説明

鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法及び鉛含有銅合金製水道用器具

鉛含有銅合金を溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液に浸漬し、表面の鉛を除去することを特徴とする鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法及び鉛含有銅合金製水道用器具であるため、酸性のリン酸化合物による若干のエッチング効果と微小なリン酸皮膜が形成されるのみであるので大きな変色を伴うことなく、商品価値も低下しない。また、塩化ナトリウムを添加してもよく、鉛溶出低減についても十分効果がある。前工程として、鉛含有銅合金をアルカリ性のエッチング液に浸漬して表面の鉛を除去してもよい。これらの鉛含有銅合金は外部表面が、ニッケルクロムめっきをはじめとするめっきが施されていても問題はない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、鉛含有銅合金から鉛が溶出するのを低減させるための鉛溶出低減処理方法及び鉛の溶出を低減させた鉛含有銅合金製水道用器具に関する。
水道用器具とは、水栓金具、水道メーター、給湯機部材、温水洗浄便座部材、湯沸器、温水器、冷水器、製氷機、浄水器、温水ボイラー、自動販売機、ボールタップ、ロータンク、バルブ、フラッシュバルブ、熱交換器、継手、給水及び給湯ヘッダー、管、流し台、洗面台、便器、浴槽、住宅設備ユニットなどで、給水管につながる器具を全て含む。
【背景技術】
従来から、水道用器具例えば水栓金具は、一般的に銅や、青銅・黄銅等の銅合金材料を鋳造または鍛造し、切削加工、研磨加工等で形状を整え、ニッケルクロムめっき、塗装、イオンプレーティングなどの各種表面処理を施し、最終の製品組み立て工程を経て製造されている。上記銅合金には、切削性等の加工性を向上させるために、素材に鉛を添加されている場合が多いため、その鉛が飲料水中に微量ながら溶出し、その水を長期間飲用すると人体に悪影響を与えるおそれがあることが近年懸念されている。
筆者らは特許第3182765号において、鉛の存在形態とその物性に着目し、鉛含有銅合金をアルカリ性のエッチング液、クロム酸溶液、クロメート液に浸漬処理することで、鉛の溶出を大幅に低減するという発明を発表した。
特許第3182765号に記載されている鉛溶出低減方法の内、クロメート処理方法の中ではクロム酸とリン酸を両方同時に含む溶液に鉛含有銅合金を浸漬する場合が鉛溶出低減について最も効果があることを発表した。しかし、このクロメート液に鉛含有銅合金を浸漬する場合、浸漬後の銅合金部分の外観が白っぽくくすんだ変色外観となり、商品価値として低下する場合があった。これはクロム酸とリン酸からなるリンクロメート処理により、銅合金表面に有色の被膜が形成されるためと考えられる。
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、外観の変色により商品価値が低下しない鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法及び鉛含有銅合金製水道用器具を提供するものである。
【発明の開示】
上記目的を達成するために請求の範囲第1項は、鉛含有銅合金を、溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液に浸漬し、表面の鉛を除去することを特徴とする鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法である。
よって、酸性のリン酸化合物による若干のエッチング効果と微少なリン酸皮膜が形成されるのみであるので大きな変色を伴うことなく、商品価値も低下しない。また、鉛溶出低減についても十分効果がある。
上記目的を達成するために請求の範囲第2項は、鉛含有銅合金を、溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物と塩化ナトリウムを含む酸性溶液に浸漬することを特徴とする鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法である。
よって、酸性のリン酸化合物に塩化ナトリウムを適量補充することにより、反応の進行を向上させエッチング効果とリン酸皮膜が増し安定した外観が確保できる。商品価値も低下しない。また、鉛溶質低減についても十分効果がある。
上記目的を達成するために請求の範囲第3項は、鉛含有銅合金をアルカリ性のエッチング液に浸漬して表面の鉛を除去し、次いで溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液に浸漬することを特徴とする鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法である。
よって、まずアルカリ性のエッチング液に浸漬することで銅合金表面の鉛をほぼ選択的に除去できるため、後工程の溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液浸漬工程の鉛溶出低減効果と相まって、鉛溶出低減についてより十分な効果が認められる。また、これらの工程後でも酸性のリン酸化合物による若干のエッチング効果と微少なリン酸皮膜が形成されるのみであるので鉛含有銅合金は大きな変色を伴うことがなく、商品価値も低下しない。
