説明

鉛円柱体の接合部試験体及び鉛円柱体接合部の検査方法

【課題】 建物の免震ダンパとして使用される鉛円柱体と鋼材からなるフランジとの接合部の性能試験を、高い精度で行うことができる接合部試験体及びそれを用いた接合部検査方法を提供する。
【解決手段】 鉛円柱体の両端面に、外周面に雄ねじを切った円柱体の鋼材からなるフランジの一端を接合するとともに、金属製の筒状の容器の内側に前記フランジの雄ねじに適合した雌ねじを切り、該容器の底部の外側に板状あるいは棒状の突起を有する把持治具を、前記鉛円柱体の両端面に接合された前記フランジのねじに嵌合接合させた鉛円柱体の接合部試験体とする。この試験体の把持治具両端の突起を把持させて引張試験を行う。引張試験に先立ち、把持治具を取り外してフランジ端面の音波探傷検査を行うこともできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震ダンパとして使用される鉛円柱体と鋼材からなるフランジとの接合部の試験体及び接合部の検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地震などによる構造物の揺れを抑制して構造物を保護する目的で、種々の免震ダンパが用いられている。この免震ダンパには、例えば鉛又は鉛合金からなる円柱体(以下、鉛円柱体と呼ぶ。)の両端面に、鋼製のフランジを接合した構造を有しているものが有る。
また、鉛円柱体の両端面に取り付けられたフランジは、鉛円柱体の両端面よりも大きな面積を有しており、フランジの四隅には構造物及び構造物の基礎にボルトで固定するための孔が設けられている。
【0003】
上述のように構成された免震ダンパは、通常、免震構造において両端のフランジを介して建物と基礎との間に連結され、振動に対し鉛円柱体が柔らかく塑性変形することによって振動エネルギーを吸収し、免震構造に減衰性能を付与して建物と基礎との過大な相対変位を抑制する作用を果たすように構成されている。
そして、上記の免震ダンパが振動エネルギーを吸収し、免震構造に減衰性能を付与して建物と基礎との過大な相対変位を抑制する作用を確実に果たすためには、構造物及び構造物の基礎に固定されるフランジと、振動エネルギーを吸収する鉛円柱体とが確実に接合されていることが必須の要件となる。
【0004】
鋼製のフランジと鉛円柱体との接合は異種材接合となる。鉄と鉛の原子半径を比較すると、合金の形成の限界とされる15%以上の差があり、全く合金を作らないので強固な接合は不可能である。
そこで錫や半田合金等の鉄とも鉛とも合金を作り易い元素を使用して、鉄の表面に合金相を形成し、これに鉛を溶着させるいわゆるホモゲン溶着技術が使用されている。ホモゲン溶着部の引張強度は、母材である鉛の強度の4倍以上の強度を有するので、使用中に鉄と鉛の接合部が剥離することはない。
【0005】
鉄と鉛の異種材接合により形成した免震ダンパの溶着部の欠陥の検出は、通常超音波探傷検査に代表される非破壊検査により行われ(例えば、特許文献1参照。)、引張試験による強度の確認が行われている。
【0006】
従来、鉛円柱体と鋼材からなるフランジとの接合部検査は、図4に示すように鉛円柱体1の両端に、底部に棒状の突起4を有する鋼材からなるフランジ7を直接ホモゲン溶着接合し、両端の棒状の突起4を引張試験機に取り付けて、軸方向に引張力を加えることによって鉛円柱体1と鋼材からなるフランジ7との接合強度を測定することにより行われている(例えば、非特許文献1参照。)。図中2はホモゲン溶着された接合部を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−294717号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)2001年9月 21328「鉛ダンパーのホモゲン溶着部強度確認試験」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
鉛円柱体と鋼材からなるフランジとの接合部の検査において、正確な結果を得るためには鉛円柱体と鋼材からなるフランジとの接合が適切に行われていることが必要である。
