説明

鉛ダンパー

【課題】充分な減衰性能が得られるとともに、小型・軽量化を図れる鉛ダンパーを提供する。
【解決手段】基礎と上部構造体間に介装され、基礎と上部構造体間に生じる振動を鉛塊の塑性変形によって吸収し減衰させる構成の鉛ダンパーであり、鉛塊よりなり下端が取付プレート2により基礎に固定されるダンパー本体1と、ダンパー本体の上端に基端部3aが相対回転不能に固定され、該基端部を中心に回動することでダンパー本体に捻りを与える第1アーム3と、第1アームの回動面と平行な面内で回動し得るように第1アームの先端部3bに一端部が連結された第2アーム4と、を備え、第2アームの他端部を上部構造体に回動可能に連結し、基礎と上部構造体間に生じる振動を第1、第2アームによりダンパー本体に伝達することにより、ダンパー本体を捻り方向に塑性変形させるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造物や制震構造物に減衰装置として設置されるダンパーに係わり、特に鉛塊の塑性変形により振動を吸収し減衰させる構成の鉛ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の鉛ダンパーとしては、たとえば特許文献1に示されるものが一般的である。これは、鉛塊を特殊な形状に屈曲形成した鉛柱体を主体とするもので、そのような鉛柱体をたとえば免震建物の基礎とそれに支持される上部構造体との間に介装することにより、地震時に基礎と上部構造体との間で生じる相対変位により鉛柱体を屈曲させるように塑性変形させ、それにより振動エネルギーを吸収して減衰効果を得るものである。
【特許文献1】特開2003−27766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に示されているような、鉛柱体の曲げ変形によって振動を吸収する構成の従来の鉛ダンパーにあっては、鉛柱体が塑性変形する際における各部の応力状態が一様ではなく、したがって鉛柱体の一部が局部的に塑性変形するに留まって、必ずしも充分な減衰性能が得られるものではなく、そのため減衰性能を高めるためには鉛使用量を多くする必要があり、必然的に大型化、大重量化せざるを得ないものであった。
【0004】
上記事情に鑑み、本発明は充分な減衰性能が得られ、しかも小型・軽量化を図れるようにした鉛ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、2つの部材間に介装され、前記2つの部材間に生じる振動を鉛塊の塑性変形によって吸収し減衰させる構成の鉛ダンパーであって、鉛塊よりなり、かつ一端が前記2つの部材のうちの一方の部材に固定されるダンパー本体と、該ダンパー本体の他端に基端部が相対回転不能に固定され、該基端部を中心に回動することで前記ダンパ本体に捻りを与える第1アームと、該第1アームの回動面と平行な面内で回動し得るように前記第1アームの先端部に一端部が連結された第2アームと、を備え、前記第2アームの他端部を前記2つの部材のうちの他方の部材に回動可能に連結し、前記2つの部材間に生じる振動を前記第1、第2アームにより前記ダンパー本体に伝達することにより、該ダンパー本体を捻り方向に塑性変形させるように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、2つの部材間に生じる振動を、互いに回転可能に連結された第1、第2アームを介して、ダンパー本体に捻りモーメントとして伝達させることができる。即ち、2つの部材間に生じる振動を、ダンパー本体を捻る力として変換することができ、集中的にダンパー本体の全体を捻り変形させることができる。したがって、ダンパー本体の捻り方向の塑性変形によって、優れた減衰性能を発揮することができ、従来の鉛柱体の曲げ変形により減衰性能を得る形式の鉛ダンパーに比較して、エネルギー吸収効率の向上が図れる。また、それに伴い、所望の減衰性能を得るのに必要な鉛使用量を削減することができるので、鉛ダンパーの小型・軽量化を図ることができる。
【0007】
