説明

鉄道車両

【課題】重量やコストを著しく増やすことなく、また客室内の居住空間や荷物の収容能力を著しく減らすことなく、鉄道車両の車室内騒音を低減する構造を提案する
【解決手段】鉄道車両の客室の上部にあって、客室天井面と側面が交差する軒部の客室側にあり入り口部分に蓋17を有する荷棚部16において、荷棚部16の蓋17及び荷棚18の両方、或いはどちらか一方に関して、蓋17又は荷棚18の板状構造の両面を、パンチングメタルなどの多数の微細な孔が開いた多孔板30,30で構成し、その二枚の多孔板30,30間にグラスウールやスポンジ、発泡樹脂などの多孔質材料40を単層又は多層積層したものを配置する。荷棚の蓋17を設置する箇所は、空気粒子振動速度の腹が占める位置となっており、多孔質材料40の骨格部分とその間に存在する空気が相対振動するときの摩擦によって、多孔質材料40が音響エネルギーを吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷棚部に車室内騒音低減構造を備えた鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車室内の騒音は快適性を決定する重要な要素であり、従来、各種の静音化対策が提案・実施されている。しかしながら、鉄道車両の客室は閉空間で構成されるため、一旦、客室内に流入した音のエネルギーを低減するには客室内で吸音する以外に有効な方法はない。そのため、客室の静音快適性は必ずしも十分ではなく、近年の鉄道車両では客室内の一層の騒音低減が求められている。
【0003】
一般に、客室内デザイン・美観の観点から客室内内装表面を積極的に吸音処理するのは好ましくないとされているが、これを解決する公知例として、特許文献1に開示されている鉄道車両の荷棚装置がある。この鉄道車両の荷棚装置は、蓋つき荷棚の内部を吸音構造とし、蓋や荷棚底面に開口を備えることで荷棚内部への吸音を促進し、これによって客室内内装表面を積極的に吸音可能とし、且つ、蓋が閉まっている通常時は吸音面が乗客の目に触れないようにしたものである。
【0004】
吸音材によって騒音が低減するのは、吸音材を構成する繊維質あるいは多孔質からなる骨格部分と空気の部分が互いに相対運動するように振動することで、その摩擦によって振動・音響エネルギーが散逸するためである。したがって、騒音低減上、振動する空気の粒子速度が大きな箇所に吸音材を配置するのが効果的である。
【0005】
剛壁に向かって垂直に入射した音波が、この剛壁に当たって反射する場合、入射波と反射波の干渉によって空気の粒子の振動速度が大きくなるのは壁面から1/4波長分離れた位置に発生する。このことを利用して吸音材を設置する場合、一般的には、吸音したい周波数における音波の約1/4波長分の厚さを有する空気層を吸音材の背後に設けることが望ましい。
【0006】
しかしながら、低周波の音を効果的に吸音するには、波長が長くなるので、約1/4波長分といえどもかなり厚い背後空気層が必要となる。例えば、前記特許文献1の公知例のように蓋付き荷棚内部の壁面を積極的に吸音処理する方法でこのように吸音層の背後に空気層を設置しようとすると、荷棚部の収容容積が小さくなるという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−72714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、鉄道車両の客室に備わる荷棚部の内部の空間を背後空気層として用いることで、客室内騒音を低減することである。
【0009】
この発明の目的は、鉄道車両に備えられる荷棚部に客室内騒音低減構造を備えることによって、客室内の居住空間や荷物の収容能力を著しく減らすことなく、また重量やコストを著しく増やすことなく客室内騒音を低減できる鉄道車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による鉄道車両は、側構体と屋根構体と、これら構体を接続する軒部とから成っていて、軒部の車両内側近傍に鉄道車両の長手方向に沿って荷棚部を備えており、荷棚部はそれぞれが板状構造とされた蓋と荷棚とを有しており、両方又はどちらか一方の板状構造は、表裏両面にそれぞれ配置された多孔板と、当該両多孔板間に配置された単層又は多層積層の多孔質材料とを備えていることを特徴としている。
