説明

金属表面処理方法

【課題】鉄系材料を含む金属材料を表面処理する際に、鉄スラッジが生じても、優れた性能の化成皮膜を形成させることができる金属表面処理方法の提供。
【解決手段】ジルコニウム/チタンのイオン、フッ化物イオンおよび全フッ素を特定量含有する、pH3.0〜6.0の金属表面処理液を、鉄系材料を含む金属材料の表面に接触させる表面処理工程と、その後、金属表面処理液のpHを0.1〜3.0低下させて、表面処理工程において金属表面処理液中に発生した鉄スラッジに含まれるジルコニウム/チタンを、金属表面処理液中に溶解させるpH低下工程と、その後、金属表面処理液から鉄スラッジを除去する鉄スラッジ除去工程と、その後、鉄スラッジを除去された金属表面処理液を回収して、表面処理工程に供給する回収供給工程とを循環して行い、表面処理工程における金属表面処理液の鉄スラッジ濃度を500ppm以下に維持する、金属表面処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面に塗装後の耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させる手法として、リン酸亜鉛処理方法やクロメート処理方法が、現在一般に用いられている。このうち、リン酸亜鉛処理方法は、リン酸亜鉛を含有する処理液を金属表面に接触させる方法であり、熱延鋼板、冷延鋼板等の鋼、亜鉛めっき鋼板、一部のアルミニウム合金等に耐食性に優れる皮膜を析出させることができる。
しかしながら、リン酸亜鉛処理を行う際には、反応の副生成物であるリン酸亜鉛、リン酸鉄等のスラッジが処理液中に多量に発生する。スラッジが発生することにより処理液中の有効成分濃度が低下し、得られる皮膜の耐食性に悪影響を及ぼす。
また、金属表面にスラッジが付着すると、塗装後の外観が悪化したり、スラッジが処理設備に付着してメンテナンス性が悪化したりすることがある。
更に、スラッジが発生すると、発生したスラッジの廃棄や、処理液中の濃度が低下した有効成分の補給が必要となり経済的にも不利である。
更に、アルミニウム合金の種類によっては塗装後の耐糸錆性を十分に確保できない。
【0003】
一方、アルミニウム合金に対しては、クロメート処理を施すことによって十分な塗装性能を確保することが可能であるが、昨今の環境規制から処理液中に有害な6価クロムを含むクロメート処理は敬遠される方向にある。そこで、処理液中に有害成分を含まない表面処理方法として、種々の方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、特定の金属アセチルアセトネートと、水溶性無機チタン化合物及び水溶性無機ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を1:5000〜5000:1の重量比で含有することを特徴とする金属表面処理用組成物により、塗装後の耐食性および密着性に優れる表面処理皮膜を析出させる手法が提案されている。この手法を用いれば、表面処理の対象となる金属材料として、アルミニウム合金以外に、マグネシウム合金、亜鉛および亜鉛めっき合金を用いることができる。
しかしながら、特許文献1に記載の手法では、冷延鋼板等の鉄系材料表面に表面処理皮膜を析出させることは不可能であった。
【0005】
これに対して、特許文献2には、アルミニウム系材料以外に鉄系材料にも表面処理することができる方法が提案されている。具体的には、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオン、並びに、フッ素イオンを含有してなる金属化成処理剤によって金属表面を処理する金属化成処理方法であって、前記金属化成処理剤は、前記ジルコニウムイオン及び/又は前記チタニウムイオンの含有量が、質量基準で20〜500ppmであり、前記フッ素イオンの含有量が、前記ジルコニウムイオン及び/又は前記チタニウムイオンに対して、モル比で6倍以上であり、実質的にリン酸イオンを含有せず、pHが2〜5であり、前記金属化成処理方法は、処理中の金属化成処理剤中の鉄イオン濃度を25ppm以下に制御するものであることを特徴とする金属化成処理方法が提案されている。この方法は、有害成分である6価クロムを含まない金属化成処理剤を用いて、鉄、アルミ、亜鉛等の金属表面に塗装後の耐食性および密着性に優れた表面処理皮膜を得ることを目的としている。
【0006】
また、特許文献3にも、アルミニウム系材料以外に鉄系材料にも表面処理することができる方法が提案されている。具体的には、鉄系材料、亜鉛系材料、アルミニウム系材料及びマグネシウム系材料から選ばれる金属材料をそれぞれ単独で或はその2種以上を同時に表面処理するための水系表面処理液であって、ジルコニウム化合物及びチタニウム化合物から選ばれる1種以上の化合物を上記金属元素として5〜5000ppm含み、また遊離フッ素イオンを0.1〜100ppm含み、且つpHが2〜6であることを特徴とする金属の金属表面処理液が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−199077号公報
【特許文献2】特開2004−43913号公報
