説明

金属調化粧シートおよびその製造方法

【課題】 メッキ加工や塗装により製造された従来品と同等の均質で良好な金属光沢を有し、かつ、リサイクルし易い金属調樹脂成形品を製造可能な金属調化粧シートの提供。
【解決手段】 熱可塑性樹脂からなる基材シート11と、該基材シート11に第1の接着層12を介して積層した金属意匠シート13と、該金属意匠シート13に第2の接着層14を介して積層したアクリル樹脂シート15とを備え、前記金属意匠シート13は、PETシート13aと該PETシート13aの片面に形成された金属蒸着層または金属スパッタ層13bとからなり、前記金属蒸着層または金属スパッタ層13bと前記第2の接着層14とが接するように配置された金属調化粧シート10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が金属調の樹脂成形品をインサート成形などで製造する際に使用される金属調化粧シートと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールキャップのセンターエンブレムなど、表面が金属調の樹脂成形品は、従来、特許文献1の従来技術に記載されているように、まず樹脂を成形し、その後、得られた樹脂成形品の表面にメッキ加工をし、塗装する方法などで製造されてきた。
ところが、メッキ加工で発生する廃水や塗装に使用される有機溶剤は、環境的に好ましくないという問題があった。また、メッキ加工で形成される金属箔は比較的厚いため、このような金属箔を備えた樹脂成形品を樹脂としてリサイクルすることは困難であった。
そこで最近では、メッキ加工や塗装をせずに、従来と同等の金属光沢を備えた樹脂成形品を製造する方法として、金属箔よりも薄い金属層を備えた化粧シートを真空成形などで予備成形し、ついで、この成形された化粧シートを型内に配した後、溶融樹脂を注入して一体化するインサート成形が検討されている。
【特許文献1】特許第2981475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような方法では、真空成形やインサート成形の際に、金属層の外観が不均質となったり、金属層にクラックが発生したりして、従来と同等の金属光沢を備えた樹脂成形品を製造することは困難であった。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、真空成形やインサート成形に供して深絞りの金属調樹脂成形品を製造した場合でも、クラックが発生せず、メッキ加工や塗装により製造された従来品と同等の均質で良好な金属光沢を発現し、かつ、リサイクルし易い金属調樹脂成形品を製造可能な金属調化粧シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の金属調化粧シートは、熱可塑性樹脂からなる基材シートと、該基材シートに第1の接着層を介して積層した金属意匠シートと、該金属意匠シートに第2の接着層を介して積層したアクリル樹脂シートとを備え、前記金属意匠シートは、PETシートと該PETシートの片面に形成された金属蒸着層または金属スパッタ層とからなり、前記金属蒸着層または金属スパッタ層と前記第2の接着層とが接するように配置されたことを特徴とする。
本発明の金属調化粧シートの製造方法は、前記金属蒸着層または前記金属スパッタ層が外側となるように、前記第1の接着層を介して重ねられた前記基材シートと前記金属意匠シートとを、一対の鏡面仕上げされた押圧面を備えた熱圧着手段の該押圧面間で挟持する第1工程と、前記金属意匠シートに、前記第2の接着層を介して前記アクリル樹脂シートを積層する第2工程とを有することを特徴とする。
前記熱圧着手段は、一対の加熱ロールと、該加熱ロールの後段側に設けられた一対の冷却ロールと、前記加熱ロールと前記冷却ロールの同一側にそれぞれ掛け回され、対向する表面が前記押圧面である一対の無端金属ベルトと、該無端金属ベルトの前記押圧面同士が近づくように作用する一対の加圧手段とを備えていることが好ましい。
本発明の金属調化粧シートは、インサート成形品への使用に適している。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、真空成形やインサート成形に供して深絞りの金属調樹脂成形品を製造した場合でも、クラックが発生せず、メッキ加工や塗装により製造された従来品と同等の均質で良好な金属光沢を発現し、かつ、リサイクルし易い金属調樹脂成形品を製造可能な金属調化粧シートを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の金属調化粧シート(以下、化粧シートという。)10の一例であって、厚さ0.36mmのABS樹脂からなる基材シート11の上に、第1の接着層12を介して積層した金属意匠シート13と、この金属意匠シート13に第2の接着層14を介して積層した厚さ0.075mmのアクリル樹脂シート15とからなるものである。
