説明

鉄筋の接合構造

【課題】鉄筋の余長部が跳ね上がってコンクリートの剥落やひび割れが生じるのを未然に防止する。
【解決手段】本発明に係る鉄筋の接合構造1は、上端筋である主筋15,16及び下端筋である17,18を全体として環状に取り囲むように変形拘束部材としてのせん断補強筋14を配置するとともに、せん断補強筋14の内周面が、筒体2から突出する鉄筋5aの余長部13の周面に当接するように配置することで、該余長部が筒体2の回転に伴って鉄筋5bから離間しようとする変形を抑制できるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主筋同士を接合する際に適用される鉄筋の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋は、通常、配筋時の作業性等を勘案して所定長に加工されるため、現場での接合作業が不可欠となるが、このような鉄筋同士を接合する手段として、断面が長円状をなす鋼製の筒体と楔部材とからなる接合具を介して、2本の鉄筋を接合する方法が知られている。
【0003】
かかる接合具によれば、筒体内に2本の鉄筋端部をそれぞれ逆方向から挿入し、次いで筒体に設けられた楔挿通孔から2本の鉄筋の間に楔部材を打込むことにより、鉄筋を相互に接合することができる(特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】実公昭58−32498号公報
【特許文献2】国際公開第2008/018161号パンフレット
【非特許文献1】ERICO International Corporation、[平成18年8月2日検索]、インターネット<URL : http://www.erico.com/products/QuickWedge.asp>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記接合具の場合、長円状の筒体に2本の鉄筋を互い違いに挿通するという関係上、2本の鉄筋の材軸が一直線上に並ばずに材軸直交方向にずれた状態で該2本の鉄筋が接合されることとなるため、これらの鉄筋に引張力が作用すると、材軸直交方向のずれに起因して筒体が回転するという現象が生じる。
【0006】
そして、かかる筒体の回転は、鉄筋と楔部材との係合の緩みや、筒体の回転に伴う曲げモーメントの発生起因する接合強度の低下といった事態を引き起こすおそれがある。
【0007】
加えて、筒体の回転が大きくなるに伴い、筒体から突出する余長部が跳ね上がり、コンクリートを内側から押し出してコンクリートの剥落やひび割れを引き起こすといったあらたな問題を生じることもわかってきた。
【0008】
本出願人は、筒体の回転を防止して接合力を高めることが可能な鉄筋の接合具の開発に成功し(特許文献2)、かかる接合具によれば、筒体の回転を防止しつつ鉄筋の引張強さを十分に発揮させることができるが、部品点数が増えた分、コスト高となるため、主たる適用範囲は、高品質が要求される構造物や部位となり、経済性に優れた接合具を別途開発する余地が残されていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、鉄筋の余長部が跳ね上がってコンクリートの剥落やひび割れが生じるのを未然に防止することが可能な鉄筋の接合構造を提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄筋の接合構造は請求項1に記載したように、2本の鉄筋がそれらの先端から所定の長さ範囲で重ねて配置されるように該2本の鉄筋を断面形状が長円状をなす筒体の両端開口からそれぞれ挿入するとともに、該筒体を構成する壁部のうち、対向する一対の平板状壁部にそれぞれ形成された楔挿通孔に楔部材を挿通して前記2本の鉄筋の間に圧入することにより、前記2本の鉄筋を相互に接合して鉄筋コンクリート部材の少なくとも一部の主筋とし、該鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋を反力鉄筋として該反力鉄筋から反力をとるとともに該反力を、前記2本の鉄筋のうち、一方の鉄筋の余長部に伝達することが可能な変形拘束部材を備えてなり、該変形拘束部材は、前記余長部が前記筒体の回転に伴って他方の鉄筋から離間しようとする変形を抑制することができるようになっているものである。
