説明

針状体、針状体の製造方法、針状体製造装置

【課題】外部から力が加えられたとき破壊/変形が抑制される針状体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の針状体は、基板の突起部を備えた面とは逆側の面に突起部を保護するための保護層を備えたことを特徴とする。本発明の構成によれば、基板の突起部を備えた面とは逆側の面に突起部を保護するための保護層を備えることにより、針状体同士を積層させた状態で保持することが出来る。このとき、突起部は保護層に覆われた状態であるため、針状体先端部である突起部の破壊/変形を抑制することが可能となる。また、針状体同士を積層させることにより、保管スペースを低減できるという効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な針状体に関する。また、前記針状体を製造するのに適した、針状体の製造方法、針状体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生理活性物質を生体内に投与する方法として、微細な針状体を用いて経皮投与する方法が注目を集めている。微細な針状体を用いてバリア性の高い角質層を穿孔して生理活性物質の通過経路を形成することで、一般的な経皮投与に比べて高い生理活性物質浸透効率を得ることが可能である。このとき、微細な針状体が角質層を貫通し、毛細血管や神経まで到達しないように設計することで、使用時に出血や痛みを伴わないようにすることが出来る。
【0003】
上記経皮投与の目的で微細な針状体を用いる場合、微細な針状体は、皮膚を穿孔するための十分な細さ、および先端角、皮膚の最外層である角質層を貫通し、かつ神経層へ到達しない長さ、を有していることが望ましく、具体的には、針状体の直径は数μmから100μm程度、針状体の先端は先鋭で、その角度は30度以下、針状体の長さは数十μmから数百μm程度、であることが望ましいとされている。
【0004】
微細な針状体を構成する材料としては、仮に破損した針状体が体内に残留した場合でも、人体に悪影響を及ぼさない材料であることが望ましく、材料としては医療用シリコン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン等の生体適合性材料が有望視されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、上述した微細な針状体を製造する方法として、X線リソグラフィにより針状体の原版を作製し、原版から複製版を作り、転写加工成形を行う製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
また、機械加工により針状体の原版を作製し、原版から複製版を作り、転写加工成形を行う製造方法が提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2005−21677号公報
【特許文献2】特開2005−246595号公報
【特許文献3】特表2006−513811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
製造工程や運搬工程などにおいて、外部から力が加えられた場合、微細な針状体が破壊/変形するという問題がある。このとき、特に、機械的強度の乏しい針状体先端部である突起部の破壊/変形が起こりやすい。
【0008】
そこで、本発明は上述の問題を解決するためになされたものであり、外部から力が加えられたとき破壊/変形が抑制される針状体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の本発明は、微細な突起部を有する針状体であって、基板と、前記基板上の突起部と、前記基板の前記突起部を備えた面とは逆側の面に前記突起部を保護するための保護層と、を備えたことを特徴とする針状体である。
【0010】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の針状体であって、保護層の厚みは突起部の長さよりも大きいことを特徴とする針状体である。
【0011】
請求項3に記載の本発明は、請求項1または2のいずれかに記載の針状体であって、少なくとも突起部は、生体適合性を備えた材料により形成されることを特徴とする針状体である。
【0012】
請求項4に記載の本発明は、請求項1から3のいずれかに記載の針状体であって、保護層は殺菌または抗菌作用を有することを特徴とする針状体である。
【0013】
請求項5に記載の本発明は、請求項1から4のいずれかに記載の針状体であって、複数の基板と保護層とが積層されていることを特徴とした針状体である。
