説明

金属用接着剤組成物および接着方法

【課題】危険物に該当せず、安全性が高く、輸送、保管、取り扱いが容易で、金属材料の接着用に好適な金属用接着剤組成物およびそれを用いる接着方法を提供すること。
【解決手段】熱硬化性樹脂、反応性モノマー、及びゴム成分を必須成分とし、非水性で、かつ引火点を持たないことを特徴とする金属用接着剤組成物および同金属用接着剤組成物を金属表面に塗布し、乾燥、硬化させることを特徴とする接着方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、車両、電気機器、および電子機器などのコイルや金属部品用の接着剤として好適であり、安全で環境に優しい金属用接着剤組成物およびそれを用いた接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器などのコイルや金属部品用の接着に用いられる接着剤としては、熱硬化性樹脂系の無溶剤接着剤が使用されてきた。これは熱硬化性樹脂系接着剤が耐熱性、耐候性、耐衝撃性、耐食性、耐水性の点で優れる硬化物を形成することができるからである。また、溶剤を含む接着剤は溶剤を乾燥、除去しなければならないため、使用範囲が限られてしまうのが現状である。
従来の無溶剤接着剤を改良したものとして、例えば、熱可塑性ゴム、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂および粘着性樹脂からなるホットメルト接着剤が提案されている。これは、プラスチックと塗装鋼板などの異種材料の接着性を改良したものである(例えば、特許文献1参照)。
また、液状ウレタン変性エポキシ樹脂、架橋ゴム微粒子およびエポキシ樹脂成分からなる一液性エポキシ樹脂接着剤が提案されている。これは冷間圧延鋼板などの金属とポリブチレンテレフタレートなどのプラスチック、より具体的には、イグニッションコイルの鉄芯とケースとの接着性を改良するものである(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、反応性希釈剤や溶剤を使用していないため、接着剤粘度のコントロールが難しいという問題がある。
また、別の金属用熱硬化性接着剤組成物(例えば、特許文献3参照)は樹脂の粘度調整のために使用されるスチレン等の希釈剤が危険物であり、輸送や保管時における容量が制限され、また、作業環境において防爆仕様を必要とするなどコスト的にも大きな負担となっている。さらに接着剤を塗布し、硬化させる際の乾燥工程ではその中に含まれる揮発成分による爆発を防止するため、単位時間当たりの処理量も限られてしまう。
他方、非危険物である金属用水性接着剤(例えば、特許文献4、5参照)が開示されているが、硬化物性能が不十分であるため、特定の用途にしか使用できないという問題がある。また、分散媒である水が残ってしまうため金属面に錆や腐食が発生してしまい、電気製品や電子部品用途には不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−214643号公報
【特許文献2】特開2001−019929号公報
【特許文献3】特開2000−143745号公報
【特許文献4】特開2006−083268号公報
【特許文献5】特開2007−039535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、危険物に該当せず、安全性が高く、輸送、保管、取り扱いが容易で、電気部品や電子部品用途にも適用できる金属用接着剤組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の性状を有する熱硬化性樹脂を主成分とする組成物が、引火点が高いため危険物に該当せず、かつ揮発性有機化合物を含まないため、接着後、硬化に至るまでにボイドが発生しにくく、金属に対する接着性に優れた性能を有することを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、
(1)熱硬化性樹脂、反応性モノマー、及びゴム成分を必須成分とし、非水性で、かつ引火点を持たないことを特徴とする金属用接着剤組成物、
(2)ゲル化点が、反応性モノマーの引火点よりも低い上記(1)に記載の金属用接着剤組成物、
(3)熱硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂および/またはエポキシエステル樹脂である上記(1)または(2)に記載の金属用接着剤組成物、
(4)ゲル化点が170℃未満である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属用接着剤組成物、
(5)さらに、分解温度が140℃未満の有機過酸化物を含む上記(1)〜(4)のいずれかに記載の金属用接着剤組成物、
(6)反応性モノマー含有量が、金属用接着剤組成物全量基準で30〜90質量%である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の金属用接着剤組成物、
