説明

金属酸素電池

【課題】充放電サイクルを繰り返しても、優れた充放電容量を維持することができる金属酸素電池を提供する。
【解決手段】金属酸素電池1は、酸素を活物質とし酸素貯蔵材料21と導電性材料とを含む正極2と、リチウムイオンを吸収放出可能な負極3と、正極2と負極3とに挟持された電解質層4とを備える。正極2は、導電性材料22としての繊維状炭素材料を含み、繊維状炭素材料は酸素貯蔵材料21の表面に付着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸素電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池反応として、正極における酸素の酸化還元反応を利用する金属酸素電池が知られている。前記金属酸素電池には、空気中から取り入れた酸素を用いて前記酸化還元反応を行うものと、正極に酸素吸蔵材料を備え、該酸素吸蔵材料から放出される酸素を用いて前記酸化還元反応を行うものとがある。
【0003】
正極に酸素吸蔵材料を備える金属酸素電池では、放電時には、負極において金属が酸化されて金属イオンを生じ、該金属イオンが正極側に移動する。一方、正極においては前記酸素吸蔵材料から放出された酸素が酸素イオンに還元され、該金属イオンと結合して金属酸化物を形成する。また、前記金属酸素電池では、充電時には、前記負極及び前記正極において、前記反応の逆反応が起きる。
【0004】
このような金属酸素電池として、前記酸素吸蔵材料に、酸素を含むマンガン錯体を用いるもの(例えば特許文献1参照)、又はペロブスカイト型構造を有するFe系金属複合酸化物を用いるものが知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−230985号公報
【特許文献2】特開2009−283381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記金属酸素電池では、充放電サイクルを繰り返すに従って、十分な充放電容量を得ることができなくなるという不都合がある。
【0007】
本発明は、かかる不都合を解消して、充放電サイクルを繰り返しても優れた充放電容量を維持することができる金属酸素電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記従来の金属酸素電池において、充放電サイクルを繰り返すに従って、十分な充放電容量を得ることができなくなる理由について鋭意検討した結果、次の知見を得た。
【0009】
まず、従来の金属酸素電池では、前記正極は前記酸素吸蔵材料と導電助剤としての導電性材料とがポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のような結着剤を介して相互に結合された構成を備えている。ここで、図5(a)に示すように、前記酸素吸蔵材料41と前記導電助剤42とはいずれも粒状であり、酸素吸蔵材料41はその表面の一部がPTFE43により被覆されている。そして、酸素吸蔵材料41の表面のPTFE43により被覆されていない領域に導電助剤42が凝集している。
【0010】
また、前記正極では、酸素吸蔵材料41、導電助剤42及びPTFE43の周囲は、電解液により満たされており、酸素吸蔵材料41と導電助剤42との接点に、酸素吸蔵材料41と導電助剤42と該電解液との三相界面が形成される。そして、前記三相界面において前記電池反応が起きるものと考えられている。
【0011】
そこで、放電時には、まず、前記負極で金属の酸化により生成した金属イオンが正極側に移動する。一方、前記三相界面においては、酸素吸蔵材料41から放出された酸素が、導電助剤42により伝導される電子により還元されて酸素イオンを生成する。そして、前記三相界面において、前記金属イオンが前記酸素イオンと結合する。この結果、図5(b)に示すように、前記三相界面に金属酸化物44が析出し、導電助剤42が酸素吸蔵材料41から離間される。
【0012】
金属酸化物44は、充電時には金属イオンと酸素イオンとに解離して消滅するが、一旦酸素吸蔵材料41から離間された導電助剤42はそのままであり、原状に復することはない。従って、充放電サイクルを繰り返すと、酸素吸蔵材料41と結合している導電助剤42が減少し、換言すれば前記三相界面が減少して、十分な充放電容量を得ることができなくなるものと考えられる。
【0013】
本発明は前記知見に基づくものであり、前記目的を達成するために、酸素を活物質とし酸素貯蔵材料と導電性材料とを含む正極と、リチウムイオンを吸収放出可能な負極と、該正極と該負極とに挟持された電解質層とを備える金属酸素電池において、該正極は、該導電性材料としての繊維状炭素材料を含み、該繊維状炭素材料は該酸素貯蔵材料の表面に付着していることを特徴とする。
【0014】
