説明

金属筐体

【課題】形状デザインに関する制約が少なく歩留まり良く製造可能な金属筐体を提供すること。
【解決手段】本発明の金属筐体は、金属製の筐体本体と、金属粉末7を含む接着剤5により筐体本体に接合されている、筐体構成部品である複数の金属部品2,3,4とを備える。複数の金属部品2,3,4のうちの例えば金属部品3は接着剤5を介して筐体本体と導通しており、他の例えば金属部品2,4は接着剤5を介しては筐体本体と導通していない。金属粉末7は、絶縁樹脂膜8により被覆されてマイクロカプセル化されており、筐体本体と導通している金属部品3と筐体本体との間に介在する接着剤5においては、絶縁樹脂膜8が開裂して金属粉末7が相互に接触することによって、筐体本体と金属部品3とを繋げる電気経路が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノートパソコンやPDAなどの電子機器の筐体として用いることのできる金属筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコンやPDAなどのモバイル電子機器の筐体については、高強度であること、内蔵電子部品の生ずる熱を効率良く発散すること、リサイクル性に優れていることなどが要求される。そして、これらの要求に対処すべく、モバイル電子機器の筐体としては、従来の樹脂筐体から金属筐体が採用されるようになってきた。
【0003】
一方、ノートパソコンやPDAなどのモバイル電子機器においては、小型化および軽量化が進んでいるところ、電子機器の小型化および軽量化を達成するためには、構成部品の小型化および軽量化が必要である。特に、総重量の30%以上を占める場合の多い金属筐体について軽量化すなわち薄肉化を図ることは、重要である。
【0004】
電子機器用の金属筐体を構成する材料としては、マグネシウム(Mg)やアルミニウム(Al)などの軽金属やこれらを主成分とする軽合金が注目されている。特にMgは、構造材として実用され得る単体金属のうち最も比強度が大きく、放熱性についてはアルミニウムに匹敵する程に高く、そのうえ比重についてはAlの約7割と小さい。そのため、MgおよびMg合金は広く注目を集めている。
【0005】
軽金属および軽合金の成形加工方法としては、一般に、板金加工やダイカストが採用される。また、チクソモールディングが採用されることもある。軽金属や軽合金の板金加工により筐体を作製する場合、筐体の側壁などを形成するための絞りが深いほど成形の困難性は増し、形状デザインが制約を受ける傾向にある。また、板金加工のみによっては、筐体本体と、ボスやリブなどの他の筐体構成部品とを同時に形成することはできない。そのため、筐体本体の成形に板金加工を採用する場合、筐体本体および他の筐体構成部品を個別に作製した後、従来の技術においては、これらをネジ止めにより接合することによって筐体全体が形成される。例えば下記の特許文献1および特許文献2には、そのようなネジ止め技術が開示されている。筐体本体に対する他の筐体構成部品のこのようなネジ止め作業は、金属筐体の製造を煩雑化してしまう。
【0006】
【特許文献1】特開平5−49114号公報
【特許文献2】特開平10−107475号公報
【0007】
一方、軽金属や軽合金のダイカストまたはチクソモールディングにより筐体を作製する場合、所定形状を規定する金型に対して溶融状態の原料金属を流し込むことによって、筐体本体と他の筐体構成部品とが同時に一体成形される。そのため、筐体の形状デザインに関する制約は少なく、且つ、ボスやリブなどの筐体構成部品を筐体本体に対して接合する工程を必須としない。しかしながら、金型内に原料金属を流し込むので、金型によって規定されるキャビティが狭いほど、すなわち目的とする筐体が薄肉なほど、一般に成形の困難性が増す。特に、筐体本体とともに他の筐体構成部位を規定する金型では、筐体本体の平板部および当該平板部におけるリブ部やボス部、ならびに側壁部などの各部位に対応するキャビティの厚み寸法において変化に激しく、これに起因して原料金属が金型内を良好に流動できないために、成形体において金属材料が未充填である箇所が生ずる場合がある。そのため、ダイカストやチクソモールディングのみによる金属筐体全体の成形加工を採用すると、金属筐体の製造において歩留まりが低くなる傾向にある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、以上に述べた問題点を解消ないし軽減することを課題とし、形状デザインに関する制約が少なく且つ歩留まり良く製造可能な金属筐体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により提供される金属筐体は、金属製の筐体本体と、金属粉末を含む接着剤により筐体本体に接合されている、筐体構成部品である複数の金属部品とを備える。