説明

金属部材及びその製造方法並びにその使用方法

【課題】紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所でも触媒作用が発揮され、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果等を高めることができ、また酸化層の脱落による触媒活性の低下がみられず経時安定性に優れ、また金属粉体や塵埃等の混入が問題となる半導体、食品、自動車、ボイラー,石油ストーブ等の燃焼装置等の工場内や装置内等でも使用することができ応用性に優れる金属部材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の金属部材1は、金属製の基材2と、基材2の表面に熱酸化によって形成された触媒活性を有する非晶質性酸化物と結晶性酸化物とを含有する酸化層4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減等に有効に用いられる触媒活性を有する金属部材及びその製造方法並びにその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、TiO、ZnO,WO,Fe等の金属酸化物が、光触媒材料として、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚等の用途に広く使用されている。このような光触媒材料は、通常、粉末状のものが用いられている。
しかしながら、粉末状のものは飛散し易く、また凝集して分散し難い等、取り扱いや回収が難しい等の欠点があるため、光触媒材料を基材に固定化したり、基材の表面を酸化させて金属酸化物層を形成したりする技術が開発されてきた。
このような従来の技術として、(特許文献1)には「チタン又はチタン合金からなる基材の表面にチタン又はチタン合金からなる噴射粉体を噴射して、基材の表面に酸化チタンの被膜を形成してなる光触媒コーティング組成物」が開示されている。
(特許文献2)には、「チタン基合金基材を陽極酸化した後、酸化性雰囲気中で300〜800℃より好ましくは400〜700℃の温度範囲で加熱処理することにより、基材の表面に酸化物層を形成する光触媒活性を有する酸化処理チタンの製造方法」が開示されている。
【特許文献1】特開2002−316056号公報
【特許文献2】特開平8−246192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)に開示の技術は、チタン又はチタン合金の粉体を基材の表面に噴射することにより、チタン又はチタン合金の粉体が基材の表面に溶融付着され、さらに溶融付着した被膜の最表面が酸化して酸化チタン被膜が形成されるものであるが、基材の表面に溶融付着したチタン又はチタン合金の粉体と基材との接合強度が小さいので、溶融付着物が使用中に脱落して光触媒活性が低下することがあるという課題を有していた。また、日常生活用品としては使用できるが、溶融付着物が使用中に脱落するおそれがあるため、金属粉体や塵埃等の混入が問題となる半導体、食品、自動車、ボイラー,石油ストーブ等の燃焼装置等の工場内や装置内等では使用が制限されるという課題を有していた。また、チタン又はチタン合金の粉体は高温下で発炎し易く、甚だしい場合は爆発のおそれがあるという課題を有していた。さらに、噴射された粉体が基材だけでなく、噴射装置や基材が配置されたチャンバー等の内部に付着するため効率が悪く、また清掃作業に多大な労力を要し生産性に欠けるという課題を有していた。
(2)噴射粉体は直径が9mm程度のノズルから基材に噴射され、噴射粉体が噴射した基材の表面は局所的に噴射粉体が溶融するほどの高温に達するため、噴射粉体が衝突しているところとそうでないところには著しい温度斑が生じる。このため、大面積の板状の基材に噴射粉体を噴射してコーティング処理したときには、温度斑によって基材が著しく変形して捻れたり丸まったりするので、所望する形状に維持することが困難であり、型枠等で形状を拘束したり、焼鈍等を行って変形を取り除いたりする必要があり煩雑であるという課題を有していた。
(3)(特許文献2)に開示の技術は、陽極酸化によってチタン基合金基材に酸化膜を形成するものである。陽極酸化の原理は、陽極のチタン基合金基材の表面が酸化されて酸化膜が形成されるとともに、金属イオンが電界によって酸化膜中を表面に移動して酸化膜の表面で酸素と結合して酸化が進行するものである。このため陽極酸化による酸化膜では、文献(神戸製鋼技報,Vol.49,No.3;65-67(Dec.1999))に記載されているように、アナターゼ型酸化チタンが形成される。アナターゼ型酸化チタンは紫外線(400nm以下の波長を有する光)下で光触媒作用を有し、抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解能力を発揮するが、紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所ではこれらの能力がほとんど発揮されない。そのため、室内や暗所で能力を発揮させるためには、アナターゼ型酸化チタンに光を照射する紫外線ランプやブラックライト等の光源が必要になり、電源が必要になるとともに装置が大型化するという課題を有していた。
(4)陽極酸化では酸化膜の表面で酸化が進行するため、その性質上、酸化膜が基材から剥離し易いという課題を有していた。
(5)チタン基合金基材を陽極酸化した後、酸化性雰囲気中で700〜800℃もの高温で加熱処理する際、加熱温度斑が生じると、特に基材が大面積で板状の場合には、温度斑によって基材が著しく変形して捻れたり丸まったりするので、所望する形状に維持することが困難であり、型枠等で形状を拘束したり、焼鈍等を行って変形を取り除いたりする必要があり煩雑であるという課題を有していた。
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所でも触媒作用が発揮され、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果等を高めることができ、また酸化層の脱落による触媒活性の低下がみられず経時安定性に優れ、また金属粉体や塵埃等の混入が問題となる半導体、食品、自動車、ボイラー,石油ストーブ等の燃焼装置等の工場内や装置内等でも使用することができ応用性に優れる金属部材を提供することを目的とする。
また、本発明は、紫外線の照射量が少ない室内、靴箱内や燃料タンク内等の暗所でも、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果等を発現させることができる金属部材の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解効果、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果を、紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所で確実に発揮させることのできる金属部材の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記従来の課題を解決するために本発明の金属部材及びその製造方法は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の金属部材は、金属製の基材と、前記基材の表面に熱酸化によって形成された触媒活性を有する非晶質性酸化物と結晶性酸化物とを含有する酸化層と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)基材の表面に熱酸化によって形成された触媒活性を有する非晶質性酸化物と結晶性酸化物とを含有する酸化層を有しているので、紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所でも抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解能力を発揮することができる。このことは、以下のように推察している。即ち、金属製の基材の表面に所定条件の熱酸化によって形成された酸化層は、酸素の基材内部への拡散によって酸化が進行するため多くは非晶質性酸化物であり、結晶性酸化物が一部混在している。非晶質性酸化物と結晶性酸化物の界面が存在するとそれにより、界面準位が形成され、非晶質性酸化物や結晶性酸化物の禁制エネルギー帯とは異なる狭い禁制エネルギー帯が界面に形成される。このため、紫外線が照射されなくても、界面のエネルギーギャップ以上のわずかな熱等のエネルギーが与えられるだけで価電子帯から伝導帯に電子が励起されて触媒活性を発現する。
(2)熱酸化によって基材の表面に形成された酸化層は物性が極めて安定しており、基材−酸素欠乏層−酸化層の明確な界面がなく連続して形成されているので、酸化層の脱落によって触媒作用が低下することがなく耐久性に優れる。
(3)酸化層による光の干渉現象によって種々の色が現れるので、多彩な色調を得ることができ、装飾効果等も得ることができる。
【0006】
