説明

金属製容器及びその製造方法

【課題】隣接する折り曲げ部間の干渉をなくして折り曲げ部相互の隅を正確に形成する。
【解決手段】長手方向X,Yが交差するそれぞれの容器の開口縁4に該開口縁4に対して張り出し部5をそれぞれ横向きに形成する。それぞれの張り出し部5の外縁を折り曲げて折り曲げ部9を形成する。それぞれの折り曲げ部9の縁を内側に折り返して折り返し部9A,9Bを形成する。隣接する折り曲げ部9相互間を接続し、隣接する折り返し部9A,9B相互を接続する。隣接する折り返し部9A,9Bの一方の折り返し部9Aに切り欠き部10を形成する。折り返し部9A,9B相互間を接続するときに、切り欠き部10に他方の折り曲げ部9Bの長手方向Yの端9Dを係合させることができるので、折り返し部9A,9Bの端が干渉してしまうことはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば食品や各種工業製品等を収容して保管したりする金属製容器及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のものとして同一出願人による底面部と該底面部の周囲に周面部を立設した金属製浅底容器を絞り加工により成形した後に、前記周面部を上下に分断して前記底面部と一体な周面下部と周面上部に分割し、この後に前記周面下部の上部と前記周面上部の下部との間に別体で平面が環状の金属製周面中間体の下部及び上部をそれぞれ接続し、金型やプレス装置は、比較的高度な技術を利用する深底容器用ではなく、比較的容易な技術を利用する浅底容器用ですみ、深底容器を比較的容易に製造することができる金属製深底容器の製造方法を提案している(例えば特許文献1)。
【0003】
この従来技術においては、上部開口縁の縁に張り出し部を設け、この張り出し部の外縁を下方に折り曲げると共に、さらにその先端を内側に折り返した折り返し部を有する。このような折り返し部により、折り返し部の縁に指を掛けたときに、指が折り返し部に当ることにより折り返し部の端面によって指を傷つけることがないようにしている。
【特許文献1】特開2007−284097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術においては、隣接する折り曲げ部相互間を接続又は近接し、さらに隣接する折り返し部相互を接続又は近接するものであるが、隣接する折り曲げ部相互間を接続又は近接すると、隣接する折り返し部相互が干渉して、その箇所が他の箇所よりも厚くなってしまい、折り曲げ部相互の隅を正確に形成することができないという問題がある。
【0005】
解決しようとする問題点は、張り出し部に設けられた折り曲げ部相互間を接続又は近接し、隣接する折り返し部相互を接続又は近接した金属製容器において、隣接する折り曲げ部間の干渉をなくして折り曲げ部相互の隅を正確に形成する点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、長手方向が交差するそれぞれの容器の開口縁に該開口縁に対して張り出し部をそれぞれ横向きに形成し、該それぞれの張り出し部の外縁を折り曲げて形成すると共に、該それぞれの折り曲げ部の縁を内側に折り返して折り返し部を形成し、隣接する前記折り曲げ部相互間を接続又は近接し、隣接する前記折り返し部相互を接続又は近接した金属製容器において、隣接する前記折り返し部の一方に切り欠き部を形成したことを特徴とする金属製容器である。
【0007】
請求項2の発明は、前記切り欠き部の長手方向の長さは、前記折り返し部相互の他方の折り返し部の長さ方向に直交する方向長さと同じか大きく形成されたことを特徴とする請求項1記載の金属製容器である。
【0008】
請求項3の発明は、前記切り欠き部の高さは、前記折り返し部相互の他方の折り返し部の高さと同じか大きく形成されたことを特徴とする請求項1記載の金属製容器である。
【0009】