複数の金属部品のうちの一部の金属部品は接着剤を介して筐体本体と導通しており、残部の金属部品は接着剤を介しては筐体本体と導通していない。金属粉末は、絶縁樹脂膜により被覆されてマイクロカプセル化されており、筐体本体と導通している金属部品と当該筐体本体との間に介在する接着剤においては、絶縁樹脂膜が開裂して金属粉末が相互に接触することによって、筐体本体と金属部品とを繋げる電気経路が形成されている。
【0010】
このような構成の金属筐体は、その製造に際して形状デザインに関する制約が少なく、且つ、歩留まり良く製造可能である。本発明における筐体本体は、金属筐体における主に上面または底面を構成する平板部位に相当し、せん断加工、打抜き加工、および曲げ加工などの板金加工により形成可能である。平板状の筐体本体については、ダイカストなどの成形技術によるよりも板金加工による方が、形状デザインに関して高い自由度で、且つ、より薄肉なものを歩留まり良く作製することができる。一方、本発明における他の筐体構成部品であるボス、リブ、側壁部などの金属部品は、ダイカスト、チクソモールディング、または鍛造などの金型成形技術により形成可能である。特に側壁部については、板金加工によるよりもダイカストやチクソモールディングなどの金型成形技術による方が、容易かつ歩留まり良く作製することができる。また、単純な形状を有するボスやリブなどは、金型成形技術以外の金属加工によっても容易かつ歩留まり良く作製することができる。本発明の金属筐体は、このように筐体本体と金属部品とを個別に作製した後、これらを接着剤で接合することによって得られる。
【0011】
加えて、本発明の金属筐体においては、上述のように、複数の金属部品のうちの一部の金属部品は接着剤を介して筐体本体と導通しており、残部の金属部品は接着剤を介して筐体本体と導通しておらず、金属粉末は絶縁樹脂膜により被覆されてマイクロカプセル化されており、筐体本体と導通している金属部品と当該筐体本体との間に介在する接着剤においては、絶縁樹脂膜が開裂して金属粉末が相互に接触することによって、筐体本体と金属部品とを繋げる電気経路が形成されている。このような構成によると、接着剤中の金属粉末どうしの接触状態を調節することにより、筐体本体および所定の金属部品が当該接着剤を介して電気的に接続している状態または接続していない状態を選択的に設定することができる。その結果、金属筐体に包容される複数の回路系ないしプリント回路基板ごとに、当該筐体とのアース接続の態様を適宜設定することが可能となる。
【0012】
ノートパソコンなどの電子機器においては、機器を構成する電子部品が搭載されているプリント回路基板などは一般に金属筐体のボスやリブを介して金属筐体に対してアース接続されているところ、従来技術においては、このようなアース接続によって、プリント回路基板などは金属筐体の全体に対して導通されている。例えば下記の特許文献3には、そのようなアース接続に関する技術が開示されている。しかしながら、金属筐体においては、特定のプリント回路基板に対しては導通させておくのが望ましい部位が存在するとともに、別のプリント回路基板とは絶縁ないし非導通の状態としておくのが望ましい部位が存在する。そのため、電子機器の金属筐体に包容される電子回路系において、金属筐体に対する従来のアース接続技術によっては、回路設計の自由度が制限されたり、電磁的環境に応じて機器動作に不具合を生ずる場合があった。
【0013】
【特許文献3】特開平7−221482号公報
【0014】
これに対し、上述の本発明の金属筐体においては、例えば、筐体本体と他の筐体構成部品である金属製の側壁部との間に介在する接着剤に含まれる金属粉末の接触状態を調整することによって、筐体本体と側壁部とを非導通の状態とすることができる。その結果、当該金属筐体に包容されている特定のプリント回路基板を筐体本体にアース接続させつつ、当該プリント回路基板と側壁部とを絶縁状態に設定することが可能となるのである。
【0015】
以上のように、本発明の金属筐体の製造においては、筐体本体および金属部品ともに形状デザインに関して高い自由度で歩留まり良く作製することができ、且つ、これらを選択的に導通させつつ接合することができる。したがって、本発明の金属筐体は、形状デザインに関して高い自由度で且つ歩留まり良く製造することが可能なのである。
【0016】
