説明

金属磁性粉末およびその製造方法

【課題】粒子を小さくしても粒子同士の凝集を防止することができるとともに、有機物との馴染みを良好にして、磁性塗料に配合する際の粒子の分散性を向上させることができる、金属磁性粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】金属磁性粉末の製造方法は、形状保持や焼結防止のために非磁性成分が添加された原料粉末を焼成した後に還元して、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ形状保持や焼結防止のために添加された非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造する金属磁性粉末製造工程と、この金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を溶出除去する溶出処理工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した金属磁性粉末の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程と、酸化膜を形成した金属磁性粉末を還元処理した後に酸化処理する再還元・安定化処理工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した金属磁性粉末の表面を洗浄する洗浄工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属磁性粉末およびその製造方法に関し、特に、塗布型磁気記録媒体に使用される強磁性金属粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布型磁気記録媒体に使用される代表的な金属磁性粉末として、鉄を主成分として含有する鉄系磁性粉末がある。このような鉄系金属磁性粉末は、工業的には、オキシ水酸化鉄または酸化鉄を主体とした針状粉末に、形状保持のためにSiやAlなどを含有させるとともに、焼結防止のために希土類元素やアルカリ土類金属元素などを含有させて、焼成した後に還元することによって製造されている。このような鉄系金属磁性粉末を製造する従来の方法として、α−FeOOHにNi、Co、Al、Siおよび希土類元素の化合物を被着させ、非還元性雰囲気下で熱処理し、次いで還元性ガスで還元する方法(例えば、特許文献1参照)や、含水酸化鉄の粒子表面に希土類金属化合物やAl化合物などを被着させた後、不活性ガス雰囲気において加熱脱水し、次いで還元性ガスで還元する方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0003】
近年、塗布型磁気記録媒体などの磁気記録媒体では、大容量化に伴って記録密度を高めることが要求されており、磁気記録媒体の記録密度を高めるためには、磁性粉末の粒子体積を小さくすることが必要になる。
【0004】
しかし、磁性粉末を微粒子化すると、磁性粉末の粒子の形状を保持し難くなるため、形状保持のために添加するSiやAlなどの量や、焼結防止のために添加する希土類元素などの量を増加させることが必要になる。しかし、形状保持のために添加するSiやAlなどや、焼結防止のために添加する希土類元素などは、熱処理工程後には既に役割を終えており、何ら磁性に影響を及ぼすものではなく、粒子体積を大きくするだけであり、粒子性ノイズの低減のためには少ない方がよい。特に、磁性粉末の粒子の表層部に存在する希土類元素などや、SiやAlなどの非磁性成分を除去して、粒子体積を小さくするのが望ましい。
【0005】
このような磁性粉末の粒子の表層部に存在する希土類元素などや、SiやAlなどの非磁性成分を除去して、粒子体積を小さくするために、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有する金属磁性粉末の表層部に存在する非磁性成分を溶出除去する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法では、金属磁性粉末の表層部の非磁性成分と錯体を形成し得る錯化剤を添加した溶液に、非磁性成分を含有する金属磁性粉末を添加して分散させた後に、還元剤を添加することによって、金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を浸出して溶液中に溶出除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−25702号公報(段落番号0006)
【特許文献2】特開平11−189421号公報(段落番号0011)
【特許文献3】特開2007−294841号公報(段落番号0033−0035)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献3の方法のように、金属磁性粉末の表層部に存在する非磁性成分を溶出除去して、金属磁性粉末の粒子を微細化すると、粒子同士が凝集して凝集体を形成し易くなる。このような凝集体が大量に存在する金属磁性粉末を、塗布型磁気記録媒体の表面の磁性層を形成するために使用すると、個々の粒子の粒度分布を改善しても、より薄層になる磁性層を形成するための塗料に使用するには適さない。
【0008】
また、特許文献3の方法のように、金属磁性粉末の表層部の非磁性成分と錯体を形成し得る有機酸塩のような錯化剤を添加した溶液に、非磁性成分を含有する金属磁性粉末を添加して分散させた後に、還元剤を添加することによって、金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を浸出して溶液中に溶出除去すると、溶出除去の際に使用した錯化剤の有機酸が金属磁性粉末の粒子の表面に吸着して、金属磁性粉末の粒子の表面の特性が変化することにより、磁性層を形成するために磁性粒子として金属磁性粉末を磁性塗料中に配合させる際の金属磁性粉末の粒子の分散性が低下して、金属磁性粉末への磁性塗料中の樹脂の吸着量が大きく変化することがわかった。そのため、平均長軸長が10〜50nmの微細な金属磁性粉末が崩壊して磁性を有しない粒子になるのを防止しながら、金属磁性粉末の粒子の表面に付着した錯化剤の有機酸を除去することにより、有機物との馴染みを良好にして、磁性塗料に配合する際の金属磁性粉末の粒子の分散性を向上させることが望まれる。