請求項4の発明は、長手方向が交差するそれぞれの容器の開口縁に該開口縁に対して張り出し部をそれぞれ横向きに形成し、該それぞれの張り出し部の外縁を折り曲げて折り曲げ部を形成すると共に、該それぞれの折り曲げ部の縁を内側に折り返して折り返し部を形成し、隣接する前記折り曲げ部相互間を接続又は近接し、隣接する前記折り返し部相互を接続又は近接した金属製容器の製造方法において、前記折り返し部相互間を接続又は近接すると共に、前記折り曲げ部相互を接続又は近接する前に、予め隣接する前記折り曲げ部の一方の長手方向端に切り欠き部を形成して、前記折り返し部相互間を接続又は近接するときに、前記切り欠き部に前記他方の折り曲げ部の長手方向端を係合させることを特徴とする金属製容器の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、切り欠き部に他方の折り曲げ部の長手方向の端を係合させる切り欠き部に他方の折り返し部の長手方向の端を係合させることができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、切り欠き部に折り返し部の端を長手方向において係合することができる。
【0012】
請求項3の発明によれば、切り欠き部に折り返し部の端を高さ方向において係合することができる。
【0013】
請求項4の発明によれば、折り曲げ部の長手方向の端側における干渉をなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照して説明する。尚、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。
【実施例1】
【0015】
図1〜8は実施例1を示しており、図2に示す第1工程は1枚のステンレス鋼の板材(素板)を図示しない第1の雌金型と第1の雄金型によって浅底容器1を絞り加工により成形する。この浅底容器1は平面が矩形の板状の底面部2と該底面部2の四方の周囲に立設する板状の周面部3とを備え上方に上部開口縁4を形成している。そして、ほぼ逆裁頭四角錐状枠部3Aを下部に形成した周面部3の上縁には横向きにフランジ等とも称せられる板状の張り出し部5が外側に突設している。四方に配置された張り出し部5の4つの角には張り出し部5を矩形に欠くように凹部5Aが形成されている。この切り欠かかれた凹部5Aにより、後述するように隣接する折り曲げ部9相互間を、長手方向X,Yで直交するように突き当てて接続できるようになっている。さらに、周面部3は高さ方向の同じ高さ位置で全周、実施例では高さ方向のほぼ中央の全周に設けられる仮想境界6を介して上下方向に周面下部7と周面上部8とに区画されている。
【0016】
図3〜5に示す第2工程は、図示しない第2の雌金型と第2の雄金型によって張り出し部5を下方に向けて折り曲げて折り曲げ部9を形成している。実施例では折り曲げ部9は、長手方向X,Yが交差するそれぞれの浅底容器1の上部開口縁4の開口縁4Aに該開口縁4Aに対して張り出し部5をそれぞれ横向きに形成し、張り出し部5の外縁を長手方向X,Y全長にわたって下方に折り曲げて形成されている。さらにその先端をU字形状にして内側に折り返した折り返し部9A,9Bを形成する。この折り返し部9A,9Bは、折り曲げ部9の縁端面を長手方向X,Y全長にわたって形成され、縁端面が折り曲げ部9を握る手指に接しないようにするものである。
【0017】
そして、隣接する折り曲げ部9相互間を、長手方向X,Yで直交するように突き当てるように接続し、さらに隣接する折り返し部9A,9B相間を、長手方向X,Yで直交するように突き当てるように接続している。これら接続は溶接(図示せず)やろう付け、或いはボルトナットのような連結具を用いる等適宜接続手段によってなされる。これら折り返し部9A,9Bの縁端面9Cはカール状となって折り曲げ部9の内面に突き当てると共に、この縁端面9Cを折り曲げ部9に接続している。この接続は縁端面9Cに対応する折り曲げ部9の表側からバーナー等を利用して熱を加えて、溶接を行っている。
【0018】
さらに、隣接する折り返し部9A,9Bの一方の折り返し部9Aには切り欠き部10を角形に形成している。この切り欠き部10は折り返し部9Aにおける長手方向Xの端部、すなわち折り返し部9A,9Bの隣接部の一方に形成されるものであり、この切り欠き部10の長手方向Xの長さAは、折り返し部9Bの長手方向Yに直交する方向長さBと同じか或いはやや大きく形成される(A=B,A>B)。また、切り欠き部10の高さCは折り返し部9Bの高さDと同じか或いはやや大きく形成される(C=D,C>D)。そして、切り欠き部10内に折り返し部9Bの長手方向Yの角形の端9Dが係合している。このために、図2に示すように張り出し部5の角の一方の縁には、長手方向Xに長さAで、奥行きC´が高さCとなる(C´=C)切り欠き部10´が凹部5Aに連接して形成される。したがって、図2で示した切り欠き部10´と図3〜5で示した切り欠き部10はほぼ同一形状となる。
