説明

金属貼合せ成形加工用積層フィルム

【課題】 優れた成形加工性を有し、レトルト後外観、ゴールド発色性、着色剤ブリードアウト耐性等に優れた金属貼合せ成形加工用積層フィルムを提供する。
【解決手段】 ポリエステルA層とポリエステルB層とを積層してなる積層フィルムであって、ポリエステルA層がポリブチレンテレフタレート30〜70重量%とポリエチレンテレフタレート30〜70重量%とからなる樹脂組成物で構成され、ポリエステルB層がポリブチレンテレフタレート30〜70重量%とポリエチレンテレフタレート30〜70重量%とからなる樹脂組成物100重量部あたり着色剤0.1〜5.0重量部を含有する着色樹脂組成物で構成され、積層フィルムの最短半結晶化時間が1〜100秒であり、かつ色差計により測定したa*値が−30〜20、b*値が20〜70であることを特徴とする、金属貼合せ成形加工用積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属貼合せ成形加工用積層フィルムに関し、更に詳しくは製膜性に優れ、金属板に貼合せて絞り加工等の製缶加工をする際優れた成形加工性を示し、レトルト後の外観、ゴールド発色性等に優れた金属缶、例えば飲料缶、食品缶等を製造し得る金属貼合せ成形加工用積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属缶には内外面の腐蝕防止として一般に塗装が施されているが、最近、工程簡素化、衛生性向上、公害防止の目的で、有機溶剤を使用せずに防錆性を得る方法の開発が進められ、その一つとして熱可塑性樹脂フィルムによる被覆が試みられている。すなわち、ブリキ、ティンフリースチール、アルミニウム等の金属板に熱可塑性樹脂フィルムをラミネートした後、絞り加工等により製缶する方法の検討が進められている。
【0003】
一方、缶の外観上に高級感を与えるためにゴールド色に発色する塗料が現在でも広く使用されており、これを着色フィルムのラミネートで代替する提案がされているが多くの課題がある。例えば特開2001−301025号公報においては、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とした着色ポリエステルフィルムが開示されているが、フィルムの融点が高いことから金属板上への良好な密着性を得られるラミネートが難しく、また成形性が低い浅搾り缶程度しか用いることが出来ず、最も広く普及している飲料缶のような成形加工度の高い用途には適用出来ないという問題があった。また、特開2003−26823号公報においては、PETを共重合化し、低融点化、低結晶化することにより、熱ラミネート性と成形性の良好な着色ポリエステルフィルムが開示されているが、ラミネート時に溶融して非晶化したフィルムがレトルト殺菌処理時に結晶化して白色化し美観を損なうという問題があった。さらに、着色ポリエステル樹脂からなる単層フィルムの場合、着色剤によっては製罐後のレトルト殺菌処理時に着色剤が容易にブリードアウトし外観を損なうだけでなく、特に容器内面側にラミネートする場合は安全性に問題が生じる可能性があった。
【0004】
【特許文献1】特開2001−301025号公報
【特許文献2】特開2003−26823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って従来の技術では高度な成形加工性、レトルト後の良好な外観、ゴールド発色性、着色剤ブリードアウト耐性のすべてを満足するものはなかった。
本発明の目的は、優れた成形加工性を有し、レトルト後外観、ゴールド発色性および着色剤ブリードアウト耐性に優れた金属缶、例えば飲料缶、食品缶、を製造し得る金属貼合せ成形加工用積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、ポリエステルA層とポリエステルB層とを積層してなる積層フィルムであって、ポリエステルA層がポリブチレンテレフタレート30〜70重量%とポリエチレンテレフタレート30〜70重量%とからなる樹脂組成物で構成され、ポリエステルB層がポリブチレンテレフタレート30〜70重量%とポリエチレンテレフタレート30〜70重量%とからなる樹脂組成物100重量部あたり着色剤0.1〜5.0重量部を含有する着色樹脂組成物で構成され、積層フィルムの最短半結晶化時間が1〜100秒であり、かつ色差計により測定したa*値が−30〜20、b*値が20〜70であることを特徴とする、金属貼合せ成形加工用積層フィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた成形加工性、レトルト後外観、ゴールド発色性、着色剤ブリードアウト耐性を備える金属貼合せ成形加工用積層フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