【0009】
したがって、本発明は、粒子を小さくしても粒子同士の凝集を防止することができるとともに、有機物との馴染みを良好にして、磁性塗料に配合する際の粒子の分散性を向上させることができる、金属磁性粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ非磁性成分を含有する金属磁性粉末の表層部に存在する非磁性成分を溶出除去した後に、金属磁性粉末の表面を洗浄することにより、金属磁性粉末の粒子を小さくしても粒子同士の凝集を防止することができるとともに、有機物との馴染みを良好にして、磁性塗料に配合する際の粒子の分散性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による金属磁性粉末の製造方法は、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造する工程と、この金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を溶出除去する工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した金属磁性粉末の表面を洗浄する工程とを備えている。
【0012】
この金属磁性粉末の製造方法において、非磁性成分が、(イットリウムを含む)希土類元素、アルミニウムおよび珪素からなる群から選ばれる1種以上であるのが好ましい。また、非磁性成分を溶出除去する工程が、非磁性成分と錯体を形成し得る錯化剤を添加した溶液に、非磁性成分を含有する金属磁性粉末を添加して分散させた後に、還元剤を添加することによって、金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を浸出して溶液中に溶出除去する工程であるのが好ましい。また、錯化剤が、酒石酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩および乳酸塩からなる群から選ばれる1種以上であるのが好ましく、還元剤が、ヒドラジン(N)、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH)、ナトリウムボロンハイドライド(NaBH)およびそれらの誘導体からなる群から選ばれる1種以上であるのが好ましい。また、金属磁性粉末の表面の洗浄が、アルカリ溶液からなる洗浄液を使用して行われるのが好ましく、アルカリ溶液が、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、アンモニア、エチルアミンおよびテトラメチルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選ばれる1種以上の溶液であるのが好ましく、金属磁性粉末の表面の洗浄がpH12以上で行われるのが好ましい。さらに、表層部の非磁性成分を溶出除去した金属磁性粉末の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程を含むのが好ましく、酸化膜を形成した金属磁性粉末を還元処理した後に酸化処理する安定化処理工程を含むのが好ましい。
【0013】
また、本発明による金属磁性粉末は、磁性成分として鉄または鉄とコバルトを含有するとともに、非磁性成分として(イットリウムを含む)希土類元素、アルミニウムおよび珪素からなる群から選ばれる1種以上と炭素を含有し、粒子の平均長軸長が10〜50nm、炭素の含有量が1.2質量%以下、磁性成分に対する非磁性成分の原子比が20%以下である。
【0014】
この金属磁性粉末において、金属磁性粉末の表面に酸化膜が形成されているのが好ましく、金属磁性粉末の平均粒子体積が3500nm以下であるのが好ましい。
【0015】
また、窒素雰囲気において、常温で、金属磁性粉末を30メッシュで解粒した試料を、ステアリン酸が溶解したメチルエチルケトン溶液に添加し、下部から永久磁石を用いて試料を凝集させ、上澄み液を分取して90℃で3時間加熱した後の残分の重量を測定して、A=1000×B×(C/100)×[1−E/{(C/100)×D}]/F(但し、Aはステアリン酸吸着量(mg/g)、Bは溶液の全重量(g)、Cは溶液中のステアリン酸濃度(質量%)、Dは上澄み液の重量(g)、Eは90℃で3時間加熱した後の残分の重量(g)、Fは試料の重量(g))から算出したステアリン酸吸着量が1.2mg/m以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ非磁性成分を含有する金属磁性粉末の表層部に存在する非磁性成分を溶出除去するとともに、金属磁性粉末の表面を洗浄することにより、金属磁性粉末の粒子を小さくしても粒子同士の凝集を防止することができるとともに、有機物との馴染みを良好にして、磁性塗料に配合する際の粒子の分散性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1〜11および比較例1で得られた金属磁性粉末の炭素含有量とステアリン酸吸着量との関係を示す図である。
【図2】実施例1〜11および比較例1で得られた金属磁性粉末の粉体pHと炭素含有量との関係を示す図である。
