説明

鉄道車両の車軸軸受の異常検知装置及びその方法

【課題】簡便な解析処理によって鉄道車両の車軸軸受の異常を検知できる車軸軸受異常検知装置及びその方法を提供する。
【解決手段】軌道上を走行する鉄道車両の側面に対向するように該軌道脇に設置され該鉄道車両の車軸軸受22の異常を検知するための検知装置である。長手方向軸に沿って略樋状の集音面5を有する集音壁4と、集音面5に対向して配置された単一の集音手段8と、からなる集音装置100を含む。この集音面5は、基準平面32上にある仮想放物線の一部と、中心軸12を含み基準平面32と直交する基準直交平面35上にあって仮想放物線と交差するとともに基準平面32上に長軸を有する仮想楕円の一部と、を少なくとも含む連続面からなる。また、集音手段8は仮想放物線の焦点と一致する仮想楕円の近焦点に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車軸軸受の異常を検知するための装置及びその検知方法に関し、特に、軌道上を走行する鉄道車両の側面に対向させて該軌道脇に設置され該鉄道車両の車軸軸受の異常を検知するための異常検知装置及びその検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行装置の一部である車軸軸受は、転動体を間に挟んでその軌道面を対峙させた外輪と内輪とを内部に含む。(なお、以下において、車軸軸受けを単に「軸受」と称することもある。)この転動体が外輪及び内輪の軌道面との間で荷重を与えられながら繰り返し接触すると、軌道面には転がり疲労によるはく離が生じ得る。また、この外輪及び内輪の軌道面には、はく離以外にも圧痕等による損傷を生じることもある。軌道面におけるこのようなはく離や圧痕等による車軸軸受の損傷、すなわち車軸軸受の異常は、軸受の回転不良や発熱に結びつき、ひいては車両の走行を阻害する。
【0003】
従来、車軸軸受の損傷の異常を検知する方法として、例えば特許文献1に開示されているように、各軸受に加速度センサーを取り付けて車軸の回転に伴って生じる軸受の機械的振動を直接測定する方法や、各軸受に温度センサーを取り付けて車軸の回転に伴って生じる軸受の温度を直接測定して、これらの測定データを解析しながら車軸軸受の異常を検知する方法が知られている。
【0004】
このような、いわゆる車両搭載型の異常検知装置による方法は、センサーを多数の車軸軸受に設置するために、その設置に多大の労力とコストとを必要とする。
【0005】
他方、軌道上を走行する鉄道車両の発する音などを軌道脇などで検知して、鉄道車両の車軸軸受の異常を検知するための異常検知装置及びその方法も知られている。
【0006】
例えば、特許文献2では、指向性マイクロホンをレールに対して斜めに設置するなどして、軸箱が測定可能区間に長い時間存在するようにして、その検知信号を解析することによって鉄道車両の車軸軸受の異常を検知する装置及びその方法が開示されている。
【0007】
さらに非特許文献1では、走行する鉄道車両の車軸軸受の側方にあたる軌道脇に複数の音圧音場マイクロホンを設置し、同車両の車軸音を検知し、その検知信号を解析することによって同車両の車軸音を検知する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−231992号公報
【特許文献2】特開2006−153547号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ブリュエル・ケアーマガジン(ブリュエル・ケアー本社発行2004年1号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に開示の方法では、特許文献1に開示の方法と異なり、センサーを多数の車軸軸受に直接取り付ける必要はないものの、指向性マイクロホンの測定可能区間全体に亘るデータの解析処理が比較的複雑であった。また、非特許文献1に開示の方法にあっても、複数のマイクロホンからの膨大な測定データを解析する必要があり、解析処理が複雑であった。
【0011】
