説明

金属空気電池用の硬質な負電極コンパートメントおよび当該コンパートメントの製造方法

本発明は、再充電可能な金属空気電池用の負電極コンパートメントの前駆体に関しており、硬質ケーシング(1)と、少なくとも1つの固体電解質膜(2)と、当該固体電解質膜(2)の内側表面を完全に覆う保護用被膜(5)と、当該保護用被膜(5)の当該内側表面に対して適合される金属製電流コレクタ(3)と、好ましくは、上記電流コレクタに対して適合されており、上記硬質ケーシングの壁面と上記固体電解質(2)とによって規定される内側空間の全体を特に満たす弾性物質のブロック(4)と、上記硬質ケーシングの壁面の1つを漏れが無いように貫通するフレキシブル電子伝導体(6)とを備えている。本発明は、上記前駆体から取得された硬質ケーシング有する負電極コンパートメント及び当該負電極コンパートメントを含む電池にも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、金属空気電池用、特に、リチウム空気電池用の硬質な負電極コンパートメントの優れた製造方法、本方法を実行するための負電極コンパートメントの前駆体、本方法により得られる負電極コンパートメント、および、このようなコンパートメントを含む金属空気電池に関する。
【0002】
(Wh/kgにて表される)電池の質量エネルギー密度は、現在も、携帯型電化製品ような携帯型装置または電気自動車における電池の使用に対する主な制限となっている。これらの電池のエネルギー制限は、その大部分が、電池が構成されている物質の性能に起因している。現在利用できる負電極の物質は、一般に、300から350Ah/kgまでの間の特定の容量を有している。正電極の物質に対しては、たったの100から150Ah/kgまでのオーダーである。
【0003】
金属空気システム(リチウム空気、または、ナトリウム空気)の利点は、有限の容量を伴う正電極の使用に存在している。正電極により消費される酸素は、電極に保存されている必要はなく、外気から取得してもよい。そして、電池の容量は、負電極の容量、および、反応生成物を保存するための容量にのみ依存する。
【0004】
最適な機能を可能にするために、空気電極は標準的な水溶性媒体または酸性の水溶性媒体である必要があるが、残念なことに、負電極に使用される金属リチウムまたは金属ナトリウムは余りにも水と反応し易い。また、水の還元は、リチウム金属またはナトリウム金属が形成されない非常に低い電圧において起こるので、例えトレース状態としても水が生成される再充電の際に、負電極に使用される金属リチウムまたは金属ナトリウムは形成され得ない。それ故に、防水性の物理的境界が、リチウム金属またはナトリウム金属に基づく負電極コンパートメントと、水溶性電解質を含む正電極コンパートメントとの間に必要不可欠である。しかしながら、この防水性の物理的境界は、水溶性電解質の金属陽イオンを負電極に向けて反対方向に通過させる。
【0005】
これらの要求を満足するセラミック物質の一族は、先般来、「リチウム超イオン化伝導体(LISICON:Li Super Ionic Conductor)」または「ナトリウム超イオン化伝導体(NASICON:Na Super Ionic Conductor)」という名前にて知られている。これらの物質は、25℃において10-4から10-3S/cmまでの範囲での好適に高い伝導性を有しており、正電極コンパートメント(空気電極)における水溶性電解質に対して非常に良好な化学安定性を有している。しかしながら、負電極コンパートメントにおける金属リチウムまたは金属ナトリウムに対するこれらの反応性は非常に高く、例えば、リン酸リチウム窒化物(LiPON)ガラス、または、リン酸ナトリウム窒化物(NaPON)ガラスに基づく保護用被膜により、負電極コンパートメントを金属リチウムまたは金属ナトリウムから絶縁させることが必要不可欠である。
【0006】
国際公報第2007/021717号パンフレットには、リチウム金属のレイヤが活性物質として適用されている電流コレクタのスタック、および、リチウムイオンを伝導する防水性セラミック膜を備える防水性の負電極コンパートメントが記載されている。このシステムの密封性は、フレキシブルポリマーシールのシステムにより保証されている(特に国際公報第2007/021717号パンフレットの図1Aを参照)。このようなコンパートメントの製造には、活性物質(金属リチウム)の片面を電流コレクタへボンディングすること、および、活性物質(金属リチウム)のもう一方の片面をセラミック膜へボンディングすることが含まれており、重要な制約により構成されているグローブボックスまたはドライルームにおいて実行されなければならない。また、この明細書の著者は、記載のシステムが再充電可能であることを示していない。システムの密封性を保証するプラスチックシールはフレキシブルであり、放電および充電のサイクルにおいて、それぞれ、金属リチウムの消費および回復に起因してコンパートメントの容積を変化させるために移動度を伴うセラミック膜を設けている。それ故、電池が放電される場合、セラミック膜は緩みのあるフレキシブルシールによってのみ保持される。機械的サポート無しに起こり得る機械的制約に耐えるために、セラミック膜は比較的厚くなければならず、これは製造コストの面だけでなく、とりわけ、この膜のイオン抵抗性の面において不利益である。
