説明

金属製品の生産方法及び同金属製品

【課題】メッキされ、かつ、刻印が鮮明に見える金属製品の生産方法と、刻印が鮮明に見える金属製品を提供する。
【解決手段】生産方法は、金属製品にメッキを施した後に、その金属製品の表面に打刻することを特徴とする。刻印を有する金属製品は、メッキを施した金属製品の表面に打刻により形成された刻印の溝の内周面に、前記表面のメッキ層と等しい又はこれより薄いメッキ層を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッキ層と刻印を有する金属製品の生産方法及び同金属製品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鉄製品などの金属製品には、地金属を腐食から保護するために防食メッキが施され、また、品質管理や品質保証のために、型式番号その他のマークが刻印されることが多い。
【0003】
従来のメッキ層と刻印を有する金属製品は、刻印が形成された後にメッキ処理がされていた。
【特許文献1】特になし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属製品が小型である場合は、メッキ槽から引き上げた製品の表面に付着したメッキ液が厚いときは、これを薄くするため、遠心分離機に掛けることができるが、金属製品が遠心分離機に掛けることができないほど大型又は長尺である場合は、金属製品をメッキ槽から引き上げて単に引っ掛け具に吊り下げて乾燥させている。そのため、予め形成されている刻印の溝の中にメッキ液が流れ込み、乾燥終了時点には、溝の中に厚く形成されたメッキ層により溝が浅くなる結果、完成した金属製品の刻印が鮮明に見えないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、解決しようとする第一の課題は、メッキ層と刻印を有する金属製品を、その刻印が鮮明に見えるように生産する方法を提供することにある。
第二の課題は、メッキ層と刻印を有する金属製品であって、刻印が鮮明に見えるものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記第一の課題を解決するため、本発明によるメッキ層と刻印を有する金属製品の生産方法は、金属製品にメッキを施した後に、その金属製品の表面に打刻することを特徴としている(請求項1)。
メッキの後にメッキ層の上から打刻するので、刻印の溝の中に表面のメッキ層より厚いメッキ層が形成されて溝が浅くなることはない。従って、刻印は鮮明に見える。
【0007】
本発明方法においては、先端に丸みを有する刻印ポンチ(以下、単に「ポンチ」という)を用いて打刻することが望ましい(請求項2)。
先端が鋭利なポンチを用いて刻印する場合は、刻印の溝の内周面のメッキ層が消失し易いが、先端に丸みを有するポンチを用いる場合は、刻印の溝の内周面のメッキ層が消失することを防止することができる。
【0008】
また、本発明方法においては、打刻荷重を金属製品の地金属の硬度に対応して設定し、打刻深さをメッキ層の伸び率を越えない範囲に設定することが望ましい(請求項3)。
上記打刻荷重と打刻深さの設定により、刻印の溝の内周面に前記金属製品の表面のメッキ層と等しい又はこれより薄いメッキ層を形成することが可能であり、刻印が鮮明に見えることに止まらず、溝内のメッキ層の消失が確実に防止されるので、メッキ後に打刻したために金属製品の防食性が損なわれることがない。
【0009】
上記第二の課題を解決するため、本発明による、メッキ層と刻印を有する金属製品は、メッキを施した金属製品の表面に打刻により形成された刻印の溝の内周面に、前記表面のメッキ層と等しい又はこれより薄いメッキ層を備えたことを特徴としている(請求項4)。
【0010】
