説明

金属箔用通電ロール

【課題】厚み30μm以下の金属箔の電気メッキ処理において、通電ロールと金属箔との間の通電量を増大させて電気メッキ処理の性能向上を図ることが可能な金属箔用通電ロールを提供する。
【解決手段】通電ロール10とバックアップロール11は、一対の不溶性電極14の出入口近傍にそれぞれ設置されている。通電ロール10は金属製とされ、電源17を介してブスバー13と接続されている。通電ロール10のロールたわみ率は0.04mm/kg以上0.05mm/kg以下、且つ通電ロール10のロール表面粗度は0.2μm以上0.3μm以下とされている。これにより、通電ロール10と金属箔Sとの間の通電量が30A/mm〜35A/mmに増大し、高品質のメッキが可能となると共に、電気メッキセル20の総数を大幅に削減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚み30μm以下の金属箔の電気メッキ処理に使用される金属箔用通電ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
不溶性電極方式の横型電気メッキセルは、水平方向に搬送される金属箔を挟んで対向配置された一対の不溶性電極と、一対の不溶性電極の出入口近傍にそれぞれ配置された通電ロール及びバックアップロールとを備え、一対の不溶性電極間はメッキ液で満たされている。一対の不溶性電極を陽極、通電ロールを介して通電される金属箔を陰極として電圧を印加すると、陰極で還元反応が起こり、金属箔にメッキ皮膜が形成される。
【0003】
通電ロールと金属箔との間の均一な接触が阻害されて接触面積が減少した場合、電流密度が局部的に集中し、アークスポットと呼ばれるメッキ異常部が発生しやすくなる。また、通電ロールの表面が粗くなると、ロール表面模様が金属箔へ転写されるおそれがある。特に、厚み30μm以下の金属箔では高い表面品質が要求されるため、通電ロールの表面粗度が重要となる。そこで、特許文献1では、ガスレーザなどの高密度エネルギー源を用いて、ロール表面の中心線平均粗さRa、最大高さRmax、及び10点平均粗さRzを所定範囲内に調整することで、帯鋼(金属箔)面におけるアークスポットの発生を抑止するコンダクタロール(通電ロール)の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−129996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通電ロールと金属箔とが均一に接触するためには、上述した通電ロールの表面粗度に加えて、通電ロールの剛性が重要となる。通電ロール50をバックアップロール51に押し付けて金属箔Sに通電する際、図5に示すように、通電ロール50の剛性が低いと、通電ロール50が変形し、通電ロール50と金属箔Sとの間に間隙が生じる。その結果、通電ロール50と金属箔Sとの間の電気抵抗が増大し、通電量が頭打ちとなる。因みに、厚みが30μm以下の金属箔を電気メッキ処理した場合、金属箔の板幅1mm当たり2A程度の通電量となる。このため、従来の電気メッキ設備では、数多くの電気メッキセルを連設する必要があった。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、厚み30μm以下の金属箔の電気メッキ処理において、通電ロールと金属箔との間の通電量を増大させて電気メッキ処理の性能向上を図ることが可能な金属箔用通電ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、厚み30μm以下の金属箔の電気メッキ処理に使用される金属箔用通電ロールであって、ロールたわみ率が0.04mm/kg以上0.05mm/kg以下、且つロール表面粗度が0.2μm以上0.3μm以下であることを特徴としている。
【0008】
ここで、「ロールたわみ率」は、両端が支持された通電ロールのロール部に総重量1kgの等分布荷重を負荷した場合の支点間中央のたわみ量のことである。また、「ロール表面粗度」は、JIS B0601で規定されている算術平均粗さRaのことである。
【0009】
本発明では、高い表面品質が要求される厚み30μm以下の金属箔を対象としており、通電ロールと金属箔との間の通電量を増大させることにより電気メッキ処理の性能向上を図るものである。具体的には、通電ロールのロールたわみ率を0.04mm/kg以上0.05mm/kg以下、且つロール表面粗度を0.2μm以上0.3μm以下とすることにより、通電ロールと金属箔との間の通電量を30A/mm〜35A/mmに増大させることができる。なお、「A/mm」は、金属箔の板幅1mm当たりの電流値を表している。
【0010】
また、本発明に係る金属箔用通電ロールでは、前記金属箔が銅箔あるいはアルミニウム箔、且つメッキが錫メッキであることを好適とする。
【発明の効果】
【0011】
通電ロールのロールたわみ率を0.04mm/kg以上0.05mm/kg以下、且つロール表面粗度を0.2μm以上0.3μm以下とすることにより、通電ロールと金属箔との間の通電量を30A/mm〜35A/mmに増大することができる。その結果、電気メッキ処理の性能が向上し、高品質のメッキが可能となると共に、電気メッキセルの総数を大幅に削減することができる。加えて、ロール表面模様の金属箔への転写も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る金属箔用通電ロールを用いた不溶性電極方式の横型電気メッキセルの模式図である。
【図2】ロールたわみ率を説明するための模式図である。
【図3】ロールたわみ率と通電量との関係を示すグラフである。
【図4】ロール表面粗度と通電量との関係を示すグラフである。
【図5】通電ロールの変形を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
【0014】
図1に、本発明の一実施の形態に係る金属箔用通電ロール10を用いた不溶性電極方式の横型電気メッキセル(以下では、単に「電気メッキセル」と呼ぶ。)20の模式図を示す。電気メッキセル20は、水平方向に搬送される金属箔Sを挟んで対向配置された一対の不溶性電極14と、金属箔Sの上面に摺接する通電ロール10と、通電ロール10と同じ位置で金属箔Sの下面に摺接するバックアップロール11とを備えている。
【0015】
各不溶性電極14は平板状とされ、対向面の中央部には、メッキ液16を吐出するための液供給口15が設けられている。また、対向面の裏側には、ブスバー13と呼ばれる導電体が装着されている。
【0016】
通電ロール10とバックアップロール11は、一対の不溶性電極14の出入口近傍にそれぞれ設置されている。通電ロール10は金属製とされ、電源17を介してブスバー13と接続されている。通電ロール10のロールたわみ率は0.04mm/kg以上0.05mm/kg以下、且つ通電ロール10のロール表面粗度は0.2μm以上0.3μm以下とされている。
一方、バックアップロール11は、ウレタンゴム等で被覆されたゴムロールである。各バックアップロール11の直下には、液供給口15から吐出されたメッキ液16を貯留するための液受タンク12が設置されている。
【0017】
ロールたわみ率は、図2に示すように、両端部10bが支持された通電ロール10のロール部10aに総重量1kgの等分布荷重wを負荷した際の支点間中央のたわみδをいう。なお、たわみδには、通電ロール10の自重によるたわみは含んでいない。
【0018】
一方、ロール表面粗度は、JIS B0601で規定されている算術平均粗さRaのことであり、(1)式で定義される。(1)式において、Zは凹凸の高さ、Lは測定長さである。
【0019】
【数1】