【0007】
特に、セルの電気効率は、電解質の抵抗により部分的に支配される。この特定の抵抗(R)は、以下の式により表される。
【0008】
【数1】

【0009】
ここで、rは電解質の抵抗率、eは電解質の厚さ、そして、Aは電解質の表面領域を示している。電解質の厚さが薄いほど、セルのエネルギー効率は良くなる。
【0010】
本出願人は、フレキシブルシールに代えて硬質シェル(以下においては硬質ケーシングとも呼称される)を有している、国際公報第2007/021717号パンフレットに記載の負電極コンパートメントを超えた利点を有する優れた負電極コンパートメントを開発した。本発明に係るコンパートメントにおいて、国際公報第2007/021717号パンフレットにおいて使用されているものと同様の種類の固体電解質が、固体電解質膜を包囲し安定させるフレームを形成している硬質構造により保持されている。これにより、固体電解質膜は非常に薄い厚さを伴って設けられ得る。また、本発明の負電極コンパートメントは、制御不能な環境、すなわち、グローブボックスまたはドライルームの外側においても製造され得るように設計されている。これは、負電極コンパートメントの製造方法が、金属リチウムまたは金属ナトリウムが大気に接触せずに、自然位にて負電極の防空気および防水性コンパートメントの内側に形成される期間に、活性金属(リチウムまたはナトリウム)のレイヤを電流コレクタおよび/または固体電解質上にボンディングまたは蒸着することによってではなく、詳細を後述する電気化学反応をさせることによって、活性金属を設けるために提供されている。
【0011】
この優れた、かつ、有益な方法は、以下において「負電極コンパートメントの前駆体」と呼称される装置上にて実行される。この前駆体は、「空」の負電極コンパートメント、すなわち、まだ活性金属を含んでいない負電極コンパートメントに対応している。湿気および外気から密閉される一方、電流コレクタの陽極(負電極)により減少され、電流コレクタの陽極(負電極)に固定される前に、活性金属が水溶性電解質から陽イオンの形状にて設けられるのは、電気化学反応のステップにおいてのみである。
【0012】
それ故、本発明は、金属空気電池を再充電させる負電極コンパートメント、例えば前駆体を使用する負電極コンパートメントの製造方法、および、当該方法により取得されるまたは取得可能な電極コンパートメントに関する。
【0013】
本発明に係る負電極コンパートメントの前駆体は、
a)少なくとも1つの側面が開放されている硬質樹脂ケーシングと、
b)上記硬質ケーシングの開放されている側面または複数の側面を漏れが無いように閉塞する、アルカリ金属イオンを伝導する少なくとも1つの固体電解質膜と、
c)上記固体電解質膜の内側表面を好ましくは全体的に被覆する、アルカリ金属イオンに対して不活性である少なくとも1つの保護用被膜と、
d)上記保護用被膜の上記内側表面に対して適合されるか、または、上記保護用被膜の上記内側表面に蒸着される、シート状、被膜状、または、薄板状である少なくとも1つの金属製電流コレクタであって、上記保護用被膜の上記内側表面の略全てを覆いつつ、自エッジでは上記硬質ケーシングに接触していない金属製電流コレクタと、
e)上記硬質ケーシングの壁面の1つを漏れが無いように貫通し、上記電流コレクタに接続されている、グリッド状またはシート状の少なくとも1つのフレキシブル電子伝導体と、
を備えている。
【0014】
硬質ケーシングは、金属空気電池に一体化することのできる何れの形状を有していてもよい。それは、例えば、平行六面体形状または円筒形状であってもよい。本願では、平行六面体形状のケーシングを例に取って記載している。
【0015】
固体電解質膜を伴って、負電極コンパートメントを形成しつつ負電極コンパートメントの境界を定める硬質ケーシングは、合成樹脂(好ましくは、熱硬化性樹脂または低温硬化性樹脂)から成る。この樹脂が、コンパートメントの内側に含まれたコンポーネントと、または、正電極コンパートメントの液体電解質と不都合に反応しない限り、この樹脂の化学的性質は重要ではない。一旦硬化すると、当該樹脂は、アセンブリに必要不可欠な硬質を提供するために十分な機械的強度を有する。
【0016】
熱硬化性樹脂の例では、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、および、ポリイミドが挙げられる。出願人は、ストルアス社により市販された被膜樹脂エポフィックス(登録商標)を上手く使用した。エポフィックスは、架橋剤の付与後に低温硬化する液体エポキシ樹脂である。
