説明

金属硝酸塩の転化方法

担持された金属硝酸塩を対応する担持された金属酸化物に転化する方法であって、亜酸化窒素を含み体積で5%未満の酸素含有量を有するガス混合物中で金属硝酸塩を分解が生じるように加熱することを含む方法について述べる。この方法は、担体材料上に非常に高度に分散した金属酸化物を提供する。この金属酸化物は触媒または触媒前駆体として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属硝酸塩を対応する金属酸化物に転化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属硝酸塩は比較的安価で製造し易いため、金属酸化物前駆体として有用である。それらは多くの場合、触媒または吸着剤の製造において対応する金属酸化物に転化される。触媒または吸着剤の製造において通常は一つまたは複数の可溶性金属硝酸塩を適切な担持物質に含浸し、乾燥して溶媒を除去する。含浸済み担持体は、多くの場合か焼と呼ばれる工程において、金属硝酸塩が金属酸化物を生成する分解温度以上の高温に通常は空気中で加熱される。しかしながら、このような方法で常に満足できる金属酸化物が得られる訳ではない。特に金属酸化物が還元性金属酸化物の場合、これらの工程によって得られる金属酸化物の微結晶およびこれに由来の還元金属の分散と分布は多くの場合に質が悪い。
【0003】
この調製方法の改良が試みられてきた。EP0421502は触媒または触媒前駆体の調製方法を開示しており、該方法においては、多孔質不活性担体に担持されたコバルト硝酸塩が少なくとも体積で20%の窒素酸化物を含む雰囲気中(雰囲気中の水分量は考慮していない。)でか焼される。窒素酸化物はか焼炉がパージされないか低速パージの条件下で硝酸コバルトの分解に由来することが好ましいとされた。そのようなか焼では1〜10マイクロメートルの範囲の大きさの酸化コバルト結晶の凝集体が生成すると記載されている。
【0004】
前述のEP0421502では、硝酸コバルトのか焼は空気中でなされ、窒素酸化物は金属硝酸塩自体によって供給される。特定の窒素酸化物が記載されていないが、そのようなか焼では主な窒素酸化物は二酸化窒素(NO)であろう。
【0005】
担持された金属酸化物は触媒、触媒前駆体および吸着剤として使われ、その有効性は担体上の金属酸化物の分散に関係する。それゆえ金属硝酸塩由来の金属酸化物の分散の改善が望まれている。
【発明の概要】
【0006】
我々は特に亜酸化窒素(NO)を含み酸素を含まないか少量含むガス混合物中での熱処理が、非常に高度な分散でかつ均一な分布で担持された金属酸化物をもたらすことを見出した。欧州特許第0421502号とは対照的に高濃度の窒素酸化物は本発明方法では不要であり、本方法は微結晶の大きさが10ナノメートル未満の非常に小さな金属酸化物凝集体を提供する。
【0007】
従って、本発明は担持された金属硝酸塩を対応する担持された金属酸化物に転化する方法であって、亜酸化窒素を含み体積で5%未満の酸素含有量を有するガス混合物中で金属硝酸塩を分解が生じるように加熱することを含む方法を提供する。
【0008】
本発明はさらに上記方法で得られる担持された金属酸化物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明によって(A−1)および本発明によらずに(A−2)調製された、シリカに担持された酸化ニッケルのXRDパターンである。
【図2】図2は、シリカ担持された酸化ニッケル(A−1、A−2)の明視野STEM顕微鏡写真である。
【図3】図3は、シリカ担持された酸化ニッケル(A−1、A−2)の窒素物理吸着等温線である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述のように本発明の方法は担持された金属硝酸塩を、亜酸化窒素を含み体積で5%未満の酸素含有量を有するガス混合物にさらすことと、このガス混合物にさらされた金属硝酸塩を少なくともその分解温度まで加熱することを含む。したがって本発明では、亜酸化窒素は金属硝酸塩の分解によって発生するのではなく、金属硝酸塩が分解中にさらされるガス混合物中に存在しなければならない。
【0011】