上記目的を達成するために請求の範囲第4項は、鉛含有銅合金をアルカリ性のエッチング液に浸漬して表面の鉛を除去し、次いで溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物と塩化ナトリウムを含む酸性溶液に浸漬することを特徴とする鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法である。
よって、まずアルカリ性のエッチング液に浸漬することで銅合金表面の鉛をほぼ選択的に除去できるため、後工程の溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物と塩化ナトリウムを含む酸性溶液浸漬工程の鉛溶出低減効果と相まって、鉛溶出低減についてより十分な効果が認められる。これらの工程後でも酸性のリン酸化合物に塩化ナトリウムを適量補充することにより、反応の進行を向上させエッチング効果とリン酸皮膜が増し安定した外観が確保できる。商品価値も低下しない。また、鉛溶質低減についても十分効果がある。
上記目的を達成するために請求の範囲第5項は、主として外部表面はめっき処理され、めっき処理されていない主として内部表面の鉛を除去することを特徴とする請求の範囲第1項及び第3項記載の鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法である。
よって、外部表面のめっき処理されている部分は、上記のアルカリ性のエッチング液による浸漬工程や、溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液による浸漬工程で溶解反応やエッチング反応が起こらないため変色が発生せず、めっき処理されていなくて鉛含有銅合金が露出している主として内部表面のみに鉛溶出低減効果が達成できる。もちろん、その内部表面も、酸性のリン酸化合物による若干のエッチング効果と微少なリン酸皮膜が形成されるのみであるので大きな変色を伴うことがない。
上記目的を達成するために請求の範囲第6項は、主として外部表面のめっきは、ニッケルめっき後クロムめっきを施しためっきであることを特徴とする請求の範囲第3項記載の鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法である。
水栓金具をはじめとする鉛含有銅合金の水道用器具は、外部表面に装飾性、耐食性、耐摩耗性等を付与するためにニッケルめっき後クロムめっきを施した場合が多く、従来から広く使用されているめっきである。このめっきの場合、上記のアルカリ性のエッチング液による浸漬工程や、リン酸化合物を含む酸性溶液による浸漬工程で溶解反応やエッチング反応が起こらないため変色が発生せず、めっき処理されていなくて鉛含有銅合金が露出している主として内部表面のみに鉛溶出低減効果が達成できる。もちろん、その内部表面も、酸性のリン酸化合物による若干のエッチング効果と微少なリン酸皮膜が形成されるのみであるので、大きな変色を伴うことがない。
上記目的を達成するために請求の範囲第7項は、リン酸化合物を含む酸性溶液に浸漬することを特徴とする請求の範囲第1項乃至第6項記載の鉛含有銅合金製水道用器具である。
よって、酸性のリン酸化合物による若干のエッチング効果と微少なリン酸皮膜が形成されるのみであるので、鉛含有銅合金表面の大きな変色を伴うことなく、鉛溶出低減についても十分効果があるため、商品価値が低下しない水道用器具を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
(図1) 第1図は、本発明の実施例で使用した青銅鋳物製水栓金具を示す図である。
(図2) 第2図は、(a)は本発明に係る鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理前の鉛含有銅合金製水道用器具の表面の拡大写真、(b)はその断面写真である。
(図3) 第3図は、(a)は本発明に係る鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理後の鉛含有銅合金製水道用器具の表面の拡大写真、(b)はその断面写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明である溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液への浸漬により、鉛含有銅合金表面の若干のエッチング効果と微少なリン酸皮膜が形成されるため、鉛溶出低減に大きな低減効果があるだけでなく、外観上の大きな変色は伴わない。これは、クロムとリンの混合被膜が僅かに有色であるのに対しリン酸の単独被膜は無色であることに起因している。
本発明である溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液へ活性剤である塩化ナトリウムを適量補充する事により、反応の進行を向上させエッチング効果と微小なリン酸皮膜の形成が増し、安定した外観を確保してもよい。