【0011】
この鉄道車両において、前記多孔板は例えばパンチングメタルとすることができる。また、二枚の多孔板の間に配置される単層又は多層積層の多孔質材料の各層に用いられる材料としては、例えば、グラスウールやスポンジ、発泡樹脂を用いることができる。
【0012】
また、本発明による鉄道車両は、屋根構体と側構体とを接続する軒部に、荷棚と蓋と内壁とから構成される荷棚部を備えており、この蓋に、荷棚部の内部空間と客室とを連通する連通部が備えられたことを特徴としている。そして、蓋と荷棚のどちらか一方、または、両方に、グラスウールやスポンジ、発泡樹脂などの単一層又は多層積層の多孔質材料を備え、この多孔質材料を多孔板で覆うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記のような構造により、荷棚部を構成する蓋或いは荷棚が吸音層を構成するとともに、荷棚部の内部空間の空気が背後空気層の役割をそれぞれ果たすことによって、低周波から高周波に至る広い周波数帯域において、大きな吸音効果を発揮することができ、結果的に、重量やコストを著しく増やすことなく、また客室内の居住空間や荷物の収容能力を著しく減らすことなく、鉄道車両の車室内騒音を低減することができる。
また、荷棚部の内部空間と、荷棚部の蓋に備えられた連通部とが吸音器を構成するとともに、蓋の軒部側の面に吸音材を備えているので、重量やコストを著しく増やすことなく、広い周波数帯域において大きな吸音効果が発揮されて、鉄道車両の客室内騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明を適用した鉄道車両の断面図である。
【図2】図2は、図1に示す荷棚部の拡大図である。
【図3】図3は、図2に示す蓋の詳細図である。
【図4】図4は、音響定在波を説明する図である。
【図5】図5は、一般的な吸音材の適用例を示す図である。
【図6】図6は、鉄道車両内に生じる音響定在波の音圧分布である。
【図7】図7は、本発明の他の実施例である。
【図8】図8は、図7に示す実施例の蓋の詳細図である。
【図9】図9は、本発明の他の実施例である。
【図10】図10は、図9に示す蓋の詳細図である。
【図11】図11は、吸音器を構成した荷棚部の実施例である。
【図12】図12は、吸音器を構成した荷棚部の吸音率を示すグラフである。
【図13】図13は、図11に示した荷棚によって、鉄道車両客室内騒音が低減される様子を示すグラフである。
【図14】図14は、荷棚に吸音器を構成したその他の実施例である。
【図15】図15は、図14のA部の詳細図である。
【図16】図16は、蓋のその他の実施例である。
【図17】図17は、図14に示された荷棚の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明による荷棚部を備えた鉄道車両の一例を説明する。
本発明の実施の形態は、屋根構体、側構体及び屋根構体と側構体とを接続する軒部を有している鉄道車両であって、前記軒部の車両内側近傍に鉄道車両の長手方向に沿って、手荷物を載置する荷棚と、前記荷棚の手荷物出し入れ部に備えられた蓋とを有する荷棚部が備えられた鉄道車両において、該荷棚部の蓋又は荷棚を構成する板状構造に関し、以下のように構成することで実現する。
構造1.その板状構造の両表面に関して通気性を持たせ、且つ剛性があり、更に車内の美観を損なわないよう表面の素材感を有した二枚の表面板を備える構造とする。
構造2.上記二枚の表面板の間で吸音機構を有する構造とする。
構造3.荷棚と蓋とから構成される荷棚部を軒部に備えた鉄道車両において、前記荷棚部の内部空間と客室とを連通する連通部を備えたことによって、前記荷棚部を吸音器とした構造とする。
【実施例1】
【0016】
図1、図2及び図3に本発明による鉄道車両の実施例の一つを示す。図1は鉄道車両10の長手方向垂直断面の縦半分を示したものである。鉄道車両10は、主に、台枠11の車体幅方向の端部に配設された側構体12、台枠11の車体長手方向の端部に配設された妻構体(図示なし)、そして、側構体12の上端部に配設されるととともに、側構体12と屋根構体13とを接続する軒部14からなる。側構体12、軒部14、屋根構体13の客室側の面には、鉄道車両10の内部から外部、或いは外部から内部に熱が流入出することを防止するために、グラスウール等からなる断熱材25が備えられる。
