説明

金属酸化物ナノカプセルの製造方法

【課題】 従来のメソポーラス金属酸化物とは異なる、新しい形状の金属酸化物の製造法を案出し、これにより得られた生成物の物性を調べ、その利用を図ること。
【解決手段】 二鎖型カチオン界面活性剤および金属酸化物前駆体を含有する水溶液を、水熱反応に付し、更にこれを焼成することを特徴とする金属酸化物ナノカプセルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物ナノカプセルの製造方法に関し、更に詳細には、界面活性剤により形成されるベシクルを鋳型とする金属酸化物ナノカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、界面活性剤が形成する分子集合体を鋳型として用い、メソポーラス金属酸化物を合成する方法が報告された(非特許文献1)。このような、メソポーラス金属酸化物は、高比表面積であり、均一な細孔を有するため、触媒担体、香粧品等、多岐にわたる分野での利用が期待されている。
【0003】
しかしながら、上記の方法で得られたメソポーラス金属酸化物の形状は、鋳型である界面活性剤が形成する分子集合体の形状に依存するため、使用目的によってはその効果を十分に得ることができないという問題もあった。
【0004】
【非特許文献1】「ケミカルマテリアルズ(Chemical Materials)」、スタッキー(Stucky)著、アメリカンケミカルソサエティ(AmericanChemical Society)、アメリカ合衆国、1994年、第6号、p.1176‐1191
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、従来のメソポーラス金属酸化物とは異なる新しい形状の金属酸化物の製造法を案出し、これにより得られた生成物の物性を調べ、その利用を図ることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、ベシクルとして知られている、二つのアルキル基を有する界面活性剤が形成する二分子膜閉鎖小胞体を鋳型として用いることにより、金属酸化物のナノカプセルが容易に得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、二鎖型カチオン界面活性剤および金属酸化物前駆体を含有する水溶液を、水熱反応に付し、更にこれを焼成することを特徴とする金属酸化物ナノカプセルの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法により、中空構造を有した金属酸化物のナノカプセルが容易に調製できる。そして、この金属酸化物ナノカプセルは、低比重でしかも高比表面積であるという性質を有するので、薬物担体、化粧品基剤、屈折率調整剤等として利用することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明方法は、二鎖型カチオン界面活性剤および金属酸化物前駆体を含有する水溶液を、水熱反応に付した後、これを焼成することにより、金属酸化物ナノカプセルを製造する方法である。
【0010】
本発明により得られる金属酸化物ナノカプセルとしては、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ等の金属酸化物のものが挙げられる。これら金属酸化物の原料となる金属酸化物前駆体としては、それぞれの金属酸化物に対応し、例えば、テトラエチルオルトシリケート、酸化硫酸チタン等を利用することができる。
【0011】
一方、本発明において使用される二鎖型カチオン界面活性剤としては、従来からベシクルの製造に用いられている界面活性剤を使用することができる。このような、二鎖型カチオン界面活性剤の例としては、例えば、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムブロミド等のジアルキルジメチルアンモニウム塩や、ポリオキシエチレン付加ジヘキサデシルジメチルアンモニウム塩、ポリオキシエチレン付加ジオクタデシルジメチルアンモニウム塩等のポリオキシエチレン付加ジアルキルジメチルアンモニウム塩が好ましい。このうち、特に、アルキル基の炭素原子数が12から20のジアルキルジメチルアンモニウム塩が好ましい。
【0012】
本発明方法は、上記した金属酸化物前駆体と二鎖型カチオン界面活性剤を原料として実施できるが、更にアニオン活性剤を使用することが、中空粒子の孔径の制御の点で好ましい。このような目的のために使用することのできるアニオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレン付加アルキル硫酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、N−アシルアルキルタウリン酸、α−オレフィンスルホン酸塩、スルホコハク酸塩等が挙げられる。このうち、アルキル基の炭素原子数が8から20のアルキル硫酸塩が好ましい。
【0013】
上記成分、すなわち、金属酸化物前駆体、二鎖型カチオン界面活性剤および必要によりアニオン界面活性剤を含有する水溶液から金属酸化物ナノカプセルを製造するには、次のようにすればよい。
【0014】
まず、二鎖型カチオン界面活性剤および必要によりアニオン界面活性剤を、水に十分溶解させ、ベシクルを形成させる。この二鎖型カチオン界面活性剤等の溶解およびベシクル形成には、例えば、75ないし600W程度の強度の超音波を照射することが好ましい。
【0015】
このベシクル形成に当たっての、二鎖型カチオン界面活性剤は、30ないし60mM程度の濃度で使用することが好ましく、アニオン性界面活性剤は、15mM程度の濃度で使用することが好ましい。
【0016】
上記水溶液中に、金属酸化物前駆体を加え、500ないし1000rpm程度で、12ないし24時間程度撹拌する。加える金属酸化物前駆体は、水溶液中での濃度が0.01ないし0.5M程度となる濃度であることが好ましい。
【0017】
なお、上記水溶液は、金属酸化物前駆体の添加に先立ち、必要に応じてpHを調製することができる。例えば、シリカによるカプセルを調製する場合には、水溶液中に、アルカリ物質を加え、そのpHを10ないし13程度とすることが好ましく、このために用いるアルカリ物質としては、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0018】
