説明

鉄含有廃液の処理方法

【課題】廃液に含有される鉄分を安定的に沈殿させて回収する方法の提供。
【解決手段】鋼板製造ラインにおける塩酸酸洗工程10とリンス工程30とから発生する廃液を処理する方法であって、塩酸酸洗工程から発生する塩酸廃液を処理して酸化鉄を回収し塩化水素ガスを発生する工程12と、前記塩化水素ガスを水に吸収して塩酸を回収し排ガスを発生する工程14と、前記排ガスを洗浄して弱酸廃液及び浄化ガスを発生する工程16と、前記弱酸廃液と前記リンス廃液とを混合して混合液を得る工程40と、前記混合液におけるFe2+及びFe3+の質量濃度を測定し、(Fe2+)/(Fe2++Fe3+)≧0.6を満たすように前記混合液にFe2+を添加して調整廃液を得る工程と、前記調整廃液にアルカリ物質及び酸素を供給して前記調整廃液中の鉄分を不溶化する工程44と、前記鉄分を前記調整廃液から分離する工程46とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄含有廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に鋼板製造ラインでは表面処理を行う前に塩酸酸洗を行って、鋼板表面の酸化鉄スケール等を取り除く処理を行う。そして、この処理の後は塩酸を洗い流すため、鋼板を清浄水で水洗する。
ここで、この塩酸酸洗を行う塩酸酸洗工程と清浄水で水洗するリンス工程とから、塩酸及び鉄分を多く含有する廃液が発生する。そして、通常、この廃液から塩酸及び鉄分を回収し、残部は浄化された水として放流する。
【0003】
この廃液から鉄分を回収する従来法として、いくつかの方法が挙げられる。
例えば、廃液に消石灰、苛性ソーダ等のアルカリ物質を添加し、廃液中にイオンとして存在する鉄分を水に不溶性の水酸化物として析出させ、その後回収する方法が挙げられる。廃液中で鉄分は二価又は三価のイオンとして存在すると考えられ、アルカリ物質を添加することで、次に示す式(1)、(2)の反応により水に不溶の水酸化物が析出すると考えられる。
【0004】
Fe2+ + 2OH→ Fe(OH)↓ ・・・式(1)
Fe3+ + 3OH→ Fe(OH)↓ ・・・式(2)
【0005】
ここで二価及び三価の鉄イオンが上記式(1)及び式(2)により水酸化物として析出するpH領域が異なるので、二段階にpHを調整して水酸化物の沈殿を生じさせる場合もある。
【0006】
また、このような方法において、廃液をアルカリ物質添加前に酸化処理する場合もある。
これは、上記式(1)により生じるFe(OH)は、上記式(2)により生じるFe(OH)と比較して水に対する溶解度が大きく、廃液中から分離し難いので、次の式(3)に示すように二価の鉄イオンを三価とし、その後、Fe(OH)の水酸化物の沈殿とする(式(4))方法である。
【0007】
Fe2+ + O → Fe3+ ・・・式(3)
Fe3+ + 3OH→ Fe(OH)↓ ・・・式(4)
【0008】
このような方法では溶解度が高いFe(OH)が生じ難くなり、Fe(OH)が増加するため鉄分の回収率は高くなる。
しかしながら、Fe(OH)は非常に細かい微粒子であり、かつ凝集性が低く沈降性が悪いので、沈殿として回収する上で、工業的に耐えられない場合があった。
そこで、通常、無機凝集剤や有機高分子凝集剤を用いてFe(OH)の微粒子を凝集させた後に分離処理をしていた。例えば図2に示すフローのような処理を行っていた。
【0009】
この図2について説明する。
図2において、廃液は第1反応槽60で酸化処理される。この第1反応槽60に空気62が吹き込まれ、この空気62の中の酸素により二価の鉄イオンの三価への酸化が行われる。そして、第1反応槽60で酸化された廃液は第2反応槽64に送られ、ここで消石灰等のアルカリ物質66と反応してFe(OH)の微粒子を生じる。そして、凝集槽70へ送られ、凝集剤68が添加されて凝集した後シックナー72に送られ、ここで鉄分(Fe(OH))は沈殿として回収される。シックナー72の上澄みは、更に濾過処理74された後に放流される。