[ポリエステルA層]
本発明において、ポリエステルA層は、ポリブチレンテレフタレート30〜70重量%とポリエチレンテレフタレート30〜70重量%とからなる樹脂組成物から構成され、好ましくは、ポリエステルA層はポリブチレンテレフタレート40〜60重量%とポリエチレンテレフタレート40〜60重量%とからなる樹脂組成物から構成される。
【0009】
ポリエステルA層において、ポリブチレンテレフタレートが30重量%未満であるかポリエチレンテレフタレートが70重量%を超えると、樹脂組成物の最短半結晶化時間が100秒を超え、レトルト処理後の外観に乳白色の斑点が発生しやすい。
【0010】
ポリエステルA層において、ポリブチレンテレフタレートが70重量%を超え、ポリエチレンテレフタレートが30重量%未満であると、樹脂組成物の最短半結晶化時間が1秒未満となり結晶性が上がり過ぎて製膜性が悪化する。
【0011】
[ポリエステルB層]
ポリエステルB層は、ポリブチレンテレフタレート30〜70重量%とポリエチレンテレフタレート30〜70重量%とからなる樹脂組成物および必要量の着色剤からなる着色樹脂組成物で構成され、好ましくはポリエステルB層はポリブチレンテレフタレート40〜60重量%とポリエチレンテレフタレート40〜60重量%とからなるポリエステル樹脂組成物および必要量の着色剤からなる着色樹脂組成物で構成される。
【0012】
ポリエステルB層において、ポリブチレンテレフタレートが30重量%未満であるかポリエチレンテレフタレートが70重量%を超えると、樹脂組成物の最短半結晶化時間が100秒を超え、レトルト処理後の外観に乳白色の斑点が発生しやすい。
【0013】
ポリエステルB層において、ポリブチレンテレフタレートが70重量%を超え、ポリエチレンテレフタレートが30重量%未満であると、樹脂組成物の最短半結晶化時間が1秒未満となり結晶性が上がり過ぎて製膜性が悪化する。
【0014】
本発明における必要量の着色剤とは、ポリエステル樹脂組成物100重量部に対して0.1〜5.0重量部、好ましくは0.3〜1.0重量部である。これについては後に説明する。
【0015】
[ポリブチレンテレフタレート]
本発明においてポリブチレンテレフタレートとは、テレフタル酸成分と1,4−ブタンジオール成分からなるポリエステルである。
【0016】
これには、本発明の効果が損なわれない範囲、例えば全ジカルボン酸成分または全ジオール成分あたり30モル%以下、さらに例えば20モル%以下の範囲で共重合成分を共重合してもよい。この共重合成分は、ジカルボン酸成分でもジオール成分でもよい。
【0017】
共重合成分として用いることのできるジカルボン酸成分としては、例えばイソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸の如き芳香族ジカルボン酸;例えばアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸の如き脂肪族ジカルボン酸;例えばシクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸を例示することができる。これらの中、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジガルボン酸またはアジピン酸が好ましい。
【0018】
共重合成分として用いることのできるジオール成分としては、例えばエチレングリコール、ヘキサンジオールの如き脂肪族ジオール;例えばシクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを例示することができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0019】
共重合成分を用いる場合、共重合割合は、得られるポリマーの融点が好ましくは180〜223℃、さらに好ましくは200〜223℃、特に好ましくは210〜223℃の範囲になる割合である。ポリマーの融点が180℃未満ではポリエステルとしての結晶性が低く、結果としてフィルムの耐熱性が低下する。尚、ポリブチレンテレフタレートホモポリマーの融点は223℃である。
【0020】
[ポリエチレンテレフタレート]
