針状体および針状体製造方法
【課題】突起部が形成されたアレイ領域外に薬液が過剰に流出することを抑制できる針状体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の針状体は、基板に窪みを有し、突起部が窪みの部位に形成されていることを特徴とする。本発明の構成によれば、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みにより、窪み内に薬液を留めることが出来、突起部が形成されたアレイ領域内に薬液を留めることが出来る。よって、突起部が形成されたアレイ領域外に薬液が過剰に流出することを抑制できる突起部を提供することが可能となる。
【解決手段】本発明の針状体は、基板に窪みを有し、突起部が窪みの部位に形成されていることを特徴とする。本発明の構成によれば、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みにより、窪み内に薬液を留めることが出来、突起部が形成されたアレイ領域内に薬液を留めることが出来る。よって、突起部が形成されたアレイ領域外に薬液が過剰に流出することを抑制できる突起部を提供することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な構造体である針状体に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚上から薬剤を浸透させ体内に薬剤を投与する方法である経皮吸収法は、人体に痛みを与えることなく簡便に薬剤を投与することが出来る方法として用いられているが、薬剤の種類によっては経皮吸収法で投与が困難な薬剤が存在する。これらの薬剤を効率よく体内に吸収させる方法として、ミクロンオーダーの微細な針状体を用いて皮膚を穿孔し、皮膚内に直接薬剤を投与する方法が注目されている。この方法によれば、投薬用の特別な機器を用いることなく、簡便に薬剤を皮下投薬することが可能となる(特許文献1参照)。
【0003】
この際に用いる微細な針状体の形状は、皮膚を穿孔するための十分な細さと先端角、および皮下に薬液を浸透させるための十分な長さを有していることが必要とされ、突起部の直径は数μmから数百μm、突起部の長さは皮膚の最外層である角質層を貫通し、かつ神経層へ到達しない長さ、具体的には数十μmから数百μm程度のものであることが望ましいとされている。
【0004】
より具体的には、最外皮層である角質層を貫通することが求められる。角質層の厚さは人体の部位によっても若干異なるが、平均して20μm程度である。また、角質層の下にはおよそ200μmから350μm程度の厚さの表皮が存在し、さらにその下層には毛細血管が張りめぐる真皮層が存在する。このため、角質層を貫通させ薬液を浸透させるためには少なくとも20μm以上の針が必要となる。また、採血を目的とする針状体を製造する場合には、上記の皮膚の構成から少なくとも350μm以上の高さの突起部が必要となる。
【0005】
また、針状体を構成する材料としては、仮に破損した針状体が体内に残留した場合でも、人体に悪影響を及ぼさない材料であることが必要であり、この材料としては医療用シリコーン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン等の生体適合樹脂が有望視されている(特許文献2参照)。
【0006】
このような微細構造を低コストかつ大量に製造するためには、射出成形法、インプリント法、キャスティング法等に代表される転写成形法が有効であるが、いずれの方法においても成形を行うためには所望の形状を凹凸反転させた原型が必要であり、突起部のようなアスペクト比(構造体の幅に対する高さ、もしくは深さの比率)が高く、先端部の先鋭化が必要である構造体を形成するためには、その製造工程が非常に複雑となる。
【0007】
例えば、微細な針状体を製造する方法として、X線リソグラフィにより突起部の原版を作製し、原版から複製版を作り、転写成形加工を行う製造方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
また、機械加工により針状体の原版を作製し、原版から複製版を作り、転写成形加工を行う製造方法が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,183,434号明細書
【特許文献2】特開2005−21677号公報
【特許文献3】特開2005−246595号公報
【特許文献4】特表2006−513811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
針状体に薬液を塗布する際、薬液が突起部が形成されたアレイ領域外に流出することがある。このため、厳密に薬液塗布量を決定する事が出来ず、処方に沿った薬液の投与が困難となるという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、針状体が形成されたアレイ領域外に薬液が過剰に流出することを抑制できる針状体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の本発明は、基板と、前記基板上に設けた複数の突起部と、を備え、前記基板は基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを有し、前記突起部は前記窪みの部位に形成されていることを特徴とする針状体である。