本発明は、上述した状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡便な解析処理によって鉄道車両の車軸軸受の異常を検知できる車軸軸受異常検知装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による鉄道車両の車軸軸受の異常検知装置は、軌道上を走行する鉄道車両の側面に対向するように該軌道脇に設置され該鉄道車両の車軸軸受の異常を検知するための検知装置であって、長手方向軸に沿って略樋状の集音面を有する集音壁と、前記集音面に対向して配置された単一の集音手段と、からなる集音装置を含み、前記集音面は、前記長手方向軸を含む1つの基準平面上にあって前記長手方向軸と直交する対称軸を有する仮想放物線の一部と、前記対称軸を含み前記基準平面と直交する基準直交平面上にあって前記仮想放物線と交差するとともに前記基準平面上に長軸を有する仮想楕円の一部と、を少なくとも含む連続面からなり、前記集音手段が前記仮想放物線の焦点と一致する前記仮想楕円の近焦点に配置されることを特徴とする。
【0013】
かかる発明によれば、走行する鉄道車両の車軸音を所望の時間にわたって集音できて、しかも単一の集音手段によってこれを安定して集音できる。つまり、解析容易な単一の集音データを安定して集音できるから、簡便な解析処理であっても高い解析精度を得られ、鉄道車両の車軸軸受の異常を正確に検知できる。
【0014】
また、上記発明において、同集音面は、同基準直交平面と平行な平面上にあって同仮想放物線と交差するとともに同基準平面上に長軸を有する仮想楕円の一部を含むように与えられた連続面を含むことを特徴としてもよい。
【0015】
かかる発明によれば、走行する鉄道車両の車軸音を所望の時間にわたって安定して集音できる。つまり、解析容易な単一の集音データをより安定して集音できるから、簡便な解析処理であってもより高い解析精度を得られ、鉄道車両の車軸軸受の異常をより正確に検知できる。
【0016】
また、上記発明において、前記仮想楕円の遠焦点群は、前記長手方向軸と平行な前記基準平面上の1直線上にあることを特徴としてもよい。さらに、前記仮想楕円の近焦点群は、前記長手方向軸と平行な前記基準平面上の他の1直線上にあることを特徴としてもよい。
【0017】
かかる発明によれば、走行する鉄道車両の車軸音を所望の時間にわたってより安定して集音できる。つまり、解析容易な単一の集音データをより安定して集音できるから、簡便な解析処理であってもより高い解析精度を得られ、鉄道車両の車軸軸受の異常をより正確に検知できる。
【0018】
また、上記発明において、軌道上を走行する前記鉄道車両の前記車軸軸受が前記基準平面に沿って移動し得るように位置調整する調整手段を更に有することを特徴としてもよい。
【0019】
かかる発明によれば、走行する鉄道車輌の車軸音を安定して集音し得るように車軸軸受と検知装置との位置を調整することが容易となる。
【0020】
さらに、本発明による鉄道車両の車軸軸受の異常検知方法は、軌道上を走行する鉄道車両の側面に対向するように該軌道脇に設置された装置によって該鉄道車両の車軸軸受の異常を検知する方法であって、前記装置は、長手方向軸に沿って略樋状の集音面を有する集音壁と、前記集音面に対向して配置された単一の集音手段と、からなる集音装置を含み、前記集音面は、前記長手方向軸を含む1つの基準平面上にあって前記長手方向軸と直交する対称軸を有する仮想放物線の一部と、前記対称軸を含み前記基準平面と直交する基準直交平面上にあって前記仮想放物線と交差するとともに前記基準平面上に長軸を有する仮想楕円の一部と、を少なくとも含む連続面からなり、前記集音手段が前記仮想放物線の焦点と一致する前記仮想楕円の近焦点に配置され、前記仮想楕円の遠焦点位置を前記車軸軸受が通過するように前記装置を配置するステップを含むことを特徴とする。
【0021】
かかる発明によれば、走行する鉄道車両の車軸音を所望の時間にわたって集音できて、しかも単一の集音データとして安定して集音できる。つまり、解析容易な単一の集音データを安定して集音できるから、簡便な解析処理であっても高い解析精度を得られ、鉄道車両の車軸軸受の異常を正確に検知できる。
【0022】
また、上記発明において、軌道上を走行する前記鉄道車両の前記車軸軸受が前記基準平面に沿って移動し得るように前記装置を配置するステップを更に含むことを特徴としてもよい。
【0023】
かかる発明によれば、走行する鉄道車両の車軸音を所望の時間にわたって安定して集音できる。つまり、解析容易な単一の集音データをより安定して集音できるから、簡便な解析処理であってもより高い解析精度を得られ、鉄道車両の車軸軸受の異常をより正確に検知できる。
【0024】