【0017】
固体電解質膜を含む金型に液体樹脂を嵌め込むことによる負電極コンパートメントの前駆体の製造方法は、コンパートメントの樹脂壁面が漏れが無いように固体電解質に接触しており、追加のシールが必要不可欠ではないことを保証している。
【0018】
固体電解質膜は、ナトリウムイオンまたはリチウムイオン(好ましくは、リチウムイオン)を伝導するセラミック膜であること、が好ましい。
【0019】
金属イオンを伝導するようなセラミック膜は既に知られており、例えば、日本の株式会社オハラにより「リチウムイオン伝導性ガラスセラミック(LIC−GC)」の名称にて市販されている。それらは、化学式Li1-x(M,Ga,Al)x(Ge1-yTiy2-x(PO43のセラミックである。ただし、Mは、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbから選択された1つ以上の金属である。これらの種類のセラミック膜もまた、文字通りLISICON(Li Super Ionic Conductor:リチウム超イオン伝導体)の名称にて知られている。
【0020】
化学式Na1+xZr2x3-x12(ただし、0≦x≦3)にて表される、ナトリウムイオンを伝導する同様のセラミックもまた存在している。金属イオンを伝導するこれらのセラミックは、特に、米国特許第6 485 622号明細書、および、J. of Sol-Gel Science and Technology 4(3), 231-237におけるN.Gasmi等による寄稿に記載されており、文字通りNASICON(Na Super Ionic Conductor:ナトリウム超イオン伝導体)の名称にて知られている。
【0021】
ケーシングの硬質構造の全周囲に亘り、このセラミック固体電解質膜を形成することによって、固体電解質の厚さは、国際公報第2007/021717号パンフレットに記載されている種類のフレキシブル構造の厚さに比べ、好適に薄くなり得る。本発明において使用されている固体電解質膜は、30μmから500μmまでの間の厚さ(好ましくは、50μmから160μmまでの間の厚さ)を好適に有している。もちろん、当該膜の全表面領域がより小さい場合、この厚さは比例的により小さくてもよい。一方、数cm2よりも十分に大きな表面領域に対して、当該膜の厚さは、それに応じて増加されなければならないか、または、当該膜は、当該膜上に結合される補強構造であって、例えば樹脂から成るバーまたはグリッドのような補強構造により補強されつつ支えられなければならない。この構造では、当該膜の表面領域の大部分、すなわち、固体電解質膜の表面領域の少なくとも80%(好ましくは、90%)は自由な状態にある。
【0022】
固体電解質膜は、その内側表面の少なくとも一部、好ましくはその内側表面の全部(すなわち、負電極コンパートメントの内部に対向しているその表面)に亘り、活性金属(リチウムまたはナトリウム)から固体電解質を保護することを意図とする保護用被膜により覆われている。この保護用被膜は、負電極コンパートメントが製造される時に、または、電池の各再充電時に、負電極コンパートメントに設けられる。この被膜は、もちろん、活性金属および固体電解質に対して不活性であるだけでなく、固体電解質のように十分明らかにアルカリ金属イオン(Li+、Na+)を伝導しなければならない。固体電解質膜の内側表面全体を保護することが必要不可欠であるわけではないが、後者は、金属リチウムまたは金属ナトリウムに接触し易い領域において、絶対に保護用被膜により覆われなければならない。
【0023】
このような被膜は既に知られている。リチウムイオンを伝導する被膜の例として、Li3N、Li3P、LiI、LiBr、LiF、リン酸リチウム窒化物(LiPON)に基づく被膜が挙げられている(例えば、X. Yu等著、J. Electrochem. Soc. (1997年) 144(2)、524ページを参照)。そして、ナトリウムイオンを伝導する被膜の例として、ガラス、例えばNa2Oの添加を伴ったホウケイ酸ガラス、または、リン酸ナトリウム窒化物(NaPON)に基づく被膜が挙げられている(例えば、S. Chun等著、Proc. 124th Meeting Electrochem Soc.(2008年) 195ページを参照)。これらの被膜のうち、特に、リチウム空気電池に対してはLiPONが好適であり、ナトリウム空気電池に対してはNaPONが好適である。リチウムイオンを伝導する保護用被膜は、リチウムを伝導する固体電解質と組み合わせて使用されなければならない。ナトリウムを伝導する保護用被膜は、ナトリウムイオンを伝導する固体電解質と組み合わせて使用されなければならない。
【0024】