【0011】
また、本発明に係る鉄筋の接合構造は、前記鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋のうち、前記一方の鉄筋の余長部から離れた位置にある主筋を前記反力鉄筋とするとともに、前記反力鉄筋と前記一方の鉄筋の余長部とを前記変形拘束部材で環状に取り囲んだものである。
【0012】
また、本発明に係る鉄筋の接合構造は、前記変形拘束部材をせん断補強筋としたものである。
【0013】
また、本発明に係る鉄筋の接合構造は、前記鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋のうち、前記一方の鉄筋の余長部から離れた位置にある主筋を前記反力鉄筋とするとともに、前記変形拘束部材の一端に設けられた係止部を前記反力鉄筋に係止し、他端に設けられた係止部を前記一方の鉄筋の余長部に係止したものである。
【0014】
また、本発明に係る鉄筋の接合構造は、前記変形拘束部材を巾止め筋としたものである。
【0015】
また、本発明に係る鉄筋の接合構造は、前記鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋のうち、前記一方の鉄筋の余長部と隣り合う他方の鉄筋を前記反力鉄筋とするとともに、前記変形拘束部材を、前記2本の鉄筋が並列状態で保持される保持部材で構成したものである。
【0016】
本発明に係る鉄筋の接合構造においては、2本の鉄筋を筒体の両端開口からそれぞれ挿入し、かかる状態で楔挿通孔に楔部材を挿通して2本の鉄筋の間に圧入することにより、2本の鉄筋を互いに接合して鉄筋コンクリート部材の少なくとも一部の主筋とする場合において、鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋を反力鉄筋として該反力鉄筋から反力をとってこれを一方の鉄筋の余長部に伝達することが可能な変形拘束部材を備えており、かかる変形拘束部材は、余長部が筒体の回転に伴って他方の鉄筋から離間しようとする変形を抑制することができるようになっている。
【0017】
従来、2本の鉄筋に引張力が作用したとき、それらの材軸がずれていることに起因して筒体が回転するとともに、その筒体の回転が大きくなるに伴って一方の鉄筋の余長部が他方の鉄筋から離間する方向に跳ね上がる変形を生じたが、本発明に係る鉄筋の接合構造においては、反力鉄筋からとった反力が変形拘束部材を介して余長部に作用するため、余長部の跳ね上がりが大幅に抑制されるとともに、余長部の跳ね上がり抑制に伴い、筒体の回転変形も抑制される。
【0018】
かくして、2本の鉄筋に大きな引張力が作用しても、一方の鉄筋の余長部が他方の鉄筋から離間しようとする跳ね上がりの変形が防止されることとなり、かかる跳ね上がりに起因したコンクリートのひび割れや剥落を未然に防止することが可能となる。
【0019】
余長部とは、各鉄筋のうち、筒体から突出している部分を指す。
【0020】
鉄筋コンクリート部材としては、柱、梁が典型例として含まれるが、いかなる部位についても本発明を適用することが可能であるとともに、矩形断面や円形断面のみならず、あらゆる形状の断面に本発明を適用可能である。
【0021】
反力鉄筋、すなわち一方の鉄筋の余長部が跳ね上がるのを抑えるために該余長部に作用させる反力をとるための鉄筋は、鉄筋コンクリート部材に埋設されている任意の鉄筋から適宜選択すればよいが、より大きく安定した反力をとるためには、主筋から反力をとるようにするのが望ましい。
【0022】
なお、変形拘束部材を介して一方の鉄筋の余長部に作用させる反力は反力鉄筋からとることになるが、その際、その反力は反力鉄筋と合わせてコンクリートと変形拘束部材との付着も少なからず寄与する。
【0023】
反力鉄筋を主筋とする場合においては、その主筋が継手を有する鉄筋であるのか継手を有さない鉄筋であるのかは問わないし、継手を有する場合であっても、その継手の形式は任意であって、余長部が属する一方の鉄筋と同様、上記筒体及び楔部材を用いて接合されていてもかまわないし、他の形式で接合されていてもかまわない。
【0024】