【0010】
このような方法により比較的高効率で鉄分を回収することが可能である。
しかし、この方法は事実上、凝集剤68の添加が必須である。また、凝集槽70及び大型のシックナー72が必要になる等、設備面での制約も生じていた。
【0011】
そこで、DEFEX法が開発された。この方法は、二価の鉄イオンの酸化を行いながらアルカリ物質による中和を行い、オキシ水酸化鉄(FeOOH)を生成させる方法である。
このオキシ水酸化鉄は沈降性のよい微粒子であるので、凝集剤を添加する必要がない。また、このオキシ水酸化鉄はFe(OH)の微粒子を取り込みながら沈殿(共沈)する性質がある(例えば特許文献1参照)。したがって、効率的な鉄分の回収が可能となる。
このDEFEX法は、例えば図3に示すフローで行われる。
【0012】
この図3について説明する。
塩酸酸洗工程80とリンス工程82とから発生した廃液は混合槽84で混合され混合液となる。そして、第2反応槽86にて消石灰等のアルカリ物質88が添加され、更に空気90が吹き込まれる。この処理により生じたオキシ水酸化鉄はシックナー92で容易に沈殿するので、容易に分離することができる。また、シックナー92は比較的小型であってもよい。
シックナー92の上澄みは、更に濾過処理94された後に放流される。
【特許文献1】特開平5−310430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のようにDEFEX法によれば、凝集剤を添加しなくても容易に鉄分が沈降するので効率よく鉄分を回収することができる。また、これに伴い大型のシックナーが不必要になる等、設備面での利点もある。
しかし、この方法により安定的に鉄分を回収するには、廃液の性状が常に安定している必要があり、これが変化すると沈殿が生じ難くなり鉄分の回収が困難になるという問題があった。そして、廃液の性状を示す様々な指標の中で何れの指標に着目し、その指標をどのような範囲内となるように管理、調整等すれば、鉄分の沈殿を安定的に生じさせることができるかが不明であった。
したがって、本発明の目的は、廃液の性状、特に廃液に含有される鉄分を回収する上で重要になる成分を安定化させ、安定的に鉄分を沈殿させて回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記のようなDEFEX法のおいて、廃液に含有される鉄分を回収する上で二価及び三価鉄イオン濃度の管理が重要であり、これらの濃度が特定範囲となるように調整することで、安定的に沈殿を生じさせ、鉄分を回収することができることを見出し本発明に至った。
【0015】
つまり、本発明は、次の(a)及び(b)である。
(a)鋼板製造ラインにおける塩酸酸洗工程とそれに次ぐリンス工程とから発生する廃液を処理する鉄含有廃液の処理方法であって、前記塩酸酸洗工程から発生する塩酸廃液を酸化処理して酸化鉄を回収し、塩化水素ガスを発生する酸化鉄回収工程と、前記塩化水素ガスを水に吸収して塩酸を回収し、排ガスを発生する塩酸回収工程と、前記排ガスを洗浄して弱酸廃液及び浄化ガスを発生する排ガス浄化工程と、前記弱酸廃液と前記リンス工程から発生するリンス廃液とを混合して混合液を得る混合工程と、前記混合液におけるFe2+及びFe3+の質量濃度を測定し、(Fe2+)/(Fe2++Fe3+)≧0.6を満たすように前記混合液にFe2+を添加して調整廃液を得る鉄イオン濃度調整工程と、前記調整廃液にアルカリ物質及び酸素を供給して、前記調整廃液中の鉄分を不溶化する不溶化工程と、前記不溶化工程で不溶化された前記鉄分を前記調整廃液から分離する分離工程とを具備する鉄含有廃液の処理方法。