さらに、上記発明において、前記車軸軸受が前記長手方向軸と平行に移動し得るように前記装置を配置するステップを更に含むことを特徴としてもよい。
【0025】
かかる発明によれば、走行する鉄道車両の車軸音を所望の時間にわたってより安定して集音できる。つまり、解析容易な単一の集音データをより安定して集音できるから、簡便な解析処理であってもより高い解析精度を得られ、鉄道車両の車軸軸受の異常をより正確に検知できる。
【0026】
また、上記発明において、前記集音面は、前記基準直交平面と平行な平面上にあって前記仮想放物線と交差するとともに前記基準平面上に長軸を有する仮想楕円の一部を含むように与えられた連続面を含むことを特徴としてもよい。
【0027】
かかる発明によれば、走行する鉄道車両の車軸音を所望の時間にわたってより安定して集音できる。つまり、解析容易な単一の集音データをより安定して集音できるから、簡便な解析処理であってもより高い解析精度を得られ、鉄道車両の車軸軸受の異常をより正確に検知できる。
【0028】
さらに、上記発明において、前記仮想楕円の遠焦点群は前記長手方向軸と平行な前記基準平面上の1直線上にあって、前記1直線を前記車軸軸受が通過するように前記装置を配置するステップを含むことを特徴としてもよい。
【0029】
かかる発明によれば、走行する鉄道車両の車軸音を所望の時間にわたってより安定して集音できる。つまり、解析容易な単一の集音データをより安定して集音できるから、簡便な解析処理であってもより高い解析精度を得られ、鉄道車両の車軸軸受の異常をより正確に検知できる。
【0030】
さらに、上記発明において、前記仮想楕円の近焦点群は、前記長手方向軸と平行な前記基準平面上の他の1直線上にあることを特徴としてもよい。
【0031】
かかる発明によれば、走行する鉄道車両の車軸音をより安定して集音できる。つまり、解析容易な単一の集音データをより安定して集音できるから、簡便な解析処理であってもより高い解析精度を得られ、鉄道車両の車軸軸受の異常をより正確に検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による鉄道車両の車軸軸受の異常検知装置の側面図である。
【図2】本発明による同異常検知装置の平面図である。
【図3】図1及び図2の平面32での集音面の断面形状を説明するための図である。
【図4】本発明による同集音面の形状を説明するための斜視図である。
【図5】本発明による同集音面の形状を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の1つの実施例である鉄道車両の車軸軸受の軸音を集音してその異常を検知するための装置について、図1乃至図5を用いて、その詳細を説明する。
【0034】
図1及び図2に示すように、鉄道車両の車軸軸受の異常検知装置の集音装置100は、軌道脇のような略水平面に載置されるベース部1と、ベース部1から上方に伸びる支柱部2と、支柱部2の上端部に固定された集音壁保持部3と、集音壁保持部3に螺子等で固定された金属製又は樹脂製などの集音壁4とを含む。集音壁4は、長手方向(図において、線路25の伸びる方向)に沿って略樋状の集音面5を有する。すなわち、集音面5は、後述するように、基準平面32を挟んで鏡面対称となる。さらに、支柱部2には、その軸方向に伸縮する機構(図示せず)が設けられており、集音面5の上下方向の位置を調整可能としている。また、集音壁保持部3には、ボールジョイント機構(図示せず)が設けられ、集音面5の中心軸12の角度を調整可能としている。
【0035】
また、集音装置100は、ベース部1の前端部から中心軸12に向かって延出する支柱6と、支柱6の先端部に連結されたマイクロホン保持部7と、マイクロホン保持部7に装着され集音面5の中心軸12上に位置するマイクロホン8とを含む。マイクロホン8のケーブル9は、締め具10によって支柱6に固定され、図示しない増幅装置などを含む解析部に接続される。
【0036】
ここで、図3を参照しつつ、略樋状の集音面5の連続面を、集音壁4の中心を貫いて伸びる中心軸12と長手方向軸(X軸)31とを含む基準平面32で切断した断面の形状について詳述する。
【0037】
基準平面32上において、断面形状は仮想放物線34の一部である。長手方向のX軸31と直交する中心軸12を対称軸(Y軸)33とすると、この2つの軸の交点として原点11が定められる。すると、XY座標平面上における仮想放物線34を表す方程式は、
【数1】

