説明

鉛蓄電池用外装箱

【課題】取手を箱の外に出す形状ではない鉛蓄電池用外装箱において、体積効率を向上させた梱包形態や陳列形態であっても、手穴の周辺を中心とした破損が生じにくいようにする。
【解決手段】相対する一対の側面に手穴を設け、スリットが切り欠かれた一対のフラップを向き合わせてなる一対のスリットにもう一対のフラップの先端に設けられた差込部を挿入することで開閉可能な上面をなす略直方体の鉛蓄電池用外装箱であって、フラップの先端におけるスリットの幅を、フラップの最深部におけるスリットの幅よりも大きくしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池を梱包する鉛蓄電池用外装箱に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のセルスタータとして用いられる鉛蓄電池は、ホームセンターなどで補修用として流通する際に、運搬時の破損を防止しつつ電池のランク・サイズ等の情報を表示するため、段ボール等を折り曲げて形成された外装箱に収納されている。
【0003】
従来の外装箱は、例えば図1の展開図に示すように、梱包される鉛蓄電池の形状に沿った略直方体である。4つの側面1には、上面を構成するフラップ2あるいは3と、下面を構成するフラップ4あるいは5が連続形成されている。まず一端の側面1に設けた接合片1aを他端の側面1の被接合部位1bと接合して筒状体を形成する。次いでフラップ4どうしを側面1に対して直角に折り曲げて向き合わせ、この上にフラップ5どうしを側面1に対して直角に折り曲げて向き合わせて重ね、フラップ4と5とを接着剤などで接合することで、下面を構成する。この状態(上面のみ構成されていない状態)で鉛蓄電池を挿入し、スリット2aが切り欠かれたフラップ2どうしを側面1に対して直角に折り曲げて向き合わせ、この上にフラップ3どうしを側面1に対して直角に折り曲げて向き合わせて重ね、最後にフラップ3の先端に設けられた差込部3aを相対する一対のスリット2aに挿入して開閉可能な上面を構成することで、鉛蓄電池を内包した外装箱が完成する。ここでこの外装箱の運搬を容易にするために、特に大型の鉛蓄電池(JISD5301にてアルファベットDやEを使用)では、向かい合う側面1のうち一対に、手を差し込むための手穴1cを構成するのが一般的である。なお図2に示す展開図を有する外装箱の場合、下面はフラップ4と5の先端の複雑な形状を絡み合わせることで、接着剤などで接合することなく、嵌め合いで構成できる。
【0004】
この手穴1cを無作為に設けた外装箱は、運搬時に鉛蓄電池の重量に耐えられず、手穴1cの周辺から破損する場合があった。そこで特許文献1のように、側面1の一部に切り目を入れて手穴1cが構成されるようにし、かつ鉛蓄電池を保護枠で囲い、手穴1cを構成した際に外装箱の内部へと折れ曲がる側面1の一部を保護枠(あるいはその内部に収納した鉛蓄電池の蓋と電槽の境界部)に当てることで、手穴1cの周辺における機械的強度を向上させる構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−146087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年ホームセンターなどでは、限られた売り場面積を有効に活かす取組が広がりつつある。例えば特許文献1の構成では、保護枠を挿入する空間や、側面1の一部が手穴1cを構成する際に外装箱の内部へと折れ曲がる空間が必要なため、体積効率が悪化して売り場面積を有効に活かしにくくなる。特許文献1の特徴的構成を省いた状態で手穴1cの周辺を中心とした外装箱の破損を防ぐには、慎重に手穴1cに手を差し込んで運搬すればよいと考えられる。
【0007】