(b)前記鉄イオン濃度調整工程が、前記混合液におけるFe2+及びFe3+の質量濃度を測定し、(Fe2+)/(Fe2++Fe3+)≧0.6を満たすように前記混合液に前記塩酸酸洗工程から発生する塩酸廃液を添加して調整廃液を得る工程である、上記(a)に記載の鉄含有廃液の処理方法。
【発明の効果】
【0016】
このような本発明により、廃液の性状、特に廃液に含有される鉄分を回収する上で重要になる成分を安定化させて、安定的に鉄分を沈殿させ回収する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の鉄含有廃液の処理方法について図1を用いて詳細に説明する。
本発明は、鋼板製造ラインにおける塩酸酸洗工程10と、それに次ぐリンス工程30とから発生する廃液(塩酸廃液20及びリンス廃液32)を処理する鉄含有廃液の処理方法である。
ここで塩酸酸洗工程10は、一般的な鋼板製造ラインにおいてめっき処理等の表面処理を行う前に行われる一般的な鋼板表面洗浄処理であり、塩酸を用いて鋼板1の表面の酸化鉄スケール等を取り除く処理である。例えば塩酸水溶液に鋼板1を特定時間浸漬する処理が挙げられる。
また、リンス工程30も塩酸酸洗工程10の次に行われる一般的な工程であり、塩酸酸洗工程10において塩酸処理された鋼板1を清浄水で水洗して、鋼板1の表面に付着している塩酸等を洗い流す処理をする。
【0018】
このような塩酸酸洗工程10及びリンス工程30からは塩酸及び鉄分を含有する廃液(塩酸廃液20及びリンス廃液32)が発生する。
具体的には、塩酸酸洗工程10からは鋼板1の表面の洗浄に用いた塩酸と同程度のpHの塩酸廃液20が発生する。そして、この塩酸廃液20には鉄分が含まれる。この鉄分はスケール等が粒状、塊状等の形態で含まれる場合もあるし、塩酸廃液20に溶解して、二価又は三価のイオンとして含まれる場合もある。
また、これと比較してリンス工程30から発生する廃液であるリンス廃液32の塩酸濃度は低く、比較的鉄分の含有率は低い。鉄分の存在形態は、上記の塩酸廃液20の場合と同様である。
【0019】
このように塩酸酸洗工程10及びリンス工程30から発生する廃液には塩酸及び鉄分が含有しているので、通常、これらは回収される。そして塩酸は通常塩酸酸洗工程10にて再利用され、鉄分は他の用途に用いられたり、鉄鋼製造ラインにおける製鉄原料として再利用されたりする。
【0020】
本発明では、この塩酸及び鉄分の回収を、以下に詳細に説明する酸化鉄回収工程12と、塩酸回収工程14と、排ガス浄化工程16と、混合工程40と、鉄イオン濃度調整工程42と、不溶化工程44と、分離工程46とを具備する鉄含有廃液の処理方法によって行う。
【0021】
各工程について詳細に説明する。
<酸化鉄回収工程>
本発明が具備する酸化鉄回収工程12は、前記塩酸酸洗工程10から発生する塩酸廃液20を酸化処理して酸化鉄21を回収し、塩化水素ガス22を発生する工程である。
ここで、塩酸廃液20を酸化処理する方法は、この塩酸廃液20と酸素を含有する気体とを接触させることで、塩酸廃液20に含有される鉄イオンを酸化鉄21として析出させることができる方法であれば特に限定されない。
例えば、炉内を800℃程度としたシャフト型の焙焼炉に、例えば上部から塩酸廃液20を霧状で吹き込み、更に、この焙焼炉の底部から空気を吹き込む。すると焙焼炉内で霧状の塩酸廃液20は上部から下部へ移動し、逆に底部から吹き込まれた空気は下部から上部へ向かって流れるので、塩酸廃液20と空気とは焙焼炉内で対向し、塩酸廃液20の酸化処理を行うことができる。このような方法により、塩酸廃液20に含有される鉄イオンを酸化鉄21として析出させることができる。この焙焼炉の場合は、通常、炉の底部から固体となった酸化鉄21を回収することができる。
【0022】
また、このような酸化処理を行うことで塩酸を含有するガスである塩化水素ガス22が発生する。例えば上記のような焙焼炉を用いた場合であれば、焙焼炉の上部から塩化水素ガス22が発生する。