(7)反応性モノマーのうち80〜100質量%が引火点140℃以上250℃未満のものである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の金属用接着剤組成物、
(8)さらに、硬化促進剤を含む上記(1)〜(7)のいずれかに記載の金属用接着剤組成物
(9)ゴム成分がコアシェル系ゴムである上記(1)〜(8)のいずれかに記載の金属用接着剤組成物および
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の金属用接着剤組成物を金属表面に塗布し、乾燥、硬化させることを特徴とする接着方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の金属用接着剤組成物は、引火点を持たないので、危険物に該当せず、このため輸送や保管時における容量に制限がない。したがって、製造設備や保管設備における取り扱い数量を大幅に増加させることができるため、コイルや金属部品など電気製品の生産性やコストの低減を図ることができる。また、本発明の金属用接着剤組成物により形成された硬化物は優れた性能を有するので、従来の方法により、金属部品等を接着することができる。本発明の金属用接着剤組成物を硬化させると、接着界面にボイドや外観不良がなく、信頼性の高い金属製品を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の金属用接着剤組成物およびそれを用いた接着方法について説明する。
本発明の金属用接着剤組成物は、少なくとも熱硬化性樹脂、反応性モノマー及びゴム成分を含み、非水性で、かつ引火点を持たないものであり、金属用接着剤として好適に用いることができる。
本発明の金属用接着剤組成物における樹脂成分としては、硬化性および硬化物特性の観点から、不飽和ポリエステル樹脂および/またはエポキシエステル樹脂を使用することが好ましい。
上記不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和二塩基酸を含む酸成分と多価アルコール成分とのエステル化反応によって製造することができる。
酸成分としては、アジピン酸等の脂肪族飽和二塩基酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸等の脂肪族不飽和二塩基酸またはそれらの無水物、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族二塩基酸またはそれらの無水物、テトラヒドロフタル酸や同無水物等の脂環式不飽和二塩基酸、ヘキサヒドロフタル酸や同無水物等の脂環式飽和二塩基酸が挙げられる。これらの二塩基酸の中で、好ましくは、脂肪族不飽和二塩基酸または芳香族二塩基酸を必須成分として使用し、適宜、脂肪族飽和二塩基酸や脂環式二塩基酸を混合して使用される。これらは単独でまたは二種以上を混合して使用することができる。
酸成分としては、一塩基酸を併用することができる。一塩基酸としては、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸等複数種の脂肪酸が混合したものが挙げられる。
【0008】
多価アルコール成分としては、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタジエンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、グリセリンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテルなどの二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリス−2−ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルなどの三価以上のアルコールが挙げられる。これらは単独でまたは二種以上を混合して使用することができる。
上記の酸成分と多価アルコール成分をカルボキシル基と水酸基とのモル比(COOH基/OH基)が約1/1になるように仕込んで反応させることにより、本発明の金属用接着剤組成物における熱硬化性樹脂の一つである不飽和ポリエステル樹脂が得られる。
モル比(COOH基/OH基)を約1/1とすることにより、安定性に優れ、かつ硬化性に優れた不飽和ポリエステル樹脂が得られる。
【0009】
もう一つの熱硬化性樹脂であるエポキシエステル樹脂は、酸成分とエポキシ成分をエステル化触媒により反応させて得られるものである。ここで用いる酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸などの不飽和一塩基酸が挙げられる。これらは単独でまたは二種以上を組み合わせて使用することができる。さらに必要に応じてフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、マレイン酸およびアジピン酸などの二塩基酸を、単独でまたは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0010】