上記構成により、刻印の溝は、膜厚の大きいメッキ層で浅く形成されておらず、金属製品の表面のメッキ層と等しい又はこれより薄いメッキ層が存在するだけであるので、刻印は、計算された溝の深さ(打刻深さ)を有する。従って、溝に明確な陰ができ、表面からの反射光と溝の陰とのコントラストにより刻印が鮮明に見える。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、メッキ処理の後に打刻するので、刻印の溝が厚いメッキ層により浅くなることはないので、刻印が鮮明に見える金属製品を生産することができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、先端に丸みを有するポンチを用いて打刻するので、刻印の溝の内周面に残るメッキ層の消失を防止することができる。従って、メッキ後の打刻によって防食性が低下するのを防止することができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、刻印の溝の内周面に金属製品の表面のメッキ層と等しい又はこれより薄いメッキ層を形成することが可能であるから、刻印が鮮明に見えることに止まらず、溝内のメッキ層の消失が確実に防止され、メッキ後に打刻したために金属製品の防食性が損なわれることがない。
【0014】
請求項4の発明によるメッキ層と刻印を有する金属製品は、メッキを施した金属製品の表面に打刻により形成された刻印の溝の内周面に金属製品の表面のメッキ層と等しい又はこれより薄いメッキ層を備えたものであるから、刻印は計算通りの打刻深さを有するので、金属製品の表面からの反射光と溝の陰とのコントラストにより刻印が鮮明に見える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明によるメッキ層と刻印を有する金属製品の生産方法の工程図、図2は本発明方法により生産された金属製品の一例の刻印された部分の一部の平面図、図3は同製品の刻印の一部の拡大断面図であり、(a)及び(b)は異なる打刻荷重による溝内のメッキ層を示す。図4は同メッキ層に関する説明図、図5は先端に丸みを有するポンチの一例を示す端面図、図6は先端に丸みを有するポンチで打刻した溝内のメッキ層を示す図4に対応する拡大断面図、図7は図4と図6の対比説明図である。
【0016】
メッキ層と刻印を有する金属製品の本発明による生産工程は、図1に示すように、通常の製造方法により製造された金属製品、中でも、大型又は長尺の製品に対する、メッキ処理工程bと打刻工程dを主たる工程とするが、通常の方法と同様に、メッキ処理工程bの前後に行われる洗浄などの前処理工程aと、乾燥などの後処理工程cとを含む。
【0017】
メッキ処理工程bによるメッキは、その目的が防食、装飾のいずれでも良く、また、メッキ方法は後処理工程において金属製品の表面にメッキ液が付着している状況が発生するメッキ処理、すなわち、電気メッキと浸漬メッキのいずれでも良いが、この実施例では、金属製品が鉄製品で高い防食性が要望される場合の実施例として、浸漬メッキの溶融亜鉛メッキを行う場合について説明する。
【0018】
また、打刻工程dは、打刻機によりポンチを用いて数字、文字、記号その他のマークを打刻して刻印するものである。
【0019】
図2は、メッキ後の金属製品1の表面に対して打刻により数字140の刻印2が形成された例を示している。メッキ処理後の金属製品1の表面には、メッキ処理により生成される通常の膜厚のメッキ層3が均一に生成されているものとし、打刻はその金属製品の表面の所望位置に対して行われるものとする。メッキ処理後に打刻を行うので、膜厚が均一なメッキ層を有する金属表面に対してポンチで打刻されるから、その打刻により形成される刻印2の溝の内周面には、図3に示すように、金属表面のメッキ層3aと等しい膜厚、又はそれよりも薄い膜厚のメッキ層3b1,3b2が残存することとなる。残存するメッキ層の厚さは、地金属1aの硬度、打刻荷重、打刻深さ、メッキ層の伸び率、ポンチの刃先形状などにより、異なる。
【0020】
図3(a)及び(b)は、鉄製品に対して亜鉛メッキを施した後、それぞれ刃先が角度を有するポンチを用いて打刻荷重15t、20tで打刻した場合の、図2の数字1の縦辺中央における断面図であり、とくに、刻印の溝内のメッキ層3b1,3b2の厚さの違いを示している。
【0021】
図4に基づいてさらに詳述すると、打刻荷重及び打刻深さが地金属1aの硬度及びメッキ層(亜鉛メッキ)の伸び率に見合ったもの(一例として、15t,0.44mm)である場合に溝内に残存するメッキ層3b1は、溝2の底に向かって多少薄くはなるものの、連続している。これに対し、打刻荷重及び打刻深さが地金属の硬度又はメッキ層の伸び率を越える場合(一例として、20t,0.52mm以上)に残存するメッキ層3b2は、溝の底の近辺において消失する。すなわち、溝の底に地金属が露出することとなる。
【0022】