【0017】
荷棚部16は、軒部14の客室15側に、鉄道車両10の長手方向に沿って配設されている。荷棚部16は、乗客の手荷物などが載置される荷棚18、軒部14の車内側の面に沿って配設される内壁19、及び荷棚18の手荷物出し入れ部に備えられる蓋17から構成される。蓋17は上部に、鉄道車両10の長手方向に沿って配置された軸の周りに回動可能に支持されており、蓋17の下部が弧を描く様態で開閉する(矢印50で荷棚蓋の回動を示す)。鉄道車両10の客室15には椅子20が設置されており、屋根構体13の断熱材25の客室15側には天井21が設けられている。なお、28は台枠11に設けられる横梁である。
【0018】
図2は図1に示す荷棚部16の拡大図であり、図3は図2に示す蓋17の詳細構造である。本実施例は、上記「構造1」を達成するために、荷棚部16の蓋17について客室15側と荷棚部16の内部側との両表面側を、各々、多孔板30で構成している。多孔板30は、例えば、パンチングメタルのような孔開き板材とすることができる。また、上記「構造2」を達成するため、蓋17の客室15側と荷棚部16の内部側との両表面である計二枚の多孔板30,30間で挟まれた内部空間に、多孔質材料40を配置している。なお、多孔質材料40は、単層であっても複数の多孔質材料を多層に積層した形態でもよく、或いは多孔質材料と多孔質材料との間にフィルムや多孔薄膜などを挟みこんだサンドイッチ構造であってもよい。なお、図2、図7、図9は荷棚部16を構成する蓋17の特徴を説明するための図であるので、荷棚部16の構成要素である内壁19を省略している。なお、蓋17は、回動軸17aによって内壁19に回動可能に支持されている。
【0019】
実施例1の構造において、図4〜図6を用いて、客室15内の騒音を効果的に低減するメカニズムについて説明する。図4は、剛壁に入射する音波とこの剛壁からの反射波とによって形成される音響定在波を示す説明図である。音響定在波とは、図4に示すように同じ振幅で反対方向に伝播する音波(進行波と後退波)が干渉することで、その合成波が結果的に、音圧や空気の振動速度の振幅が定常的に大きな箇所(腹)や、逆に定常的に小さな箇所(節)が局所的に発生する現象のことである。このような音響定在波を抑制するには、一般に吸音材が適用される。
【0020】
図5に一般的な吸音材の適用例を示す。吸音材は、吸音材に入射した音波について、その音響エネルギーを極力吸収して反射させないようにする機構を有した部材のことであり、一般に軟質ウレタンフォームなどの発泡樹脂、ガラスウール、スポンジ等から成る多孔質材料が用いられる。多孔質材料が音響エネルギーを吸収する吸音作用(効果)は、多孔質材料の内部を音波が通過するときに、多孔質材料内部の気泡の空気を振動させ、この時、多孔質材料の気泡の内面において、空気の粘性摩擦が生じ、音のエネルギーの一部が熱エネルギー変換(音響エネルギーの散逸)されることに依っている。従って、このような多孔質材料からなる吸音材を、空気粒子速度分布の大きな箇所に配置することによって、効果的に吸音効果を得ることができる。
【0021】
図5に示されるように、音響定在波の音圧分布と空気粒子振動速度分布は、それぞれの腹と節の位置が逆になり、空気粒子振動速度の腹となる最も剛壁に近い位置は、剛壁から1/4波長離れた位置となる。このことを利用して、一般に吸音材は、吸音したい周波数における音波の波長の1/4程度の厚さを有する空気層を吸音材の背後に設けるようにして設置される。そのため、低周波まで効果的に吸音するにはかなり厚い背後空気層が必要となり、鉄道車両などの輸送機械内部に対して適用するときには居住空間が縮小するなどの問題が発生する。
【0022】