なお、反力鉄筋が主筋であってその主筋が上記筒体及び楔部材を用いて2本の鉄筋を接合してなる場合、後述するように一方の鉄筋と反力鉄筋との関係を逆にして、本発明を適用することが可能であり、かかる場合には、それぞれの変形拘束部材を共有することができる。
【0025】
変形拘束部材は、鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋を反力鉄筋として該反力鉄筋から反力をとってこれを一方の鉄筋の余長部に伝達することができる限り、その構成は任意である。
【0026】
第1の例としては、鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋のうち、一方の鉄筋の余長部から離れた位置にある主筋、すなわち上述した2本の鉄筋からなる主筋とは別の主筋を反力鉄筋とするとともに、反力鉄筋となる主筋と2本の鉄筋からなる主筋のうち、一方の鉄筋の余長部とを変形拘束部材で環状に取り囲んで構成することができる。
【0027】
かかる構成には、少なくとも以下の具体的構成が含まれる。
【0028】
i) 鉄筋コンクリート部材が矩形断面を有する梁の場合であって、4ヶ所ある隅部にそれぞれ主筋が配置されており、上端筋のうち、いずれか1本が2本の鉄筋からなる主筋となり、もう一方の上端筋が反力鉄筋となるケース。
【0029】
ii) 同じく下端筋の1本が2本の鉄筋からなる主筋となり、もう一方の下端筋が反力鉄筋となるケース。
【0030】
iii) 同じく上端筋の1本が2本の鉄筋からなる主筋となり、残りの3本が反力鉄筋となるケース。
【0031】
なお、iii)の場合には、せん断補強筋を変形拘束部材として利用することができる。
【0032】
また、鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋のうち、一方の鉄筋の余長部から離れた位置にある主筋を反力鉄筋とするとともに、変形拘束部材を、その一端に設けられた係止部が反力鉄筋に係止され、他端に設けられた係止部が2本の鉄筋からなる主筋のうち、一方の鉄筋の余長部に係止自在となるように構成することができる。
【0033】
かかる構成には、少なくとも以下の具体的構成が含まれる。
【0034】
iv) 鉄筋コンクリート部材が矩形断面を有する梁の場合であって、4ヶ所ある隅部にそれぞれ主筋が配置されており、上端筋の1本が2本の鉄筋からなる主筋となり、もう一方の上端筋が反力鉄筋となるケース
【0035】
v) 同じく下端筋の1本が2本の鉄筋からなる主筋となり、もう一方の下端筋が反力鉄筋となるケース
【0036】
なお、上述した具体的構成においては、巾止め筋を変形拘束部材として利用することができる。
【0037】
第2の例としては、鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋のうち、一方の鉄筋の余長部と隣り合う他方の鉄筋を反力鉄筋とするとともに、変形拘束部材を、2本の鉄筋が並列状態で保持される保持部材で構成する構成を挙げることができる。
【0038】
かかる構成は、2本の鉄筋からなる主筋のうち、一方の鉄筋の余長部の跳ね上がりを他方の鉄筋からの反力で抑え込むものであって、上述した第1の例とは異なり、力の伝達は、各主筋を構成する鉄筋同士に限られ、各主筋同士では力の伝達は行われない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明に係る鉄筋の接合構造の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0040】
(第1実施形態)
【0041】
図1は、本実施形態に係る鉄筋の接合構造を示した図であり、(a)は全体斜視図、(b)は断面図である。これらの図でわかるように、本実施形態に係る鉄筋の接合構造1は、2本の鉄筋5a,5bを筒体2及び楔部材4を用いて相互に接合するとともに、鉄筋コンクリート部材11の隅部4ヶ所にそれぞれ埋設して主筋15,16,17,18とし、これらの主筋15,16,17,18を変形拘束部材としてのせん断補強筋14で環状に取り囲んである。
【0042】