で表せる。ここで、a[m]は、XY座標平面上の原点11から後述するマイクロホン8の配置される焦点Fまでの距離である。
【0038】
本実施例では、aを1[m]として集音面5を設計している。よって、式1は、
【数2】

となり、集音面5の連続面の一部を構成する仮想放物線34の形状が定まる。
【0039】
次に、図3に併せて、適宜、図1及び図2を参照しながら、集音面5の長手方向の寸法Lを詳述する。
【0040】
後述するように、集音面5の長手方向に沿って鉄道車両が移動しながら車軸音の集音が行われる。故に、この寸法は、鉄道車両の走行速度V[km/h]と車軸軸受音の収録時間t[sec]を決定することにより定め得る。ここで、鉄道車両の車軸軸受22の外輪(内面)に損傷が1つある場合における所望の収録時間を検討する。
【0041】
まず、車軸の1[sec]毎における回転数Fr[1/sec]は、車両の走行速度をV[km/h]、車両の車輪23の直径をDw[mm]とすると、
【数3】

で表せる。
【0042】
また、当該損傷に起因して発生する1秒あたりの異音回数Fn[1/sec]は、車軸軸受22のころの直径(平均値)をd[mm]、車軸軸受22のころのピッチ径(平均値)をD[mm]、車軸軸受22の接触角をα[度]、車軸軸受22のころの総数をZ[個]とすると、
【数4】

で表せる。
【0043】
従って、鉄道車両が70[km/h]で走行する場合における、選定した所定の車軸軸受22に対する1[sec]あたりの異音回数Fnは52となる。本実施例においては、例えば、5回程度の異音回数を検知したいとして、所望の収録時間tを0.1[sec]と決定し得る。
【0044】
集音面5の長手方向の寸法L[m]は、収録時間t[sec]、鉄道車両の走行速度V[km/h]とすると、
【数5】

で表せる。本実施例において、鉄道車両の走行速度V=70[km/h]、車軸軸受音の収録時間t=0.1[sec]を式2に代入して、集音面5の長手方向の寸法L=1.94[m]を得る。
【0045】
次に、図4に併せて、適宜、図1乃至図3を参照しつつ、原点11を通りX軸31及びY軸33と垂直なZ軸37の方向、すなわち基準平面32(XY座標平面)に対して垂直な方向における集音面5の寸法Hについて詳述する。
【0046】
H[m]は、λ[m]を車軸軸受音の波長、S[m]を集音面5の底面から車両の車軸軸受22までの距離、hをマイクロホンの感度が0.5になる車軸軸受22のZ軸方向の可動範囲[m]とすると、
H=0.54×λ×S÷h (式3)
で表せる。本実施例では、車軸軸受音の周波数を5[kHz]、集音面5の底面から車両の車軸軸受22までの距離Sを2[m]、マイクロホンの感度が0.5になる車軸軸受22のZ座標方向の可動範囲hを0.1[m]として集音面5を設計できる。
【0047】
15℃の空気中における音速を340[m/s]として、周波数が5[kHz]である車軸軸受音の波長は、
λ=340[m/s]÷5000[Hz]=0.068[m] (式4)
となる。
【0048】
λ=0.068[m]、S=2[m]、h=0.1[mm]を式3に代入すると、
H=0.54×0.068×2÷0.1=0.73[m] (式5)
を得る。従って、Z座標方向における集音面5の寸法Hは0.73[m]となる。
【0049】
次に、図4に併せて、適宜、図1乃至図3を参照しつつ、集音面5の連続面の一部を構成する仮想楕円41の形状の決定方法について詳述する。
【0050】
仮想楕円41は、少なくとも対称軸(Y軸)33を含み基準平面32と直交する基準直交平面35の上にあって仮想放物線34と交差するとともに、基準平面32の上に長軸36及び短軸38を有する。この仮想楕円41の長軸36の長さ及び短軸38の長さを求めることにより、仮想楕円41の形状を決定し得る。
【0051】
YZ座標平面上における仮想楕円41を表す方程式は、
【数6】

で表せる。ここで、Y軸33は対称軸方向を表し、Z軸37は基準平面32に対して垂直な方向を表す。
【0052】
また、式6の仮想楕円式の近焦点Fa、遠焦点FbのYZ座標平面上における座標は、
【数7】

【数8】

である。
【0053】
本実施例では、近焦点Faと遠焦点Fbの距離は1[m]であり、YZ座標平面上における原点11からマイクロホン8の位置39までの距離aは1[m]であるので
【数9】

