説明

鉄鋼スラグを用いたサンドドレーン材料及びサンドコンパクションパイル用材料

【課題】非固結性かつ透水性を有する鉄鋼スラグを用いたサンドドレーン材料及びサンドコンパクションパイル用材料を提供すること。
【解決手段】製鋼スラグと高炉スラグ微粉末と水を主成分として、これらを練り混ぜた後、固化させて鉄鋼スラグ水和固化体を製造し、その鉄鋼スラグ水和固化体を破砕して製造した人工石材を、少なくとも48時間の炭酸化処理と所定の粒度に調整することにより製造した非固結性かつ透水性を有する材料としたことを特徴とする鉄鋼スラグを用いたサンドドレーン材料及びサンドコンパクションパイル用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱粘土地盤の改良工法であるサンドドレーン(以下、SDともいう)工法もしくは低置換率のサンドコンパクションパイル(以下、SCPともいう)工法に用いられる砂の代替として使用される鉄鋼スラグ水和固化体を破砕した人工石材を所定期間養生後、少なくとも48時間の炭酸化処理と所定の粒度調整を行い製造したドレーン材としての性能を有する非固結性かつ透水性に優れる地盤改良材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤改良工法として、砂杭を軟弱な粘土地盤に打設するSD工法もしくはSCP工法が知られている。
【0003】
前記のSD工法は砂を締め固めずに打設し、通常本工法後に施工される盛土等の構造物の荷重を軟弱な粘土地盤に圧密応力として加えることによって、粘土地盤の排水促進(排水長短縮)による強度増加を促進させるためのドレーン材としての機能を期待する。本工法での地盤改良効果は、通常圧密による軟弱粘土地盤の強度増加のみであり、打設された砂杭の強度は考慮しない。一方、SCP工法は、締め固めた強固な砂杭を軟弱な粘土地盤中に打設する工法であり、改良率(砂杭の体積/改良対象となる軟弱地盤の体積)に応じて、高置換率改良SCP工法と低置換率SCP工法がある。
高置換率改良SCP工法は通常、改良率が70%以上になるように締め固めた砂杭を軟弱粘土地盤に打設することによってほぼ強制的に軟弱粘土地盤を強固な砂杭で置き換える工法であり、地盤改良効果は、軟弱粘土地盤の強度と締め固めた強固な砂杭の強度を改良率で平均化した複合地盤としての強度で評価される。本工法では設計上、SCP杭に求められる性能はせん断強度のみである。
一方、低置換率SCP工法は通常、改良率が30%以下で用いられる場合が多く、地盤改良効果は、高置換率SCP工法同様の複合地盤としての強度で評価されるが、施工後のSCP杭間の粘土地盤の圧密促進による強度増加を見込むことができる。従って、本工法でのSCP杭に求められる性能はせん断強度のみならず、粘土地盤の圧密促進のための透水性である。
さらにSD工法、低置換率SCP工法により軟弱粘土地盤の圧密が確実に行われるためには、上記透水性以外にSDならびにSCP改良後の地盤上の構造物による上載荷重を増加応力として軟弱粘土地盤に伝える必要がある。
特に低置換率SCP工法では、締め固めた強固な砂杭の剛性が軟弱粘土に比べて大きくなるため、上記上載荷重に伴う砂杭の増加応力Δσsと粘土地盤の増加応力Δσcの比率(応力分担比n=Δσs/Δσc)は、通常2〜4の範囲であるが、SCP杭が固結し、剛性が大きくなった場合には、さらに応力分担比が大きく粘土地盤に応力が伝達しにくくなり所定の圧密効果が期待できなくなることから、SCP杭は所定の圧密期間(6か月程度)非固結材料であることが必要である。
【0004】
特に低置換率SCP工法は、高置換率SCP工法に比較して、工程が長くなり、重要構造物の場合の沈下を許容するなどの欠点があるが、杭本数が少なく、施工に伴い発生する軟弱粘土地盤の盛り上がり土(浚渫土)の処分量削減による経済効果をもたらすことから、近年港湾に多用されつつある。
【0005】
一方、SD工法およびSCP工法に用いられる砂杭の材料は、従来良質な天然砂が用いられてきたが、近年天然資源の保護の観点より鉄鋼スラグ等のリサイクル材料の有効活用が推進されている。
【0006】
SCP工法用中詰め材料として、製鋼スラグ、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグを用いた材料は知られている。しかし、製鋼スラグ、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグを用いたSCP工法用中詰め材料は水硬性(固結性)があるため、高置換用の地盤改良材として用いることができても、地盤の圧密を期待する低置換用の地盤改良材としては、そのまま用いることが困難であるという問題がある(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0007】
なお、低置換SCP材料で、非固結性材料としては、天然砂以外に、銅水砕スラグ、フェロニッケルスラグ、石炭灰造粒物あるいはコンクリートがらを使用することが知られている(例えば、特許文献1参照)が、鉄鋼スラグを用いた材料については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−348466号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】(財)沿岸開発技術センター発行、港湾工事用製鋼スラグ利用手引書P19〜P20、2000.3