【特許文献3】特開2004−190121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、以下のことが分かった。即ち、特許文献2に記載の方法においては、処理液中の鉄イオンは鉄系材料がエッチングされることにより生じるので、その濃度を25ppm以下に管理するのが困難である。また、鉄イオンを除去するための大規模な設備が必要であり、多額のランニングコストがかかる。更に、鉄イオンを除去してその濃度を25ppm以下にする際に、処理液中の有効成分も一緒に除去してしまい、化成皮膜の性能に悪影響を及ぼすことがあると推測される。
【0009】
また、特許文献3に記載の処理液を用いた場合、鉄イオンの影響をほとんど受けないため蓄積する鉄イオンの影響を考慮せずに、各種金属材料に塗装後の耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させることができる。
しかしながら、特許文献3に記載の金属表面処理液は、鉄を含有する被処理金属の処理量が多いと、溶出した鉄イオンが酸化されて水酸化鉄である鉄スラッジを析出させることがある。鉄スラッジが析出すると、特許文献2に記載の方法と同様の問題が生じうる。
【0010】
したがって、本発明は、鉄系材料を含む金属材料を表面処理する金属表面処理方法であって、鉄スラッジが生じても、優れた性能の化成皮膜を形成させることができる金属表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属のイオンを5〜5000ppm含有し、フッ化物イオンを0.1〜100ppm含有し、全フッ素濃度が100〜50000ppmである、pH3.0〜6.0の金属表面処理液を用いて、金属材料の表面を処理する際に、表面処理工程後に前記金属表面処理液のpHを特定範囲で低下させ、その後、鉄スラッジを除去することにより、系外に持ち出されてしまう金属表面処理液中の有効成分の量を少なくすることができ、その結果、表面処理を循環処理しても優れた性能の化成皮膜を得ることが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(3)を提供する。
(1)鉄系材料を含む金属材料を表面処理する金属表面処理方法であって、
ジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属のイオンを5〜5000ppm含有し、フッ化物イオンを0.1〜100ppm含有し、全フッ素濃度が100〜50000ppmである、pH3.0〜6.0の金属表面処理液を前記金属材料の表面に接触させる表面処理工程と、
前記表面処理工程後、前記金属表面処理液のpHを0.1〜3.0低下させて、前記表面処理工程において前記金属表面処理液中に発生した鉄スラッジに含まれる前記ジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属を、前記金属表面処理液中に溶解させるpH低下工程と、
前記pH低下工程後、前記金属表面処理液から前記鉄スラッジを除去する鉄スラッジ除去工程と、
前記鉄スラッジ除去工程後、前記鉄スラッジを除去された前記金属表面処理液を回収して、前記表面処理工程に供給する回収供給工程と
を循環して行い、
前記表面処理工程における前記金属表面処理液の鉄スラッジ濃度を500ppm以下に維持する、金属表面処理方法。
(2)前記鉄スラッジ除去工程の前において、または前記鉄スラッジ除去工程において、前記金属表面処理液に、凝集剤および/または酸化剤を添加する、上記(1)に記載の金属表面処理方法。
(3)前記金属材料が、鉄系材料、または、鉄系材料と、亜鉛系材料、アルミニウム系材料およびマグネシウム系材料からなる群から選ばれる1種以上とから構成される金属材料である上記(1)または(2)に記載の金属表面処理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属表面処理方法によれば、鉄系材料を含む金属材料を表面処理する際に、鉄スラッジが生じても、優れた性能の化成皮膜を形成させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の金属表面処理方法について詳細に説明する。
本発明の金属表面処理方法は、鉄系材料を含む金属材料を表面処理する金属表面処理方法である。
本発明の金属表面処理方法の対象となる金属材料は、鉄系材料を含む金属材料であれば特に限定されない。例えば、鋼板(例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛めっき系鋼板、合金めっき系鋼板)等の鉄系材料;鉄系材料と、亜鉛系材料、アルミニウム系材料およびマグネシウム系材料からなる群から選ばれる1種以上とから構成される金属材料が挙げられる。
【0015】
本発明の金属表面処理方法は、少なくとも、表面処理工程と、pH低下工程と、鉄スラッジ除去工程とを具備する。以下、各工程について説明する。
【0016】
<表面処理工程>
表面処理工程は、後述する金属表面処理液を、上述した金属材料の表面に接触させる工程である。
【0017】
表面処理工程に用いられる金属表面処理液は、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属のイオンを5〜5000ppm含有し、フッ化物イオンを0.1〜100ppm含有し、全フッ素濃度が100〜50000ppmである、pH3.0〜6.0の金属表面処理液である。
ジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属のイオンの供給源としては、例えば、ジルコニウム化合物として、ZrCl4、ZrOCl2、Zr(SO42、ZrOSO4、Zr(NO34、ZrO(NO32、H2ZrF6、H2ZrF6の塩、ZrO2、ZrOBr2、ZrF4が挙げられ、チタン化合物として、TiCl4、Ti(SO42、TiOSO4、Ti(NO34、TiO(NO32、TiO2OC24、H2TiF6、H2TiF6の塩、TiO2、TiF4が挙げられる。中でも、ジルコニウム化合物が好ましい。
【0018】
ジルコニウム化合物およびチタン化合物は、酸性溶液に溶解し、比較的安定であるが、アルカリ溶液中では不安定であり、容易にジルコニウムまたはチタンの酸化物または水酸化物として析出する。
ここで、表面処理工程に用いられる金属表面処理液は、酸性溶液であるため、上述した金属材料に接触させると、金属材料の溶解反応が起こる。金属材料が溶解することによって、金属材料界面でpHの上昇が起こり、ジルコニウムおよび/またはチタンの酸化物および/または水酸化物が皮膜として金属材料表面に析出し、皮膜を形成するのである。
【0019】
金属表面処理液におけるジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属のイオンの濃度(ジルコニウムイオンおよびチタンイオンの両者を含有する場合は、その合計濃度)は、5〜5000ppmであるのが好ましく、20〜3000ppmであるのがより好ましい。
本発明の金属表面処理方法により形成される皮膜は、上述したように、ジルコニウムおよび/またはチタンの酸化物および/または水酸化物である。ジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属のイオンの濃度が5ppm以上であると、皮膜の主成分の濃度が十分に高いため、耐食性を得るために十分な付着量を実用的な処理時間で得ることができる。また、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属のイオンの濃度が5000ppm以下であると、耐食性を得るために十分な付着量を、経済的に有利に得ることができる。
【0020】
フッ化物イオンの供給源としては、例えば、HF、H2ZrF6、H2ZrF6の塩、H2TiF6、H2TiF6の塩、H2SiF6、H2SiF6の塩、HBF4、HBF4の塩、NaHF2、KHF2、NH4HF2、NaF、KF、NH4F等のフッ素化合物が挙げられる。
【0021】
金属表面処理液におけるフッ化物イオンの濃度は、0.1〜100ppmであるのが好ましく、20〜70ppmであるのがより好ましい。
本発明において、フッ化物イオン濃度は、遊離しているフッ素イオン(F-)の濃度であり、市販のイオン電極を用いて測定することができる。
フッ化物イオン濃度が100ppm以下であると、金属材料の溶解反応が十分に促進される。また、金属表面処理液中でジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属のイオンが安定して存在するため、金属材料界面で皮膜として析出しやすくなる。
フッ化物イオン濃度が0.1ppm以上であると、金属表面処理液の安定性および反応性に優れる。また、本発明においては、後述するように、pH低下工程で、金属表面処理液のpHを低下させて、鉄スラッジ中の不溶化した有効成分を溶解させるが、フッ化物イオン濃度が1ppm以上であると、この効果が大きくなる。
【0022】
フッ化物イオンは、鉄系材料、亜鉛系材料、アルミニウム系材料およびマグネシウム系材料のいずれに対しても、酸性溶液中での溶解反応を促進する作用を有する。また、フッ化物イオンは、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属のイオンの金属表面処理液中での安定性を向上させる作用を有する。即ち、フッ化物イオンは、金属表面処理液の安定性を高め、かつ、金属材料に対する反応性をも高めるのである。
【0023】
鉄系材料、亜鉛系材料、アルミニウム系材料およびマグネシウム系材料は、それぞれ反応性が異なるため、従来、これらの金属材料のうち2〜4種を同時に表面処理することは不可能であった。
本発明においては、金属表面処理液の安定性と反応性とのバランスがフッ化物イオン濃度を調整することによって自在に変えることができるため、これらの金属材料のうち2〜4種を同時に表面処理することが可能である。
【0024】
表面処理工程に用いられる金属表面処理液は、pH3.0〜6.0、好ましくはpH3.0〜5.0である。上記範囲であると、金属材料の溶解および皮膜の形成のバランスが好適となる。
【0025】
表面処理工程に用いられる金属表面処理液は、全フッ素濃度が100〜50000ppm、好ましくは200〜10000ppm、より好ましくは250〜2000ppmである。
本発明において、全フッ素濃度は、金属表面処理液中に含まれるすべてのフッ素の濃度であり、JIS K0102 34−2に従って測定される。
【0026】
本発明の金属表面処理方法において、長期にわたって安定的に金属表面処理するには、金属材料の溶解量を最適量で維持するため、フッ化物イオンを供給し、フッ化物イオン濃度を一定範囲に保つのが好ましい。また、長期にわたって安定的に金属表面処理するには、金属材料から混入する、鉄イオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン等の金属イオンを安定化させるため、金属イオンの濃度に応じてフッ化物イオンを供給し、安定化させるのが好ましい。