活性剤では、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、硝酸ナトリウムなどがあり、添加量は0.1〜10g/L程度で、単独または数種添加する場合がある。
リン酸化合物は、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、リン酸亜鉛などがあり、添加量は0.1〜50g/L程度で、単独または数種添加する場合がある。これらを添加した溶液を酸性にするため、リン酸、硝酸、硫酸、フッ酸等の無機酸を添加する。添加量は0.1〜50g/L程度で、単独または数種添加する場合がある。また、酢酸、シュウ酸、クエン酸、ぎ酸、酪酸、プロピオン酸等の有機酸を添加しても良い。溶液のpHは2以下が良く、1以下がより好ましい。添加剤としては、亜鉛、鉄、銅、マンガン、ニッケル等の金属化合物を適宜添加してもよい。尚、リン酸塩の化成処理液が広く市販されており、これらをしても良い。
処理温度は常温〜70℃程度、処理時間は数秒〜数分の間で、被処理物の形状や大きさによって、適宜決定する。複雑形状の部品の場合、溶液に浸漬する際に、エアーポケットが出来ないように注意し、また、処理の効率を上げるために被処理物を揺動しても良い。処理後は、水滴残りや水膜残りなどによる外観不良をなくすために、速やかに水洗し、湯洗乾燥や熱風乾燥をするのが望ましい。
溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液への浸漬の前に、アルカリ性のエッチング液に浸漬することで鉛含有銅合金表面の鉛を選択的に溶解除去してもよい。鉛は両性金属であり、銅合金中で合金を形成せず鉛単体として存在するため、アルカリエッチング液により銅合金母体はほとんど反応せず、鉛化合物のみを選択的に溶解除去できる。よって、溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液の浸漬工程での負荷を軽減できる。また、鉛含有銅合金に前工程で付着した油成分などの汚れを除去する脱脂工程としても作用するため、非常に効率的な工程である。
アルカリ性のエッチング液の主成分は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、オルソケイ酸ナトリウムなどのうち、単独または数種を溶解したアルカリ性溶液である。濃度は、数g/L〜数10g/Lが一般的であり使用する成分の組み合わせにより適宜判断する。処理温度は60〜90℃程度、処理時間は数分〜数10分の間で、被処理物の形状や大きさによって、適宜決定する。複雑形状の部品の場合、溶液に浸漬する際に、エアーポケットが出来ないように注意し、また、処理の効率を上げるために被処理物を揺動しても良い。処理後は、速やかに水洗して、次工程に進むのがよい。
アルカリ性のエッチング液の浸透、湿潤性を改善するために、液の表面張力を低下させる目的で界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、アニオン界面活性剤あるいはノニオン界面活性剤を用いることが多く、これらを単独又は併用する。アニオン界面活性剤としては、高級脂肪酸ナトリウム、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステルナトリウム、アルキルベンゼン硫酸ナトリウム、高級アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、α−オレフィン硫酸ナトリウムがある。また、ノニオン界面活性剤としては、アルキルポリオキシエチレンエーテル、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物(プルロニック)がある。添加量は、数g/L〜数10g/Lが一般的である。
また、アルカリ性のエッチング液には、鉛が水酸化物となって再付着するのを防ぐとともに、鉛の溶解を促進するために、キレート剤を添加することができる。キレート剤としては、例えば、EDTA、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、チオ尿素、ロッシェル塩、酒石酸等の鉛と錯体を形成しやすい化合物が望ましい。添加量は、数g/L〜数10g/Lが一般的である。
アルカリ性のエッチング液に酸化剤を添加すると、鉛が酸化され一旦酸化鉛(PbO)を経てアルカリに溶解する2段階反応が起こる。この反応は、鉛がアルカリに溶解する1段階反応よりも速やかであるため、結果として鉛除去を促進し、除去効率アップ、処理時間の短縮が図れる。酸化剤としては例えば、メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、パラニトロ安息香酸ナトリウム等の有機酸化性化合物、次亜塩素酸塩、さらし粉、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過硫酸塩、過塩素酸塩等の無機化合物を用いる。添加量は、数g/L〜数10g/Lが一般的である。