【0019】
図1、図6〜7に示す第3工程は、仮想境界6を境として浅底容器1を下部1Aと上部1Bに2分割する。下部1Aは底面部2と周面下部7を一体に形成したものであり、一方上部1Bは平面が矩形枠状の周面上部8によって形成されている。そして、周面上部8の上端と周面下部7の下端との間の間隙Aにステンレス鋼の金属板材からなる周面中間体11を介在する。この周面中間体11は、図6(A)に示すように、例えば1枚のステンレス鋼の板材(素板)を図示しない第3の雌金型と第3の雄金型によって平面が矩形環状であって側面がほぼ四角状枠をなして成形され(図6(B))、そしてその先端縁を図6(C)に示すように溶接部11Aによって接続している。尚、周面下部7の上縁、周面上部8の上下縁、周面中間体11の下縁は平面からみたとき同一形状に形成されている。
【0020】
さらに、この第3工程では後述する第4工程の前処理として図7に示すように前記上下方向に、上部開口縁4を上向きとした上部1Bと、開口を上下方向に配置した周面中間体11と、底面部2より周面下部7を上側とした下部1Aとを、それぞれ間隔をおいて上下方向に同軸状に配置すると共に、この状態を図示しないジグによって保持した状態で、それぞれの端面12を図示しない刃物で削る。この削り加工は端面12が側面に対して直角に形成する。この加工は図7に示すように前記上下方向に、上部開口縁4を上向きとした上部1Bと、開口を上下方向に配置した周面中間体11と、底面部2より周面下部7を上側とした下部1Aとを、それぞれ間隔をおいて上下方向に同軸状に配置した状態で固定された状態で、同軸とした中心軸を中心として全体を回転しながら加工するものである。
【0021】
図8に示す第4工程は、底面部2と一体な周面上部8に周面中間体11、さらには周面上部8を積み重ねる。そして周面下部7の上縁と周面中間体11の下縁とを第1の溶接部12によって固着連結する。さらに周面中間体11の上縁と周面上部8の下縁とを第2の溶接部13によって固着連結する。この2つの溶接の順番は入れ替えてもよい。このようにして、深さの大きい深底容器14を製造する。
【0022】
尚、本件発明における深底容器14とは最初に製作する深さが浅い容器を浅底容器1としたとき、この浅底容器1に対して前記工程を経て深さが相対的に大きくなった容器を深底容器14というものであり、浅底容器1、深底容器14のそれぞれの深さや絞り率を数字的に限定しているものではない。
【0023】
以上のように、前記実施例においては底面部2と該底面部2の周囲に立設した周面下部7と、該周面下部7と切断されて該周面下部7の上方に間隙Aを有して設けられる周面上部8と、前記間隙Aに配置され周面下部7と周面上部8に一体に接続される周面中間体11とからなることにより、絞り率を大きくした状態で素板を絞り加工しなくとも、絞り率が比較的小さい状態で絞り加工した浅底容器1を利用して金属製深底容器14を比較的容易に製造することができる。
【0024】
また、長手方向X,Yが交差するそれぞれの容器の開口縁4に該開口縁4に対して張り出し部5をそれぞれ横向きに形成し、該それぞれの張り出し部5の外縁を折り曲げて折り曲げ部9を形成すると共に、該それぞれの折り曲げ部9の縁を内側に折り返して折り返し部9A,9Bを形成し、隣接する折り曲げ部9相互間を接続し、隣接する折り返し部9A,9B相互を接続し、隣接する折り返し部9A,9Bの一方の折り返し部9Aに切り欠き部10を形成し、折り返し部9A,9B相互間を接続するときに、切り欠き部10に他方の折り曲げ部9Bの長手方向Yの端9Dを係合させることができるので、折り返し部9A,9Bの端が干渉してしまうことはない。
【0025】
また、切り欠き部10の長手方向Xの長さAは、他方の折り返し部9Bの長さ方向Yに直交する方向長さBと同じか大きく形成されたことで、切り欠き部10に折り返し部9Bの端9Dを長手方向X,Yにおいて係合することができる。