これらの理由から、表面処理工程に用いられる金属表面処理液は、フッ素を有する錯化合物を含有するのが好ましい。金属表面処理液がフッ素を有する錯化合物を含有すると、フッ化物イオン濃度が低下した場合には錯化合物として存在するフッ素が遊離し、フッ化物イオン濃度を一定に保つ作用を奏する。
金属表面処理液におけるフッ素を有する錯化合物の含有量は、全フッ素濃度が上記範囲となる量であるのが好ましい。全フッ素濃度が100ppm以上であると、金属イオンが多量に混入しても、十分に安定化させることができる。全フッ素濃度が50000ppm以下であると、十分な安定性を、経済的に有利に得ることができる。
【0027】
錯化合物として存在しているフッ素イオンの対イオンとしては、フッ素と錯化合物を形成し、金属表面処理液中のフッ化物イオン濃度を一定範囲に保つ作用を奏するものであれば特に限定されない。例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ストロンチウムイオンが挙げられる。
【0028】
このように、金属表面処理液がフッ素を有する錯化合物を含有すると、フッ化物イオンは、金属表面処理液の反応性の向上の効果に加えて、金属材料の溶解によって溶出した成分を金属表面処理液中に長期にわたって安定に保つ作用を担う。
【0029】
従来技術の一つであるリン酸亜鉛処理の場合は、例えば、鉄系材料から溶出した鉄イオンが、リン酸と不溶性の塩を形成するため、鉄スラッジが発生する。
これに対して、本発明においては、遊離フッ素濃度が低く、金属材料の溶出量が少ないため、発生する鉄スラッジ量が極めて少ない。
特に、金属表面処理液がフッ素を有する錯化合物を含有する場合には、長期間の処理で金属表面処理液中のフッ化物イオンが消費されたときに、錯化合物として存在しているフッ素イオンが遊離フッ素を供給することにより、フッ化物イオンが一定範囲の濃度で保持されるため、長期間の処理によって多量に混入する鉄イオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン等の金属イオンを安定化させて、化成性への悪影響を受けない。
【0030】
表面処理工程に用いられる金属表面処理液は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を含有することができる。
例えば、ジルコニウムおよびチタン以外の金属イオン、高分子化合物、活性剤、酸化剤、補給剤等が挙げられる。
具体的には、ジルコニウムおよびチタン以外の金属イオンとして、例えば、Hf、Si、Ag、Al、Cu、Fe、Mn、Mg、Ni、Co、Znが挙げられる。
金属表面処理液におけるこれらの金属イオンの濃度は、1〜5000ppmであるのが好ましく、1〜3000ppmであるのがより好ましい。
これらの金属イオンの供給源としては、例えば、前記金属の酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩が挙げられる。
【0031】
高分子化合物としては、金属の表面処理に常用されている高分子化合物を用いることができる。例えば、ポリビニルアルコール;ポリ(メタ)アクリル酸;アクリル酸とメタクリル酸との共重合体;エチレンと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルレート等のアクリル系単量体との共重合体;エチレンと酢酸ビニルとの共重合体;ポリウレタン;アミノ変性フェノール樹脂、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のアミノ基を含有するカチオン系樹脂;ポリエステル樹脂;エポキシ樹脂が挙げられる。
金属表面処理液におけるこれらの高分子金属イオンの濃度は、0.1〜1000ppmであるのが好ましく、0.5〜500ppmであるのがより好ましい。
【0032】
活性剤は、特に限定されず、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤およびカチオン系界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤を添加することができる。
金属表面処理液における活性剤の濃度は、1〜10000ppmであるのが好ましく、10〜5000ppmであるのがより好ましい。
【0033】
酸化剤としては、例えば、HClO3、HBrO3、HNO2、HNO3、HMnO4、HVO3、H22、H2WO4、H2MoO4が挙げられる。
金属表面処理液における酸化剤の濃度は、10〜5000ppm程度の添加量で十分である。
【0034】
また、本発明の金属表面処理方法には、有効成分濃度を一定に保つために補給剤が好適に用いられる。補給剤は、例えば、皮膜形成によって消費される成分と被処理物に付着して持ち出される成分とを主成分とし、濃縮した組成で調製される。
【0035】
表面処理工程においては、上述した金属表面処理液を上述した金属材料の表面に接触させる。
接触させる方法は、特に限定されず、例えば、浸せき、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、バーコート、刷毛塗りが挙げられる。
中でも、浸せきが好ましい。浸せきは、例えば、金属表面処理槽を用いて行うことができる。
【0036】
表面処理工程により、金属材料の表面に皮膜が形成される。その後、乾燥させて、表面に皮膜を有する金属材料を得ることができる。