【非特許文献2】(財)沿岸開発技術センター発行、港湾工事用水砕スラグ利用技術マニュアル P58〜P60、2007.12
【非特許文献3】鉄鋼スラグ水和固化体 技術マニュアル 製鋼スラグの有効技術マニュアル 財団法人沿岸開発技術開発センター発行 平成20年2月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記のような水硬性を有する鉄鋼スラグの固結抑制対策として、鉄鋼スラグを天然砂や天然石と混合する方法が知られているが、このように混合する場合は、それらの混合に手間がかかり、また天然資源の保護という点で問題がある。
【0011】
本発明は、鉄鋼スラグを天然砂や天然石と混合することなく、SD工法および低置換率改良(一般的な改良率≦30%)に適用可能な非固結性の低置換SCP工法用材料(すなわち、低置換SCP工法用材料中詰め材料:SCP杭形成時において、鋼製ケーシング内に投入されて前記鋼製ケーシング下端から排出される材料)を提供することを目的とする。
しかも、本発明は、ドレーン材としての性能を有する非固結性のSDおよび低置換率SCP工法用材料に関し、鉄鋼スラグ水和固化体を破砕した人工石材を所定の粒度範囲に設定するとともに、これをさらに養生して残留する水和反応を抑制することにより非固結性、ドレーン材としての透水性能(透水係数k15=10-3cm/S以上)を有する低置換率SCP用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を有利に解決するために、第1発明の鉄鋼スラグを用いたサンドドレーン材料及びサンドコンパクションパイル用材料は、製鋼スラグと高炉スラグ微粉末と水を主成分として、これらを練り混ぜた後、固化させて鉄鋼スラグ水和固化体を製造し、その鉄鋼スラグ水和固化体を破砕して製造した人工石材を、少なくとも48時間の炭酸化処理と所定の粒度に調整することにより製造した非固結性かつ透水性を有する材料としたことを特徴とする。
また、第2発明では、第1発明の鉄鋼スラグを用いたサンドドレーン材料及びサンドコンパクションパイル用材料において、人工石材は、粒度が最大粒径50mm以下で10%通過粒径D10が少なくとも0.9mmであり、かつ前記鉄鋼スラグ水和固化体を破砕した人工石材製造後の養生期間M(月)が、少なくとも1.0カ月以上の条件を満足することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鉄鋼スラグを用いたサンドドレーン材料及びサンドコンパクションパイル用材料は、鉄鋼スラグの有効利用による天然資源の保護とともに、炭酸化処理されているため、炭酸ガスの有効利用による炭酸ガスの削減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】人工石材からなる鉄鋼スラグを用いたSD材料及びSCP用中詰め材料の粒径と通過重量百分率との関係を示すグラフである。
【図2】10%通過粒径と初期透水係数との関係を示すグラフである。
【図3】人工石材からなる鉄鋼スラグを用いたサンドドレーン材料及びサンドコンパクションパイル用材料の10%通過粒径D10と養生期間M(月)とを軸にとって、固結、非固結の関係を示すグラフであり、本発明における非固結性の人工石材として利用可能な10%通過粒径D10と養生期間M(月)の条件範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0016】
先ず、本発明において利用する鉄鋼スラグ水和固化体とは、非特許文献3に示されるいずれかの配合のものであり、具体的には製鋼スラグと高炉水砕スラグ微粉末と水と練り混ぜ、固化(硬化)させたもので、必要に応じ、高炉水砕スラグ、フライアッシュ、および消石灰、セメントのいずれか1種又は2種以上のアルカリ刺激材を含ませてもよい。
【0017】
前記の製鋼スラグとは、溶銑、スクラップなどを精錬し、靭性、加工性を有する鋼を製造する製鋼過程で生成するCaO,SiO2などを主成分とする無機物である。一般には、砕石状の外観を呈する。
【0018】
また、製鋼スラグは、製鋼工程で生じる石灰分を主体とした副産物であり、転炉スラグ、溶銑予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、電気炉還元スラグ、電気炉酸化スラグ、二次精錬スラグ、造塊スラグの1種または2種以上を混合したものである。
【0019】
本発明の実施形態では、養生済み人工石材製造後の養生期間(保管による水和反応の促進)と炭酸化処理を行い、さらに養生済み人工石材の粒度範囲を因子とした突き固め作成供試体についての非固結条件を巧みに組み合わせるようにしている。
【0020】
次に、本発明の実施形態について、説明する。
(実施形態)
【0021】
