説明

金属部材及び金属部材付き樹脂製品

【課題】金属部材を樹脂製品に圧入またはインサート成形のいずれの行程においても利用して固定できる金属部材を提供し、かつ圧入工程で固定する場合においてはバリ発生を回避できる技術を提供する。
【解決手段】カラー10の外径のうち、側面端部14の外径(第1の外径d)は、貫通穴30の内径rと等しい。ローレット加工部15の部分の外径d’(第2の外径d’)は、第1の外径dより、僅かに大きく設定されている。樹脂製品20の貫通穴30の深さtは、カラー10の高さhより僅かに長く設定されている。より具体的には、上下の各環状円面からの突出量cがそれぞれ0.3mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の被挿入部材に固定される金属部材及び、そのような金属部材を備えた金属部材付き樹脂製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、貫通穴を備える樹脂製品に金属等の部材(カラー)を固定した構造が知られている。図5及び図6は、圧入によりカラー1が樹脂製品2の貫通穴3に固定された構造の例を示している。主に図6に示すように、カラー1が樹脂製品2の貫通穴3に圧入される際に、貫通穴3の内壁が削り取られバリ4(削りカス)が発生する。バリ4は、異物となって回路間のショート等の原因となることから、バリが発生した場合には、製品製造工程でバリ4を除去する必要があり製品コストが高くなる。この対策として、例えば図7に示すように、貫通穴3の内壁を上側の圧入領域と非圧入領域とに分けた構造とし、さらにカラー1を対応する形状とすることで、圧入領域で発生したバリを内部に留めておく技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、インサート成形に用いられるカラーとして図8に示す構造が知られている。図8(a)では、円筒形状のカラーの側面に多数の窪み形状が形成されている。また、図8(b)では、円筒形状の側面外径が中央部分で上下端部側より小さく構成されている。このような構造とすることで、樹脂製品とカラーとの固定を適正に維持している。さらに、ボルトが挿入されるカラーに関して、カラーの側面に逆ネジ方向に傾斜した溝を形成することで、ネジ部材の緩み防止の対策を施した技術もある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−139018号公報
【特許文献2】登録実用新案第3103899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、貫通穴を有する樹脂製品に対し、その樹脂製品より硬い金属部材が圧入またはインサートにより固定される場合、その金属部材は固定方法によって異なる形状の部材で使い分けられている。その結果、類似の部材が増えてしまい、コスト低減や管理工数低減の観点から対策が求められていた。
【0006】
本発明の目的は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上記課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、樹脂製品に設けられた貫通穴に固定される金属部材であって、前記貫通穴の内壁面に接触する側面において、端部近傍に形成された第1の側面と、前記側面において、前記第1の側面より外形が僅かに大きく、表面に凹凸加工が施されている第2の側面とを備える。
また、前記第1の側面は、両方の端部近傍に二つの領域で形成されてもよい。
本発明の別の態様は、樹脂製品と、前記樹脂製品に設けられた貫通穴に固定された金属部材とを備えた金属部材付き樹脂製品であって、前記金属部材は、前記貫通穴と断面が同一サイズの外形であって、前記貫通穴の内壁面に接触する側面において、側面の両端部近傍に形成された二つの第1の側面と、前記側面において、前記第1の側面より外形が僅かに大きく、表面に凹凸加工が施されている第2の側面とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属部材を樹脂製品に圧入またはインサート成形のいずれの行程においても利用して固定できる金属部材を提供し、かつ圧入で固定する場合においてはバリ発生を回避できる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係る、カラーの斜視図である。
【図2】実施形態に係る、カラーが固定される樹脂製品の斜視図である。
【図3】実施形態に係る、カラーが固定された状態の樹脂製品の斜視図である。
【図4】実施形態に係る、カラーが固定された状態の樹脂製品の断面図である。
【図5】従来技術に係る、圧入用のカラー及び樹脂製品の斜視図である。
【図6】従来技術に係る、圧入用のカラー及び樹脂製品の断面図である。
【図7】従来技術に係る、圧入用のカラー及び樹脂製品の斜視図である。
【図8】従来技術に係る、インサート成形用のカラー及び樹脂製品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)を、図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、樹脂製品に固定される金属部材として円筒形状のカラーについて例示する。なお、上記カラー以外の金属部材として、四角柱や六角柱の形状のナットがある。
【0011】
図1は、本実施形態に係るカラー10の斜視図である。図2は、カラー10が固定される樹脂製品20の斜視図である。図3は、カラー10が固定された状態の樹脂製品20の斜視図である。さらに、図4は、カラー10が固定された状態の樹脂製品20の断面図(図3のA−A断面)である。
【0012】