金属硝酸塩は乾燥混合、溶融硝酸塩混合、沈降および含浸を含む多くの方法で担持することができる。含浸が好ましい。例えば、金属硝酸塩を水溶液または非水溶液、例えばエタノール(該溶液は他の物質を含んでもよい)、から担体材料に含浸することができ、そして、溶媒を除去するために乾燥してもよい。一つまたは複数の金属硝酸塩が溶液中に存在してもよい。含浸工程は一回または複数回行って、金属充填量を増したり、乾燥前に異なる金属硝酸塩の順次的な層を設けたりしてもよい。含浸は触媒または吸着剤製造の当業者に公知の方法を使用してなされてよいが、使用され乾燥で除去される溶媒量を最少にするため、好ましくは、いわゆる「乾燥(dry)」または「初期ぬれ(incipient-wetness)」含浸方法による。初期ぬれ含浸は特に多孔質担体材料に適し、担体材料を担体の孔を満たすに十分なだけの溶液と混合することを含む。
【0012】
乾燥は減圧、大気圧、または加圧下において公知の方法で行うことができ、噴霧乾燥および凍結乾燥を含む。乾燥工程の温度は、金属硝酸塩の早期劣化を最小限にするため、好ましくは200℃以下、より好ましくは160℃以下である。乾燥工程は空気または他の酸素含有ガス、または窒素、ヘリウムまたはアルゴンのような不活性ガス中で行うことができる。
【0013】
担持された金属硝酸塩はしたがって担体の表面および/または孔に存在する一つまたは複数の金属硝酸塩を含む。
金属硝酸塩は金属酸化物を生成する分解温度まで、または必要なら分解温度を上回って、分解するまで加熱される。この加熱工程は金属硝酸塩が対応する金属酸化物に物理化学的転化を起こすために乾燥(主に溶媒除去の役割を担う)とは異なるものである。当然のことだが、本発明方法では担持された金属硝酸塩は、必要なら単一操作で乾燥され分解まで加熱されてもよい。金属硝酸塩の分解のために昇温する温度は100〜1200℃の範囲でよいが、硝酸塩の酸化物への転化を確実にすると同時に酸化物の焼結を最小限にするため200〜600℃の範囲が好ましい。しかしながら、担体上でまたは担体を用いてスピネルまたはペロブスカイト型酸化物を生成する必要がある場合、500〜1200℃の範囲の温度の使用が好ましい。担持された金属硝酸塩がこれらの範囲内のある温度におかれる時間は好ましくは16時間未満、より好ましくは8時間未満である。
【0014】
好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%の金属硝酸塩が対応する金属酸化物に転化される。
本発明の一つの特徴は金属硝酸塩が加熱の間さらされる雰囲気が非常に少量の遊離酸素しか含まないかまたは全く含まないことである、というのも酸素は硝酸塩由来物質における金属酸化物の分散がよくないことの一因であることが見出されたからである。したがってガス流中の酸素(O)含有量は好ましくは体積で5%未満、より好ましくは1%未満、最も好ましくは0.1%未満である。
【0015】
金属硝酸塩がさらされるガス流は、亜酸化窒素を含み体積で5%未満の酸素を有する如何なるガス流でもよい。好ましくは、ガス流は一酸化炭素、二酸化炭素または不活性ガスから選択される一つまたは複数のガスを含む。好ましくは、不活性ガスは窒素、ヘリウムまたはアルゴンから選択される一つまたは複数のガスを含む。好ましくは、担持された金属酸化物がさらされるガス流は一つまたは複数の不活性ガスと亜酸化窒素から構成される。
【0016】
ガス混合物は大気圧以上、通常は絶対圧力約10バールまでであればよい。加熱工程についての当業者に公知の各種の方法を使用できる。例えば還元性のガス流を粒状の担持された金属硝酸塩の吸着床に通してもよい。担持された金属酸化物の吸着床にガス混合物を通過させて加熱工程がなされる場合、ガス混合物のガス空間速度(GHSV)は好ましくは100〜600000h−1、より好ましくは600〜100000h−1、最も好ましくは1000〜60000h−1の範囲である。
【0017】
ガス流中の亜酸化窒素の濃度は洗浄の必要性を最小限にするために、好ましくは体積で0.001〜15%、より好ましくは0.01〜10%、最も好ましくは0.1〜5%の範囲である。
【0018】