好ましくは、金属粉末は、筐体本体および/または金属部品と同一の金属成分を含んでいる。より好ましくは、金属粉末は、筐体本体および/または金属部品と同一の金属組成を有している。筐体に包容されるプリント回路基板などを筐体本体に対して金属部品を介してアース接続する場合において、接着剤中に含まれる金属粉末とこれに接触する筐体本体または金属部品とが、同一の金属成分を含むか或は同一の金属組成を有すると、それらの界面において電蝕による腐蝕が抑制される。
【0017】
好ましくは、筐体本体および/または金属部品は、Mg、Al、Mg合金、およびAl合金からなる群より選択される金属よりなる。好ましくは、接着剤は、Mg、Al、Mg合金、およびAl合金からなる群より選択される金属の粉末を含む。これら軽金属および軽合金は、筐体の軽量化の観点より好ましい。
【0018】
好ましくは、接着剤は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、およびウレタン樹脂からなる群より選択される樹脂を含む。このような樹脂を含むことにより、筐体本体と金属部品との間において強固な接着硬度を達成することができる。また、接着剤は熱可塑性樹脂を含むのが好ましい。そのような熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリスチレンからなる群より選択されるのが望ましい。接着剤が熱可塑性樹脂を含んでいると、当該接着剤による筐体本体に対する金属部品の接合においてリペア性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1および図2は、本発明に係る金属筐体10を表す。図1は金属筐体10の斜視図であり、図2は、図1の線II−IIに沿った断面図である。金属筐体10は、ノートパソコン筐体としての形態を有し、筐体本体1、側壁部2、ボス3、およびリブ4を有する。筐体本体1は、Mg,Al,Tiなどの軽金属またはこれらを主成分とする軽合金よりなり、0.8mm程度の厚みを有する。側壁部2、ボス3、およびリブ4も、Mg,Al,Tiなどの軽金属またはこれらを主成分とする軽合金よりなり、図2に表すように、各々、筐体本体1に対して導電性接着剤5を介して接合されている。筐体本体1および側壁部2をAlまたはAl合金により作製する場合には、これらの意匠面に対してアルマイト処理などの表面処理を施すことによって、外観の状態を制御することが可能である。また、側壁部2には、ノートパソコンにおけるディスプレイパネルやキーボードアセンブリとの係合を達成するための係合爪や係合穴などが形成されていてもよい。
【0020】
導電性接着剤5は、樹脂分6と金属粒子7とを含む。金属粒子7は、絶縁樹脂膜8により被覆されてマイクロカプセル化されている。樹脂分6としてエポキシ系、アクリル系、またはウレタン系の接着剤材料を用いると、導電性接着剤5において強固な接着強度を得ることができる。特にボス3については、ボス3に対するネジの開け閉めを繰り返しても、筐体本体1の接合面からボス3が剥離しない程度の充分な強度を得ることが可能である。また、本発明においては、樹脂分6の一部として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの熱可塑性樹脂を添加してもよい。導電性接着剤5に熱可塑性樹脂を添加しておくと、筐体本体1と他の筐体構成金属部品との間で一旦固化した後の導電性接着剤5を加熱によって軟化させることが可能となり、その結果、筐体本体1と側壁部2、ボス3、またはリブ4との間においてリペアを行うことができる。導電性接着剤5について、強固な接着強度とリペア性を両立するためには、樹脂分6としては、ニトリルゴム系、クロロプレンゴム系の接着剤材料を用いるのがよい。導電性接着剤5に含まれる金属粒子7は、Mg,Al,Tiなどの軽金属またはこれらを主成分とする軽合金よりなり、筐体本体1、および/または、ボス3やリブ4と同一の金属組成を有する。
【0021】
本実施形態では、筐体本体1とボス3aとの間に介在する導電性接着剤5aは、それらを電気的に接続させる導通状態にある。これに対し、筐体本体1と、側壁部2、ボス3b、およびリブ4との間に介在する導電性接着剤5bは、それらを電気的に絶縁させる非導通状態にある。導通状態にある導電性接着剤5aにおいては、図2における拡大断面図によく表れているように、金属粒子7を被覆する絶縁樹脂膜8の一部は開裂し、金属粒子7どうしは鎖状に接触している。筐体本体1とボス3との間において、このように金属粒子7どうしが連接して電気経路を形成することによって、筐体本体1に対してボス3aが電気的に接続することとなる。一方、非導通状態にある導電性接着剤5bにおいては、金属粒子7どうしはそのようには連接せず、側壁部2、ボス3bまたはリブ4は、筐体本体1に対して電気的に絶縁した状態となる。このような導電性接着剤5の2つの態様は、後述するように、筐体本体1に側壁部2、ボス3およびリブ4を接合する際に、筐体本体1に対してこれらを圧接する力を調節することにより選択的に形成される。