本発明におけるポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分とを主成分としてなるポリエステルである。
【0021】
これには、本発明の効果が損なわれない範囲、例えば全ジカルボン酸成分または全ジオール成分あたり30モル%以下、さらに例えば20モル%以下の範囲で共重合成分を共重合してもよい。この共重合成分は、ジカルボン酸成分でもジオール成分でもよい。
【0022】
共重合成分として用いることのできるジカルボン酸成分としては、例えばイソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸の如き芳香族ジカルボン酸;例えばアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸の如き脂肪族ジカルボン酸;例えばシクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸を例示することができる。これらの中、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジガルボン酸またはアジピン酸が好ましい。
【0023】
共重合成分として用いることのできるジオール成分としては、例えばブタンジオール、ヘキサンジオールの如き脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを例示することができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0024】
共重合成分を用いる場合、共重合割合は、得られるポリマーの融点が好ましくは210〜256℃、さらに好ましくは215〜256℃、特に好ましくは220〜256℃の範囲になる割合である。ポリマー融点が210℃未満では耐熱性が劣ることになる。ポリマー融点が256℃を越えるとポリマーの結晶性が大きすぎて成形加工性が損なわれる。なお、ポリマーの融点測定は、示差走査熱量計(TAInstruments製mDSC)を用い、昇温速度20℃/分で融解ピークを求める示差走査熱分析による。なお、サンプル量は約20mgとする。
【0025】
本発明の積層フィルムを製造するために用いられる原料ポリエステルについて、ポリブチレンテレフタレートの固有粘度は、好ましくは0.60〜2.00、さらに好ましくは0.80〜1.70、特に好ましくは0.85〜1.50である。固有粘度が0.6未満では実用に供することのできる機械的強度を有したフィルムが得られず好ましくない。原料ポリエステル樹脂およびフィルムの生産性の面から2.0以下であることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、好ましくは0.50〜0.80、さらに好ましくは、0.54〜0.70、特に好ましくは0.57〜0.65である。固有粘度が0.50未満では実用に供することのできる機械的強度を有したフィルムが得られず好ましくなく、0.80を超えると成形加工性が損なわれ好ましくない。なお、共重合ポリエステルの固有粘度は、ο−クロロフェノールに溶解後、35℃で測定する。
【0026】
[ポリエステルの製造方法]
ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートは、従来より公知の方法を適用して製造することができる。ポリエチレンテレフタレートは、例えば、テレフタル酸と、エチレングリコールと、要すれば共重合成分と、をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法により製造することができる。ジメチルテレフタレートと、エチレングリコールと、要すれば共重合成分と、をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法により製造してもよい。
【0027】
ポリブチレンテレフタレートは、例えば、テレフタル酸と、テトラメチレングリコールと、要すれば共重合成分と、をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法により製造することができる。ジメチルテレフタレートと、テトラエチレングリコールと、要すれば共重合成分と、をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させて共重合ポリエステルとする方法により製造してもよい。
【0028】
[着色剤]
ポリエステルB層は、樹脂組成物100重量部に対して、着色剤を0.1〜5.0重量部、好ましくは0.3〜1.0重量部含有する着色樹脂組成物からなる。