金属硝酸塩はいかなる金属硝酸塩でもよいが、触媒、触媒前駆体または吸着剤の製造に使用される金属の硝酸塩が好ましい。金属硝酸塩はアルカリ、アルカリ金属、または遷移金属の硝酸塩でよい。好ましくは、金属硝酸塩は遷移金属硝酸塩、すなわち元素の周期律表に含まれる3〜12族から選択される金属の硝酸塩である。触媒、触媒前駆体または吸着剤の製造に容易に入手可能な金属硝酸塩としてはLa、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、CuおよびZnの硝酸塩があり、より好ましくはCr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、CuおよびZnの硝酸塩があげられる。「金属硝酸塩」という語には化学式M(NO・(HO)で表わされる金属硝酸塩化合物が含まれる。ここでxは金属Mの原子価、aは0または1以上の整数であり、例えば先行する乾燥工程中に生成する金属ヒドロキシ硝酸塩のような化合物の部分分解生成物をも含む。
【0019】
我々は本工程が高度に分散された還元可能な(reducible)金属酸化物、すなわち少なくとも金属の一部が一酸化炭素および/または水素のような還元性ガス流を使用してその元素形態に還元できる金属酸化物、を生成するために特に有用であることを見出した。そのような還元可能な金属酸化物にはNi,Co,CuおよびFeの酸化物が含まれ、従って、好ましい実施形態では金属硝酸塩はニッケル、コバルト、銅または鉄の硝酸塩であり、より好ましくはニッケルまたはコバルト、特にニッケルの硝酸塩である。
【0020】
金属硝酸塩を担持することのできる担体は金属、炭素、金属酸化物、混合金属酸化物または固体ポリマー担体でよい。例えば、担体はシリカまたはケイ酸塩を含む単一または混合金属酸化物、あるいは触媒または吸着剤の製造に有用な別のタイプの担体、例えば金属、合金または炭素でよい。本発明では一つまたは複数の担体を使用できる。
【0021】
粉状、ペレット状、粒状の形態であり、例えば、0.1ml/gを超える適当な空隙率を有する、活性炭、大表面積グラファイト、カーボンナノファイバーおよびフラーレンのような炭素状の担体が本発明の担体として使用でき、この場合にガス流は体積で0.1%未満の酸素を含むことが好ましい。そのような担体は空気か焼を用いる先行技術の方法では使用できない。
【0022】
好ましくは、担体は酸化性担体であり、セラッミック、ゼオライト、ペロブスカイト、スピネルなどを含む単一または混合金属酸化物であってよい。酸化性担体はセラミック、金属、炭素またはポリマー基板上の捨て塗り(wash-coat)の形態であってもよい。
【0023】
担体は表面加重平均径D[3,2]が1〜200ミクロンの範囲にある粉末状であってよい。表面加重平均径D[3,2]はソーター平均径とも呼ばれ、M.Alderliestenによって「平均粒径の用語(A Nomenclature for Mean Particle Diameters)」という論文(Anal.Proc.21巻、1984年5月、167〜172ページ)中で定義されており、粒子サイズ分析から計算される。この分析は例えばマルヴァーン・マスターサイザー(Malvern Mastersizer)を用いるレーザ回折によって簡便に行うことができる。そのような粉末の凝集体で粒径が200ミクロン〜1mmの範囲を有するものも担体として使用できる。あるいは、担体は、ペレット、押し出し成形品または典型的に粒子の大きさが1〜25mmでアスペクト比が2未満の顆粒のような成形単位の形状であってもよい。(粒子の大きさとは幅、長さあるいは直径のような最小の粒子寸法をいう)。あるいは、担体は一体構造体(例えば、ハニカム状)、または連通泡構造のような発泡材料でもよい。
【0024】
担体は好ましくは、アルミナ、金属アルミン酸塩、シリカ、アルミノケイ酸塩、チタニア、ジルコニア、または共ゲルを含むこれらの混合物から選択され、粉体、成形品単位、一体構造品または多孔質のいずれかの形態である。
【0025】
担体はシリカ担体でよい。シリカ担体は天然資源、例えば珪藻土、から生成されてよく、焼成またはフュームド・シリカでも、合成品、例えば沈降シリカまたはシリカゲルでもよい。SBA−15のような秩序性メソ多孔質シリカは担体として使うことができる。沈降シリカが好ましい。シリカは粉末または、例えば押し出し成形品、ペレット、またはシリカ顆粒片のような成形材の形態でよい。好適な粉末シリカは通常は表面加重平均径D[3、2]が3〜100μmの範囲の粒子を有する。成形シリカは製造に使用する型または金型によって、種々の形状と粒の大きさを持つことができる。例えば、粒子は円形、耳たぶ(lobed)形または他の形状の断面と約1mmから10mmを超える長さを持つことができる。好適な粉末状または顆粒状シリカのBET表面積は一般に10〜500m/gの範囲、好ましくは、100〜400m・g−1の範囲にある。空隙体積は一般に約0.1〜4ml・g−1の間、好ましくは0.2〜2ml・g−1であり、平均孔径は好ましくは0.4〜約30nmの範囲にある。必要なら、シリカをチタニアやジルコニアのような他の金属酸化物と混合してもよい。あるいは、シリカは成形品単位表面のコーティングとして存在してもよく、成形品単位は好ましくはアルミナ製であり、この下地担体上に0.5〜5単分子層のシリカのコーティングとして存在する。