【図3】実施例1および比較例1で得られた金属磁性粉末の酸性溶液に添加した水酸化カリウムの量とプロトンチャージ量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態は、形状保持や焼結防止のために非磁性成分が添加された原料粉末を焼成した後に還元して、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ形状保持や焼結防止のために添加された非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造する金属磁性粉末製造工程と、この金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を溶出除去する溶出処理工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した金属磁性粉末の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程と、この酸化処理工程で酸化膜を形成した金属磁性粉末を還元処理した後に酸化処理する再還元・安定化処理工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した金属磁性粉末の表面を洗浄する洗浄工程とを備えている。以下、これらの工程について説明する。
【0019】
(金属磁性粉末製造工程)
形状保持や焼結防止のために非磁性成分が添加された原料粉末を焼成した後に還元して、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ形状保持や焼結防止のために添加された非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造するまでの工程としては、一般的な金属磁性粉末の製造工程を採用することができる。例えば、コバルトおよび焼結防止のために添加した希土類元素などを含有するオキシ水酸化鉄を250〜700℃で焼成して、α−Feなどの鉄酸化物にした後、この鉄酸化物を気相還元によって加熱還元して、α−Feを主成分として含有し且つ希土類元素などの非磁性成分を含有する金属磁性粉末(中間製品としての金属磁性粉末)を得る。
【0020】
(溶出処理工程)
このようにして得られた金属磁性粉末に含まれる希土類元素(イットリウムを含む)、アルミニウム(Al)および珪素(Si)の少なくとも1種以上と錯体を形成し得る化合物(錯化剤)を溶解した溶液を処理液として用意する。この処理液は、室温付近の温度で調整することができる。錯化剤としては、無電解めっきにおいて錯化剤として通常使用されている薬品、例えば、酒石酸ナトリウムのような酒石酸塩、クエン酸ナトリウムのようなクエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩などを使用することができる。錯化剤の濃度は、0.01〜10モル/L程度でよい。また、必要に応じて、pH緩衝効果がある物質、例えば、アンモニウム塩などを添加してもよい。
【0021】
次に、この処理液に金属磁性粉末を添加する。金属磁性粉末の添加量は、多過ぎると反応が不均一になる可能性があるので、処理液1L当たり1〜100g程度であるのが好ましく、5〜50g程度であるのがさらに好ましい。また、液中の反応の均一性を維持するため、撹拌または強制分散(例えば、超音波分散など)を行うのが好ましい。
【0022】
処理液中に金属磁性粉末を均一に分散させた後、還元剤を添加する。この還元剤としては、ヒドラジン(N)、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH)、ナトリウムボロンハイドライド(NaBH)のような強還元剤を使用することができる。還元能力が弱い還元剤を使用すると、磁性元素の溶出が起こり易くなるので好ましくない。また、還元剤の濃度は、濃過ぎると非磁性成分の溶出効果が低下するので好ましくなく、一方、薄過ぎると磁性元素が溶出し易くなるので好ましくない。そのため、還元剤の濃度は、0.01〜10モル/Lにするのが好ましく、0.05〜5モル/Lにするのがさらに好ましく、0.1〜5モル/Lにするのが最も好ましい。
【0023】
この還元剤を添加した後、液温を10〜50℃、好ましくは15〜40℃に保持しながら、10〜300分間浸出操作を行う。この浸出操作によって処理液中に非磁性成分が溶出し、金属磁性粉末の粒子中における磁性元素の量が相対的に上昇する。なお、この反応は、不活性ガス雰囲気において行うのが好ましい。
【0024】
(酸化処理工程)
次に、必要に応じて、溶出処理工程で表層部の非磁性成分を溶出除去した金属磁性粉末の粒子の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程を行う。この酸化処理工程は、溶出処理後の液に酸化物を投入して湿式法で酸化処理する工程でもよいし、溶出処理後の液から分離して抽出した金属磁性粉末を乾式法で酸化処理する工程でもよい。
【0025】
(再還元・安定化処理工程)
次に、必要に応じて、酸化処理した金属磁性粉末に再度還元処理を施し、その後、再度酸化雰囲気に曝す安定化処理を施す。この再還元・安定化処理工程によって先端部が丸みを帯びた粒子が得られ易くなるので好ましい。再還元工程は、水素ガスなどの還元雰囲気下において熱処理することによって行うことができる。熱処理温度は、150℃以上であるのが好ましいが、高温になり過ぎると粒子間焼結が起こり易くなるので、350℃以下にする必要があり、300℃以下にするのが好ましい。また、安定化処理は、酸化性ガス雰囲気において熱処理することによって行うことができる。この場合も、温度が高過ぎると焼結が生じ易いので、約150〜350℃で行うのが好ましい。
【0026】
(洗浄工程)