【0014】
請求項6に記載の本発明は、請求項5に記載の針状体であって、基板の突起部を備えた面に対して逆側の面と保護層との接着強度よりも、積層時に対向する基板の突起部を備えた面と保護層との接着強度が大きいことを特徴とする針状体である。
【0015】
請求項7に記載の本発明は、請求項1から6のいずれかに記載の針状体であって、基板はシート状の基板であることを特徴とした針状体である。
【0016】
請求項8に記載の本発明は、請求項7に記載の針状体であって、基板と、保護層とがロール状に積層されていることを特徴とする針状体である。
【0017】
請求項9に記載の本発明は、微細な突起部を有する針状体の製造方法であって、基板を用意する工程と、前記基板に突起部の形状を形成する工程と、前記基板に保護層を積層する工程と、を備えたことを特徴とする針状体の製造方法である。
【0018】
請求項10に記載の本発明は、請求項9に記載の針状体の製造方法であって、基板はシート状の基板であり、各工程は、ロール・ツー・ロール方式により連続的に行われることを特徴とする針状体の製造方法である。
【0019】
請求項11に記載の本発明は、シリンダーにシート状の基板がロール状に積層された基板供給部と、シリンダーにシート状の保護層がロール状に積層された保護層供給部と、前記基板供給部から流れてきた基板に突起部の形状を転写する形状転写部と、前記基板供給部から流れてきた基板と保護層供給部から流れてきた保護層とを貼り合わせる貼り合わせ部と、前記貼り合わせ部から流れてきたシート状の針状体をロール状に巻き取る針状体巻取り部と、を備えたことを特徴とする針状体製造装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の針状体は、基板の突起部を備えた面とは逆側の面に突起部を保護するための保護層を備えたことを特徴とする。
本発明の構成によれば、基板の突起部を備えた面とは逆側の面に突起部を保護するための保護層を備えることにより、針状体同士を積層させた状態で保持することが出来る。このとき、突起部は保護層に覆われた状態であるため、針状体先端部である突起部の破壊/変形を抑制することが可能となる。また、針状体同士を積層させることにより、保管スペースを軽減できるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、具体的に本発明の針状体について説明を行う。
本発明の針状体は、
基板と、
前記基板上の突起部と、
前記基板の前記突起部を備えた面とは逆側の面に前記突起部を保護するための保護層と、
を備える。
【0022】
図1は本発明の実施形態の一例を示す図である。平板状の基板2上に、微細な突起部1が複数配列されており、基板2の面のうち突起部1が形成される面の裏面に、保護層3が形成される。図1は本発明の実施形態の一例を示したものであり、突起部1の形状や配列、基板の形状、保護層の形状などは図示された形態に限られるものではない。
【0023】
<基板>
基板は突起部を保持するのに充分な機械特性を備えていれば、特に制限は無い。例えば、金属や無機材料、有機材料などを用いて良い。
針状体を生体皮膚に対して適用する場合、基板は生体適合性と生分解性を有していることが好ましい。生体適合性と生分解性を有する材料としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリアミノ酸、マルトース、デキストランなどが挙げられる。
特に、基板と突起部とを同一の材料により一体成形する場合、基板は生体適合性と生分解性を有していることが好ましい。
【0024】
また、基板は、シート状の基板であることが好ましい。シート状の基板を用いることにより、基板をシリンダーにロール状に積層した状態で保管することが出来、後述するように、保護層の貼り合わせ、突起部の形成、製造された針状体の巻取りなどの工程をロール・ツー・ロール方式により連続的に行うことが出来る。
【0025】
<突起部>
突起部は、用途によりその形状を自由に設計してよい。例えば、生理活性物質の経皮吸収を促進する目的や、経皮的に生体内の物質を生体外へ取り出す目的の場合、皮膚穿刺性能の観点からは、針状体の先端が先鋭な概錘形状であって、根元幅は数μmから数100μm、長さは数十μmから数百μm程度であり、針状体側壁には括れや段差が無いことが望ましい。
【0026】
また、突起部は基板と別種の材料を用いて基板に形成したり、基板を加工することにより基板と一体成形したり、しても良い。
【0027】