【0026】
担体はチタニア担体であってもよい。チタニア担体は好ましくは合成品、例えば沈降チタニアである。チタニアは例えば重量で20%までの他の耐火性酸化物材料(典型的にはシリカ、アルミナまたはジルコニア)を任意に含むことができる。あるいは、チタニアは好ましくはシリカまたはアルミナ製担体表面のコーティングとして存在してもよく、下地のアルミナまたはシリカ担体上に0.5〜5単分子層のチタニアのコーティングとして存在する。好適なチタニアのBET表面積は一般に10〜500m・g−1の範囲、好ましくは、100〜400m・g−1の範囲にある。チタニアの空隙体積は好ましくは約0.1〜4ml・g−1の間、より好ましくは0.2〜2ml・g−1であり、平均孔径は好ましくは2〜約30nmの範囲にある。
【0027】
同様にジルコニア担体は合成品、例えば沈降ジルコニアでよい。ジルコニアもやはり例えば重量で20%までの他の耐火性酸化物材料(典型的には、シリカ、アルミナまたはチタニア)を任意に含むことができる。あるいはジルコニアは例えばイットリアまたはセリア安定化ジルコニアのような安定化されたものであってもよい。あるいはジルコニアは担体表面のコーティングとして存在してもよく、その担体は好ましくはシリカまたはアルミナ製であり、下地のアルミナまたはシリカ担体上に0.5〜5単分子層のジルコニアのコーティングとして存在する。
【0028】
担体は金属アルミン酸塩、例えばアルミン酸カルシウムであってもよい。
担体材は遷移アルミナでよい。遷移アルミナは「Ullmans Encyklopaedie der technischen Chemie(ウルマン化学大辞典)」4.neubearbeitete und erweiterte Auflage、Band 7(1974), pp.298-299に定義される。好適な遷移アルミナは例えばη−アルミナまたはχ-アルミナのようなγ-アルミナ群のアルミナであってもよい。これらの材料は水酸化アルミニウムを400〜750℃でか焼して生成することができ、一般にBET表面積は150〜400m・g−1の範囲にある。あるいは、遷移アルミナはγ群アルミナを約800℃超の温度に加熱して生成されるδ−およびθ−アルミナのような高温形を含むδ−アルミナ群でもよい。δ群アルミナは一般にBET表面積は50〜150m・g−1の範囲にある。あるいは、遷移アルミナはα−アルミナであってもよい。遷移アルミナはAl1モルあたり0.5モル未満の水を含むが、実際の水分量は加熱される温度により変化する。好適な遷移アルミナ粉末は一般に表面加重平均径D[3,2]が1〜200μmの範囲にある。スラリー反応での使用を意図する触媒のような応用例においては、平均で好ましくは20μm未満、例えば10μm以下の非常に細かい粒子の使用が有利である。その他の応用例、例えば流動床で行う反応用の触媒では、より大きな粒子寸法の使用が望まれ、好ましくは50〜150μmの範囲である。アルミナ粉末は比較的大きな平均孔径を有することが好ましい、というのはそのようなアルミナは特に良好な選択性のある触媒を生成するように思われるからである。好ましいアルミナは平均孔径が最小で10nm、特に15〜30nmの範囲である。(平均孔径とはここでは相対圧力0.98における窒素物理吸着等温線の脱着分岐線からの測定孔体積をBET表面積で割って4倍したものをいう)。好ましくは、アルミナ材はγ−アルミナまたはθ−アルミナであり、より好ましくはBET表面積が90〜120m・g−1、かつ孔体積が0.4〜0.8cm・g−1のθ−アルミナである。アルミナ担体材料は噴霧乾燥粉末の形態、または球形、ペレット、円筒、リング、または複数の穴あきペレットであって複数の突起があったり溝彫りがあったりする形状、例えばクローバーの葉型断面を有する形状を有する成形単位の形態、あるいは当業者に公知の押し出し成形品の形態でよい。アルミナ担体は高い濾過性と摩耗耐性のため有利に選択できる。