尚、本出願において、前記「酸素貯蔵材料」とは、酸素を吸蔵放出することができると共に、その表面に酸素を吸脱着することができる材料を意味する。前記酸素貯蔵材料の表面に吸脱着される酸素は、該酸素貯蔵材料に吸蔵放出されるために該酸素貯蔵材料中に拡散する必要がないので、吸蔵放出される酸素よりも低エネルギーで前記電池反応に用いられることとなり、より優位に作用することができる。
【0015】
本発明の金属酸素電池によれば、前記正極において、前記酸素貯蔵材料は、その表面に繊維状炭素材料からなる導電性材料が付着している。ここで、前記繊維状炭素繊維は、相互に不規則に絡み合い、網状となって前記酸素貯蔵材料の表面に付着している。
【0016】
この結果、本発明の金属酸素電池では、放電時に、前記酸素吸蔵材料と繊維状炭素材料からなる導電性材料と電解液との三相界面において電池反応が起きたときに、網状に絡み合った該繊維状炭素繊維に囲まれる空間に前記金属酸化物が析出することができる。
【0017】
従って、放電時に前記金属酸化物が析出し、充電時に該金属酸化物が金属イオンと酸素イオンとに解離して消滅するとしても、前記繊維状炭素材料からなる導電性材料は前記酸素貯蔵材料から離間することがなく、前記三相界面を保持することができる。この結果、本発明の金属酸素電池によれば、充放電サイクルを繰り返しても、優れた充放電容量を維持することができる。
【0018】
本発明の金属酸素電池において、前記正極は、前記導電性材料としての繊維状炭素材料を分散させた分散液に、結着剤及び該酸素貯蔵材料を混合することにより形成することができる。この結果、前記繊維状炭素繊維を、相互に不規則に絡み合った網状のものとして、前記酸素貯蔵材料の表面に付着させることができる。
【0019】
このとき、前記酸素貯蔵材料は、前記繊維状炭素材料からなる前記導電性材料を付着させるために、表面処理が施されていることが好ましい。
【0020】
前記表面処理として、前記酸素貯蔵材料は、例えば、表面に酸処理が施されていることが好ましい。前記酸素貯蔵材料は、前記酸処理によりその表面が粗化されるので、前記繊維状炭素繊維を、相互により不規則に絡み合った網状のものとして、その表面に付着させやすくなる。
【0021】
また、前記表面処理として、前記酸素貯蔵材料は、例えば、前記繊維状炭素材料に対して親和性を有する官能基を表面に備えていることが好ましい。前記官能基としては、例えば、アミノ基を挙げることができる。前記酸素貯蔵材料は、前記官能基を表面に備えることにより、前記繊維状炭素繊維をその表面により強固に付着させることができる。
【0022】
また、本発明の金属酸素電池において、前記酸素貯蔵材料は、イットリウムとマンガンとの複合金属酸化物からなることが好ましい。前記イットリウムとマンガンとの複合金属酸化物によれば、優れた酸素貯蔵能を得ることができる。
【0023】
また、本発明の金属酸素電池は、前記正極と前記負極と前記電解質層とを密閉された状態で収容する筐体を備えることが好ましい。前記正極と前記負極と前記電解質層とは、前記筐体内に密閉されていることにより、空気中の酸素、一酸化炭素等が侵入して劣化されることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の金属酸素電池の一構成例を示す説明的断面図。
【図2】本発明の金属酸素電池の酸素貯蔵材料を模式的に示す説明図。
【図3】本発明の金属酸素電池の酸素貯蔵材料の走査型電子顕微鏡写真。
【図4】本発明の金属酸素電池において充放電を繰り返したときのサイクル数と放電容量の維持率との関係を示すグラフ。
【図5】従来の金属酸素電池の正極の状態を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の金属酸素電池1は、酸素を活物質とする正極2と、リチウムイオンを吸収放出可能な負極3と、正極2と負極3との間に配設される電解質層4とを備え、正極2、負極3及び電解質層4は、ケース5内に密閉されて収容されている。
【0027】
ケース5は、カップ状のケース本体6と、ケース本体6を閉蓋する蓋体7とを備え、ケース本体6と蓋体7との間には絶縁樹脂8が介装されている。また、正極2は蓋体7の天面との間に正極集電体9を備えている。尚、金属酸素電池1において、ケース本体6は負極板として、蓋体7は正極板として作用する。
【0028】
金属酸素電池1の正極2は、図2に示す酸素貯蔵材料21、繊維状炭素材料からなる導電性材料22及び図示しない結着剤とからなる。ここで、酸素貯蔵材料21は、繊維状炭素材料からなる導電性材料22が表面に付着しており、繊維状炭素材料からなる導電性材料22は、酸素貯蔵材料21の表面で、相互に不規則に絡み合い網状となっている。
【0029】