ここで、金属製の基材の材質としては、チタン、銀,錫,銅,白金,金,モリブデン,バナジウム,アルミニウム等とチタンとの合金であるチタン合金、スズ、銅、シリコン、亜鉛、タングステン等の材質で形成されたものが用いられる。これらの金属を酸化させた半導体は、バンドギャップ以上のエネルギーをもつ光が照射されると電子と正孔を生成し、水や酸素等と反応しOHラジカルやスーパーオキサイドアニオン等を生成し触媒活性を有する。
【0007】
基材の形状としては、板状、箔状、粒状、棒状、線状、網状、ラス網状、不織布、筒状、テープ状等に形成されたものが用いられる。
なお、基材は板状や箔状、テープ状若しくは粒状に形成されているのが好ましい。単位重量当たりの表面積を大きくすることができるため、液体や気体との単位重量当たりの接触面積が広くなりコスト性に優れるとともに、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果等を高めることができるからである。
板状や箔状、テープ状の基材の厚さとしては、20μm〜1mmが好適に用いられる。箔状やテープ状の基材で形成された金属部材は、医療品や食品の包装材、食品包装の内側面に貼り付けて鮮度保持剤として用いることができる。基材の厚さが20μmより薄くなるにつれ基材の生産性が低下し、1mmより厚くなるにつれ酸化層の厚さに対して基材の厚さが大きくなるため、得られる触媒活性効果に対する基材のコストが大きくなり対費用効果が低下する傾向がみられる。
粒状の基材の直径としては、0.3〜30mmが好適に用いられる。直径が0.3mmより小さくなるにつれ、飛散し易く取り扱いや回収が難しくなる傾向がみられ、30mmより大きくなると比表面積が小さくなるので、酸化層の厚さに対して基材の直径が大きくなり得られる触媒活性効果に対する基材のコストが大きくなり対費用効果が低下する傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
【0008】
基材を熱酸化する方法としては、基材を加熱する方法、水蒸気等の酸化種を基材の表面に供給する方法等を用いることができる。これらは、大気圧とほぼ等しい圧力で行うことができる(常圧酸化)。また、加圧状態で行ったり(高圧酸化)、減圧状態で行ったりすることもできる(減圧酸化)。また、酸化種を不活性ガス等で希釈して行うこともできる(希釈酸化)。
また、基材を直接加熱したり酸化種を供給したりするものではないが、圧印加工やエンボス加工等の鍛造加工のようにハンマやプレス等で基材に圧力や打撃力を与えたり引張力を与えたりして、基材を塑性変形させて塑性変形摩擦熱を生じさせることにより酸化させる方法も用いることができる。さらに、基材を加熱する方法や水蒸気等の酸化種を基材の表面に供給する方法と、基材を塑性変形させて塑性変形摩擦熱を生じさせる方法とを併用させることもできる。
【0009】
非晶質性酸化物や結晶性酸化物としては、特定の条件で熱酸化された酸化層に形成されたものが用いられる。基材がチタン製やチタン合金製の場合には、結晶性酸化物はアナターゼ型酸化チタンであると推察される。熱酸化条件が穏和だからである。
熱酸化における基材の加熱温度としては、常圧下の大気中では200〜450℃好ましくは200〜400℃が好適に用いられる。加熱温度が200℃より低くなるか400℃より高くなるにつれ、紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所における抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解能力が低下する傾向がみられる。特に450℃より高くなると、この傾向が著しくなるため好ましくない。この原因は明らかになっていないが、酸化層内の非晶質性酸化物と結晶性酸化物の組織や割合等が変化し、界面のエネルギーギャップが大きくなるからではないかと推察している。
なお、加圧状態や減圧状態では、その圧力下において常圧下の200〜450℃と対応する温度条件で加熱することができる。
加熱時間としては、基材の大きさにもよるが、1〜60分間が好適である。加熱時間が短くても長くても、室内や靴箱内等の暗所における抗菌性等の効果が低下するからである。なお、高圧酸化の場合は酸化速度が速いため、加熱時間を短くすることができる。
加熱条件としては、基材を急加熱するのが好ましい。具体的な方法としては、例えば、200〜450℃に保持した加熱炉に、常温の基材を投入する方法が用いられる。基材を加熱炉に入れた後、加熱炉を200〜450℃に昇温して基材を加熱して酸化層を形成した場合には、紫外線の照射量が少ない室内や暗所での触媒効果が乏しくなったからである。基材を急加熱することにより、基材には不均一な熱ストレスが加えられるので、酸化層内の非晶質性酸化物と結晶質性酸化物の界面に狭い禁制エネルギー帯が形成される確率が高まるからではないかと推察している。
【0010】
酸化層の表面の一部若しくは全面に、蒸着やメッキ等で銀や白金等の抗菌性薄膜層を形成することもできる。これにより、抗菌性を高めることができ大腸菌やカビ等の除菌能力を高めることができるため好ましい。
【0011】
本発明の請求項2に記載の金属部材は、外力を受けて永久ひずみ部が複数個所に形成された金属製の基材と、前記永久ひずみ部の表面が酸化された触媒活性を有する酸化層と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)永久ひずみ部が塑性変形によって形成されるときに生じる塑性変形摩擦熱(内部摩擦による発熱)によって、永久ひずみ部の表面が直ちに酸化されて酸化層が形成される。短時間で酸化された酸化層は、大部分が非晶質性酸化物であり結晶性酸化物が混在しているため、紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所でも抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解能力を発揮することができる。推察されるメカニズムは請求項1と同様なので説明を省略する。
(2)基材に形成された永久ひずみ部の表面が酸化された酸化層を備えているので、永久ひずみ部が加工硬化するため基材の剛性が高くなり、基材が変形するのを防止でき、捻れや反り等の変形のない大面積や長尺の触媒活性を有する金属部材を得ることができる。
(3)基材の複数個所に永久ひずみ部が形成されているので、平面状の基材と比較して表面積を広げることができ、水や油,空気との接触面積が大きくなるため、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果等を高めることができる。
(4)基材の表面に形成された酸化層は物性が極めて安定しており、基材−酸素欠乏層−酸化層の明確な界面がなく連続して形成されているので、酸化層の脱落によって触媒作用が低下することがなく耐久性に優れる。
(5)永久ひずみ部は機械的に形成できるので、生産性に優れるとともに生産安定性にも優れる。
【0012】
ここで、基材としては請求項1で説明したものと同様なので、説明を省略する。また、前述のとおり、酸化層の表面に抗菌性薄膜層を形成することもできる。
【0013】
永久ひずみ部は、加えられた外力によって基材の複数個所が塑性変形された箇所であり、適当な間隔をあけて基材の略全面に分布している。
基材に加えられる外力としては、圧印加工やエンボス加工等の鍛造加工のようにハンマやプレス等で加えられる圧力や打撃力を挙げることができる。また、引張力を挙げることもできる。引張力を加える場合は、特に板状の基材の場合であるが、基材に切れ目部や孔部を形成し両端から引張力を与えることにより、切れ目部や孔部の周囲に永久ひずみ部を形成するとともに、切れ目部や孔部を広げることができる。これにより、基材に通液性や通気性を付与することができる。
【0014】
基材の複数個所に形成された永久ひずみ部のピッチとしては、1〜20mmが好適である。永久ひずみ部のピッチが1mmより小さくなるにつれ、各々の永久ひずみの大きさが小さくなり加工硬化され難くなり基材の剛性が向上し難くなる傾向がみられ、20mmより大きくなるにつれ加工硬化された永久ひずみ部が点在することになるため、永久ひずみ部の形成後にさらに酸化層を形成する目的で基材を加熱したときは、基材が永久ひずみ部の間で捻れたり反ったりし易くなる傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
【0015】
板状の基材を用いた場合、永久ひずみ部として、圧印加工やエンボス加工等の鍛造加工によって凹凸部を形成することができる。これにより、凹凸部が加工硬化されて基材の剛性が高まるとともに、加工時に各々の凹凸部に生じる塑性変形摩擦熱(内部摩擦による発熱)で凹凸部の表面が直ちに酸化されて酸化層が形成される。これにより、紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所でも抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解能力を発揮させることができる。
【0016】
凹凸部としては、四角錐,円錐等の錐体状、截頭四角錐,截頭円錐等の截頭錐体状、半球状、波状、線条等の凸起や窪みが縦横方向や斜め方向に列設されたものが用いられる。板状の基材を変形させて片面に凹部を形成した場合、この凹部は反対面からみると凸部なので、基材の表面に凹凸部が形成されることになる。