例えば図1に示すように、カラー10は、金属製の部材であって円筒形状を呈している。図2に示すように、樹脂製品20には貫通穴30が設けられており、図3に示すように、カラー10は樹脂製品20の貫通穴30にインサート成形又は圧入工法によって固定される。つまり、カラー10は、インサート成形又は圧入工法のいずれにも区別無く利用することができるように構成されている。
【0013】
このカラー10には、円筒軸方向(図1では上下方向)に、上下方向に貫通する挿通穴12が備わり、上面及び底面において環状円面11が形成されている。挿通穴12には、ボルト等が挿通される。
【0014】
カラー10は、貫通穴30に固定されたときに、樹脂製品20から外れないように、カラー10の側面13の所定領域に凹凸加工が施されている。具体的には、カラー10は、側面13において上下の端部近傍領域に形成された側面端部14と、二つの側面端部14の間の領域に形成されたローレット加工部15とを備える。
【0015】
側面端部14は、非圧入領域であって、この外径d(以下、「第1の外径d」という。)は、貫通穴30の内径rと等しく設定されている。側面端部14の表面は、圧入時に大きな抵抗とならないように、凹凸が形成されることなく円滑な面で形成されている。
【0016】
圧入領域であるローレット加工部15では、回り止め用(抜け止め用)として断面ギザ形状のローレット加工が施されている。ローレット加工部15の高さsは、カラー10の高さh(軸方向の長さ)及び側面端部14の高さaに対して、s=h−2aとなっている。ここでは、側面端部14の高さaは常に2.0mmに設定される。
【0017】
また、ローレット加工部15の部分の外径d’(以下、「第2の外径d’」という)は、第1の外径dより、僅かに大きく設定されている(d<d’)。なお、ローレット加工としての形状及び第2の外形d’は、固定時に必要とされる固定力、樹脂製品20の硬さ、圧入時に作用する力等によって適宜定まる。
【0018】
さらに、樹脂製品20に形成される貫通穴30の深さtは、カラー10の高さh(軸方向の長さ)より僅かに短く設定されている。ここでは、深さt=h−0.6mmである。より具体的には、カラー10が貫通穴30に固定された状態で、上下の各環状円面11からの突出量cがそれぞれ0.3mmに設定されている。つまり貫通穴30の深さt、カラー10の高さh、及び突出量cは、t=h−2cの関係となっている。
【0019】
このような構成とすることで、以下のような効果を奏する。つまり、樹脂製品20に金属部材であるカラー10を圧入した場合には、ローレット加工部15が圧入に伴い貫通穴30の内壁面に食い込むことから、カラー10を適正に固定することができる。また、圧入に伴い発生するバリ(樹脂カス)を、常に図4の領域bに留めることができる。したがって、発生したバリが外部に排出され異物となることが防止できる。
【0020】
また、インサート成形された場合には、ローレット加工部15の周囲に樹脂が流れ込むことでカラー10が固定されるため、バリは発生しない。また、ローレット加工部15のアンカー効果によってカラー10と樹脂製品20との固定が適正に確保される。
【0021】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素及びその組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0022】
例えば、上記実施形態では、ローレット加工部15が両端の側面端部14に挟まれるように形成された。つまり、上下対称に構成されて、圧入方向の区別無く用いることができた。しかし、圧入方向の区別をして利用できるようにしてもよい。例えば、圧入時には、圧入方向の先にある下側の領域bが確保できればバリが外部に排出されることはない。したがって、ローレット加工部15は、圧入後方側の側面端部14(図示では上側)の部分にまで形成されてもよい。つまり側面端部14は、一方だけでもよい。
【0023】
また、側面端部14に挟まれる領域は、ローレット加工(ローレット加工部15)に限らず、貫通穴30に圧入され固定されたときに内壁面に食い込み、かつインサート成形で固定されたときに凹凸形状に樹脂が流れ込んでアンカー効果を発揮する形状であればよい。
【符号の説明】
【0024】
10 カラー
11 環状円面
12 挿通穴
13 側面
14 側面端部
15 ローレット加工部
20 樹脂製品
30 貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製品に設けられた貫通穴に固定される金属部材であって、
前記貫通穴の内壁面に接触する側面において、端部近傍に形成された第1の側面と、
前記側面において、前記第1の側面より外形が僅かに大きく、表面に凹凸加工が施されている第2の側面と
を備えることを特徴とする金属部材。
【請求項2】
前記第1の側面は、両方の端部近傍に二つの領域で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属部材。
【請求項3】
樹脂製品と、前記樹脂製品に設けられた貫通穴に固定された金属部材とを備えた金属部材付き樹脂製品であって、
前記金属部材は、前記貫通穴と断面が同一サイズの外形であって、前記貫通穴の内壁面に接触する側面において、側面の両端部近傍に形成された二つの第1の側面と、
前記側面において、前記第1の側面より外形が僅かに大きく、表面に凹凸加工が施されている第2の側面と
を備えることを特徴とする金属部材付き樹脂製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−44341(P2013−44341A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180434(P2011−180434)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】