また、少なくとも突起部は、生体適合性を備えた材料により形成されることが好ましい。生体適合性を備えた材料を用いることにより、生体皮膚への適用時に針状体が破損して、その一部が生体内に取り残されても、生体への影響を低減することが出来る。生体適合性を備えた材料としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリアミノ酸、マルトース、デキストランなどの生体適合性と生分解性を有する有機高分子などが挙げられる。このような、生体適合性と生分解性を有する有機高分子は金属材料などと比べて機械的強度が低いことが知られており、本発明の針状体先端部である突起部の破壊/変形を抑制することが可能となるという効果は特に有効である。
【0028】
<保護層>
保護層は、基板の突起部を備えた面とは逆側の面に、突起部を保護するために設けられる。
【0029】
保護層は、突起部と接触した際に柔軟に変形し、針状体に過剰な力を加えて針状体の変形や破損を引き起こすことの無い材質が好ましく、軟質の材料を好適に用いることができる。
ここで、軟質の材料としては、例えば、発泡ポリマー、ハイドロポリマー、ハイドロコロイド、ハイドロジェル、ゴム、アルギン酸塩等を好適に用いることが出来るがこれらに限定されるものではない。
【0030】
また、保護層の厚みは突起部の長さよりも大きいことが好ましい。保護層の厚みは突起部の長さよりも大きくすることにより、積層に際して、保護層が突起部を備えた側の基板と接触しても、突起部を保護層内部に保持することが出来る。
【0031】
また、保護層は殺菌または抗菌作用を有することが好ましい。保護層が殺菌または抗菌作用を有することにより、針状体を積層して保持するとき、針状体を滅菌状態に維持することが出来る。このため、製造工程中や保管運搬中において、針状体が汚染されることを抑制することが出来る。
【0032】
また、保護層は、針状体を構成する材質や針状体の形状、および針状体が積層される際に針状体へかかる荷重などの条件より、その硬度を決定することが好ましい。例えば、針状体の突起部に生体皮膚に対して適用するのに適した材質や形状を用いる場合、保護層の硬度は80度以下が好ましく、特に50度以下がより好ましい。
【0033】
本発明の針状体は、複数の基板と保護層とが積層され、針状体同士が互いに積層されて保持することが好ましい。本発明の針状体は、基板の突起部を備えた面とは逆側の面に突起部を保護するための保護層を備えているため、積層された状態で保持することが出来る。このとき、突起部は保護層に覆われた状態であるため、針状体先端部である突起部の破壊/変形を抑制することが可能となる。また、針状体同士を積層させることにより、保管スペースを軽減できるという効果を有する。
【0034】
また、基板の突起部を備えた面に対して逆側の面と保護層との接着強度よりも、積層時に対向する基板の突起部を備えた面と保護層との接着強度が大きいことが好ましい。
基板の突起部を備えた面に対して逆側の面と保護層との接着強度よりも、積層時に対向する基板の突起部を備えた面と保護層との接着強度が小さい場合、分離された個々の針状体表面は大気に曝されるため、分離後には異物や微生物による汚染に注意が必要となる。
基板の突起部を備えた面に対して逆側の面と保護層との接着強度よりも、積層時に対向する基板の突起部を備えた面と保護層との接着強度を大きくすることにより、積層した針状体群を個々の針状体に分離する際に、個々の針状体裏面に形成されていた保護層が、対向する針状体表面側に付着した状態で分離される。このため、針状体表面側に保護層が残留するので、個々に分離された針状体であっても、保護層により針状体表面を異物や微生物による汚染を回避することが可能となる。
【0035】
また、本発明による針状体を積層する場合、最上面に位置する針状体に対して、基板の突起部を形成した側に別途保護層による被覆を施しても良い。これにより、積層した針状体群の最上面に位置する針状体であっても保護層で覆うことが出来る。(図6、図7参照)。
【0036】
本発明による保護層は、針状体と一体のまま皮膚に適用するものであるが、必要に応じて保護層のみを剥離してもよい。例えば、本発明の針状体を別の支持材で保持する場合や、アプリケータに適用する場合などは、前記保護層を剥離した後に針状体を使用しても良い。
【0037】
また、シート状の基板を用いた針状体を積層する場合、基板と保護層とがロール状に積層されていることが好ましい。シート状の基板を用いた場合、ロール・ツー・ロール方式により連続的に針状体を製造することが出来、製造された針状体はシリンダーにロール状に積層されて保持される。このとき、本発明の針状体は基板の突起部を備えた面とは逆側の面に突起部を保護するための保護層を備えることにより、シリンダーに積層されるにあたり、突起部が破損されることを抑制することが出来る。