この被膜は、硬化後に硬質ケーシングを形成する樹脂を嵌め込む前に、固体電解質膜上に形成される。この保護用被膜が固体電解質膜の全表面を覆う場合、結果的にそれは樹脂におけるその全周囲に亘る後者のように保持され、このようにして、固体電解質膜と、活性金属を受けることを意図した硬質コンパートメントの内側空間との間に、漏れの無いスクリーンを形成する。
【0025】
シート状、被膜状、または、薄板状の金属製電流コレクタは、例えばスパッタリングにより、保護用被膜上に直接適合されるか、または、蒸着される。この金属製電流コレクタは、硬質ケーシングを形成する樹脂を嵌め込んで硬化させる前に、保護用被膜上に蒸着されることが好ましい。
【0026】
電流コレクタは、空気中にて安定している何れの金属であって、薄層に蒸着される際に良好な電気伝導性を有する何れの金属により形成されてもよい。本発明において、ステンレス鋼から成る電流コレクタが使用されることが好ましい。
【0027】
電流コレクタは、保護用被膜の自由面の略全体を覆っているが、この被膜がトータルではないこと、および、電流コレクタが硬質ケーシングの壁面に物理的に接触していないことに注意することが重要である。これは、負電極コンパートメントが、ここに記載されている前駆体から製造されるときに、活性金属が、固体電解質および保護用被膜を介して設けられ、後者と保護用被膜との間にて、電気コレクタ上に均一の厚さのレイヤに蒸着されるからである。活性金属が設けられる際に、保護用被膜の位置が固定されていると仮定すると、電流コレクタは、活性金属の蒸着の厚さが増加するにつれて、保護用被膜から離れるように徐々に移動する。電流コレクタは、僅か数箇所の位置にて壁面に接触したとしても、分解または破壊する危険性が存在している。電流コレクタのエッジと硬質ケーシングの壁面の内側表面との距離は、最大で数ミリメートルに等しいことが好ましい。
【0028】
電流コレクタは、フレキシブルな金属製グリッドまたはシート(好ましくは、フレキシブルな鋼鉄製グリッド)により形成されているフレキシブル電子伝導体に電気的に接続されている。このフレキシブルな金属製グリッドは、電流コレクタの表面の少なくとも一部(好ましくは、全部)を覆っている。何れの場合おいても、それは、電流コレクタに対する機械的サポート機能をも実現する。電流コレクタと電子伝導体との電気的接触を改善するために、銀の光沢塗装膜が接触領域に適合されることが好ましい。これを可能にするために、硬質ケーシングの第6の面、すなわち電解質膜が形成されている面と反対の面は、前駆体の他の全てのコンポーネントの組立が終わるまで嵌め込まれない。硬質な負電極コンパートメントの前駆体の製造方法は、実施例1においてより詳細に記載されている。
【0029】
本発明に係る負電極コンパートメントの前駆体は、電流コレクタに対して適合される少なくとも1つの弾性物質のブロックであって、硬質ケーシングの壁面および固体電解質により規定される内側空間の全てを実質的に満たしている少なくとも1つの弾性物質のブロックを更に備えている。上記ブロックは、電流コレクタが固体電解質膜に対して適合され続けるように、上記ブロックの弾力性によって電流コレクタに僅かな圧力を加えている。
【0030】
この弾性物質のブロックは、弾性発泡体であり、本発明に係る負電極コンパートメントの前駆体の内側空間の全てを実質的に満たすような大きさを有することが好ましい。この弾性物質のブロックは、本発明にとって必ずしも必要なものではなく、単に1つの特定の実施形態に対応しているだけである。特に、負電極コンパートメントは、電流コレクタをその全表面に亘り支え、電流コレクタを固体電解質膜に対して押し付けるように、電流コレクタに僅かな圧力を加えるためのこのような物質が無くとも機能し得る。
【0031】
既に上述されているように、電流コレクタが、活性金属を設けるフェーズの間に固体電解質膜から徐々に移動する。続いて、発泡体のブロックが、このステップを通して電流コレクタに徐々に逆圧を印加する一方、圧縮される。続いて、発泡体のブロックの弾性力により、電池が放電される間、発泡体のブロックが再び膨張し、初期の形状に戻ることができる。
【0032】
使用可能な弾性発泡体の例として、ポリ(クロロプレン)(ネオプレン(登録商標))発泡体(好ましくは、ハッチンソン社によりブラテックス(登録商標)(特にブラテックスC166)の名前にて市販されているネオプレン発泡体)が挙げられる。必要不可欠な弾性力を有する使用可能な発泡体の他の例として、プラスチフォーム社により市販されているポリ(エチレンウレタン)発泡体であるシロマー(登録商標)Gという製品が挙げられる。
【0033】
負電極コンパートメントの前駆体は、上記コンパートメントの1つの面を形成するまたは閉塞する1つの負電解質膜を含んでいてもよい。これは、本発明に係る前駆体の2つの好適な実施形態の1つであり、添付の図1に表されている。
【0034】