次に、溶出処理工程で表層部の非磁性成分を溶出除去した金属磁性粉末を洗浄液に浸漬して、錯体形成時に金属磁性粉末の粒子の表面に付着した錯化剤の有機酸の量を減少させる。この洗浄液として、純水を使用してもよいが、有機酸の量をさらに減少させるために、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、アンモニア、エチルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどのアルカリを含有する水溶液を使用するのが好ましい。
【0027】
なお、この洗浄時のpHが12以上であれば、洗浄により有機酸を剥離する効果がより顕著になるので好ましい。また、この洗浄時の温度は、反応条件を最適に調整することができるように、できるだけ室温に近い方がよい。
【0028】
このように、本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態は、金属磁性粉末の表層部に存在する(焼結防止剤のために添加した)希土類元素や(形状保持のために添加した)AlやSiのような直接磁気特性への関与が薄い非磁性成分を選択的に溶出除去する溶出処理工程と、この溶出の際に金属磁性粒子の表面に付着した錯化剤の有機酸を除去する洗浄工程とを備えているので、個々の粒子の分散を保持し易い金属磁性粉末を製造することができる。
【0029】
上述した本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態により製造された金属磁性粉末は、鉄または鉄とコバルトを主成分とする金属磁性相を有する粒子からなる金属磁性粉末である。すなわち、金属磁性相を構成する磁性元素(例えば、鉄、コバルト、ニッケル)のうち、鉄または鉄とコバルトの合計の原子割合が50%以上の金属磁性粉末である。この金属磁性粉末の表面には酸化膜が形成されているのが好ましく、鉄(Fe)とコバルト(Co)を主成分として含有する金属磁性粉末では、酸化膜と金属磁性相を含む金属磁性粉末の粒子全体に存在する元素のモル比として「Co含有量(at%)/Fe含有量(at%)×100」で表される、Feに対するCoの原子割合(以下「Co/Fe原子比」という)が、0〜50at%であるのが好ましく、5〜45at%であるのがさらに好ましく、10〜40at%であるのが最も好ましい。このような範囲であれば、安定した磁気特性が得られ易く、耐候性も良好になる。なお、酸化膜として鉄酸化物が検出されるが、その他の元素の酸化物が同時に存在してもよい。
【0030】
また、金属磁性粉末製造工程では、焼結防止のために(イットリウム(Y)を含む)希土類元素(R)、Al、Siなどの非磁性成分が添加されているが、金属磁性粉末の表層部の非磁性成分は、溶出処理工程において除去されているので、(R+Si+Al)/(Fe+Co)原子比が、20at%以下になり、好ましくは15at%以下、さらに好ましくは13at%以下、最も好ましくは12at%以下にすることができる。このように表層部の非磁性成分を除去することによって、従来の微粉化された金属磁性粉末と比べて、粒子体積が小さい割に飽和磁化が大きい粉末を得ることができる。
【0031】
また、金属磁性粉末の粒子サイズについては、平均長軸長が10〜50nmであるのが好ましく、10〜40nmであるのがさらに好ましく、10〜35nmであるのが最も好ましい。平均長軸長が50nmを超えると、粒子体積が大きくなってしまい、磁気記録の高記録密度化に十分対応することが難しくなる。
【0032】
また、金属磁性粉末の粒子体積は、大き過ぎると媒体化した際に粒子性ノイズが発生し易くなり、一方、小さ過ぎると磁性粉末が常磁性化して好ましくない。そのため、金属磁性粉末の透過型電子顕微鏡写真から得られる平均粒子体積は、3500nm以下であるのが好ましく、3000nm以下であるのがさらに好ましく、2500nm以下であるのが最も好ましい。一方、金属磁性粉末の透過型電子顕微鏡写真から得られる平均粒子体積は、100nm以上であるのが好ましく、250nm以上であるのがさらに好ましく、500nm以上であるのが最も好ましい。
【0033】
さらに、金属磁性粉末中の炭素含有量は、1.2質量%未満であるのが好ましく、1.0質量%未満であるのがさらに好ましい。この炭素含有量が多過ぎると、表層部の非磁性成分の溶出除去が十分でなく、金属磁性粉末の有機物との馴染みが悪くなるので好ましくない。
【0034】
上述した本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態により製造された金属磁性粉末は、重層塗布型磁気記録媒体の磁性層に使用することができる。重層塗布型磁気記録媒体は、ベースフィルムの上に、下層として非磁性層を有し、その上に上層として磁性層を有するが、金属磁性粉末は、上層の磁性層を形成するための塗料中に配合させて使用することができる。
【0035】
なお、上層および下層のいずれの塗料も、各材料を所定組成となるような割合で配合し、ニーダーやサンドグラインダーを用いて混練・分散させる方法により調合することができる。ベースフィルムへの塗料の塗布は、下層が湿潤なうちに可及的速やかに上層の磁性層を塗布する、所謂ウエット・オン・ウエット方式で行うことが好ましい。
【0036】