【0013】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の突起部であって、複数の突起部について、それぞれ突起部の最先端部が同一平面に位置することを特徴とする針状体である。
【0014】
請求項3に記載の本発明は、請求項1または2のいずれかに記載の突起部であって、少なくとも、突起部は生体適合材料よりなることを特徴とする針状体である。
【0015】
請求項4に記載の本発明は、基板に複数の突起部を形成する工程と、前記複数の突起部同士の間に溝を形成することにより基板に窪みを形成する工程と、を備え、前記溝は、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる溝であることを特徴とする針状体製造方法である。
【0016】
請求項5に記載の本発明は、請求項4に記載の突起部製造方法であって、ダイシングブレードを用いて、複数の突起部同士の間に溝を形成することを特徴とする針状体製造方法である。
【0017】
請求項6に記載の本発明は、請求項4または5のいずれかに記載の突起部の製造方法で作製した突起部を母型とし、転写成形加工を行うことを特徴とする針状体製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の針状体は、基板に窪みを有し、突起部が窪みの部位に形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の構成によれば、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みにより、窪み内に薬液を留めることが出来、突起部が形成されたアレイ領域内に薬液を留めることが出来る。
【0020】
よって、突起部が形成されたアレイ領域外に薬液が過剰に流出することを抑制できる突起部を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の針状体の製造工程を経時的に説明するための概略斜視図である。
【図2】本発明の針状体の転写工程を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の針状体について説明を行う。
【0023】
本発明の針状体は、
基板と、
前記基板上に設けた複数の突起部と、を備え、
前記基板は基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを有し、
前記突起部は前記窪みの部位に形成されている。
【0024】
<基板>
基板は突起部を保持するのに充分な機械特性を備えていれば、特に制限は無い。例えば、金属や無機材料、有機材料などを用いて良い。
【0025】
針状体を生体皮膚に対して適用する場合、基板は生体適合性と生分解性を有していることが好ましい。生体適合性と生分解性を有する材料としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリアミノ酸、マルトース、デキストランなどが挙げられる。特に、基板と突起部とを同一の材料により一体成形する場合、基板は生体適合性と生分解性を有していることが好ましい。
【0026】
また、本発明の基板は、前記基板は基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを備える。基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みにより、窪み内に薬液を留めることが出来る。
【0027】
<突起部>
突起部は、基板の窪みが形成された部位に複数設ける。突起部は、用途によりその形状を自由に設計してよい。例えば、生理活性物質の経皮吸収を促進する目的や、経皮的に生体内の物質を生体外へ取り出す目的の場合、皮膚穿刺性能の観点からは、針状体の先端が先鋭な概錐形状であって、根元幅は数μmから数100μm、長さは数十μmから数百μm程度であることが望ましい。
【0028】
また、突起部は基板と別種の材料を用いて基板に形成したり、基板を加工することにより基板と一体成形したり、しても良い。
【0029】
また、複数の突起部について、それぞれ突起部の最先端部が同一平面に位置することが好ましい。
【0030】
本発明の針状体では、1)基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを有し、2)突起部は前記窪みの部位に形成されている、ため、3)突起部の最先端部が同一平面に位置する場合、必然的に、基板端部の突起部のアスペクト比は、基板中央部のアスペクト比よりも小さくなる(例えば、図2(e)を参照)。
【0031】
本発明の発明者は鋭意検討の結果、a)針状体を皮膚へ穿刺する場合、皮膚の伸縮性により、配列したアレイの外周部の突起部に応力が集中しやすいため、外周部に位置する突起部ほど変形しやすいこと、b)突起部のアスペクト比が小さいほど、外部からの応力に対して変形が少ないこと、を見出した。