着色剤が0.1重量部未満であると良好な発色性が得られず、着色剤が5.0重量部を超えると着色剤の分散状態が悪化し製膜性が低下する。
【0029】
着色剤としては、アンスラキノン系、イソインドリノン系、ベンズイミダゾロン系、キノフタロン系、縮合アゾ系のいずれかの有機顔料を使用することができるが、好ましくはイソインドリノン系、ベンズイミダゾロン系、キノフタロン系のいずれかの有機顔料を用いる。中でもイソインドリノン系の有機顔料、例えばイソインドリノンイエロー;ベンズイミダゾロン系の有機顔料、例えばベンズイミダゾロンイエローが好ましい。有機顔料は1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。着色剤には、色調を調整する為に他の成分を併用しても良いが、耐熱性の良好なものが好ましく、またその用途上食品衛生面での安全性が認められているものが好ましい。
【0030】
着色剤は、原料樹脂の重合工程にて添加してもよいし、高濃度のマスターチップをニ軸押出機等により作成しておき、着色剤未含有のチップと混合することにより所望の濃度に調整してもよい。例えばスクリューフィーダーを使用して製膜工程のポリマー押出機に着色剤を粉体のままで直接添加する方法を用いてもよい。
【0031】
[微粒子]
本発明の積層フィルムにおいては、フィルム製造工程における取扱い性、特に巻取り性を改良するため、平均粒径2.5μm以下、好ましくは0.01〜1.8μmの微粒子を、ポリエステル100重量%に対し0.005〜1重量%、好ましくは0.01〜0.5重量%含有させることが好ましい。
【0032】
この微粒子は無機、有機系を問わないが、無機系が好ましい。無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウムを例示することができ、有機系微粒子としては架橋ポリスチレン粒子、架橋シリコーン樹脂粒子を例示することができる。いずれも平均粒径が2.5μm以下であることが望ましい。微粒子の平均粒径が2.5μmを超えると、成形加工により変形した部分の粗大粒子(例えば10μm以上の粒子)が起点となり、ピンホールを生じたり、場合によっては破断することもある。
【0033】
特に、耐ピンホール性の点で好ましい微粒子は、平均粒径が2.5μm以下であるとともに、粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である単分散微粒子である。このような微粒子としては、真球状シリカ、真球状二酸化チタン、真球状ジルコニウム、真球状架橋シリコーン樹脂粒子を例示することができる。
【0034】
本発明において、ポリエステルA層のポリエステル組成物を構成するポリエチレンテレフテレートおよびポリブチレンテレフタレートは、製膜前までに溶融混練されていることが好ましい。また、ポリエステルB層のポリエステル組成物を構成するポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートも、製膜前までに溶融混練されていることが好ましい。
【0035】
[最短半結晶化時間]
本発明において、フィルムの最短半結晶化時間は、1〜100秒、好ましくは5〜80秒、特に好ましくは5〜50秒である。最短半結晶化時間が1秒未満であると結晶性が上がり過ぎるため製膜性が悪化する。他方、最短結晶化時間が100秒を超えるとレトルト処理後の外観が斑点状に乳白色に変色する。
【0036】
なお、ここでいう最短半結晶化時間とは、樹脂の結晶化が生じる温度範囲で半結晶化時間を測定し、該温度範囲の中で最も短かった半結晶化時間であり、ポリマー結晶化速度測定装置(コタキ製作所(株)製、MK−801型)を用いて、直交した偏光板の間に置いた試料の結晶化に伴い増加する光学異方性結晶成分による透過光を各試料温度で測定(脱偏光強度法)し、下記のアブラミ式を用いて結晶化度が1/2となる時間を算出した各試料温度での値の中で最も短い時間である。
【0037】
試料(試料重量:8mg)は該装置に組み込まれた融解炉で樹脂の最高融点+50℃の温度で窒素中で1分間加熱後、直ちに試料を移動させて、結晶化浴中に浸漬し、10秒以内に試料温度を平衡な測定温度になるようにして測定を開始する。
【0038】
ここでの最高融点とは示差走査熱量計(TAInstrumentsmDSC型)により20℃/分の昇温速度で昇温した時、1つあるいは2つ以上の吸熱ピークが認められるが、それらの吸熱ピークの最大深さを示す温度の中で最高の温度をいう。該脱偏光強度法は、新実験化学講座(丸善)および高分子化学Vol.29.No.139、323および336(高分子学会)にも記載されているように、早い結晶化速度を測定する時に有効な方法である。