【0029】
本発明は、いかなる担体上の金属硝酸塩を転化するために用いることができるが、特定の金属硝酸塩と担体の組み合わせがより好ましい。例えば、金属によっては金属硝酸塩を分解加熱条件下、生成する担持された金属酸化物と混合する酸化金属化合物を形成することができる担体と組み合わせることが望ましい場合と望ましくない場合がある。炭素やα−アルミナのような低活性担体は、担体を用いた混合金属酸化物の形成が望まれない場合に、その形成を抑制または防止するために使うことができる。
【0030】
上述のように、我々は本発明の方法が担体上で高度に分散した還元可能な金属酸化物を調製するために特に有用であることを見出した。それゆえ、ある態様においては、本発明の方法は、担持された還元可能な金属酸化物を還元ガス流中で加熱して、金属酸化物の少なくとも一部の還元をもたらす工程をさらに含む。いかなる還元ガス流でも使用できるが、還元ガス流は一酸化炭素および/または水素を含むことが好ましい。
【0031】
従って、本発明はさらに、上記方法によって得られる担持された還元された金属酸化物を提供する。担持された還元された金属酸化物は、元素形態の金属に加えて場合により還元されていない金属酸化物を担体上に含むことがある。さらに、その他の還元可能なまたは還元可能でない金属酸化物が担体上に存在していてもよい。
【0032】
この態様では、担持された金属酸化物は、少なくとも一つの還元可能な金属酸化物を含む。それは好ましくは酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化銅または酸化鉄であり、還元は好ましくは水素含有ガスでなされる。
【0033】
従って、還元工程は水素、合成ガスまたは水素と窒素、メタンまたは他の不活性ガスとの混合物のような水素含有ガスを担持された還元可能な金属酸化物の中に高温で流すことにより行うことができ、例えば水素含有ガスを該組成物に150〜600℃、好ましくは300〜500℃の範囲の温度で0.1〜24時間、大気圧または約25バールまでの高圧で流すことにより行うことができる。酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化銅または酸化鉄に対する最適還元条件は当業者に公知である。
【0034】
本発明の方法によって調製される担持された還元された金属酸化物においては、還元可能な金属酸化物の少なくとも50%、より好ましくは80%超、最も好ましくは90%超が元素状活性形態に還元できる。還元物質中の触媒グラムあたりまたは金属グラムあたりの金属表面積として表わされる、非常に高度な金属分散を有する還元された金属酸化物を本発明の方法によって得ることができる。金属表面積は当業者に公知の方法を用いて化学吸着(例えば水素の化学吸着)によって簡便に測定できる。
【0035】
担持された金属酸化物および還元された金属酸化物は、先行技術の方法を用いて得られる金属酸化物および還元された金属酸化物よりも、金属酸化物および金属の非常に高い分散を有する。この高分散は、体積で5%未満の酸素を有するガス流中の亜酸化窒素の存在下で金属硝酸塩を分解することで、別の方法で起こりうる焼結を防ぐことによるものである。
【0036】
本発明の担持された金属酸化物は、走査型透過電子顕微鏡法(STEM)およびX線回折(XRD)によって、担体上に生じる金属酸化物充填量が重量で30%までのとき、金属酸化物微結晶の大きさが10ナノメートル未満、好ましくは7ナノメートル未満であることが見出された。担持された還元された金属酸化物の微結晶の大きさも10nm未満、好ましくは7nm未満である。
【0037】
担持された金属酸化物および担持された還元された金属酸化物は、多くの技術分野で使用できる。そのような分野には触媒、触媒前駆体、吸着剤、半導体、超伝導体、磁気記憶媒体、ソリッドステート記憶媒体、顔料およびUV吸収剤が含まれる。好ましくは、担持された金属酸化物および担持された還元された金属酸化物は触媒、触媒前駆体または吸着剤として使用される。「吸着剤(sorbent)」という用語は、吸着剤(adsorbent)と吸収剤(absorbent)を包含する。
【0038】
