説明

鉛フリーめっき皮膜の評価方法

【課題】鉛フリーめっき皮膜を短時間に評価する評価方法を提供する。
【解決手段】鉛フリーめっきが施された媒体31における鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、前記鉛フリーめっき皮膜32の一部の領域を鉛フリーめっき皮膜が融解するまで加熱した後に凝固させ、前記加熱させた後凝固させた領域32aの体積変化率を測定することを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛フリーめっき皮膜の評価方法に関し、特に、電子部品の電極を接続する際に用いられる錫又は錫合金からなるめっき皮膜の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実装基板等に搭載される電子部品における電極の接続には、一般的にはんだめっきが用いられる。このはんだめっきに用いられる材料は、近年環境問題への配慮から鉛フリーはんだが多く用いられるようになっている。鉛フリーはんだは、鉛を含んでいないため鉛を放出することがなく、鉛による環境汚染を回避することができる。一方、従来から用いられている鉛を含むはんだめっきには、鉛が含まれているが、この鉛はウイスカと称する髭状結晶の成長を抑止する効果を有しているため、鉛を含まない鉛フリーはんだを用いてめっきを施した場合には、ウイスカの発生に起因した問題が多く発生することが確認されている。
【0003】
また、鉛フリーはんだめっきによってウイスカの発生は多くなるが、めっきが施される部分(電子部品の電極部など)の材質や形状によってもウイスカの発生の程度が異なる。即ち、ウイスカの発生は、めっき皮膜に働く応力に依存することが知られている。この応力は、めっきの内部応力や、めっきが施される下地となる層からの原子の拡散、めっき皮膜における金属組織の回復や再結晶化によって発生する応力である。そこで、はんだめっきが施された電子部品や、そのような電子部品が搭載された実装基板に対してウイスカの発生や成長を評価し、製品の信頼性を確保することが一般的に行われている。
【0004】
ここで、ウイスカについて、電子部品の接続端子である電極部の銅(Cu)合金の部材(媒体)の上に鉛(Pb)フリーめっきとして錫(Sn)めっきを施した場合について説明する。
【0005】
特許文献1に記載されているように、Snめっき膜が形成された後、ある程度の時間が経過するとSnめっき膜の表面は酸化され表面酸化膜が形成される。また、下地となる電極部の部材におけるCuがSnめっき膜に拡散して下地拡散層が形成される。ウイスカはこの下地拡散層が厚く形成された領域上において、発生し成長する。環境条件によっては、表面酸化膜を貫通し外側に向かって成長し、長いものでは、400μmから1mm程度の長さにまで成長する。
【0006】
このようなウイスカが半導体パッケージの接続端子上で発生すると、ウイスカ同士が非常に近接したり、接触したりする場合がある。ウイスカはSnが結晶成長したものであることから、高い導電性を有しているため、接続端子上で成長したウイスカ同士が近接したり接触したりすると、この部分で短絡が生じる場合がある。この短絡によって、半導体パッケージの動作不良が生じ、結果的にコンピュータシステムや電気通信システムに不具合を生じてしまう虞がある。
【0007】
このようなウイスカ発生による問題を事前に調べて、ウイスカの発生のない、又は発生の少ない条件(媒体となる部材の材質、形状、めっき材の材質等)を選定するために行われる試験が、ウイスカ評価試験と称される試験である。評価対象として試験片または電子部品を室温で放置してウイスカの発生を調べる場合、例えば1000時間以上の長時間に亙って放置する必要があり、実用的ではない。そこで、ウイスカの発生及び成長を促進して短時間でウイスカを発生させる加速評価試験が検討されている。具体的に、加速評価試験では、基本的に試験片または電子部品に熱を加えることによりウイスカの発生を促進させようとするものであり、熱の他にも湿度や圧力を加えたりする場合がある。
【0008】
従来のウイスカ評価方法として、室温放置、または、恒温放置、恒温高湿放置、温度サイクル試験、不飽和水蒸気によるプレッシャークッカー試験(HAST)等がある。これらのウイスカ評価方法は、非特許文献1に記載されている。なお、上述の高温放置、高温高湿放置、温度サイクル試験、不飽和水蒸気によるプレッシャークッカー試験等は、ウイスカの発生や成長を加速させようとする方法であるが、従来より電子部品を実装基板に搭載した際の接続信頼性を評価する際に用いられてきたものである。