【0032】
よって、1)基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを有し、2)突起部は前記窪みの部位に形成され、3)突起部の最先端部が同一平面に位置すること、により、A)突起部は先端部が同一平面内に存在するため、皮膚への穿刺時にそれぞれの突起部に均等に圧力がかかり、各突起部への負荷を低減する事が出来る、B)外周部に位置する突起部のアスペクト比を小さくすることにより、皮膚への穿刺時に皮膚の伸縮性によるアレイ領域外周部の突起部の破損を抑制することが出来る、という効果を同時に奏するという格段の効果を示す。
【0033】
また、少なくとも、突起部は生体適合材料よりなることが好ましい。生体適合性を備えた材料を用いることにより、生体皮膚への適用時に針状体が破損して、その一部が生体内に取り残されても、生体への影響を低減することが出来る。生体適合性を備えた材料としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリアミノ酸、マルトース、デキストランなどの生体適合性と生分解性を有する有機高分子などが挙げられる。
【0034】
以下、本発明の針状体の製造に適した針状体製造方法の一例について具体的に、図1を用いながら説明を行う。
【0035】
本発明の針状体製造方法は、
基板に複数の突起部を形成する工程と、
前記複数の突起部同士の間に、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる溝を、形成することにより基板に窪みを形成する工程と、を備える。
【0036】
<基板上に突起部を形成する工程(図1(a))>
基板10上に、アレイ状に突起部11を形成する。突起部の形成方法は、微細加工方法を用いて、仕様に応じて形成して良い。ここで、微細加工方法としては、例えば、微細機械加工、エッチング加工、リソグラフィ加工などを用いても良い。
【0037】
<複数の突起部同士の間に溝を形成することにより基板に窪みを形成する工程(図1(b)〜1(c))>
次に、突起部アレイ領域において、複数の突起部同士の間に窪み13を形成する。このとき、形成する溝は、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなるように加工する。溝の加工方法としては、形成した突起部の寸法に応じて精度良く加工できる微細加工方法であれば良い。
【0038】
また、特に、ダイシングブレードを用いて、複数の突起部同士の間に溝を形成することが好ましい。図1(b)に示すようにダイシングブレード12の様な高速で回転する刃を基板面に押し当てて、溝を形成することにより、ダイシングブレードの円弧の曲率を利用する事によって、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる溝を好適に形成することが出来る。
【0039】
このとき、ダイシングブレードを押し当てる方向は、1方向のみに限らず、図1(c)の様に、形成した突起部の配列に応じて同様の処理を複数回施す事によって、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを有した針状体17を形成することが出来る。
【0040】
以上より、本発明の針状体の製造方法を実施することが出来る。なお、本発明の針状体の製造方法は上記実施の形態に限定されず、各工程において類推することのできる他の公知の方法をも含むものとする。
【0041】
また、本発明の針状体製造方法で作製した針状体を母型とし、転写成形加工を行うことが好ましい。一体成形された機械的強度の高い複製版を作製することにより、同一の複製版で多量の針状体を製造することが出来るため、生産コストを低くし、生産性を高めることが可能となる。また、転写材料は微細加工に対する加工特性を考慮することなく選択することが出来るため、特に、生体適合性材料により形成された針状体を好適に製造することが出来る。
【0042】
以下、具体的に図2を用いながら転写成形加工の実施の一例について説明を行う。
【0043】
<針状体から複製版を作製する工程(図2(a)〜(c))>
まず、針状体17に充填層14を形成し、充填層14を針状体17から剥離する事で凹型の複製版15を形成する。
【0044】
このとき、充填層の材料としては、特に制限されず、複製版として機能するだけの形状追従性、後述する転写成形加工における転写性、耐久性および離型性を考慮した材質を選択することが出来る。例えば、充填層としてニッケル、熱硬化性のシリコーン樹脂などを用いても良い。ニッケルを選択した場合、充填層の形成方法としては、メッキ法、PVD法、CVD法などが挙げられる。
【0045】
また、充填層と針状体の剥離方法としては、物理的な剥離力による剥離または選択性エッチング法などを用いることが出来る。
【0046】
<複製版を用いた転写成形加工(図2(d)〜(e))>
次に、複製版15に突起部材料16を充填する。
【0047】
