説明

金属線へのひずみ印加装置

【課題】
従来のひずみ測定装置位では、ひずみ印加治具の距離が近づく方向に移動させると超伝導線が座屈し、長手方向に均一な圧縮ひずみを印加することが不可能であった。
【解決手段】
弾性変形可能な材質でできた馬蹄形状したリングの外側面及び/又は内側面に超伝導線を取り付け、馬蹄形状の開口部に位置するお互いに向かい合う2点間の距離(a)を変化させる並進力により、長手方向に均一な圧縮又は引張りひずみを超伝導線に印加させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
金属線、特に、NbSnを始めとする産業応用されている多くの超伝導線は、圧縮又は引張りひずみにより影響され、本来的に超伝導特性が変化し、かつその影響の感受性は超伝導線の製法により異なる。このため、ひずみに対する超伝導特性の影響の評価が必要とされる。本発明の構造は、超伝導線の長手方向の圧縮又は引張りひずみに対する超伝導特性の影響を評価する測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長手方向に均一な引張りひずみを超伝導線に印加できる引張り構造として、図2に示されるように、超伝導線の両端部を治具に固定し、片方の治具を固定した状態でもう一方の治具を超伝導線に平行方向であって両治具の距離が離れる方向に移動させる引張り構造が知られている。又、長手方向に均一な引張りひずみをNbSn超伝導線に印加する装置と、ひずみが臨界電流値に与える影響の測定結果も報告されている(非特許文献1)。
【非特許文献1】J.W.Ekin, “Strain scaling law for flux pining in practical superconductors”, Cryogenic vol. 20, p. 611-624, ipc science and technology press.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この構造では、両治具の距離が近づく方向に移動させると超伝導線が座屈し、長手方向に均一な圧縮ひずみを印加することが不可能であった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を解決するものとして、図1に示されるように、弾性変形可能な材質でできた馬蹄形状したリングの外側面及び/又は内側面に超伝導線を半田等の結合手段により取り付け、馬蹄形状の開口部に位置するお互いに向かい合う2点間の距離(a)を並進力を作用させることにより変化させ、長手方向に均一な圧縮又は引張りひずみを超伝導線に印加させることができる装置構造のものである。
【0005】
馬蹄形状とすることにより、2点間の距離(a)を変化させた時に、各部に生ずる曲げひずみとリング周方向の軸ひずみの合計を、リング外側面又は内側面で均一化することができ、表面に取り付けた超伝導線に長手方向に均一(又は一定)な圧縮又は引張りひずみを超伝導線に印加させることができる。
【0006】
即ち、2点間の距離を変化させることにより、リングには曲げモーメント(M)と周方向の軸ひずみ(εaxi)が生じる。Mはリング両端部で最小となり、リング中央部(図4のθ=180°)で最大となる。リング側面の各部の曲げひずみ(εmax)の大きさは、その場所のリングの幅(h)を用いて、M/h2に近似的に比例する。又、周方向の軸ひずみは、リング中央部で最大となり、リング中間部(図4のθ=90°又は270°)で最小となる。リング側面のひずみの大きさはεmax+εaxiで表されるが、hを連続的に変化させる馬蹄形状とすることによりεmax+εaxiをθに因らず一定とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
弾性変形可能な材質であり、且つ金属線、特に、超伝導線を半田付けすることが可能である金属を用いて馬蹄形状にしたリングを製作することが現実的である。金属の場合、弾性係数が大きいため図1の開口部に位置する2点間の距離を変化させるには大きな力が必要とされる。そこで、図3に示されるように、両端部に金属製のピンを設け、更にピンを支えるため、開口部に位置するリングの両端部を局所的に大きくした馬蹄形状として、2つのピン間に距離を変化させる装置構造とすることにより、大きな力を伝えやすくすることが可能である。
【0008】
超伝導線の超伝導特性を調査するためには、超伝導線に電流を流す必要があるため、超伝導線の両端部は、図3の様にリングから離れた形状とし、端部に電流導入部を取り付けやすい装置構造とする。
【実施例】
【0009】
図3に示す、両端部を局所的に大きくし両端部にピンを設けた馬蹄形状リングを製作した。その製作されたリングは、図4に示す中心円の直径を60mmとし、対称軸線から角度θに位置するピンの近傍を除いたリングの幅hを、図5に示すように連続的に変化させたベリリウム銅製の厚さ3mmの馬蹄形状リングを製作した。
【0010】
本馬蹄形状リングの外側面に半田を用いてNb3Al超伝導線を取り付け、5Kまで冷却した状態で、印加したひずみが超伝導特性に与える影響の測定を実施した。
図6に、ひずみが超伝導特性としての臨界電流値に与える影響の測定結果を示す。臨界電流値は超伝導状態を維持して超伝導線に流すことができる最大電流値である。その大きさは超伝導線の周りの環境の磁場の大きさによっても変化するので、図6では、測定を行った時の磁場の値を単位T(ステラ)で示した。このようにひずみに対する超伝導特性の影響の評価を本発明の馬蹄形状リングを備えた装置により可能にした。
[発明の効果]
【0011】
本発明の馬蹄形状リングの開口部に位置するお互いに向かい合う2点間の距離(a)を変化させることにより、そのリングの側面に取り付けられたNb3Al超伝導線にその長手方向に均一な圧縮又は引張りひずみを印加させた場合、そのひずみが、ー0.8%の圧縮ひずみから0.4%の引張りひずみまで変化させた際には、磁場12Tにおける超伝導線に及ぼす臨界電流値が、図6に示されるように、変化する。
【0012】
したがって、本発明においては、馬蹄形状のリングを使用し、その側面に取り付けられた超伝導線に電流を流しながらひずみに対応するその臨界電流値を測定することにより、ひずみが超伝導線特性としての臨界電流値に与える影響を測定することができる、という本発明に特有の顕著な効果を生ずる。
【産業状の利用可能性】
【0013】
本発明の装置は、超伝導線のひずみの影響測定する場合だけでなく、その他の電線等の種々の金属線のひずみの影響測定においても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の馬蹄形状をしたリングと開口部に位置するお互いに向かい合う2点間の距離aを示す図である。
【図2】従来の引張り治具において、長手方向に均一な引張りひずみを超伝導線に印加できる装置を示す図である。
【図3】本発明の両端部に金属製のピンを取り付けた馬蹄形状のリングの構造、及び超伝導線の端部に電流導入部を取り付けやすい超伝導線の取り付け構造を示す図である。
【図4】本発明の馬蹄形状のリングの中心円、リング円の中止点、リングの幅h、対称軸線、及び対称軸線からの角度 の関係を示す図である。
【図5】本発明の馬蹄形状リングの幅hと対称軸線からの角度θを示す図である。
【図6】本発明の馬蹄形状リングにおいて、ひずみが超伝導線特性としての臨界電流値に与える影響の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に均一で可変的な圧縮及び/又は引張りひずみを金属線又は金属線の集合体に印加するためのひずみ印加装置において、そのひずみ印加部が馬蹄形状のリングであり、そのリングの開口部の大きさを変化させることができ、且つそのリングの幅が連続的に変化していることを特徴とする前記装置。
【請求項2】
金属線が超伝導線である、請求項1記載の装置。
【請求項3】
金属線に電流を流すとともに金属線にひずみを印加し、その臨界電流値を測定することにより、ひずみが臨界電流値に与える影響を測定することができる、請求項1又は2記載の装置。

















【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−132690(P2007−132690A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323315(P2005−323315)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】