説明

金属被覆高分子材料およびその製造方法

【課題】強固に密着された金属被膜を有する金属被覆高分子材料を提供する。また、簡易な工程で、低コストに、しかも環境に対する負荷の少ない、高分子材料の金属被覆方法を提供する。
【解決手段】無電解メッキによって金属被覆された高分子材料において、無電解メッキ前の高分子材料が、その表面および内部に無電解メッキ触媒形成性金属成分を、高分子材料の表面から20μmの深さにおける合計金属量換算で、5〜5×10g/mの範囲で分布して有することを特徴とする高分子材料。また、還元によって無電解メッキ触媒となる金属錯体と極性を持つ共溶媒とを含む、超臨界二酸化炭素流体を高分子材料に接触させ、該高分子材料の表面に金属錯体を固着させつつ還元し、その後、無電解メッキ処理を実施する、高分子材料の金属被覆方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解メッキによって金属被覆された高分子材料、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料など不導体の表面を金属で被覆する方法として、一般的に、蒸着やスパッタリングといった乾式方法や、無電解メッキなどの湿式方法があげられる。この中でも、無電解メッキは、汎用性、生産性が高く、得られる導電性も良好であることから幅広く用いられている方法である。
【0003】
高分子材料に無電解メッキ処理をする場合、次のような工程をとるのが一般的である。すなわち、エッチング、コンディショニング、キャタライジング、アクセラレーティング、そしてメッキ処理工程である。エッチングは被メッキ物の表面に、物理的、化学的な手段で微細な凹凸を形成する工程である。これはメッキによる金属被膜を美麗なものとするため、且つ、金属被膜と被メッキ物との密着性を高めるために必要不可欠なものである。通常、プラズマ処理やコロナ処理といった乾式方法、クロム酸処理やアルカリ処理といった湿式方法で実施される。次のコンディショニングは、被メッキ物の表面に無電解メッキの触媒が付着しやすいようにするものである。界面活性剤や有機溶剤を用いて、被メッキ物表面を洗浄する処理と、カチオン性化合物などの無電解メッキ触媒に親和性を有する化合物を付与する処理を行うのが一般的である。続いて、無電解メッキ触媒を、被メッキ物の表面に付与するキャタライジングを行う。最も一般的な触媒としてパラジウムが挙げられるが、パラジウム−スズコロイド塩酸溶液に、被メッキ物を浸漬する方法がとられる。アクセラレーティングは、上記パラジウム−スズコロイドのスズを取り除き、触媒であるパラジウムの露出面積を大きくするために実施される。通常は、硫酸、ホウフッ化水素酸などによる酸処理、または水酸化ナトリウムなどによるアルカリ処理を、キャタライジング後の被メッキ物に対して行う。
【0004】
このように、無電解メッキ法の前処理は煩雑であり、コストアップや歩留まり低下の原因になっている。また、高分子材料に対する金属被膜の密着性は、従来のエッチング方法では不十分であった。さらに、湿式処理の場合、使用済の老廃液と各処理毎に行われる水洗いで発生する、多量の排水を浄化することも大きなコストアップの原因になっている。また、パラジウムは非常に高価であり、回収することが望ましいが、キャタライジング液やアクセラレーティング液および洗い液からパラジウムを回収するのは容易ではない。
【0005】
また、被メッキ物の形状が、微細な凹凸を持つような複雑なものの場合、その微細な構造の隅々にまで均一な金属被覆膜を形成することは困難なものであった。これを解決するために、様々なエッチングやコンディショニング手法の改良が提案されているが、更なるコストアップや工程の複雑化を伴い、満足のゆく結果は得られていない。
【0006】
これらの問題を解決すべく、特許文献1では、超臨界流体を用いた無電解メッキの前処理法が提案されている。この方法によれば、プラスチックに超臨界流体を接触させることにより、プラスチックにメッキ可能な表面処理を施すことができる。しかし、この方法では、無電解メッキの煩雑な工程のうち、エッチング工程、もしくはエッチング工程とコンディショニング工程の代替となるのみで、工程簡略化の効果はさほど期待できない。
【0007】