【数10】

となる。
【0054】
式7、式8をy0、z0について解くと、
【数11】

を得る。従って、仮想楕円41の長軸36の長さ(長径)2y0及び短軸38の長さ(短径)2z0は、それぞれ
【数12】

となり、仮想楕円41の形状を決定し得る。
【0055】
さらに図5を参照しつつ、集音面5の連続面の形状について詳述する。
【0056】
集音装置100の集音面5は、基準直交平面35上の仮想楕円41の一部42と、基準直交平面35と平行な平面35’の上にある仮想楕円41’の一部42’と、からなる連続面である。仮想楕円41’は、仮想放物線34と交差するとともに基準平面32上に長軸36’を有し、基準平面32と直交する短軸38aを有する。この仮想楕円41’は平面35’をX軸方向に沿って移動させることで無数に存在することから、集音面5は連続面となる。
【0057】
ところで、一群の仮想楕円41’は、その遠焦点(群)Fb’を長手方向軸(X軸)31と平行な、基準平面32上の1つの直線XM上に配置させている。また、仮想楕円41の遠焦点Fbも直線XM上に位置する。さらに、一群の仮想楕円41’は、その近焦点(群)Fa’を、仮想楕円41の近焦点Faとともに、長手方向軸31と平行な、基準平面32上の他の1つの直線XL上に配置させる。
【0058】
ところで、回転楕円体からなる集音面を有する集音壁であれば、Z軸方向、すなわち上下方向の軸音を選択的に集音できるものの、X軸方向、すなわちレールに沿った方向では感度よく集音できる範囲が非常に狭くなってしまう。一方で、上記したような、連続面からなる集音面を集音壁4が備えることにより、集音壁4は、走行する車両の車軸音をより安定且つ効率良くマイクロホン8に向かって集音させることができるのである。
【0059】
続いて、図1乃至図5を適宜用いて、上記した本実施例における異常検知装置の集音装置100の設置方法及びその使用方法について説明する。
【0060】
異常検知装置の集音装置100は、支柱部2の図示しない伸縮する機構及び集音壁保持部3の図示しないボールジョイント機構によって集音壁4の高さ及び角度が調整できる。これにより、鉄道車両の車軸軸受22が基準平面32に沿って、さらには、長手方向軸31と平行に直線XMに沿って移動し得るように、集音壁4の高さ及び角度を調整する。
【0061】
ここで、本実施例では、仮想楕円41の近焦点Faと遠焦点Fbとの距離が1mであるから、近焦点Faに配置されたマイクロホン8から中心軸12上を1m離れた遠焦点Fbの位置を車軸軸受22が通過するように集音装置100を配置する。
【0062】
かかる調整により、集音壁4は、走行する車両の車軸音を極めて効率よく集音できて、マイクロホン8に向かって車軸音を極めて効率よく反射できる。
【0063】
検知対象となる鉄道車両の車軸軸受22が集音壁4の左右いずれかの側端部正面に達すると、集音装置100は車軸軸受22の車軸音の測定を開始する。車軸音は、車軸軸受22を含む平面35’において、装置100の集音面5で反射され、平面35’上の仮想楕円41’の近焦点Fa’に収束せしめられようとする。しかしながら、長手方向(X軸)31に沿って仮想放物線34の一部で焦点Fの略方向に仕向けられ、結果として、焦点Fに設置されたマイクロホン8によって車軸音が検知される。
【0064】
マイクロホン8では、検知信号を連続的に一連の電気信号に変換する。変換された電気信号は増幅装置によって増幅され、増幅された電気信号は、簡便なフィルタ処理によって分離及び重み付けされ、解析がなされる。解析結果は、出力装置に送信され、車軸軸受22の異常の有無及びその程度が出力される。なお、本発明において、音の解析方法は、従来の方法と同様であるので、増幅装置、フィルタ、解析装置などの詳細説明については省略する。
【0065】
以上、本実施例における異常検知装置では、その一部に仮想放物線と仮想楕円を含む比較的簡便な形状の集音面5を有する集音壁4によって、走行する鉄道車両の車軸音を所望の時間にわたって連続的に安定して集音できるとともに、しかも単一のマイクロホン8によってこれを集音できる。つまり、解析容易な単一の集音データを安定して集音できるから、複数のマイクロホンからの集音データを同期させたり、複雑なフィルタリングを与えて解析を行う場合と比べて、簡便な装置且つ簡便な解析処理であっても高い解析精度を得られ、鉄道車両の車軸軸受の異常を正確に検知できる。
【0066】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく変形例を述べたが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、適宜、当業者によって変更され得る。例えば、設計寸法は1つの実施例であり、適宜、必要な寸法に変更され得る。すなわち、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことが出来るであろう。