【0022】
このように、本発明の金属筐体10においては、筐体本体1に対して導通するボス3aおよび導通しないボス3bが選択的に設けられている。したがって、金属筐体10ないし筐体本体1に対しては、金属筐体10により包容されるプリント回路基板などを選択的にアース接続することが可能となる。また、本実施形態では筐体本体1と側壁部2との間は絶縁されているため、ボス3aを介して筐体本体1に対してアース接続されているプリント回路基板は、側壁部2に対しては絶縁された状態にある。なお、電気的接続態様について、本発明では側壁部2やリブ4を筐体本体1に対して導通させてもよい。
【0023】
図3から図5は、金属筐体10の製造工程を表す。金属筐体10の製造において、筐体本体1は、図3に示すように板金加工により作製される。具体的には、まず、金属製の板材をせん断加工や打抜き加工することによって、図3(a)に示すように筐体本体1の外形を規定するとともに所定の開口部を形成する。板材は、Mg,Al,Tiなどの軽金属またはこれらを主成分とする軽合金よりなる。次に、打抜き加工された板材に対して曲げ加工を施すことによって、図3(b)に示すように筐体本体1の一部を利用して側壁の一部を形成する。例えばこのような板金加工によって、所定形状の筐体本体1が作製される。
【0024】
他の筐体構成部品である側壁部2、ボス3、およびリブ4は、図4に示すように筐体本体1とは独立して用意される。具体的には、側壁部2は、ダイカスト、チクソモールディング、鍛造などの成形技術により、所定の金型を用いて作製される。原料金属としては、Mg,Al,Tiなどの軽金属またはこれらを主成分とする軽合金を用いる。図4に示す側壁部2は、金型成形後においてバリ取りが施されている。通常、バリ取りは、打抜き加工によりバリを除去する第1バリ取り工程と、バリ除去面を更にヤスリやグラインダなどで研磨する第2バリ取り工程とにより達成されるが、本実施形態においては、側壁部2における筐体本体1との接合面に生ずるバリの除去は従来の第1バリ取り工程のみにより行い、第2バリ取り工程は行わない。第2バリ取り工程を行わないことによって、側壁部2の接合面は、第1バリ取り工程後の粗状態を維持することとなる。
【0025】
ボス3およびリブ4は、Mg,Al,Tiなどの軽金属またはこれらを主成分とする軽合金よりなる棒材や板材を所定長さに切断することによって形成される。ボス3に対しては、タップにより所定の直径のネジ穴が形成される。棒材や板材は、市販材料を利用してもよいし、上述の金型成形技術により成形してもよい。
【0026】
上述のようにして各部品を用意した後、図5(a)に示すように、筐体本体1に対して導電性接着剤5が塗布される。導電性接着剤5は、一液製の接着剤であり、筐体本体1における金属部品接合箇所に塗布される。次に、図5(b)に示すように、側壁部2、ボス3、およびリブ4を筐体本体1に対して接着する。接着においては、まず、各金属部品を筐体本体1に対して載置し、必要に応じてこれらを筐体本体1に対して押圧することにより仮接着を行う。そして、所定温度の恒温槽に入れて導電性接着剤5を加熱することによって、導電性接着剤5の硬化反応を促進する。
【0027】
本実施形態では、導電性接着剤5は、絶縁樹脂膜8により被覆されている金属粒子7を含む。これに対し、本発明では、絶縁樹脂膜により被覆されずに接着剤樹脂成分に露出する金属粒子を含む導電性接着剤を用いてもよい。そのような導電性接着剤を用いる場合、筐体本体1と他の全ての筐体構成金属部品とは、当該導電性接着剤を介して導通することとなる。
【実施例1】
【0028】