突起部材料は特に制限されないが、生体適合性材料である医療用シリコーン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン、糖質等を用いることで、生体に適用可能な突起部を形成出来る。生体適合性材料を用いれば、微細な突起部が折れて、体内に取り残された場合も、無害であるという効果を奏する。
【0048】
また、突起部材料の充填方法についての制限は無いが、生産性の観点から、インプリント法、ホットエンボス法、射出成形法、押し出し成形法およびキャスティング法を好適に用いることが出来る。
【0049】
次に、突起部材料を複製版から離型し、転写成形された針状体を得る。
【0050】
このとき、複製版の剥離性を向上させるために、突起部材料の充填前に、複製版の表面上に離型効果を増すための離型層を形成してもよい(図示せず)。
【0051】
離型層としては、例えば広く知られているフッ素系の樹脂を用いることが出来る。
【0052】
また、離型層の形成方法としては、PVD法、CVD法、スピンコート法、ディップコート法等の薄膜形成手法を好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
<実施例1>
まず、基板として、厚さ725μmのシリコン基板を用意した。
【0054】
次に、80°の傾斜を持つダイジングブレードを用い、シリコン基板を碁盤目状に研削加工を行った。このとき、加工によって形成される突起部の高さを100μmとなるように研削加工を行った。
【0055】
次に、アレイ領域の突起部同士の間に、研削深さが233μmとなるように90°の角度を持つダイシングブレードを基板面に対して垂直に押し当てた。さらに、一度押し当てたダイシングブレードと垂直方向の向きにも同様の処理を行った。
【0056】
以上より、外周の4隅に位置する突起部の根元径が35μm、高さが100μm、また、中央部に位置する突起部の根元系が35μm、高さが333μmであり、外周部から中央部にかけてアスペクト比が段階的に大きくなる針状体を製造出来た。
【0057】
<実施例2>
実施例1で作製した突起部を版型とし、転写成形加工を行った。
【0058】
まず、突起部に充填層としてニッケルを電鋳法で形成した。メッキ浴にはスルファミン酸ニッケル溶液を用いた。60%スルファミン酸溶液を用い、浴温は45℃として5時間のメッキ処理により充填層を形成した。
【0059】
次に、版型であるシリコンの針状体に、25%KOH溶液を用いて80℃で4時間溶解処理を施し、複製版を作製した。
【0060】
次に、複製版に対し、インプリント法を用いて針状体の作製を行った。
【0061】
充填する突起部材料として、生体適合性材料であるポリ乳酸を用いた。
【0062】
以上より、生体適合性材料であるポリ乳酸から成る針状体を形成する事が出来た。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の針状体の製造方法は、医療のみならず、微細な突起部を必要とする様々な分野に適用可能であり、例えばMEMSデバイス、創薬、化粧品などに用いる微細な突起部の製造方法としても有用である。
【符号の説明】
【0064】
10……基板
11……突起部
12……ダイシングブレード
13……窪み
14……充填層
15……複製版
16……突起部材料
17……針状体
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な構造体である針状体に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚上から薬剤を浸透させ体内に薬剤を投与する方法である経皮吸収法は、人体に痛みを与えることなく簡便に薬剤を投与することが出来る方法として用いられているが、薬剤の種類によっては経皮吸収法で投与が困難な薬剤が存在する。これらの薬剤を効率よく体内に吸収させる方法として、ミクロンオーダーの微細な針状体を用いて皮膚を穿孔し、皮膚内に直接薬剤を投与する方法が注目されている。この方法によれば、投薬用の特別な機器を用いることなく、簡便に薬剤を皮下投薬することが可能となる(特許文献1参照)。
【0003】
この際に用いる微細な針状体の形状は、皮膚を穿孔するための十分な細さと先端角、および皮下に薬液を浸透させるための十分な長さを有していることが必要とされ、突起部の直径は数μmから数百μm、突起部の長さは皮膚の最外層である角質層を貫通し、かつ神経層へ到達しない長さ、具体的には数十μmから数百μm程度のものであることが望ましいとされている。
【0004】
より具体的には、最外皮層である角質層を貫通することが求められる。角質層の厚さは人体の部位によっても若干異なるが、平均して20μm程度である。また、角質層の下にはおよそ200μmから350μm程度の厚さの表皮が存在し、さらにその下層には毛細血管が張りめぐる真皮層が存在する。このため、角質層を貫通させ薬液を浸透させるためには少なくとも20μm以上の針が必要となる。また、採血を目的とする針状体を製造する場合には、上記の皮膚の構成から少なくとも350μm以上の高さの突起部が必要となる。
【0005】