【0008】
基材シート11の材質としては、ABSに限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのABS以外の熱可塑性樹脂も使用できる。また、複数の樹脂の積層シートを使用してもよい。例えば、熱可塑性ウレタン樹脂(TPU)はポリアミドとの密着性に優れる。よって、ポリアミド成形品の表面にインサート成形で化粧シートを配する場合には、基材シート11としてTPUとABSの積層シートを備える化粧シートを使用し、TPUの側に溶融ポリアミド樹脂が接するようにこれを注入することで、化粧シートとポリアミドとがより強固に一体化したインサート成形品を製造できる。
また、基材シート11の厚さは、その材質、化粧シート10の用途などに応じて適宜設定できるが、通常0.2〜1.0mmの範囲である。
【0009】
この例の金属意匠シート13は、厚さ0.016mmの成形性のPETシート13aと、このPETシート13aの片面に形成されたステンレススチールの金属蒸着層または金属スパッタ層13bとからなり、金属蒸着層または金属スパッタ層13bと第2の接着層14とが接するように配置されている。ここでPETシート13aは、金属蒸着層または金属スパッタ層13bとの密着性に優れるとともに、詳しくは後述するように、均質、平滑で緻密な金属蒸着層または金属スパッタ層13bをその表面に形成可能なことから好ましく使用される。
【0010】
成形性のPETシート13aとは、PETシート本来の強度を維持しつつ高い伸度を備え、成型加工性に優れたものであって、具体例としては、帝人デュポンフィルム(株)製テフレックスFT3、東レ(株)製QT10などが挙げられる。
また、成形性のPETシート13aの好ましい物性は、JIS K7161による引張り強さが150〜230MPa、伸び率が140〜190%、加熱収縮率が1.0〜5.0%であって、図示例のPETシート13aは、引張り強さが177MPa、伸び率が160%、加熱収縮率が5%である。PETシート13aの物性が上記範囲内であると、化粧シート10を真空成形した場合や、さらにインサート成形に使用した場合の成形加工追従性が非常に優れ、深絞りの成形品であっても良好に製造できる。成形性のPETシート13aの厚さには制限はないが、成形性、強度の点から10〜50μmが好ましい。
【0011】
金属蒸着層または金属スパッタ層(以下、金属層という。)13bは、PETシート13aに対して真空蒸着法またはスパッタリング法により形成されるものである。真空蒸着法やスパッタリング法によれば、金属光沢を備えた金属層13bを、少ない金属量で形成できるため、この金属層13bを有する化粧シート10が使用された樹脂成形品を、樹脂としてリサイクルすることも可能である。金属種としては、ステンレススチールの他、例えばアルミニウム、インジウム、クロム、亜鉛、ガリウム、ニッケル、スズ、銀、金、ケイ素、チタン、白金、パラジウム、ハステロイなどが挙げられる。これらのなかでは、密着性に優れた金属層13bを形成できることから、ステンレススチールが好ましい。
金属層13bの厚さは、通常10〜100nm、好ましくは20〜40nmである。この範囲であると、十分な金属光沢をより経済的に付与できる。
【0012】
アクリル樹脂シート15は、金属意匠シート13の外側に配されることによって、金属層13bを保護するとともに、化粧シート10に硬度、耐候性などの特性を付与するものである。アクリル樹脂シート15の厚さとしては特に制限はないが、これらの特性を十分に付与できることから、通常0.050〜0.125mmである。
【0013】
基材シート11と金属意匠シート13とを接着する第1の接着層12、および金属意匠シート13とアクリル樹脂シート15とを接着する第2の接着層14は、これらをそれぞれ接着可能な接着剤から形成されればよく、接着剤の具体例としては、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエチレン系、ポリアミド系、ポリ塩化ビニル系、ポリクロロプレン系、カルボキシル化ゴム系、熱可塑性スチレン−ブタジエンゴム系、アクリル系、スチレン系、セルロース系、アルキッド系、ポリ酢酸ビニル系、エチレン酢酸ビニル共重合体系、ポリビニルアルコール系、エポキシ系、シリコーン系、天然ゴム系、合成ゴム系などが挙げられる。