凹凸部は、鍛造加工によって、基材に面対称状や点対称状に形成されているのが望ましい。凹凸部を規則的かつ均等に配置することができ、基材の剛性を均等に高めることができ、基材の反りや捻れを防止できるからである。
【0017】
凹凸部における凹部の深さや凸部の高さとしては、0.2〜5mmが好適に用いられる。凹凸部の深さや高さが0.2mmより小さくなるにつれ、各々の凹凸部での塑性変形量が小さいため生じる塑性変形摩擦熱が乏しいため酸化層が薄く、また変形量が小さいため加工硬化され難いので基材の剛性が低下し、基材をさらに加熱して酸化層を形成する時に基材が捻れたり反ったりし易くなる傾向がみられ、5mmより大きくなるにつれ基材の材質にもよるが、凹凸部の形成が困難になる傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
【0018】
板状の基材を用いた場合、永久ひずみ部として、基材に複数形成された切れ目部若しくは孔部が引張力を受けて切れ目部若しくは孔部の周囲に形成させることもできる。これにより、永久ひずみ部が加工硬化されて基材の剛性が高まるとともに、切れ目部や孔部が広げられるため基材を網状にすることができ、通液性を付与することができる。
【0019】
切れ目部は、基材に加えられる引張方向と略直交して形成されたものが用いられる。引張力によって切れ目部の周囲を塑性変形させて切れ目部を広げるためである。
孔部は、長円状,楕円状,矩形状等に形成され、孔部の長径方向が基材に加えられる引張方向と略直交して配置されたものが用いられる。引張力によって孔部の短径方向の両端の周囲を塑性変形させて孔部を広げるためである。
【0020】
切れ目部の長さ及び孔部の長径の長さとしては、5〜20mmが好適に用いられる。5mmより短くなるにつれ、永久ひずみ部の変形量が小さくなり加工硬化が乏しく基材の剛性が小さくなる傾向がみられ、20mmより長くなるにつれ加工硬化された永久ひずみ部が点在することになるため、基材をさらに加熱して酸化層を形成する時に永久ひずみ部の間で捻れたり反ったりし易くなる傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
【0021】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の金属部材であって、前記基材の材質が、チタン又はチタン合金からなる構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)チタン又はチタン合金は、比重が小さいわりに強靭で、また酸やアルカリに強く耐食性に優れ、また親水性であるとともに磁性を有さず、さらに金属アレルギーが生じ難いため様々な用途に適用でき応用性に優れる。
(2)チタン又はチタン合金の表面が熱酸化されて形成された酸化チタンの酸化層は、光溶解を起こさず耐久性に優れるとともに、触媒活性を発現させるために必要なエネルギーが小さいため、光が照射されない暗所下でも光触媒に似た触媒活性を発現させることができ応用性に優れる。
【0022】
ここで、チタンとしてはJIS1種〜4種等の純チタン、チタン合金としてはTi−3Al−2.5V、Ti−6Al−4V、Ti−15V−3Cr−3Sn−3Al等を用いることができる。なかでも、JIS1種の純チタンが好適に用いられる。チタンの純度が高く伸びが大きいので永久ひずみ部の成形性に優れ、またチタンの純度が高いほど人体にアレルギー等の悪影響を与え難いからである。
【0023】
本発明の請求項4に記載の金属部材の製造方法は、金属製の基材を常圧下200〜450℃の温度に加熱する、及び/又は、金属製の基材の表面の複数個所に永久ひずみ部を形成することにより前記基材の表面を酸化させて触媒活性を有する酸化層を形成する酸化層形成工程を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)酸化層形成工程を備えているので、金属製の基材を常圧下200〜450℃の温度に加熱したり、永久ひずみ部を塑性変形によって形成し塑性変形摩擦熱(内部摩擦による発熱)を生じさせたりすることによって、基材の表面を酸化させて触媒活性を有する酸化層を形成でき、紫外線の照射量が少ない室内、靴箱内や燃料タンク内等の暗所でも、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果等を発現させることができる。
【0024】
ここで、基材、加熱温度、永久ひずみ部は、請求項1又は2で説明したものと同様なので、説明を省略する。
【0025】
なお、酸化層形成工程において、(1)金属製の基材を常圧下200〜450℃の温度に加熱する操作、(2)金属製の基材の表面の複数個所に永久ひずみ部を形成する操作のいずれでも触媒活性を有する酸化層を形成することができるが、永久ひずみ部を形成しながら同時に200〜450℃に加熱することができる。また、加熱した後に永久ひずみ部を形成することもでき、永久ひずみ部を形成した後に加熱することもできる。
【0026】
さらに、二次成形工程によって、永久ひずみ部が形成された板状の基材を、永久ひずみ部の複数個所にまたがって塑性変形させることもできる。二次成形工程により、曲げ加工,絞り加工等によって用途に応じた任意の形状に成形することができ自在性に優れる。
【0027】
ここで、二次成形工程としては、型曲げ加工,折曲げ加工,ロール成形等の曲げ加工、絞り加工等のプレス加工によって、各々の永久ひずみ部の大きさよりも広い範囲で基材を塑性変形させるものが用いられる。
なお、二次成形工程においては、基材を200〜450℃に加熱しながら成形を行うのが望ましい。永久ひずみ部では表面硬度が上昇しており変形抵抗が大きいので、加熱して二次成形におけるスプリングバックを減少させるためである。基材の加熱温度が200℃より低くなるにつれ、基材のスプリングバック量が大きく任意の形状に成形するのが困難になる傾向がみられ、450℃より高くすると成形能が変わらないばかりか触媒活性が低下する傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
【0028】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の金属部材の製造方法であって、前記基材が板状や箔状、テープ状に形成され、前記永久ひずみ部が、相互に噛み合うように表面に凹凸が形成された2体の型の間で又はハンマで鍛造加工された凹凸部である構成を有している。
この構成により、請求項4で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)永久ひずみ部が、型やハンマで鍛造加工された凹凸部なので、凹凸部が加工硬化されて基材の剛性が高まるとともに、加工時に各々の凹凸部に生じる塑性変形摩擦熱で凹凸部の表面が直ちに熱酸化され触媒活性を有する酸化層を形成できるので、紫外線の照射量が少ない室内、靴箱内や燃料タンク内等の暗所でも、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果等を発現させることができる。
【0029】
ここで、凹凸部は、圧印加工,エンボス加工等の塑性加工(鍛造加工)によって板状や箔状、テープ状の基材に形成されるものが用いられる。凹凸を形成した上型と下型の間に基材を挿入し、上下する上型と下型で基材を押圧し間欠的に凹凸部を形成するもの、凹若しくは凸が形成された上型と、上型に噛み合うように凸若しくは凹が形成された下型で基材を押圧し間欠的に凹凸部を形成するもの、凹凸を形成した2本の型ローラの間に基材を挿入し、回転する型ローラ間で基材を押圧し連続的に凹凸部を形成するもの、凹若しくは孔部が形成された台の上に基材を置きハンマで打撃して凹凸部を形成するもの等を用いることができる。このような手段を用いて大気中で凹凸部を形成すると、凹凸部の頂部や底部、搾り出される傾斜面部等に塑性変形摩擦熱によって凹凸部が酸化されて酸化層が形成され、凹凸部の表面硬度が増すので、剛性を高める目的で単に曲げ加工等で波板状に加工する以上に、基材の剛性や弾性を高めることができる。
また、凹凸部を形成する際、上型や下型、型ローラ、基材等を加熱し、加熱条件下で凹凸部を形成することもできる。これにより、塑性変形摩擦熱によって形成される酸化層を厚くして、基材の剛性をより高めることができるとともに触媒活性を高めることができる。なお、凹凸部を形成する際、加熱される基材の温度としては450℃以下が好適である。加熱温度が450℃を越えると、紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所における抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解能力が低下する傾向がみられるからである。
なお、上型や下型、型ローラ等に形成された凸を尖頭状に形成することによって、基材に凹凸部を形成すると同時に穿孔して貫通孔部を形成することもでき、これにより、基材に通水性を付与することができる。
【0030】