【特許文献1】特開2005−330577号公報
【非特許文献1】「鉛フリーはんだ実用化検討の2002年成果報告書」JEITA
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
実際に加速評価試験がウイスカの発生、成長を促進しているものかにつき調査したところ、熱や湿度を加える従来の加速評価試験では、反対にウイスカの成長が抑制されてしまうことを確認した。即ち、従来の加速評価試験のように加速のために熱を加える方法では、ウイスカが成長して表面酸化膜に到達するまでの間に表面酸化膜が厚く成長してしまい、ウイスカが表面酸化膜を突き破って成長することができなくなるものと考えられる。従って、表面酸化膜がウイスカの成長を抑制しているものと考えられる。
【0010】
表面酸化膜は、Snめっき膜の表面に雰囲気中の酸素(O)が作用して形成される酸化膜であり、このような酸化は加熱条件下で加速される。従って、表面酸化膜の成長を抑制するためには、加熱を行わないことが適当であるが、ウイスカの成長を促進するためには加熱は重要な条件であり、加熱を行わないと評価試験の時間が長くなるといった問題がある。上述の例は、Snめっき膜の表面に酸化膜が生成された場合であるが、めっき膜の材質や雰囲気条件によっては、酸化膜ではなく水酸化膜が形成される場合もある。水酸化膜も酸化膜と同様に雰囲気中の酸素の存在が生成要因となる。
【0011】
このように、ウイスカの発生及び成長を加速して評価時間を短縮する目的の加速試験において、ウイスカの発生及び成長を抑制してしまうことは逆効果であり、評価時間が長くなるばかりでなく、正確な評価ができなくなるという問題がある。
【0012】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、従来のウイスカ評価試験方法と異なり、ウイスカの発生の原因となるSn結晶粒の回復/再結晶化現象を定量的に評価することにより、鉛フリーめっき皮膜の評価を行う方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一観点によれば、鉛フリーめっきが施された媒体における鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、前記鉛フリーめっき皮膜の一部の領域を鉛フリーめっき皮膜が融解するまで加熱した後に凝固させ、前記加熱させた後凝固させた領域の体積変化率を測定することを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法が提供される。
【0014】
本発明の別の観点によれば、鉛フリーめっきが施された媒体における鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、前記鉛フリーめっき皮膜の一部の領域を鉛フリーめっき皮膜が融解するまで加熱する加熱工程と、前記一部の領域を融解した後、凝固させる凝固工程と、前記一部の領域が凝固した後、前記融解された領域の膜厚と、前記融解がされていない領域の膜厚とを測定する測定工程と、前記融解がされていない領域の膜厚に対する前記融解された領域の膜厚に基づき体積変化率を算出する算出工程とを含むことを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法が提供される。
【0015】
本発明の別の観点によれば、鉛フリーめっきが施された媒体における鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、前記鉛フリーめっき皮膜の一部の領域を鉛フリーめっき皮膜が融解するまで加熱する加熱工程と、前記一部の領域を融解した後、凝固させる凝固工程と、前記凝固工程終了後、前記鉛フリーめっき皮膜が融解した領域と融解していない領域との双方の鉛フリーめっき皮膜に垂直な断面をドライエッチングにより露出させる断面露出工程と、前記断面露出工程により露出した面において、前記融解された領域の膜厚と、前記融解がされていない領域の膜厚とを測定する測定工程と、前記融解がされていない領域の膜厚に対する前記融解された領域の膜厚に基づき体積変化率を算出する算出工程とを含むことを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、本発明に記載された熱処理を行った後に鉛フリーめっき皮膜の膜厚等を測定することにより、容易に鉛フリーめっき皮膜の評価を行うことができる。これにより、今まで長期間要していたウイスカ評価試験を行うことなく鉛フリーめっき皮膜の評価を行うことができ、鉛フリーめっき皮膜の評価時間を短縮することができる。これにより、設計や開発等の期間を短縮することができ、鉛フリーめっき皮膜を用いた製品のコストダウンが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