ところがホームセンターでは、上記取組の一環として、外装箱に梱包した補修用の鉛蓄電池を上下動させる余裕がない程度の高さの棚に陳列するようになってきた。この態様でホームセンターの顧客あるいは従業員が鉛蓄電池を出し入れする場合、外装箱の側面1に設けられた手穴1cに手を掛けて水平に引き寄せる動作を必要とする。このような態様では、如何に慎重に引き寄せても、上下動させる場合と比較して、手穴1cの周辺がさらに破損しやすくなることが明らかになった。この課題は、鉛蓄電池にベルト状の取手を付け、さらに顧客や従業員の利便性を考えてこの取手を箱の外に出すようにした外装箱では発生しなかったため、近年になるまで知見されなかった。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためのものであって、取手を箱の外に出す形状ではない鉛蓄電池用外装箱において、体積効率を向上させた梱包形態や陳列形態であっても、手穴の周辺を中心とした破損が生じにくいようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、相対する一対の側面に手穴を設け、スリットが切り欠かれた一対のフラップを向き合わせてなる一対のスリットにもう一対のフラップの先端に設けられた差込部を挿入することで開閉可能な上面をなす略直方体の鉛蓄電池用外装箱であって、フラップの先端におけるスリットの幅を、フラップの最深部におけるスリットの幅よりも大きくしたことを特徴とする。
【0010】
また本発明の請求項2に係る発明は、請求項1において、フラップの最深部の近傍に、スリットの幅が略同一な平行部を設けたことを特徴とする。
【0011】
また本発明の請求項3に係る発明は、請求項1において、手穴の上端を、側面の高さ方向における19〜71%の位置としたことを特徴とする。
【0012】
発明者らは鋭意検討の結果、外装箱の側面1に設けられた手穴1cに手を掛けて水平に引き寄せる動作が手穴1cの周辺に与える応力は、手穴1cに手を差し込んで上下動する従来の動作による応力と比べて、遥かに大きいことを知見した。この新しい不具合と本発明の効果のメカニズムを、図3に示す。なお図3では、説明の都合上、スリット2aに挿入された差込部3aは省略した。
【0013】
ホームセンター等の顧客あるいは従業員が鉛蓄電池を梱包した外装箱を、上下動させる余裕がない程度の高さの棚に陳列された状態から水平に引き寄せる際、側面1に設けられた手穴1cに手を掛けて、矢印αの方向に引っ張ることになる。この時、側面1における手穴1cより上の部位には、矢印βの方向に応力が掛かる。この応力によって手穴1cの周辺が破損しやすくなるのだが、フラップ2が点線で描画した状態から実線で描画した状態になること(矢印γに沿って内側に寄ること)ができれば、矢印βに相応する応力を逃がすことができ、破損を免れるようになる。
【0014】
本発明者らはこの知見を活用して、フラップ2に設けたスリット2aを、従来のように一貫して幅が略同一な(平行な)形状から、フラップ2の先端における幅を最深部における幅よりも大きくすることで、矢印γに沿った変形を促し、手穴1cに手を掛けて矢印αの方向に引っ張っても、矢印βに相当する応力によって手穴1cの周辺が破損しないようにした。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鉛蓄電池用外装箱を水平方向に移動させる際の手穴の周辺の強度を向上できるので、体積効率を向上させた梱包形態において、外装箱の側面に設けられた手穴に手を掛けて引き寄せる動作を行っても、手穴の周辺を中心とした破損が生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の鉛蓄電池用外装箱の展開図
【図2】従来の鉛蓄電池用外装箱の展開図
【図3】新しい不具合と本発明の効果のメカニズムを示す図
【図4】本発明の鉛蓄電池用外装箱における要部の一例を示す図
【図5】本発明の鉛蓄電池用外装箱における要部の他の例を示す図
【図6】本発明の鉛蓄電池用外装箱における手穴の好適な位置を示す図
【図7】本発明の鉛蓄電池用外装箱における手穴の種々な態様を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の鉛蓄電池用外装箱を実施するための形態について、図を用いて説明する。
【0018】
(本発明の第1の実施形態)
図4は本発明の鉛蓄電池用外装箱における要部の一例を示す図であり、具体的にはスリット2aを設けたフラップ2のみを抽出したものである。なお本発明の第1の実施形態において、外装箱の他の部位は図1〜2と同一である。
【0019】
まずスリット2aが切り欠かれた一対のフラップ2を向き合わせ、この一対のスリット2aに、もう一対のフラップ3の先端に設けられた差込部3aを挿入することで、略直方体の鉛蓄電池用外装箱に開閉可能な上面を構成する。本発明の第1の実施形態では、フラップ2の先端におけるスリット2aの幅Aを、最深部におけるスリット2aの幅Bよりも大きくしたことを特徴とする。