また、針状体を構成する材料としては、仮に破損した針状体が体内に残留した場合でも、人体に悪影響を及ぼさない材料であることが必要であり、この材料としては医療用シリコーン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン等の生体適合樹脂が有望視されている(特許文献2参照)。
【0006】
このような微細構造を低コストかつ大量に製造するためには、射出成形法、インプリント法、キャスティング法等に代表される転写成形法が有効であるが、いずれの方法においても成形を行うためには所望の形状を凹凸反転させた原型が必要であり、突起部のようなアスペクト比(構造体の幅に対する高さ、もしくは深さの比率)が高く、先端部の先鋭化が必要である構造体を形成するためには、その製造工程が非常に複雑となる。
【0007】
例えば、微細な針状体を製造する方法として、X線リソグラフィにより突起部の原版を作製し、原版から複製版を作り、転写成形加工を行う製造方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
また、機械加工により針状体の原版を作製し、原版から複製版を作り、転写成形加工を行う製造方法が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,183,434号明細書
【特許文献2】特開2005−21677号公報
【特許文献3】特開2005−246595号公報
【特許文献4】特表2006−513811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
針状体に薬液を塗布する際、薬液が突起部が形成されたアレイ領域外に流出することがある。このため、厳密に薬液塗布量を決定する事が出来ず、処方に沿った薬液の投与が困難となるという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、針状体が形成されたアレイ領域外に薬液が過剰に流出することを抑制できる針状体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の本発明は、基板と、前記基板上に設けた複数の突起部と、を備え、前記基板は基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを有し、前記突起部は前記窪みの部位に形成されていることを特徴とする針状体である。
【0013】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の突起部であって、複数の突起部について、それぞれ突起部の最先端部が同一平面に位置することを特徴とする針状体である。
【0014】
請求項3に記載の本発明は、請求項1または2のいずれかに記載の突起部であって、少なくとも、突起部は生体適合材料よりなることを特徴とする針状体である。
【0015】
請求項4に記載の本発明は、基板に複数の突起部を形成する工程と、前記複数の突起部同士の間に溝を形成することにより基板に窪みを形成する工程と、を備え、前記溝は、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる溝であることを特徴とする針状体製造方法である。
【0016】
請求項5に記載の本発明は、請求項4に記載の突起部製造方法であって、ダイシングブレードを用いて、複数の突起部同士の間に溝を形成することを特徴とする針状体製造方法である。
【0017】
請求項6に記載の本発明は、請求項4または5のいずれかに記載の突起部の製造方法で作製した突起部を母型とし、転写成形加工を行うことを特徴とする針状体製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の針状体は、基板に窪みを有し、突起部が窪みの部位に形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の構成によれば、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みにより、窪み内に薬液を留めることが出来、突起部が形成されたアレイ領域内に薬液を留めることが出来る。
【0020】
よって、突起部が形成されたアレイ領域外に薬液が過剰に流出することを抑制できる突起部を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の針状体の製造工程を経時的に説明するための概略斜視図である。
【図2】本発明の針状体の転写工程を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の針状体について説明を行う。
【0023】
本発明の針状体は、
基板と、
前記基板上に設けた複数の突起部と、を備え、
前記基板は基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを有し、
前記突起部は前記窪みの部位に形成されている。
【0024】
<基板>
基板は突起部を保持するのに充分な機械特性を備えていれば、特に制限は無い。例えば、金属や無機材料、有機材料などを用いて良い。
【0025】