最初に、発明者が得た本発明の基礎となる技術的知見について説明する。
【0018】
一般に、めっき皮膜には、金属結晶粒の結晶格子に、格子欠陥が多数存在している。このめっき皮膜内の結晶粒に含まれる格子欠陥は不変的なものではなく、一定温度以上に長時間放置した場合、金属原子が移動することにより正規の結晶格子に配列し格子欠陥が解消していく回復現象や、隣接する結晶粒同士が融合して一つの結晶粒となる再結晶化現象が生じる。
【0019】
鉛フリーめっき皮膜におけるウイスカの発生の主原因は、めっき膜内でのSnにおける回復や再結晶化によるものと考えられるため、回復や再結晶化を生じさせる原因となっており、めっき皮膜内の格子欠陥の数が、ウイスカの発生と相関を有しているものと考えられる。
【0020】
また、鉛フリーめっき皮膜を加熱して融解させると、凝固の際に格子欠陥の少ない大型の結晶粒が生じる。このことは、鉛フリーめっき皮膜における融解に伴う回復、再結晶化現象である。そして、この回復や再結晶化がなされることにより、初期の鉛フリーめっき皮膜と比べ、体積が増大することを見いだした。
【0021】
具体的に、図1に基づき説明する。鉛フリーめっき皮膜が形成された直後の状態では、図1(a)に示されるように、Sn結晶1a内において、格子欠陥の一種である転位1bが発生している。この後、図1(b)に示されるように、融解した後に凝固させることにより、緩和によりSn原子が移動し、転位1bが消失する。このSn原子の移動により、体積が膨張するのである(1cに示す部分が体積膨張した部分)。
【0022】
ここで、鉛フリーめっき皮膜を室温で放置した場合に生じる回復や再結晶化と、融解させた後に凝固させた際の回復や再結晶化とは、回復や再結晶化に至るまでの所要時間には大きな違いがあるものの、現象としては本質的には同じものである。
【0023】
従って、融解させた後に凝固させることにより、回復や再結晶化を加速させることができ、迅速に評価を行うことができるのである。具体的には、融解させた後に凝固させたときの体積増加量、即ち、体積変化率を求めることで、鉛フリーめっき皮膜のウイスカ発生能を把握し比較することが可能となる。
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
〔第1の実施の形態〕
第1の実施の形態である鉛フリーめっき皮膜の評価方法について、図2に基づき具体的に説明する。本実施の形態は、ヒーティングブロックを有する加熱装置を用いた方法である。
【0025】
鉛フリーめっき皮膜がなされる媒体である金属からなる薄板に、Snめっき皮膜を形成した試料を作製し、この鉛フリーめっき皮膜の評価を行う。
【0026】
最初に、ステップ102(「S102」を意味する。以下同様。)に示すように、試料を加熱装置に水平に固定する。具体的には、図3(a)に示すように、試料11を加熱装置12本体のチャッキング部13に試料11が水平となるように取り付ける。尚、加熱装置12には、チャッキング部13の他、試料11を加熱するためのヒーティングブロック14及びヒーティングブロック14を昇降するための昇降駆動部15を有している。
【0027】
次に、ステップ104に示すように、試料11が固定されている加熱装置12全体を不活性ガス雰囲気にする。具体的には、試料11が固定されている加熱装置12全体を不図示のグローブボックス等の密閉可能な容器内に設置し、グローブボックス等を密閉状態とし、グローブボックス内を排気しつつ窒素ガス等の不活性ガスを導入し、試料11が固定されている加熱装置12全体を不活性ガスにより包み込んだ状態にする。
【0028】
次に、ステップ106に示すように、ヒーティングブロック(HB)の加熱を開始する。具体的には、ステップ104において導入された窒素ガスにより、グローブボックス内の酸素濃度が100ppm以下になるのを確認した後、ヒーティングブロック14の加熱を開始する。尚、この状態では、試料11とヒーティングブロック14とは接触しておらず、非接触な状態のまま、ヒーティングブロック14が270℃になるまで加熱する。