金属部品としては、係合部付きの側壁部と所定数のボスを作製した。側壁部は、Mg合金(AZ91D)のチクソモールディングにより成形し、金型による成形工程において生じたバリはプレス加工により打ち抜いて除去した。ボスは、直径5mmの棒状のMg合金(AZ91D)を長さ10mmに切断し、タップにより中心に直径2.5mmのネジ穴を形成した。一方、板厚0.8mmのMg合金(AZ31D)の板材から、板金加工により筐体本体を作製した。作製の後、筐体本体における所定箇所、すなわち側壁部接合箇所およびボス接合箇所に導電性接着剤を塗布した。本実施例の導電性接着剤は、主剤としてのエポキシ樹脂(商品名:アラルダイト、日本チバガイギー製)に対して、平均粒径約10μmのMg粉末を10wt%の濃度で含む一液製の接着剤である。次に、導電性接着剤を塗布した筐体本体に対して、上述の係合部付き側壁部およびボスを当該接着剤を介して載置し、仮接着した。側壁部およびボスの仮接着では、筐体本体と側壁部およびボスとの接合面において5kgf/cm2の圧力が加わるように側壁部およびボスを押圧した。仮接着の後、温度60℃の恒温槽に入れて接着剤の硬化を促進した。その結果、本実施例の金属筐体が得られた。
【0029】
このようにして作製された金属筐体におけるボスと筐体本体とは導通していることが確認された。すなわち、各ボスを筐体本体に対してアース接続することができた。また、側壁部と筐体本体とも導通していることが確認された。これは、接着剤に添加したMg合金粉末が、お互いに接触するためである。本実施例の金属筐体においては、筐体本体、接着剤中の金属粉末、ならびに、金属部品(側壁部およびボス)は、全てMg合金製であって同一金属を主成分としているため、電蝕による腐食は抑制されている。また、ボスのネジ穴に対して、ネジ締めトルクを34Ncmとして直径2.5mmのネジにより繰り返しネジ締めを行い、ネジの空回り、ネジ山のかけ、または、ボス金属部品の剥離を調べたところ、繰り返し数10回のネジ締めを行っても、これらの問題は発生しなかった。
【0030】
また、上述のように、金型成形後の金属部品のバリ取りとしては、通常、打抜き加工によるいわゆる第1バリ取り工程と、ヤスリがけによるいわゆる第2バリ取り工程とが行われる。これに対し、本実施例の側壁部については、バリ取りとして、打抜き加工によるバリ取り工程の後にヤスリがけを行ってはいない。そのため、側壁部における筐体本体との接合面には、打抜き加工後においても微小な凹凸が残存したままであり、この微小の凹凸によって、筐体本体と側壁部との接合部においてアンカー効果が得られ、筐体本体に対する側壁部の接合が強固となった。このように、本実施例では、バリを完全に除去する必要がないため、金属筐体の製造において作業工程が簡略化し、製造コストを低減することが可能である。
【実施例2】
【0031】
金属部品としては、係合部付きの側壁部と所定数のボスを作製した。側壁部は、Al合金(ADC12)のダイカストにより成形し、金型による成形工程において生じたバリはプレス加工により打ち抜いて除去した。この後、側壁部の意匠面にはスプレー塗装を施した。ボスは、直径5mmの棒状のMg合金(AZ91D)を長さ10mmに切断し、タップにより中心に直径2.5mmのネジ穴を形成した。一方、筐体本体については、まず、板厚0.7mmのAl合金(A5052)の板材をアルマイト処理することによって着色した。次に、このAl合金板から板金加工により筐体本体を作製した。作製の後、筐体本体における所定箇所、すなわち側壁部接合箇所およびボス接合箇所に導電性接着剤を塗布した。本実施例の導電性接着剤は、主剤としてのアクリル樹脂(商品名:ダイヤボンド、ノガワケミカル製)に対して、平均粒径約10μmのポリエチレン粉末を10wt%の濃度で含み、平均粒径約10μmのAl合金(A1100)粉末を10wt%の濃度で含む一液製の接着剤である。次に、導電性接着剤を塗布した筐体本体に対して、上述の係合部付き側壁部およびボスを当該接着剤を介して載置し、仮接着した。側壁部およびボスの仮接着では、筐体本体と側壁部およびボスとの接合面において5kgf/cm2の圧力が加わるように側壁部およびボスを押圧した。仮接着の後、温度60℃の恒温槽に入れて接着剤の硬化を促進した。その結果、本実施例の金属筐体が得られた。
【0032】
このようにして作製された金属筐体におけるボスと筐体本体とは導通していることが確認された。すなわち、各ボスを筐体本体に対してアース接続することができた。また、側壁部と筐体本体とも導通していることが確認された。これは、接着剤に添加したAl合金粉末が、お互いに接触するためである。また、ボスの強度試験については、実施例1と同様の結果が得られた。また、筐体本体と側壁部の接合については、実施例1と同様に、微小な凹凸の存在によりアンカー効果を得ることができ、接合強度は良好であった。また、本実施例の金属筐体を100℃の恒温槽に入れて30分間放置すると、側壁部およびボスは、筐体本体から容易に分離することができた。すなわち、本実施例の金属筐体における筐体本体と金属部品との間には、適切なリペア性が付与されていた。
【実施例3】
【0033】
