説明

針状体機器ならびに針状体機器の製造方法

【課題】抗菌性に優れた針状体を提供する。
【解決手段】上記課題を解決する本発明は、人体に穿刺することで経皮吸収により医薬品を伝達することが可能な微細な針状体(11)であって、表面に抗菌性金属(12)からなる金属微粒子が担持されていることを特徴とする針状体機器である。抗菌性金属は雑菌の細胞膜との反応もしくはその触媒作用により発生する副生成物によって、その抗菌性及び殺菌性が発現される。本発明ではこれらの作用を針状体に発現させることで針状体に抗菌効果の機能を持たせることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品を伝達することを可能とする微細な針状体機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚上から薬剤を浸透させ体内に薬剤を投与する方法である経皮吸収法は、人体に痛みを与えることなく簡便に薬剤を投与することが出来る方法として用いられているが、薬剤の種類によっては経皮吸収法で投与が困難な薬剤が存在する。これらの薬剤を効率よく体内に吸収させる方法として、ミクロンオーダーの微細な針状体を用いて皮膚を穿孔し、皮膚内に直接薬剤を投与する方法が注目されている。この方法によれば、投薬用の特別な機器を用いることなく、簡便に薬剤を皮下投薬することが可能となる(特許文献1参照)。
【0003】
この際に用いる微細な針状体の形状は、皮膚を穿孔するための十分な細さと先端角、および皮下に薬液を浸透させるための十分な長さを有していることが必要とされ、直径は数μmから数百μm、長さは皮膚の最外層である角質層を貫通し、かつ神経層へ到達しない長さ、具体的には数十μmから数百μm程度のものであることが望ましいとされている。
【0004】
より具体的には、最外皮層である角質層を貫通することが求められる。角質層の厚さは部位によっても若干異なるが、平均して20μm程度である。また、角質層の下にはおよそ200μmから350μm程度の厚さの表皮が存在し、さらにその下層には毛細血管が張りめぐる真皮層が存在する。このため、角質層を貫通させ薬液を浸透させるためには少なくとも20μm以上の針が必要となる。また、採血を目的とする針状体を製造する場合には、上記の皮膚の構成から少なくとも350μm以上の高さの針状体が必要となる。
【0005】
針状体を構成する材料としては、仮に破損した針状体が体内に残留した場合でも、人体に悪影響を及ぼしにくい材料であることが必要であり、この材料としては医療用シリコーン、多糖類等の生体適合樹脂が有望視されている(特許文献2参照)。
【0006】
また、医療器具における滅菌処理の必要性は広く認識されている。市販の金属製注射用針、手術用針、漢方用針に対し、その抗菌効果及び無痛機能を向上させるために銀ナノ粒子をコートする手法が提案されている(特許文献3参照)。また、経皮的送達デバイスの滅菌法として、ガンマ線及び電子線からなる群から選択される放射線に曝す手法が提案されている(特許文献4参照)。
【0007】
また、医療用の生体適合性のある針状体の作製方法として、金型から複製版を起こし、その複製版を用いて転写成形を行う手法が提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
以下に公知文献を記す。
【特許文献1】米国特許第6,183,434号明細書
【特許文献2】特開2005−21677号公報
【特許文献3】特開2008−529711号公報
【特許文献4】特表2008−541951号公報
【特許文献5】特表2007−523771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に医療器具においては雑菌の混入を防ぐために滅菌処理が施される。菌類は大気中の飛散や人の手を介して伝達するため、生活環境下で無菌状態に保つことは極めて困難である。特に体内組織に接する針状体において雑菌が存在する場合さまざまな感染症に発展する可能性があり、これらを抑制する方法が必要となる。
【0010】
また、食品用及び医療用として一般的に用いられているガンマ線や電子線を用いた滅菌法では、その照射対象が高分子材料である場合、照射量によっては分子量低下を引き起こすため材料強度の低下や形状変化が生じるという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、抗菌性に優れた針状体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的に即し、本発明の請求項1に係る発明は、人体に穿刺することで経皮吸収により医薬品を伝達することが可能な微細な針状体であって、表面に抗菌性金属からなる金属微粒子が担持されていることを特徴とする針状体機器である。
【0013】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の針状体であって、担持される抗菌性金属が金、銀、銅のうち少なくとも一つからなる化合物、もしくは、これらの少なくとも一つからなる微粒子であることを特徴とする針状体機器である。
【0014】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の針状体であって、構成材料の一部に生分解性材料を用いることを特徴とする針状体機器である。