筒体2は図2でわかるように、長円状の断面形状を有し、湾曲内面が対向するように配置された一対の半円筒状壁部7,7と該一対の半円筒状壁部の対応縁部をつなぐ一対の平板状壁部8,8とからなり、2本の鉄筋5a,5bのうち、一方の鉄筋としての鉄筋5a及び他方の鉄筋としての鉄筋5bを、それらの先端から所定の長さ範囲だけ重ねた状態で両端の開口6a,6bからそれぞれ挿入できるようになっている。
【0043】
筒体2の一対の平板状壁部8,8には、楔部材4が挿通される楔挿通孔9,9を形成してあり、該楔挿通孔に楔部材4を挿通して鉄筋5a,5bの間に圧入することにより、鉄筋5a,5bを相互に接合できるようになっている。
【0044】
本実施形態に係る鉄筋の接合構造1は、上端筋である主筋15,16及び下端筋である17,18を全体として環状に取り囲むように変形拘束部材としてのせん断補強筋14を配置するとともに、せん断補強筋14の内周面が、筒体2から突出する鉄筋5aの余長部13の周面に当接するように配置することで、該余長部が筒体2の回転に伴って鉄筋5bから離間しようとする変形を抑制できるようになっている。
【0045】
すなわち、せん断補強筋14は、反力鉄筋である主筋16,17,18から反力をとるとともに、該反力のうち、主をなす主筋16からなる反力を、主筋15に属する余長部13に伝達することで、該余長部が鉄筋5bから離間しようとする変形を抑えるようになっている。
【0046】
同様に、せん断補強筋14は、反力鉄筋である主筋15,17,18から反力をとるとともに、該反力のうち、主をなす主筋15からなる反力を、主筋16に属する余長部13に伝達することで、該余長部が鉄筋5bから離間しようとする変形を抑えるようになっている。
【0047】
また、せん断補強筋14は、反力鉄筋である主筋15,16,18から反力をとるとともに、該反力のうち、主をなす主筋18からなる反力を、主筋17に属する余長部13に伝達することで、該余長部が鉄筋5bから離間しようとする変形を抑えるようになっている。
【0048】
また、せん断補強筋14は、反力鉄筋である主筋15,16,17から反力をとるとともに、該反力のうち、主をなす主筋17からなる反力を、主筋18に属する余長部13に伝達することで、該余長部が鉄筋5bから離間しようとする変形を抑えるようになっている。
【0049】
つまり、せん断補強筋14は、主筋15,16,17,18に属する各余長部13の変形を抑制するための変形拘束部材として共有されている。
【0050】
なお、筒体2からは、鉄筋5bも突出して鉄筋5aの余長部13と同様の余長部を形成するが、余長部13が鉄筋コンクリート部材11の表面に対向しているのに対し、鉄筋5bの余長部は、鉄筋コンクリート部材11の中心側に位置しているため、鉄筋5aの余長部13の跳ね上がりよりもその度合いは小さい。よって、余長部13の跳ね上がりに起因するコンクリートのひび割れや剥落は直接的な影響が小さいため、両者を区別するものとする。
【0051】
本実施形態に係る鉄筋の接合構造1を構築するには、まず、筒体2の一方の開口6aから鉄筋5aを挿入するとともに、鉄筋5bの端部を筒体2の他方の開口6bから挿入する。このとき、鉄筋5a,5bがそれらの先端から所定長だけ重ねて配置されるように、該鉄筋を筒体2に挿入する。
【0052】
次に、楔部材4を楔挿通孔9,9に通してこれを圧入する。圧入にあたっては、従来公知の楔打込み機を適宜選択して用いればよい。
【0053】
図3は、本実施形態に係る鉄筋の接合構造1の作用を示した図である。鉄筋コンクリート部材11に曲げモーメントが発生し、例えば図3(a)に示すように上端筋15,16に引張力が作用すると、鉄筋5a,5bの材軸がずれていることに起因して筒体2が回転するとともに、それに伴い、鉄筋5aの余長部13は同図一点鎖線で示すように、鉄筋5bから離間する方向に跳ね上がろうとする。
【0054】
しかし、本実施形態においては、上端筋である主筋15,16及び下端筋である17,18を全体として環状に取り囲むように、かつ筒体2から突出する鉄筋5aの余長部13の周面に内周面が当接するようにせん断補強筋14を配置してある。
【0055】
そのため、筒体2の回転に伴って鉄筋5bから離間しようとする余長部13の変形は、せん断補強筋14によって拘束される。
【0056】
