説明

金属触媒担体、金属触媒体及びこれらの製造方法

【課題】従来の金属基板に触媒担持層を付着せしめた触媒担体は、触媒層の剥離や、触媒層の担体ムラがあるという欠点があった。
【解決手段】本発明の金属担体は、金属基板と、前記金属基板の表面に形成せしめた海綿状構造層とよりなることを特徴とする。前記海綿状構造層に、水和処理による皮膜が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種フィルター、吸着剤または充填材などの用途に有用な多孔体である金属触媒担体、金属触媒体及びこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の金属触媒体として、引用文献1〜7には、アルミニウム基板表面に陽極酸化皮膜(アルマイト皮膜)を形成させて、その皮膜にできた微細孔に触媒を担持せしめるものが記載されている。
【0003】
また、引用文献8〜11には、金属基板に触媒担持層を付着せしめて、その触媒担持層に触媒を担持せしめるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−59247号公報
【特許文献2】特開平2−144154号公報
【特許文献3】特開平8−246190公報
【特許文献4】特開平10−73226号公報
【特許文献5】特開2002−119856号公報
【特許文献6】特開2007−237090号公報
【特許文献7】特開2008−126151号公報
【特許文献8】特開平8−332394号公報
【特許文献9】特開2007−44574号公報
【特許文献10】特許第4263268号公報
【特許文献11】特開2008−259968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記アルマイト皮膜を用いる触媒体は、陽極酸化処理が必要であるため、製造が簡便でなく、コストが高いという欠点があった。
【0006】
また、金属基板に触媒担持層を付着せしめた触媒体は、触媒層の剥離、支持体と触媒スラリーとの密着性の問題、触媒層の担持ムラの問題がある。また、触媒活性を高めるために触媒の量を増すことが考えられるが、担持量を増やすため、触媒層を厚くすると、バインダー成分が活性成分を覆ってしまい、反応物が活性成分に接触しないため、思ったより活性が得られないという問題があった。
【0007】
本発明は前記の欠点を除くようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、金属基板の表面に微細な細孔の連なった海綿状構造の多孔体層を形成せしめて触媒担体を製造せしめる。また、この海綿状構造層を有する金属基板を水和処理して、その海綿状構造層に水和皮膜を形成せしめ、これを焼成して触媒担体を製造せしめてもよい。その後、触媒を担持せしめて触媒体を形成せしめて、前記触媒体を、例えばメタルハニカム構造に成形せしめる。
【0009】
なお、触媒担体を製造せしめた後、これをメタルハニカム構造に成形してから、触媒を担持せしめて触媒体を形成せしめてもよい。また、触媒担体の製造前又は製造中にメタルハニカム構造に成形せしめてもよい。
【0010】
前記金属基板は、特に限定されず、アルミニウム、ニッケル、タンタル、銅などの金属、それらの合金からなる。また、支持体の表面に前記金属層を形成せしめたものでも良い。また、クラッド材であっても良い。
【0011】
前記金属基板の形状は、箔、ワイヤー状など用途により選択できる。また、メタルハニカム状、ペレット状のものでもよい。また、厚さも自由に選択される。
【0012】
前記海綿状構造層の形成方法は、特に限定されず、電気化学的エッチング処理などの電気化学的手法、蒸着などの物理的手法などの拡面処理により行う。
【0013】
前記電気化学的手法は、例えば、図1に示すように、アルミニウム基板などの金属基板1(箔を含む。以下同じ。)をハロゲンイオンを含んだ溶液(例えば、塩酸)浴2で交流により電解処理せしめる。この電解処理により、前記金属基板1の表面で、腐食と皮膜形成が交互に繰り返され、微細な細孔が連なった海綿状の構造層が形成される。
【0014】
前記金属基板の表面に形成される海綿状構造層の厚さは、特に限定はないが、1μmより薄くすると分解活性が低下し、100μmより厚くすると分解活性の向上がなく圧損のみが上昇するため、金属表面から1〜100μmの厚さが好ましい。
【0015】