エポキシ成分としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであればよく、分子構造、分子量などは特に制限されることなく、各種のものを広く使用することができる。具体的には、ビスフェノール型、ノボラック型、ビフェニル型などの芳香族基を有するエポキシ樹脂、ポリカルボン酸をグリシジルエステル化したエポキシ樹脂、シクロヘキサン誘導体とエポキシが縮合した脂環式のエポキシ樹脂などが挙げられる。これらは単独でまたは二種以上を混合して使用することができる。
上記の酸成分とエポキシ樹脂をCOOH基/エポキシ基のモル比が約1/1になるように仕込んで反応させることにより、本発明の金属用接着剤組成物における熱硬化性樹脂の一つであるエポキシエステル樹脂が得られる。
モル比(COOH基/エポキシ基)を約1/1とすることにより、安定性に優れ、かつ硬化性に優れたエポキシエステル樹脂が得られる。
本発明においては、樹脂成分として、上記不飽和ポリエステル樹脂のみまたはエポキシポリエステル樹脂のみを用いてもよく、あるいはそれらを併用してもよい。
【0011】
本発明の金属用接着剤組成物に含まれる反応性モノマーは、反応性希釈剤として組成物の粘度を低下させる役割をも果たす。反応性モノマーとしては、エチレン性不飽和基を1分子中に1個以上有するモノマーであれば制限なく使用することができる。
この反応性モノマーのうちの80〜100質量%が引火点140℃以上250℃未満のものであることが好ましく、160℃以上であることがより好ましい。
このような引火点を有する反応性モノマーとして具体的には、芳香族系アクリルモノマー、脂肪族系(メタ)アクリレート誘導体およびポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート誘導体などが挙げられる。
芳香族系アクリルモノマーとしては、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレートなどが挙げられる。
脂肪族系(メタ)アクリレート誘導体としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ステアリルアクリレート、1、6-ヘキサンジオールジメタクリレートなどが挙げられる。ポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート誘導体としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレートおよびポリプロピレングリコールジメタクリレートなどが挙げられ、テトラエチレングリコールジメタクリレートおよびトリエチレングリコールジメタクリレートなどが好ましい。これらの反応性モノマーは単独でまたは二種以上を混合して使用することができる。
反応性モノマーの含有量は、金属用接着剤組成物全量基準で通常30〜90質量%程度、好ましくは37〜70質量%である。反応性モノマーの含有量が30質量%以上であると、金属用接着剤組成物の粘度が適正となるため接着剤層の形成性および接着剤層の平滑性が良好であり、また、90質量%以下であると、硬化物の機械強度が十分なものとなる。
【0012】
本発明の金属用接着剤組成物には、接着面圧の保持、硬化後の耐熱性、耐衝撃性改良などのため、ゴム成分を配合することを必要とする。ゴム成分としては、ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、アクリルニトリル系ゴム、スチレン系ゴム等の他、それらの共重合系ゴム、ゴム変性エポキシ樹脂、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成される、いわゆる、コアシェル系ゴムなどが挙げられる。このうち、耐熱性などの点からコアシェル系ゴムが好ましく用いられる。
コアシェル系ゴムとは、一般的には、ゴム成分ではない樹脂成分からなる外層のシェル層とゴム成分からなる内層のコア層からなる多層構造体であり、シェル成分としては、ガラス転移温度が室温以上のポリマー、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルなどのホモポリマー、メタクリル酸メチル/アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸/アクリル酸などのコポリマーあるいはスチレン/アクリロニトリル/グリシジルメタクリル酸などのターポリマーが用いられる。
コア成分としては、上記ポリブタジエン系ゴム(ブタジエンゴム)、アクリル系ゴム、アクリルニトリル系ゴム(アクリルニトリル-ブタジエンゴム、カルボキシル変性のブタジエン−アクリロニトリル共重合体の架橋物)、スチレン系ゴム(スチレン-ブタジエンゴム)等が用いられる。