酸素貯蔵材料21は、例えば、YMnO等の複合金属酸化物からなり、酸素を吸蔵又は放出する機能を備えると共に、その表面に酸素を吸着、脱着することができる。例えば酸素貯蔵材料21が0.1〜100μmの範囲の粒子径を備える粒子である場合、導電性材料22は、かかる酸素貯蔵材料21の表面に前記網状に付着するために、直径5〜200nmの範囲の直径と、0.05〜20μmの範囲の長さとを備える繊維状炭素材料からなることが好ましい。このような繊維状炭素材料として、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、気相法炭素繊維(VGCF)等を挙げることができる。
【0030】
また、前記結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド(PI)、アクリル樹脂等を挙げることができる。
【0031】
正極2は、例えば、前記繊維状炭素材料を水、エタノール等の液体に0.1〜20質量%濃度になるよう分散させた分散液に、酸素貯蔵材料21と、前記結着剤とを混合し、得られた混合物を正極集電体9に塗布することにより形成することができる。前記混合物は、例えば、酸素貯蔵材料21と前記繊維状炭素材料と前記結着剤とが、10:80:10〜98:1:1の質量比になるように調整する。
【0032】
次に、負極3は、リチウムイオンを吸収放出可能な材料からなり、例えば、金属リチウム、リチウム合金、グラファイト等のリチウムイオンを吸収放出可能な炭素質材料等を挙げることができる。
【0033】
次に、電解質層4は、例えば、非水系電解質溶液をセパレータに浸漬させたものであってもよく、固体電解質であってもよい。
【0034】
前記非水系電解質溶液は、例えば、リチウム塩を非水系溶媒に溶解したものを用いることができる。前記リチウム塩としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩等を挙げることができる。また、前記非水系溶媒としては、例えば、炭酸エステル系溶媒、エーテル系溶媒、イオン液体等を挙げることができる。
【0035】
前記炭酸エステル系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等を挙げることができる。前記炭酸エステル系溶媒は2種以上混合して用いることもできる。
【0036】
前記エーテル系溶媒としては、例えば、ジメトキシエタン、ジメチルトリグラム、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。前記エーテル系溶媒は2種以上混合して用いることもできる。
【0037】
前記イオン液体としては、例えば、イミダゾリウム、アンモニウム、ピリジニウム、ペリジウム等のカチオンと、ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(TTSI)、ビス(ペンタフルオロエチルスルフォニル)イミド(BETI)、テトラフルオロボレート、パークロレート、ハロゲンアニオン等のアニオンとの塩を挙げることができる。
【0038】
前記セパレータとしては、例えば、ガラス繊維、ガラス製ペーパー、ポリプロピレン製不織布、ポリイミド製不織布、ポリフェニレンスルフィド製不織布、ポリエチレン製多孔フィルム等を挙げることができる。
【0039】
また、前記固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等を挙げることができる。
【0040】
前記酸化物系固体電解質としては、例えば、リチウム、ランタン、ジルコニウムの複合酸化物であるLiLaZr12、リチウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、ゲルマニウム、リンを主成分とするガラスセラミックス等を挙げることができる。前記LiLaZr12は、リチウム、ランタン、ジルコニウムの一部を、それぞれストロンチウム、バリウム、銀、イットリウム、鉛、スズ、アンチモン、ハフニウム、タンタル、ニオブ等の他の金属で置換されたものであってもよい。
【0041】
次に、正極集電体9としては、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、銅等のメッシュからなるものを挙げることができる。
【0042】
本実施形態の金属酸素電池1では、放電時には次の式に示すように、負極3において、金属リチウムが酸化されてリチウムイオンと電子とが生成する。生成したリチウムイオンは、電解質層4を介して正極2に移動し、酸素貯蔵材料21から供給される酸素の還元により生成した酸素イオンと反応し、酸化リチウム又は過酸化リチウムを生成する。
【0043】
(負極) 4Li → 4Li +4e
(正極) O + 4e → 2O2−
4Li + 2O2− → 2Li
2Li + 2O2− → Li