特にこの場合、ダンパー本体の一端を一方の部材に直接固定しているので、ダンパー本体自体は動くことはなく、定位置で捻られることになり、安定性が向上する。また、ダンパー本体に直接接合する第1アームは、接合上の都合や回転を捻りに変換する必要上などからプレート状に形成する必要があるかもしれないが、第2アームは自由な形状、例えば曲げ剛性の高いロッド状に形成することができるので、回動面外方向への曲げ力にも強いアームとすることができる。そのため、アームに無用な捻れが発生するのを防止することができ、入力された振動を、ダンパー本体を捻る力として適正に伝達させることができて、振動減衰吸収のロスを少なくすることができる。また、ダンパー本体が復元する際の作動にも乱れが生じないようにすることができる。
【0008】
また、ダンパー本体の両端にそれぞれアームを連結するのではなく、一端を固定したダンパー本体の他端側に2つのアームを直列に連結して設けているので、ダンパー本体からアームの先端までの実質的な長さを長くすることができ、2つの部材に対する鉛ダンパーの取付点間の距離を広い範囲で自由に設定することができる。そのため、取付点間を結ぶ直線(動作軸)と直交する方向の変位に対する特性の変動を無視できるレベルにまで低下させることができる。また、第1、第2のアームの長さとダンパー本体の形状の設定により、ダンパー本体の変形能力および降伏荷重を幅広く調整することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1〜図3は本発明の実施形態である鉛ダンパーを示すものである。本実施形態の鉛ダンパーは、免震建物の基礎部の2部材(基礎と上部構造体)間に減衰装置として設置されて、その建物の振動を鉛塊の塑性変形によって吸収し減衰させることを基本とするものであって、鉛塊より構成され、かつ一端が2つの部材のうちの一方の部材に取付プレート2を介して固定されるダンパー本体1と、ダンパー本体1の他端に接合され、建物の振動をダンパー本体1に伝達してダンパー本体1を捻るように塑性変形させる、直列に連結された第1、第2の2本のアーム3、4とからなる。
【0010】
ダンパー本体1は、実質的に中実の円柱状ないし円盤状の形態をなす鉛成形体であって、その上下両端部にはそれぞれ外周方向に環状に張り出すフランジ部1aが一体に形成され、両フランジ部1a間に、フランジ部1aよりも径小の円柱状または円筒状の部分1bが確保されている。
【0011】
取付プレート2は厚肉鋼板よりなり、ダンパー本体1の下側のフランジ部1aに相対回転不能に接合されている。取付プレート2には複数のボルト挿入孔2aが設けられており、それらのボルト挿入孔2aを利用して取付プレート2を基礎(一方の部材)21にボルト18で締結することにより、ダンパー本体1が基礎21に固定されている。
【0012】
2本のアーム3、4のうち、ダンパー本体1に直結される第1アーム3は、厚肉鋼板よりなるプレート状をなし、第1アーム3の先端に連結される第2アーム4は、鋼棒やパイプ等よりなるロッド状をなしている。第1アーム3の基端部3aは、ダンパー本体1のフランジ部1aに対応した大きさの略円形状に形成され、ダンパー本体1の上側のフランジ部1aに相対回転不能に接合されている。これにより、第1アーム3がその基端部3aを中心に回動することで、ダンパ本体1に捻りが加わるようになっている。ここで、取付プレート2とダンパー本体1の接合および第1アーム3とダンパー本体1の接合には、ホモゲン溶着等の冶金的接合方法、接着剤のような化学的接合方法、ボルトを使った物理的接合方法などを採用することができる。
【0013】
また、第1アーム3の先端部3bには、第1アーム3の回動面と平行な面内で回動し得るように、ロッド状の第2アーム4の一端部が連結され、その第2アーム4の他端部が、2つの部材のうちの他方の部材である上部構造体22に回動可能に連結され、この状態で両アーム3、4の配置が略L字状になっている。
【0014】
ここで、第1アーム3と第2アーム4の回動可能の連結は、第1アーム3の先端部3bと第2アーム4の端部の連結孔3c、4aに座金15を介してボルト11を挿入し、反対側に突出したボルト11の先端に座金15を介してナット12を締結することで行っている。同様に、第2アーム4と上部構造体22の回動可能の連結は、第2アーム4の端部と上部構造体22に固定したブラケット23の連結孔4a、23aに座金15を介してボルト13を挿入し、反対側に突出したボルト13の先端に座金15を介してナット14を締結することで行っている。
【0015】