また、海綿状構造層の細孔径は大きすぎると触媒担持量が減少するので、平均孔径は最大で1000nmで、特に25〜300nmが好ましい。
【0016】
なお、図2は海綿状構造層を形成せしめたアルミニウム基板の断面のSEM写真を示し、図3はその模式図を示し、3は海綿状構造層、4は微細孔である。
【0017】
前記水和処理は、前記金属基板の表面積を拡大するために行うものである。なお、例えば、アルミニウム基板を水和処理した場合には、海綿状構造層に水酸化アルミニウムの皮膜が形成され、この際の水和処理液は特に限定されず、例えば、10〜100℃の水または温水、熱水によって行なわれる。また、反応促進剤として、トリエタノールアミン、アンモニア、ケイ酸ナトリウムなどを添加してもよい。
【0018】
前記焼成処理は、水和皮膜中の水分を脱水して金属基板の表面積を拡大するものである。なお、例えば、アルミニウム基板を水和処理して焼成処理した場合には、焼成温度が300℃未満であるとアルミナの出来方が不十分であり、550℃より温度が高いと基体が損傷して表面積が低下して好ましくないため、300〜550℃の間で5分〜3時間の間で行う。
【0019】
前記触媒担体に担持される触媒活性を有する金属は、特に限定されず、例えば、触媒活性を有する公知の金属、合金または金属化合物が挙げられる。例えば、白金系金属、白金系金属の化合物、パラジウム、ロジウム、インジウム、銀、レニウム、錫、セリウム、ジルコニウム、金、金合金、マンガン、鉄、亜鉛、銅、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、ルテニウム等の金属、酸化物、炭酸塩等化合物の中から選択することが望ましい。また、これらの触媒物質を組み合わせてもよい。
【0020】
前記触媒担体に触媒を担持する方法は、例えば、触媒活性を有する金属を海綿状構造層又は皮膜に吸着させ、更に触媒反応に用いられる物質と接触しても脱着しない程度固定させる。
【0021】
具体的には、特に限定されず、例えば、含浸法、電着法、イオン交換法、共沈法、沈着法、水熱合成法、気相合成法等の公知の方法を用いる。特に、触媒活性を有する金属イオンを含有する水溶液に浸漬させる含浸法が好ましい。含浸法に用いられる水溶液は、触媒活性を有する金属を含む、塩化物、臭化物、アンモニウム化合物、シアン化物、アルカリ金属塩、これらの複合化合物を用いて調整することができる。
【0022】
また、触媒活性を有する金属を固着させるために焼成処理を行うこともできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、簡便で、かつ、安価で大面積の触媒担体を得ることができる。また、単位面積当たりの有効触媒量を増やす事ができ、高効率、高耐久な触媒活性を得られるという大きな利益がある。
【0024】
また、アルミニウム基材においては、触媒との密着性も良い。
【0025】
また、基材表面に直接水和皮膜を付与することができるので、触媒の密着性が良く、高活性、高耐久性がある。
【0026】
また、海綿状構造層の厚みをコントロールすることにより触媒層厚を自由に設計でき、かつ海綿状構造層の下層部の触媒も活性発揮することができる為、単位面積当たりの有効触媒量を増やすことが可能となる。
【0027】
また、金属基板表面に直接、触媒担体となる多孔体を形成するため、含浸法等により多孔体内部に触媒が担持され、触媒の密着性が良好なものとなる。
【0028】
また、マイクロリアクターのマイクロ流路壁面の処理にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の海綿状構造層を形成するために使用する装置の説明図である。
【図2】本発明の海綿状構造層を有する金属基板の断面のSEM写真である。
【図3】本発明の海綿状構造層を有する金属基板の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の金属触媒担体は、金属基板と、前記金属基板の表面に形成せしめた海綿状構造層とよりなることを特徴とする。
【0031】
また、前記海綿状構造層に、水和処理による皮膜が形成されていることを特徴とする。
【0032】
また、前記海綿状構造層に、水和処理した後に焼成した皮膜が形成されていることを特徴とする。
【0033】
また、本発明の触媒担体の製造方法は、金属基板の表面に海綿状構造層を形成せしめる第一の工程と、前記金属基板を水和処理する第二の工程と、前記金属基板を焼成する第三の工程とよりなることを特徴とする。
【0034】