重層塗布型磁気記録媒体では、ベースフィルムとして、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネイト、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォンアラミド、芳香族ポリアミドなどの樹脂フィルムを使用することができる。また、下層の非磁性層用塗料として、例えば、非磁性粉末(DOWAエレクトロニクス(株)製のα−酸化鉄、平均長軸粒子径80nm)85質量部と、カーボンブラック20質量部と、アルミナ3質量部と、塩化ビニル樹脂(日本ゼオン(株)製の塩化ビニル系バインダーMR−110)15質量部と、ポリウレタン樹脂(東洋紡(株)製のポリウレタン樹脂UR−8200)15質量部と、メチルエチルケトン190質量部と、シクロヘキサノン80質量部と、トルエン110質量部とからなる組成の非磁性塗料を使用することができる。さらに、上層の磁性層用塗料として、例えば、金属磁性粉末100質量部と、カーボンブラック5質量部と、アルミナ3質量部と、塩化ビニル樹脂(日本ゼオン(株)製のMR−110)15質量部と、ポリウレタン樹脂(東洋紡(株)製のUR−8200)15質量部と、ステアリン酸1質量部と、アセチルアセトン1質量部と、メチルエチルケトン190質量部と、シクロヘキサノン80質量部と、トルエン110質量部とからなる組成の磁性塗料を使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明による金属磁性粉末およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0038】
[実施例1]
まず、5000mLのビーカーに純水3000mLを入れた後、温調機で30℃に維持しながら、0.03モル/Lの硫酸コバルト(特級試薬)溶液と0.15モル/Lの硫酸第一鉄(特級試薬)水溶液をCo:Fe=1:4の混合割合になるように混合した。この混合溶液500mLに、Fe+Coに対して炭酸が3当量になる量の顆粒状の炭酸ナトリウムを直接添加し、液中温度が40±5℃の範囲を超えないように調整しながら、炭酸鉄を主体とする懸濁液を作製した。この懸濁液を90分間熟成させた後、Feイオンの酸化率が20%になるように調整した量の空気を50mL/分の流量で添加して核晶を形成させ、60℃まで昇温させ、純酸素を50mL/分の流量で通気して60分間酸化を継続した。その後、純酸素を窒素に切り替えて、30分間程度熟成した。
【0039】
次に、液温を40℃まで降温させて温度が安定した後、1.0質量%のAlの硫酸アルミニウム水溶液を5.0g/分の添加速度で20分間添加し続けてオキシ水酸化鉄を成長させた。その後、純酸素を50mL/分の流量で流し続け、酸化を完結させた。なお、酸化の終点の確認は、上澄み液を少量分取し、ヘキサシアノ酸鉄カリウム溶液を添加して、液色が変化しないことを確認することによって行った。
【0040】
次に、酸化終了後の液に(イットリウムとして2.0質量%含有する)酸化イットリウムの硫酸水溶液300gを添加して、Alを固溶させ、イットリウムが表面に被着したオキシ水酸化鉄の粉末(ケーキ)を得た。
【0041】
このオキシ水酸化鉄のケーキを濾過し、水洗した後、130℃で6時間乾燥させ、オキシ水酸化鉄の乾燥固形物を得た。この乾燥固形物10gをバケットに入れ、水の流量として1.0g/分で水蒸気を添加しながら大気中において400℃で焼成し、α−酸化鉄(ヘマタイト)を主成分とする鉄系酸化物を得た。
【0042】
このα−酸化鉄を主成分とする鉄系酸化物を通気可能なバケット内に投入した後、バケットを貫通型還元炉内に装入し、水素ガスを40L/分の流量で通気するとともに、水の流量として1.0g/分で水蒸気を添加しながら、400℃で30分間焼成させて還元処理を行った。この還元処理が終了した後、水蒸気の供給を停止し、水素雰囲気下において昇温速度10℃/分で600℃まで昇温させた。その後、水の流量として1.0g/分で水蒸気を添加しながら60分間高温還元処理を行い、鉄系合金粉末(中間製品としての金属磁性粉末)を得た。
【0043】
次に、この粉末の溶出処理を行うために使用する処理液として、純水900mLに対して、錯化剤として酒石酸ナトリウムを0.05モル/L、緩衝剤として硫酸アンモニウムを0.1モル/Lになるように混合し、NHでpH9に調整した処理液を用意した。この処理液に還元処理後の粉末10gを投入して30℃に保持した後、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを0.3モル/Lになるように添加し、30℃で30分間撹拌しながら熟成させ、スラリーを得た。このスラリーを固液分離し、固形分を水洗し、濾過して濾過物を得た。
【0044】
次に、この濾過物を通気可能なバケット内に入れた後、バケットを貫通型還元炉内に装入し、50L/分の流量で窒素を導入しながら90℃で乾燥させて粉末を得た。その後、窒素と純酸素をそれぞれ50L/分および400mL/分の流量で混合したガスを炉内に添加し、水の流量として1.0g/分で水蒸気を添加しながら、水蒸気と酸素と窒素の混合雰囲気中において、粉末の表面に酸化膜を形成し、表面の酸化による発熱が抑制された段階で純酸素の流量を徐々に増加することによって、混合雰囲気中における酸素濃度を上昇させ、最終的な純酸素の流量を2.0L/分にした。なお、炉内に導入されるガスの総量は、窒素の流量を調整することによってほぼ一定に保たれるようにし、この酸化処理は、約90℃に維持される雰囲気下において1時間行った。
【0045】
次に、表面に酸化膜を形成した粉末を250℃の水素雰囲気下に30分間曝すことによって再還元処理を行った後、上記の酸化処理と同様の方法によって安定化処理を行った。
【0046】
次に、この安定化処理後の粉末をpH13程度に調整した0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、30℃で30分間撹拌して、表面に付着した有機酸を剥離し、得られたスラリーから固形分を回収した後、乾燥させて粉末を得た。なお、本実施例で得られた金属磁性粉末を製造する際の洗浄処理条件を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