特許文献1では、さらに、プラスチックに、メッキ用触媒を含有する超臨界流体を接触させることにより、プラスチックにメッキ可能な表面処理を施すと同時に、メッキ用触媒を付着させる方法が提案されている。この方法をとる場合、さらなる工程の簡略化が可能で、触媒の回収が容易となり、その再使用も可能となる。しかしながら、この方法で使用可能なメッキ用触媒は、還元処理を行うことで初めて触媒としての活性を示すものである。この還元処理には、水素化ホウ素ナトリウムやジメチルアミンボランなどを用いるが、これら還元剤は非常に高価なものである。また、還元処理により生じる廃液の処理にもコストがかかるという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開2001−316832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、強固に密着された金属被膜を有する金属被覆高分子材料を提供することにある。また、簡易な工程で、低コストに、しかも環境に対する負荷の少ない、高分子材料の金属被覆方法を提供することにある。さらには、複雑な構造を有する高分子材料に対しても、均一に金属被覆することが可能な、高分子材料の金属被覆方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、高分子材料の内部にまで無電解メッキの触媒となる金属成分を注入し、これに無電解メッキ処理をして得られる金属被膜は、高分子材料に対し非常に強固な密着性を有することを見出し、本発明を完成させたものである。
【0011】
すなわち、本発明は第一に、無電解メッキによって金属被覆された高分子材料において、無電解メッキ前の高分子材料が、その表面および内部に無電解メッキ触媒形成性金属成分を、高分子材料の表面から20μmの深さにおける合計金属量換算で、5〜5×10g/mの範囲で分布して有することを特徴とする、無電解メッキによって金属被覆された高分子材料である。
【0012】
本発明は、第二に、還元によって無電解メッキ触媒となる金属錯体と、極性を持つ共溶媒とを含む超臨界二酸化炭素流体を高分子材料に接触させ、該高分子材料の表面およびその内部に金属錯体を固着させつつ還元し、その後、無電解メッキ処理を実施することを特徴とする、高分子材料の金属被覆方法である。
【0013】
また、本発明は、第三に、還元によって無電解メッキ触媒となる金属錯体を含む、超臨界二酸化炭素流体を高分子材料に接触させ、該金属錯体が高分子材料の表面およびその内部に均一に拡散した後に、極性を持つ共溶媒を加えることで、高分子材料の表面およびその内部に金属錯体を固着させつつ還元し、その後、無電解メッキ処理を実施することを特徴とする、高分子材料の金属被覆方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、強固に密着された金属被膜を有する金属被覆高分子材料を得ることが可能となる。また、本発明の方法によれば、高分子材料の表面を無電解メッキによって金属被覆する際、その前処理を1工程で実施することができ、大幅な工程短縮が可能である。また、余剰の無電解メッキ触媒となる金属錯体の回収も容易であり、環境汚染物質の排出がない。さらに、高分子材料の形状が複雑なものであっても、均一にムラなく金属被膜を形成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は高分子材料の表面だけでなく、内部にまで無電解メッキの触媒となる金属成分を注入し、これに無電解メッキ処理をして金属被膜を形成する点に特徴を有するが、ここで高分子材料の内部とは、高分子材料の表面に存在する高分子材料を構成している分子より内部を意味し、たとえば高分子材料の一種である繊維織物を想定した場合、有効成分を含有する処理液を用いて単に通常の含浸処理をするだけでは、有効成分が個々の繊維を構成する高分子材料の表面分子上に付着するだけであり、表面分子より内部にまで注入されることはない。
【0016】
高分子材料の内部にまで無電解メッキの触媒となる金属を注入する方法としては、高分子材料の成型時に金属を練り込む方法、高分子材料の表面に金属を混入した樹脂被膜を形成する方法、あるいは適当な溶媒を選択して高分子材料を膨潤させ、金属を内部に注入する方法などを採ることができる。更に、触媒となる金属は、注入時に触媒としての活性を持つ金属の状態でもよいし、金属錯体など不活性な状態で注入し、その後の操作で活性な金属とすることもできる。これらの方法の中でも、還元によって無電解メッキ触媒となる金属錯体を、超臨界二酸化炭素流体の中で高分子材料に注入する方法が好ましい。この方法であると、より強固に密着された金属被膜を得ることができ、更に大幅な工程短縮が可能で、環境汚染物質の排出も抑えられる。以下で金属錯体と記したものは、還元によって無電解メッキ触媒となる金属錯体を指すこととする。
【0017】