更に、金属酸化物前駆体を加えられた溶液は、水熱反応に付される。この水熱反応は、例えば、80ないし130℃、好ましくは、120℃程度の温度条件下、オートクレーブ中で高圧処理することにより行うことができる。
【0019】
水熱反応により生成した反応物は、常法により固液分離および洗浄を行った後、乾燥され、最終的に焼成され、目的とする金属酸化物のナノカプセルを得ることができる。
【0020】
上記焼成は、400ないし600℃程度の温度で、1ないし12時間程度、好ましくは、4ないし8時間程度加熱することにより行われ、これにより、テンプレートとして用いた界面活性剤を除去することができる。
【0021】
このようにすることにより、例えば、大きさが100〜200nm、膜の厚さが20〜30nmで、その比表面積が約200m/gの中空粒子として金属酸化物のナノカプセルを得ることができる。
【実施例】
【0022】
以下実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0023】
実 施 例 1
シリカカプセルの調製:
(1)25mlの超純水に、二鎖型カチオン界面活性剤であるジラウリルジメチルアンモニウムブロマイド(DDAB)およびアニオン界面活性剤であるソディウムオクチルスルフェート(SOS)を全濃度で60mMとなるように添加し(DDAB/SOS=9/1)、40kHzの超音波照射下(150W)で溶解させた。
【0024】
次いで、これに10−2Nの水酸化ナトリウム溶液(pH13)25mlを撹拌しつつ添加した。更に、この水溶液に、金属酸化物前駆体としてテトラエチルオルソシリケート0.546gを添加し、激しく撹拌した。24時間撹拌を行った後、オートクレーブを用い、この溶液を、120℃の水熱反応に付した。
【0025】
水熱反応の生成物を、吸引濾過により濾別し、得られた粒子を水洗した。次いで、この粒子を、電気炉を用い、120℃で600分間乾燥し、粉状物を得た。
【0026】
得られた粉状物について、XRD測定(RIGAKU RINT−1100)およびTEM観察(日立 H−7650)を行い、その構造評価を行った。この結果、XRD測定により、(100)回折ピークの他に、(200)回折ピークが確認でき、このものは高い規則性のラメラ構造を形成していることが明らかになった。このことは、TEMによっても確認され、更に個々の粒子がカプセル状になっている可能性も示された(図1)。
【0027】
(2)上記(1)で得られた水熱反応の生成物を、電気炉を用い、500℃で6時間焼成した。
【0028】
得られた焼成物について、上記(1)と同様XRD測定およびTEM観察を行った。この結果、XRD測定では、メソ孔に起因するピークは確認されなかったが、TEMではカプセル構造が観察できた。
【0029】
実 施 例 2
チタニアカプセルの調製:
(1)25mlの超純水に、二鎖型カチオン界面活性剤であるジラウリルジメチルアンモニウムブロマイド(DDAB)およびアニオン界面活性剤であるソディウムオクチルスルフェート(SOS)を全濃度で60mMとなるように添加し(DDAB/SOS=9:1)、40kHzの超音波照射下(150W)で溶解させた。
【0030】
次いで、この水溶液に、金属酸化物前駆体として酸化硫酸チタン50mMを添加し、激しく撹拌した。24時間撹拌を行った後、オートクレーブを用い、この溶液を、120℃の水熱反応に付した。
【0031】
水熱反応の生成物を、吸引濾過により濾別し、得られた粒子を水洗した。次いで、この粒子を、電気炉を用い、120℃で600分間乾燥し、粉状物を得た。以下、実施例1(2)と同様に焼成し、チタニアカプセルを得た。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明方法で得られる金属酸化物ナノカプセルは、低比重でしかも高比表面積であるという性質を有するので、触媒担体、化粧品基剤、屈折率調整剤等として利用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の金属酸化物ナノカプセルのTEM観察結果を示す図面である。 以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二鎖型カチオン界面活性剤および金属酸化物前駆体を含有する水溶液を、水熱反応に付し、更にこれを焼成することを特徴とする金属酸化物ナノカプセルの製造方法。
【請求項2】
水溶液が、更にアニオン界面活性剤を含有するものである請求項第1項記載の金属酸化物ナノカプセルの製造方法。
【請求項3】
水溶液が、強アルカリ性水溶液である請求項第1項または第2項記載の金属酸化物ナノカプセルの製造方法。
【請求項4】
二鎖型カチオン界面活性剤が、ジアルキルジメチルアンモニウム塩またはポリオキシエチレン付加ジアルキルジメチルアンモニウム塩である請求項第1項ないし第3項のいずれかの項記載の金属酸化物ナノカプセルの製造方法。
【請求項5】
アニオン界面活性剤が、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレン付加アルキル硫酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、N−アシルアルキルタウリン酸、α−オレフィンスルホン酸塩およびスルホコハク酸塩からなる群より選ばれたものである請求項第1項ないし第4項のいずれかの項記載の金属酸化物ナノカプセルの製造方法。
【請求項6】
金属酸化物前駆体が、金属のアルコキシドまたはオキシサルフェートである請求項第1項ないし第4項のいずれかの項記載の金属酸化物ナノカプセルの製造方法。
【請求項7】
水熱反応を、オートクレーブ中、80ないし130℃の温度で行う、請求項第1項ないし第6項のいずれかの項記載の金属酸化物ナノカプセルの製造方法。
【請求項8】
金属酸化物前駆体が、テトラエチルオルソシリケートであり、金属酸化物がシリカである請求項第1項ないし第6項のいずれかの項記載の金属酸化物ナノカプセルの製造方法。



【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−327849(P2006−327849A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150753(P2005−150753)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(598069939)
【出願人】(501403014)
【出願人】(501370945)株式会社日本ボロン (33)
【Fターム(参考)】