金属部品としては、係合部付きの側壁部と所定数のボスを作製した。側壁部は、Mg合金(AZ91D)のダイカストにより成形し、金型による成形工程において生じたバリはプレス加工により打ち抜いて除去した。ボスは、直径5mmの棒状のAl合金(A5052)を長さ10mmに切断し、タップにより中心に直径2.5mmのネジ穴を形成した。一方、板厚0.7mmのAl合金(A5052)の板材から、板金加工により筐体本体を作製した。作製の後、筐体本体における所定箇所、すなわち側壁部接合箇所およびボス接合箇所に導電性接着剤を塗布した。本実施例の導電性接着剤は、主剤としてのウレタン樹脂(商品名:モーフェン、住友バイエルウレタン製)に対して、エポキシ樹脂により被覆されてマイクロカプセル化されている平均粒径約10μmのAl合金(A1100)粉末を10wt%の濃度で含む一液製の接着剤である。次に、導電性接着剤を塗布した筐体本体に対して、上述の係合部付き側壁部およびボスを当該接着剤を介して載置し、仮接着した。ボスの仮接着では、筐体本体とボスとの接合面において5kgf/cm2の圧力が加わるようにボスを押圧した。一方、側壁部の仮接着では、筐体本体と側壁部との接合面において1kgf/cm2の圧力が加わるように側壁部を押圧した。仮接着の後、温度60℃の恒温槽に入れて接着剤の硬化を促進した。その結果、本実施例の金属筐体が得られた。
【0034】
このようにして作製された金属筐体におけるボスと筐体本体とは導通していることが確認された。すなわち、各ボスを筐体本体に対してアース接続することができた。一方、側壁部と筐体本体は絶縁していることが確認された。これは、接着剤中のマイクロカプセル化されたAl合金粉末が、筐体本体とボスとの間の接着剤においては加圧力によりマイクロカプセルを破断して相互に接触し、筐体本体と側壁部との間の接着剤においては相互に絶縁した状態をとるためである。また、ボスの強度試験については、実施例1と同様の結果が得られた。また、筐体本体と側壁部の接合については、実施例1と同様に、微小な凹凸の存在によりアンカー効果を得ることができ、接合強度は良好であった。
【0035】
以上、本発明によると、形状デザインに関する制約が少なく歩留まり良く製造可能な金属筐体を得ることができる。また、当該金属筐体の製造における筐体本体と金属部品との間の接着剤による接合について、接合押圧力を調節することにより、筐体本体と金属部品との導通・非導通を選択することができる。その結果、本発明の金属筐体に包容されるプリント回路基板などについて、筐体本体に対するアース接続の有無およびアース接続部位を選択的に設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る金属筐体を表す。
【図2】図1の線II−IIに沿った断面図である。
【図3】図1の金属筐体の製造工程を説明するための図である。
【図4】図1の金属筐体の製造工程を説明するための図である。
【図5】図3および図4に続く工程を表す。
【符号の説明】
【0037】
10 金属筐体
1 筐体本体
2 側壁部
3 ボス
4 リブ
5 導電性接着剤
6 樹脂分
7 金属粒子
8 絶縁性樹脂膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の筐体本体と、
金属粉末を含む接着剤により前記筐体本体に接合されている、筐体構成部品である複数の金属部品と、を備え、
前記複数の金属部品のうちの一部の金属部品は前記接着剤を介して前記筐体本体と導通しており、残部の金属部品は前記接着剤を介しては前記筐体本体と導通しておらず、
前記金属粉末は、絶縁樹脂膜により被覆されてマイクロカプセル化されており、前記筐体本体と導通している金属部品と当該筐体本体との間に介在する接着剤においては、前記絶縁樹脂膜が開裂して前記金属粉末が相互に接触することによって、前記筐体本体と前記金属部品とを繋げる電気経路が形成されている、金属筐体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−93737(P2006−93737A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340425(P2005−340425)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【分割の表示】特願2002−51844(P2002−51844)の分割
【原出願日】平成14年2月27日(2002.2.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】