このようにして得られた金属磁性粉末(最終製品としての金属磁性粉末)について、金属磁性相と酸化膜を含む粒子全体の質量分析を行うことによって粉末の組成を求めるとともに、原子比Co/Fe、Y/Fe、Al/Feおよび(R+Si+Al)/(Fe+Co)を求めた。なお、Co、Alおよび希土類元素(Yを含む)の定量は、日本ジャーレルアッシュ株式会社製の高周波誘導プラズマ発光分析装置ICP(IRIS/AP)を使用し、Feの定量は、平沼産業株式会社製の平沼自動滴定装置(CONTIME−980型)を使用して行った。また、粉末中の炭素含有量は、堀場製作所製のC/S同時分析装置EMIA−220Vを使用して測定した。これらの結果を表2および表3に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
また、得られた金属磁性粉末(最終製品としての金属磁性粉末)の粉体物理特性として、平均長軸長、平均短軸長、平均粒子体積、粒子径Dx、BET比表面積、粉体pHおよびステアリン酸(StA)吸着量を算出した。
【0052】
なお、平均長軸長および平均短軸長は、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製のJEM−100CXMark−II型)を使用し、100kVの加速電圧で、明視野で金属磁性粉末を観察した像を写真撮影し、複数の写真から単分散している粒子をランダムに300個選択して、各々の粒子について長軸長と短軸長を測定し、その平均値から求めた。また、平均粒子体積は、金属磁性粉末の粒子を円柱形状に近似して、平均粒子体積=π×平均長軸長×(平均短軸長/2)から求めた。また、粒子径Dxは、X線回折装置(理学電子株式会社製のRAD−2C)を用いてX線回折パターンを測定し、Fe(110)面の回折ピークを用いてシェラーの式から算出した。また、BET比表面積は、ユアサイオニクス株式会社製の4ソープUSを使用して、BET法により求めた。さらに、粉体pHは、顔料のpH測定方法(JIS−K5101−1991)の煮沸法に準じて算出した。
【0053】
また、ステアリン酸吸着量は、窒素で置換したグローブボックス中において、本実施例で得られた金属磁性粉末を30メッシュで解粒した試料2.0gを、2質量%のステアリン酸が溶解したメチルエチルケトン溶液15.0gに添加し、下部から永久磁石を用いて試料を凝集させ、上澄み液10gを分取してホットプレート上において90℃で3時間加熱した後の残分の重量を測定して、ステアリン酸吸着量をA=1000×B×(C/100)×[1−E/{(C/100)×D}]/Fから算出した。但し、Aはステアリン酸吸着量(mg/g)、Bは溶液の全重量(g)(ここでは15.0g)、Cは溶液中のステアリン酸濃度(質量%)(ここでは2質量%)、Dは上澄み液の重量(g)(ここでは10g)、Eは90℃で3時間加熱した後の残分の重量(g)、Fは試料の重量(g)(ここでは2g)である。この式中、B×(C/100)は当初の溶液中のステアリン酸の重量(g)を示し、[1−E/{(C/100)×D}]は上澄み液中に残存するステアリン酸の割合を示している。このようにして算出されたステアリン酸吸着量によって、溶出処理工程で金属磁性粉末の粒子の表面に付着した有機酸が洗浄工程で減少した程度を判断することができ、金属磁性粉末の粒子の表面にステアリン酸を吸着可能なサイトがどの程度回復したかを判断することができる。
【0054】
これらの結果を表4に示す。また、金属磁性粉末の炭素含有量とステアリン酸吸着量との関係を図1に示し、金属磁性粉末の粉体pHと炭素含有量との関係を図2に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
また、得られた金属磁性粉末(最終製品としての金属磁性粉末)の磁気特性の測定を行った。なお、粉末の磁気特性として、東英工業株式会社製のVSM装置(VSM−7P)を使用して、外部磁場10kOe(795.8kA/m)で、保磁力Hc(Oe、kA/m)、飽和磁化σs(Am/kg)、角形比SQ、バルク保磁力分布B.SFDを測定した。また、磁性粉末の耐候性を評価する指標として、金属磁性粉末を温度60℃、湿度90%の雰囲気中で1週間(168時間)保持したときの飽和磁化の低下率Δσs(%)を測定した。これらの結果を表5に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
次に、得られた金属磁性粉末(最終製品としての金属磁性粉末)0.35gを秤量して(内径45mm、深さ13mmの)ポットに入れ、蓋を開けた状態で10分間放置した後、マイクロピペットでビヒクル(東洋紡製の塩化ビニル系樹脂MR−110(22質量%)と、シクロヘキサノン(38.7質量%)と、アセチルアセトン(0.3質量%)と、ステアリン酸−n−ブチル(0.3質量%)と、メチルエチルケトン(38.7質量%)の混合溶液)0.7mLを添加し、その直後にスチールボール(2φ)30g、ナイロンボール(8φ)10個をポットに加えて、蓋を閉じた状態で10分間静置した。その後、ポットを遠心式ボールミル(FRITSH P−6)にセットし、ゆっくりと回転数を上げて600rpmに調整し、60分間分散させた。遠心式ボールミルを停止した後、ポットを取り出し、予めメチルエチルケトンとトルエンを1:1で混合した調整液1.8mLをマイクロピペットで添加した。その後、再びポットを遠心式ボールミルにセットし、600rpmで5分間分散させ、磁性塗料を作製した。
【0059】
次に、ポットの蓋を開けてナイロンボールを取り除き、スチールボールごと磁性塗料をアプリケータ(550μm)に入れ、ベースフィルム(東レ株式会社製のポリエチレンフィルム15C−B500、膜厚15μm)上に磁性塗料を塗布し、迅速に5.5kGの配向器のコイル中心に置いて磁場配向させた後、乾燥させて磁気テープを作製した。なお、ここでは金属磁性粉末の効果をより鮮明に確認するため、非磁性層を設けず、磁性層単層のテープを作製した。
【0060】
このようにして作製した媒体としての磁気テープについて、東英工業株式会社製のVSM装置(VSM−7P)を使用して磁気測定を行い、保磁力Hcx(Oe、kA/m)、磁性層表面に平行な方向の保磁力分布SFDx、最大エネルギー積BHmax、磁性層表面に平行な方向の角形比SQx、磁性層表面に垂直な方向の角形比SQz、配向比ORを求めた。これらの結果を表6に示す。