無電解メッキの触媒となる金属を、高分子材料の表面および内部にまで注入する際に、超臨界二酸化炭素流体中で、極性を持つ共溶媒の存在によって、高分子材料の表面および内部のみで、還元によって無電解メッキ触媒となる金属錯体が、選択的に還元され、無電解メッキの触媒となる金属となる。
【0018】
予め、無電解メッキの触媒となる金属成分を、高分子材料の表面および内部にまで注入することで、触媒が高分子材料に強固に固着されるため、従来法で必須であったエッチングやコンディショニングなどの複雑な工程を行うことなく、高分子材料と金属被膜とに従来法以上の密着力を得ることが可能となる。
【0019】
成型や紡糸など、高分子材料を形作る時に触媒を練りこむ方法でも、同様の効果は得られるが、多量の触媒を要することや、高分子材料の物性が低下する虞があるため、後加工によって、高分子材料の内部に触媒を注入することが好ましい。
【0020】
また、触媒の注入量については、高分子材料の表面から20μmの深さの範囲に、5〜5×10g/mであることが必要である。ここで、表面から20μmの深さの範囲とは、高分子材料の表面および内部に注入された触媒の量を規定するためのものであり、実際には触媒が、20μmよりも深い部分にまで存在してもよく、また、触媒が、例えば10μmの深さまでしか注入されていない状態でも構わない。通常は表面から1〜20μmの深さに注入することが好ましい。尚、高分子材料が繊維やフィルムなどで、厚みとして20μmに満たない場合には、高分子材料の全体積に対し、表面および内部に存在する全触媒(金属)量が5〜5×10g/mであることを要する。このような場合も含め、表面から20μmの深さの範囲で、全触媒量が5g/m未満であると、無電解メッキの反応が開始されず、5×10g/mよりも多いと、触媒を無駄に使用することになる。更に、上記触媒量のうち、5×10−1〜5×10g/mの触媒が、高分子材料の表面ではなく、内部に存在している状態が好ましい。
【0021】
なお、無電解メッキ触媒形成性金属成分が5g/m未満の場合、無電解メッキ処理をしてもメッキが析出しない虞がある。また、5×10g/mを超える場合、メッキの析出については問題ないものの、無駄が多く不経済となる。
【0022】
本発明で用いられる高分子材料は、その材質、形状、用途などで特に限定されるものではない。高分子材料の材質としては、セルロースなどの天然高分子や、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニル系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、フェノール樹脂などの合成高分子が挙げられ、これら高分子を単独で、または2種以上を複合して用いることができる。また、形状については、上記材質の高分子を成型したもの全てに適用されるが、その複雑な形状ゆえ、従来技術では強固な密着性を有する金属被膜の形成が困難であった繊維よりなる糸、織物または編物であることが好ましい。
【0023】
超臨界流体は、水に比べて浸透性および拡散性に優れているために、複雑な形状の基材であっても、反応器に多量の基材を投入する場合であっても、溶媒の均一な浸透が期待できる。特に、超臨界二酸化炭素流体は無毒であり、他の物質に比べて温和な条件で超臨界流体となるために、さまざまな分野での応用が期待される。超臨界二酸化炭素流体は、31℃以上に加熱され、7.38MPa以上に加圧されることで得られる。処理温度は、高分子材料のガラス転位点以上、かつ、軟化点以下であることが好ましい。処理温度が高分子材料のガラス転移点未満では、高分子材料の膨潤が不十分となり、無電解メッキ触媒の固着が悪くなる。処理温度が高分子材料の軟化点を超えると、高分子材料の寸法安定性が悪くなる虞がある。圧力は、10MPa以上であることが好ましい。圧力が10MPa未満では、金属錯体の溶解度が低くなり、無電解メッキ触媒が均一に付与されない虞がある。
【0024】
多くの高分子材料は、二酸化炭素に比べて極性を持っている。極性を持つ共溶媒は、これら高分子材料と、無極性の超臨界二酸化炭素流体との親和性を増すために用いられる。さらに、本発明で用いられる共溶媒は、その存在によって、金属錯体を還元させ、無電解メッキ触媒を高分子材料の表面に固着させる機能を持つ。しかも、この還元反応は、高分子材料の表面のみで起こる。この還元反応のメカニズムは明らかになっていないが、共溶媒によって膨潤した高分子材料に取り込まれた金属錯体と、高分子の官能基が何らかの不安定な中間体を形成し、その後、共溶媒または高分子の官能基によって金属錯体が還元されるものと推定される。その結果、別途還元処理を実施する必要なしに、続く無電解メッキ処理が可能となり、さらには、高分子材料に取り込まれなかった金属錯体が、未反応のまま回収できるため、生産コストを非常に低く抑えることができ、環境汚染物質の排出も著しく少なくできる。