乾燥の方法は、特に限定されず、例えば、熱風、遠赤外線加熱、直火、インダクションヒーターが挙げられる。
乾燥時間は、特に制限されないが、通常、工業的に採算の合う条件で設定する。
【0037】
<pH低下工程>
上述した表面処理工程の後、pH低下工程が行われる。pH低下工程は、金属表面処理液のpHを0.1〜3.0低下させて、表面処理工程において金属表面処理液中に発生した鉄スラッジに含まれるジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属を、金属表面処理液中に溶解させる工程である。
【0038】
表面処理工程においては、鉄系材料を含む金属材料を酸性溶液で表面処理するのであるから、上述したように、極端に少ないと言えども、鉄スラッジが発生する。本発明においては、後述する鉄スラッジ除去工程において鉄スラッジを除去するのであるが、その前に行われる本工程において、鉄スラッジに含まれるジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属等の有効成分が溶解するpHに低下させることで、有効成分のみを溶解させる。これにより、有効成分を金属表面処理液中に回収し、相対的に鉄の含有量が高くなった鉄スラッジのみを不要物として除去することが可能となる。
【0039】
pH低下工程においては、金属表面処理液のpHを0.1〜3.0、好ましくは0.2〜2.0低下させる。
pHの低下が0.1以上であると、金属表面処理液中の有効成分の溶解量が十分に多くなる。
pHの低下が3.0以下であると、金属表面処理液中の鉄スラッジの溶解を抑制して、効率的に鉄スラッジを除去することができる。また、pHの大幅な低下により鉄スラッジの一部が溶解すると、鉄スラッジ除去後の金属表面処理液を再び表面処理工程に用いるためにpHを上昇させる際に、溶解した鉄スラッジが金属表面処理液中に再び析出してしまうが、pHの低下が3.0以下であると、このような問題を抑制することもできる。
【0040】
pHを低下させる方法は、特に限定されず、例えば、酸性物質を添加する方法が挙げられる。
酸性物質としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、リン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸、アジピン酸、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、グルコン酸、フタル酸、コハク酸等の有機酸が挙げられる。中でも、硝酸が好ましい。
また、上述した補給剤は、一般に、金属表面処理液よりpHが低い。したがって、酸性物質として、補給剤を用いることもできる。
これらの酸性物質は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
このpH低下工程において、鉄スラッジに含まれる前記ジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属が、金属表面処理液中に溶解する。
また、金属表面処理液が他の有効成分(例えば、高分子化合物、ジルコニウムおよびチタン以外の金属イオン)を含有する場合、本工程においてそのような有効成分も同時に溶解するのが、本発明の好ましい態様の一つである。
【0042】
<鉄スラッジ除去工程>
上述したpH低下工程の後、鉄スラッジ除去工程が行われる。鉄スラッジ除去工程は、金属表面処理液から鉄スラッジを除去し、金属表面処理液の鉄スラッジ濃度を500ppm以下にする工程である。
【0043】
表面処理工程において金属表面処理液を長期間使用すると、金属材料中の鉄が溶解することによって、金属表面処理液中のFe(II)イオン濃度が徐々に上昇する。表面処理工程に用いられる金属表面処理液は、Fe(II)イオン濃度が上昇しても化成性に悪影響を受けない。
しかしながら、金属表面処理液中のFe(II)イオンは、酸化反応によってFe(III)イオンに酸化される。表面処理工程に用いられる金属表面処理液のpH範囲においては、Fe(III)イオンの溶解量が少ないので、Fe(III)イオンから水酸化鉄(Fe(OH)3)が生成し、鉄を含有する不溶解物(沈殿物)が系中に発生する。これが鉄スラッジである。
【0044】
鉄スラッジは、蓄積していくと、金属材料の表面に付着し、塗装後の外観の悪化等を引き起こすことがある。また、発生した鉄スラッジが処理設備に付着して、メンテナンス性が悪化することもある。
更に、水酸化鉄が析出することにより金属表面処理液中の有効成分濃度が低下して、得られる皮膜の性能が悪化する場合もある。これは、水酸化鉄が析出する際に、有効成分が共析したり、水酸化鉄に有効成分が吸着したりするためであると考えられる。有効成分は、基本的に、ジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属であるが、金属表面処理液中に高分子化合物、ジルコニウムおよびチタン以外の金属イオン等が含有される場合には、これらも含まれる。
そこで、本工程において、鉄スラッジを除去するのである。
【0045】
金属表面処理液から鉄スラッジを除去する方法は、特に限定されないが、例えば、固液分離装置を用いる方法が挙げられる。
固液分離装置は、特に限定されない。例えば、バグフィルター、ペーパーフィルター等を用いるろ過分離装置;UF膜、MF膜等を用いる膜分離装置;遠心分離装置;沈降分離装置が挙げられる。