【0020】
このような形態にすることで、側面1に設けた手穴1cに手を掛けて図3における矢印αの方向に引っ張って手穴1cより上の側面1に矢印βの方向の応力が掛かっても、フラップ2の先端におけるスリット2a(幅A)が幅Bと略同一になるまで矢印γに沿って変形できるため、手穴1cの周辺が破損しないようになる。
【0021】
(本発明の第2の実施形態)
図5は本発明の鉛蓄電池用外装箱における要部の他の例を示す図であり、具体的にはスリット2aを設けたフラップ2のみを抽出したものである。なお本発明の第2の実施形態において、外装箱の他の部位は図1〜2と同一である。以下、図4との違いを中心に説明する。
【0022】
本発明の第1の実施形態ではスリット2aの幅が、フラップ2の先端(幅A)から最深部(幅B)に掛けて漸減している(いわゆる「V字状」)。しかし本発明の第2の実施形態では、フラップ2の最深部の近傍に、スリット2aの幅が略同一な平行部2bを設けている(いわゆる「Y字状」)。
【0023】
このような形態にすることで、本発明の第1の実施形態における効果を損なうことなく、フラップ3の先端に設けられた差込部3aを向かい合ったスリット2aに挿入したときの固定性が向上する。すなわち、差込部3aを挿入した状態は平行部2bで強固に保持しつつ、側面1に設けた手穴1cに手を掛けて図3における矢印αの方向に引っ張った際にフラップ2の先端におけるスリット2a(幅A)が幅Bと略同一になるまで変形できる(手穴1cの周辺が破損しないようになる)。
【0024】
(本発明の第3の実施形態)
図6は本発明の鉛蓄電池用外装箱における手穴1cの好適な位置を示す図であり、具体的には手穴1cを設けた側面1を中心に抽出したものである。なお本発明の第3の実施形態において、外装箱の他の部位は図1〜2と同一である。
【0025】
本発明において、手穴1cが上下方向において過剰に上にある場合、図3における矢印αの方向に引っ張った際の応力(矢印β)が十分に矢印γの方向に緩和される(フラップ2の先端におけるスリット2a(幅A)が十分に狭まる)ことができなくなるので、運搬に支障のない範囲で手穴1cの周辺が破損することがある。
【0026】
逆に本発明において、手穴1cが上下方向において過剰に下にある場合、例えば多段のラックの最下段に陳列した鉛蓄電池(外装箱)を引き出そうとする顧客あるいは従業員は、図3のように掌を上に向ける態様でなく、掌を下に向けて(手穴1cの下辺を引掛けて)図3における矢印αの方向に引っ張らざるを得なくなる。この状態から、手穴1cに手を掛けて(掌を上にして)鉛蓄電池(外装箱)を持ち上げる動作に切り替えるのは、困難の極みである。
【0027】
そこで手穴1cの上端を、側面1の高さ方向における19〜71%の位置とすることで、本発明の実施形態1および2に示すスリット2aの構成による効果を顕著に発揮しつつ、高い作業性をも確保できるようになる。
【0028】
なお側面1の高さ方向における手穴1cの上端の位置は、図6に示すように、側面1の上端(フラップ2と接合している側)から手穴1cの上端までの距離dを、側面の高さHで除して求めることができる(百分率で示す場合、d/H×100)。
【0029】
また手穴1cの形状は、図6に示す標準的な形状のほか、図7のように楕円形のもの(a)、上半分を折り目(破線/以下同様)から内側に折り曲げるもの(b)、切り目を境に上下半分とも折り目から内側に折り曲げるもの(c)、折り目から内側に折り曲げることではじめて穴を形成するもの(d)などが挙げられる。この図7に示すいずれの場合も、掌が掛かる高さ((b)〜(d)では折り目に相当)が本発明における「手穴1cの上端」に該当する。
【0030】
なお外装箱には、坪量が125〜300g/m2の種々のダンボールを用いることができる。また鉛蓄電池には、液口栓を有し補水メンテナンスが必要な開放型鉛蓄電池を選択しても良いし、制御弁を有し補水メンテナンスが不要な制御弁式鉛蓄電池を選択しても良い。
【0031】
なお鉛蓄電池にベルト状の取手を付け、さらに顧客や従業員の利便性を考えてこの取手を箱の外に出すようにした外装箱では、スリット2a以外に取手の幅に相応した隙間をフラップ2に設けることになる。この隙間が本発明のスリット2aと同様の作用を発現する(適度に変形することで図2の矢印βで示す応力を緩和する)ため、本発明を考案するに至る課題が生じなかったものと推察される。