この塩化水素ガス22は次の塩酸回収工程14で処理され塩酸が回収される。
【0023】
<塩酸回収工程>
本発明が具備する塩酸回収工程14は、上記のような酸化鉄回収工程12から発生した塩化水素ガス22を水27に吸収して塩酸23を塩酸水溶液として回収し、排ガス24を発生する工程である。
ここで塩化水素ガス22を水27に吸収する方法は、この塩化水素ガス22と水27とを接触させることで塩酸を溶解した塩酸水溶液として回収することができる方法であれば特に限定されない。
例えばタワー型の吸収搭において、例えば上部から工業用水等の水27を、例えば霧状で吹き込み、更に、この吸収搭の底部から塩化水素ガス22を吹き込む。すると吸収搭内で霧状の水27は上部から下部へ移動し、逆に底部から吹き込まれた塩化水素ガス22は下部から上部へ向かって流れるので、吸収搭の内部で水27と塩化水素ガス22とが対向して、塩化水素ガス22を水27に溶解させ塩酸水溶液を得ることができる。このような処理を行うと、吸収搭の底部に塩酸水溶液が溜まるので、塩酸23を回収することができる。この塩酸23は、例えば塩酸酸洗工程10で再利用することができる。
【0024】
また、このような処理を行うことで排ガス24が発生する。例えば上記のような吸収搭を用いた場合であれば、吸収搭の上部から排ガス24が発生する。
この排ガス24は次の排ガス浄化工程16で処理される。
【0025】
<排ガス浄化工程>
本発明が具備する排ガス浄化工程16は、上記のような塩酸回収工程14から発生した排ガス24を洗浄して弱酸廃液26及び浄化ガス25を発生する工程である。
ここで排ガス24を洗浄する方法は、この排ガス24と水等の液体28とを接触させることで排ガス24が含んでいる塩酸を液体28へ溶解し、この排ガス24から塩酸を分離して、大気に放散できるガス(浄化ガス25)とすることができる方法であれば特に限定されない。
例えばタワー型の洗浄搭において、例えば上部から工業用水等の液体28を例えば霧状で吹き込み、更に、この洗浄搭の底部から排ガス24を吹き込む。すると洗浄搭内で霧状の液体28は上部から下部へ移動し、逆に底部から吹き込まれた排ガス24は下部から上部へ向かって流れるので、洗浄搭の内部で液体28と排ガス24とが対向して、排ガス24中の塩酸を液体28に溶解して弱酸廃液26を得ることができる。このような処理を行うと、洗浄搭の底部にpHが2.0〜3.5程度の弱酸廃液26が溜まる。この弱酸廃液26は、次の混合工程40へ送られ処理される。また、洗浄搭の上部から浄化ガス25が発生する。この浄化ガス25は通常塩酸含有率が5ppm以下程度なので大気放散することができる。
【0026】
<混合工程>
本発明が具備する混合工程40は、弱酸廃液26とリンス工程30から発生するリンス廃液32とを混合して混合液50を得る工程である。
ここで弱酸廃液26とリンス廃液32とを混合する方法は特に限定されない。例えば、これらを共に1つの混合槽へ装入し、必要に応じて攪拌して混合する方法が挙げられる。
【0027】
<鉄イオン濃度調整工程>
本発明が具備する鉄イオン濃度調整工程42は、混合液50におけるFe2+及びFe3+の質量濃度を測定し、(Fe2+)/(Fe2++Fe3+)≧0.6を満たすように混合液50にFe2+を添加して調整廃液52を得る工程である。
ここで、混合液50が含有するFe2+及びFe3+の質量濃度は原子吸光法、ICP発光分析法、電位差滴定法、光度滴定法又はこれらを組み合せた方法等で測定する。
ここで、混合工程40において、上記のような方法で連続的にFe2+及びFe3+の濃度を測定することができる検出装置を設置し、混合液50におけるこれらの濃度を継続的に監視することが好ましい。これらの濃度の変化に対応して濃度調整を迅速に行い、鉄分の回収率を高位に維持することができるからである。
【0028】
