フィルムを得た。得られたフィルムの厚みは25μmであった。
【0063】
[比較例3]
実施例3において、ポリエステル(I)、(II)および着色剤の配合比率を表1のとおり変更する以外は同様にして製膜を行ない、12μmの二軸配向フィルムを得た。製膜時横延伸工程において切断が頻発し製膜性は悪かった。
【0064】
[実施例6〜8、比較例6〜9]
実施例1において、ポリエステル(I)、(II)および着色剤の配合比率を表2のとおり変更する以外は同様にして製膜を行ない、12μmの二軸配向フィルムを得た。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
表3の結果から明らかなように、本発明の金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルムを使用した缶では、優れた成形加工性、密着性を有し、レトルト後外観および高級感に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルムは、清涼飲料水や食缶用などの金属缶の缶胴部や蓋材部に貼り合せて用いるのに特に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(I)およびエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル(II)を主たる成分とするポリエステル組成物から成り、下記式で算出される黄色度(YI値)が30≦YI<60であって、ヘイズが15%以下であることを特徴とする、金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルム。
YI値=100×(1.28×X−1.06×Z)/Y
ただし、X、Y、ZはXYZ表色系における三刺激値である。
【請求項2】
ポリエステル組成物の最短半結晶化時間が1〜100秒である、請求項1記載の金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステル組成物が着色剤を含有する、請求項1記載の金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルム。
【請求項4】
請求項1記載のフィルムの少なくとも片面に、着色剤を含有するコーティング層を配置してなる、金属板貼合せ成形加工用着色ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2007−277365(P2007−277365A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103896(P2006−103896)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】