本発明の請求項6に記載の金属部材の製造方法は、前記1乃至3の内いずれか1に記載の金属部材若しくは請求項4又は5の方法で製造された金属部材を液体中に没入させた状態で、前記液体を紫外線照射量0.01W/m未満の微弱な励起光下又は暗所で気体と接触させる構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)本発明の金属部材は、紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所でも抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解効果、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果を発揮できるが、液体中に没入させた状態で該気体に接触させることで、さらにその効果を高めることができる。そのメカニズムは解明できていないが、本発明の金属部材を液体中に没入させ暗所に放置すると、液体分子のクラスターが小さくなり、かつ分子振動や回転が変化することが確認されたため、これが何らかの作用を及ぼしているものと推察される。
【0031】
ここで、金属部材を没入させる液体としては、水、ガソリン,重油,軽油、灯油等の燃料油、潤滑油,絶縁油等の化石燃料加工品、アルコール燃料等の化石燃料代替品、サラダ油,天ぷら油等の食用油等を挙げることができる。
気体としては、空気、排ガス等を挙げることができる。
【0032】
励起光としては、日光,紫外線等を用いることができる。紫外線照射量が小さな場合でも本発明の金属部材は、抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解効果等を発現するが、紫外線照射量が0.01W/mより大きくなると、一般的な二酸化チタン等を用いた光触媒でも同様に分解効果等が発現するため、本発明の金属部材の効果の顕著性が失われる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明の金属部材及びその製造方法によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)基材の表面に熱酸化によって形成された触媒活性を有する非晶質性酸化物と結晶性酸化物とを含有する酸化層を有しているので、狭い禁制エネルギー帯が非晶質性酸化物と結晶性酸化物の界面に形成され、界面のエネルギーギャップ以上のわずかなエネルギーが与えられるだけで価電子帯から伝導帯に電子が励起されるため、紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所でも抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解能力等の触媒作用が発揮される金属部材を提供できる。
(2)熱酸化によって形成された酸化層は物性が極めて安定しており、また酸化層の脱落によって触媒作用が低下することがなく経時安定性に優れるとともに、金属粉体や塵埃等の混入が問題となる半導体、食品、自動車、ボイラー,石油ストーブ等の燃焼装置等の工場内や装置内等でも使用することができ応用性に優れた金属部材を提供できる。
(3)酸化層による光の干渉現象によって種々の色が現れるので、多彩な色調を得ることができ、装飾性にも優れた触媒活性を有する金属部材を提供できる。
【0034】
請求項2に記載の発明によれば、
(1)永久ひずみ部が塑性変形によって形成されるときに生じる塑性変形摩擦熱(内部摩擦による発熱)によって、永久ひずみ部の表面が直ちに酸化されて、大部分が非晶質性酸化物であり結晶性酸化物が混在した酸化層が形成されているため、紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所でも抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解能力等の触媒作用が発揮される金属部材を提供できる。
(2)基材に形成された永久ひずみ部の表面が酸化された酸化層を備えているので、永久ひずみ部が加工硬化するため基材の剛性が高くなり、基材が変形するのを防止でき、捻れや反り等の変形のない大面積の触媒活性を有する金属部材を提供できる。
(3)基材の複数個所に永久ひずみ部が形成されているので、平面状の基材と比較して表面積を広げることができ、水や油,空気等との接触面積が大きくなるため、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果等に優れた金属部材を提供できる。
(4)形成された酸化層は物性が極めて安定しており、また酸化層の脱落によって触媒作用が低下することがなく経時安定性に優れるとともに、金属粉体や塵埃等の混入が問題となる半導体、食品、自動車、ボイラー,石油ストーブ等の燃焼装置等の工場内や装置内等でも使用することができ応用性に優れた金属部材を提供できる。
(5)永久ひずみ部は機械的に形成できるので、生産性に優れるとともに生産安定性にも優れた金属部材を提供できる。
【0035】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)チタン又はチタン合金は酸やアルカリに強く耐食性に優れ、また強靭で磁性を有さず、さらに金属アレルギーが生じ難いため様々な用途に適用でき応用性に優れた金属部材を提供できる。
(2)チタン又はチタン合金の表面が熱酸化されて形成された酸化チタンの酸化層は、光溶解を起こさず耐久性に優れるとともに、触媒活性を発現させるために必要なエネルギーが小さいため、光が照射されない暗所下でも光触媒に似た触媒活性を発現し、石油燃料改質による燃料消費量の削減、潤滑油や食用油等の改質による長寿命化、食品の鮮度保持、屋内等の殺菌,消臭,ヌメリ防止等の効果を発揮する応用性に優れた金属部材を提供できる。
【0036】
請求項4に記載の発明によれば、
(1)金属製の基材を常圧下200〜450℃の温度に加熱したり、永久ひずみ部を塑性変形によって形成し塑性変形摩擦熱(内部摩擦による発熱)を生じさせたりすることによって、基材の表面を酸化させて触媒活性を有する酸化層を形成でき、紫外線の照射量が少ない室内、靴箱内や燃料タンク内等の暗所でも、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果等を発現させることができる金属部材の製造方法を提供できる。
【0037】
請求項5に記載の発明によれば、請求項4の効果に加え、
(1)永久ひずみ部が、型やハンマで鍛造加工された凹凸部なので、凹凸部が加工硬化されて基材の剛性が高まるとともに、加工時に各々の凹凸部に生じる塑性変形摩擦熱で凹凸部の表面が直ちに酸化され触媒活性を有する酸化層を形成できるので、紫外線の照射量が少ない室内、靴箱内や燃料タンク内等の暗所でも、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果等を発現させることができる金属部材の製造方法を提供できる。
【0038】
請求項6に記載の発明によれば、
(1)紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所でも抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解効果、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果を発揮できるが、液体中に没入させた状態で該気体に接触させることで、さらにその効果を高めることができる金属部材の使用方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1(a)は本発明の実施の形態1における金属部材の要部斜視図であり、(b)は金属部材の要部断面図である。
図中、1は本発明の実施の形態1における金属部材、2はチタン,亜鉛,タングステン等で0.05〜1mmの厚さに形成された板状の基材、3は基材2の両面に截頭四角錐状の凸部とそれに対応する凹部がエンボス状に繰り返し列設された永久ひずみ部としての凹凸部、4は基材2の表面が酸化された酸化層である。
【0040】
以上のように構成された本発明の実施の形態1における金属部材について、以下その製造方法を説明する。
図2(a)は2本の型ローラの間に基材を通して凹凸部を形成するとともに熱酸化させる工程(酸化層形成工程)を示す模式図であり、(b)は噛み合せられた2本の型ローラの模式拡大断面図である。
図中、10はわずかに隙間をあけて配置された型ローラ、11は型ローラ10のシャフト、12は外周に截頭四角錐状の凸部とその雌型となる凹部からなる凹凸が繰り返し形成された歯車凸部、13は歯車凸部12,12の間に挿入された所定の厚さで形成された環状のスペーサである。歯車凸部12及びスペーサ13は交互に積み重ねられ、中心にシャフト11が挿通されて型ローラ10を構成している。そして、2本の型ローラ10,10は、歯車凸部12の外周に形成された凹凸が相互に噛み合うように、わずかに隙間をあけて配置され、図示しない回転駆動装置によって矢印方向に回転されている。
なお、本実施の形態においては、型ローラ10,10は図示しない内蔵ヒータによって加熱され、基材2は型ローラ10,10によって200〜450℃に加熱される。
【0041】