図3に表されている他の実施形態では、コンパートメントは、2つの電解質膜を含んでいる。これら2つの固体電解質膜は、前駆体の2つの面(好ましくは、相互に対向する2つの面)を形成するか、または、閉塞する。このような、2つの負電極を含む「2面式」コンパートメントは、電池内にて1つまたは2つ(好ましくは、2つ)の正電極コンパートメントに関連していてもよく、第1の実施形態に比べて省スペース化を実現している。
【0035】
また、本発明は、上述のコンパートメントの前駆体を使用する、再充電可能な金属空気電池のための負電極コンパートメントの製造方法に関する。
【0036】
本方法は、以下に示す一連のステップを含んでいる。
a)本発明に係るコンパートメントの前駆体の固体電解質膜の外側表面の一部または全部を、負電極の活性物質を形成するアルカリ金属の陽イオンを含む液体電解質に接触させること。
b)電子伝導体および電流コレクタにより形成されている負電極と、アルカリ金属の陽イオンを含む液体電解質に延伸している正電極との間に還元電位を印加すること。
c)負電極コンパートメントの前駆体の電流コレクタと固体電解質膜との間に所望の量のアルカリ金属を設けるための十分な時間に亘り、負電極と正電極との間における当該還元電位を保持すること。
【0037】
リチウム空気電池のための負電極コンパートメントを製造することを意図する場合、液体電解質はLiOHの水溶液であることが好ましく、活性金属がナトリウムである場合、NaOHの水溶液であることが好ましい。液体電解質中のアルカリ金属水酸化物の濃度は、少なくとも1mol.l-1に等しいことが好ましいが、飽和または過飽和に達していてもよい。実際に、液体電解質は、固体状のアルカリ金属水酸化物を含むアルカリ金属水酸化物の水溶液であってもよい。このアルカリ金属水酸化物は、充電時に還元された後に負電極コンパートメントにおける活性金属を形成するアルカリ金属イオンの貯蔵体として機能する。
【0038】
負電極コンパートメントを製造するために使用される正電極は、液体電解質中にて安定しており、かつ、電解質の水酸化物イオンを酸素分子に酸化させるための電位に対して安定している何れの金属または合金であってもよい。これらの金属または合金は、例えば、鉄、ニッケル、および、白金である。
【0039】
負電極と正電極とに印加される還元電位は、−3.5Vから−4.4Vまでの値にて保持されていることが好ましい。具体的に、この電位は、Li金属に還元されるLi+(E0=−3.04V)に対して、および、酸素分子に酸化される水酸化物イオン(E0=+0.4V)に対して、十分に高く(負で)なければならない。この電位は、所望の電荷(好ましくは、1mAh/cm2から10Ah/cm2までの間)を取得するために十分な電流強度を伴い、当該所望の電荷を取得するために十分な時間、印加される。
【0040】
電解質手段によって金属リチウムまたは金属ナトリウムを電極コンパートメントに設ける方法は、対応する陽イオンを還元することによって金属リチウムまたは金属ナトリウムを形成することが、漏れの無いコンパートメントの内側においてのみ実行されるため、すなわち、湿気や空気から遮断されながら実行されるため、制御不要の雰囲気(不活性、無水)中にて実行され得るという利点を有している。これは、ドライルームまたはグローブボックスにおいて確実に実行される必要のある金属リチウムを処理するステップを含んでいる、国際公報第2007/021717号パンフレットに開示されている方法におけるケースではない。
【0041】
本発明は、更に、上述の方法により取得された、または、取得可能な負電極コンパートメントに関する。本発明は、更に、上記により規定されるコンパートメントの前駆体の技術的特性に関する。このようなコンパートメントは、電流コレクタと保護用被膜との間に挿入されている、一般にリチウムまたはナトリウムである活性アルカリ金属のレイヤを備えている。この電極コンパートメントでは、準備プロセスにおいて設けられる、この活性アルカリ金属のレイヤが存在することによって、弾性発泡体のブロックが圧縮される。
【0042】
本発明に係る負電極コンパートメントは、フレキシブルシールが存在しないことにより、および、固体電解質を支えつつ、後者の厚さを減少可能であり、それ故に電池の電気効率を改善可能な硬質フレームが存在するにより、国際公報第2007/021717号パンフレットに記載されている負電極コンパートメントと区別される。
【0043】
最後に、本発明は、
・上述の負電極コンパートメントと、
・上記負電極コンパートメントにおけるアルカリ金属塩(好ましくは、LiOHまたはNaOH)の濃縮水溶液により形成されている液体電解質と、
・正の空気電極と、
・正の酸素遊離電極と、
を備えている再充電可能な金属空気電池にも関する。
【0044】
本発明は、内容が以下に示される添付の図面を参照しながら、以下においてより詳細に記載されている。
【0045】
図1は、本発明に係る負電極コンパートメントの前駆体の断面図である。
【0046】