そして、この測定結果から(Fe2+)/(Fe2++Fe3+)を算出し、この値が0.6以上となるようにFe2+を添加して調整廃液52を得る。したがって、この値が0.6未満の場合は、Fe2+を添加しなくてもよい。このようにFe2+及びFe3+の濃度を測定した結果、この値が0.6以上であったためにFe2+を添加しなかった混合液50を調整廃液52とみなす。
また、ここで(Fe2+)/(Fe2++Fe3+)の値は0.6〜1.0であることが好ましく、0.7〜1.0であることが更に好ましいので、この範囲になるように、この値が0.6以上の場合であってもFe2+を添加してもよい。このような範囲であると後述する分離工程46における鉄分54の分離効率がより高いので好ましい。
【0029】
また、ここでFe2+を添加する方法は特に限定されず、例えばFe2+を含有する水溶液を適宜添加する方法が挙げられる。
また、Fe2+を含有する水溶液として、塩酸酸洗工程10から発生する塩酸廃液20を用いることが好ましい。
つまり、鉄イオン濃度調整工程42が、混合液50におけるFe2+及びFe3+の質量濃度を測定し、(Fe2+)/(Fe2++Fe3+)≧0.6を満たすように混合液50に塩酸酸洗工程10から発生する塩酸廃液20を添加して調整廃液52を得る工程であることが好ましい。
通常、塩酸廃液20は混合液50と比較してFe2+の含有率が高い。したがって、混合液50に塩酸廃液20を添加するとFe2+の濃度を高めるように調整することができる。
【0030】
<不溶化工程>
本発明が具備する不溶化工程44は、調整廃液52にアルカリ物質53及び酸素55を供給して、調整廃液52中の鉄分を不溶化する工程である。
ここでアルカリ物質53の種類及び添加方法は特に限定されない。アルカリ物質は例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアが挙げられる。そして、これらを固体状又はこれらを溶解した水溶液等を例えば公知の方法で調整廃液52へ添加すればよい。
また、酸素55を調整廃液52へ供給する方法も限定されない。例えば公知の方法で調製廃液52へ吹き込めばよい。なお、酸素55は酸素又は酸素含有気体(例えば空気)である。
【0031】
このような方法で調製廃液52へ酸素55を供給しながらアルカリ物質53を添加することで、不溶化工程における処理である酸素酸化による調整廃液52のpH低下を抑制することができる。また、pHを任意に調整することができる。このような方法により、調整廃液52中のFe2+をオキシ水酸化鉄(FeOOH)に酸化して沈殿させると同時に、Fe3+を水酸化物として生成させ効率よく凝集沈殿することができる。
【0032】
<分離工程>
本発明が具備する分離工程46は、不溶化工程44で不溶化された鉄分54を調整廃液52から分離する工程である。
ここで鉄分54を調整廃液52から分離する方法は特に限定されない。不溶化工程44において不溶化された鉄分54は、上記のように比較的凝集しているので、重力沈降法等の比較的簡便な方法により分離することができる。
例えば、シックナーによる重力沈降法により鉄分54の多くの部分を分離した後、上澄みを更に濾過機によって濾過して、鉄分54を分離する方法を好ましく例示できる。
このような分離工程46により調整廃液52から鉄分54を分離した後の残部56は、通常放流される。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
10質量%の塩酸水溶液に理論消費量の5倍のスクラップ(製鉄所内発生の冷延鋼板スクラップ片)を充填し、70℃に加温し1時間攪拌した。そして、スクラップをビーカー内から取り出した。その液をpHが、1.0、2.0、2.5、3.0又は3.5となるように希釈し、70℃又は90℃のいずれかの温度に加温しながら、1.0、2.5又は4.0時間のいずれかの時間、空気を吹き込みながら攪拌した。