【0029】
次に、ステップ108に示すように、加熱装置12に固定されている試料11の表面に、ヒーティングブロック14を接触させる。具体的には、図3(b)に示すように、加熱装置12に設けられている昇降駆動部15によりヒーティングブロック14の先端が試料11に接触するまで上昇させる。この際、試料11は水平に保たれた状態で固定されており、試料11における鉛フリーめっき皮膜の一部はヒーティングブロック14が接触することにより融解する。
【0030】
次に、ステップ110に示すように、試料11の鉛フリーめっき皮膜の一部が局所的に融解したのを確認した後、ヒーティングブロック14を昇降駆動部15により降下させる。
【0031】
次に、ステップ112に示すように、加熱装置12から試料11を取り外す。具体的には、ステップ110において局所的に融解した鉛フリーめっき皮膜が凝固したのを確認した後、不図示のグローブボックスより加熱装置12を取り出し、加熱装置12より試料11を取り外す。
【0032】
次に、ステップ114に示すように、試料11をエポキシ樹脂等の樹脂により被覆する。具体的に、この工程について、図4及び図5に基づき説明する。最初に、図4(a)及び図5(a)に示すように、試料11を被覆するための被覆容器21内にあらかじめエポキシ樹脂22を入れて硬化させたものの上にステップ112において取り出した試料11を設置する。この後、図4(b)及び図5(b)に示すように、試料11の全体がすべて覆われるまで未硬化のエポキシ樹脂23を流し込み硬化させる。この後、図4(c)及び図5(c)に示すように、硬化させたエポキシ樹脂22、23を被覆容器21から取り出す。このようにして、試料11をエポキシ樹脂22、23により被覆する。
【0033】
次に、ステップ116に示すように、エポキシ樹脂22、23により被覆された試料11についてイオンビームエッチング(IBE)による表面露出処理を行う。具体的には、図6に示すように、エポキシ樹脂22、23により試料11が被覆されているものについて、一点鎖線で示される範囲を紙面に垂直に切り出し試料23Aを作製する。尚、この切り出された試料23Aは、ステップ110において、試料11において鉛フリーめっき皮膜が融解された部分11aと融解されていない部分11bの界面を中心に切り出される。即ち、試料23Aは、試料11の鉛フリーめっき皮膜が融解された部分11aと融解されていない部分11bの双方が、ほぼ均等に含まれるように切り出される。こののち、試料23Aについて、アルゴンイオンビーム加工装置により50μm程度ドライエッチングを行う。アルゴンイオンビームによるドライエッチングは、応力を加えることなくエッチング加工が可能であり、断面に変形が加わることなく加工することができる。このようなアルゴンイオンビームによるドライエッチングが行われた後の試料23Aaの様子を図7に示す。図7に示されるように、試料23Aaにおいて金属からなる薄板31の両面に鉛フリーめっき皮膜32が形成されたドライエッチング後の断面を得ることができる。尚、本実施の形態におけるドライエッチングとは、本来的なドライエッチングのみならずイオンミーリング等の方法も含む意味である。
【0034】
次に、ステップ118に示すように、アルゴンイオンビームによりドライエッチング加工した面について、SEM(走査型電子顕微鏡)を用い鉛フリーめっき皮膜の膜厚の測定を行う。具体的には、試料23AaをSEMの試料室に設置した後、試料室を排気することにより真空状態とし、試料23Aaにおいてドライエッチング加工された面に電子ビームを照射することにより、この面のSEM画像を得る。このように得られたSEM画像に基づき、鉛フリーめっき皮膜における融解された部分32aの膜厚と、融解されていない部分32bの膜厚を測定する。
【0035】
次に、ステップ120に示すように、融解された部分32aにおける体積変化率を算出する。具体的には、ステップ118において測定された膜厚データをもとに、融解されていない部分32bの膜厚に対する融解された部分32aにおける膜厚の比率を算出する。ステップ110における融解による体積変化は、鉛フリーめっき皮膜32の面方向における変化がないため、高さ方向、即ち、鉛フリーめっき皮膜32の膜厚として変化するからである。
【0036】