しかし、従来の接合部の検査に用いる接合部試験体は、鉛円柱体の両端に底部に棒状の突起を有する鋼材からなるフランジを直接接合するため、棒状の突起が接合の妨げとなり完全に接合されないことがあった。これは、棒状の突起があるため、鉛円柱体の底部と鋼材からなるフランジとを水平に保持して密着させることが困難であることによる。
また、棒状の突起があるためにその取付部分近傍は、棒状の突起が妨げとなって接合部である鉛円柱体の底部と鋼材からなるフランジが完全に接合されているか否かを、非破壊検査である超音波探傷検査により確認することができないことにも起因している。
【0010】
そこで本発明は、鉛円柱体とフランジとの接合部の状態について、高い精度で検査を行うことができる接合部試験体及び接合部検査方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、精度の高い測定を行うことができる接合部試験体及び接合部検査方法を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る接合部試験体は、鉛又は鉛合金からなる鉛円柱体の両端面に、外周面に雄ねじを有する鋼製円柱体からなるフランジの一端を接合してなるとともに、鋼製の筒状容器の内面に前記フランジの雄ねじに適合した雌ねじを有し、かつ該容器の底面の外側に板状もしくは棒状の突起を有する把持治具を、前記フランジの雄ねじに嵌合させてなる接合部試験体である。
本発明の接合部試験体によれば、鉛円柱体と鋼材からなるフランジを安定して水平に保持することができるので確実に密着接合することができ、さらに接合部試験体を容易にしかも確実に把持して引張試験することができる。
【0013】
本発明に係る接合部の検査方法は、上記に記載の本発明の接合部試験体の両端の突起を、引張試験機に把持させて引張試験を行う鉛円柱体接合部の検査方法とした。
この検査方法によれば、引張試験機に容易に接合部試験体を取り付けることができ、鉛円柱体とフランジの接合状態の良否を簡単に精度良く判定することができる。
【0014】
また、本発明に係る接合部の検査方法では、上記に記載の接合部の検査に先立ち、把持治具を取り外して前記フランジの端面全域を所定の面積を有する検査領域に区画するとともに、各検査領域について超音波探傷検査を施して接合欠陥の有無を判定し、接合部の全面積に対する接合欠陥が認められない検査領域面積の割合から、鉛円柱体とフランジとの接合状態の良否を判定することも有効である。
この検査方法によれば、引張試験をする前に鉛円柱体とフランジの接合状態を破壊することなく確認することができるので、精度の高い接合部の検査ができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鉛円柱体と鋼材からなるフランジを十分に完全密着させることができる接合部引張体を提供でき、鉛円柱体と鋼材からなるフランジの接合状態の良否を引張試験の前に非破壊の超音波探傷試験により確認することが可能であり、引張試験機を用いて精度良く強度確認検査を行うことができる検査方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に本発明の接合部試験体の全体図を示す。図1に示すように本発明の接合部試験体10は、鉛又は鉛合金からなる鉛円柱体1の両端面に、外周面に雄ねじを切った鋼材からなる円柱状のフランジ5の一端を接合するとともに、鋼製の筒状容器の内面に前記フランジの雄ねじに適合した雌ねじを切り、かつ該容器の底面の外側に板状あるいは棒状の突起4を有する把持治具3を、前記フランジ5のねじに嵌合させた接合部試験体である。鉛円柱体1と鋼材からなるフランジ5との接合は異種材接合となるので、いわゆるホモゲン溶着による接合部2を設けて接合してある。
【0017】
ホモゲン溶着接合は、例えば、鉄母材の表面に塩化亜鉛と塩化第一錫からなるフラックスを塗布した後溶融半田で半田メッキする。この半田メッキした面が上向き水平になるように保持して半田をのせ、裏面より加熱して半田を溶融させておき、これに鉛円柱体の一端を載せて溶着させることにより接合する。
【0018】