酸化層形成工程において、回転する2本の型ローラ10,10の間に基材2を通すと、型ローラ10,10の歯車凸部12の外周に形成された凹凸が相互に噛み合うように、わずかに隙間をあけて配置されているので、歯車凸部12の表面の凹凸の形状に対応する凹凸部3が基材2の両面に鍛造によってエンボス状に形成され、型ローラ10,10の間から基材2が出てくる。このとき、鍛造された基材2は塑性変形摩擦熱を生じ、表面が短時間の内に酸化され酸化層4が形成される。また、型ローラ10,10が加熱されているので、基材2は型ローラ10,10の間を通るときに急激に200〜450℃に加熱され、これによっても基材2の表面が熱酸化され酸化層4が形成される。
必要に応じて、凹凸部3が形成された基材2を酸化雰囲気(通常は大気雰囲気)中、常圧下200〜450℃に加熱することで、さらに基材2の表裏面を熱酸化させて、基材2の両面に形成された凹凸部3の表面に酸化層4を形成することができる。
【0042】
以上のように、本発明の実施の形態1における金属部材は構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)基材2に形成された永久ひずみ部としての凹凸部3の表面が酸化された酸化層4を備えているので、凹凸部3が加工硬化するため基材2の剛性が高く、酸化層4が形成された基材2が変形するのを防止でき、捻れや反り等の変形のない大面積の触媒活性を有する金属部材1を得ることができる。
(2)永久ひずみ部としての凹凸部3が塑性変形によって形成されるときに生じる塑性変形摩擦熱(内部摩擦による発熱)によって、凹凸部3の表面が直ちに熱酸化されて酸化層4が形成される。短時間の熱酸化で形成された酸化層4は大部分が非晶質性酸化物で、その中に結晶性酸化物が混在しており、非晶質性酸化物と結晶性酸化物の界面に狭い禁制エネルギー帯が形成されると推察されるため、常温下で電子が励起されて紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所でも抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解能力を発揮することができる。
(3)基材2の複数個所に凹凸部3が形成されているので、平面状の基材と比較して表面積を広げることができ、水や油,空気等との接触面積が大きくなるため、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果等を高めることができる。
(4)熱酸化によって形成された酸化層4は物性が極めて安定しており、また酸化層4の脱落によって触媒作用が低下することがなく耐久性に優れる。
(5)酸化層4による光の干渉現象によって種々の色が現れるので、多彩な色調を得ることができ装飾性にも優れる。
【0043】
また、本発明の実施の形態1における金属部材の製造方法によれば、以下のような作用が得られる。
(1)永久ひずみ部としての凹凸部3が形成された基材2は、凹凸部3が加工硬化しており剛性が高いので、基材2をその後加熱した際に加熱斑等が生じても基材2が変形するのを防止でき、捻れや反り等の変形のない大面積の触媒活性を有する金属部材1を得ることができる。
(2)永久ひずみ部としての凹凸部3を塑性変形によって形成し塑性変形摩擦熱(内部摩擦による発熱)を生じさせることによって、基材2の表面を熱酸化させて触媒活性を有する酸化層4を形成できるため単純な工程で簡単に製造可能で生産性に優れる。
(3)相互に噛み合うように外周に凹凸が形成された2本の型ローラ10の間に基材2を通していくので、連続的に凹凸部3を形成することができ、長尺帯状の基材2にも容易にエンボス状の凹凸部3を形成することができ自在性に優れるとともに生産性に優れる。
(4)型ローラ10,10が加熱されており、凹凸部3を形成する際に生じる塑性変形摩擦熱に加えて基材2を200〜450℃に加熱することができるため、熱酸化によって酸化層4を安定に形成することができる。
(5)凹凸部3が形成されて型ローラ10,10から出てきた基材2を、さらに200〜450℃に加熱しているので、酸化層4を厚くすることができ触媒効果を高めることができる。
(6)型ローラ10の隣り合う歯車凸部12,12の間にスペーサ13が挿入されているので、歯車凸部12,12で凹凸部3が形成される際の基材2に加わる剪断力を小さくして、基材2にクラックやだれが生じるのを防止することができ機械的強度に優れた金属部材1を製造できるとともに、基材2が型ローラ10,10間を通るときに型ローラ10に巻き付いてしまうという不具合の発生も防止できるため生産性に優れる。
【0044】
ここで、本実施の形態においては、截頭四角錐状の凹凸部3が形成された場合について説明したが、四角錐,円錐等の錐体状、截頭円錐状、半球状、線条等の凸起や窪み、凸起の頂部や窪みの底部に孔部が形成される場合もある。この場合も同様の作用が得られる。
また、凹凸部形成工程として、回転する型ローラ10,10間で基材2を押圧し連続的に凹凸部3を形成する場合について説明したが、凹凸を形成した上型と下型の間に基材2を挿入し、上下する上型と下型で基材2を押圧し間欠的に凹凸部を形成する場合、凹若しくは孔部が形成された台の上に基材2を置きハンマで打撃して凹凸部を形成する場合もある。
また、型ローラ10,10が加熱されている場合について説明したが、加熱していない型ローラ10,10を用いて凹凸部3を形成する場合もある。この場合も凹凸部3の形成によって基材2に塑性変形摩擦熱が生じるため、基材2の表面を熱酸化させて触媒作用を有する酸化層4を形成させることができる。
また、凹凸部3が形成されて型ローラ10,10から出てきた基材2を、さらに200〜450℃に加熱する場合について説明したが、必ずしもこの工程は必要ではない。凹凸部3の形成によって生じた塑性変形摩擦熱によって、基材2が熱酸化されて触媒作用を有する酸化層4が形成されるからである。
【0045】
(実施の形態2)
図3は本発明の実施の形態2における金属部材の斜視図である。
図中、21は実施の形態2における金属部材、22はチタン,亜鉛,タングステン等で0.05〜1mmの厚さに形成された板状の基材、23は基材22の略全面に適当な間隔をあけて各々が5〜20mmの長さで同じ方向に千鳥状に複数形成された切れ目部、24は切れ目部23の長さ方向と略直交方向に引張力を受けて塑性変形し、切れ目部23の周囲に形成された永久ひずみ部であり、永久ひずみ部24の表面を熱酸化して、触媒活性を有する酸化層が形成されている。
以上のように構成された実施の形態2における金属部材の製造方法は、基材22に切れ目部23を形成した後、切れ目部23の長さ方向と略直交方向に基材22に引張力を与えて、切れ目部23の周囲を塑性変形させて永久ひずみ部24を形成し、次いで、基材22を常圧下200〜450℃に加熱して表面を熱酸化させればよい。
なお、永久ひずみ部24を形成する工程と熱酸化させる工程の順番を入れ替えて、基材22を熱酸化した後に切れ目部23の周囲を塑性変形させて永久ひずみ部24を形成すると、基材22を熱酸化するときに加熱斑等によって基材22が変形したり、熱酸化された基材22が硬化し塑性変形させ難くなったりすることがあるため、好ましくない。
【0046】
以上のように、実施の形態2における金属部材は構成されているので、実施の形態1に記載した作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)永久ひずみ部24が、基材22に複数形成された切れ目部23が引張力を受けて切れ目部23の周囲に形成されているので、永久ひずみ部24が加工硬化されて基材22の剛性が高まるとともに、切れ目部23が広げられるため基材22を網状にすることができ通液性や通気性を付与することができる。
【0047】
また、実施の形態2における金属部材の製造方法によれば、実施の形態1に記載した作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)永久ひずみ部24が、切れ目部23が複数形成された基材22に引張力を与えて切れ目部23の周囲に形成されているので、永久ひずみ部が加工硬化されて基材の剛性が高まるとともに、切れ目部23が広げられるため基材22を網状にすることができ通液性を付与することができる。
【0048】
ここで、本実施の形態においては、基材22に切れ目部23を形成した場合について説明したが、切れ目部23に代えて、長円状,矩形状,スリット状等の孔部を形成する場合もある。この場合も、孔部の長径方向と略直交方向に引張力を与えて、孔部の周囲を塑性変形させ永久ひずみ部を形成することができるため、同様の作用が得られる。
【0049】
(実施の形態3)
図4は実施の形態3における金属部材の模式図である。
図中、25はチタン,亜鉛,タングステン等で0.05〜1mmの厚さに形成された板状の基材、26は基材の表面にハンマやプレス等で加えられる圧力や打撃力によって半球状等の凸起状に形成された永久ひずみ部、27は個々の永久ひずみ部26の大きさよりも広い球面状の窪みが形成された下型、28は球面状の先端部が形成された上型である。
以上のように構成された実施の形態3における金属部材は、永久ひずみ部26が形成された基材25を下型27の上に置いた後、上型28で押して、永久ひずみ部26の複数個所にまたがって塑性変形させて製造することができる(二次成形工程)。本実施の形態においては、下型27及び上型28を加熱して、基材25を200〜450℃に加熱しながら塑性変形させている。