【0039】
なお、試料が熱平衡に達するまでの時間を考慮し、結晶化浴中に試料を移動して10秒経過した時点をt=0秒として測定した。t=0秒で測定した脱偏光透過強度がIo、Logtに対して脱偏光透過強度をプロットして結晶化温度曲線が直線になりはじめた点の脱偏光透過強度をIgとする。
【0040】
【数1】

【0041】
本発明においては、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートのCOOH末端量がフィルムの最短半結晶化時間に大きく関係する。ポリブチレンテレフタレートのCOOH末端量を10〜70当量/トン、およびポリエチレンテレフタレートのCOOH末端量を10〜50当量/トンとすると最短半結晶化時間を本発明の範囲に制御することができる。他方、この方法をとらず、例えばポリマー溶融時の滞留時間を長くしたり、滞留温度を高くするとポリマーが熱分解により劣化して好ましくない。
【0042】
ポリブチレンテレフタレートのCOOH末端量が10当量/トン未満であると、かかる最短半結晶化時間が長くなり過ぎて、ポリマーの劣化によるフィルムの製膜性が低下し易くなり、またレトルト処理後の外観が斑点状に乳白色に変色するため好ましくない。他方、COOH末端量が70当量/トンを超えるものは最短半結晶化時間が短くなり過ぎて、製膜工程中、特に延伸工程中で結晶化を起こしてしまい、局所的な厚み斑や幅変動の原因となり製膜性が低下し易く好ましくない。
【0043】
ポリエチレンテレフタレートのCOOH末端量が10当量/トン未満であると、かかる最短半結晶化時間が長くなり過ぎて、ポリマーの劣化によるフィルムの製膜性が低下し易くなり、またレトルト処理後の外観が斑点状に乳白色に変色するため好ましくない。他方、COOH末端量が50当量/トンを超えるものは最短半結晶化時間が短くなり過ぎて、製膜工程中、特に延伸工程中で結晶化を起こしてしまい、局所的な厚み斑や幅変動の原因となり製膜性が低下し易く好ましくない。
【0044】
なお、COOH末端量は、セイワ技研製COOH自動測定装置を用い、サンプル100mgにベンジルアルコール20mgを加え、窒素雰囲気下にて、200℃で4分間加熱した後、常温に冷却し、フェノールレッドを指示薬として0.02N水酸化ナトリウムベンジルアルコール溶液を滴下して、指示薬変色までの滴定量より下記式を用いて求められる。
COOH末端量(当量/トン)=滴定量(cc)×200
【0045】
[色調]
本発明の積層フィルムは、色差計により測定されるa*値が−30〜20、b*値が20〜70である色調を有することが必要であり、a*値が−20〜10、b*値が40〜70であることがより好ましい。a*値およびb*値は、JIS Z−8722に基づき、分光式自動色差計を用いて白板反射法により測定される数値である。
【0046】
a*値およびb*値をこの範囲とすることで金属ラミネート後に外観上高級感のあるゴールド発色性を持たせることができる。b*値が20未満では着色性に乏しく、金属ラミネート後に良好なゴールド発色性が得られない。他方70を超えると着色剤の分散状態が悪化し、製膜性が低下し易い。
【0047】
[色差]
本発明の積層フィルムは、125℃×90分のレトルト処理前後における色差ΔE*が、好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下である。特に高温下やレトルト下の使用で好適に使用するためには、フィルムに添加する着色剤の耐熱性が重要となり、例えば300℃での熱質量変化率が5%以下である着色剤を用いることが好ましい。
【0048】
また、本発明の積層フィルムは、200℃で1分間の乾熱処理をした前後での色差ΔE*が好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下である。200℃で1分間の乾熱処理前後での色差が3を超えると、製膜時やラミネート時の被熱で着色剤が変性し、所望のフィルム発色性が得られなくなり好ましくない。
【0049】
[ヘーズ変化量]
本発明の積層フィルムは、125℃で90分間のレトルト処理をした前後でのヘーズ変化量(ΔHz)が好ましくは10以下、さらに好ましくは7以下、さらに好ましくは5以下、特に好ましくは3以下である。125℃で90分間のレトルト処理前後でのヘーズ変化量(ΔHz)が10を超えると、金属に貼り合わせて製罐した後のレトルト殺菌処理でフィルムが斑点状に乳白色に変化し、缶の外観を損なう。
