説明

鉄筋コンクリート部材の製造方法

【課題】コストダウンを図りつつひび割れを防止する上で有利な鉄筋コンクリート部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】型枠30内に鉄筋12を配筋し、次に、型枠30内にコンクリートCを打設し、養生槽40内において養生を行なう。この養生は、第1、第2の養生を含む。第1の養生は、コンクリート打設時から水和熱によりコンクリートCの温度が次第に上昇してピークとなるまでの間、予想最高温度での養生である。第2の養生は、温度上昇のピーク後にコンクリートCの温度が次第に下降していく際に、鉄筋コンクリート部材10の断面の中心温度の下降に追従して、下降する鉄筋コンクリート部材10の断面の中心温度と同じ温度での養生である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄筋コンクリート部材の製造方法に関し、より詳細には、高強度コンクリートを用いた鉄筋コンクリート部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
普通強度コンクリートの自己収縮ひずみは小さく、鉄筋の拘束によって生じる応力も小さい値であり、鉄筋コンクリート部材の耐久性、使用性、耐震性に及ぼす影響は小さいと問題視されていない。
しかしながら、高強度コンクリート、特に設計基準強度F=120N/mm程度級あるいはそれを超える高強度コンクリートにおいては非常に自己収縮ひずみが大きく、外力が加わらなくともひび割れが発生するほどの鉄筋による拘束応力が作用していることが徐々に認識されつつある。
また、コンクリートは硬化過程で水和熱を発するが、高強度コンクリートは水和熱による温度上昇が大きく、また、高強度コンクリートが用いられる部材断面は大きい場合が多いため、断面の中心と側面で温度差が大きくなり、断面内の部位のお互いが熱膨張・収縮を拘束し、温度応力を生じさることも分かってきている。
【0003】
そして、それら拘束応力と温度応力の合力(内部応力)が高強度コンクリートを用いた鉄筋コンクリート部材にひび割れを生じさせる可能性は非常に高いとされている。
しかし、高強度コンクリートを用いた鉄筋コンクリート部材を実用化するためには、内部応力によるひび割れ問題を解決する必要があるが、現状では明確な対策方法や品質管理方法、および施工方法は定まっていない(実施工で高強度コンクリートを用いる際は主にバケットを用いた現場打ちであり、現状では普通強度コンクリートと同様の施工および品質管理方法である)。
実用化する場合、施工性を向上させるためにPCa部材(プレキャスト部材)として高強度コンクリートを用いることが予想される。
しかし、普通強度コンクリートの場合は翌日脱型できるよう冬期は高温蒸気養生を行っているが、設計基準強度F=120N/mm程度級あるいはそれを超える高強度コンクリートの場合も同様の製造方法で品質が確保できるか確認がなされていない。
【0004】
高強度コンクリートを用いた鉄筋コンクリート部材(主に柱)には、コンクリートの自己収縮ひずみが鉄筋に拘束されることにより生じる拘束応力と、コンクリートの水和熱に起因する温度応力が同時に作用しており、その合力(内部応力)がひび割れ強度を超えた時、部材にはひび割れが生じる。
これは普通強度コンクリートを用いた鉄筋コンクリート部材では考慮しなくとも問題が無かったが、高強度コンクリートでは無視することができない特有の問題である。普通強度コンクリートと同様の方法で施工すると、ひび割れる可能性が非常に高い。
現場打ちの場合、高強度コンクリートは粘性が高く、ポンプ車による打設はできないので、バケット打ちとなるが、施工性が悪い。
また、高強度コンクリートは凝結が遅いため、PCa部材とする場合、高温蒸気養生等を実施しないと翌日脱型が難しい。しかし、従来と同様の方法で高温蒸気養生を行うと、自己収縮が急激に進み、同時に鉄筋とコンクリートの付着力が大きくなり、拘束応力が非常に大きくなってしまい、結果的に大きな内部応力が生じてひび割れてしまう危険性が高い。
