説明

鉄臭味マスキング方法

【課題】本発明は、液体組成物が有する鉄臭味に対する新規なマスキング方法及び鉄臭味がマスキングされた鉄含有液体組成物を提供する。
【解決手段】本発明の鉄臭味マスキング方法は、鉄臭味を有する液体組成物に増粘多糖類を添加することにより、その鉄臭味を抑えることができ、非常に有用である。そのようにしてつくられた本発明液体組成物は、鉄由来の不快な味及び臭いが軽減されて、飲用しやすく、不快な後味が残らないことから、鉄含有組成物、特に貧血等の予防・治療用の組成物として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体状の組成物が有する鉄臭味に対する新規なマスキング方法及び鉄臭味がマスキングされた鉄含有液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄は、生命を維持する上で不可欠な必須微量栄養素の一つであって、主に血液中の赤血球のヘモグロビン、肝臓中のフェリチン、筋肉組織中のミオグロビンに分布し、体内組織への酸素の運搬や細胞内のエネルギー産生等の重要な働きに関与している。従って、生体内において鉄が不足すると、貧血症、胃腸障害、思考力低下、神経過敏などの症状が生じることが知られているが、平成16年国民栄養調査によると、日本人の鉄の摂取量は不足傾向にあり、1日当たりの鉄の栄養所要量を充足させることは大変重要である。
【0003】
そのため、従来より鉄含量を強化した液体状の医薬品や栄養補助食品等の開発が進められてきた。特に内服液剤は服用が容易であることから、広く実用に供されているが、鉄の場合、その独特の味及び臭い(鉄臭味)のため水溶液で経口的に補給するのには向いておらず、この問題を解決するために、鉄臭味をマスキングする工夫が種々研究されている。
【0004】
例えば、水溶性食物繊維(特許文献1参照)、オイゲノール及び/又はL型アミノ酸塩並びにグルコン酸塩(特許文献2参照)、非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料(特許文献3参照)、地黄及びキシリトール(特許文献4参照)、当帰(特許文献5参照)、ブドウ糖(特許文献6参照)、ショ糖(特許文献7参照)、非還元性物質(特許文献8参照)、トレハロース(特許文献9参照)、スクラロース(特許文献10参照)、酢酸、グルコン酸及び乳酸から選ばれる少なくとも1種の酸味料(特許文献11参照)、難消化性デキストリン(特許文献12参照)、非イオン界面活性剤(特許文献13参照)、ムコ多糖類(特許文献14参照)、コラーゲン、蓄肉、魚肉、とうもろこし、又は小麦由来のペプチド(特許文献15参照)、酵母及び/又は酵母エキス(特許文献16参照)、綵c1‐アミノ酪酸(特許文献17参照)、シクロフラクタン(特許文献18参照)、イノシトール(特許文献19参照)を、各々、鉄を含有する内服液剤等に添加することにより、鉄臭味のマスキング効果が得られることが開示されている。しかし、増粘剤が鉄臭味を有する内服液剤等の液体組成物において鉄臭味マスキング剤として機能することは、これまでに報告されていない。特許文献1では有機溶媒を含有する水溶液中でペクチン等の水溶性色基線維と鉄化合物を混合して乾燥して得られる鉄呈味低減健康飲食品が記載されているが、液体組成物における鉄臭味のマスキング方法を提供するものではない。
【0005】
【特許文献1】特開平05−123136号公報
【特許文献2】特開平10−101570号公報
【特許文献3】特開平11−178543号公報
【特許文献4】特開2000−169385号公報
【特許文献5】特開2000−226327号公報
【特許文献6】特開2000−239153号公報
【特許文献7】特開2000−239154号公報
【特許文献8】特開2000−239155号公報
【特許文献9】特開2000−239156号公報
【特許文献10】特開2000−239173号公報
【特許文献11】特開2000−279143号公報
【特許文献12】特開2001−316246号公報
【特許文献13】特開2002−080347号公報
【特許文献14】特開2002−161040号公報
【特許文献15】特開2004−315439号公報
【特許文献16】特開2004−315440号公報
【特許文献17】特開2004−315441号公報
【特許文献18】特開2004−337133号公報
【特許文献19】特開2005−255653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、増粘多糖類を添加することを特徴とする液体組成物の鉄臭味マスキング方法及び鉄臭味がマスキングされた鉄含有液体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
液体組成物における鉄臭味のマスキング方法について本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、鉄臭味を有する液体状組成物に、増粘多糖類を低濃度で添加することによって、該液体組成物の鉄臭味をマスキングできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明の鉄臭味マスキング方法は、鉄臭味を有する液体組成物に増粘多糖類を少量添加するという簡便な方法によって、その鉄臭味が抑えられて摂取しやすく、また不快な後味の残らないものとすることができるため、非常に有用である。従来知られている鉄臭味マスキン剤にはそれ自体にも独特の不快な味を呈していたり、また、特に医薬品等の場合には、安全性の面から添加できる成分や、その配合量にも制限があったりするが、本発明における増粘多糖類の添加による鉄臭味マスキング方法は、少量の添加で効果を奏するので、そのような点においても問題がなく、非常に実用性の高いものである。本発明鉄臭味マスキング方法によって、鉄由来の不快な味及び臭いが軽減されて、飲用しやすく、不快な後味が残らない鉄含有液体組成物を提供することが可能となり、貧血等の予防に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、増粘多糖類を添加することを特徴とする液体組成物の鉄臭味マスキング方法であり、さらに該マスキング方法によって鉄臭味が抑えられた鉄含有液体組成物に関するものである。
本発明臭味マスキング剤において用いられる増粘多糖類とは、水に溶解すると粘性を示したり、ゲル化したりする性質を持った水溶性の多糖類であり、一般に食品又は医薬品等で使用されるものを利用できる。例えば、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。増粘多糖類の添加割合は、添加する対象である鉄臭味を有する液体組成物に応じて適宜定めることができるが、本発明においては、低濃度でも目的とする鉄臭味の軽減効果が得られるので、通常のドリンク剤のような粘性のほとんど無い液体組成物を得るためには、液体組成物に対して0.01乃至1%(w/v)の添加量とすることができ、特に0.025乃至0.5%(w/v)の添加量が好ましい。