以上説明したように、本実施形態に係る鉄筋の接合構造1によれば、2本の鉄筋5a,5bを筒体2の両端開口6a,6bからそれぞれ挿入し、かかる状態で楔挿通孔9,9に楔部材4を挿通して2本の鉄筋5a,5bの間に圧入することにより、これら2本の鉄筋を互いに接合して鉄筋コンクリート部材11の主筋15〜18とする場合において、鉄筋コンクリート部材11に埋設された反力鉄筋としての主筋15〜18から反力をとってこれをせん断補強筋14を介して余長部13に伝達するようにしたので、筒体2の回転に伴って余長部13が鉄筋5bから離間しようとする変形を抑制することが可能となる。
【0057】
従来、2本の鉄筋に大きな引張力が作用したとき、図3(b)に示すように、それらの材軸がずれていることに起因して筒体が大きく回転するとともに、それに伴って一方の鉄筋の余長部が他方の鉄筋から離間する方向に跳ね上がる変形を生じ、これが原因でコンクリートの剥落やひび割れが生じていた。
【0058】
しかし、本実施形態に係る鉄筋の接合構造1においては、反力鉄筋からとった反力がせん断補強筋14を介して余長部13に作用するため、該余長部の跳ね上がりは図3(c)に示すように大幅に抑制されるとともに、それに伴い、筒体2の回転変形も抑制される。
【0059】
かくして、2本の鉄筋5a,5bに大きな引張力が作用しても、一方の鉄筋5aの余長部13が他方の鉄筋5bから離間しようとする跳ね上がりの変形が防止されることとなり、かかる跳ね上がりの動きに起因したコンクリートのひび割れや剥落を未然に防止することが可能となる。
【0060】
本実施形態では、変形拘束部材としてせん断補強筋14を用いたが、本発明に係る変形拘束部材は、鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋を反力鉄筋として該反力鉄筋から反力をとってこれを一方の鉄筋の余長部に伝達することができれば、その構成は任意であり、せん断補強筋14に代えて、例えば鋼製の帯状部材を用いることができる。
【0061】
また、本実施形態では、変形拘束部材であるせん断補強筋14を1本配設した例を示したが、特段これに限定されるものではなく、せん断補強筋14を複数本用いても良い。その場合には、余長部13が他方の鉄筋5bから離間しようとする変形を複数のせん断補強筋14で拘束することになり、確実にその変形を抑制することができる。
【0062】
また、本実施形態では、各主筋15〜18が変形拘束部材であるせん断補強筋14を共有するようにしたが、鉄筋の接合位置が主筋15〜18で揃っていない場合には、図4に示すように各主筋15〜18ごとにせん断補強筋14を個別に設けるようにしてもよい。
【0063】
また、本実施形態では、主筋15〜18を環状に取り囲んでいるせん断補強筋14を利用すべく、主筋15の反力鉄筋を主筋16,17,18とするなど、各主筋に対して3本の主筋を反力鉄筋としたが、鉄筋コンクリート部材内の鉄筋のうち、いずれの鉄筋を反力鉄筋とするかは任意であり、上述の実施形態に代えて、図5に示すように、変形拘束部材21の内周面が上端筋15,16に属する各余長部13の周面に当接されるように、これらの上端筋15,16を変形拘束部材21で環状に取り囲むようにするとともに、同様にして下端筋17,18を変形拘束部材21で環状に取り囲むようにしてもよい。
【0064】
かかる構成においては、主筋15の反力鉄筋が主筋16、主筋16の反力鉄筋15、主筋17の反力鉄筋が主筋18、主筋18の反力鉄筋が主筋17となる。
【0065】
変形拘束部材21は、鉄筋や鋼製の帯状部材で構成することができる。
【0066】
また、主筋を変形拘束部材で環状に取り囲む構成に代えて、図6に示すように、直棒状本体32の両端に係止部33,33が設けられてなる変形拘束部材としての巾止め筋31を鉄筋コンクリート部材11に上下二段になるように配置し、上段の巾止め筋31については、一方の係止部33が主筋15に、他方の係止部が主筋16に係止されるように、下段の巾止め筋31については、一方の係止部33が主筋17に、他方の係止部が主筋18に係止されるように、該巾止め筋をそれぞれ配置するようにしてもよい。
【0067】
かかる変形例においては、主筋15の反力鉄筋が主筋16、主筋16の反力鉄筋が主筋15、主筋17の反力鉄筋が主筋18、主筋18の反力鉄筋が主筋17となって、主筋15,16,17,18に属する余長部13の変形が抑制される。