図2は、図1に表されている前駆体から取得される、本発明に係る負電極コンパートメントの断面図である。
【0047】
図3は、1つではなく2つの固体電解質膜を備えている2面式の負電極コンパートメントの断面図である。
【0048】
図4は、本発明に係る負電極コンパートメントを備えている再充電可能な金属空気電池を表している。
【0049】
図1に表されている負電極コンパートメントの前駆体は、平行六面体形状の硬質ケーシングを備えている。このケーシングは、固体電解質膜2によって、側面の1つが閉塞されている。この固体電解質膜のエッジは、硬質ケーシングの樹脂において固定されている。固体電解質膜2は、内側表面全体に亘り、すなわち、コンパートメントの内部に面している表面全体に亘り、アルカリ金属イオンを伝導する保護用被膜5により覆われている。固体電解質と同様に、この被膜は、硬質ケーシングの壁面において固定されている。電流コレクタ3は、この保護用被膜5上に適合されている。固体電解質膜および保護用被膜とは反対に、この電流コレクタは、ケーシング1の壁面と物理的に接触していない。残存空間の略全ては、圧縮されていない弾性発泡体4により満たされている。電子伝導体6は、電気コレクタ3の表面全体と物理的に、かつ、電気的に接触している。この電子伝導体は、発泡体4のブロックを部分的に包囲しており、ケーシング1の壁面を貫通しコンパートメントの外側に延伸している。
【0050】
図2に表されている負電極コンパートメントは、図1の前駆体から取得されたものであり、結果的に、後者の全てのコンポーネント、すなわち、硬質ケーシング1、保護用被膜5を伴った固体電解質膜2、電流コレクタ3、弾性発泡体4、および、電子伝導体6を備えている。図1の前駆体との本質的な違いは、電気化学的方法によってLiOHを含む水溶性電解質から設けられた、例えば金属リチウムの活性金属層7が存在していることである。この追加された層が存在することによって、弾性発泡体4に圧縮がもたらされる。
【0051】
図3は、図1の負電極コンパートメントの前駆体の変形例を表しており、コンパートメントの2つの面の各々は、固体電解質膜によって形成されている。それ故、この前駆体は、対称的な構造を有している。この前駆体の中心には、2つの電流コレクタ3aおよび3bに接続されている電子伝導体6に、2つの面に亘り接触している弾性発泡体4のブロックが存在している。コンパートメントの内側空間は、固体電解質膜2aおよび2bによって2つの面上に境界を有しており、これら2つの膜の各々は、保護用被膜5aおよび5bによって内側表面の全体に亘り保護されている。
【0052】
最後に、図4は、図2に表されている負電極コンパートメントを含んでいる電池の実施形態を示している。この電池において、固体電解質膜2の外側表面は、その表面全体に亘り、例えばLiOHの濃縮水溶液のような水溶性液体電解質8に接触している。この液体電解質は、2つの正電極に接触している。一方は、電池が放電される間は活性状態である空気電極9であり、他方は、電池が充電される間は活性状態である酸素遊離電極10である。空気電極は、制御された雰囲気、すなわち、二酸化炭素が除去された空気の回路に接触している多孔質電極である。これは、二酸化酸素が、標準的な液体電解質における三重点にて溶解し、空気電極の機能を急速に阻害する不溶性な炭酸塩を形成するので、空気中に二酸化炭素が存在することは空気電極にとって有害であるからである。
【0053】
[実施例1]
(本発明に係る負電極コンパートメントの製造)
固体電解質膜の面の1つがLiPONから成る保護用被膜を伴って被覆されている、LISICONから成る当該固体電解質膜が、製造される電極コンパートメントの大きさを有するシリコン被覆されている金型に設けられている。鉄製の電流コレクタが、(一般には蒸着またはスパッタリングによって)この保護用被膜に堆積される。この電流コレクタの大きさは、LiPON被膜の表面の大きさ未満である。
【0054】
このLISICON/LiPON/電流コレクタアセンブリの2つの面は、この構造のエッジのみを露出させるように、シリコンシートによって予め保護されている。後者が結果的に樹脂壁面に接触することを防ぐために、ここではシリコンシートが電流コレクタの領域よりも広い領域を覆うように注意する必要がある。低温硬化性エポキシ樹脂(エポフィックス)が、その架橋剤と混合され、保護用被膜に覆われている固体電解質膜を含んでいるシリコン被覆されている金型に嵌め込まれる。液体樹脂の嵌め込みは、LISICON/LiPON/電流コレクタ構造が、その全周囲に亘り当該樹脂に保有されるように実行される。換言すれば、当該液体樹脂は、当該膜の全てのエッジを包囲し、LISICON/LiPON/電流コレクタ構造によって形成された面に対して垂直である4つの壁面を硬化後に形成する。保護用シリコンシートが、コンポーネントの前駆体の他のコンポーネントを設ける前の最終段階において除去されることは当然である。