【0038】
以下、具体的に本発明の針状体の製造方法について説明を行う。
本発明の針状体の製造方法は、
基板を用意する工程と、
前記基板に突起部の形状を形成する工程と、
前記基板に保護層を積層する工程と、
を備える。
【0039】
<基板を用意する工程>
上述した内容に適する基板を用意すれば良い。
【0040】
<基板に突起部の形状を形成する工程>
次に、基板に突起部の形状を形成する。基板に突起部の形状を形成する方法としては、形状に応じて適宜公知の製造方法を用いて良い。
例えば、基板に直接微細加工技術を用いて形成しても良い。
例えば、微細加工技術によって母型を形成し、該母型を用いた転写成形によって形成しても良い。
例えば、微細加工技術によって母型を形成し、該母型から複製版を作製し、この複製版と成形材料とを用いた転写成形によって形成しても良い。
ここで、微細加工技術としては、例えば、リソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法、サンドブラスト法、レーザー加工法、精密機械加工法などを用いても良い。
また、転写成形法としては、例えば、射出成形法、押し出し成形法、インプリント法、キャスティング法などを用いても良い。
【0041】
<基板に保護層を積層する工程>
次に、基板に保護層を積層する。基板と保護層の接着には、基板と保護層の材質や形状に応じて適宜公知の方法を用いて良い。このとき、接着技術としては、例えば、接着剤による接着、熱溶融による接着、接着面表面処理を利用した接着などを用いてもよい。保護層が粘着性を有する場合であれば、粘着性を利用した接触接着を用いてもよい。
【0042】
基板に保護層を積層する工程と、基板に突起部の形状を形成する工程とは、相前後して行ってよく、基板に保護層を積層する工程の後工程に基板に突起部の形状を形成する工程を行ったり、基板に保護層を積層する工程の前工程に基板に突起部の形状を形成する工程を行ったりしてもよい。
【0043】
また、基板はシート状の基板であり、上記各工程は、ロール・ツー・ロール方式により連続的に行われることが好ましい。本発明の針状体は、基板の突起部を備えた面とは逆側の面に突起部を保護するための保護層を備えているため、積層された状態で保持するのに適しており、特に、ロール・ツー・ロール方式により連続的に生産するのに好適である。
【0044】
また、ロール・ツー・ロール方式により針状体を生産する場合、基板に突起部の形状を形成する工程において、特に、突起部を凹凸反転させた母型を作製し、この母型を複数多面付けした複製版を作製して、ロール・ツー・ロール方式の転写成形法を適用することが好ましい。ロール・ツー・ロール方式の転写成形法を適用することにより、連続的に突起部の形状を転写することが出来、生産性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0045】
また、ロール・ツー・ロール方式により針状体を生産する場合、基板に保護層を積層する工程において、シート状の基板とシート状の保護層とを互いにラミネートすることが好ましい。ここで、ラミネート方法としては、接着剤による接着、熱溶融による接着、接着面表面処理を利用した接着などを用いてもよい。
【0046】
以上より、本発明の針状体の製造方法を実施することが出来る。
【0047】
以下、本発明の針状体の製造方法に適した針状体製造装置の説明を行う。
本発明の針状体製造装置は、
シリンダーにシート状の基板がロール状に積層された基板供給部と、
シリンダーにシート状の保護層がロール状に積層された保護層供給部と、
前記基板供給部から流れてきた基板に突起部の形状を転写する形状転写部と、
前記基板供給部から流れてきた基板と保護層供給部から流れてきた保護層とを貼り合わせる貼り合わせ部と、
前記貼り合わせ部から流れてきたシート状の針状体をロール状に巻き取る針状体巻取り部と、
を備える。
【0048】
基板供給部/保護層供給部はそれぞれシート状の基板および保護層をシリンダーにロール状に保持する部位であり、加工するにしたがって順次、基板および保護層を送り出す機構を備えていればよい。
【0049】
形状転写部は、基板に突起部を形成する部位である。例えば、複製版を作り転写加工成形を行って突起部を形成する場合、複製版を基板に接触させる部位であればよい。
【0050】
貼り合わせ部は、基板供給部から流れてきた基板と保護層供給部から流れてきた保護層とを貼り合わせる部位である。選択した基板/保護層に応じた貼り合わせ加工を行うことが出来ればよく、例えば、接着剤による接着、熱溶融による接着、接着面表面処理を利用した接着などを用いてよい。