鉛円柱体1は、溶融した鉛を所定の金型に鋳造し、所定形状の柱状体に切削加工して形成する。この際、鉛柱状体1の両端は溶着し易くするために平滑に仕上げておく。
【0019】
次に、図2に本発明で使用するフランジ5を示す。図2(a)は正面図、(b)及び(c)は側面図ある。
本発明で使用するフランジ5は鋼製の円柱体からなり、その外周表面には雄ネジ5aが切ってある。フランジ5の一端には前記鉛円柱体の端部を嵌合させ、ホモゲン溶着させるための窪み5bが設けてある。窪み5bの直径は前記鉛円柱体1の端部の直径よりもやや大きく、深さは3mm程度あればよい。フランジ5は丸棒鋼材を切削加工することにより製作する。
【0020】
次に、図3に本発明で使用する把持治具を示す。図3(a)は正面図、(b)は側面図である。
本発明で使用する把持治具3は、一端が解放された鋼製の筒状体6からなり、筒の内面には前記フランジ5の表面に形成した雄ネジ5aに嵌合する雌ネジ6aが切ってある。また、把持治具3の他端にある低板6bには、断面が円形又は平板状の突起4が形成してある。把持治具3も丸棒鋼材を切削加工することにより製作する。
【0021】
上記のようにして加工された鉛円柱体1の両端にフランジ5、5をホモゲン接着し、このフランジ5、5に把持治具3、3を嵌合させると、図1に示す本発明の接合部試験体10が得られる。
【0022】
本発明の鉛円柱体の接合部の検査方法の一つは、上記の本発明の接合部試験体10の突起4,4を引張試験機の把持具で掴んで引っ張り試験を行う。
この接合部の検査方法によれば、引張試験機に容易に接合部試験体を取り付けることができ、鉛円柱体とフランジの接合状態の良否を簡単に精度良く判定することができる。
【0023】
もう一つの本発明の鉛円柱体の接合部の検査方法は、引張試験に先だって把持治具を取り外した状態で、フランジ端面から超音波探傷検査をするものである。フランジ端面には突起部分が無く、超音波探傷機のプローブを全面にわたって密着させることができるので、鉛円柱体とフランジとの接合状態を非破壊で正確に検査することができる。
【0024】
超音波探傷は投射した超音波と反射してきた超音波エコーの強度比から接合欠陥の有無を判定するものである。フランジ端面から接合面までの距離が長いほど反射エコーの強度は弱まるが、例えばフランジの厚さが30mm程度の場合、境界面エコーの強度が投射超音波の50%以上ならば明らかに接合欠陥が有ると認められる。
検査に当たってはフランジ端面を適当な領域に区分し、各領域での超音波エコーを測定して接合欠陥の有無を判定する。通常、超音波探傷器の探触子の面積が100mm程度なので、探傷面を10mm角程度の検査領域に区分するのが適当である。
鉛円柱体とフランジとの接合の良否は溶着率によって判断される。溶着率とは、検査領域全体の面積に対する接合欠陥の無い検査領域面積の割合で示される。
各検査領域を探傷した結果、接合欠陥の無い領域が全領域の95%以上、すなわち溶着率が95%以上ならば、鉛円柱体とフランジとの接合は健全な状態であると判断される。
【実施例1】
【0025】
次に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
直径約32mmの鉛円柱体と、図2、図3に示したフランジ及び把持治具を準備し、図1に示すような接合部試験体を作った。鉛円柱体の端面は平行にかつ滑らかになるように仕上げた。フランジ及び把持治具は共にSS鋼材を切削加工して作製した。フランジの寸法は、外形50mm、高さ60mmで、外周の50mmにわたってM50の雄ねじを切り、雄ねじと反対側の端面には内径39mm、深さ3mmの窪みを設けた。また、把持治具の寸法は、直径70mm、長さ120mmの丸棒の一端から50mmまでの範囲を直径30mmまで細くし、上下面を平らに削って厚さ16mmの平板状にした。さらに丸棒の他端から50mmまでの範囲を内径39mmにくり抜き、内面にM50の雌ねじを切った。
【0026】
次いで、フランジの窪みを上にして水平に置き、窪み内面に塩化錫溶液からなるフラックスを適量塗布し、その上を溶融半田でメッキした。さらにフランジを下方から加熱して半田を溶かし、鉛円柱体の一端面を垂直に立てて載置して凝固させ鉛円柱体の一端を溶着した。