【0025】
また、極性を持つ共溶媒に関して、実生産を考慮した場合、常温常圧下で液体である物質を用いることが好ましい。そのような物質を共溶媒とすることで、処理後の二酸化炭素との分離が、減圧をするだけで容易に行われる。さらに、沸点が比較的に低いもの、特に、処理温度以下の沸点を持つ共溶媒を用いることがより好ましい。この場合、未反応の金属錯体を回収する際、装置内に残留することなく排出でき、しかも金属錯体の分離が非常に簡便なものとなる。このような極性を持つ共溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、水などが挙げられる。
【0026】
本発明の好ましい態様では、金属錯体と共溶媒とを含む超臨界二酸化炭素流体を、高分子材料に接触させて、該高分子材料表面に金属錯体を均一に固着させ、同時に該高分子材料の表面でのみ金属錯体を還元させ、無電解メッキ触媒とすることができる。また、本発明では、特に目的の高分子材料が複雑な形状のものである場合や、高分子材料の投入量が多い場合には、まず金属錯体を含む超臨界二酸化炭素流体に高分子材料を接触させて、高分子材料表面に金属錯体が均一に拡散してから、共溶媒を投入する方法が適用される。このような方法を採ることで、複雑な形状の高分子材料や、多量の高分子材料に対し、ムラなく均一に、強固な密着性を有する金属被覆を形成することが可能となる。
【0027】
本発明の好ましい態様で用いられる、還元によって無電解メッキ触媒となる金属錯体は、金属の酸化数が1価以上のもので、加熱のみでは還元されないものが好ましい。0価金属錯体では、そのままで無電解メッキ処理が可能であるが、直ちに酸化が進行し、処理中に触媒としての活性が失われる虞がある。また、加熱することによって還元してしまう金属錯体では、金属錯体が高分子材料の隅々にまで拡散する前に、超臨界二酸化炭素流体に不溶となる虞があり、複雑な高分子材料に均一に無電解メッキ触媒を付与することができない。さらに、還元されて、超臨界二酸化炭素流体に不溶化した金属錯体の回収は不可能であり、装置内の汚染も著しく、洗浄が非常に困難なものとなる。
【0028】
金属錯体は、超臨界二酸化炭素に十分な溶解性を示すものが好ましく、超臨界二酸化炭素流体に、単独で10mg/L以上溶解するものがより好ましい。溶解度が10mg/L未満のものでは、高分子材料の形状が複雑な場合に、金属錯体を均一に付与できなかったり、多量の高分子材料を処理する場合に、金属錯体の付与量が不足したりする。界面活性剤などを使用して金属錯体の溶解性を高めることも可能ではあるが、処理後の金属錯体の回収が困難となり、所期の目的を達し得ない。
【0029】
金属錯体としては、金属が白金、金、銀、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、コバルト、銅からなる錯体が挙げられる。これらは単独でも、もしくは2種以上の混合物としても使用できる。その中でも、白金とパラジウムは、無電解メッキの触媒として活性が強いので好ましい。さらに、パラジウムの方が安価であり、より好ましい。また、金属錯体は超臨界二酸化炭素流体に対し、上記の通り、十分な溶解性を示すものが好ましく、特に、アセチルアセトナト錯体であることが好ましい。このような錯体の例としては、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム(II)、などが挙げられるが、製造コストを抑えることができ、超臨界二酸化炭素流体に対し、高い溶解性を有することから、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)が特に好ましい。
【0030】
本発明の高分子材料の金属被覆方法において、触媒注入および無電解メッキ処理の際、高分子材料の処理形状は、特に制限されないが、高分子材料が繊維よりなる糸である場合はチーズ形状に巻き上げられたもの、織物、編物または不織布の場合にはビーム形状に巻き上げられたものであることが好ましい。
【0031】
本発明の無電解メッキ処理の手法については、金属被膜が得られるものであれば、特に限定はされず、金属被覆された高分子材料の用途に応じて、コスト、耐久性、導電性などを考慮して選定すればよい。銅、銀、ニッケル、金、パラジウムなど様々な金属による無電解メッキ法を適用できるが、銅を用いた無電解メッキ法が最も安価に、安定して金属被膜を得ることができるため好ましい。
【0032】
(実施例)