このように設置することで、図4に示すように、鉛ダンパーの基礎21に対する取付点Aがダンパー本体1の捻りの中心、上部構造体22に対する第2アーム4の取付点Bおよび第1、第2アーム3、4の連結点Cがそれぞれ回動の中心となる。これにより、2つの部材(基礎21と上部構造体22)間に生じる振動を、第1、第2アーム3、4によりダンパー本体1に伝達して、ダンパー本体1を捻り方向に塑性変形させることができるようになる。
【0016】
以上のように、本実施形態の鉛ダンパーは、ダンパー本体1の下端を取付プレート2を介して基礎21に相対回転不能に固定し、ダンパー本体1の上端を、2つの回転可能に連結したアーム3、4を介して上部構造体22に連結しているので、地震時等においてこの建物に振動が生じて基礎21と上部構造体22との間に水平方向の相対変位が生じた際には、図4に示すように取付点A、B間の間隔dが変化し、それに伴いアーム3、4からダンパー本体1の上端に捻りモーメントが加えられ、それによってダンパー本体1が捻られて塑性変形し、その塑性変形による振動エネルギー吸収効果によって優れた減衰性能を発揮する。
【0017】
このように、本実施形態の鉛ダンパーは、円柱状のダンパー本体1の全体が捻れ変形を受けることで優れた減衰性能が得られるものであることから、特許文献1に示されるような特殊形状の鉛柱体の曲げ変形により減衰性能を得る場合に較べてエネルギー吸収効率が向上し、したがって所望の減衰性能を得るのに必要な鉛使用量を削減し得て、充分な小型・軽量化を図ることが可能である。勿論、アーム3、4の長さとダンパー本体1の形状の設定により、ダンパー本体1の変形能力および降伏荷重を幅広く調整することが可能である。
【0018】
特にこの場合、ダンパー本体1の下端を基礎(一方の部材)21に取付プレート2を使用して直接固定しているので、ダンパー本体1自体は動くことはなく、定位置で捻られることになり、安定性が向上する。また、ダンパー本体1の上端に直接接合している第1アーム3は、接合上の都合や回転を捻りに変換する必要上などからプレート状に形成する必要があるかもしれないが、第2アーム4は曲げ剛性の高いロッド状に形成することができるので、回動面外方向への曲げ力にも強いアームとすることができる。そのため、アーム4に無用な捻れが発生するのを極力防止することができ、入力された振動を、ダンパー本体1を捻る力として適正に伝達させることができて、振動減衰吸収のロスを少なくすることができる。また、ダンパー本体1が復元する際の作動にも乱れが生じないようにすることができる。
【0019】
また、図5に示す比較例のように、ダンパー本体1の両端にそれぞれアーム3を連結するのではなく、図1〜図3に示すように、一端を固定したダンパー本体1の他端側に2つのアーム3、4を直列に連結して設けているので、ダンパー本体1からアーム3、4の先端までの実質的な長さを長くすることができ、2つの部材(基礎21と上部構造体22)に対する鉛ダンパーの取付点A、B間の距離を広い範囲で自由に設定することができる。そのため、以下に述べるように、取付点A、B間を結ぶ直線(動作軸)と直交する方向の変位に対する特性の変動を無視できるレベルにまで低下させることができる。
【0020】
例えば、図5に示す比較例の鉛ダンパーの場合、初期状態では図6(a)に示すような角度でアーム3、3が開いているが、作動時には、(b)に示すようにアーム3、3が閉じたり、(c)に示すようにアーム3、3が開いたりしてダンパー本体1に捻れ変形が生じる。そして、このアーム3、3が開いた状態と閉じた状態では、動作軸と直交方向の動きに対する影響度(特性)が異なる。即ち、閉じた状態で直交方向に変位が生じた場合には、直交方向の少しの変位でアーム3、3を開かせようとする力が生じる。これに対し、開いた状態で直交方向に変位が生じた場合には、閉じた状態に比べて、アーム3、3を開かせようとする力は小さくなり、直交方向の変位の影響を受けにくくなる。したがって、アーム3、3の開き具合により、特性に違いが出るので、取付設計上の煩雑さが出てくる。
【0021】
しかし、本実施形態の鉛ダンパーによれば、アーム3、4の長さが実質的に長くなるので、動作軸と直交する方向の変位の影響の差が出にくくなる。したがって、アーム3、4の長さを長くすることで、直交方向への影響を無視できるレベルまで低下させることができ、取付設計上の煩雑さを軽減することができる。
【0022】
以上で本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例であって本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、たとえば以下に列挙するような様々な変形や応用が可能である。