このようにして、本実施の形態における体積変化率を得ることができる。この体積変化率は、前述したように、ウイスカ発生能と相関があり、体積変化率が大きい程、ウイスカ発生能が高く、体積変化率が小さい程、ウイスカ発生能は低い。
【0037】
従って、この体積変化率を得ることにより、ウイスカ発生能を知ることができ、鉛フリーめっき皮膜の評価を行うことができる。
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態である鉛フリーめっき皮膜の評価方法について、図8に基づき具体的に説明する。本実施の形態は、レーザーにより加熱を行う加熱装置を用いた方法である。
【0038】
鉛フリーめっき皮膜がなされる媒体である金属からなる薄板に、Snめっき皮膜を形成した試料を作製し、この鉛フリーめっき皮膜の評価を行う。
【0039】
最初に、ステップ202に示すように、試料を加熱装置に水平に固定する。具体的には、図9(a)に示すように、試料11を加熱装置52本体の試料台53に試料11が水平となるように取り付ける。尚、加熱装置52には、試料台53の他、試料11を加熱するためのレーザー光源54及びレーザー光源54を制御するための不図示の制御部を有している。
【0040】
次に、ステップ204に示すように、試料11が固定されている加熱装置52全体を不活性ガス雰囲気にする。具体的には、試料11が固定されている加熱装置52全体を不図示のグローブボックス等の密閉可能な容器内に設置し、グローブボックス等を密閉状態とし、グローブボックス内を排気しつつ窒素ガス等の不活性ガスを導入し、試料11が固定されている加熱装置52全体を不活性ガスにより包み込んだ状態にする。
【0041】
次に、ステップ206に示すように、レーザー光源54より試料11に対しレーザー光を照射する。具体的には、ステップ204において導入された窒素ガスにより、グローブボックス内の酸素濃度が100ppm以下になるのを確認した後、図9(b)に示すように、レーザー光源54からのレーザー光の照射を開始する。
【0042】
次に、ステップ208に示すように、レーザー光源54からのレーザー光の照射により、レーザー光の照射されている部分を中心に、試料11の鉛フリーめっき皮膜の融解が始まる。鉛フリーめっき皮膜の一部が局所的に融解したのを確認した後、レーザー光源54からのレーザー光の照射を停止する。次に、ステップ210に示すように、加熱装置52から試料11を取り外す。具体的には、ステップ208において局所的に融解した鉛フリーめっき皮膜が凝固したのを確認した後、不図示のグローブボックスより加熱装置52を取り出し、加熱装置52より試料11を取り外す。
【0043】
次に、ステップ212に示すように、試料11をエポキシ樹脂等の樹脂により被覆する。具体的に、この工程について、図4及び図5に基づき説明する。最初に、図4(a)及び図5(a)に示すように、試料11を被覆するための被覆容器21内にあらかじめエポキシ樹脂22を入れて硬化させたものの上にステップ112において取り出した試料11を設置する。この後、図4(b)及び図5(b)に示すように、試料11の全体がすべて覆われるまで未硬化のエポキシ樹脂23を流し込み硬化させる。この後、図4(c)及び図5(c)に示すように、硬化させたエポキシ樹脂22、23を被覆容器21から取り出す。このようにして、試料11をエポキシ樹脂22、23により被覆する。
【0044】
次に、ステップ214に示すように、エポキシ樹脂22、23により被覆された試料11についてイオンビームエッチング(IBE)により表面露出処理を行う。具体的には、図6に示すように、エポキシ樹脂22、23により試料11が被覆されているものについて、一点鎖線で示される範囲を紙面に垂直に切り出し試料23Aを作製する。尚、この切り出された試料23Aは、ステップ110において、局所的に試料11の鉛フリーめっき皮膜が融解されている部分11aと融解されていない部分11bの界面を中心に切り出される。即ち、試料23Aは、試料11の鉛フリーめっき皮膜が融解されている部分11aと融解されていない部分11bの双方が、ほぼ均等に含まれるように切り出される。こののち、試料23Aについて、アルゴンイオンビーム加工装置により50μm程度ドライエッチングを行う。アルゴンイオンビームによるドライエッチングは、応力を加えることなくエッチング加工が可能であり、断面に変形が加わることなく加工することができる。このようなアルゴンイオンビームによるドライエッチングが行われた後の試料23Aaの様子を図7に示す。図7に示されるように、試料23Aaにおいて金属からなる薄板31の両面に鉛フリーめっき皮膜32が形成されたドライエッチング後の断面を得ることができる。尚、本実施の形態におけるドライエッチングとは、本来的なドライエッチングのみならずイオンミーリング等の方法も含む意味である。