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
本発明では、株式会社日阪製作所が作成した超臨界二酸化炭素染色機を用いて実験を行った。反応器の容量が2600mlであるビーム染色機である。無電解銅メッキは、奥野製薬工業製のOPC−700無電解銅M−Kを用いた。金属被膜の密着性評価はJIS C5016−1994 8.4に従い、金属被膜の浮き上がりがなく、粘着テープへの金属被膜の移行がないものを良好な密着性を有するとした。高分子材料としては、次のものを使用した。
【0033】
1.厚さ200μmのナイロン6シート
2.78デシテックス24フィラメントのナイロン6の糸を用いて、経糸密度108本/インチ、緯糸密度82本/インチで織ったナイロン6タフタを公知の方法で精練およびヒートセットしたもの
3.44デシテックス34フィラメントのナイロン66の糸を用いて、経糸密度171本/インチ、緯糸密度117本/インチで織ったナイロン66タフタを公知の方法で精練およびヒートセットしたもの
4.56デシテックス24フィラメントのポリエステルの糸を用いて、経糸密度130本/インチ、緯糸密度100本/インチで織ったポリエステルタフタを公知の方法で精練およびヒートセットしたもの
【実施例1】
【0034】
大きさ5cm×20cm、厚さ200μmのナイロン6シートと、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)0.1gを反応器に入れた後に密閉した。その後、二酸化炭素を投入しながら加熱および撹拌し、18MPa、110℃の超臨界状態となってから、さらに15分間撹拌した。その後、超臨界状態を維持したまま、エタノールを30ml投入し、さらに15分間撹拌した。放圧後に取り出したナイロン6シートを無電解銅メッキ処理したところ、シート全面に均一にメッキが析出した。放圧時には、反応器の出口からエタノールとビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)が回収され、反応器の内部に金属錯体による汚染は無かった。金属被膜と高分子材料との間に良好な密着性が確認された。電子プローブマイクロアナライザーで高分子材料の断面を観察したところ、触媒は表面から10μmの深さまで注入されていた。灰化した高分子材料の残渣の王水可溶成分を原子吸光分析でパラジウムを定量したところ、深さ20μmの範囲内のパラジウム濃度が50g/mと算出された。
【実施例2】
【0035】
ナイロン6タフタをビーム管に20cm幅で70層に巻き上げた。反応器にこのビーム管とビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)0.5gを入れた後に密閉した。その後、二酸化炭素を投入しながら加熱および撹拌し、18MPa、110℃の超臨界状態となってから、さらに15分間撹拌した。その後、超臨界状態を維持したまま、エタノールを30ml投入し、さらに15分間撹拌した。放圧後に取り出したナイロン6タフタを無電解銅メッキ処理したところ、70層の全てでメッキが析出した。放圧時には、反応器の出口からエタノールとビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)が回収され、反応器の内部に金属錯体による汚染は無かった。金属被膜と高分子材料との間に良好な密着性が確認された。電子プローブマイクロアナライザーで高分子材料の断面を観察したところ、触媒は表面から5μmの深さまで注入されていた。灰化した高分子材料の残渣の王水可溶成分を原子吸光分析でパラジウムを定量したところ、パラジウム濃度が50g/mであった。この繊維の深さは20μmないので、繊維の全体積当たりの濃度を算出している。
【実施例3】
【0036】
ナイロン6タフタをビーム管に20cm幅で70層に巻き上げた。反応器にこのビーム管とジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)0.5gを入れた後に密閉した。その後、二酸化炭素を投入しながら加熱および撹拌し、18MPa、110℃の超臨界状態となってから、さらに15分間撹拌した。その後、超臨界状態を維持したまま、エタノールを30ml投入し、さらに15分間撹拌した。放圧後に取り出したナイロン6タフタを無電解銅メッキ処理したところ、70層の全てでメッキが析出した。放圧時には、反応器の出口からエタノールとジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)が回収され、反応器の内部に金属錯体による汚染は無かった。金属被膜と高分子材料との間に良好な密着性が確認された。電子プローブマイクロアナライザーで高分子材料の断面を観察したところ、触媒は表面から5μmの深さまで注入されていた。灰化した高分子材料の残渣の王水可溶成分を原子吸光分析でパラジウムを定量したところ、パラジウム濃度が50g/mであった。この繊維の深さは20μmないので、繊維の全体積当たりの濃度を算出している。