例えば、Cu/ZnO/AlのようなCu酸化物の担持還元体はメタノール合成触媒および水性ガスシフト触媒として使用される。Ni,CuおよびCo酸化物の担持還元体は単独でまたは他の金属酸化物、例えばZn酸化物と組み合わせて水素化反応の触媒として使用でき、またFeまたはCo酸化物の還元体は炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成の触媒として使用できる。還元されたFe触媒はまた高温シフト反応およびアンモニア合成において使用できる。
【0039】
好ましい態様において、担持された金属酸化物および担持された金属酸化物還元体は水素化反応および炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成の触媒として使用できる。これらの触媒は、Ni、Cu、CoまたはFeに加えて、さらに一つ以上の好適な添加剤および/または水素化反応において有用な促進剤および/またはフィッシャー・トロプシュ触媒を含むことができる。例えば、フィッシャー・トロプシュ触媒は、物性値を変える一つ以上の添加剤および/または還元性または活性または触媒の選択性に効果のある促進剤を含むことができる。好適な添加剤は、カリウム(K)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)または亜鉛(Zn)の化合物から選択される。好適な促進剤には、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、白金(Pt)およびパラジウム(Pd)が含まれる。好ましくはRu、Re、PtまたはPdから選択される一つ以上の促進剤が触媒前駆体に含まれる。添加剤および/または促進剤は、例えば過レニウム酸などの酸、金属硝酸塩または金属酢酸塩などの金属塩、または金属アルコキシドまたは金属アセチルアセトネートのような好適な有機金属化合物などの好適な化合物の使用によって触媒に組み込むことができる。促進剤金属の量は、還元可能な金属に対して重量で3〜50%の間で変えることができ、好ましくは5〜20%の間である。
【0040】
上述のように、担持された金属酸化物還元体触媒は、例えば水素化反応や炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成に使用できる。典型的な水素化反応には、アルデヒドおよびニトリルの水素化反応でそれぞれアルコールおよびアミンを生成するもの、環状芳香族化合物または不飽和炭化水素の水素化反応が含まれる。本発明の触媒は不飽和有機化合物(特に油脂、脂肪酸およびニトリルのような脂肪酸誘導体)の水素化反応にとりわけ好適である。そのような水素化反応は、通常、水素添加される化合物を触媒存在下、室温または高温でオートクレーブ中の圧力の水素含有ガスを用いて処理することにより連続式またはバッチ式で行われ、例えば、水素化反応は、水素を用いて、80〜250℃で圧力が0.1〜5.0×10Paの範囲で行なうことができる。
【0041】
炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成はよく確立された方法である。フィッシャー・トロプシュ合成は一酸化炭素と水素の混合物を炭化水素に転化する。一酸化炭素と水素の混合物は、典型的には、1.7〜2.5:1の範囲の水素:一酸化炭素の割合を有する合成ガスである。反応は一つまたは複数の攪拌スラリー相反応器、気泡塔反応器、ループ型反応器または流動床反応器を用いる連続またはバッチ工程で行うことができる。工程は0.1〜10MPaの範囲の圧力、150〜350℃の範囲の温度で行なうことができる。連続操業の場合、ガス空間速度(GHSV)は100〜25000h−1の範囲である。本発明の触媒は、グラムあたりの金属表面積が大きいので特に有用である。
【0042】
本発明を以下の実施例および図1〜3を参照してより詳細に説明する。ここで、図1は本発明によって(A−1)および本発明によらずに(A−2)調製された、シリカに担持された酸化ニッケルのXRDパターンを示し、図2はシリカ担持された酸化ニッケル(A−1、A−2)の明視野STEM顕微鏡写真であり、そして、図3はシリカ担持された酸化ニッケル(A−1、A−2)の窒素物理吸着等温線である。
【実施例】
【0043】
実施例1:SBA−15担持酸化ニッケル