【0045】
次に、ステップ216に示すように、アルゴンイオンビームによりドライエッチング加工した面について、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて鉛フリーめっき皮膜の膜厚の測定を行う。具体的には、試料23AaをSEMの試料室に設置した後、試料室を排気することにより真空状態とし、試料23Aaにおいてドライエッチング加工された面に電子ビームを照射することにより、この面のSEM画像を得る。このように得られたSEM画像に基づき、鉛フリーめっき皮膜における融解された部分32aの膜厚と、融解されていない部分32bの膜厚を測定する。
【0046】
次に、ステップ218に示すように、融解された部分32aにおける体積変化率を算出する。具体的には、ステップ216において測定された膜厚データをもとに、融解されていない部分32bの膜厚に対する融解された部分32aにおける膜厚の比率を算出する。ステップ208における融解による体積変化は、鉛フリーめっき皮膜32の面方向における変化がないため、高さ方向、即ち、鉛フリーめっき皮膜32の膜厚として変化するからである。
【0047】
このようにして、本実施の形態における体積変化率を得ることができる。この体積変化率は、前述したように、ウイスカ発生能と相関があり、体積変化率が大きい程、ウイスカ発生能が高く、体積変化率が小さい程、ウイスカ発生能は低い。本実施の形態では、鉛フリーめっき皮膜を加熱するために、レーザーを用いているが、レーザーを用いることにより、微小領域を短時間に加熱することが可能となり、評価時間をより一層短縮することが可能となる。
【0048】
従って、この体積変化率を得ることにより、ウイスカ発生能を知ることができ、鉛フリーめっき皮膜の評価を行うことができる。
【実施例1】
【0049】
実施例1は本発明に係る第1の実施の形態による評価方法により評価を行うものである。
【0050】
具体的には、媒体である燐青銅からなる薄板31に約1.9μmのSnめっき皮膜32を形成したものについて、第1の実施の形態における評価方法により評価を行った。加熱し融解させ凝固した後のSnめっき皮膜の断面を2万倍の倍率でSEM観察したところ、融解された部分32aにおける膜厚の平均値は、2.2μmであり、融解されていない部分32bにおける膜厚の平均値は、1.9μmであった。Snめっき皮膜32は、薄板31に形成されていることから、面方向への変化はないものと考えられるため、Snめっき皮膜の体積変化率は膜厚変化率となる。よって、体積変化率は、約16%であった。この間に要した日数は、約1日である。
【実施例2】
【0051】
実施例2は本発明に係る第1の実施の形態による評価方法により評価を行うものである。
【0052】
具体的には、媒体である燐青銅からなる薄板31に約3.2μmのSnめっき皮膜32を形成したものについて、第1の実施の形態における評価方法により評価を行った。加熱し融解させ凝固した後のSnめっき皮膜の断面を2万倍の倍率でSEM観察したところ、融解された部分32aにおける膜厚の平均値は、3.3μmであり、融解されていない部分32bにおける膜厚の平均値は、3.2μmであった。Snめっき皮膜32は、薄板31に形成されていることから、面方向への変化はないものと考えられるため、Snめっき皮膜の体積変化率は膜厚変化率となる。よって、体積変化率は、約3%であった。この間に要した日数は、約1日である。
【0053】
ここで、実施例1と同様の燐青銅からなる薄板の媒体に約1.9μmのSnめっき皮膜を形成したものを5℃の環境下で2年間放置した。放置後の観察により得られたウイスカの長さは、140から210μmであった。
【0054】
また、実施例2と同様の燐青銅からなる薄板の媒体に約3.2μmのSnめっき皮膜を形成したものを5℃の環境下で2年間放置した。放置後の観察により得られたウイスカの長さは、30から90μmであった。
【0055】
図10に、実施例1、実施例2より得られた体積変化率と、上述のように同様のサンプルを2年間放置した場合のウイスカの長さとの関係を示す。図に示されるように、体積変化率と2年間放置した場合のウイスカの長さとの間には相関関係があり、体積変化率を測定することにより、ウイスカ発生能の評価を行うことが可能となる。