【実施例4】
【0037】
ナイロン6タフタをビーム管に20cm幅で70層に巻き上げた。反応器にこのビーム管とジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム(II)0.5gを入れた後に密閉した。その後、二酸化炭素を投入しならが加熱および撹拌し、18MPa、110℃の超臨界状態となってから、さらに15分間撹拌した。その後、超臨界状態を維持したまま、エタノールを30ml投入し、さらに15分間撹拌した。放圧後に取り出したナイロン6タフタを無電解銅メッキ処理したところ、70層の全てでメッキが析出した。放圧時には、反応器の出口からエタノールとジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム(II)が回収され、反応器の内部に金属錯体による汚染は無かった。金属被膜と高分子材料との間に良好な密着性が確認された。電子プローブマイクロアナライザーで高分子材料の断面を観察したところ、触媒は表面から5μmの深さまで注入されていた。灰化した高分子材料の残渣の王水可溶成分を原子吸光分析でパラジウムを定量したところ、パラジウム濃度が50g/mであった。この繊維の深さは20μmないので、繊維の全体積当たりの濃度を算出している。
【実施例5】
【0038】
ナイロン66タフタをビーム管に20cm幅で70層に巻き上げた。反応器にこのビーム管とビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)0.5gを入れた後に密閉した。その後、二酸化炭素を投入しながら加熱および撹拌し、18MPa、110℃の超臨界状態となってから、さらに15分間撹拌した。その後、超臨界状態を維持したまま、エタノールを30ml投入し、さらに15分間撹拌した。放圧後に取り出したナイロン66タフタを無電解銅メッキ処理したところ、70層の全てでメッキが析出した。放圧時には、反応器の出口からエタノールとビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)が回収され、反応器の内部に金属錯体による汚染は無かった。金属被膜と高分子材料との間に良好な密着性が確認された。電子プローブマイクロアナライザーで高分子材料の断面を観察したところ、触媒は表面から5μmの深さまで注入されていた。灰化した高分子材料の残渣の王水可溶成分を原子吸光分析でパラジウムを定量したところ、パラジウム濃度が50g/mであった。この繊維の深さは20μmないので、繊維の全体積当たりの濃度を算出している。
【実施例6】
【0039】
ポリエステルタフタをビーム管に20cm幅で70層に巻き上げた。反応器にこのビーム管とビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)0.5gを入れた後に密閉した。その後、二酸化炭素を投入しならが加熱および撹拌し、18MPa、110℃の超臨界状態となってから、さらに15分間撹拌したその後、超臨界状態を維持したまま、エタノールを30ml投入し、さらに15分間撹拌した。放圧後に取り出したポリエステルタフタを無電解銅メッキ処理したところ、70層の全てでメッキが析出した。放圧時には、反応器の出口からエタノールとビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)が回収され、反応器の内部に金属錯体による汚染は無かった。金属被膜と高分子材料との間に良好な密着性が確認された。電子プローブマイクロアナライザーで高分子材料の断面を観察したところ、触媒は表面から5μmの深さまで注入されていた。灰化した高分子材料の残渣の王水可溶成分を原子吸光分析でパラジウムを定量したところ、パラジウム濃度が50g/mであった。この繊維の深さは20μmないので、繊維の全体積当たりの濃度を算出している。
【実施例7】
【0040】