また、第1の接着層12および第2の接着層14の厚さには制限はないが、通常1.0〜20μmである。この例では、第1の接着層12は厚さ3μmのポリエステル系接着剤から形成され、第2の接着層14は厚さ15μmのアクリル系接着剤から形成されている。
【0014】
次に、この例の化粧シート10の好適な製造方法について説明する。
まず、金属層13bが外側となるように、第1の接着層12を介して基材シート11と金属意匠シート13とを重ねて、図2の熱圧着手段30へと供給する。なお、この例では、金属意匠シート13におけるPETシート13aの表面にあらかじめ第1の接着層12が形成されている。
【0015】
この例の熱圧着手段30は、図示略の熱媒オイルが内部循環し、所定の温度に加熱された一対の加熱ロール31と、この加熱ロール31の後段側に設けられ、所定の温度以下に制御された一対の冷却ロール32と、加熱ロール31と冷却ロール32の同一側にそれぞれ掛け回された一対の無端金属ベルト33とを備えている。
【0016】
ここで無端金属ベルト33の対向する表面は、互いに所定の間隔を有して配置されているとともに、それぞれ鏡面仕上げされたステンレス製の押圧面33a,33bになっている。また、この熱圧着手段30には、炭化水素合成油のような流体圧力媒体の圧入によりこれら押圧面33a,33b同士が近づくように作用する、一対の加圧手段34がさらに備えられていて、圧入する流体圧力媒体の供給量を変化させることにより押圧面33a,33b同士を近づける際の圧力を制御でき、流体圧力媒体の温度を変化させることにより押圧面33a,33bの表面温度を制御できるようになっている。なお、この例の一対の加圧手段34は、前段側34aと後段側34bに2分割されていて、各々について流体圧力媒体の供給量および温度を独立に制御できるようになっている。
【0017】
第1の接着層12を介して重ねられた基材シート11と金属意匠シート13とを、この熱圧着手段30の対向する押圧面33a,33bの間に供給すると、基材シート11と金属意匠シート13とは、まず、加熱ロール31に加熱された無端金属ベルト33により150℃程度まで均一に加熱される。
【0018】
ついで、150℃に温度制御された流体圧力媒体が、加圧手段34の前段側34aおよび後段側34bに圧入され、押圧面33a,33b同士が接近して基材シート11と金属意匠シート13を挟持し、20〜30MPa程度の圧力で押圧するとともに冷却する。
その結果、基材シート11と金属意匠シートとは第1の接着層12を介して熱圧着し、また、金属意匠シート13の金属層13bは、図中上側の鏡面仕上げされた押圧面33aに直に押圧されつつ、加熱、冷却されて、均質化、平滑化するとともに緻密化する。
【0019】
ついで、第1の接着層12を介して積層した基材シート11と金属意匠シート13とは、押圧面33a,33bに挟持された状態で一対の冷却ロール32側へと送られ、この冷却ロール32の作用により60℃以下まで均一に冷却される。
【0020】
このように第1工程において、基材シート11と金属意匠シート13とを押圧面33a,33bで挟持して、これら熱圧着するとともに、金属意匠シート13における金属層13bを均質化、平滑化および緻密化する処理を行った後、この金属層13bの上に、第2の接着層14を介してアクリル樹脂シート15を積層する第2工程を行う。
第2工程の具体的方法には特に制限はないが、片面に第2の接着層14があらかじめ形成されたアクリル樹脂シート15を金属意匠シート13の金属層13bの上に配し、これらを、例えば一対の熱圧着ロールを備えた通常の熱圧着手段で熱圧着する方法や、図2に示した熱圧着手段30を再び使用して熱圧着する方法が挙げられる。この熱圧着時の加熱温度は、80〜150℃程度である。
【0021】
このような化粧シート10の製造方法では、まず、第1工程においてはアクリル樹脂シート15を重ねず、基材シート11と金属意匠シート13のみを第1の接着層12を介して重ねて熱圧着手段30に供給するので、単に基材シート11と金属意匠シート13とが熱圧着するだけでなく、金属意匠シート13における金属層13bが鏡面仕上げされた押圧面33aに直に押圧され、加熱、冷却されることとなり、金属層13bが均質化、平滑化するとともに緻密化する。このように均質化、緻密化することにより、金属層13bは、後の真空成形やインサート成形時に受ける加熱、加圧に対する耐性が向上し、クラックが発生しなくなり、また、平滑化することにより、より良好な金属光沢を発現する。また、ここで金属層13bの下には特にPETシート13aが配置されているために、金属層13bはこのような押圧によって、十分に均質化、平滑化するとともに緻密化する。