【0056】
このことから、本発明に係る実施の形態により、鉛フリーめっき皮膜の評価を行うことが可能であり、従来のウイスカ評価方法の1/100以下の評価時間で行うことが可能である。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【0058】
以上の説明に関し、更に以下の項を開示する。
(付記1)
鉛フリーめっきが施された媒体における鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、
前記鉛フリーめっき皮膜の一部の領域を鉛フリーめっき皮膜が融解するまで加熱した後に凝固させ、
前記加熱させた後凝固させた領域の体積変化率を測定することを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法。
(付記2)
鉛フリーめっきが施された媒体における鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、
前記鉛フリーめっき皮膜の一部の領域を鉛フリーめっき皮膜が融解するまで加熱する加熱工程と、
前記一部の領域を融解した後、凝固させる凝固工程と、
前記一部の領域が凝固した後、前記融解された領域の膜厚と、前記融解がされていない領域の膜厚とを測定する測定工程と、
前記融解がされていない領域の膜厚に対する前記融解された領域の膜厚に基づき体積変化率を算出する算出工程と、
を含むことを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法。
(付記3)
鉛フリーめっきが施された媒体における鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、
前記鉛フリーめっき皮膜の一部の領域を鉛フリーめっき皮膜が融解するまで加熱する加熱工程と、
前記一部の領域を融解した後、凝固させる凝固工程と、
前記凝固工程終了後、前記鉛フリーめっき皮膜が融解した領域と融解していない領域との双方の鉛フリーめっき皮膜に垂直な断面をドライエッチングにより露出させる断面露出工程と、
前記断面露出工程により露出した面において、前記融解された領域の膜厚と、前記融解がされていない領域の膜厚とを測定する測定工程と、
前記融解がされていない領域の膜厚に対する前記融解された領域の膜厚に基づき体積変化率を算出する算出工程と、
を含むことを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法。
(付記4)
付記3に記載の鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、
前記凝固工程終了後、前記鉛フリーめっきが施された媒体を樹脂により被覆する被覆工程を行い、
前記被覆工程終了後、樹脂により被覆されている鉛フリーめっきが施された媒体について前記断面加工工程を行うことを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法。
(付記5)
付記2から4のいずれかに記載の鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、
前記加熱工程、前記凝固工程は、窒素又は不活性ガス雰囲気中において行われるものであることを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法。
(付記6)
付記2から5のいずれかに記載の鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、
前記加熱工程、前記凝固工程は、前記鉛フリーめっき被膜が水平な状態を保ったまま行われるものであることを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法。
(付記7)
付記2から6のいずれかに記載の鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、
前記加熱工程は、ヒーティングブロックにより行われるものであることを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法。
(付記8)
付記2から6のいずれかに記載の鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、