これらの装置は単独で使用することができるが、2種以上を組み合わせることで効率よく分離することも可能である。
【0046】
また、固液分離装置で分離する前に、セットリングタンク等で予備分離を行うのが好ましい態様の一つである。予備分離により、鉄スラッジ濃度が高い液とすることにより、固液分離装置や鉄スラッジ処理設備を縮小化したり、固液分離装置に送る金属表面処理液の流量を低減させて装置負荷を低くしたりすることができる。また、その結果、コストを下げることができる。
【0047】
また、固液分離装置での分離または予備分離を行う場合はその前に、プレフィルターにより、金属表面処理液中の大型のゴミ(例えば、糸くず)を取るのが好ましい。プレフィルターは、特に限定されず、従来公知のプレフィルターを用いることができる。
【0048】
本工程においては、鉄スラッジの除去の効率を向上させるために、化成性を阻害しない範囲で、凝集剤および/または酸化剤を添加することができる。これにより、固液分離装置や鉄スラッジ処理設備を縮小化したり、固液分離装置に送る金属表面処理液の流量を低減させて装置負荷を低くしたりすることができる。また、その結果、コストを下げることができる。
【0049】
凝集剤としては、例えば、活性ケイ酸、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸第一鉄、塩化第二鉄等の無機系凝集剤;ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリアルキルアミノアクリレート、ポリアミノメチルアクリルアミド等の有機系凝集剤が挙げられる。
酸化剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、過酸化水素、酸素、空気が挙げられる。
これらの添加方法は、特に限定されず、常法に従って行うことができる。
【0050】
凝集剤および/または酸化剤の添加は、本工程の前において行うこともできる。
【0051】
本発明においては、本工程が必要であるが、上述したように、発生する鉄スラッジの量が、従来の方法に比べて極端に少ないため、必要な設備および費用を削減することができる。
【0052】
なお、除去された鉄スラッジは、そのまま廃棄することができる。
また、脱水機、乾燥機等により含水率を低下させた後に処理することもできる。脱水機等を用いる場合、分離された金属表面処理液を表面処理工程に用いてもよい。含水率が低下した鉄スラッジは、廃棄することもできるが、鉄材料、コンクリート・セラミック等の原料として利用することもできる。
【0053】
<回収供給工程>
上述した鉄スラッジ除去工程後、回収供給工程が行われる。回収供給工程は、鉄スラッジを除去された金属表面処理液を回収して、上述した表面処理工程に供給する工程である。
即ち、鉄スラッジ除去工程において鉄スラッジを除去された金属表面処理液は、本工程により、表面処理工程に供給され、表面処理に用いられる。
【0054】
表面処理工程に用いられる金属表面処理液は、上述したように、特定の組成およびpHを有するので、鉄スラッジを除去された金属表面処理液を表面処理工程に供給する前に、全体としてそのような組成およびpHになるように調整するのが好ましい。脱水機等により鉄スラッジから分離された金属表面処理液を用いる場合も同様である。
また、組成およびpHの調整は、鉄スラッジを除去された金属表面処理液を表面処理工程に供給した後に、例えば、金属表面処理槽において、行うこともできる。金属表面処理槽において行う場合、上述した特定の組成およびpHとなるように、補給剤等を添加する。
【0055】
pHを調整する方法は、特に限定されず、例えば、アルカリ性物質を添加する方法が挙げられる。
アルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、トリエタノールアミンが挙げられる。
【0056】
本発明の金属表面処理方法においては、上述した表面処理工程、pH低下工程、鉄スラッジ除去工程および回収供給工程を、この順に循環して行う。その際、表面処理工程における金属表面処理液の鉄スラッジ濃度を500ppm以下、好ましくは300ppm以下、より好ましくは200ppm以下に維持する。
上記範囲であると、鉄スラッジによる弊害を抑制することができる。
本発明において、鉄スラッジ濃度は、JIS K0102 14−1に従って測定される金属表面処理液中の鉄を含有する不溶解物の固形分濃度である。
【0057】
本発明の金属表面処理方法においては、上記各工程以外の工程を適宜行うことができる。
【0058】
本発明の金属表面処理方法によれば、鉄系材料を含む金属材料、好ましくは、鉄系材料、または、鉄系材料と、亜鉛系材料、アルミニウム系材料およびマグネシウム系材料からなる群から選ばれる1種以上とから構成される金属材料を表面処理した場合に、塗装後の耐食性に優れる表面処理皮膜を、長期にわたって安定的に析出させることができる。
【0059】
本発明の金属表面処理方法により皮膜を形成された金属材料は、広範な用途に用いられる。例えば、自動車車体に好適に用いられる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0061】
1.金属表面処理
(実施例1)
70mm×150mmのSPC(JIS G3141に規定されている冷延鋼板)を供試板として、下記金属表面処理液1を用いて、下記(a)〜(f)の工程を行った。
【0062】
<金属表面処理液1>