【0050】
以上のような実施の形態3における金属部材の製造方法によれば、実施の形態1に記載した作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)永久ひずみ部26の複数個所にまたがって塑性変形させる二次成形工程を備えているので、基材25を、曲げ加工,絞り加工等によって用途に応じた任意の形状に成形することができ、自在性に優れる。
(2)永久ひずみ部26では表面硬度が上昇しており変形抵抗が大きいが、二次成形工程において、基材25を200〜450℃に加熱しながら塑性変形させているので、成形時のスプリングバックを減少させることができ、所望する形状の金属部材を得ることができる。
【0051】
ここで、本実施の形態においては、型を用いて基材25を球面状に変形させる場合について説明したが、この形状や加工方法に限定されるものではなく、V曲げ,U曲げ,端曲げ等の型曲げ加工、折曲げ加工、ロール成形、絞り加工等の種々の加工方法を採用できる。また、永久ひずみ部26の複数個所にまたがって変形させるのであれば、任意の形状に成形することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実験例1)
純チタン(JIS1種)で縦17cm,横10cm,厚さ0.1mmに形成された板状の基材に、2本の型ローラで押圧して凹凸部を形成する凹凸付与装置を用いて、凸部のピッチ5mm,凸部の高さ1mmの四角錐体状の永久ひずみ部としての凹凸部を基材の両面に形成し、実験例1の金属部材を得た。
なお、凹凸付与装置の型ローラは加熱されており、凹凸部を形成すると同時に基材を大気雰囲気中で200℃に加熱した。また、型ローラの回転数を調整して、型ローラに押圧されて移動する基材の速度が1m/sになるようにした。なお、得られた金属部材は、200℃に加熱された後も、捻れたり反ったりすることなく平らなままであった。
(実験例2)
実験例1と同様にして、凹凸付与装置で基材を200℃に加熱して凹凸部を形成し、凹凸付与装置から取り出した基材を一旦冷却した。次に、予め350℃に加熱された電気炉に基材を装入し大気雰囲気中で30分間加熱した後、電気炉から基材を取り出して冷却することにより、実験例2の金属部材を得た。なお、得られた金属部材は、350℃に加熱された後も、捻れたり反ったりすることなく平らなままであった。
(実験例3)
凹凸付与装置で基材を200℃に加熱して凹凸部を形成して基材を一旦冷却し、次に、予め450℃に加熱された電気炉に基材を装入し大気雰囲気中で30分間加熱した後、電気炉から基材を取り出して冷却した以外は実験例2と同様にして、実験例3の金属部材を得た。なお、得られた金属部材は、450℃に加熱された後も、捻れたり反ったりすることなく平らなままであった。
(実験例4)
凹凸付与装置で基材を200℃に加熱して凹凸部を形成して基材を一旦冷却し、次に、予め500℃に加熱された電気炉に基材を装入し大気雰囲気中で30分間加熱した後、電気炉から基材を取り出して冷却した以外は実験例2と同様にして、実験例4の金属部材を得た。なお、得られた金属部材は、500℃に加熱された後も、捻れたり反ったりすることなく平らなままであった。
(実験例5)
凹凸付与装置で基材に凹凸部を形成する際、型ローラを加熱しない(基材を加熱しない)以外は、実験例1と同様にして、実験例5の金属部材を得た。
(実験例6)
純チタン(JIS1種)で縦17cm,横10cm,厚さ0.1mmに形成された板状の基材を、予め300℃に加熱された電気炉に装入し、大気雰囲気中で30分間加熱した後、電気炉から取り出して実験例6の金属部材を得た。
なお、得られた金属部材は、300℃に加熱された後は捻れや反りが発生し、一部変形した。
(実験例7)
純チタン(JIS1種)で縦17cm,横10cm,厚さ0.1mmに形成された板状の基材を、予め150℃に加熱された電気炉に装入し、大気雰囲気中で30分間加熱した後、電気炉から取り出して実験例7の金属部材を得た。なお、得られた金属部材は、150℃に加熱された後は捻れや反りが発生し、一部変形した。
(実施例8)
純チタン(JIS1種)で0.1mmの厚さに形成された板状の基材(縦横の長さ200mm)の略全面に、各々が10mmの長さの切れ目部を10mmの間隔をあけて同じ方向に千鳥状に形成し、次いで、切れ目部の長さ方向と略直交方向に引張力を与え切れ目部を1〜4mm開かせて塑性変形させ、切れ目部の周囲に永久ひずみ部を形成した。次いでこの基材を、予め400℃に加熱された電気炉に装入し、大気雰囲気中で30分間加熱した後、電気炉から取り出して実験例8の金属部材を得た。なお、得られた金属部材は、400℃に加熱された後も、捻れたり反ったりすることなく平らなままであった。
(実験例9)
純チタン(JIS1種)で0.1mmの厚さに形成された基材(縦横の長さ200mm)を曲げ加工して、ピッチ30mm、高さ15mmの波板を形成した。次いで、この基材を予め400℃に加熱された電気炉に装入し、大気雰囲気中で30分間加熱した後、電気炉から取り出して実験例9の金属部材を得た。なお、得られた金属部材は、400℃に加熱された後は捻れや反りが発生し、一部変形した。
【0053】
(金属部材の耐熱変形性の評価)
実験例1の金属部材の耐熱変形性を評価するため、アセチレンガスバーナを使って赤熱するまで1000℃以上で20秒間加熱してみたが、捻れたり反ったりすることなく平らなままの形状を保っていた。一方、実験例6の金属部材を、同様にアセチレンガスバーナを使って加熱してみたところ、著しく変形した。
以上の実験例1〜4,6〜9によれば、狭ピッチで永久ひずみ部が形成された実験例1〜4,8の基材は、永久ひずみ部が加工硬化しており剛性が高いので、その後の加熱操作で加熱斑等が生じても、実験例6,7,9のように基材が変形するのを防止でき、捻れや反り等の変形のない大面積の触媒活性を有する金属部材を製造できることが明らかになった。
【0054】
(試験例1)
試験例1では、金属部材のアンモニアガスの除去効果(消臭効果)について調べた。
アクリル製の板で略直方体状に形成した容器(容積32.8L)内に、150mLの水道水を注いだビーカーを入れ、実験例1の金属部材(アセチレンガスバーナで加熱していないもの)をビーカー内の水道水に完全に浸かるように折り畳んで没入した。次いで、容器内に28%アンモニア水1mLを注入した後、容器を密閉し、容器内に注入されたアンモニア水から揮発したアンモニアガスの3時間後の減少量に対応した検知電圧(mV)を、ガスセンサ(フィガロ製)で測定した。検知電圧が減少することは、容器内のアンモニアガス濃度が小さくなることを示している。また、容器は暗所下に置いた。
次に、容器内のアンモニアガスがビーカー内の水に浸漬した金属部材によって除去されたのか、ビーカー内の水に溶けて除去されたのかを判断するため、水道水だけを入れたビーカーを容器に入れた場合のセンサの検知電圧を同様に測定した。この測定値はビーカー内の水道水に溶けて除去されたガス量に相当する検知電圧であるため、この測定値を相殺し、金属部材の影響による検知電圧(mV)を求めた。なお、測定時の容器内の温度は26℃であった。
実験例2〜7の金属部材(実験例6の金属部材はアセチレンガスバーナで加熱していないもの)についても同様にして、金属部材の影響による検知電圧を調べた。
また、実験例1の金属部材に代えて、純チタン(JIS1種)で縦17cm,横10cm,厚さ0.1mmに形成された板状の基材(凹凸部の形成や加熱処理を行わないもの)をビーカー内の水道水に没入した場合についても同様にして、金属部材の影響による検知電圧を調べた(比較例1)。
また、実験例1の金属部材を水に浸漬せずに容器内に入れた場合についても、同様にして金属部材の影響による検知電圧を調べた(比較例2)。なお、比較例2の場合は、金属部材を水に浸漬しないため、水を注いだビーカーを容器内に入れていない。
実験例1〜7、比較例1,2の金属部材の影響による検知電圧(3時間の間に減少した検知電圧)を、表1にまとめて示した。
【0055】
【表1】

【0056】
表1において実験例1〜5の検知電圧の減少値を比較すると、凹凸部を形成した後基材を500℃に加熱した実験例4の場合は検知電圧がほとんど減少しなかったのに対し、基材を加熱せずに凹凸部を形成した実験例5、凹凸部を有し基材が200〜450℃に加熱された実験例1〜3では、検知電圧が約0.1mVも減少したことがわかる。
また、実験例6,7と比較例1の検知電圧の減少値を比較すると、基材を300℃に加熱した実験例6では検知電圧が約0.1mV減少したのに対し、150℃に加熱した実験例7や加熱しなかった比較例1では検知電圧がほとんど減少しなかったことがわかる。
また、金属部材を水に浸漬しない比較例2の場合も、検知電圧が減少しないことが確認された。
以上のことから、凹凸部が塑性変形によって基材に形成された金属部材や、200〜450℃の温度で加熱した金属部材は、本試験例のように暗所下でも、悪臭物質であるアンモニアを分解できることが確認された。またその効果は、金属部材を水に浸漬することによって顕著になることが確認された。
【0057】
(試験例2)
試験例2では、水に難溶の硫化ジメチルを用いて、金属部材によるその臭気の分解効果について調べた。