【0010】
本発明の鉄含有液体組成物において用いられる鉄化合物は、例えば、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、含糖酸化鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄等の水可溶性の鉄化合物が挙げられ、内服の使用前例のある医薬品としては、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、硫酸第一鉄が好ましく、特に、ドリンク剤等に実際に用いられているクエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄が本発明には好適である。その配合量は特に限定されるものではないが、その栄養素摂取量の面から考えると、鉄化合物中の鉄分に換算して、例えば、内服液剤50mL中鉄0.5乃至20mg(鉄0.001乃至0.04%(w/v))が好ましい。
【0011】
また、本発明の内服液剤等の液体組成物にはその他の成分として、ビタミン、ミネラル、アミノ酸及びその塩類、無水カフェイン等を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。更に、本発明の内服液剤には、通常、内服液剤の添加剤として用いられる種々の添加剤、例えば、甘味剤、嬌味剤、安定剤、pH調節剤、保存剤、可溶化剤、香料等を目的に応じて適宜添加することができる。
【実施例】
【0012】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0013】
ランダムに選んだ男女13名をパネラーとして官能検査を実施した。汎用の内服液剤の製造方法に従って、リボフラビン(ビタミンB2)リン酸エステルナトリウム3mg、ピリドキシン(ビタミンB6)塩酸塩25mg、ニコチン酸アミド30mg、無水カフェイン50mg、グルコン酸カルシウム1000mg、クエン酸鉄アンモニウム20mg(鉄として3mg)、L‐アスパラギン酸カリウム100mg、L‐アスパラギン酸マグネシウム100mg、タウリン(アミノエチルスルホン酸)800mgの成分を含有し、液糖、クエン酸、DL‐リンゴ酸、カラメル、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸ブチル、エタノール、香料を適宜添加して製造した水溶液50mLに、0.1%(w/v)の濃度となるように増粘多糖類であるペクチン又はキサンタンガムを添加し、2種類の試験液を調製した。尚、同様に作成し増粘多糖類を添加していない水溶液を対照液として用いた。
【0014】
パネラーはこれら2種の試験液及び対照液を各々服用して鉄臭味について評価したところ、両試験液とも13人中10人が対照液と比較して鉄臭味が抑制されていると評した。残りの3人は特に変わりがないとの評価であった。また、0.05%(w/v)の濃度となるようにペクチン又はキサンタンガムを添加した上記と同じ組成の水溶液を調製して試飲を行った結果、同様に鉄臭味が抑制されているとの評価が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の鉄臭味マスキング方法は、鉄臭味を有する液体組成物に増粘多糖類を添加することにより、その鉄臭味を抑えるることができ、非常に有用である。そのようにしてつくられた本発明液体組成物は、鉄由来の不快な味及び臭いが軽減されて、飲用しやすく、不快な後味が残らないことから、鉄含有組成物、特に貧血等の予防・治療用の組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄臭味を有する液体組成物に増粘多糖類を添加することを特徴とする鉄臭味のマスキング方法。
【請求項2】
増粘多糖類を0.01乃至1%(w/v)の濃度で液体組成物に添加する請求項1記載の鉄臭味のマスキング方法。
【請求項3】
増粘多糖類を0.025乃至0.5%(w/v)の濃度で液体組成物に添加する請求項2記載の鉄臭味のマスキング方法。
【請求項4】
増粘多糖類が、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム及びカラギーナンからなる群より選ばれる1種または2種以上である請求項1乃至3のいずれか1項記載の鉄臭味のマスキング方法。
【請求項5】
鉄臭味を有する液体組成物が鉄0.001乃至0.4%(w/v)を鉄分として含有する請求項1乃至4のいずれか1項記載の鉄臭味のマスキング方法。
【請求項6】
鉄分が、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、含糖酸化鉄、塩化第二鉄及び硫酸第一鉄からなる群より選ばれる1種または2種以上である請求項5記載の鉄臭味のマスキング方法。
【請求項7】
鉄臭味をマスキングするための増粘多糖類を含有することを特徴とする液体組成物。
【請求項8】
増粘多糖類を0.01乃至1%(w/v)の濃度で含有する請求項7記載の液体組成物。
【請求項9】
増粘多糖類を0.025乃至0.5%(w/v)の濃度で含有する請求項8記載の液体組成物。
【請求項10】
増粘多糖類が、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム及びカラギーナンからなる群より選ばれる1種または2種以上である請求項7乃至9のいずれか1項記載の液体組成物。
【請求項11】
鉄0.001乃至0.4%(w/v)を鉄分として含有する請求項7乃至10のいずれか1項記載の液体組成物。
【請求項12】
鉄分が、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、含糖酸化鉄、塩化第二鉄及び硫酸第一鉄からなる群より選ばれる1種または2種以上である請求項11記載の液体組成物。
【請求項13】
貧血の予防または治療のためのものである請求項7乃至12のいずれか1項記載の液体組成物。

【公開番号】特開2008−7470(P2008−7470A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180616(P2006−180616)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000231796)日本臓器製薬株式会社 (23)
【Fターム(参考)】