図6は、一般的な寸法で構成される荷棚18に蓋17の無い鉄道車両の客室内で発生する音響定在波を音圧振幅の等値線(音圧分布)である。図6は、鉄道車両の車体長手方向断面図であり、図1と対応して見ると、客室15内で発生する音響定在波は客室15内の幅方向及び高さ方向の中央部、床面の幅方向中央部、床面の幅方向端部、天井21の中央部、窓上、荷棚部16で音圧が腹となる。一方、図5で示したように吸音材を適用するのに最適な空気粒子振動速度が腹となるのは音圧の節となる位置であり、図2と対応して見ると判るように、ちょうど荷棚部16の蓋17を設置する箇所はこの空気粒子振動速度の腹となっている。
【0023】
したがって、蓋17に通気性を持たせ、且つ蓋17を剛性があり更に吸音機構を有する構造とすることによって、蓋17や荷棚18が吸音層の役割を、また荷棚部16の荷棚18と蓋17と内壁19で囲まれる空間、即ち、荷棚部16の内部空間の空気が背後空気層の役割をそれぞれ果たすことになり、客室15内で発生する音響定在波を効果的に低減することができる。これによって、結果的に重量やコストを著しく増やすことなく、また客室15の居住空間や荷物の収容能力を著しく減らすことなく、鉄道車両の車室内騒音を低減することができる。
【実施例2】
【0024】
図7は、本発明の別の実施例であり、図8はその蓋17(図7)の詳細構造である。本実施例は、図1〜図3に示した実施例1において蓋17の客室15側と荷棚部16の内部側の両面に使用した多孔板30の代わりに、金属或いは樹脂のメッシュ31を用いて外殻部を構成した後、最終的に両外表面を布地32で覆った構造の例である。かかる蓋17を用いた実施例2に示す構造では、布地32が表面になることで上質な素材感が生まれ、客室内デザインを阻害することが無く、蓋17に求められる強度と通気性及び吸音性を両立することが可能となる。その他の構造は実施例1と同様であるので、同じ要素には同じ符号を付すことで再度の説明を省略する。
【実施例3】
【0025】
図9は本発明の更に別の実施例であり、図10はその蓋17(図9)の詳細構造である。図9、図10に示す実施例3の構造は、図1〜図3に示した実施例1の荷棚蓋17の構造に対して、多孔板30を設ける代わりに、客室15側と荷棚部16の内部空間とを連通する連通部として、蓋17に客室15側と荷棚部16の内部側との両面へと貫通する複数の孔33を設け、且つその孔33の内径を孔33の深さより充分小さくとり、更に実施例2でも使用したように外表面を布地32で覆った構造である。このようにすることにより、蓋17には通気性と強度、デザイン性が達成され、さらに孔33の内部における空気の摩擦によって吸音機構をも同時に達成できる構造となる。
【実施例4】
【0026】
図11は、本発明の更に別の実施例である。図11に示す実施例4は、荷棚部16の構造に関して、蓋17が閉まった状態では、荷棚18の先端部と蓋17の下部との間に開口し、荷棚部16の内部と客室15とを連通する連通部36を有するように構成するとともに、荷棚部16の内部に密封シートなどのような気密性のある膜34を接着層35にて接着して空洞を形成したものである。このような構造により、荷棚部16は、空洞と連通部36によってヘルムホルツ型吸音器を構成しており、連通部36に位置する空気は一つの塊として激しく運動する。このため、空洞と連通部36とからなる吸音器に対応する共振周波数において、空気の大きな粘性摩擦損失が生じて音響エネルギーが散逸するので、大きな吸音率を得ることができる。
【0027】
図12は、荷棚部16に構成された図11に示す吸音器の吸音率を残響室法によって測定した例である。図12に示すように、荷棚16からなる吸音体の吸音率は連通部36の大きさを変えることによって、周波数a[Hz]において、高い吸音率を得ることができる。例えば、図6に示した音響定在波の周波数が250Hzである場合、荷棚部16の連通部36の大きさを変えることによって、図12に示す荷棚部16からなる吸音器が250Hzにおいて大きな吸音率を得るように構成することができる。図13は前述した吸音器を構成した荷棚部16を備えることによって、鉄道車両の客室内騒音が低減される様子を示すグラフである。図13中、破線で示すグラフが荷棚部16を吸音器として構成しない従来例における騒音スペクトルであり、実線で示すグラフが荷棚部16を吸音器として構成した本願発明の例における騒音スペクトルである。図13に示されるによう、客室内で卓越する音響定在波である250Hzの騒音レベルは、荷棚部16からなる吸音器によって効果的に低減されるので、重量やコストを著しく増やすことなく、また客室の居住空間や荷物の収容能力を著しく減らすことなく、低騒音の鉄道車両を得ることができる。