ヘキサフルオロジルコン酸および硝酸マグネシウムを用いて、ジルコニウムイオン濃度が50ppm、マグネシウムイオン濃度が100ppmである水溶液を調製した。この水溶液を40℃に加温して保持した後、水酸化ナトリウム試薬およびフッ化水素酸を用いて、pH4.5に調整し、また、フッ素イオンメーター(IM−55G、東亜電波工業社製)で測定されるフッ化物イオン濃度を5ppmに調整して、金属表面処理液1を得た。得られた金属表面処理液1中の全フッ素濃度は、1000ppmであった。なお、全フッ素濃度はJIS K0102 34−2に従って測定した(以下同じ)。
【0063】
(a)アルカリ脱脂
初めに、供試板にアルカリ脱脂を施した。アルカリ脱脂は、脱脂剤(ファインクリーナーL4460(登録商標)、日本パーカライジング(株)製)を濃度2質量%となるように水道水で希釈し、40℃に加温した後、120秒間、供試板にスプレー噴霧することにより行った。
【0064】
(b)水洗
アルカリ脱脂後の供試板を水洗した。水洗は、水を室温で30秒間、供試板にスプレー噴霧することにより行った。
【0065】
(c)表面処理
水洗後の供試板に表面処理を行った。
表面処理は、図1に示される金属表面処理装置を用いて行った。図1に示される金属表面処理装置1は、50Lの上記金属表面処理液が入っている金属表面処理槽10と、pH調整槽12と、沈降分離装置からなる固液分離装置14とを具備している。
【0066】
金属表面処理槽10中で、水洗後の供試板1枚を上記金属表面処理液に120秒間浸せきさせた後、取り出した(表面処理工程)。この表面処理工程においては、この操作を繰り返して、供試板10000枚の浸せきおよび取り出しを連続的に行った。処理効率は、20枚/hであった。
その際、皮膜形成および持ち出し(持ち出し量:2mL/枚)により消費される各成分を補給し、また、硝酸またはアンモニアを添加してpHを一定に維持した。
【0067】
一方、表面処理工程に用いた金属表面処理液は、金属表面処理槽10からpH調整槽12に送られた。pH調整槽12において、金属表面処理液には、硝酸が添加され、pH3.5に調整された(pH低下工程)。
ついで、pHを調整された金属表面処理液は、pH調整槽12から固液分離装置14に送られた。固液分離装置14においては、沈降分離により、金属表面処理液中の鉄スラッジが除去された(鉄スラッジ除去工程)。
その後、鉄スラッジを除去された金属表面処理液は、固液分離装置14から金属表面処理槽10に送られ、表面処理工程に供された(回収供給工程)。
これらの各工程は、供試板10000枚の処理の間、循環して連続的に行われた。
【0068】
(d)水洗
表面処理後の供試板を水洗した。水洗は、水を室温で30秒間、供試板にスプレー噴霧することにより行った。
【0069】
(e)純水洗
水洗後の供試板を純水洗した。純水洗は、純水を室温で30秒間、供試板にスプレー噴霧することにより行った。
【0070】
(f)乾燥
純水洗後の供試板を乾燥させた。乾燥は、供試板を90℃に加温した熱風乾燥機に5分間入れることにより行った。
【0071】
(実施例2)
実施例1で用いたのと同じ供試板および下記金属表面処理液2を用いて、実施例1の方法に準じて上記(a)〜(f)の工程を行った。
<金属表面処理液2>
ヘキサフルオロチタン酸水溶液および硝酸ストロンチウムを用いて、チタンイオン濃度が100ppm、ストロンチウムイオン濃度が500ppmである水溶液を調製した。この水溶液を40℃に加温して保持した後、アンモニア水溶液およびフッ化水素酸を用いて、pH5.0に調整し、また、フッ素イオンメーターで測定されるフッ化物イオン濃度を50ppmに調整して、金属表面処理液2を得た。得られた金属表面処理液2中の全フッ素濃度は2000ppmであった。
【0072】
(実施例3)
実施例1で用いたのと同じ供試板および下記金属表面処理液3を用いて、実施例1の方法に準じて上記(a)〜(f)の工程を行った。
<金属表面処理液3>
オキシ硝酸ジルコニウムおよび硝酸を用いて、ジルコニウムイオン濃度が1000ppmである水溶液を調製した。この水溶液を45℃に加温して保持した後、アンモニア水溶液およびフッ化水素酸を用いて、pH4.0に調整し、また、フッ素イオンメーターで測定されるフッ化物イオン濃度を10ppmに調整して、金属表面処理液3を得た。得られた金属表面処理液3中の全フッ素濃度は9000ppmであった。
【0073】
(比較例1)
実施例1で用いたのと同じ供試板および下記金属表面処理液4を用いて、実施例1の方法に準じて上記(a)〜(f)の工程を行った。
<金属表面処理液4>
硝酸ジルコニウムを用いて、ジルコニウムイオン濃度が50ppmである水溶液を調製した。この水溶液を45℃に加温して保持した後、アンモニア水溶液およびフッ化水素酸を用いてpH4.5に調整し、また、フッ素イオンメーターで測定されるフッ化物イオン濃度を70ppmに調整して、金属表面処理液4を得た。得られた金属表面処理液4中の全フッ素濃度は90ppmであった。
【0074】
(比較例2)
実施例1で用いたのと同じ供試板および上記金属表面処理液1を用いて、上記(c)のpH低下工程において調整後のpHを1.5にした以外は、実施例1と同様の方法により、上記(a)〜(f)の工程を行った。
【0075】
(比較例3)
実施例1で用いたのと同じ供試板および上記金属表面処理液1を用いて、上記(c)においてpH調整槽12で硝酸の添加によるpHの調整を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により、上記(a)〜(f)の工程を行った。