前記加熱工程は、レーザーにより行われるものであることを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】鉛フリーめっき皮膜の融解/凝固を行うことによる体積変化の説明図
【図2】第1の実施の形態に係る評価方法のフローチャート
【図3】第1の実施の形態における加熱工程における加熱装置の断面概要図
【図4】第1の実施の形態における被覆工程における工程を示す斜視図
【図5】第1の実施の形態における被覆工程における工程を示す断面概要図
【図6】第1の実施の形態における被覆工程終了後の上面図
【図7】第1の実施の形態における断面露出工程終了後の試料の斜視図
【図8】第2の実施の形態に係る評価方法のフローチャート
【図9】第2の実施の形態における加熱工程における加熱装置の断面概要図
【図10】体積変化率とウイスカの長さとの相関図
【符号の説明】
【0060】
11 試料
11a 鉛フリーめっき皮膜が融解された部分
11b 鉛フリーめっき皮膜が融解されていない部分
12 加熱装置
13 チャッキング部
14 ヒーティングブロック
15 昇降駆動部
21 被覆容器
22、23 エポキシ樹脂
23Aa 試料
31 薄板(媒体)
32 鉛フリーめっき皮膜
32a 鉛フリーめっき皮膜が融解された部分
32b 鉛フリーめっき皮膜が融解されていない部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛フリーめっきが施された媒体における鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、
前記鉛フリーめっき皮膜の一部の領域を鉛フリーめっき皮膜が融解するまで加熱した後に凝固させ、
前記加熱させた後凝固させた領域の体積変化率を測定することを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法。
【請求項2】
鉛フリーめっきが施された媒体における鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、
前記鉛フリーめっき皮膜の一部の領域を鉛フリーめっき皮膜が融解するまで加熱する加熱工程と、
前記一部の領域を融解した後、凝固させる凝固工程と、
前記一部の領域が凝固した後、前記融解された領域の膜厚と、前記融解がされていない領域の膜厚とを測定する測定工程と、
前記融解がされていない領域の膜厚に対する前記融解された領域の膜厚に基づき体積変化率を算出する算出工程と、
を含むことを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法。
【請求項3】
鉛フリーめっきが施された媒体における鉛フリーめっき皮膜の評価方法であって、
前記鉛フリーめっき皮膜の一部の領域を鉛フリーめっき皮膜が融解するまで加熱する加熱工程と、
前記一部の領域を融解した後、凝固させる凝固工程と、
前記凝固工程終了後、前記鉛フリーめっき皮膜が融解した領域と融解していない領域との双方の鉛フリーめっき皮膜に垂直な断面をドライエッチングにより露出させる断面露出工程と、
前記断面露出工程により露出した面において、前記融解された領域の膜厚と、前記融解がされていない領域の膜厚とを測定する測定工程と、
前記融解がされていない領域の膜厚に対する前記融解された領域の膜厚に基づき体積変化率を算出する算出工程と、
を含むことを特徴とする鉛フリーめっき皮膜の評価方法。
【請求項4】
前記凝固工程終了後、前記鉛フリーめっきが施された媒体を樹脂により被覆する被覆工程を行い、
前記被覆工程終了後、樹脂により被覆されている鉛フリーめっきが施された媒体について前記断面加工工程を行うことを特徴とする請求項3に記載の鉛フリーめっき皮膜の評価方法。
【請求項5】
前記加熱工程、前記凝固工程は、窒素又は不活性ガス雰囲気中において行われるものであることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の鉛フリーめっき皮膜の評価方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−242896(P2009−242896A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92581(P2008−92581)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】