コアシェル系ゴムにおいて、コアとシェルの質量比は、特に限定されるものではないが、コア層が10〜90質量%であることが好ましく、さらに、30〜80質量%であることが好ましい。コア層を10質量%以上とすることにより、十分な耐衝撃性改良効果が得られ、90質量%以下とすることにより、コアをシェルで完全に被覆し、分散性が確保される。
コアシェル系ゴムは市販品を使用することができる。市販のソフトコア/ハードシェル構造からなるコアシェル系ゴム粒子としては、例えば、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなる"パラロイド"EXL−2655(呉羽化学工業社製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる"スタフィロイド"AC−3355、"スタフィロイド"TR−2105、"スタフィロイド"TR−2102、"スタフィロイド"TR−2122、"スタフィロイド"IM−101、"スタフィロイド"IM−203、"スタフィロイド"IM−301、"スタフィロイド"IM−401(武田薬品工業社製)、"パラロイド"EXL−2314(呉羽化学工業社製)、"PARALOID"EXL−2611、"PARALOID"EXL−3387(ローム・アンド・ハース社製)、アクリル酸エステル・アクリロニトリル・スチレン共重合体からなる"スタフィロイド"IM−601(武田薬品工業社製)などが挙げられる。
ゴム成分の含有量は、金属用接着剤組成物全量基準で通常1〜20質量%程度、好ましくは3〜10質量%である。1質量%以上とすることにより、接着面圧の保持、硬化後の耐熱性、耐衝撃性改良等の効果が得られ、20質量%以下とすることにより、硬化が不十分になるのを防止することができる。
【0013】
その他、チクソ材として、シリカ粒子、炭酸カルシウム粒子、アルミナ粒子、水酸化アルミニウム粒子、マグネシア粒子、水酸化マグネシウム粒子、チタニア粒子、タルク、窒化アルミニウム粒子、窒化ホウ素および硫酸バリウムなどの無機フィラーを含有することができる。
チクソ付与剤の含有量は、熱硬化性樹脂100質量部に対し、好ましくは0.1〜30質量部であり、より好ましくは0.5〜20質量部である。この含有量が0.1質量部以上とすることにより、形成される接着剤層の厚みが十分に保持される。30質量部以下とすることにより、接着剤層のレベリング性が十分なものとなる。
【0014】
本発明の金属用接着剤組成物は、そのゲル化点が、含まれる反応性モノマーの引火点よりも低いことが好ましい。このような条件が満たされると、金属用接着剤組成物としての輸送、保管における取扱許容量を大幅に増やすことができる。また、本発明の金属用接着剤組成物を被着物(金属部品等)に塗布し、加熱、硬化のために熱処理を行う際にも、爆発の危険性が大幅に低下する。このため、処理量を大幅に増やすことができる。
【0015】
本発明の金属用接着剤組成物のゲル化点が、反応性モノマーの引火点よりも低ければ、引火点140℃未満の反応性モノマーを反応性モノマー全量中20質量%を限度として混合して使用することができる。引火点140℃未満の反応性モノマーとしては、2-ヒドロキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
本発明の金属用接着剤組成物においては、ゲル化点と反応性モノマーまたはその混合物の引火点との差は5℃以上であることが好ましく、より好ましくは10〜60℃である。
また、本発明の金属用接着剤組成物においては、ゲル化点が170℃未満であることが好ましく、140℃未満であることがより好ましい。ゲル化点が170℃未満であれば金属用接着剤組成物において引火点がなくなり、消防法による危険物に該当しなくなる。
また、金属用接着剤組成物において、ゲル化点が反応性モノマーの引火点よりも低いことが好ましいという観点から、金属用接着剤組成物には分解温度140℃未満の有機過酸化物および/または硬化促進剤を含有させることが好ましく、両者を併用することが特に好ましい。有機過酸化物および/または硬化促進剤を含ませることにより、反応性モノマーの反応開始温度を低下させ金属用接着剤組成物のゲル化を促進させることができる。
なお、上記ゲル化点はクリーブランド開放法(JIS K 2655に準拠)に従い、接着剤組成物がゲル化した際の温度を指す。
【0016】
分解温度140℃未満の有機過酸化物としては、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルルパーオキサイド、アシルパーオキサイドおよびクメンパーオキサイド、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン等のパーオキシケタール、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル等、さらには、いわゆる常温硬化型の有機化酸化物、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイドなどが挙げられる。