【実施例5】
【0028】
図14に、荷棚部16に吸音器を構成したその他の実施例を示す。図15は、図14に示されたA部の詳細図である。荷棚部16は、鉄道車両10を構成する側構体12から屋根構体13に至る軒部14の客室側に、鉄道車両10の長手方向に沿って備えられている。荷棚部16は、手荷物などが載置される荷棚18、荷棚部16の内側を構成するとともに意匠性を備えた内壁19、手荷物を出し入れする蓋17から構成される。内壁19の屋根構体13側の端部は、屋根構体13と一体に押し出し成形された支えに対して、内壁支え19aを介して懸垂された形態で固定されている。図示はしないが、内壁19の側構体12側の端部は、側構体12に直に固定されても良く、或いは荷棚18の側構体12寄りの端部に固定されてもよい。
【0029】
図15に示されるにように、蓋17は2枚の対向する面板17b、17cがリブ17dで接続された形材からなるとともに、荷棚蓋17の上端部には回動軸17aが備えられている。図示はしないが、回動軸17aは内壁支え19aに支持される。蓋17は回動軸17aを支点として、側構体12から屋根構体13の方向に向けて回動(矢印50)することによって開閉され、手荷物等を荷棚部16の内部に収納できるように構成されている。蓋17の裏側の面板17cの回動軸17aの近傍部と、回動軸17aに隣接するリブ17dには、複数の孔からなる開口部が設けてある。面板17bの上端縁と天井21との間には、客室15に連なる隙間が形成されている。したがって、面板17cとリブ17dに設けられた開口部は、蓋17が閉じられた状態では、荷棚部16の内部と客室15を連通する連通部として機能するとともに、蓋17、荷棚18、内壁19からなる荷棚部16の内部空間が空洞部と機能することによって、荷棚部16が吸音器として構成される。面板17cからリブ17d至る上記連通部は屈曲しているので、この連通部で激しく振動する空気(70)は曲がり損失によっても大きな粘性摩擦損失が生じて音響エネルギーが散逸するので、より大きな吸音率を得ることができる。蓋17の客室側の面板17bには、開口部が設けられないので、開口部が乗客の目に触れることなく、意匠性の高い荷棚部16を構成することが可能となる。このため、高い意匠性を備えるとともに、重量やコストを著しく増やすことなく、また客室の居住空間や荷物の収容能力を著しく減らすことなく、鉄道車両の客室内騒音を低減することができる。なお、蓋17を構成する面板17cとリブ17dから連通部をなしている空間内部(空気の動きを示す矢印70が示される空間)に、多孔質材料40を配設しても、同様の効果を得ることができる。なお、蓋17の客室側の面板17bにも、リブ17dに設けられた開口部に代えて又は加えて、面板17cの開口部と連通する開口部を形成することができる。
【実施例6】
【0030】
図16は、蓋17のその他の実施例である。実施例6に示される蓋17は対向する面板17b、17cとリブ17dからなる形材から構成されており、連通部55と吸音部56を備える。連通部55は、蓋17の回動軸17aの近傍の面板17b、17cの一部を取り除いて形成された開口部に多孔質材料40を配設した後、面板17b、17cに固定された多孔板30,30によって多孔質材料40を蓋17の内部に保持することによって形成される。吸音部56は、蓋17の荷棚部16の内部側の蓋17を構成する面板17cの一部を取り除いて形成された空間に多孔質材料40を配設した後、面板17cに固定された多孔板30によって多孔質材料40を蓋17の内部に保持することによって形成される。なお、多孔板30はリブ17dの近傍の面板17b、17cの任意箇所にリベット等で固定されている。
【0031】