針状体を生体皮膚に対して適用する場合、基板は生体適合性と生分解性を有していることが好ましい。生体適合性と生分解性を有する材料としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリアミノ酸、マルトース、デキストランなどが挙げられる。特に、基板と突起部とを同一の材料により一体成形する場合、基板は生体適合性と生分解性を有していることが好ましい。
【0026】
また、本発明の基板は、前記基板は基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを備える。基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みにより、窪み内に薬液を留めることが出来る。
【0027】
<突起部>
突起部は、基板の窪みが形成された部位に複数設ける。突起部は、用途によりその形状を自由に設計してよい。例えば、生理活性物質の経皮吸収を促進する目的や、経皮的に生体内の物質を生体外へ取り出す目的の場合、皮膚穿刺性能の観点からは、針状体の先端が先鋭な概錐形状であって、根元幅は数μmから数100μm、長さは数十μmから数百μm程度であることが望ましい。
【0028】
また、突起部は基板と別種の材料を用いて基板に形成したり、基板を加工することにより基板と一体成形したり、しても良い。
【0029】
また、複数の突起部について、それぞれ突起部の最先端部が同一平面に位置することが好ましい。
【0030】
本発明の針状体では、1)基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを有し、2)突起部は前記窪みの部位に形成されている、ため、3)突起部の最先端部が同一平面に位置する場合、必然的に、基板端部の突起部のアスペクト比は、基板中央部のアスペクト比よりも小さくなる(例えば、図2(e)を参照)。
【0031】
本発明の発明者は鋭意検討の結果、a)針状体を皮膚へ穿刺する場合、皮膚の伸縮性により、配列したアレイの外周部の突起部に応力が集中しやすいため、外周部に位置する突起部ほど変形しやすいこと、b)突起部のアスペクト比が小さいほど、外部からの応力に対して変形が少ないこと、を見出した。
【0032】
よって、1)基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを有し、2)突起部は前記窪みの部位に形成され、3)突起部の最先端部が同一平面に位置すること、により、A)突起部は先端部が同一平面内に存在するため、皮膚への穿刺時にそれぞれの突起部に均等に圧力がかかり、各突起部への負荷を低減する事が出来る、B)外周部に位置する突起部のアスペクト比を小さくすることにより、皮膚への穿刺時に皮膚の伸縮性によるアレイ領域外周部の突起部の破損を抑制することが出来る、という効果を同時に奏するという格段の効果を示す。
【0033】
また、少なくとも、突起部は生体適合材料よりなることが好ましい。生体適合性を備えた材料を用いることにより、生体皮膚への適用時に針状体が破損して、その一部が生体内に取り残されても、生体への影響を低減することが出来る。生体適合性を備えた材料としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリアミノ酸、マルトース、デキストランなどの生体適合性と生分解性を有する有機高分子などが挙げられる。
【0034】
以下、本発明の針状体の製造に適した針状体製造方法の一例について具体的に、図1を用いながら説明を行う。
【0035】
本発明の針状体製造方法は、
基板に複数の突起部を形成する工程と、
前記複数の突起部同士の間に、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる溝を、形成することにより基板に窪みを形成する工程と、を備える。
【0036】
<基板上に突起部を形成する工程(図1(a))>
基板10上に、アレイ状に突起部11を形成する。突起部の形成方法は、微細加工方法を用いて、仕様に応じて形成して良い。ここで、微細加工方法としては、例えば、微細機械加工、エッチング加工、リソグラフィ加工などを用いても良い。
【0037】
<複数の突起部同士の間に溝を形成することにより基板に窪みを形成する工程(図1(b)〜1(c))>
次に、突起部アレイ領域において、複数の突起部同士の間に窪み13を形成する。このとき、形成する溝は、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなるように加工する。溝の加工方法としては、形成した突起部の寸法に応じて精度良く加工できる微細加工方法であれば良い。
【0038】
また、特に、ダイシングブレードを用いて、複数の突起部同士の間に溝を形成することが好ましい。図1(b)に示すようにダイシングブレード12の様な高速で回転する刃を基板面に押し当てて、溝を形成することにより、ダイシングブレードの円弧の曲率を利用する事によって、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる溝を好適に形成することが出来る。
【0039】