よって第2工程で、さらにアクリル樹脂シート15を積層して得られた化粧シート10は、真空成形やインサート成形に供し、深絞りの成形品を製造した場合でも、クラックが発生せず、均質で良好な金属光沢を発現することがきる。
【0022】
このようにして得られた化粧シート10は、例えばホイールキャップのセンターエンブレムなど自動車用品の他、冷蔵庫などの取っ手および表面材、パソコン、携帯電話のキー部分の表面など電化製品用途、キッチン扉の枠、郵便受けの枠など建材用途、鞄のモール材など意匠材用途など、種々のインサート成形品を製造する際などに好適に使用できる。
インサート成形は、化粧シート10を金型の中に配置した後、溶融樹脂を金型内に注入する通常の方法で行えばよい。
【0023】
なお、熱圧着手段30としては、図2の例に限定されず、一対の鏡面仕上げされた押圧面を備えたものであれば各種プレス装置を使用できる。しかしながら、加熱ロール31で加熱された無端金属ベルト33により均一に加熱できるとともに、加圧手段34の作用により均一な圧力で押圧、冷却でき、より均質かつ平滑で、緻密な金属層13bを形成できることから、図2の例のような装置を使用することが好ましい。なお、加圧手段34は、この例のように流体圧力媒体を使用するタイプのものでなくてもよいし、前段側34aと後段側34bに2分割されたタイプでなくてもよい。
また、第1の接着層12および第2の接着層14は、それぞれPETシート13a、アクリル樹脂シート15の表面にあらかじめ形成されていなくてもよく、例えば、工程の途中でロールコータなどの塗布手段で、PETシート13aや基材シート11の表面、アクリル樹脂シート15や金属層13bの表面に塗布して形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の金属調化粧シートの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の製造方法で使用する熱圧着手段を示す概略構成図である
【符号の説明】
【0025】
10 金属調化粧シート
11 基材シート
12 第1の接着層
13 金属意匠シート
13a PETシート
13b 金属蒸着層または金属スパッタ層
14 第2の接着層
15 アクリル樹脂シート
30 熱圧着手段
31 加熱ロール
32 冷却ロール
33 無端金属ベルト
33a,33b 押圧面
34 加圧手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる基材シートと、該基材シートに第1の接着層を介して積層した金属意匠シートと、該金属意匠シートに第2の接着層を介して積層したアクリル樹脂シートとを備え、
前記金属意匠シートは、PETシートと該PETシートの片面に形成された金属蒸着層または金属スパッタ層とからなり、前記金属蒸着層または金属スパッタ層と前記第2の接着層とが接するように配置されたことを特徴とする金属調化粧シート。
【請求項2】
請求項1に記載の金属調化粧シートの製造方法であって、
前記金属蒸着層または前記金属スパッタ層が外側となるように、前記第1の接着層を介して重ねられた前記基材シートと前記金属意匠シートとを、一対の鏡面仕上げされた押圧面を備えた熱圧着手段の該押圧面間で挟持する第1工程と、
前記金属意匠シートに、前記第2の接着層を介して前記アクリル樹脂シートを積層する第2工程とを有することを特徴とする金属調化粧シートの製造方法。
【請求項3】
前記熱圧着手段は、
一対の加熱ロールと、
該加熱ロールの後段側に設けられた一対の冷却ロールと、
前記加熱ロールと前記冷却ロールの同一側にそれぞれ掛け回され、対向する表面が前記押圧面である一対の無端金属ベルトと、
該無端金属ベルトの前記押圧面同士が近づくように作用する一対の加圧手段とを備えていることを特徴とする請求項2に記載の金属調化粧シートの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の金属調化粧シートを備えたことを特徴とするインサート成形品。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−15634(P2006−15634A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196575(P2004−196575)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】