【0061】
【表6】

【0062】
[実施例2〜11]
洗浄処理において使用した0.1モル/LのNaOHの代わりに、実施例2では0.001モル/LのNaOH、実施例3では0.01モル/LのNaOH、実施例4では0.1モル/LのNaCO、実施例5では0.1モル/LのNaHCO、実施例6では0.5モル/LのNaHCO、実施例7では1.0モル/LのNaHCO、実施例8では0.001モル/LのNaPO、実施例9では0.01モル/LのNaPO、実施例10では0.1モル/LのNaPO、実施例11では純水を使用した以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末を作製し、実施例1と同様の測定を行った。その洗浄処理条件を表1に示し、測定結果を表2〜表6に示す。
【0063】
[実施例12、13]
金属磁性粉末の粒子径を変更するためにFeイオンの酸化率を変更した以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末を作製し、実施例1と同様の測定を行った。その洗浄処理条件を表1に示し、測定結果を表2〜表6に示す。
【0064】
[比較例1]
洗浄処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末を作製し、実施例1と同様の測定を行うとともに、実施例と同様の方法により単位面積当りのプロトン蓄積量を算出した。その測定結果を表2〜表6に示す。また、金属磁性粉末の炭素含有量とステアリン酸吸着量との関係を図1に示し、金属磁性粉末の粉体pHと炭素含有量との関係を図2に示す。さらに、算出された単位面積当りのプロトン蓄積量(個/m)と水酸化カリウムの添加量(mmol)との関係を図3に示す。
【0065】
[比較例2]
洗浄処理を行わなかった以外は、実施例13と同様の処理により、金属磁性粉末を作製し、実施例1と同様の測定を行った。その測定結果を表2〜表6に示す。
【0066】
[比較例3〜7]
金属磁性粉末の粒子径を変更するためにFeイオンの酸化率を変更した以外は、比較例2と同様の処理により、金属磁性粉末を作製し、実施例1と同様の測定を行った。その測定結果を表2〜表6に示す。
【0067】
[比較例8]
溶出処理と洗浄処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末を作製し、実施例1と同様の測定を行った。その測定結果を表2〜表6に示す。
【0068】
次に、溶出処理を行うとともに洗浄処理を行った場合と洗浄処理を行わない場合の金属磁性粉末の表面の性状を調べるため、実施例1と比較例1で得られた金属磁性粉末を500メッシュで解粒した試料0.05gを、緩衝剤として0.1モル/Lの硝酸カリウムを含むpH3の硝酸酸性溶液100mLに添加した後、この溶液に0.01モル/Lの水酸化カリウム水溶液を0.02mL/分の速度で添加して、金属磁性粉末の試料溶液のpHの経時変化を測定した。このpHの経時変化は、流動電位自動滴定装置(京都電子工業製のAT−510Win/PCD−500型流動電位自動滴定装置)を用いて測定した。このpHの経時変化を測定する際に、下部から適宜窒素を供給して溶液を循環させて撹拌し、溶液中の金属磁性粉末が凝集するのを防止するとともに、金属磁性粉末の表面が溶液中で均一に分散するようにした。なお、金属磁性粉末の磁化の影響により凝集するのを防止するために、マグネチックスターラーを使用しなかった。
【0069】
また、上記と同様の硝酸酸性溶液と水酸化カリウム水溶液を使用し、金属磁性粉末を添加しない硝酸酸性溶液に水酸化カリウム水溶液を添加して、ブランク溶液のpHの経時変化を予め測定し、金属磁性粉末の溶液のpHの経時変化のベースラインとして使用した。
【0070】
このようにして得られた金属磁性粉末の試料溶液とブランク溶液のpHの経時変化のデータから、金属磁性粉末の粒子の表面のプロトン蓄積量を以下のように算出した。
【0071】
水酸化カリウム水溶液を添加する前の当初の金属磁性粉末の粒子の表面に吸着されるHの個数は、水酸化カリウム水溶液を添加する前の金属磁性粉末の試料溶液のpHとブランク溶液のpHの差であるので、金属磁性粉末の試料溶液のpHをpHTest、ブランク溶液のpHをpHBlank、アボガドロ数NA(=6.02×1023)とすると、金属磁性粉末の粒子の表面に蓄積されるプロトン量HStoreは、HStore={10(−pHBlank)−10(−pHTest)}×NAで示される。このプロトン量HStoreを、BET法により算出された比表面積(m/g)と金属磁性粉末の試料の質量(g)との積で割ると、単位面積当りのプロトン蓄積量が算出される。このようにして算出された単位面積当りのプロトン蓄積量(個/m)と水酸化カリウムの添加量(mmol)との関係を図3に示す。なお、水酸化カリウム水溶液を添加する前の当初のプロトン蓄積量は、金属磁性粉末の粒子の表面に存在するフリーの水酸化物イオンの数と等価であるとみなせるので、この粒子の表面に存在する水酸化物イオン量を「表面官能基数」とする。
【0072】
図3に示すように、比較例1ではpHの変化(水酸化カリウム添加量の変化)によるプロトンチャージ量が非常に大きいのに対して、実施例1ではpHの変化によるプロトンチャージ量の変化が小さく、プロトンチャージ量HStoreの最大値が3.0×1019(個/m)以下であるのがわかる。特に、表面官能基数(当初のpH3近傍におけるHStore)と、HStoreの最大値が3.0×1019(個/m)より大きい場合には、有機酸の吸着量が少なくなり、有機物との馴染みが悪くなる傾向が見られた。
【0073】