従来、鉄筋コンクリート柱を製造するに際して、コンクリートを打設することでその断面の外側部分をまず製造し、つぎに、この外側部分を型枠としてその内部にコンクリートを打設することで断面の内側部分を製造する方法が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本コンクリート工学協会発行、「コンクリート工学」、vol40、NO10、13頁〜20頁、2002年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この製造方法では、2回にわたってコンクリートを打設することから、養生期間も2倍となり、簡単に鉄筋コンクリート部材を製造できず、コストダウンを図ることができない問題があった。
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、簡単に確実に鉄筋コンクリート部材を製造でき、コストダウンを図りつつひび割れを防止する上で有利な鉄筋コンクリート部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため請求項1記載の発明は、型枠内に鉄筋を配筋しコンクリートを打設して養生することで製造する鉄筋コンクリート部材の製造方法であって、前記型枠内に配筋した前記鉄筋の温度を高温にして前記鉄筋に熱膨張による引張ひずみを生じさせておき、その状態で前記型枠内にコンクリートを打設するようにしたことを特徴とする。
また、請求項2記載の発明は、型枠内に鉄筋を配筋しコンクリートを打設して養生することで製造する鉄筋コンクリート部材の製造方法であって、前記養生は、コンクリート打設時から水和熱によりコンクリートの温度が次第に上昇して最高温度になるまでの間、そのコンクリートの水和熱による温度上昇の予想最高温度で養生する第1の養生と、前記コンクリートが水和熱により最高温度になったのちコンクリートの温度が次第に下降していく際に、前記鉄筋コンクリート部材の断面の中心温度の下降に追従して、下降する前記鉄筋コンクリート部材の断面の中心温度と同じ温度で養生する第2の養生とを含んでいることを特徴とする。
また、請求項3記載の発明は、型枠内に鉄筋を配筋しコンクリートを打設して養生することで製造する鉄筋コンクリート部材の製造方法であって、前記型枠内に配筋した前記鉄筋の温度を高温にして前記鉄筋に熱膨張による引張ひずみを生じさせておき、その状態で前記型枠内にコンクリートを打設し、前記養生は、コンクリート打設時から水和熱によりコンクリートの温度が次第に上昇して最高温度になるまでの間、そのコンクリートの水和熱による温度上昇の予想最高温度で養生する第1の養生と、前記コンクリートが水和熱により最高温度になったのちコンクリートの温度が次第に下降していく際に、前記鉄筋コンクリート部材の断面の中心温度の下降に追従して、下降する前記鉄筋コンクリート部材の断面の中心温度と同じ温度で養生する第2の養生とを含んでいる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、コンクリート収縮時の鉄筋の拘束力を極力低減でき、ひび割れを防止しつつ簡単かつ確実に鉄筋コンクリート部材を製造でき、鉄筋コンクリート部材のコストダウンを図る上で有利となる。
また、請求項2記載の発明によれば、コンクリート硬化時における部材の内部と表面との温度差が極力小さくでき、ひび割れを防止しつつ簡単かつ確実に鉄筋コンクリート部材を製造でき、鉄筋コンクリート部材のコストダウンを図る上で有利となる。
また、請求項3記載の発明によれば、コンクリート収縮時の鉄筋の拘束力を極力低減でき、かつ、コンクリート硬化時における部材の内部と表面との温度差が極力小さくでき、コストを低減しつつひび割れを防止する上でより一層有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施の形態の製造方法により製造される鉄筋コンクリート部材の斜視図である。
【図2】型枠内に鉄筋を配筋した説明図である。
【図3】型枠内にコンクリートを打設し、養生槽で養生を行なう説明図である。
【図4】鉄筋コンクリート部材の中心温度と第1、第2の養生との説明図である。
【図5】(A)は従来の通常の製造方法における鉄筋、コンクリートのひずみと時間との関係線図、(B)は実施の形態の製造方法における鉄筋、コンクリートのひずみと時間との関係線図である。