ナイロン6タフタをビーム管に20cm幅で70層に巻き上げた。反応器にこのビーム管とビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)0.5gを入れた後に密閉した。その後、二酸化炭素を投入しながら加熱および撹拌し、18MPa、110℃の超臨界状態となってから、さらに15分間撹拌した。その後、超臨界状態を維持したまま、n−プロパノールを30ml投入し、さらに15分間撹拌した。放圧後に取り出したナイロン6タフタを無電解銅メッキ処理したところ、70層の全てでメッキが析出した。放圧時には、反応器の出口からn−プロパノールとビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)が回収され、反応器の内部に金属錯体による汚染は無かった。金属被膜と高分子材料との間に良好な密着性が確認された。電子プローブマイクロアナライザーで高分子材料の断面を観察したところ、触媒は表面から5μmの深さまで注入されていた。灰化した高分子材料の残渣の王水可溶成分を原子吸光分析でパラジウムを定量したところ、パラジウム濃度が50g/mであった。この繊維の深さは20μmないので、繊維の全体積当たりの濃度を算出している。
【実施例8】
【0041】
ナイロン6タフタをビーム管に20cm幅で30層に巻き上げた。反応器にこのビーム管とビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)0.5g、エタノール30mlを入れた後に密閉した。その後、二酸化炭素を投入しながら加熱および撹拌し、18MPa、110℃の超臨界状態となってから、さらに30分間撹拌した。放圧後に取り出したナイロン6タフタを無電解銅メッキ処理したところ、30層の全てでメッキが析出した。放圧時には、反応器の出口からエタノールとビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)が回収され、反応器の内部に金属錯体による汚染は無かった。金属被膜と高分子材料との間に良好な密着性が確認された。電子プローブマイクロアナライザーで高分子材料の断面を観察したところ、触媒は表面から5μmの深さまで注入されていた。灰化した高分子材料の残渣の王水可溶成分を原子吸光分析でパラジウムを定量したところ、パラジウム濃度が50g/mであった。この繊維の深さは20μmないので、繊維の全体積当たりの濃度を算出している。
【0042】
[比較例1]
厚さ200μmのナイロン6シートを、モノエタノールアミン0.5重量%、HLBが19のポリオキシエチレンラルリルエーテル0.1重量%を含む水溶液で、50℃、5分間浸漬して、水洗いすることでコンディショニングをした。その後、塩化パラジウム0.72g/l、塩化第一スズ45g/l、レゾルシン4.5g/l、塩化ナトリウム200g/l、35パーセント塩酸45g/lを含む水溶液に、30℃、5分間浸漬して、水洗いすることでキャタライジングをした。さらにその後、35%塩酸100ml/l水溶液に、40℃、5分間浸漬して、水洗いすることでアクセラレーティングをした。その後、無電解銅メッキ処理をしたところ、金属被膜と高分子材料との間の密着性は不良であった。電子プローブマイクロアナライザーで高分子材料の断面を観察したところ、触媒は表面に付着しているのみであり、内部には注入されていなかった。
【0043】
[比較例2]
ナイロン6タフタを、モノエタノールアミン0.5重量%、HLBが19のポリオキシエチレンラルリルエーテル0.1重量%を含む水溶液で、50℃、5分間浸漬して、水洗いすることでコンディショニングをした後に、塩化パラジウム0.72g/l、塩化第一スズ45g/l、レゾルシン4.5g/l、塩化ナトリウム200g/l、35パーセント塩酸45g/lを含む水溶液に、30℃、5分間浸漬して、水洗いすることでキャタライジングをした後に、35%塩酸100ml/l水溶液に、40℃、5分間浸漬して、水洗いすることでアクセラレーティングをした。その後、無電解銅メッキ処理をしたところ、金属被膜と高分子材料との間の密着性は不良であった。電子プローブマイクロアナライザーで高分子材料の断面を観察したところ、触媒は表面に付着しているのみであり、内部には注入されていなかった。
【0044】
[比較例3]
ナイロン6タフタをビーム管に20cm幅で70層に巻き上げた。反応器にこのビーム管とビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)0.5gを入れた後に密閉した。その後、二酸化炭素を投入しならが加熱および撹拌し、18MPa、110℃の超臨界状態となってから、さらに30分間撹拌した。放圧後に取り出したナイロン6タフタを無電解銅メッキ処理したところ、メッキが析出しなかった。電子プローブマイクロアナライザーで高分子材料の断面を観察したところ、パラジウムは表面から5μmの深さまで注入されていた。灰化した高分子材料の残渣の王水可溶成分を原子吸光分析でパラジウムを定量したところ、パラジウム濃度が50g/mであった。この繊維の深さは20μmないので、繊維の全体積当たりの濃度を算出している。しかし、パラジウムが還元されていないためにメッキが析出しなかったと考えられる。