SBA−15粉末(BET表面積=637m−1、全空隙体積=0.80cm−1)を硝酸ニッケル(II)水溶液を用いて初期ぬれ含浸して20wt%のNi/SiOを調製した。含浸の後、15分間平衡に保った。続いて、生成物を25℃から最終温度120℃まで加熱速度1℃/分で加熱することにより、含浸された固体を乾燥した。その試料を最終温度で720分間保持した。この乾燥試料を試料Aで表す。この試料から少量(40mg)を直径1cm、長さ17cmの栓流反応器を用いて第二の熱処理に供した。試料を25℃から450℃まで加熱速度1℃/分で加熱し、体積で1%の亜酸化窒素(NO)を含むヘリウム流中、または空気中、450℃で240分間保った(か焼)。本発明に従って1体積%の亜酸化窒素(NO)を含むヘリウムガス流中で熱処理された試料をA−1で表し、本発明に従わず空気中でか焼された試料をA−2で表す。表1〜3に調製条件をまとめてある。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
特性解析は、X線粉末回折(XRD)、走査型透過電子顕微鏡法(STEM)および窒素物理吸着を用いて行った。XRDパターンは、Co−Kα12(λ=1.79026Å)放射を使用するBruker-Nonius D8 Advance X線回折計を用いて、室温で35〜85°2θの範囲を記録した。酸化ニッケル結晶の平均サイズはScherrer方程式(Scherrer, P. Gottinger Nachrichten 2 (1938) 98参照)によって、2θ=50.8°の最も強い反射を用いて計算した。STEM像は200kVで操作するTecnai 20 FEG 顕微鏡を用いて撮影した。酸化ニッケル粒子の平均サイズは、典型的な50個の粒子の直径から求めた。窒素物理吸着等温線はMicromeritics Tristar 3000 装置を用いて77Kで得た。分析に先立って、ヘリウムを流して試料を120℃で14時間乾燥した。
【0048】
試料A−2のXRDパターン(図1)は、乾燥試料Aの空気中での熱処理(か焼)の後、大きな酸化ニッケル(NiO)微結晶が存在することを示す。しかし、乾燥試料を本発明の方法に従って亜酸化窒素の希釈流で処理すると、非常に小さいNiO微結晶が見られる(A−1)。試料A−1とA−2の微結晶の実測平均サイズを表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
図2は試料A−1およびA−2の両方の典型的な明視野STEM像を示す。像は、SBA−15の円筒形状に開いたメソ細孔によって形成される規則的な孔構造が両方の試料で維持されていることを示す。より詳細には、空気か焼によって調製された試料A−2の像は、酸化ニッケル粒子が不均一に担体に堆積し幅広い粒子サイズ分布を有することを示す。また、メソ細孔チャネルの内側の酸化ニッケル粒子はメソ細孔の壁によって1次元の成長に制限されSBA−15の孔を塞ぐ異方性粒子を生成しているように思われる。さらに、酸化ニッケル粒子は孔径よりも大きなものが存在する。これらの粒子は担体の外表面に位置しているように思われる。より大きな倍率で記録されたSTEM像には、酸化ニッケルがSBA−15粒子の外表面に存在することが明確に示される。
【0051】
本発明に従って調製された試料A−1のSTEM像は、高度な分散でかつ均一に分布する酸化ニッケルがSBA−15の孔の全域で存在することをはっきりと示す。担体の外表面には酸化ニッケル粒子は見つからない。試料A−1およびA−2両方におけるNiO粒子サイズの分布は表4に比較されている。
【0052】
試料A−2の窒素物理吸着等温線(図3)は、SBA−15について報告されたすべての典型的な特性を含んでいる。この曲線からは、空気か焼が担体の構造に大きな損傷を与えてはいなかったことがわかる。しかしながら、この試料で記録された脱着分岐は約0.48の相対圧力に位置する脱着分岐の強制的閉鎖(forced closure)を含んでいる。この強制的閉鎖は酸化ニッケル微結晶によるSBA−15のメソ細孔チャネルの閉塞に原因があると考えられる。このような酸化ニッケルの詰まりはインク壜型の孔を生成し、結果として脱着の間の等温線に観察された強制的閉鎖を生じる。この等温線を本発明に従って調製した試料A−1のものと比較すると、小さな酸化ニッケル粒子の生成に起因して孔の詰まりの程度が顕著に減少したことがはっきりと示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担持された金属硝酸塩を対応する担持された金属酸化物に転化する方法であって、亜酸化窒素を含み体積で5%未満の酸素含有量を有するガス混合物中で該金属硝酸塩を分解するように加熱することを含んでなる方法。