【図6】(A)は従来の通常の製造方法における断面の温度分布図、(B)は実施の形態の製造方法における断面の温度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。
本実施の形態の製造方法により図1に示す鉄筋コンクリート部材10が製造され、鉄筋コンクリート部材10は、断面の縦横の寸法よりも大きな寸法の軸方向長さを有しコンクリート中Cに、配筋された多数の鉄筋12が埋設されて構成されている。
【0011】
まず、鉄筋コンクリート部材10を製造するに際して、図2に示すように、型枠30内に鉄筋12を配筋し、配筋した鉄筋12の温度を高温にし、鉄筋12に熱膨張による引張ひずみを生じさせておく。
本実施の形態では、この場合の高温は、鉄筋コンクリート部材10の温度が水和熱によりコンクリート打設時から次第に上昇してピークとなる鉄筋コンクリート部材10の断面の中心の最高温度であり、予め測定した値であり、あるいは計算に求めた値である予想最高温度である。
また、型枠30も、鉄筋12と同様に、予想最高温度にしておく。
なお、型枠30は、鉄筋コンクリート部材10の軸方向が水平方向に向くように形成しておき、これによりコンクリートを横打ちすることによりコンクリート内の圧力が小さくなり、自己収縮ひずみが小さくなることが期待できる。
また、型枠30と鉄筋12は、鉄筋12が型枠30の拘束を受けることなく熱膨張できるように、お互いに自由に伸縮できるようにしておく。
【0012】
次に、図3に示すように、型枠30内にコンクリートCを打設し、養生槽40内において養生を行なう。コンクリートCは、設計基準強度F=120N/mm程度級あるいはそれを超える高強度コンクリートである。
養生槽40では、予め養生槽40内の温度すなわち養生温度を前記予想最高温度にしておく。
本実施の形態では、上記の鉄筋12および型枠30が養生槽40内に入れられることで前記予想最高温度にされている。
そして、図4に示すように、コンクリート打設時から水和熱によりコンクリートCの温度が次第に上昇してピークとなるまでの間、前記予想最高温度で養生する第1の養生をおこなう。
さらに、温度上昇のピーク後にコンクリートCの温度が次第に下降していく際に、鉄筋コンクリート部材10の断面の中心温度の下降に追従して、下降する鉄筋コンクリート部材10の断面の中心温度と同じ温度で養生する第2の養生をおこなう。
【0013】
図5(A)に従来の通常の製造方法における鉄筋、コンクリートのひずみと時間との関係線図を示し、(B)に実施の形態の製造方法における鉄筋、コンクリートのひずみと時間との関係線図を示し、図6(A)に従来の通常の製造方法における断面の温度分布図を示し、(B)に実施の形態の製造方法における断面の温度分布図を示す。
図5、図6に示すように、本実施の形態の製造方法によれば、鉄筋12に熱膨張による引張ひずみを生じさせた状態でコンクリートCを打設するので、常温より鉄筋ひずみのゼロ点が引張側へシフトし、さらにコンクリートが水和熱で膨張する際にコンクリートとの付着によって鉄筋が引き伸ばされ(高温であるため付着力が通常より発現が早い)、コンクリートの収縮により鉄筋が収縮しても圧縮ひずみが小さくなり、鉄筋による拘束応力を小さく抑えることが可能となり、ひび割れが発生する可能性を低減できる。したがって、ひび割れを防止しつつ簡単かつ確実に鉄筋コンクリート部材10を製造でき、鉄筋コンクリート部材10のコストダウンを図る上で有利となる。
また、本実施の形態の製造方法によれば、第1の養生と第2の養生により、型枠30内にコンクリートCが打設された時点から養生終了後まで常に鉄筋コンクリート部材10の断面の中心と側面付近の温度差を小さく抑えることができ、言い換えると、断面内の温度分布を均一に保つことができ、これにより内部拘束ひずみ( 温度による膨張収縮を互いに拘束するために生じるひずみ)を小さくし、温度応力を低減することが可能となり、ひび割れが発生する可能性を低減できる。したがって、ひび割れを防止しつつ簡単かつ確実に鉄筋コンクリート部材10を製造でき、鉄筋コンクリート部材10のコストダウンを図る上で有利となる。