【0020】
一対の不溶性電極14を陽極、通電ロール10を介して通電される金属箔Sを陰極として電圧を印加すると、陰極で還元反応が起こり、メッキ液16に含まれる金属イオンが析出し、金属箔Sにメッキ皮膜が形成される。対象とする金属箔Sは、厚み30μm以下3μm以上の銅やアルミニウム及びそれらの合金などである。また、メッキ皮膜としては錫や亜鉛、ニッケルなどが挙げられる。
【0021】
[実施例]
金属箔として厚さ30μmの銅箔を用い、通電ロールのロールたわみ率とロール表面粗度をパラメータとして実施した錫メッキ試験について説明する。
試験に使用した通電ロールの諸元は以下の通りである。
ロール部の外径:250mm、ロール部の長さ:1200mm、支点間距離:1500mm
【0022】
厚さ30μm以下の金属箔を電気メッキ処理する場合、通電ロールと金属箔との間の通電量を30A/mm以上とすることにより、電気メッキセルの総数を従来の1/10とすることができる。一方、通電量が35A/mmを超えると、メッキ面に「ヤケ」と称する品質不良が発生する。そこで、本発明では、通電量の最適値を30A/mm〜35A/mmとし、上記最適値を満たす、通電ロールのロールたわみ率とロール表面粗度を求めた。
【0023】
図3にロールたわみ率と通電量との関係を、図4にロール表面粗度と通電量との関係をそれぞれ示す。なお、ロールたわみ率と通電量との関係について試験した際は、ロール表面粗度を0.3μmとし、ロール表面粗度と通電量との関係について試験した際は、ロールたわみ率を0.05mm/kgとした。また、図中の実線は、試験結果から算出された回帰曲線である。これらの図から、通電ロールのロールたわみ率を0.04mm/kg以上0.05mm/kg以下、ロール表面粗度を0.2μm以上0.3μm以下とした場合、通電量が30A/mm〜35A/mmとなることがわかる。
【0024】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態では、横型電気メッキセルについて説明したが、竪型電気メッキセルでもよい。
【符号の説明】
【0025】
10:通電ロール、10a:ロール部、10b:端部、11:バックアップロール、12:液受タンク、13:ブスバー、14:不溶性電極、15:液供給口、16:メッキ液、17:電源、20:電気メッキセル、S:金属箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み30μm以下の金属箔の電気メッキ処理に使用される金属箔用通電ロールであって、
ロールたわみ率が0.04mm/kg以上0.05mm/kg以下、且つロール表面粗度が0.2μm以上0.3μm以下であることを特徴とする金属箔用通電ロール。
【請求項2】
請求項1記載の金属箔用通電ロールにおいて、前記金属箔が銅箔あるいはアルミニウム箔、且つメッキが錫メッキであることを特徴とする金属箔用通電ロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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