同様にして鉛円柱体の他端にもフランジを溶着した。
【0027】
次に、フランジを溶着した鉛円柱体のフランジ面を、10mm角の8検査領域に区割りし、各領域を超音波探傷検査した。超音波探傷器の探傷子の面積は約10mmであった。
超音波探傷検査は試験体5例について行ったが、いずれの試験体においてもフランジ面全面に探傷子を密着させることができ、接合部に欠陥が無いことが確認できた。
【0028】
次いで、鉛円柱体両端のフランジに把持治具を嵌合させて図1に示す接合部試験体を得た。この接合部試験体両端の突起を引張試験機の把持具で掴み、引張試験を行った。接合部試験体の引張試験機への取り付けも極めて容易かつ円滑であった。さらに、引張試験の結果、破断位置は鉛柱部分であり、鉛円柱体とフランジとは完全に接合されていることが確認できた。これらの結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
(比較例)
比較のため、図4に示す従来の接合部試験体についても同様の検査を試みた。従来の接合部試験体20ではフランジと把持治具が一体となっており、フランジは外経50mm、厚さ15mmで、外側に厚さ16mm、高さ30mm、長さ50mmの突起を有していた。
把持治具を兼ねたフランジと鉛円柱体を実施例と同様にしてホモゲン溶着し、図4に示す接合部試験体とした。
この接合部試験体について超音波探傷検査を試みたが、フランジ端面の中央に突起があるため、端面の全面にわたって探傷検査することができず、溶着率の確認は不可能であった。
【0031】
そこで、引張試験のみを行った。接合部試験体を引張試験機へ取り付ける際は、上下の突起の中心軸が一致していないので、接合部試験体を鉛直方向に合わせて位置調整するのに手間取った。引張試験は試験体5例について行ったが、5例中2例が接合部で破断しており、接合が不完全であった可能性があることを示した結果となった。これらの結果も表1に併記した。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の接合部試験体の全体図である。
【図2】本発明で使用するフランジを示す図で、(a)は正面図、(b)及び(c)は側面図ある。
【図3】本発明で使用する把持治具を示す図で、(a)は正面図、(b)は側面図であ
【図4】従来の接合部試験体を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 鉛円柱体
2 接合部
3 把持治具
4 突起
5、7 フランジ
6 筒状体
10、20 接合部試験体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛又は鉛合金からなる鉛円柱体の両端面に、外周面に雄ねじを有する鋼製円柱体からなるフランジの一端を接合してなるとともに、鋼製の筒状容器の内面に前記フランジの雄ねじに適合した雌ねじを有し、かつ該容器の底面の外側に板状もしくは棒状の突起を有する把持治具を、前記フランジの雄ねじに嵌合させてなることを特徴とする鉛円柱体の接合部試験体。
【請求項2】
前記請求項1に記載の接合部試験体の両端の突起を、引張試験機に把持させて引張試験を行うこと特徴とする鉛円柱体接合部の検査方法。
【請求項3】
前記請求項2に記載の接合部の検査に先立ち、把持治具を取り外して前記フランジの端面全域を所定の面積を有する検査領域に区画するとともに、各検査領域について超音波探傷検査を施して接合欠陥の有無を判定し、接合部の全面積に対する接合欠陥が認められない検査領域面積の割合から、鉛円柱体とフランジとの接合状態の良否を判定すること特徴とする請求項2に記載の鉛円柱体接合部の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−95230(P2011−95230A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252413(P2009−252413)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】