水栓金具をはじめとする水道用器具は、外面の美観、耐食性、耐摩耗性等の目的でめっきを施す場合があるが、その製造方法は、一般に公知のめっき前処理後、公知技術である電気めっき、化学めっき、置換めっきまたは乾式めっきを行うため特に限定されるものではない。これらの中では、電気めっき法で、ニッケルめっき後クロムめっきを施す場合が品質、コストの点で最も一般的である。それ以外にも金めっき、銀めっき、ロジウムめっき、白金めっき、銅めっき、スズめっき、スズコバルト合金めっき、スズニッケル合金めっきなどがある。乾式めっき方法としては、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング、CVD法などがあり、窒化チタン、炭化チタン、窒化ジルコニウム、窒化クロム、炭化ケイ素、ダイヤモンド、アルミナ、炭窒化チタンなどがある。
これらのめっきは、水栓金具をはじめとする鉛含有銅合金製水道用器具の内部表面には、ほとんどめっきがつかないことが多いため、その部分は銅合金素地が露出している状態である。本発明では、この鉛含有銅合金を、上記、アルカリ性のエッチング液や、溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液に浸漬することで、めっきがついている部分は何ら変化を起こさず、銅合金が露出している部分の鉛を効果的に除去する。
【実施例】
本発明を実施例により具体的に以下に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの改変をなしえることはもちろんである。
以下に示す条件で、第1図に記載した青銅鋳物製水栓金具を使用し各種処理条件で鉛除去処理をおこない、外観の状態と鉛溶出低減効果を評価した(実験1)。
処理工程は、アルカリエッチングのあと、酸性溶液での処理の順で行った。第2図(a)(b)および第3図(a)(b)は、処理前と処理後の表面の拡大写真、及び断面の拡大写真である。これらの写真を比較すると、処理後には表面から5〜6μmの部分から鉛が溶出していることが分る。
外観は目視で、鉛溶出低減効果はJIS−S−3200−7(2000年)「水道用器具−浸出性能試験方法」にしたがって、溶出した鉛濃度を分析した。処理条件、外観の状態及び鉛溶出量を表1にまとめた。尚、アルカリエッチングの条件は、水酸化ナトリウム50g/L+パラニトロ安息香酸ナトリウム1g/Lの液を使用し、80℃、10分の条件で統一した。
外観の状態は、変色が激しく商品上大きく問題があるレベルを×、変色があり商品上問題があるレベルを△、変色がほとんどなく商品上問題がないレベルを○として判定した。

これらの結果から明らかなとおり、無水クロム酸とリン酸を両方含む酸性溶液での処理では外観が変色するが、各々単独の酸性溶液での処理では外観も問題なく、リン酸単独の方が鉛溶出量が少ないことがわかった。
次に、塩化ナトリウムを添加した状態での鉛除去処理をおこない、外観の状態と鉛溶出低減効果を評価した(実験2)。処理工程は、アルカリエッチングのあと、酸性溶液での処理の順で行った。外観評価方法及び鉛溶出低減効果はJIS−S−3200−7(2000年)「水道用器具−浸出性能試験方法」にしたがって、溶出した鉛濃度を分析した。処理条件は、外観の状態及び鉛溶出量を表2にまとめた。尚、アルカリエッチングの条件は、水酸化ナトリウム50g/L+パラニトロ安息香酸ナトリウム1g/Lの液を使用し、60℃、5分の条件で統一した。
外観の状態は、変色が激しく商品上大きく問題があるレベルを×、変色があり商品上問題があるレベルを△、変色がほとんどなく商品上問題のないレベルを○、変色せず商品上問題がないレベルを◎として判定した。

これらの結果から明らかな通り、塩化ナトリウムとリン酸を両方含む酸性溶液での処理では外観がさらにおさえられ、鉛溶出量も問題ないことがわがった。
次に、ニッケルめっき後クロムめっきを施した第1図の青銅鋳物製水栓金具について、各種処理条件で鉛除去処理をおこない、外観の状態と鉛溶出低減効果を評価した(実験3)。処理工程は、アルカリエッチングのあと、酸性溶液での処理の順で行った。外観評価方法及び鉛溶出量の評価方法も実験1と同じ方法で行い、外観は目視で、鉛溶出低減効果はJIS−S−3200−7(2000年)「水道用器具−浸出性能試験方法」にしたがって、溶出した鉛濃度を分析した。処理条件、外観の状態及び鉛溶出量を表2にまとめた。尚、アルカリエッチングの条件は、水酸化ナトリウム50g/L+パラニトロ安息香酸ナトリウム1g/Lの液を使用し、60℃、5分の条件で統一した。
外観の状態は、変色が激しく商品上大きく問題があるレベルを×、変色があり商品上問題があるレベルを△、変色がほとんどなく商品上問題がないレベルを○として判定した。

※1:表面のニッケルクロムめっき部分は、何れも変色等の異常は全くなし。これらの結果から明らかな通り、ニッケルクロムめっき品でも、無水クロム酸とリン酸を両方含む酸性溶液での処理では、内面の青銅部が変色するが、各々単独の酸性溶液での処理では外観も問題なく、リン酸単独の方が鉛溶出量が少ないことがわかった。また、表面のニッケルクロムめっき部分は、変色等の異常は全く確認できず、めっき品に関しても本発明の鉛溶出低減方法が利用できることが確認できた。