【0055】
鉄製のフレキシブルグリッドが、銀の光沢塗装膜を用いて(鉄製のシートまたは薄層である)当該電流コレクタ上に結合されている。コンパートメントの内側空間の大きさに予め切断されているブラテックスC166ネオプレン発泡体のブロック(ハッチンソン社製)が、この鉄製グリッドの隣に配置される。続いて、この最後に形成された壁面を電子伝導体から貫通することに注意する一方、硬化性液体樹脂(エポフィックス(登録商標))の溶液槽に、当該コンパートメントの依然として開放されている面を浸すことによって、当該コンパートメントは密閉される。
【0056】
当該樹脂の硬化後に、負電極コンパートメントの前駆体が出来上がる。
【0057】
活性金属は、固体電解質膜に接触しているLiOHを含む水溶性電解質から、電気化学的手段によって初期充電時に設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る負電極コンパートメントの前駆体の断面図である。
【図2】図1に表されている前駆体から取得される、本発明に係る負電極コンパートメントの断面図である。
【図3】1つではなく2つの固体電解質膜を備えている2面式の負電極コンパートメントの断面図である。
【図4】本発明に係る負電極コンパートメントを備えている充電可能な金属空気電池を表している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再充電可能な金属空気電池用の負電極コンパートメントの前駆体であって、
(a)少なくとも1つの側面が開放されている硬質樹脂ケーシング(1)と、
(b)上記硬質ケーシングの上記開放されている側面または複数の側面を漏れが無いように完全に閉塞する、アルカリ金属イオンを伝導する少なくとも1つの固体電解質膜(2)と、
(c)上記固体電解質膜(2)の内側表面を好ましくは完全に覆っている、アルカリ金属イオンに対して不活性である少なくとも1つの保護用被膜(5)と、
(d)上記保護用被膜(5)の上記内側表面に対して適合されるか、または、上記保護用被膜(5)の上記内側表面に蒸着される、シート状、被膜状、または、薄板状である少なくとも1つの金属製電流コレクタ(3)であって、上記保護用被膜の上記内側表面の略全てを覆いつつ、上記電流コレクタのエッジでは上記硬質ケーシング(1)に接触していない金属製電流コレクタ(3)と、
(e)上記硬質ケーシングの壁面の1つを漏れが無いように貫通し、上記電流コレクタ(3)に接続されている、グリッド状、または、シート状の少なくとも1つのフレキシブル電子伝導体(6)と、
を備えていることを特徴とする負電極コンパートメントの前駆体。
【請求項2】
1つの固体電解質膜(2)を備えている、
ことを特徴とする請求項1に記載の負電極コンパートメントの前駆体。
【請求項3】
2つの固体電解質膜(2a、2b)を備えており、
上記2つの固体電解質膜は、好ましくは上記負電極コンパートメントの前駆体の2つの対向する面を形成している、
ことを特徴とする請求項1に記載の負電極コンパートメントの前駆体。
【請求項4】
上記電流コレクタ(3)に対して適合され、上記硬質ケーシングの壁面と上記固体電解質(2)とによって規定される内側空間の全てを実質的に満たしている弾性物質(4)の少なくとも1つのブロックを更に備えており、
上記ブロックは、上記電流コレクタが上記固体電解質膜に対して適合され続けるように、上記ブロックの弾力性によって上記電流コレクタに僅かな圧力を加えている、
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の負電極コンパートメントの前駆体。
【請求項5】
上記固体電解質膜(2)は、ナトリウムイオンまたはリチウムイオンを伝導するセラミック膜であって、好ましくはリチウムイオンを伝導するセラミック膜である、
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の負電極コンパートメントの前駆体。
【請求項6】
上記固体電解質膜は、Mが、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbから選択された1つ以上の金属である化学式Li1-x(M,Ga,Al)x(Ge1-yTiy2-x(PO43のセラミック膜であるか、または、0≦x≦3である化学式Na1+xZr2x3-x12のセラミック膜である、
ことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の負電極コンパートメントの前駆体。
【請求項7】
上記固体電解質膜は、30μmから500μmまでの厚さを有しており、好ましくは50μmから160μmまでの厚さを有している、
ことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の負電極コンパートメントの前駆体。