【0050】
[厚み]
ポリエステルA層の厚みは好ましくは1〜7μm、ポリエステルB層の厚みは好ましくは5〜50μmである。ポリエステルA層がポリエステルB層からの顔料ブリードアウト防止の効果を発揮するためには、ポリエステルA層の厚みが1μm以上であることが好ましく、より好ましくは2μm以上である。ポリエステルA層の厚みが1μm未満であると顔料のブリードアウト防止の効果が無い。また、ポリエステルB層の厚みが5μm未満であると良好な発色性が得られず好ましくない。さらに、本発明の積層フィルムの全層厚みは好ましくは6〜55μm、さらに好ましくは8〜45μm、特に好ましくは10〜30μmである。全層厚みが6μm未満では成形加工時に破れが生じやすくなり、一方55μmを超えるものは過剰品質であって不経済であり好ましくない。
【0051】
[製造方法]
本発明積層のフィルムを得るためには、特に高温下やレトルト下の使用で好適に使用するために、フィルムに添加する着色剤として耐熱性の高いものを用いることが重要である。着色剤として、300℃での熱質量変化率が5%以下であるもの、特に有機顔料を用いることが好ましい。このような着色剤としては、アンスラキノン系、イソインドリノン系、ベンズイミダゾロン系、キノフタロン系、縮合アゾ系のいずれかの有機顔料を使用することができ、中でもイソインドリノン系の有機顔料、例えばイソインドリノンイエロー;ベンズイミダゾロン系の有機顔料、例えばベンズイミダゾロンイエローが好ましい。本発明では、これらの化合物からなる群から選ばれる有機顔料を使用することができる。有機顔料は1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0052】
本発明の積層フィルムの製膜方法自体は、従来公知の製膜法を採用することができる。先ず、前述の各ポリエステル原料を必要に応じて乾燥した後、溶融押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押出し、冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めること必要があり、静電印加密着法又は液体塗布密着法が好ましく採用される。本発明においては必要に応じ両者を併用してもよい。
【0053】
本発明の積層フィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、二軸配向した積層フィルムであることが好ましい。次に、本発明の積層フィルムが二軸配向した積層フィルムである場合の積層フィルムの製膜方法について説明する。得られた未延伸フィルムを二軸方向に延伸して二軸配向する。すなわち、先ず、ロールまたはテンター方式の延伸機により、前記の未延伸シートを長手方向に延伸する。延伸温度は、50〜100℃、好ましくは60〜90℃であり、延伸倍率は2.8〜5.0倍、好ましくは3.0〜4.5倍である。次いで、テンター方式の延伸機により、幅方向に延伸を行う。延伸温度は60〜110℃、好ましくは70〜100℃であり、延伸倍率は3.0〜5.0倍、好ましくは3.2〜4.5倍である。さらに引続き130〜220℃の範囲の温度で20%以内の弛緩下で熱処理を行ない、二軸配向した積層フィルムを得る。
【0054】
[金属]
本発明の積層フィルムは、金属、特に金属板に貼りあわせて用いる。特に、ポリエステルA層が最外層となるように用いることが好ましい。本発明の積層ポリエステルは、製罐後のレトルト殺菌処理時における着色剤のブリードアウトを防ぐために、ポリエステルA層が最外層になるように金属板にラミネートされることが好ましい。
【0055】
金属板としては、ブリキ、ティンフリースチール、ティンニッケルスチール、アルミニウム等の板が適切である。金属板への積層フィルムの貼り合わせは、例えば下記(ア)、(イ)の方法で行うことができる。
(ア)金属板をフィルムの融点以上に加熱しておいてフィルムを貼り合わせた後冷却し、金属板に接するフィルムの表層部(薄層部)を非晶化して密着させる。
(イ)フィルムにあらかじめ接着剤をプライマーコートしておき、この面と金属板を貼り合わせる。接着剤としては公知の樹脂接着剤、例えばエポキシ系接着剤、エポキシ−エステル系接着剤、アルキッド系接着剤等をもちいることができる。また、この接着剤に白色顔料や黄色顔料を分散させることにより着色外観を有するフィルムとすることもできる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を掲げて本発明を更に説明する。なお、フィルムの特性は、以下の方法で測定、評価した。