【0068】
(第2実施形態)
【0069】
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0070】
図7は、本実施形態に係る鉄筋の接合構造を示した全体斜視図である。同図でわかるように、本実施形態に係る鉄筋の接合構造71は、2本の鉄筋5a,5bを筒体2及び楔部材4を用いて相互に接合するとともに、鉄筋コンクリート部材11の隅部4ヶ所にそれぞれ埋設して主筋15,16,17,18とし、これらの主筋に変形拘束部材としての保持部材72をそれぞれ設けてある。
【0071】
保持部材72は、2本の鉄筋5a,5bが筒体2に挿通された状態で、鉄筋5aの筒体2からの余長部73aと該余長部に隣接する鉄筋5bとを相互に連結するとともに、鉄筋5bの筒体2からの余長部73bと該余長部に隣接する鉄筋5aとを相互に連結することで、余長部73aに対する反力鉄筋が鉄筋5b、余長部73bに対する反力鉄筋が鉄筋5aとなって、余長部73aと鉄筋5b、及び余長部73bと鉄筋5aとの離間方向の動きを拘束するようになっている。
【0072】
保持部材72は例えば、図8に示すように、鉄筋5a,5bが並列状態で保持される環状部材で構成してあり、例えば筒体2と断面形状が同一の鋼製リングで構成することができる。
【0073】
本実施形態に係る鉄筋の接合構造71を構築するにあたっては、第1実施形態と同様に鉄筋5a,5bを筒体2に挿通するが、該挿通作業の際、保持部材72にも鉄筋5a,5bを挿通しておく。
【0074】
次に、楔部材4を楔挿通孔9,9に通してこれを圧入する。圧入にあたっては、従来公知の楔打込み機を適宜選択して用いればよい。次に、番線による結束その他の公知の固定手段によって保持部材72を鉄筋5a、5bに固定する。
【0075】
図9は、本実施形態に係る鉄筋の接合構造71の作用を示した図である。鉄筋コンクリート部材11に曲げモーメントが発生し、例えば図9(a)に示すように上端筋15に引張力が作用すると、鉄筋5a,5bの材軸がずれていることに起因して筒体2が回転するとともに、その筒体2の回転が大きくなるに伴い、鉄筋5aの余長部73aは同図一点鎖線で示すように、鉄筋5bから離間する方向に跳ね上がろうとし、鉄筋5bの余長部73bは同図一点鎖線で示すように、鉄筋5aから離間する方向に跳ね上がろうとするが、本実施形態では、かかる跳ね上がりの動きが保持部材72によって拘束される。
【0076】
以上説明したように、本実施形態に係る鉄筋の接合構造71によれば、鉄筋5aの筒体2からの余長部73aと該余長部に隣接する鉄筋5bとを保持部材72で相互に連結するとともに、鉄筋5bの筒体2からの余長部73bと該余長部に隣接する鉄筋5aとを保持部材72で相互に連結するようにしたので、余長部73aと鉄筋5b、及び余長部73bと鉄筋5aとの離間方向の変形は、図9(b)に示すように大幅に抑制されるとともに、それに伴い、筒体2の回転変形も抑制される。
【0077】
かくして、2本の鉄筋5a,5bに大きな引張力が作用しても、鉄筋5aの余長部73aが他方の鉄筋5bから離間し、あるいは鉄筋5bの余長部73bが鉄筋5aから離間しようとする跳ね上がりの変形が防止されることとなり、かかる跳ね上がりの動きに起因したコンクリートのひび割れや剥落を未然に防止することが可能となる。
【0078】
本実施形態では、鉄筋5aの筒体2からの余長部73aと該余長部に隣接する鉄筋5bとを保持部材72で相互に連結するとともに、鉄筋5bの筒体2からの余長部73bと該余長部に隣接する鉄筋5aとを保持部材72で相互に連結することにより、2つの保持部材72,72による筒体2の回転抑制、ひいては余長部73aの跳ね上がりをより確実に防止するようにしたが、余長部73aの拘束だけで足りるのであれば、鉄筋コンクリート部材11の中心側に位置する余長部73bの保持部材72による拘束を省略してもよい。
【0079】