地金属の多少の露出は、地金属とメッキ金属の組み合わせによっては、犠牲防食作用により地金属の腐食が抑制されるから問題ないが、犠牲防食作用が働かない組み合わせの場合は地金属の腐食の原因となるので、好ましくない。犠牲防食作用が得られる地金属とメッキ金属の組み合わせは、鉄と亜鉛メッキ、ニッケルと亜鉛メッキなどがある。従って、本発明方法は、図3(b)に示すような、刻印の溝の底においてメッキ層が若干消失する程度の深さに打刻される態様をも含むものである。
【0023】
本発明方法の最良の実施の態様は、メッキ処理後の刻印の溝底部のメッキ層の消失の問題を解消するため、図5に例示するような、刃先4aに丸みを有するポンチ4を用いて打刻することである。図6は、図4の刻印と同様に、溝幅1.22〜1.28mmの溝を打刻する場合に、刃先の半径曲率(R)が0.5mm及び0.8mmの2種類のポンチを用いて、打刻荷重20tで打刻した場合の、図2の数字1の縦辺中央における拡大断面図である。R0.5mmの場合は打刻荷重を20tとしても、刃先が角度を有するポンチを用いて打刻荷重15tで打刻した場合と等しい打刻深さとなり、かつ、その場合のメッキ層3b1の膜厚とほぼ等しい膜厚のメッキ層3b3が得られた。R0.8mmは打刻深さをR0.5mmの場合よりも浅くする狙いで定められた。この場合の溝2の深さは0.35mm程度であるが、刻印は鮮明に見え、しかも、溝内のメッキ層の膜厚はR0.5mmの場合よりも厚い。いずれの場合も、溝底部におけるメッキ膜厚は金属表面におけるメッキ膜厚の90ないし95%も残存している。図7は、刃先が鋭角を有するポンチと、刃先が丸いポンチで同じ溝幅の刻印を形成した場合の打刻深さと溝内のメッキ層の膜厚の違いを表している。なお、丸いポンチのメッキ膜厚は、図6と同一であるが、図7には簡明化のために省略してある。図6及び図7から、刃先が丸いポンチを用いる場合は、打刻荷重を大きくしても、溝底部にメッキ層の消失が発生しないので、地金属とメッキ金属の組み合わせに関わりなく、防食性が損なわれることが確実に防止される。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、電気メッキ、浸漬メッキされる各種金属製品、例えば銘板、ネームプレートなどに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明によるメッキ層と刻印を有する金属製品の生産方法の工程図。
【図2】本発明方法により生産された金属製品の刻印された部分の一部の平面図。
【図3】異なる打刻荷重による溝内のメッキ層を示す刻印の一部の拡大断面図。
【図4】同メッキ層に関する説明図。
【図5】刃先に丸みを有するポンチの一例を示す端面図。
【図6】先端に丸みを有するポンチで打刻した溝内のメッキ層を示す図4に対応する拡大断面図。
【図7】図4と図6の対比説明図。
【符号の説明】
【0026】
1 金属製品
2 刻印(溝)
3 メッキ層
3a 金属表面のメッキ層
3b1〜3b4 溝内のメッキ層
4 ポンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製品にメッキを施した後に、その金属製品の表面に打刻することを特徴とするメッキ層と刻印を有する金属製品の生産方法。
【請求項2】
先端に丸みを有する刻印ポンチを用いて打刻することを特徴とする請求項1に記載の金属製品の生産方法。
【請求項3】
打刻荷重を金属製品の地金属の硬度に対応して設定し、打刻深さをメッキ層の伸び率を越えない範囲に設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の金属製品の生産方法。
【請求項4】
メッキ層と刻印を有する金属製品において、メッキを施した金属製品の表面に打刻により形成された刻印の溝の内周面に、前記表面のメッキ層と等しい又はこれより薄いメッキ層を備えたことを特徴とする金属製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−265630(P2006−265630A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85536(P2005−85536)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000116873)旭テック株式会社 (144)
【Fターム(参考)】