(1)融点
TAInstruments製 DSC2920 Modulated DSCを用い、昇温速度20℃/分で融解ピーク温度を求める方法による。なお、サンプル量は約20mgとする。
【0057】
(2)固有粘度
フィルムをο−クロロフェノールに溶解後、遠心分離機により酸化チタン等のフィラーを取り除き、35℃の温度にて測定した。なお、固有粘度は未延伸フィルムの値である。
【0058】
(3)COOH末端量
セイワ技研製COOH自動測定装置を用い、サンプル100mgにベンジルアルコール20mgを加え、窒素雰囲気下にて、200℃で4分間加熱した後、常温に冷却し、フェノールレッドを指示薬として0.02N水酸化ナトリウムベンジルアルコール溶液を滴下して、指示薬変色までの滴定量より下記式を用いて求める。
COOH末端量(当量/トン)=滴定量(cc)×200
【0059】
(4)最短半結晶化時間
コタキ製作所製ポリマー結晶化速度測定装置MK−801型を用い、サンプル8mgにて40〜150℃の範囲にて測定する。
【0060】
(5)深絞り加工性
サンプルフィルムを、230℃に加熱した板厚0.25mmのティンフリースチールの両面に貼り合せ、水冷した後、150mm径の円板状に切り取り、絞りダイスとポンチを用いて4段階で深絞り加工し、55mm径の側面無継目容器(以下、缶と略す)を作成する。これらの缶について以下の観察及び試験を行ない、各々下記の基準で評価する。
○:フィルムに異状なく加工され、フィルムに白化や破断が認められない。
△:フィルムの缶上部に白化が認められる。
×:フィルムの一部にフィルム破断が認められる。
【0061】
(6)フィルムの色相測定
JIS Z 8722に基づき、日本電色工業製自動色差計(SE−Σ90型)を用い、5cm角のサンプル1枚のa*値およびb*値を測定し、下記の基準でフィルム発色性について評価する。なお、測定の際はフィルム押えとして装置に付属の白色板を使用し、反射法で測定する。
○:a*値が−30〜20、b*値が20〜70
△:a*値が−30〜20、b*値が20未満または70を超える
×:a*値が−30未満または20を超え、かつb*値が20未満または70を超える
【0062】
(7)フィルムのレトルト耐性
フィルムを125℃、90分間レトルト殺菌処理し、処理前後のフィルムについて(6)と同様にL*、a*、b*を測定する。さらに、下記式より色差(ΔE*)を算出し、評価する。
ΔE*={(ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2
ΔL*=処理前後でのフィルムのL*の差
Δa*=処理前後でのフィルムのa*の差
Δb*=処理前後でのフィルムのb*の差
○:ΔE*が5以下
△:ΔE*が5を超え10未満
×:ΔE*が10以上
また、レトルト処理前後のフィルムのヘーズを日本電色工業製ヘーズメーターNDH2000型により測定し、レトルト処理前後でのヘーズ変化量(ΔHz)を算出する。
ΔHz=(レトルト処理後のヘーズ)−(レトルト処理前のヘーズ)
○:ΔHzが10以下
△:ΔHzが10を超え15未満
×:ΔHzが15以上
【0063】
(8)着色剤ブリードアウト耐性
上記(7)と同様の手順でレトルト処理を施し、深絞り缶の底のポリエステル樹脂層をガーゼで軽く拭き、ガーゼの着色度合いを調べる。
○:ガーゼに着色なし。
△:ガーゼがやや着色した。
×:ガーゼが著しく黄色に着色した。
【0064】
[実施例1〜3]
表1に示すA層とB層のポリエステル組成物を常法により乾燥、270℃で個々に溶融した後、フィードブロックを使用して二層に積層し、ダイから押出して冷却固化し、未延伸フィルムを作成した。
次いで、この未延伸フィルムを68℃で3.2倍に縦延伸した後、78℃で3.7倍に横延伸し、185℃で熱固定して二軸配向積層フィルムを得た。得られたフィルムの厚みは12μmであった。
【0065】
[比較例1]
実施例3において、A層とB層の層厚みをを表1のとおり変更する以外は同様にして製膜を行ない、二軸配向積層フィルムを得た。
【0066】
[比較例2]
表1に示すA層とB層のポリエステル組成物を常法により乾燥し、280℃で個々に溶融した後、フィードブロックを使用して二層に積層し、ダイから押出して冷却固化し、未延伸フィルムを作成した。
次いで、この未延伸フィルムを105℃で3.2倍に縦延伸した後、120℃で3.2倍に横延伸し、210℃で熱固定して二軸配向積層フィルムを得た。得られたフィルムの厚みは15μmであった。
【0067】
[比較例3]