これらは単独または二種以上を混合して使用することができる。
この分解温度140℃未満の有機過酸化物の含有量は、金属用接着剤組成物中の熱硬化性樹脂と反応性モノマーとの合計量100質量部当たり0.001質量部以上5.0質量部未満が好ましく、より好ましくは0.01〜2.0質量部である。分解温度140℃未満の有機過酸化物の含有量が0.001質量部以上とすることにより、金属用接着剤組成物において、引火点よりもゲル化点が低くなるため、金属用接着剤組成物が引火する危険性が大幅に軽減される。また、5.0質量部未満とすることにより、ゲル化点が低くなりすぎることがないので、塗布層が均一になる前に接着剤組成物がゲル化することがない。したがって、接着強度が十分なものとなる。
【0017】
また、本発明の金属用接着剤組成物には、さらに必要に応じて、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸銅、オクテン酸銅、ナフテン酸マンガン、オクチル酸マンガン等のナフテン酸またはオクチル酸等の金属塩のような硬化促進剤を含有させることが好ましい。中でも、ナフテン酸コバルトおよびオクチル酸コバルトが好ましい。
硬化促進剤の含有量は熱硬化性樹脂100質量部当たり0.001質量部以上、1質量部未満が好ましく、より好ましくは0.005〜0.7質量部である。硬化促進剤の含有量を0.001質量部以上とすることにより、本発明の金属用接着剤組成物中に含有する有機過酸化物を分解するのに十分であり、ゲル化点が反応性モノマーの引火点より低くなるため、接着剤組成物が引火する危険性が大幅に軽減される。
また、1質量部未満とすることにより、ゲル化点が低くなりすぎることがないので接着剤層が均一になる前に接着剤組成物がゲル化することがない。したがって、接着強度が十分なものとなる。
また、本発明の金属用接着剤組成物には、必要に応じて、ハイドロキノン、メトキノン、p−t−ブチルカテコールおよびピロガロールなどの重合禁止剤、着色剤および沈降防止剤などを含有させることもできる。
【0018】
本発明の金属用接着剤組成物は、E型粘度計(3°コーン)を用いて、25℃において、0.5および5.0rpmにおける粘度を測定し、V0.5rpm/V5.0rpmの比率をチキソ比とし、5.0rpmにおける粘度が50〜200Pa・s、チキソ比が1.0〜5.0であることが好ましく、90〜110Pa・s、チキソ比が2.0〜4.0であることがより好ましい。
5.0rpmにおける粘度を50Pa・s以上、チキソ比を1.0以上とすることにより、接着剤層の厚さを一定量とすることができ、粘度を200Pa・s以下、チキソ比を5.0以下とすることにより、接着剤組成物の界面の均一性を向上させることができる。
チキソ比を調整するためのチキソ剤としては、二酸化ケイ素等が挙げられる。
【0019】
本発明の金属用接着剤組成物は、鉄、銅、アルミニウム等の金属表面に対して優れた密着性を有し、金属用接着剤として好ましく用いることができ、電子回路用基板や樹脂成型物の表面に金属箔を接着したり、無電解金属メッキしたりする際の接着剤としても好ましく用いることができる。さらに、レジストインキやトランス、電解コンデンサー、電池等の絶縁コーティング剤やステンレス等の各種金属板用の接着剤等にも広く利用することができるのである。
【0020】
本発明は、前記金属用接着剤組成物を金属表面に塗布し、乾燥、硬化させる接着方法も提供する。
本発明の金属用接着剤組成物を金属表面に塗布して、接着剤層を形成させる方法としては、特に限定されるものではなく、従来方法を適用することができる。すなわち、ロールコーター法、ナイフコーター法、刷毛塗り法、エアーガンによるスプレー法などがある。
乾燥および硬化のための加熱は、好ましくは120〜180℃で15〜60分間、より好ましくは140〜160℃で20〜40分間行う。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
フラスコ中にテトラヒドロフタル酸6g、イソフタル酸13g、無水マレイン酸11g、プロピレングリコール22gおよびハイドロキノン0.01gを加え、180〜220℃で反応させ、酸価10mgKOH/gの不飽和ポリエステル樹脂を得た。得られた不飽和ポリエステル樹脂にハイドロキノン0.01gを加え、樹脂Aを製造した。
この樹脂Aにトリエチレングリコールジメタクリレート(ブレンマーPDE150、日本油脂社製)44gとトリメチロールプロパントリメタクリレート(SR−350、サートマー社製)を2.5g加え、さらに、二酸化ケイ素(アエロジル#200、日本アエロジル社製)1g、ナフテン酸コバルト(大日本インキ化学工業社製)0.1gとジクミルパーオキサイド(パークミルD、日本油脂社製)0.03gを加え、均一になるまで攪拌混合して組成物を得た。