また、本実施形態では、鉄筋5a,5bの余長部73a,73bをそれぞれ隣接する鉄筋5a,5bに保持部材72としての環状部材で連結する例を示したが、特段環状の部材に限定されるものではなく、例えば、C字状の部材やコの字状の部材でも良い。その場合には、鉄筋5a,5bの余長部73a,73bとそれらに隣接する鉄筋5a,5bにそれぞれ係合させることになる。このような構成においても、余長部73a,73bが鉄筋5a,5bから離間しようとする跳ね上がりの変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】第1実施形態に係る鉄筋の接合構造の図であり、(a)は全体斜視図、(b)は断面図。
【図2】鉄筋の接合構造1において鉄筋5a,5bを筒体2に挿通した様子を示した図であり、(a)は平面図、(b)はA−A線に沿う断面図。
【図3】第1実施形態に係る鉄筋の接合構造における作用を説明した平面図。
【図4】変形例に係る鉄筋の接合構造を示した全体斜視図。
【図5】別の変形例を示した断面図。
【図6】同じく別の変形例を示した断面図。
【図7】第2実施形態に係る鉄筋の接合構造を示した全体斜視図。
【図8】鉄筋の接合構造71において鉄筋5a,5bを筒体2に挿通した様子を示した図であり、(a)は平面図、(b)はB−B線に沿う断面図、(c)はC−C線に沿う断面図。
【図9】第2実施形態に係る鉄筋の接合構造における作用を説明した平面図。
【符号の説明】
【0081】
1,71 鉄筋の接合構造
2 筒体
4 楔部材
5a 一方の鉄筋
5b 他方の鉄筋
6a,6b 開口
9 楔挿通孔
11 鉄筋コンクリート部材
13 余長部
14 せん断補強筋(変形拘束部材)
15,16,17,18 主筋、反力鉄筋
21,31 変形拘束部材
72 保持部材(変形拘束部材)
73a,73b 余長部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の鉄筋がそれらの先端から所定の長さ範囲で重ねて配置されるように該2本の鉄筋を断面形状が長円状をなす筒体の両端開口からそれぞれ挿入するとともに、該筒体を構成する壁部のうち、対向する一対の平板状壁部にそれぞれ形成された楔挿通孔に楔部材を挿通して前記2本の鉄筋の間に圧入することにより、前記2本の鉄筋を相互に接合して鉄筋コンクリート部材の少なくとも一部の主筋とし、該鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋を反力鉄筋として該反力鉄筋から反力をとるとともに該反力を、前記2本の鉄筋のうち、一方の鉄筋の余長部に伝達することが可能な変形拘束部材を備えてなり、該変形拘束部材は、前記余長部が前記筒体の回転に伴って他方の鉄筋から離間しようとする変形を抑制することができるようになっていることを特徴とする鉄筋の接合構造。
【請求項2】
前記鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋のうち、前記一方の鉄筋の余長部から離れた位置にある主筋を前記反力鉄筋とするとともに、前記反力鉄筋と前記一方の鉄筋の余長部とを前記変形拘束部材で環状に取り囲んだ請求項1記載の鉄筋の接合構造。
【請求項3】
前記変形拘束部材をせん断補強筋とした請求項2記載の鉄筋の接合構造。
【請求項4】
前記鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋のうち、前記一方の鉄筋の余長部から離れた位置にある主筋を前記反力鉄筋とするとともに、前記変形拘束部材の一端に設けられた係止部を前記反力鉄筋に係止し、他端に設けられた係止部を前記一方の鉄筋の余長部に係止した請求項1記載の鉄筋の接合構造。
【請求項5】
前記変形拘束部材を巾止め筋とした請求項4記載の鉄筋の接合構造。
【請求項6】
前記鉄筋コンクリート部材に埋設された所定の鉄筋のうち、前記一方の鉄筋の余長部と隣り合う他方の鉄筋を前記反力鉄筋とするとともに、前記変形拘束部材を、前記2本の鉄筋が並列状態で保持される保持部材で構成した請求項1記載の鉄筋の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−95952(P2010−95952A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269252(P2008−269252)
【出願日】平成20年10月19日(2008.10.19)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】