【0026】
さらに、切り欠き部10の高さCは、折り返し部9A,9B相互の他方の折り返し部9Bの高さDと同じか大きく形成されたことで、切り欠き部10に折り返し部9Bの端9Dを高さ方向において係合することができる。
【0027】
しかも、金属製容器の製造方法において、折り返し部9相互間を接続又は近接すると共に、折り曲げ部9A,9B相互を接続又は近接する前に、予め隣接する折り曲げ部9A,9Bの一方に長手方向X端に切り欠き部10を形成して、前記折り返し部9A,9B相互間を接続又は近接するときに、前記切り欠き部10に前記他方の折り曲げ部9Bの長手方向Yの端9Dを係合させることで、折り曲げ部9A,9Bの長手方向X,Yの端9D側における干渉をなくすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上のように本発明にかかる金属製容器及びその製造方法は、各種の用途に適用できる。尚、容器の材料はステンレス鋼に限られるものではなく、各種の金属が利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例1を示す第3工程を示す分解斜視図である。
【図2】同第1工程を示す斜視図である。
【図3】同第2工程を示す一部を拡大断面とした斜視図である。
【図4】同第2工程を示す要部の拡大斜視図である。
【図5】同第2工程を示す要部の拡大断面図である。
【図6】同第3工程を示す周面中間体を示しており、図6(A)は金属板の斜視図、図6(B)は折り曲げ状態の斜視図、図6(C)は枠状態の斜視図を示している。
【図7】同第3工程を示す断面図である。
【図8】同第4工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
5 張り出し部
9 折り曲げ部
9A 9B 折り返し部
9D 端
10 切り欠き部
A B 長さ
C D 高さ
X Y 長手方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向が交差するそれぞれの容器の開口縁に該開口縁に対して張り出し部をそれぞれ横向きに形成し、該それぞれの張り出し部の外縁を折り曲げて形成すると共に、該それぞれの折り曲げ部の縁を内側に折り返して折り返し部を形成し、隣接する前記折り曲げ部相互間を接続又は近接し、隣接する前記折り返し部相互を接続又は近接した金属製容器において、隣接する前記折り返し部の一方に切り欠き部を形成したことを特徴とする金属製容器。
【請求項2】
前記切り欠き部の長手方向の長さは、前記折り返し部相互の他方の折り返し部の長さ方向に直交する方向長さと同じか大きく形成されたことを特徴とする請求項1記載の金属製容器。
【請求項3】
前記切り欠き部の高さは、前記折り返し部相互の他方の折り返し部の高さと同じか大きく形成されたことを特徴とする請求項1記載の金属製容器。
【請求項4】
長手方向が交差するそれぞれの容器の開口縁に該開口縁に対して張り出し部をそれぞれ横向きに形成し、該それぞれの張り出し部の外縁を折り曲げて折り曲げ部を形成すると共に、該それぞれの折り曲げ部の縁を内側に折り返して折り返し部を形成し、隣接する前記折り曲げ部相互間を接続又は近接し、隣接する前記折り返し部相互を接続又は近接した金属製容器の製造方法において、前記折り返し部相互間を接続又は近接すると共に、前記折り曲げ部相互を接続又は近接する前に、予め隣接する前記折り曲げ部の一方の長手方向端に切り欠き部を形成して、前記折り返し部相互間を接続又は近接するときに、前記切り欠き部に前記他方の折り曲げ部の長手方向端を係合させることを特徴とする金属製容器の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−173302(P2009−173302A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13143(P2008−13143)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(591216141)本間冬治工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】