連通部55は、蓋17が閉じられた状態では、荷棚部16の内部と客室15を連通する連通部をなすとともに、蓋17、荷棚18、内壁19からなる荷棚部16の内部空間が空洞部として機能することによって、荷棚部16が吸音器として機能する。連通部55に配設された多孔質材料40に位置する空気は激しく振動する過程で多孔質材料40が有す内部の気泡の空気を振動させる。この時、多孔質材料の気泡の内面において、空気の粘性摩擦が生じ、音のエネルギーが著しく散逸するので、効果的に吸音することができる。このため、重量やコストを著しく増やすことなく、また客室の居住空間や荷物の収容能力を著しく減らすことなく、鉄道車両10の客室内騒音を低減することができる。さらに、連通部55から荷棚部16の内部空間に侵入しようとする車内騒音の高い周波数成分は、蓋17に備えられた吸音部56によっても吸音されるので、より大きな騒音低減効果を得ることができる。なお、実施例6に記された蓋17に備えられた吸音部56を実施例5に記された蓋17に適用してもよい。
【実施例7】
【0032】
図17は図14に示された荷棚18の詳細図である。図17に示されるにように、荷棚18は2枚の対向する面板18b、18cがリブ18dで接続された形材からなるとともに、荷棚18の側構体12側の上端部にはL字状の係止部18eが備えられている。側構体12には、荷棚18の係止部18eを載せて受ける載置部12bが備えられる。荷棚18は、荷棚18の係止部18eを側構体12の載置部12bに係止した後、側構体12に備えられる固定レール12cに、荷棚18の側構体12側の下端部をボルトナット60で固定することにより、鉄道車両10に取り付けられる。
【0033】
荷棚18の面板18cの一部は、荷棚としての強度を損なわない範囲で取り除かれて空間が形成される。この空間の内部には、多孔質材料40が配設された後、多孔板30によって荷棚18の内部に保持され、吸音部が構成される。多孔板30はリブ18dの近傍の面板18cにリベット等で固定される。荷棚18に吸音部を備えることにより、鉄道車両10が高速で走行する時に車内に侵入する高い周波数成分の騒音を吸音することができる。さらに、高速走行中にトンネルを通過する時、トンネル内において流体加振されて荷棚底板18aが振動したとしても、多孔質材料40及び多孔板30によって、荷棚底板18aから客室15内に音が放射されにくいという効果を得ることができる。このため、結果的に重量やコストを著しく増やすことなく、また客室の居住空間や荷物の収容能力を著しく減らすことなく、鉄道車両の車室内騒音を低減することができる。
【符号の説明】
【0034】
10…鉄道車両車体 11…台枠
12…側構体 12b…載置部
12c…固定レール 13…屋根構体
14…軒部 15…客室
16…荷棚部
17…蓋 17a…回動軸
17b、17c…面板 17d…リブ
18…荷棚 18b、18c…面板
18d…リブ 18e…係止部
19…内壁 19a…内壁支え
20…椅子 21…天井
25…断熱材 28…横梁
30…多孔板 31…樹脂或いは金属のメッシュ
32…布地 33…孔
34…密封シート 35…接着層
36…連通部
40…多孔質材料 50…荷棚蓋の回動を示す矢印
55…連通部 56…吸音部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根構体、側構体及び前記屋根構体と前記側構体とを接続する軒部を有しており、前記軒部の客室側近傍に前記軒部の長手方向に沿って、手荷物を載置する荷棚及び前記荷棚の手荷物出し入れ部に配置された蓋から構成される荷棚部を備える鉄道車両において、
前記荷棚部の前記蓋及び前記荷棚はそれぞれ板状構造で構成されており、両方又はどちらか一方の前記板状構造は、表裏両面にそれぞれ配置された多孔板及び当該両多孔板間に配置された単層又は多層積層の多孔質材料を備えていることを特徴とする鉄道車両。
【請求項2】
屋根構体、側構体及び前記屋根構体と前記側構体とを接続する軒部を有しており、前記軒部の客室側近傍に前記軒部の長手方向に沿って、手荷物を載置する荷棚及び前記荷棚の手荷物出し入れ部に配置された蓋から構成される荷棚部を備える鉄道車両において、
前記荷棚部の前記蓋及び前記荷棚はそれぞれ板状構造で構成されており、両方又はどちらか一方の前記板状構造は、表裏両面にそれぞれ配置された金属或いは樹脂製の網状体と当該網状体の上から覆う布地とを有する外殻部、及び当該両外殻部間に配置された単層又は多層積層の多孔質材料を備えていることを特徴とする鉄道車両。
【請求項3】