【0015】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1から3の何れか1項に記載の針状体機器の製造方法であって、針状体を反転させた型取り用の型材と、転写成形とを用いて製造することを特徴とする針状体の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の針状体は、抗菌性金属の微粒子が担持されていることを特徴とする。抗菌性金属は雑菌の細胞膜との反応もしくはその触媒作用により発生する副生成物によって、その抗菌性及び殺菌性が発現される。本発明ではこれらの作用を針状体に発現させることで針状体に抗菌効果の機能を持たせることが可能となる。
【0017】
また、これらの構造を持つ針状体を、生分解性材料を用いて作製することで、穿刺時に折れや欠けなどの問題が生じたとしても人体への負荷を低減することが可能となる。
【0018】
また、本発明の針状体の製造は型材を用いた転写成形によって行われる。転写成形方法はその充填材料を選択することで、大量の製品を効率良く低コストで製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】抗菌性金属が全面形成された針状体の断面図。
【図2】抗菌性金属が局所的に形成された針状体の断面図。
【図3】(a)〜(d)は、本発明の針状体の製造工程を説明するための概略工程の一事例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に従う針状体は、皮膚を穿孔するための十分な細さと先端角、および皮下に薬液を浸透させるための十分な長さを有していればよい。従って、1つの針状体の直径は数μ
mから数百μmであることが望ましい。また、1つの針状体の長さは皮膚の最外層である角質層を貫通する長さが望ましい。角質層の厚さは人体の部位によっても若干異なるが、平均して20μm程度である。角質層の下には約200μmから約350μmの厚さの表皮が存在し、さらにその下層には毛細血管が張りめぐる真皮層が存在する。このため、角質層を貫通させ薬液を浸透させるためには少なくとも約20μm以上の針状体の長さであればよい。また、採血を目的とする場合には、少なくとも約200μm以上の針状体の長さであればよい。したがって、抗菌性金属を担持した後の針状体高さがこの値を満たすことが望ましい。
【0021】
一般に殺菌作用を伴う金属材料として金、銀、銅、チタン、亜鉛、タングステン、ガリウム、ストロンチウム、ジルコニウム、コバルト、カドミウム、水銀、クロム等が知られている。しかしながら、材料の加工性および使用時の人体への影響を考慮した場合、金、銀、銅を用いることが好ましい。
【0022】
また、ここで用いられる金属微粒子は上記の金属類を組み合わせた構造もしくは上記の金属類からなる化合物であっても良い。例えば銀担持金微粒子等の混合材料や、多層からなる積層構造体、不純物添加等をも含む。また、窒化物および酸化物であっても良い。
【0023】
微粒子のサイズとしては、技術的に実現可能な範囲においてより微小な形状を取ることが好ましい。粒子の微小化によりその比表面積が増大し殺菌効果を高めることが可能となる。具体的には粒径が数十ナノメートルスケールから数マイクロメートルスケールであることが好ましく、これらのスケールの微粒子が積層し膜を構成した形状(図1)であっても良い。
【0024】
また、担持される微粒子の積層構造は、全面積層に限らず針状体の局所部位に微粒子が分散した島状構造(図2)もしくは、面内にクラックを生じた膜構造であっても良い。これによって柔軟性を持たせることが可能で有り、針状体機器全体としての機械的強度を向上させることが出来る。
【0025】
微粒子の担持された針状体は使用前に洗浄処理を施すことでこれらの担持物を除去しても良い。これにより体内への微粒子の侵入を抑制し、尚且つ、針状体の雑菌による感染を使用直前まで低減させることができる。
【0026】
また、抗菌性金属は針状体の構成材料中に事前に混練されても良い。この場合、針状体成形と同時に抗菌性金属微による殺菌効果を得ることができ、製造工程の効率化を図ることができる。
【0027】
本発明に従う針状体は、1つの針状体からなってもよく、複数の針状体を具備する針状体アレイであってもよい。従って、本発明の製造方法は、1つの針状体を製造するための方法として適用されてもよく、複数の針状体を具備する針状体アレイを製造するための方法として適用されてもよい。これらの方法により製造された針状体および針状体アレイも本願発明の範囲に含まれる。
【0028】
本発明における針状体の作製は、原版金型に対し複製版を作製する工程と、複製原版から転写成型する工程と、金属を担持する工程とを経ることによって行われる。
【0029】
まず、原版から複製版を製造する方法(図3−(a),(b)参照)について図を用いて説明する。図3(a)では、原版金型14に複製材料15を充填する。このとき添加剤等を加えて良い。複製材料硬化の後、図3(b)のように、複製材料15を原版金型14から剥離することで凹型の複製版16を形成する。複製版を作製することで、同一の複製
版から多量の針状体を製造することが出来るため、生産コストを抑制し、生産性を高めることが可能となる。
【0030】
ここで用いられる原版金型には複製版の離型性を向上させるために、表面形状の加工及び化学的な表面改質を施しても良い。このとき離型層として金属微粒子を用いても良い。これにより金属微粒子を含有した複製版を作製することが可能となる。
【0031】