また、前記金属基板の表面に形成された海綿状構造層の厚さが1〜100μmであることを特徴とする。
【0035】
前記海綿状構造層に形成される微細孔の平均径が25〜300nmであることを特徴とする。
【0036】
また、前記触媒担体に、触媒を担持せしめる。
【0037】
また、前記触媒担体又は触媒体がメタルハニカム構造に形成されている。
【0038】
以下、本発明を実施例によって更に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0039】
(比較例1)
未処理の25μm厚のアルミニウム箔にメタノール水蒸気改質触媒スラリー(Cu/ZnO触媒粉末、及びアルミナゾルバインダー、凝集剤等混合物)を吹きつけ、焼成し固着させた。
【実施例1】
【0040】
25μm厚のアルミニウム箔をエッチング浴温75℃、10wt%塩酸+0.1wt%硫酸の浴で周波数75Hz、電流密度0.6A/cm2の交流電流で15秒間電解した。その場合の海綿状エッチング層厚は片面約5μm、微細孔径平均は約50nmであった。その後、このエッチング処理したアルミニウム箔を80℃のイオン交換水中にて1時間水和処理を行った。このエッチング処理及び水和処理を施したアルミニウム箔を銅、亜鉛イオンの溶解する液に浸漬し、銅、亜鉛を担持して触媒体を得た。この場合の触媒担持量は1.0g/m2であった。
【実施例2】
【0041】
50μm厚のアルミニウム箔を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、触媒体を得た。この場合の触媒担持量は1.0g/m2であった。
【実施例3】
【0042】
50μm厚のアルミニウム箔をエッチング浴温75℃、10wt%塩酸+0.1wt%硫酸の浴で周波数100Hz、電流密度0.6A/cm2の交流電流で30秒間電解した。その場合の海綿状エッチング層厚は片面約10μm、微細孔径平均は約25nmであった。その後、実験例1と同様の操作を行い、触媒体を得た。この場合の触媒担持量は2.1g/m2であった。
【実施例4】
【0043】
50μm厚のアルミニウム箔をエッチング浴温75℃、10wt%塩酸+0.1wt%硫酸の浴で周波数75Hz、電流密度0.6A/cm2の交流電流で30秒間電解した。その場合の海綿状エッチング層厚は片面約10μm、微細孔径平均は約50nmであった。その後、実験例1と同様の操作を行い、触媒体を得た。この場合の触媒担持量は2.0g/m2であった。
【実施例5】
【0044】
50μm厚のアルミニウム箔をエッチング浴温75℃、10wt%塩酸+0.1wt%硫酸の浴で周波数10Hz、電流密度0.6A/cm2の交流電流で30秒間電解した。その場合の海綿状エッチング層厚は片面約10μm、微細孔径平均は約300nmであった。その後、実験例1と同様の操作を行い、触媒体を得た。この場合の触媒担持量は1.6g/m2であった。
【実施例6】
【0045】
50μm厚のアルミニウム箔をエッチング浴温75℃、10wt%塩酸+0.1wt%硫酸の浴で周波数8Hz、電流密度0.6A/cm2の交流電流で30秒間電解した。その場合の海綿状エッチング層厚は片面約10μm、微細孔径平均は約400nmであった。その後、実験例1と同様の操作を行い、触媒体を得た。この場合の触媒担持量は1.0g/m2であった。
【実施例7】
【0046】
50μm厚のアルミニウム箔をエッチング浴温75℃、10wt%塩酸+0.1wt%硫酸の浴で周波数75Hz、電流密度0.6A/cm2の交流電流で45秒間電解した。その場合の海綿状エッチング層厚は片面約15μm、微細孔径平均は約50nmであった。その後、実験例1と同様の操作を行い、触媒体を得た。この場合の触媒担持量は3.0g/m2であった。
【実施例8】
【0047】
50μm厚のアルミニウム箔をエッチング浴温75℃、10wt%塩酸+0.1wt%硫酸の浴で周波数75Hz、電流密度0.6A/cm2の交流電流で60秒間電解した。その場合の海綿状エッチング層厚は片面約20μm、微細孔径平均は約50nmであった。その後、実験例1と同様の操作を行い、触媒体を得た。この場合の触媒担持量は4.0g/m2であった。
【実施例9】
【0048】
100μm厚のアルミニウム箔をエッチング浴温75℃、10wt%塩酸+0.1wt%硫酸の浴で周波数75Hz、電流密度0.6A/cm2の交流電流で120秒間電解した。その場合の海綿状エッチング層厚は片面約40μm、微細孔径平均は約50nmであった。その後、実験例1と同様の操作を行い、触媒体を得た。この場合の触媒担持量は8.0g/m2であった。