【0076】
(比較例4)
実施例1で用いたのと同じ供試板および上記金属表面処理液1を用いて、上記(c)においてpH調整槽12で硝酸の添加によるpHの調整行わず、かつ、固液分離装置14による鉄スラッジの沈降分離を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により、上記(a)〜(f)の工程を行った。
【0077】
2.金属表面処理液の評価
供試板10000枚を処理した後の金属表面処理槽10中の金属表面処理液について、鉄スラッジ濃度と、ろ過後におけるジルコニウムイオン濃度またはチタンイオン濃度および鉄イオン濃度とを測定した。
結果を第1表に示す。
【0078】
3.皮膜の評価
実施例1〜3および比較例1〜4で得られた、金属表面処理により皮膜を形成された供試板について、供試板1枚を処理した時点および供試板10000枚を処理した時点での皮膜量を測定した。
結果を第1表に示す。表中、皮膜量が耐食性および塗装密着性に問題ない量であったものを○、皮膜量が耐食性および塗装密着性に悪影響を及ぼす可能性がある量であったものを△、皮膜量が耐食性および塗装密着性に悪影響を及ぼす量であったものを×とした。
【0079】
【表1】

【0080】
第1表から明らかなように、本発明の表面処理方法(実施例1〜3)によれば、鉄系材料を含む金属材料に皮膜を形成させる際に、皮膜の塗装後の耐食性が優れたものになる条件である金属表面処理液におけるジルコニウムイオンまたはチタンイオンの濃度を、長期間の処理中、好適範囲に維持することができた。また、鉄スラッジ濃度を、塗装後の外観および装置のメンテナンス性に悪影響を及ぼさない範囲に抑制することができた。更に、鉄イオン濃度による皮膜量への影響もなかった。
【0081】
これに対して、表面処理工程に用いた金属表面処理液の全フッ素濃度が低すぎる場合(比較例1)は、10000枚処理後の皮膜量が不十分であった。これは、長期間の処理中に金属表面処理液中のフッ化物イオン濃度が低下し、金属表面のエッチングが行われなくなり、鉄イオンの影響で反応性(化成性)が低下したためと考えられる。
また、pH低下工程におけるpHの低下の程度が大きすぎた場合(比較例2)は、長期間の処理中に、ジルコニウムイオン濃度が低下し、かつ、鉄スラッジ濃度が上昇した。これは、pHを大きく低下させたことにより金属表面処理液中の鉄スラッジが溶解し、鉄スラッジ除去工程において、効率的な除去が行えなかったためであると考えられる。
また、表面処理工程後にpHを低下させなかった場合(比較例3)は、長期間の処理中に、ジルコニウムイオン濃度が低下した。これは、ジルコニウムを含んだ状態で鉄スラッジを除去してしまうためであると考えられる。
また、表面処理工程後にpHを低下させず、かつ、鉄スラッジを除去しなかった場合(比較例4)は、長期間の処理中に、ジルコニウムイオン濃度が低下し、かつ、鉄スラッジ濃度が上昇した。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例で用いた金属表面処理装置の模式図である。
【符号の説明】
【0083】
1 金属表面処理装置
10 金属表面処理槽
12 pH調整槽
14 固液分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系材料を含む金属材料を表面処理する金属表面処理方法であって、
ジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属のイオンを5〜5000ppm含有し、フッ化物イオンを0.1〜100ppm含有し、全フッ素濃度が100〜50000ppmである、pH3.0〜6.0の金属表面処理液を前記金属材料の表面に接触させる表面処理工程と、
前記表面処理工程後、前記金属表面処理液のpHを0.1〜3.0低下させて、前記表面処理工程において前記金属表面処理液中に発生した鉄スラッジに含まれる前記ジルコニウムおよびチタンからなる群から選ばれる1種以上の金属を、前記金属表面処理液中に溶解させるpH低下工程と、
前記pH低下工程後、前記金属表面処理液から前記鉄スラッジを除去する鉄スラッジ除去工程と、
前記鉄スラッジ除去工程後、前記鉄スラッジを除去された前記金属表面処理液を回収して、前記表面処理工程に供給する回収供給工程と
を循環して行い、
前記表面処理工程における前記金属表面処理液の鉄スラッジ濃度を500ppm以下に維持する、金属表面処理方法。
【請求項2】
前記鉄スラッジ除去工程の前において、または前記鉄スラッジ除去工程において、前記金属表面処理液に、凝集剤および/または酸化剤を添加する、請求項1に記載の金属表面処理方法。
【請求項3】
前記金属材料が、鉄系材料、または、鉄系材料と、亜鉛系材料、アルミニウム系材料およびマグネシウム系材料からなる群から選ばれる1種以上とから構成される金属材料である請求項1または2に記載の金属表面処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−219691(P2006−219691A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31430(P2005−31430)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】