本発明は上記構成により次の効果を発揮する。すなわち、酸性のリン酸化合物による若干のエッチング効果と微少なリン酸皮膜が形成されるのみであるので大きな変色を伴うことなく、商品価値も低下しない。また、本発明である溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液へ活性剤である塩化ナトリウムを適量補充する事により、反応の進行を向上させエッチング効果と微小なリン酸皮膜の形成が増し、安定した外観を確保出来き鉛溶出低減についても十分効果がある。また、まずアルカリ性のエッチング液に浸漬することで銅合金表面の鉛をほぼ選択的に除去できるため、後工程のリン酸化合物を含む酸性溶液浸漬工程の鉛溶出低減効果と相まって、鉛溶出低減についてより十分な効果が認められる。また、これらの工程後でも鉛含有銅合金は大きな変色を伴うことがなく、商品価値も低下しない。
外部表面のめっき処理されている部分は、上記のアルカリ性のエッチング液による浸漬工程や、溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液による浸漬工程で溶解反応やエッチング反応が起こらないため変色が発生せず、めっき処理されていなくて鉛含有銅合金が露出している主として内部表面のみに鉛溶出低減効果が達成できる。もちろん、その内部表面も大きな変色を伴うことがない。
水栓金具をはじめとする鉛含有同語金の水道用器具は、外部表面に装飾性、耐食性、耐摩耗性等を付与するためにニッケルクロムめっき後クロムめっきを施した場合が多く、従来から広く使用されているめっきである。このめっきの場合、上記のアルカリ性のエッチング液による浸漬工程や、溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液による浸漬工程で溶解反応やエッチング反応が起こらないため変色が発生せず、めっき処理されていなくて鉛含有銅合金が露出している主として内部表面のみに鉛溶出低減効果が達成できる。もちろん、その内部表面も大きな変色を伴うことがない。
本実施例においてはメッキ処理を、リン酸化合物を含む酸性溶液による浸漬工程前に行ったが浸漬工程後に行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
本発明に係る鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法及び鉛含有銅合金製水道用器具は、給水管につながる各種器具に利用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛含有銅合金を、溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液に浸漬することを特徴とする鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法。
【請求項2】
鉛含有銅合金を、溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物と塩化ナトリウムを含む酸性溶液に浸漬することを特徴とする鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法。
【請求項3】
鉛含有銅合金をアルカリ性のエッチング液に浸漬して表面の鉛を除去し、次いで溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液に浸漬することを特徴とする鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法。
【請求項4】
鉛含有銅合金をアルカリ性のエッチング液に浸漬して表面の鉛を除去し、次いで溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物と塩化ナトリウムを含む酸性溶液に浸漬することを特徴とする鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法。
【請求項5】
主として外部表面はめっき処理することを特徴とする請求の範囲第1項及び第3項記載の鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法。
【請求項6】
主として外部表面のめっきは、ニッケルめっき後クロムめっきを施しためっきであることを特徴とする請求の範囲第5項記載の鉛含有銅合金の鉛溶出低減処理方法。
【請求項7】
溶液中にクロム酸を含まずリン酸化合物を含む酸性溶液に浸漬することを特徴とする請求の範囲第1項乃至第6項記載の鉛含有銅合金製水道用器具。

【国際公開番号】WO2004/024987
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【発行日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535893(P2004−535893)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011093
【国際出願日】平成15年8月29日(2003.8.29)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】