【0051】
形状転写部および貼り合わせ部は、装置内部で相前後して設置してよく、形状転写部の後工程に貼り合わせ部を設置したり、形状転写部の前工程に貼り合わせ部を設置したりしてもよい。
【0052】
針状体巻取り部は、貼り合わせ部から流れてきたシート状の針状体をシリンダーに巻き取り、針状体をロール状に積層された状態で保持する部位である。本発明の針状体は、基板の突起部を備えた面とは逆側の面に突起部を保護するための保護層を備えているため、ロール状に積層された状態で保持するのに適しており、ロール・ツー・ロール方式により連続的に生産するのに特に好適である。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において変更を加えることが可能であるものとする。
【実施例1】
【0054】
以下、本発明の針状体の製造方法の実施の一例として、具体的に図2を用いながら説明を行う。当然のことながら、本発明の針状体の製造方法は下記実施例に限定されず、類推できる他の製造方法をも含むものとする。また、本発明の針状体は、下記の実施例にて作製された針状体に限定されるものではない。
【0055】
<金型の作製>
まず、精密機械加工を用いて、シリコン基板に、正四角錐の突起部(高さ:150μm、底面:60μm×60μm)が、1mm間隔で、10列10行の格子状に100本配列した針状体を形成した。100本の突起部は、一辺が約9mmの正方形領域内に配置された。
【0056】
次に、前記シリコン基板で形成された針状体に、スパッタ法によりニッケル導電層を100nmの厚さに形成した。この導電層は、続いて行う電解メッキにおけるシード層となる。
次に、前記シード層上に、電解メッキ法によってニッケル膜を500μmの厚さに形成した。
次に、90℃に加熱した重量パーセント濃度30%の水酸化カリウム水溶液によって前記シリコン基板をウェットエッチングして完全に除去することにより、図2(a)に示すニッケルから成る針状体の金型6を作製した。
【0057】
<針状体の転写成形>
次に、図2(a)に示すように、ポリ乳酸からなる厚さ約400μmのシート状針状体基材7と前記金型6を用い、熱インプリント法によってポリ乳酸への針状体転写成形を実施した。
次に、針状体機材7から金型6を剥離して、図2(c)に示す突起部1と基板2とから成る、ポリ乳酸製の針状体4が得られた。針状体4は、一辺が約18mmの正方形の基板2上に、正四角錐(高さ:150μm、底面:60μm×60μm)の突起部1が、1mm間隔で、10列10行の格子状に100本配列した形態で作製された。100本の突起部は、一辺が約18mmの正方形の基板2上のほぼ中心の領域に位置する、一辺が約9mmの正方形領域内に配置された。
【0058】
<保護層の接着>
次に、硬度が30度、厚さ1mmのウレタンゴムシートを準備し、前記針状体4の基板と同じ一辺が約18mmの正方形に切り出して、保護層3とした。 次に、前記針状体4と前記保護層3が重なるように位置を合わせ、針状体4の突起部が形成された面の裏面と、保護層3の一方の面を、アクリル樹脂系接着剤を用いて貼りあわせて接着した。
以上により、図2(d)に示す、本発明による針状体5が作製された。突起部1の高さが150μm、保護層3の厚さが1mmであることから、この場合、保護層の厚さは突起部の高さの約6.7倍に相当する。
【実施例2】
【0059】
以下、本発明の針状体の一例として、具体的に図3から図7を用いながら説明を行う。
【0060】
まず、実施例1と同様の方法によって、針状体を複数作製した。その際、一部は保護層3の接着工程を実施せずに、保護層の無い針状体4として作製し、残りは保護層3の接着工程を実施して保護層を有する針状体5とした。
【0061】
<保護層の無い針状体の積層>
まず、保護層の無い針状体4を、図4に示す通り突起部が上側になるようにして2枚積層し、積層された針状体8を準備した。次に、図3に示す荷重試験機を用い、試料台9の上に前記積層された針状体8を設置し、積層された針状体8の上から荷重試験機の圧子10で所定の荷重11を加えた。その後、積層された針状体8を、2枚の保護層の無い針状体4に分離した。次いで、分離した保護層の無い針状体4を、光学顕微鏡と走査電子顕微鏡によって観察し、突起部の破損状況を調べた。
【0062】
荷重11を1.6MPaとした場合、2枚の保護層の無い針状体4の突起部は100本全てが破損していた。破損の状況は、主に、突起部の先端が折れた場合と、折れずに変形した場合の2通りに分類された。