このとき、ダイシングブレードを押し当てる方向は、1方向のみに限らず、図1(c)の様に、形成した突起部の配列に応じて同様の処理を複数回施す事によって、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを有した針状体17を形成することが出来る。
【0040】
以上より、本発明の針状体の製造方法を実施することが出来る。なお、本発明の針状体の製造方法は上記実施の形態に限定されず、各工程において類推することのできる他の公知の方法をも含むものとする。
【0041】
また、本発明の針状体製造方法で作製した針状体を母型とし、転写成形加工を行うことが好ましい。一体成形された機械的強度の高い複製版を作製することにより、同一の複製版で多量の針状体を製造することが出来るため、生産コストを低くし、生産性を高めることが可能となる。また、転写材料は微細加工に対する加工特性を考慮することなく選択することが出来るため、特に、生体適合性材料により形成された針状体を好適に製造することが出来る。
【0042】
以下、具体的に図2を用いながら転写成形加工の実施の一例について説明を行う。
【0043】
<針状体から複製版を作製する工程(図2(a)〜(c))>
まず、針状体17に充填層14を形成し、充填層14を針状体17から剥離する事で凹型の複製版15を形成する。
【0044】
このとき、充填層の材料としては、特に制限されず、複製版として機能するだけの形状追従性、後述する転写成形加工における転写性、耐久性および離型性を考慮した材質を選択することが出来る。例えば、充填層としてニッケル、熱硬化性のシリコーン樹脂などを用いても良い。ニッケルを選択した場合、充填層の形成方法としては、メッキ法、PVD法、CVD法などが挙げられる。
【0045】
また、充填層と針状体の剥離方法としては、物理的な剥離力による剥離または選択性エッチング法などを用いることが出来る。
【0046】
<複製版を用いた転写成形加工(図2(d)〜(e))>
次に、複製版15に突起部材料16を充填する。
【0047】
突起部材料は特に制限されないが、生体適合性材料である医療用シリコーン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン、糖質等を用いることで、生体に適用可能な突起部を形成出来る。生体適合性材料を用いれば、微細な突起部が折れて、体内に取り残された場合も、無害であるという効果を奏する。
【0048】
また、突起部材料の充填方法についての制限は無いが、生産性の観点から、インプリント法、ホットエンボス法、射出成形法、押し出し成形法およびキャスティング法を好適に用いることが出来る。
【0049】
次に、突起部材料を複製版から離型し、転写成形された針状体を得る。
【0050】
このとき、複製版の剥離性を向上させるために、突起部材料の充填前に、複製版の表面上に離型効果を増すための離型層を形成してもよい(図示せず)。
【0051】
離型層としては、例えば広く知られているフッ素系の樹脂を用いることが出来る。
【0052】
また、離型層の形成方法としては、PVD法、CVD法、スピンコート法、ディップコート法等の薄膜形成手法を好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
<実施例1>
まず、基板として、厚さ725μmのシリコン基板を用意した。
【0054】
次に、80°の傾斜を持つダイジングブレードを用い、シリコン基板を碁盤目状に研削加工を行った。このとき、加工によって形成される突起部の高さを100μmとなるように研削加工を行った。
【0055】
次に、アレイ領域の突起部同士の間に、研削深さが233μmとなるように90°の角度を持つダイシングブレードを基板面に対して垂直に押し当てた。さらに、一度押し当てたダイシングブレードと垂直方向の向きにも同様の処理を行った。
【0056】
以上より、外周の4隅に位置する突起部の根元径が35μm、高さが100μm、また、中央部に位置する突起部の根元系が35μm、高さが333μmであり、外周部から中央部にかけてアスペクト比が段階的に大きくなる針状体を製造出来た。
【0057】
<実施例2>
実施例1で作製した突起部を版型とし、転写成形加工を行った。
【0058】
まず、突起部に充填層としてニッケルを電鋳法で形成した。メッキ浴にはスルファミン酸ニッケル溶液を用いた。60%スルファミン酸溶液を用い、浴温は45℃として5時間のメッキ処理により充填層を形成した。
【0059】
次に、版型であるシリコンの針状体に、25%KOH溶液を用いて80℃で4時間溶解処理を施し、複製版を作製した。
【0060】
次に、複製版に対し、インプリント法を用いて針状体の作製を行った。
【0061】
充填する突起部材料として、生体適合性材料であるポリ乳酸を用いた。
【0062】
以上より、生体適合性材料であるポリ乳酸から成る針状体を形成する事が出来た。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の針状体の製造方法は、医療のみならず、微細な突起部を必要とする様々な分野に適用可能であり、例えばMEMSデバイス、創薬、化粧品などに用いる微細な突起部の製造方法としても有用である。