【0023】
上記実施形態ではダンパー本体1を円柱状の形態としたが、ダンパー本体1としての鉛塊の形態は特に限定されるものではなく、アーム3を連結固定するためのフランジ部1aを両端部に一体に形成でき、それらフランジ部1aを介して全体が捻れるような塑性変形を生じて所望の減衰性能を得ることができるものである限りにおいて、ダンパー本体1は、たとえば角柱状や適宜のブロック状等の様々な形態とすることができるし、寸法も任意である。そして、ダンパー本体1の形状や寸法に対応させて、ダンパー本体1におけるフランジ部1aの形状や、アーム3の基端部3aの形状等を設定すれば良い。一例を挙げれば、たとえばダンパー本体1を角柱状としてフランジ部1aを角形としたり、ダンパー本体1は円柱状のままでフランジ部1aのみを角形とすることが考えられ、その場合にはアーム3の基端部3aもフランジ部1aに対応させて角形に形成すれば良い。
【0024】
上記実施形態は免震建物の基礎部への設置例であるが、本発明の鉛ダンパーは様々な規模、用途の構造物や建築物に対して広く適用できるものであるし、その設置位置や設置形態も任意である。たとえば、上記実施形態は免震建物の基礎部への適用例であることから、ダンパー本体1の軸線を鉛直としアーム3、4を水平面内において回転させるような姿勢で設置したのであるが、上記実施形態の鉛ダンパーをそのまま制震建物の梁と柱との接合部に設置して層間変形により作動させることも可能であり、その場合にはダンパー本体1の軸線を水平とし、アーム3、4を垂直面内において回転させるような姿勢で設置すれば良い。勿論、第2アーム4の先端部を構造物(部材)に対して連結するための構造も、相対回転可能な状態で連結する限りにおいて任意である。
【0025】
なお、上述した2つのアーム3、4の交差角度は、取付点A、B間の距離d(図4参照)が変化した場合に、両アーム3、4によって、その距離dの変化が有効にダンパー本体1の捻り回転に変換されるような角度に設定してあれば良く、特に限定されるものではない。また、アーム3、4の形状、厚さ、材質は、所定の剛性・耐力を確保できるものであれば、任意に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態である鉛ダンパーの組立状態を示す斜視図である。
【図2】同鉛ダンパーの構造物への設置状態を示す図である。
【図3】同鉛ダンパーの分解斜視図である。
【図4】同鉛ダンパーの設置時の平面図である。
【図5】比較例として示す鉛ダンパーの斜視図である。
【図6】同比較例の鉛ダンパーの作動説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 ダンパー本体
2 取付プレート
3 第1アーム
4 第2アーム
21 基礎(部材)
22 上部構造体(部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの部材間に介装され、前記2つの部材間に生じる振動を鉛塊の塑性変形によって吸収し減衰させる構成の鉛ダンパーであって、
鉛塊よりなり、かつ一端が前記2つの部材のうちの一方の部材に固定されるダンパー本体と、該ダンパー本体の他端に基端部が相対回転不能に固定され、該基端部を中心に回動することで前記ダンパ本体に捻りを与える第1アームと、該第1アームの回動面と平行な面内で回動し得るように前記第1アームの先端部に一端部が連結された第2アームと、を備え、
前記第2アームの他端部を前記2つの部材のうちの他方の部材に回動可能に連結し、前記2つの部材間に生じる振動を前記第1、第2アームにより前記ダンパー本体に伝達することにより、該ダンパー本体を捻り方向に塑性変形させるように構成したことを特徴とする鉛ダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−16885(P2007−16885A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198546(P2005−198546)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(593127647)大阪化工株式会社 (8)
【Fターム(参考)】