次に、同様の荷重試験を、荷重11を減少させて実施した。荷重11は、0.8MPa、0.4MPa、0.2MPa、0.1MPaの4通りとした。その結果、荷重11の値が小さくなるに従って、突起部の破損程度が軽減される傾向があったが、いずれの荷重値でも、2枚の保護層の無い針状体4の突起部全てに破損が見られた。
【0063】
次に、保護層の無い針状体4を、図4に示す通り2枚積層し、積層された針状体8を準備し、荷重をかけずに、積層された針状体8を、2枚の保護層の無い針状体4に分離した。次いで、光学顕微鏡と走査電子顕微鏡によって、突起部の破損状況を調べた。その結果、積層された針状体8のうち、上側に位置した針状体4の突起部には破損は無かったが、一方で下側に位置した針状体4の突起部の一部には破損が見られた。以上の結果から、保護層の無い針状体4を重ねた場合、荷重を大きくする程に突起部の破損の程度は大きくなり、また、特に荷重を加えない場合であっても、積層された針状体8のうち、下側に位置した針状体4の突起部は破損することを確認した。
【0064】
<保護層を有する針状体の積層>
次に、本発明による保護層を有する針状体5の積層を実施した。
まず、図5に示す通り、保護層を有する針状体5を、突起部が上側になるようにして2枚積層し、積層された針状体8を準備した。
次に、図3に示す荷重試験機を用い、試料台9の上に前記積層された針状体8を設置し、積層された針状体8の上から荷重試験機の圧子10で所定の荷重11を加えた。荷重11は、1.6MPa、0.8MPa、0.4MPa、0.2MPa、0.1MPaの5通りとして、5つの積層された針状体8について各々荷重試験を実施した。その後、積層された針状体8を2枚の保護層を有する針状体5に分離し、光学顕微鏡と走査電子顕微鏡によって観察して、突起部の破損状況を調べた。
【0065】
その結果、全ての荷重条件において、積層された針状体8のうち、上側に位置した保護層を有する針状体5の突起部全てに破損が確認された。一方で下側に位置した保護層を有する針状体5の突起部には全く破損が見られなかった。荷重試験において、上側に位置した保護層を有する針状体5の突起部は荷重試験機の圧子10に接触しており、一方、下側に保護層を有する針状体5の突起部は、上側に位置した保護層を有する針状体5の保護層に接触していた。
以上の結果から、保護層を有する針状体5を重ねた場合、荷重を最大1.6MPaかけても、上側に位置した保護層を有する針状体5の保護層の効果によって、下側に位置した保護層を有する針状体5の突起部が破損しないことが確認された。
【0066】
次に、図6に示す通り、保護層を有する針状体5を突起部が上側になるようにして2枚積層し、その上に保護層3を配置して、積層された針状体8を準備した。次に、図3に示す荷重試験機を用い、試料台9の上に前記積層された針状体8を設置し、積層された針状体8の上から荷重試験機の圧子10で所定の荷重11を加えた。荷重11は、1.6MPa、0.8MPa、0.4MPa、0.2MPa、0.1MPaの5通りとして、5つの積層された針状体8について各々荷重試験を実施した。その後、積層された針状体8を2枚の保護層を有する針状体5に分離し、光学顕微鏡と走査電子顕微鏡によって観察して、突起部の破損状況を調べた。その結果、上側に位置した保護層を有する針状体5、および下側に位置した保護層を有する針状体5の全ての突起部が破損していないことを確認した。このことから、積層した針状体8の最上面に位置する保護層を有する針状体5の突起部上に保護層3を配置することで、荷重を最大1.6MPaかけても、最上面の突起部の破損を抑制可能であることが確認された。
【0067】
また、図7に示す通り、保護層を有する針状体5を突起部が上側になるようにして5枚積層し、その上に保護層3を配置し、同様の荷重試験を実施し、荷重を最大で1.6MPaかけても、保護層を有する針状体5の突起部全てが破損しなかったことを確認した。
【実施例3】
【0068】
<汚染防止効果>
まず、実施例1と同様の方法によって、保護層を有する針状体5を複数作製し、図5に示す通り、保護層を有する針状体5を、突起部が上側になるようにして2枚積層し、積層された針状体8を準備した。次に、蛍光粒子を分散した水系の薬液を準備し、積層された針状体8の全面にふりかけた後に、乾燥させて蛍光粒子を積層された針状体8表面に付着させた。その後、積層された針状体8を2枚の保護層を有する針状体5に分離し、蛍光粒子の励起光を照射しながら光学顕微鏡で2枚の針状体5表面を観察したところ、積層時に上に位置した、保護層を有する針状体5表面には蛍光粒子の発光が多数確認されたが、一方で、積層時に下に位置した、保護層を有する針状体5表面には蛍光粒子の発光が全く確認されなかった。この結果から、保護層を有する針状体を積層することで、針状体が外部からの汚染から保護される効果が得られることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の針状体は、経皮投与のための針状体のみならず、医療、創薬、化粧品、MEMSデバイスなど様々な分野に用いられる微細な針状体として活用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の針状体の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態による針状体製造工程の一例を経時的に説明するための概略断面図である。