【請求項8】
上記固体電解質膜は、上記膜の表面領域の大部分を自由な状態にする補強構造によって支えられている、
ことを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の負電極コンパートメントの前駆体。
【請求項9】
上記保護用被膜(5)は、Li3N、Li3P、LiI、LiBr、LiF、リン酸リチウム窒化物(LiPON)、または、リン酸ナトリウム窒化物(NaPON)に基づく被膜であって、好ましくはLiPON被膜またはNaPON被膜である、
ことを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の負電極コンパートメントの前駆体。
【請求項10】
上記弾性発泡体(4)のブロックは、ポリ(クロロプレン)発泡体である、
ことを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載の負電極コンパートメントの前駆体。
【請求項11】
銀の光沢塗装膜が、上記電流コレクタ(3)と上記電子伝導体(6)との間の接触領域に適合されている、
ことを特徴とする請求項1から10の何れか1項に記載の負電極コンパートメントの前駆体。
【請求項12】
上記硬質ケーシング(1)は、熱硬化性樹脂または低温硬化性樹脂から成り、好ましくは低温硬化性エポキシ樹脂から成る、
ことを特徴とする請求項1から11の何れか1項に記載の負電極コンパートメントの前駆体。
【請求項13】
再充電可能な金属空気電池用の負電極コンパートメントの製造方法であって、
請求項1から12の何れか1項に記載のコンパートメントの前駆体の上記固体電解質膜の外側表面の一部または全部を、負電極の活性物質を形成するアルカリ金属の陽イオンを含んでいる液体電解質に接触させることと、
上記電子伝導体および上記電流コレクタによって形成されている上記負電極と、上記アルカリ金属の陽イオンを含んでいる上記液体電解質に延伸している正電極との間に還元電位を印加することと、
上記負電極コンパートメントの前駆体の上記電流コレクタと上記固体電解質膜との間に所望の量のアルカリ金属を設けるための十分な時間に亘り、上記負電極と上記正電極との間における上記還元電位を保持することと、
を含んでいることを特徴とする製造方法。
【請求項14】
上記液体電解質は、LiOHまたはNaOHの水溶液である、
ことを特徴とする請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
上記負電極と上記正電極との間における上記電位は、−3.5Vから−4.4Vまでの値に保持されている、
ことを特徴とする請求項13または14に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項13から15の何れか1項に記載の方法によって取得され得る負電極コンパートメントであって、
請求項1から11の何れか1項において規定されている、上記コンパートメントの前駆体の技術的特性に加えて、上記電流コレクタ(3)と上記保護用被膜(5)との間に挿入されている活性アルカリ金属層(7)を備えており、
上記弾性発泡体(4)のブロックが圧縮されている、
ことを特徴とする負電極コンパートメント。
【請求項17】
請求項16に記載の負電極コンパートメントと、
上記負電極コンパートメントに存在しているアルカリ金属塩の濃縮水溶液によって形成されている液体電解質(8)であって、好ましくはLiOHまたはNaOHの濃縮水溶液によって形成されている液体電解質(8)と、
少なくとも1つの正の空気電極(9)と、
少なくとも1つの正の酸素遊離電極(10)と、
を備えていることを特徴とする再充電可能な金属空気電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−506950(P2013−506950A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531476(P2012−531476)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051984
【国際公開番号】WO2011/039449
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(504462489)エレクトリシテ・ドゥ・フランス (25)
【出願人】(390040707)
【氏名又は名称原語表記】SAFT
【出願人】(512082439)アンスティテュ ポリテクニック ドゥ ボルドー (1)
【氏名又は名称原語表記】Institut Polytechnique De Bordeaux
【住所又は居所原語表記】1 Avenue du Dr.Albert Schweitzer,F−33402 Talence Cedex,France
【Fターム(参考)】