さらに、ゴム成分として、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体をコア成分とし、メタクリル酸メチルをシェル成分とするコアシェル系ゴム〔パラロイド EXL2314、ローム・アンド・ハースジャパン(株)製〕5gを加え混合して金属用接着剤組成物を得た。
次に、刷毛塗りでSPCC(冷間圧延)鋼板に上記金属用接着剤組成物を厚さ120μmになるように塗布し、次いで160℃、30分間加熱して、乾燥、硬化させて接着剤層を形成させることにより、厚さ110μmの接着剤層を有するテスト用樹脂付き鋼板を得た。金属用接着剤組成物およびテスト用樹脂付き鋼板の各特性について、下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0022】
(1)引火点
反応性モノマーおよび金属用接着剤組成物の引火点をクリーブランド開放法(JIS K 2655に準拠)により測定した。
(2)ゲル化点
クリーブランド開放法に従い、金属用接着剤組成物がゲル化した温度をゲル化点とした。
(3)硬化時間
JIS C2105に準拠して試験管法でのゲル化時間を測定(140℃)した。
(4)揮発性有機化合物(VOC)量及び硬化時臭気
直径50mm、深さ15mmのシャーレに金属用接着剤組成物を2g採取し、160℃、30分間加熱して硬化させたときの揮発分を測定してVOCとした。また、硬化時の臭気を評価した。○印は臭気なし、×印は臭気ありを表わす。
(5)接着力
JIS K6850に準拠してSPCC鋼板(25℃、120℃)および珪素鋼板(25℃)に対する引張せん断接着力を測定した。
(6)信頼性
上記試験片を80℃、85%RHで500時間処理した後、JIS K5600-5-6に準拠してSPCC鋼板および珪素鋼板に対するクロスカット試験により評価した。
(7)硬化物外観
上記と同じ条件で処理した後、硬化物の色調を目視により判定した。
【0023】
実施例2〜8および比較例1〜4
表1に示す配合成分を用い、実施例1と同様にして金属用接着剤組成物を調製し、これを用いて接着剤層を形成し、実施例1と同様の評価を行った。結果を併せて表1に示す。
なお、実施例2〜8および比較例1〜4において、実施例1で用いた配合成分以外の配合成分の商品名等は以下のとおりである。
【0024】
(1)テトラエチレングリコールジメタクリレート:ブレンマーPDE200〔日本油脂(株)製〕
(2)ポリエチレングリコールジアクリレート:ブレンマーADE200〔日本油脂(株)製〕
(3)ポリプロピレングリコールジアクリレート:ブレンマーADP200〔日本油脂(株)製〕
(4)フェノキシエチルアクリレート:ビスコート#192〔大阪有機化学工業(株)製〕
【0025】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の金属用接着剤組成物およびそれを用いる接着方法は、自動車用、車両用、電気または電子機器用の金属材料または部品全般に広く適用し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂、反応性モノマー、及びゴム成分を必須成分とし、非水性で、かつ引火点を持たないことを特徴とする金属用接着剤組成物。
【請求項2】
ゲル化点が、反応性モノマーの引火点よりも低い請求項1に記載の金属用接着剤組成物。
【請求項3】
熱硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂および/またはエポキシエステル樹脂である請求項1または2に記載の金属用接着剤組成物。
【請求項4】
ゲル化点が170℃未満である請求項1〜3のいずれかに記載の金属用接着剤組成物。
【請求項5】
さらに、分解温度が140℃未満の有機過酸化物を含む請求項1〜4のいずれかに記載の金属用接着剤組成物。
【請求項6】
反応性モノマー含有量が、金属用接着剤組成物全量基準で30〜90質量%である請求項1〜5のいずれかに記載の金属用接着剤組成物。
【請求項7】
反応性モノマーのうち80〜100質量%が引火点140℃以上250℃未満のものである請求項1〜6のいずれかに記載の金属用接着剤組成物。
【請求項8】
さらに、硬化促進剤を含む請求項1〜7のいずれかに記載の金属用接着剤組成物。
【請求項9】
ゴム成分がコアシェル系ゴムである請求項1〜8のいずれかに記載の金属用接着剤組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の金属用接着剤組成物を金属表面に塗布し、乾燥、硬化させることを特徴とする接着方法。

【公開番号】特開2010−270268(P2010−270268A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125061(P2009−125061)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】