【符号の説明】
【0064】
10……基板
11……突起部
12……ダイシングブレード
13……窪み
14……充填層
15……複製版
16……突起部材料
17……針状体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けた複数の突起部と、を備え、
前記基板は、前記複数の突起部が形成されたアレイ領域に基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを有し、
前記突起部は前記窪みの部位に形成されており、
前記窪みには薬液が留められていること
を特徴とする針状体。
【請求項2】
請求項1に記載の針状体であって、
複数の突起部について、それぞれ突起部の最先端部が同一平面に位置すること
を特徴とする針状体。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の針状体であって、
少なくとも、突起部は生体適合材料よりなること
を特徴とする針状体。
【請求項4】
基板に複数の突起部を形成する工程と、
前記複数の突起部同士の間に溝を形成することにより基板に窪みを形成する工程と、
前記複数の突起部が形成されたアレイ領域に薬液を塗布する工程とを備え、
前記溝は、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる溝であること
を特徴とする針状体製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の針状体の製造方法であって、
前記窪みには薬液が留められていることを特徴とする針状体製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の針状体製造方法であって、
ダイシングブレードを用いて、複数の突起部同士の間に溝を形成すること
を特徴とする針状体製造方法。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかに記載の針状体の製造方法で作製した針状体を母型とし、転写成形加工を行うこと
を特徴とする針状体製造方法。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けた複数の突起部と、を備え、
前記基板は、前記複数の突起部が形成されたアレイ領域に基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる窪みを有し、
前記突起部は前記窪みの部位に形成されており、
前記窪みには薬液が留められていること
を特徴とする針状体。
【請求項2】
請求項1に記載の針状体であって、
複数の突起部について、それぞれ突起部の最先端部が同一平面に位置すること
を特徴とする針状体。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の針状体であって、
少なくとも、突起部は生体適合材料よりなること
を特徴とする針状体。
【請求項4】
基板に複数の突起部を形成する工程と、
前記複数の突起部同士の間に溝を形成することにより基板に窪みを形成する工程と、
前記複数の突起部が形成されたアレイ領域に薬液を塗布する工程とを備え、
前記溝は、基板端部から基板中央部に向かって次第に深さが深くなる溝であること
を特徴とする針状体製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の針状体の製造方法であって、
前記窪みには薬液が留められていることを特徴とする針状体製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の針状体製造方法であって、
ダイシングブレードを用いて、複数の突起部同士の間に溝を形成すること
を特徴とする針状体製造方法。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかに記載の針状体の製造方法で作製した針状体を母型とし、転写成形加工を行うこと
を特徴とする針状体製造方法。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2012−196547(P2012−196547A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−162945(P2012−162945)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【分割の表示】特願2007−228647(P2007−228647)の分割
【原出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【分割の表示】特願2007−228647(P2007−228647)の分割
【原出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【Fターム(参考)】
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