実施例2において、A層のポリエステル組成物を表1のとおり変更する以外は同様にして製膜を行ない、二軸配向積層フィルムを得た。製膜時横延伸工程において切断が頻発し製膜性は悪かった。
【0068】
[比較例4]
実施例2において、A層のポリエステル組成物を表1のとおり変更する以外は同様にして製膜を行ない、二軸配向積層フィルムを得た。製膜時横延伸工程において切断が頻発し製膜性は悪かった。
【0069】
[比較例5]
実施例1において、B層のポリエステル組成物を表1のとおり変更する以外は同様にして製膜を行ない、二軸配向積層フィルムを得た。製膜時横延伸工程において切断が頻発し製膜性は悪かった。
【0070】
[比較例6]
実施例1において、B層のポリエステル組成物を表1のとおり変更する以外は同様にして製膜を行ない、二軸配向積層フィルムを得た。製膜時縦延伸工程において幅変動が大きく、切断が頻発し製膜性は悪かった。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
表2の結果から明らかなように、本発明の金属貼合せ成形加工用積層フィルムを使用した缶では、優れた深絞り加工性を有し、レトルト後外観、ゴールド発色性、着色剤ブリードアウト耐性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の金属貼合せ成形加工用積層フィルムは、清涼飲料水缶や食缶などを構成する金属板、特に金属缶の缶胴部や蓋材部に貼り合せて用いる、金属貼合せ成形加工用積層フィルムとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルA層とポリエステルB層とを積層してなる積層フィルムであって、ポリエステルA層がポリブチレンテレフタレート30〜70重量%とポリエチレンテレフタレート30〜70重量%とからなる樹脂組成物で構成され、ポリエステルB層がポリブチレンテレフタレート30〜70重量%とポリエチレンテレフタレート30〜70重量%とからなる樹脂組成物100重量部あたり着色剤0.1〜5.0重量部を含有する着色樹脂組成物で構成され、積層フィルムの最短半結晶化時間が1〜100秒であり、かつ色差計により測定したa*値が−30〜20、b*値が20〜70であることを特徴とする、金属貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項2】
ポリエステルA層の厚みが1〜7μm、ポリエステルB層の厚みが5〜50μmである、請求項1記載の金属貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項3】
ポリエステルA層が最外層となるように用いられる、請求項1または2に記載の金属貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項4】
着色剤がイソインドリノン系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料およびキノフタロン系有機顔料からなる群から選ばれる少なくとも1種類の有機顔料である、請求項1〜3のいずれかに記載の金属貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項5】
着色剤がイソインドリノン系の有機顔料である、請求項1〜3のいずれかに記載の金属貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項6】
125℃×90分のレトルト処理前後におけるヘーズ変化量ΔHが10以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の金属貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項7】
125℃×90分のレトルト処理前後における色差ΔE*が5以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の金属貼合せ成形加工用積層フィルム。
【請求項8】
200℃×1分の乾熱処理前後における色差ΔE*が3以下である、請求項1〜7のいずれかに記載の金属貼合せ成形加工用積層フィルム。

【公開番号】特開2006−15718(P2006−15718A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243319(P2004−243319)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】