【図3】本発明の実施例における、荷重試験方法の一例を示す概略断面図である。
【図4】針状体積層の一例を説明するための概略断面図である。
【図5】本発明の実施形態における針状体積層の一例を説明するための概略断面図である。
【図6】本発明の実施形態における針状体積層の一例を説明するための概略断面図である。
【図7】本発明の実施形態における針状体積層の一例を説明するための概略断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1……突起部、
2……基板、
3……保護層、
4……針状体、
5……保護層を有する針状体、
6……針状体基材、
7……金型、
8……試料台、
9……積層された針状体、
10……圧子、
11……荷重、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な突起部を有する針状体であって、
基板と、
前記基板上の突起部と、
前記基板の前記突起部を備えた面とは逆側の面に前記突起部を保護するための保護層と、
を備えたことを特徴とする針状体。
【請求項2】
請求項1に記載の針状体であって、
保護層の厚みは突起部の長さよりも大きいこと
を特徴とする針状体。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の針状体であって、
少なくとも突起部は、生体適合性を備えた材料により形成されること
を特徴とする針状体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の針状体であって、
保護層は殺菌または抗菌作用を有すること
を特徴とする針状体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の針状体であって、
複数の基板と保護層とが積層されていること
を特徴とした針状体。
【請求項6】
請求項5に記載の針状体であって、
基板の突起部を備えた面に対して逆側の面と保護層との接着強度よりも、積層時に対向する基板の突起部を備えた面と保護層との接着強度が大きいこと
を特徴とする針状体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の針状体であって、
基板はシート状の基板であること
を特徴とした針状体。
【請求項8】
請求項7に記載の針状体であって、
基板と保護層とがロール状に積層されていること
を特徴とする針状体。
【請求項9】
微細な突起部を有する針状体の製造方法であって、
基板を用意する工程と、
前記基板に突起部の形状を形成する工程と、
前記基板に保護層を積層する工程と、
を備えたことを特徴とする針状体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の針状体の製造方法であって、
基板はシート状の基板であり、
各工程は、ロール・ツー・ロール方式により連続的に行われること
を特徴とする針状体の製造方法。
【請求項11】
シリンダーにシート状の基板がロール状に積層された基板供給部と、
シリンダーにシート状の保護層がロール状に積層された保護層供給部と、
前記基板供給部から流れてきた基板に突起部の形状を転写する形状転写部と、
前記基板供給部から流れてきた基板と保護層供給部から流れてきた保護層とを貼り合わせる貼り合わせ部と、
前記貼り合わせ部から流れてきたシート状の針状体をロール状に巻き取る針状体巻取り部と、
を備えたことを特徴とする針状体製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−45128(P2009−45128A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211704(P2007−211704)
【出願日】平成19年8月15日(2007.8.15)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】