正極2における前記反応は、酸素貯蔵材料21と導電性材料22と電解液との三相界面を反応場とし、酸素貯蔵材料21の表面に前記酸化リチウム又は過酸化リチウムが析出する。このとき、酸素貯蔵材料21の表面には、繊維状炭素材料からなる導電性材料22が相互に不規則に絡み合って網状となって付着している。そこで、前記酸化リチウム又は過酸化リチウムは、繊維状炭素材料からなる導電性材料22の網の目、すなわち該繊維状炭素繊維に囲まれる空間に析出することができる。
【0044】
従って、前記酸化リチウム又は過酸化リチウムの析出によって、導電性材料22が酸素貯蔵材料21から離間されることを防止することができる。
【0045】
一方、充電時には次の式に示すように、正極2において、酸化リチウム又は過酸化リチウムからリチウムイオンと酸素イオンとが生成する。生成したリチウムイオンは電解質層4を介して負極3に移動し、負極3で還元されることにより金属リチウムとして析出する。
【0046】
(正極) 2LiO → 4Li + 2O2−
Li → 2Li + 2O2−
(負極) 4Li +4e → 4Li
前記充電時には、前記酸化リチウム又は過酸化リチウムは、リチウムイオンと酸素イオンとに解離して消滅する。しかし、前記酸化リチウム又は過酸化リチウムは、前記のように繊維状炭素材料からなる導電性材料22の網の目に析出していたものであるので、消滅したとしても導電性材料22が酸素貯蔵材料21から離間されることはない。
【0047】
この結果、金属酸素電池1によれば、充放電サイクルを繰り返しても、酸素貯蔵材料21と導電性材料22と間に空隙を生じることがなく、優れたな充放電容量を維持することができる。
【0048】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0049】
〔実施例〕
本実施例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸マンガン6水和物と、リンゴ酸とを、1:1:6のモル比となるようにして、粉砕混合し、複合金属酸化物材料の混合物を得た。次に、得られた複合金属酸化物材料の混合物を250℃の温度で30分間反応させた後、さらに、300℃の温度で30分間、350℃の温度で1時間反応させた。次に、反応生成物の混合物を粉砕混合した後、1000℃の温度で1時間焼成して複合金属酸化物を得た。
【0050】
得られた複合金属酸化物は、X線回折パターンにより、化学式YMnOで表される複合金属酸化物であり、六方晶構造を備えることが確認された。
【0051】
次に、カーボンナノファイバー(三菱マテリアル株式会社製)を1質量%の濃度になるよう水に分散させた分散液を準備した。次に、前記分散液と2質量%の濃度のカルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液とを混合して撹拌し、混合液を得た。次に、前記混合液に化学式YMnOで表される複合金属酸化物を混合して攪拌した。前記カーボンナノファイバーは、10〜20nmの範囲の直径と、0.1〜10μmの範囲の長さとを備えている。また、前記複合金属酸化物は0.1〜100μmの範囲の粒子径を備える粒子である。
【0052】
この結果、酸素貯蔵材料としての前記複合金属酸化物の表面に、前記カーボンナノファイバーが相互に絡み合い網状となって付着している混合物を得ることができた。前記混合物の走査型電子顕微鏡写真を図3(a)に、その2倍拡大図を図3(b)に示す。
【0053】
次に、前記のようにして得られた混合物に、さらにケッチェンブラック(株式会社ライオン製)を混合し、正極混合物を得た。前記正極混合物は、前記複合金属酸化物とカーボンナノファイバーとケッチェンブラックとCMCとが、75:15:5:5の質量比になるように調整した。そして、得られた正極混合物をアルミニウムメッシュ(株式会社ニラコ製)からなる正極集電体9に塗布し、直径15mm、厚さ1mmの正極2を形成した。
【0054】
尚、本実施例では、正極2において、前記ケッチェンブラックは必ずしも添加しなくてもよい。しかし、ここでは、後述の比較例と同条件とするために、前記ケッチェンブラックを添加している。
【0055】
次に、内径15mmの有底円筒状のSUS製ケース本体6の内部に、直径15mm、厚さ1mmの金属リチウム箔(本城金属株式会社製)からなる負極3を配置した。
【0056】
次に、負極3上に、直径15mmの不織布セパレータ(タピルス株式会社製)を重ね合わせた。次に、前記セパレータ上に、前記のようにして得られた正極2及び正極集電体9を、正極2が該セパレータに接するように重ね合わせた。次に、前記セパレータに非水系電解質溶液を注入し、電解質層4を形成した。
【0057】