【符号の説明】
【0067】
1 ベース部
2 支柱部
3 集音壁保持部
4 集音壁
5 集音面
6 支柱
7 マイクロホン保持部
8 マイクロホン
11 XY座標平面上の原点
12 集音面の中心軸
22 車軸軸受
31 長手方向の軸(X軸)
32 基準平面
33 対称軸(Y軸)
34 仮想放物線
35 基準直交平面
36 長軸
37 上下方向の軸(Z軸)
38 短軸
41 仮想楕円
100 集音装置
Fa 近焦点
Fb 遠焦点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道上を走行する鉄道車両の側面に対向するように該軌道脇に設置され該鉄道車両の車軸軸受の異常を検知するための検知装置であって、
長手方向軸に沿って略樋状の集音面を有する集音壁と、
前記集音面に対向して配置された単一の集音手段と、からなる集音装置を含み、
前記集音面は、
前記長手方向軸を含む1つの基準平面上にあって前記長手方向軸と直交する対称軸を有する仮想放物線の一部と、
前記対称軸を含み前記基準平面と直交する基準直交平面上にあって前記仮想放物線と交差するとともに前記基準平面上に長軸を有する仮想楕円の一部と、
を少なくとも含む連続面からなり、
前記集音手段が前記仮想放物線の焦点と一致する前記仮想楕円の近焦点に配置されることを特徴とする検知装置。
【請求項2】
前記集音面は、前記基準直交平面と平行な平面上にあって前記仮想放物線と交差するとともに前記基準平面上に長軸を有する仮想楕円の一部を含むように与えられた連続面を含むことを特徴とする請求項1記載の検知装置。
【請求項3】
前記仮想楕円の遠焦点群は前記長手方向軸と平行な前記基準平面上の1直線上にあることを特徴とする請求項2記載の検知装置。
【請求項4】
前記仮想楕円の近焦点群は前記長手方向軸と平行な前記基準平面上の他の1直線上にあることを特徴とする請求項3記載の検知装置。
【請求項5】
軌道上を走行する前記鉄道車両の前記車軸軸受が前記基準平面に沿って移動し得るように位置調整する調整手段を更に有することを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の検知装置。
【請求項6】
軌道上を走行する鉄道車両の側面に対向するように該軌道脇に設置された装置によって該鉄道車両の車軸軸受の異常を検知する方法であって、
前記装置は、長手方向軸に沿って略樋状の集音面を有する集音壁と、前記集音面に対向して配置された単一の集音手段と、からなる集音装置を含み、前記集音面は、前記長手方向軸を含む1つの基準平面上にあって前記長手方向軸と直交する対称軸を有する仮想放物線の一部と、前記対称軸を含み前記基準平面と直交する基準直交平面上にあって前記仮想放物線と交差するとともに前記基準平面上に長軸を有する仮想楕円の一部と、を少なくとも含む連続面からなり、前記集音手段が前記仮想放物線の焦点と一致する前記仮想楕円の近焦点に配置され、
前記仮想楕円の遠焦点位置を前記車軸軸受が通過するように前記装置を配置するステップを含むことを特徴とする検知方法。
【請求項7】
軌道上を走行する前記鉄道車両の前記車軸軸受が前記基準平面に沿って移動し得るように前記装置を配置するステップを更に含むことを特徴とする請求項6記載の検知方法。
【請求項8】
前記車軸軸受が前記長手方向軸と平行に移動し得るように前記装置を配置するステップを更に含むことを特徴とする請求項7記載の検知方法。
【請求項9】
前記集音面は、前記基準直交平面と平行な平面上にあって前記仮想放物線と交差するとともに前記基準平面上に長軸を有する仮想楕円の一部を含むように与えられた連続面を含むことを特徴とする請求項6乃至8のうちの1つに記載の検知方法。
【請求項10】
前記仮想楕円の遠焦点群は前記長手方向軸と平行な前記基準平面上の1直線上にあって、前記1直線を前記車軸軸受が通過するように前記装置を配置するステップを含むことを特徴とする請求項9記載の検知方法。
【請求項11】
前記仮想楕円の近焦点群は前記長手方向軸と平行な前記基準平面上の他の1直線上にあることを特徴とする請求項10記載の検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−230506(P2010−230506A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78738(P2009−78738)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】