【実施例】
【0032】
次に、外装箱の構成を種々検討した結果を示す。
【0033】
JISD5301(始動用鉛蓄電池)にて95D31で表される鉛蓄電池を、図1に示す従来の外装箱(A−1〜4、スリット2aは幅6mmの平行部のみ)、図4に示す本発明の外装箱(B−1〜4、スリット2aは幅がA=14mmからB=6mmまでV字状に漸減、下面は図1と同じ)および図5に示す本発明の外装箱(C−1〜4、スリット2aは幅がA=14mmからB=6mmまでV字状に漸減してから最深部まで15mmの長さで幅6mmの平行部/総じてY字状、下面は図1と同じ)に挿入し、フラップ2と3とを接合することで梱包した。ここで鉛蓄電池は保護枠などの緩衝材で覆わず、外装箱の内寸は鉛蓄電池の外寸に対して2mmずつ余裕があるものとした。またA−1〜4、B−1〜4およびC−1〜4は、それぞれ手穴1c(高さ25mm、幅80mmの楕円形状)の位置を変えて構成し、「d/H(%)」で表した。
【0034】
これらの対象物の手穴1cに治具を引っ掛け、標準的な成人男性が100cm/秒の速度で水平に引き寄せる動作を行い、手穴1cの周辺の破損度合を比較した。
【0035】
手穴1cの周辺に外観上の破損が見られなかったものを「○」、手穴1cの周辺が運搬に支障ない程度に破損したものを「△」、手穴1cの周辺に運搬に支障がある破損が生じたものを「×」として(表1)に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
(表1)の結果から明らかなように、従来のスリット2aを有する外装箱A−1〜4は、手穴1cの位置の如何を問わず、手穴1cを引っ掛けて水平に引っ張った際に、手穴1cの周辺に運搬に支障がある破損が生じた。
【0038】
これと比較して、本発明のスリット2aを有する外装箱B−1〜4およびC−1〜4は、手穴1cを引っ掛けて水平に引っ張っても、手穴1cの周辺に運搬に支障がある破損は生じなかった。この効果は図3に示すメカニズムに基づくものと考えられる。
【0039】
そして本発明の効果が最も際立つのは、手穴1cの上端を、側面1の高さ方向における19%を含みそれより下の位置にした場合(B−2〜4およびC−2〜4)であった。なお本実施例では、手穴1cの上端を側面1の高さ方向における71%より下の位置にすればハンドリング性に難があることが歴然であったため、破損に関する評価は行わなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の構成によれば、保護枠などの部品を増やすことなく、水平方向の移動の際に手穴が破損しにくい鉛蓄電池用外装箱を提供することができることから、市場で売られている自動車補修用鉛蓄電池などに好適である。よって本発明の産業的価値は極めて高い。
【符号の説明】
【0041】
1 側面
1a 接合片
1b 被接合部位
1c 手穴
2 フラップ
2a スリット
2b 平行部
3 フラップ
3a 差込部
4 フラップ
5 フラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対する一対の側面に手穴を設け、スリットが切り欠かれた一対のフラップを向き合わせてなる一対のスリットにもう一対のフラップの先端に設けられた差込部を挿入することで開閉可能な上面をなす略直方体の鉛蓄電池用外装箱であって、
前記フラップの先端における前記スリットの幅を、前記フラップの最深部における前記スリットの幅よりも大きくしたことを特徴とする鉛蓄電池用外装箱。
【請求項2】
前記フラップの最深部の近傍に、前記スリットの幅が略同一な平行部を設けたことを特徴とする、請求項1記載の鉛蓄電池用外装箱。
【請求項3】
前記手穴の上端を、前記側面の高さ方向における19〜71%の箇所としたことを特徴とする、請求項1記載の鉛蓄電池用外装箱。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−91839(P2012−91839A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241641(P2010−241641)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】