前記非水系電解質溶液としては、エチレンカーボネートと、ジエチルカーボネートとを30:70の質量比で混合した混合溶液に、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットルの濃度で溶解した溶液(キシダ化学株式会社製)を用いた。
【0058】
次に、ケース本体6に収容された負極3、電解質層4、正極2、正極集電体9からなる積層体を、内径15mmの有底円筒状のSUS製蓋体7で閉蓋した。このとき、ケース本体6と蓋体7との間に、外径32mm、内径30mm、厚さ5mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるリング状の絶縁樹脂8を配設することにより、図1に示す金属酸素電池1を得た。
【0059】
次に、本実施例で得られた金属酸素電池1の充放電性能を測定した。前記測定は、金属酸素電池1を電気化学測定装置(東方技研株式会社製)に装着し、負極3と正極2との間に、0.1mA/cmの電流を印加し、セル電圧が2.0Vになるまで放電し、負極3と正極2との間に、0.05mA/cmの電流を印加し、セル電圧が4.5Vになるまで充電する操作を10サイクル繰り返した。このときのサイクル数と放電容量の維持率との関係を図4に示す。
【0060】
〔比較例〕
本比較例では、前記実施例で得られた複合金属酸化物と、ケッチェンブラック(株式会社ライオン製)と、ポリテトラフルオロエチレン(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)とを、40:50:10の質量比で混合して正極混合物を得た以外は、前記実施例と全く同一にして、金属酸素電池を得た。
【0061】
次に、本比較例で得られた金属酸素電池を用いた以外は、前記実施例と全く同一にして、充放電操作を3サイクル繰り返した。このときのサイクル数と放電容量の維持率との関係を図4に示す。
【0062】
図4から、前記実施例の金属酸素電池1によれば、充放電を10サイクルを繰り返しても、1サイクル目の放電容量に対して98%の放電容量を維持している。これに対して、比較例の金属酸素電池では、充放電を3サイクル繰り返した後には、1サイクル目の放電容量に対して32%の放電容量を維持しているに過ぎず、4サイクル目には充放電を行うことができなかった。
【0063】
従って、前記実施例の金属酸素電池1によれば、比較例に対して優れたな充放電容量を維持することができることが明らかである。
【符号の説明】
【0064】
1…金属酸素電池、 2…正極、 3…負極、 4…電解質層、 5…ケース、 21…酸素貯蔵材料、 22…導電性材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を活物質とし酸素貯蔵材料と導電性材料とを含む正極と、リチウムイオンを吸収放出可能な負極と、該正極と該負極とに挟持された電解質層とを備える金属酸素電池において、
該正極は、該導電性材料としての繊維状炭素材料を含み、該繊維状炭素材料は該酸素貯蔵材料の表面に付着していることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項2】
酸素を活物質とし酸素貯蔵材料と導電性材料とを含む正極と、リチウムイオンを吸収放出可能な負極と、該正極と該負極とに挟持された電解質層とを備える金属酸素電池において、
該正極は、該導電性材料としての繊維状炭素材料を分散させた分散液に、結着剤及び該酸素貯蔵材料を混合することにより形成されたものであることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の金属酸素電池において、前記酸素貯蔵材料は、表面に酸処理が施されていることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の金属酸素電池において、前記酸素貯蔵材料は、前記繊維状炭素材料に対して親和性を有する官能基を表面に備えていることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の前記酸素貯蔵材料は、イットリウムとマンガンとの複合金属酸化物からなることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の金属酸素電池において、前記正極と前記負極と前記電解質層とを密閉された状態で収容する筐体を備えることを特徴とする金属酸素電池。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−62181(P2013−62181A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200851(P2011−200851)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】