このような処理を施した塩酸水溶液を以下では処理液という。
次に各々の処理液中のFe2+及びFe3+の濃度を測定した。その結果、各々の処理液の(Fe2+)/(Fe2++Fe3+)の値は0.4〜0.75のいずれかの値であった。
【0034】
次に、各々の処理液(1リットル)に当量の水酸化ナトリウムを添加し、同時に空気を吹き込んだ。そして、その後、更に30分間攪拌した。
【0035】
このような処理を行った後、室内で20分間静置し、各々のビーカーを目視観察した。
その結果、(Fe2+)/(Fe2++Fe3+)の値が0.6以上の処理液の場合は沈殿が生じ、明らかに上澄み液と分離していた。
一方、0.6未満の処理液の場合は液体の全体が濁っており、0.6以上の場合のように、沈殿と上澄み液とが明らかに分離していることはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明の廃液から鉄分回収方法を示すフロー図である。
【図2】図2は、従来における廃液から鉄分回収方法を示すフロー図である。
【図3】図3は、従来における廃液から別の鉄分回収方法を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0037】
1 鋼板
10 塩酸酸洗工程
12 酸化鉄回収工程
14 塩酸回収工程
16 排ガス洗浄工程
20 塩酸廃液
21 酸化鉄
22 塩化水素ガス
23 塩酸
24 排ガス
25 浄化ガス
26 弱酸廃液
27 水
28 液体
30 リンス工程
32 リンス廃液
40 混合工程
42 鉄イオン濃度調整工程
44 不溶化工程
46 分離工程
50 混合液
52 調整廃液
53 アルカリ物質
54 鉄分
55 酸素
56 残部
60 第1反応槽
62 空気
64 第2反応槽
66 アルカリ物質
68 凝集剤
70 凝集槽
72 シックナー
74 濾過処理
80 酸洗工程
82 リンス工程
84 混合槽
85 第1反応槽
86 第2反応槽
88 アルカリ物質
90 空気
92 シックナー
94 濾過

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板製造ラインにおける塩酸酸洗工程とそれに次ぐリンス工程とから発生する廃液を処理する鉄含有廃液の処理方法であって、
前記塩酸酸洗工程から発生する塩酸廃液を酸化処理して酸化鉄を回収し、塩化水素ガスを発生する酸化鉄回収工程と、
前記塩化水素ガスを水に吸収して塩酸を回収し、排ガスを発生する塩酸回収工程と、
前記排ガスを洗浄して弱酸廃液及び浄化ガスを発生する排ガス浄化工程と、
前記弱酸廃液と前記リンス工程から発生するリンス廃液とを混合して混合液を得る混合工程と、
前記混合液におけるFe2+及びFe3+の質量濃度を測定し、(Fe2+)/(Fe2++Fe3+)≧0.6を満たすように前記混合液にFe2+を添加して調整廃液を得る鉄イオン濃度調整工程と、
前記調整廃液にアルカリ物質及び酸素を供給して、前記調整廃液中の鉄分を不溶化する不溶化工程と、
前記不溶化工程で不溶化された前記鉄分を前記調整廃液から分離する分離工程と
を具備する鉄含有廃液の処理方法。
【請求項2】
前記鉄イオン濃度調整工程が、前記混合液におけるFe2+及びFe3+の質量濃度を測定し、(Fe2+)/(Fe2++Fe3+)≧0.6を満たすように前記混合液に前記塩酸酸洗工程から発生する塩酸廃液を添加して調整廃液を得る工程である、請求項1に記載の鉄含有廃液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−254194(P2007−254194A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78921(P2006−78921)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】