アクリル製の板で略直方体状に形成した容器(容積32.8L)内に、150mLの水道水を注いだビーカーを入れ、実験例2の金属部材をビーカー内の水道水に完全に浸かるように没入した。次いで、容器内に硫化ジメチル0.5mLを注入した後、容器を密閉し、容器内に注入された硫化ジメチルから揮発したガスの3時間後の減少量に対応した検知電圧(mV)を、ガスセンサ(フィガロ製)で測定した。検知電圧が減少することは、容器内の硫化ジメチルガス濃度が小さくなることを示している。また、容器は暗所下に置いた。
次に、容器内の硫化ジメチルガスがビーカー内の水に浸漬した金属部材によって除去されたのか、ビーカー内の水に溶けて除去されたのかを判断するため、水道水だけを入れたビーカーを容器に入れた場合のセンサの検知電圧を同様に測定した。この測定値はビーカー内の水道水に溶けて除去されたガス量に相当する検知電圧であるため、この測定値を相殺し、金属部材の影響による検知電圧(mV)を求めた。なお、測定時の容器内の温度は26℃であった。
この結果、実験例2の金属部材の影響による検知電圧(3時間の間に減少した検知電圧)は0.2mVであった。
以上のことから、凹凸部が塑性変形によって基材に形成された金属部材や、200〜450℃の温度で加熱した金属部材は、本試験例のように紫外線照射量が小さな室内でも、水に難溶の悪臭物質である硫化ジメチルも分解できることが確認された。
このように紫外線が照射されない暗所下で悪臭物質を分解できる現象は、結晶質のアナターゼ型酸化チタンでは確認されていないことから、実験例1〜3,5,6の金属部材の酸化層は、非晶質性酸化チタンと結晶性酸化チタンの界面が存在することにより、界面準位が形成され、非晶質性酸化チタンや結晶性酸化チタンの禁制エネルギー帯とは異なる狭い禁制エネルギー帯が界面に形成されたためではないかと推察される。界面のエネルギーギャップは常温下の熱エネルギーより小さいため、紫外線が照射されなくても、常温下で価電子帯から伝導帯に電子が励起されて触媒活性を発現するのではないかと推察される。
【0058】
(試験例3)
次に、本発明の金属部材を水に浸漬したときの水の物性の変化を、FTIR(フーリエ変換赤外線分光光度計:島津製作所製、型式FTIR−8100M)及びNMR(核磁気共鳴装置:日本電子製、型式AL−400)を用いて測定した。なお、FTIRではATR法により測定した。また、NMRによるH−核磁気共鳴スペクトル(400MHz、基準磁場9.39T、測定核種1H、13C)の測定条件としては、測定温度22.9℃、パルス幅;5.4μs、積算回数;32回とした。また、ケミカルシフトとしては、基準物質としてテトラメチルシランを少量添加した重クロロホルム溶液を用い、テトラメチルシランのプロトンシグナルを基準ピーク(0ppm) とし、相対的位置で表した。
また、FTIR及びNMRで測定した水は、実施例2と同様の方法で作成した金属部材(縦30cm、横40cm、厚さ0.1mm)を水道水1Lに浸漬し、常温下の暗所に10日間放置した後、金属部材を取り出したものを使用した。比較のために、水道水1Lを常温下の暗所に10日間放置したものについても測定した。
図5はFTIR(ATR法)の波数と吸収度を示すスペクトルであり、図6はFTIR(ATR法)の波数と吸収度の比を示すスペクトルである。
水の吸収ピークは1650cm−1及び2200cm−1付近にみられるが、図5及び図6から明らかなように、本発明の金属部材を水に浸漬した実施例とブランク(金属部材を浸漬していない)では、ピークの波数及び吸収度に明らかな差異が生じている。この結果から、本発明の金属部材は水分子の振動や回転に何らかの変化を生じさせることを示している。
また、NMRによる分析結果によれば、本発明の金属部材を浸漬した水のケミカルシフトは4.797ppm(金属部材を浸漬しない水では4.801ppm)であり、本発明の金属部材を浸漬した水の半値幅は0.04571ppm(金属部材を浸漬しない水では0.05625ppm)であり、ケミカルシフト及び半値幅のいずれも減少していることが確認された。この結果から、本発明の金属部材は水分子の集合体(クラスターと定義)を小さくすることを示している。
以上の分析結果から、本発明の金属部材は、接触した水分子のクラスターを小さくし、水分子の振動や回転に何らかの変化を生じさせていると推察される。本発明の金属部材が浸漬された水と接触した気体中の悪臭物質が分解されるメカニズムは明らかになっていないが、本発明の金属部材によって水分子のクラスターが小さくされることと関係があるのではないかと推察される。
【0059】
(試験例4)
これまでの試験によって、本発明の金属部材が紫外線照射量の小さな室内や暗所で、悪臭物質の分解効果(触媒効果)を示すことを示したが、紫外線照射量の大きな場合に触媒効果を示すかどうかを、メチレンブルーの退色試験によって評価した。退色試験は、一定濃度のメチレンブルー水溶液を貯留した浅いガラス製容器に実験例2の金属部材を浸漬して、紫外線をメチレンブルー水溶液の液面に連続的に照射し、経過時間ごとにメチレンブルー水溶液の光透過度を測定することによって行った。比較のため、金属部材を浸漬していないメチレンブルー水溶液についても同様に紫外線を液面に照射し、光透過度を測定した。
なお、紫外線の照射装置は、東芝ライテック製UV管(GLS−6T、波長253nm、185nm)を用い、紫外線照射量はメチレンブルー水溶液の液面において紫外線出力1.4Wであった。光透過度は、経過時間毎に容器から採取したメチレンブルー水溶液を、光触媒効果測定器(コペル電子製PE−01)に付属のセルに注入して測定した。本退色試験では、光透過度が高いほどメチレンブルーの分解が進んでいることを示している。
表2は、実験例2の金属部材を浸漬したメチレンブルー水溶液の光透過度と金属部材を浸漬していないメチレンブルー水溶液の光透過度(ブランク)を経過時間毎に示したものである。なお、表2における光透過度は、(初期(0分)の光透過度)÷(各経過時間における光透過度)の計算式を用いて規格化した。
【0060】
【表2】

【0061】
表2の結果から、実験例2の金属部材に253nm及び185nmの短波長の高エネルギーの紫外線を照射することにより、メチレンブルーを分解し水溶液を退色させられることが確認された。これは、実験例2の金属部材が光触媒効果を発現したことを示している。光触媒効果は結晶質のアナターゼ型酸化チタンによって起こることが知られているので、本試験例の結果から、実験例2の金属部材の酸化層は、熱酸化によって形成された非晶質性酸化チタンと結晶性酸化チタンとを含有していることが裏付けられた。
なお、実験例1,3,5,6,8の金属部材を使って同様の試験を行ったところ、いずれも光触媒効果を発現した。このことから、実験例1,3,5,6,8の金属部材の酸化層も、熱酸化によって形成された非晶質性酸化チタンと結晶性酸化チタンとを含有していることが裏付けられた。
【0062】
(試験例5)
次に、実験例6の金属部材を使って、食用油の劣化防止効果を確認した。
営業中の弁当店に協力を依頼し、サラダ油槽(18L)に実験例6の金属部材を10枚浸漬して、通常の営業時と同数の揚げ物を揚げてもらったときのサラダ油の酸価度を1日1回測定した。酸価度は、フェノールフタレインを指示薬として水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定して求めた。比較のために、金属部材を浸漬せずに揚げ物を行った通常の営業時の油の酸価度も測定した。
この結果、金属部材を浸漬せずに揚げ物を揚げた油は、8日目で酸価度が3を超えた。一般に弁当店等では、酸価度が3を超えると油を新しいものと交換するのであるが、金属部材を浸漬して揚げ物を揚げた油では、14日を過ぎても酸価度が2以下であった。
以上のように、本実験例の金属部材を用いることにより、サラダ油の劣化を防止できることが明らかになった。潤滑油,絶縁油等の化石燃料加工品についても、同様に劣化防止できることが期待される。
【0063】
(試験例6)
実験例2の金属部材を20mm幅(長さ150mm)に切断したもの60枚を自動車のガソリンタンクに入れてガソリンに浸漬し、走行時のガソリンの消費量を測定する燃費テストを行った。測定に用いた自動車は、スズキアルト(初年度登録:平成12年11月27日、型式GF−HA12S、原動機型式F6A)であった。なお、比較のために、金属部材をガソリンタンクに入れないときの燃費も測定した。
燃料を満タンにした状態で、ほとんど傾斜がなく信号機のない一般道11kmを10往復走行し(総走行距離220km)、走行後の燃料消費量を測定した。
この結果、金属部材をガソリンタンクに浸漬しない場合の燃料消費量は22.4L(2回の実験の平均値)だったのに対し、金属部材をガソリンタンクに浸漬した場合の燃料消費量は18.7L(10回の実験の平均値)であった。
以上のように本実施例によれば、約20%も燃料消費量を削減できることが明らかになった。また、ガソリンだけでなく、重油、軽油、灯油等の各種燃料における燃費改善効果も期待できる。
このように、本実施例の金属部材は、ガソリンタンクのような暗所でも触媒活性を有するものであることが確認された。
【0064】
(試験例7)