【請求項2】
前記金属硝酸塩が、溶液から担体材料に含浸され、対応する前記金属酸化物に転化するために加熱する前に、溶媒を除去するために乾燥されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガス混合物が、一つ以上の不活性ガスと亜酸化窒素からなる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記不活性ガスが、窒素、ヘリウムまたはアルゴンから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ガス混合物中の亜酸化窒素の濃度が、体積で0.001〜15%の範囲にある、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記担持された金属硝酸塩を100〜1200℃の範囲にある温度まで加熱する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記金属硝酸塩が遷移金属硝酸塩である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記金属硝酸塩がニッケル、コバルト、銅または鉄の硝酸塩である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記担体が金属、炭素、金属酸化物、混合金属酸化物または固体ポリマー担体である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記担体がアルミナ、金属アルミン酸塩、シリカ、アルミノケイ酸塩、チタニア、ジルコニア、またはこれらの混合物から選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記担持された金属酸化物が還元可能な金属酸化物であり、該担持された金属酸化物を還元ガス流中で加熱して、該金属酸化物の少なくとも一部を還元することをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記還元ガス流が一酸化炭素および/または水素を含有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記担持された金属酸化物が、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化銅または酸化鉄であり、前記還元は水素含有ガスを用いて行われる、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によって得られる、担持された酸化物。
【請求項15】
請求項11から13のいずれか一項に記載の方法によって得られる、担持された金属酸化物還元体。
【請求項16】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によって調製される、担持された酸化物の触媒、触媒前駆体または吸着剤としての使用。
【請求項17】
請求項11から13のいずれか一項に記載の方法によって調製される、担持された金属酸化物還元体の触媒または吸着剤としての使用。
【請求項18】
前記金属酸化物還元体が、水素化反応触媒またはフィッシャー・トロプシュ触媒である、請求項17に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−502556(P2010−502556A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527210(P2009−527210)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【国際出願番号】PCT/GB2007/050492
【国際公開番号】WO2008/029177
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】