表1に示すように、製鋼スラグを1397kg/m3、高炉スラグ微粉末を530kg/m3、水を290kg/m3として、これらを混合して練り混ぜ、型枠内に充填して固化させて、鉄鋼スラグ固化体を製造後、これを破砕して、人工石材を製造した。そのように製造にした人工石材の試料を、その粒度が最大粒径50mm以下にふるい分けした試料を、図1に示す3つの粒度に調整し、屋外で少なくとも1.0カ月以上(1.0カ月〜2ヶ月)の養生期間M(月)で自然養生後、48時間炭酸化処理を行って人工石材からなる鉄鋼スラグを用いたSD材料及びSCP用中詰め材料のふるい分けした試料を製造した。
前記の炭酸化処理は、前記3つの粒度に調整した試料を二酸化炭素の雰囲気中に少なくとも48時間置いて炭酸化を促進させる処理である。
【0022】
前記のように3つにふるい分けした試料の通過質量百分率を、均等係数Ucと共に表2に示す。
【0023】
前記の3つにふるい分けした人工石材からなる鉄鋼スラグを用いたサンドドレーン材料及びサンドコンパクションパイル用材料を用いて、突き固め試験(JIS A 1220)によるE-c法による最大乾燥密度になるように詰めて、円柱供試体(直径D=150mm×高さH=300mm)をそれぞれ作製後、80℃恒温水槽で促進養生し、3ヶ月間後の固結状況試験および突き固め直後の初期透水試験を実施し、固結の判定を行った。判定結果を表3に示す。
尚、固結の判定は、80℃恒温水槽で促進養生3ケ月後に材料を詰めた養生容器を脱枠した後の供試体が手で崩せる程度の一軸圧縮強さqu=30kN/m2以下のものを非固結とする。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
図1に黒三角(▲)で示す下限設定値の粒度曲線Aでは、表3に示すように、初期透水係数が5.83×10-4cm/sであり、ドレーン材として必要な透水係数10-3cm/sを満足しないため、低置換率サンドコンパクションパイル用材料として使用することができないことがわかる。
図1に黒四角(■)で示す上限設定値の粒度曲線Bでは、表3に示すように、初期透水係数が8.46×10-2cm/sであり、かつ1.0カ月以上の養生で固結しないため、低置換率SCP用中詰め材料として使用することができることがわかる。
図1に白四角(□)で示す平均設定値の粒度分布曲線Cでは、表3に示すように、初期透水係数が3.24×10-3cm/sであり、ト゛レーン材として必要な透水係数10-3cm/sを満足し、かつ2.0カ月以上の養生で固結しないため、低置換率サンドコンパクションパイル用材料として使用することができることがわかる。
【0028】
図1および表3から、養生、炭酸化処理済みの人工石材をSDおよび低置換SCP工法用材料として用いると、ドレーン材として軟弱地盤中の水を排水して、軟弱地盤の圧密を図ることができ、製鋼スラグを含む鉄鋼スラグ水和固化体の有効利用を図ることができる。
【0029】
図2は、図1に示す粒度曲線におけるD10と表3に示す突き固め直後の養生前の初期透水係数の関係を示したものである。この図から、初期透水係数10-3cm/s以上とするためには、10%通過粒径(D10)で、0.9mm以上(少なくとも0.9mm)のものを用いる必要があることがわかる。さらに好ましくは、初期透水係数を10-2cm/s以上に上げることにより、さらなる圧密促進効果が期待できる10%通過粒径(D10)で、2.7mm以上(少なくとも2.7mm)のものを用いることが望ましい。
なお、図2中、E−01〜E−04は、×10-1〜10-4の意味で使用している。
【0030】
また、図3は、10%通過粒径(D10)と養生期間(月)との関係のグラフであり、本発明における非固結性の人工石材からなる鉄鋼スラグを用いたサンドドレーン材料及びサンドコンパクションパイル用材料として利用可能な範囲を示すグラフである。また、この図から、固結しないようにするためには、鉄鋼スラグ水和固化体を破砕した人工石材製造後の養生期間M(月)として、固結条件と非固結条件の点線で示す境界線よりも右上の範囲にすればよいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグと高炉スラグ微粉末と水を主成分として、これらを練り混ぜた後、固化させて鉄鋼スラグ水和固化体を製造し、その鉄鋼スラグ水和固化体を破砕して製造した人工石材を、少なくとも48時間の炭酸化処理と所定の粒度に調整することにより製造した非固結性かつ透水性を有する材料としたことを特徴とする鉄鋼スラグを用いたサンドドレーン材料及びサンドコンパクションパイル用材料。
【請求項2】
前記人工石材は、粒度が最大粒径50mm以下で10%通過粒径D10が少なくとも0.9mmであり、かつ前記鉄鋼スラグ水和固化体を破砕した人工石材製造後の養生期間M(月)が、少なくとも1.0ヶ月の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の鉄鋼スラグを用いたサンドドレーン材料及びサンドコンパクションパイル用材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−219479(P2012−219479A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84942(P2011−84942)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】