容器に水道水を0.6L汲み取ったものを2つ用意し、一方の容器だけに実験例2の金属部材を50枚入れ、2つの容器を屋内の暗所に7日間放置した。容器内の水道水の酸化還元電位を酸化還元電位計(ORP−203)で測定したところ、初期の水道水の酸化還元電位は726mVであったが、金属部材を浸漬した水道水の酸化還元電位は、7日後に434mV(初期値の約60%)であった。一方、金属部材を浸漬しなかった水道水の7日後の酸化還元電位は698mV(初期値の約96%)であった。
以上のように本実施例によれば、酸化層が形成された金属部材は、暗所において水道水を還元する還元力を有していることが確認された。
【0065】
(試験例8)
一般細菌試験用の標準寒天培地を入れたガラスシャーレを2つ、大腸菌群試験用のデスオキシコーレイト培地を入れたガラスシャーレを2つ用意し、一方の標準寒天培地とデスオキシコーレイト培地には、実験例2の金属部材の表面(酸化層)を削って作成した酸化層の粉末1gを添加した。各々のガラスシャーレに汚濁した都市河川水10mLを入れた。一般細菌試験では36℃で24時間、暗所で培養した後、細菌数を計数した。大腸菌群試験では36℃で20時間、暗所で培養した後、細菌数を計数した。試験は社団法人埼玉県環境検査研究協会にて行った。細菌数の計数結果を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
表3から、酸化層の粉末を添加した培地(表では添加と表記した)では、酸化層の粉末を添加していない培地(表ではブランクと表記した)に比べて、一般細菌は約30%に減少し、大腸菌群は約70%に減少していることがわかった。
以上のように本実施例によれば、金属部材の酸化層は、暗所においても、一般細菌及び大腸菌群の繁殖を抑制する作用を有していることが確認された。
【0068】
(試験例9)
実施例5の金属部材の幅方向を半分に切断して、長さ17cm、幅5cmにした。この金属部材の長さ方向を丸めて筒状にして、300mLの軽油に1時間没入したもの、3時間没入したもの、5時間没入したもの、全く浸漬しないものを用意した。
各々の軽油を燃料にして、出力側に抵抗(33Ω)を接続したディーゼルエンジン発電機を駆動させ、出力電圧、排ガス中の一酸化炭素濃度を測定した。測定は、各々の燃料について発電機を駆動させてから5分後、10分後、その後1分ごとに18分後まで行い、その10点の平均値を求めた。なお、発電機の出力側に抵抗を接続したのは発電機の回転数を安定させるためであり、出力電圧としては、この抵抗の両端の電圧を測定した。
この結果、出力電圧は、金属部材を浸漬しない燃料では92.4Vだったのに対し、金属部材の浸漬時間が増加するにつれて増加する傾向がみられ、5時間浸漬した燃料では93.6Vであった。また、排ガス中の一酸化炭素濃度は、金属部材を浸漬しない燃料では0.040%だったのに対し、金属部材の浸漬時間が増加するにつれて減少する傾向がみられ、5時間浸漬した燃料では0.031%であった。
以上のように本実施例によれば、金属部材の燃料への浸漬時間が長くなるにつれ発電機の出力電圧が増加し、排ガス中の一酸化炭素濃度が減少することから、本実施例の金属部材によって燃料が改質できることが確認された。
【0069】
(試験例10)
純チタン(JIS1種)で直径0.5mmの粒状に形成した基材を、予め300℃に加熱された電気炉に装入し大気雰囲気中で30分間加熱した後、電気炉から基材を取り出して冷却することにより、基材の表面に酸化層が形成された実験例10の金属部材を得た。
蛇口からコップに注いだ200mLの水道水に、実験例10の金属部材を12g没入し、室温下に放置した。10分後試飲してみると、塩素臭が消えてミネラルウォーターのような味に変化していた。なお、蛇口からコップに注いで10分間放置しただけの水道水は、塩素臭は消えていなかった。本発明の金属部材を水に浸漬することで、FTIRやNMRで検知できる程の変化が水に生じていることを試験例3で説明したが、水の味の変化は、このことと何らかの関係があると推察している。
【0070】
(試験例11)
日本酒、焼酎、ウィスキー、ワインを各々50mL入れた瓶の中に、実験例10の金属部材を3g没入し室温下に放置した。金属部材を没入してから6時間後に試飲してみると、いずれの酒類もまろやかな味に変化していた。金属部材を浸漬前後の日本酒、焼酎、ウィスキーについてFTIR及びNMRを測定してみたところ、FTIRにおいて吸収波数3400cm−1付近の吸収レベルに差異がみられ、NMRでは半値幅に差異がみられた。酒類の味の変化は、これらのことと何らかの関係があるものと推察している。
【0071】
また、本実施例の金属部材を没入した水を噴霧器に注ぎ入れ、タバコ臭が付着した衣服に噴霧したところ、衣服のタバコ臭が軽減し、臭いが軽微なものは消滅した。また、本実施例の金属部材を切り花の入った花瓶の中に入れておくと、花が萎れるまで花瓶の水が腐らなかった。さらに、本実施例の金属部材を没入した水でモヤシを育てたところ、発芽及び成長を促進させることができた。
以上のように本実施例によれば、金属部材を水や酒類等の液体に没入させることで、液体の味を変える等、改質できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減等に有効に用いられる触媒活性を有する金属部材及びその製造方法並びにその使用方法に関し、紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所でも触媒作用が発揮され、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果等を高めることができ、また酸化層の脱落による触媒活性の低下がみられず経時安定性に優れ、また金属粉体や塵埃等の混入が問題となる半導体、食品、自動車、ボイラー,石油ストーブ等の燃焼装置等の工場内や装置内等でも使用することができ応用性に優れる金属部材を提供でき、また、紫外線の照射量が少ない室内、靴箱内や燃料タンク内等の暗所でも、水や空気の浄化、殺菌,消臭,防汚、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果等を発現させることができる金属部材の製造方法を提供でき、また、抗菌性,有機物質や異臭・悪臭物質の分解効果、食品の鮮度保持や油の劣化防止、石油燃料使用量の削減効果を、紫外線の照射量が少ない室内や靴箱内等の暗所で確実に発揮させることのできる金属部材の使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】(a)本発明の実施の形態1における金属部材の要部斜視図 (b)金属部材の要部断面図
【図2】(a)2本の型ローラの間に基材を通して凹凸部を形成する工程(凹凸部形成工程)を示す模式図 (b)噛み合せられた2本の型ローラの模式拡大断面図
【図3】実施の形態2における金属部材の斜視図
【図4】実施の形態3における金属部材の模式図
【図5】FTIR(ATR法)の波数と吸収度を示すスペクトル
【図6】FTIR(ATR法)の波数と吸収度の比を示すスペクトル
【符号の説明】
【0074】
1,21 金属部材
2,22,25 基材
3 凹凸部
4 酸化層
10 型ローラ
11 シャフト
12 歯車凸部
13 スペーサ
23 切れ目部
24,26 永久ひずみ部
27 下型
28 上型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の基材と、前記基材の表面に熱酸化によって形成された触媒活性を有する非晶質性酸化物と結晶性酸化物とを含有する酸化層と、を備えていることを特徴とする金属部材。
【請求項2】
外力を受けて永久ひずみ部が複数個所に形成された金属製の基材と、前記永久ひずみ部の表面が酸化された触媒活性を有する酸化層と、を備えていることを特徴とする金属部材。
【請求項3】
前記基材の材質が、チタン又はチタン合金からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属部材。
【請求項4】
金属製の基材を常圧下200〜450℃の温度に加熱する、及び/又は、金属製の基材の表面の複数個所に永久ひずみ部を形成することにより前記基材の表面を酸化させて触媒活性を有する酸化層を形成する酸化層形成工程を備えていることを特徴とする金属部材の製造方法。
【請求項5】
前記基材が板状や箔状、テープ状に形成され、前記永久ひずみ部が、相互に噛み合うように表面に凹凸が形成された2体の型の間で又はハンマで鍛造加工された凹凸部であることを特徴とする請求項4に記載の金属部材の製造方法。
【請求項6】
前記1乃至3の内いずれか1に記載の金属部材若しくは請求項4又は5の方法で製造された金属部材を液体中に没入させた状態で、前記液体を紫外線照射量0.01W/m未満の微弱な励起光下又は暗所で気体と接触させることを特徴とする金属部材の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−55401(P2008−55401A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317586(P2006−317586)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(597009415)有限会社エスエスジャパン (2)
【出願人】(306020483)
【Fターム(参考)】