【0045】
[比較例4]
ナイロン6タフタをビーム管に20cm幅で70層に巻き上げた。反応器にこのビーム管と(1,5−シクロオクタジエン)ジメチル白金(II)0.5gを入れた後に密閉した。その後、二酸化炭素を投入しならが加熱および撹拌し、18MPa、110℃の超臨界状態となってから、さらに30分間撹拌した。その後、さらに加熱して150℃にし、10分間反応させることで、(1,5−シクロオクタジエン)ジメチル白金(II)を熱分解させ、無電解メッキの触媒を生成させた。放圧後に取り出したナイロン6タフタを無電解銅メッキ処理したところ、一部でメッキが析出したものの70層の全てではメッキは析出しなかった。放圧時には、反応器の出口から(1,5−シクロオクタジエン)ジメチル白金(II)はほとんど回収されず、(1,5−シクロオクタジエン)ジメチル白金(II)由来の生成物が反応器を著しく汚染していた。電子プローブマイクロアナライザーで高分子材料の断面を観察したところ、触媒は表面から5μmの深さまで注入されていた。灰化した高分子材料の残渣の王水可溶成分を原子吸光分析でパラジウムを定量したところ、メッキが析出した箇所では50g/mであったが、メッキが析出しなかった数箇所では、そのいずれの箇所においても触媒量は5g/m未満であった。この繊維の深さは20μmないので、繊維の全体積当たりの濃度を算出している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解メッキによって金属被覆された高分子材料において、無電解メッキ前の高分子材料が、その表面および内部に無電解メッキ触媒形成性金属成分を、高分子材料の表面から20μmの深さにおける合計金属量換算で、5〜5×10g/mの範囲で分布して有することを特徴とする、無電解メッキによって金属被覆された高分子材料。
【請求項2】
高分子材料が、繊維よりなる糸、織物または編物である、請求項1に記載の、無電解メッキによって金属被覆された高分子材料。
【請求項3】
無電解メッキ触媒形成性金属成分が、還元して無電解メッキ触媒になるパラジウム錯体であることを特徴とする、請求項1または2に記載の無電解メッキによって金属被覆された高分子材料。
【請求項4】
無電解メッキ触媒形成性金属成分が、ビス(アセチルアセトナト)パラジウムであることを特徴とする、請求項1または2に記載の無電解メッキによって金属被覆された高分子材料。
【請求項5】
還元によって無電解メッキ触媒となる金属錯体と、極性を持つ共溶媒とを含む超臨界二酸化炭素流体を、高分子材料に接触させ、該高分子材料の表面およびその内部に金属錯体を固着させつつ還元し、その後、無電解メッキ処理を実施することを特徴とする、高分子材料の金属被覆方法。
【請求項6】
還元によって無電解メッキ触媒となる金属錯体を含む、超臨界二酸化炭素流体を、高分子材料に接触させ、該金属錯体が高分子材料の表面およびその内部に均一に拡散した後に、極性を持つ共溶媒を加えることで、高分子材料の表面およびその内部に、金属錯体を固着させつつ還元し、その後、無電解メッキ処理を実施することを特徴とする、高分子材料の金属被覆方法。
【請求項7】
高分子材料が、ビーム形状に巻き上げられた織物、編物または不織布、あるいはチーズ形状に巻き上げられた糸であることを特徴とする、請求項5または6に記載の、高分子材料の金属被覆方法。
【請求項8】
還元によって無電解メッキの触媒となる金属錯体が、パラジウム錯体であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の高分子材料の金属被覆方法。
【請求項9】
還元によって無電解メッキの触媒となる金属錯体が、アセチルアセトナト錯体であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の高分子材料の金属被覆方法。
【請求項10】
還元によって無電解メッキの触媒となる金属錯体が、ビス(アセチルアセトナト)パラジウムであることを特徴とする、請求項5〜9のいずれか1項に記載の高分子材料の金属被覆方法。

【公開番号】特開2007−254764(P2007−254764A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76856(P2006−76856)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】