屋根構体、側構体及び前記屋根構体と前記側構体とを接続する軒部を有しており、前記軒部の客室側近傍に前記軒部の長手方向に沿って、手荷物を載置する荷棚及び前記荷棚の手荷物出し入れ部に配置された蓋から構成される荷棚部を備える鉄道車両において、
前記荷棚部の前記蓋及び前記荷棚はそれぞれ板状構造で構成されており、両方又はどちらか一方の前記板状構造は、その表裏両面を貫通する孔が形成され且つ前記孔の内径は前記貫通する孔の深さに比べて充分小さくとられており、更に前記蓋はその客室側表面において布地で覆われていることを特徴とする鉄道車両。
【請求項4】
屋根構体、側構体及び前記屋根構体と前記側構体とを接続する軒部を有しており、前記軒部の客室側近傍に前記軒部の長手方向に沿って、手荷物を載置する荷棚及び前記荷棚の手荷物出し入れ部に配置された蓋から構成される荷棚部を備える鉄道車両において、
前記蓋は、前記荷棚部の内部と前記客室とを連通する連通部を備えていることを特徴とする鉄道車両。
【請求項5】
請求項4に記載された鉄道車両において、
前記蓋は、表裏両面に配置される面板及び当該両面板を接続するリブから成る形材からなっており、
前記連通部は、前記表裏両面の面板に設けられた貫通孔、又は前記裏側の面板と前記リブとに設けられた貫通孔によって構成されていることを特徴とする鉄道車両。
【請求項6】
屋根構体、側構体及び前記屋根構体と前記側構体とを接続する軒部を有しており、前記軒部の客室側近傍に前記軒部の長手方向に沿って荷棚部を備える鉄道車両において、
前記荷棚部は、手荷物を載置する荷棚、当該荷棚の手荷物出し入れ部に備えられた蓋、及び前記軒部の前記客室側の面に沿って配設された内壁から構成されており、
前記蓋は、表裏両面板がリブで接続された形材からなるとともに、前記荷棚部の内部空間と前記客室とを連通する連通部及び吸音部を備えており、
前記連通部は、開口部が形成された前記各面板、及び前記開口部に孔が連通する状態で前記各面板を覆う多孔板からなり、
前記吸音部は、一方の前記面板に設けられた開口部と、前記開口部と他方の前記面板と前記リブとからなる空間に挿入された多孔質材料と、前記開口部に孔が連通する状態で前記他方の面板を覆う多孔板とから構成されていること
を特徴とする鉄道車両。
【請求項7】
屋根構体、側構体及び前記屋根構体と前記側構体とを接続する軒部を有しており、前記軒部の客室側近傍に前記軒部の長手方向に沿って荷棚部を備える鉄道車両において、
前記荷棚部は、手荷物を載置する荷棚、前記荷棚の手荷物出し入れ部に配置された蓋及び前記軒部の前記客室側の面に沿って配設された内壁から構成されており、
前記蓋は、前記蓋の前記屋根構体に近い側の端部に、前記鉄道車両の長手方向に沿って備えられた軸周りに開閉可能に配設されており、
前記蓋を閉じた状態のときに形成される前記蓋と前記荷棚との隙間が、前記荷棚部の内部と前記客室とを連通する連通部をなしていること
を特徴とする鉄道車両。
【請求項8】
請求項4から7のいずれか一項に記載された鉄道車両において、
前記荷棚は、表裏両面板がリブで接続された形材からなり、一方の前記面板には開口部が設けられており、
前記開口部と他方の前記面板と前記リブとからなる空間には多孔質材料が挿入されており、
前記一方の面板には、孔が前記開口部に連通する態様で前記開口部を覆う多孔板が取り付けられていること
を特徴とする鉄道車両。
【請求項9】
屋根構体、側構体及び前記屋根構体と前記側構体とを接続する軒部を有しており、前記軒部の客室側近傍に前記軒部の長手方向に沿って荷棚部を備える鉄道車両において、
前記荷棚部は、手荷物を載置する荷棚、前記荷棚の手荷物出し入れ部に配置された蓋及び前記軒部の前記客室側の面に沿って配設された内壁とから構成されており、
前記荷棚部の前記蓋、前記荷棚及び前記内壁の全て又はいずれかについて、前記荷棚部の内部側に気密性のある膜を接着し、
前記荷棚を閉じた状態で前記荷棚と前記蓋との対向部に形成される隙間が、前記荷棚部の内部と前記客室とを連通する連通部をなしていること
を特徴とする鉄道車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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