実施例1のように、溶出処理工程において金属磁性粉末の粒子の表面に付着した有機酸の量を減少させる洗浄工程によって、溶出処理工程で導入されたHが水として脱離して、ステアリン酸を吸着可能なサイトが回復したと考えられ、金属磁性粉末の粒子の表面性状が変化したと考えられる。また、プロトンチャージ量の変化から、溶出処理工程後の洗浄工程によって、金属磁性粉末の粒子の表面性状が変化していると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造する工程と、この金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を溶出除去する工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した金属磁性粉末の表面を洗浄する工程とを備えた、金属磁性粉末の製造方法。
【請求項2】
前記非磁性成分が、(イットリウムを含む)希土類元素、アルミニウムおよび珪素からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
前記非磁性成分を溶出除去する工程が、前記非磁性成分と錯体を形成し得る錯化剤を添加した溶液に、前記非磁性成分を含有する金属磁性粉末を添加して分散させた後に、還元剤を添加することによって、前記金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を浸出して前記溶液中に溶出除去する工程である、請求項1または2に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記錯化剤が、酒石酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩および乳酸塩からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1乃至3のいずれかに記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
前記還元剤が、ヒドラジン(N)、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH)、ナトリウムボロンハイドライド(NaBH)およびそれらの誘導体からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1乃至4のいずれかに記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
前記金属磁性粉末の表面の洗浄が、アルカリ溶液からなる洗浄液を使用して行われる、請求項1乃至5のいずれかに記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ溶液が、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、アンモニア、エチルアミンおよびテトラメチルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選ばれる1種以上の溶液である、請求項6に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項8】
前記金属磁性粉末の表面の洗浄がpH12以上で行われる、請求項1乃至7のいずれかに記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項9】
前記表層部の非磁性成分を溶出除去した金属磁性粉末の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程を含む、請求項1乃至8のいずれかに記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項10】
前記酸化膜を形成した金属磁性粉末を還元処理した後に酸化処理する安定化処理工程を含む、請求項9に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項11】
磁性成分として鉄または鉄とコバルトを含有するとともに、非磁性成分として(イットリウムを含む)希土類元素、アルミニウムおよび珪素からなる群から選ばれる1種以上と炭素を含有し、粒子の平均長軸長が10〜50nm、炭素の含有量が1.2質量%以下、磁性成分に対する非磁性成分の原子比が20%以下である、金属磁性粉末。
【請求項12】
前記金属磁性粉末の表面に酸化膜が形成されている、請求項11に記載の金属磁性粉末。
【請求項13】
前記金属磁性粉末の平均粒子体積が3500nm以下である。請求項11または12に記載の金属磁性粉末。
【請求項14】
窒素雰囲気において、常温で、金属磁性粉末を30メッシュで解粒した試料を、ステアリン酸が溶解したメチルエチルケトン溶液に添加し、下部から永久磁石を用いて試料を凝集させ、上澄み液を分取して90℃で3時間加熱した後の残分の重量を測定して、A=1000×B×(C/100)×[1−E/{(C/100)×D}]/F(但し、Aはステアリン酸吸着量(mg/g)、Bは溶液の全重量(g)、Cは溶液中のステアリン酸濃度(質量%)、Dは上澄み液の重量(g)、Eは90℃で3時間加熱した後の残分の重量(g)、Fは試料の重量(g))から算出したステアリン酸吸着量が1.2mg/m以上である、請求項11乃至13のいずれかに記載の金属磁性粉末。
【請求項15】
請求項11乃至14のいずれかに記載の金属磁性粉末を用いた磁性記録媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−219359(P2010−219359A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65418(P2009−65418)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】