さらに、本実施の形態の製造方法によれば、鉄筋12に熱膨張による引張ひずみを生じさせた状態でコンクリートCを打設し、かつ、第1の養生と第2の養生を行なうので、それらの効果によって内部応力が低減され、ひび割れが発生する可能性をより一層低減する上で、また、コストダウンを図る上でより一層有利となる。
また、設計基準強度F=120N/mm程度級あるいはそれを超える高強度コンクリートを用いたPCa部材でも、第1の養生と第2の養生とにより高温養生が行なわれるため、コンクリートの硬化が促進され、翌日脱型も可能となり、したがって、短期間で鉄筋コンクリート部材を製造でき、コストダウンを図る上で有利となる。
【0014】
なお、本発明で製造される鉄筋コンクリート部材は、鉄筋コンクリート柱部材、鉄筋コンクリート梁部材などの部材を広く含むものである。
【符号の説明】
【0015】
10……鉄筋コンクリート部材、12……鉄筋、30……型枠、40……養生槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠内に鉄筋を配筋しコンクリートを打設して養生することで製造する鉄筋コンクリート部材の製造方法であって、
前記型枠内に配筋した前記鉄筋の温度を高温にして前記鉄筋に熱膨張による引張ひずみを生じさせておき、その状態で前記型枠内にコンクリートを打設するようにした、
ことを特徴とする鉄筋コンクリート部材の製造方法。
【請求項2】
型枠内に鉄筋を配筋しコンクリートを打設して養生することで製造する鉄筋コンクリート部材の製造方法であって、
前記養生は、
コンクリート打設時から水和熱によりコンクリートの温度が次第に上昇して最高温度になるまでの間、そのコンクリートの水和熱による温度上昇の予想最高温度で養生する第1の養生と、
前記コンクリートが水和熱により最高温度になったのちコンクリートの温度が次第に下降していく際に、前記鉄筋コンクリート部材の断面の中心温度の下降に追従して、下降する前記鉄筋コンクリート部材の断面の中心温度と同じ温度で養生する第2の養生と、
を含んでいることを特徴とする鉄筋コンクリート部材の製造方法。
【請求項3】
型枠内に鉄筋を配筋しコンクリートを打設して養生することで製造する鉄筋コンクリート部材の製造方法であって、
前記型枠内に配筋した前記鉄筋の温度を高温にして前記鉄筋に熱膨張による引張ひずみを生じさせておき、その状態で前記型枠内にコンクリートを打設し、
前記養生は、
コンクリート打設時から水和熱によりコンクリートの温度が次第に上昇して最高温度になるまでの間、そのコンクリートの水和熱による温度上昇の予想最高温度で養生する第1の養生と、
前記コンクリートが水和熱により最高温度になったのちコンクリートの温度が次第に下降していく際に、前記鉄筋コンクリート部材の断面の中心温度の下降に追従して、下降する前記鉄筋コンクリート部材の断面の中心温度と同じ温度で養生する第2の養生と、
を含んでいることを特徴とする鉄筋コンクリート部材の製造方法。
【請求項4】
前記鉄筋に熱膨張による引張ひずみを生じさせる際に高温にする前記鉄筋の温度は、コンクリートの水和熱による温度上昇の予想最高温度であることを特徴とする請求項1または3記載の鉄筋コンクリート部材の製造方法。
【請求項5】
前記鉄筋コンクリート部材は断面の縦横の寸法よりも大きな寸法の軸方向長さを有し、
前記鉄筋コンクリート部材は前記型枠内でその軸方向長さを水平にしてコンクリートが打設されることを特徴とする請求項1乃至4に何れか1項記載の鉄筋コンクリート部材の製造方法。
【請求項6】
前記コンクリートは、設計基準強度F=120N/mm程度級あるいはそれを超える高強度コンクリートであることを特徴とする請求項1乃至5に何れか1項記載の鉄筋コンクリート部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−68146(P2011−68146A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4465(P2011−4465)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【分割の表示】特願2006−104873(P2006−104873)の分割
【原出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】