複製材料としては、金属材料、樹脂材料を用いて良く、原版を転写し得る形状追従性、後述する転写加工成型における転写性、耐久性および離型性を考慮した材質を選択することが出来る。例えば、ニッケル電鋳やシリコーン樹脂材、アルギン酸塩を用いた手法で作製可能であり、安価かつ危険性の低い材料として好適に用いることが出来る。しかし、これのみに限定されるものでは無い。
【0032】
また、複製材料に対し、事前に添加物の混入もしくは不純物を除去するための精製工程を加えても良い。ここでの添加物には抗菌性金属も含まれる。
【0033】
次に、複製版を用いた転写加工成型(図3−(c)、(d)参照)について説明する。図3(c)では、複製版16に成形材17を充填する。成形材は特に制限されないが、穿刺部となる針状体においては生分解性材料であるポリ乳酸、ポリカプロラクトン、糖類等を用いることが好ましい。生分解性材料を用いれば、針状体が折れて体内に取り残された場合に発生すると考えられる負荷を低減できる。このときの成形材17の充填方法についての制限は無いが、生産性の観点から、インプリント法、ホットエンボス法、射出成形法、押し出し成形法およびキャスティング法を好適に用いることが出来る。
【0034】
成形材17充填の後、これを複製版16から剥離し、任意の針状体18を得る。このとき、複製版の剥離性を向上させるために、針状体の材料の充填前に、複製版の表面上に離型効果を増すための離型層を形成してもよい(図示せず)。
【0035】
離型層としては、例えば広く知られているフッ素系の樹脂を用いることができる。また、金属微粒子を離型層として用いても良い。これにより離型層が成形品表面に付着した状態で剥離されるため、針状体表面に金属微粒子を担持させたものと同様の効果を得ることができる。
【0036】
前述の工程を経て針状体を作製した後、任意の金属微粒子19を担持する(図3−(e)参照)。担持方法は特に制限されず、PVD法、CVD法、溶射法、ゾルゲル法、LB法、スピンコート法、ディップコート法、電気泳動法、既存の印刷法等を好適に用いてよい。
【0037】
以上より、本発明の針状体の製造を実施することが出来る。なお、本発明の針状体の製造方法は上記実施の形態に限定されず、各工程において類推することのできる他の公知の方法をも含むものとする。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の針状体の製造方法について、具体的に一例を挙げながら説明を行う。当然のことながら、本発明の針状体の製造方法は下記実施例に限定されず、各工程において公知の資料から類推できる他の製造方法をも含むものとする。
【0039】
まず、機械加工装置を用い、シリコン基板上に5列5行のアレイ状に並んだ25の針状体を作製した。このとき得られた針状体は四角錐であり、先端角が40°、高さが約445μm、底面の一辺の幅が330μmとなった。
【0040】
次に、作製した針状体デバイスを複製するため、前記原版から型材を作り、転写加工成形を行う工程を実施した。
まず、メッキ法によって、針状体の表面にニッケル膜を600μm形成した。次に前記ニッケル膜を針状体から剥離し、型材を作製した。次に、上記型材に対し、インプリント法を用いて複製針状体の作製を行った。充填する針状体材料として、生分解性樹脂であるポリ乳酸を用いた。以上の工程により、生分解性樹脂であるポリ乳酸で構成された針状体を作製することが出来た。
【0041】
次に、作製した針状体表面にスパッタ法を用いてAg薄膜を成膜した。このときの総膜厚は約500nmであった。
【0042】
このようにして作製した針状体を用い、日本薬局方に記載される無菌試験法に準じ、細菌否定試験及び真菌否定試験を行った結果、針状体からの菌の発育は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の針状体は、医薬、創薬、化粧品などの薬物を輸送するデバイスに用いる微細な針として、利用することが期待できる。
【符号の説明】
【0044】
11…針状体
12…抗菌性金属
14…原版金型
15…複製材料
16…複製版
17…成形材
18…針状体
19…金属微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体に穿刺することで経皮吸収により医薬品を伝達することが可能な微細な針状体であって、表面に抗菌性金属からなる金属微粒子が担持されていることを特徴とする針状体機器。
【請求項2】
請求項1に記載の針状体であって、担持される抗菌性金属が金、銀、銅のうち少なくとも一つからなる化合物、もしくは、これらの少なくとも一つからなる微粒子であることを特徴とする針状体機器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の針状体であって、構成材料の一部に生分解性材料を用いることを特徴とする針状体機器。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の針状体機器の製造方法であって、針状体を反転させた型取り用の型材と、転写成形とを用いて製造することを特徴とする針状体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−194003(P2010−194003A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40496(P2009−40496)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】