【実施例10】
【0049】
200μm厚のアルミニウム箔をエッチング浴温75℃、10wt%塩酸+0.1wt%硫酸の浴で周波数75Hz、電流密度0.6A/cm2の交流電流で240秒間電解した。その場合の海綿状エッチング層厚は片面約80μm、微細孔径平均は約50nmであった。その後、実験例1と同様の操作を行い、触媒体を得た。この場合の触媒担持量は15.0g/m2であった。
【0050】
触媒活性の評価として、本発明による触媒担体の特徴として高比表面積であることを活かし、今後伸張が期待される燃料電池用小型改質器への応用を視野に入れ、メタノールの水蒸気改質を行い評価した。
【0051】
ステンレス製の円筒状反応管に、箔形状で作成した触媒体を切り出した後、挿入し、電気炉で改質反応温度を300℃まで加熱した。メタノールと水蒸気の混合ガスを触媒量に対して一定量で導入し改質ガスの分析を行い、評価した。
その分解測定データを表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
その結果、本発明の海綿体構造層を有する金属触媒体は優れた性能であることが判明した。
【符号の説明】
【0054】
1 アルミニウム基板
2 浴
3 海綿状構造層
4 微細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板と、前記金属基板の表面に形成せしめた海綿状構造層とよりなることを特徴とする金属触媒担体。
【請求項2】
前記金属基板の表面に形成された海綿状構造層の厚さが1〜100μmであることを特徴とする請求項1記載の金属触媒担体。
【請求項3】
前記海綿状構造層に形成される微細孔の平均径が25〜300nmであることを特徴とする請求項1または2記載の金属触媒担体。
【請求項4】
前記海綿状構造層に、水和処理による皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1、2または3記載の金属触媒担体。
【請求項5】
前記海綿状構造層に、水和処理した後に焼成した皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1、2または3記載の金属触媒担体。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5の何れかに記載された触媒担体に、触媒を担持せしめた金属触媒体。
【請求項7】
請求項1、2、3、4または5の何れかに記載された触媒担体がメタルハニカム構造に形成され、この触媒担体に、触媒が担持されていることを特徴とする金属触媒体。
【請求項8】
金属基板の表面に海綿状構造層を形成せしめる第一の工程と、
前記金属基板を水和処理する第二の工程と、
前記金属基板を焼成する第三の工程と
よりなることを特徴とする金属触媒担体の製造方法。
【請求項9】
前記金属基板の表面に形成された海綿状構造層の厚さが1〜100μmであることを特徴とする請求項8記載の金属触媒担体の製造方法。
【請求項10】
前記海綿状構造層に形成される微細孔の平均径が25〜300nmであることを特徴とする請求項8または9記載の金属触媒担体の製造方法。
【請求項11】
請求項8、9または10の何れかに記載された触媒担体に、触媒を担持せしめる工程を更に有することを特徴とする金属触媒体の製造方法。
【請求項12】
請求項8、9または10の何れかに記載された触媒担体をメタルハニカム構造に形成せしめる工程と、
前記触媒担体に、触媒を担持せしめる工程と
を更に有することを特徴とする金属触媒体の製造方法。
【請求項13】
請求項8、9または10の何れかに記載された触媒担体に、触媒を担持せしめて触媒体を製造せしめる工程と、
前記触媒体をメタルハニカム構造に形成せしめる工程と
を更に有することを特徴とする金属触媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−55856(P2012−55856A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203245(P2010−203245)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(390033385)日本蓄電器工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】